恭也は、重たい空気が流れていることに戸惑った。

 

悲しそうな顔で歩いていく、縦ロールの少女・・・・・・瞳子さん、だっけか。

 

そして、何よりも違和感を感じたのが・・・・・・

 

「ねえ、乃梨子・・・・・・」

 

「なんでしょう、お姉さま」

 

この二人の様子だった。

 

恭也の目から見ても、微笑ましいくらいに仲の良かった二人に、何か壁がある。

 

乃梨子と志摩子が、恭也の姿に気がつくと・・・・・・

 

「恭也さん・・・・・・ごきげんよう」

 

やはり、志摩子の顔は少し曇っていた。

 

対照的に乃梨子は、明るい顔になって

 

「ごきげんよう、黒薔薇さま。少し遅刻ですよ?」

 

と、遅れて来た恭也をたしなめた。

 

「すまんな、バスが遅れてしまって・・・・・・。なんかあったのか?」

 

「あー、そうですね。色々とあって、今日は練習が終わりになってしまったんです」

 

乃梨子はそう答えると、少し伸びをして・・・・・・

 

「それでは、私はお先に失礼しますね。お姉さまをよろしくお願いします」

 

恭也に頭を下げて、館へ引き返して行こうとする。

 

「え・・・・・・?乃梨子?」

 

これに面食らった志摩子は、乃梨子に声をかける。

 

だが乃梨子は、志摩子に笑顔を向けると

 

「お姉さま、せっかく黒薔薇さまがいらしたのですから、ごゆっくりどうぞ」

 

馬に蹴られたくないですからね、と冗談交じりに言って、館へ向かって行った。

 

令は、残された二人に目をやると・・・・・・

 

「あ・・・・・・それじゃあ私も部活に顔を出してくるね」

 

と、やりずらそうにその場を後にした。

 

恭也はみんなの不自然な行動に、ますます首を傾げるが

 

「あの・・・・・・恭也さん、申し訳ないのですが・・・・・・」

 

志摩子はそう言って、館の方へ目を向けると

 

「そうだな・・・・・・。一人で大丈夫か?」

 

恭也も、志摩子の言わんとすることを理解する。

 

「はい。ごめんなさい・・・・・・」

 

志摩子はそう言い残して、乃梨子の後を追った。

 

恭也は走っていく志摩子の姿を見送って、門の方へ引き返そうとする。

 

すると、門のところに私服の人が立っているのを見つけて目を凝らした。

 

門のところにいた人も、恭也の姿に気がつくと・・・・・・

 

「あらこれはこれは・・・・・・黒薔薇さまではありませんか」

 

私服の女性が、恭也に大げさな身振りで一礼をした。

 

「本日はどのコをご指名で?」

 

と、まるでソッチ系のお店のにーちゃんみたいな口調で問い掛けた。

 

「おい、仮にもリリアンの元『白薔薇さま』と呼ばれた人間が、そんなセリフを口にするのはどうかと思うぞ?」

 

恭也は私服姿の元『白薔薇さま』、佐藤聖に笑いながら答えた。

 

「仮に・・・・・・っていうのはちょっと気になるけど・・・・・・どうしてここに?」

 

恭也は、喉まで出掛かった返答に思わずそれを飲み込むと・・・・・・

 

「ああ。OBとして遊びに来ただけだ。大学が休みだからな」

 

「ふ〜ん、遊びに・・・・・・ねぇ?」

 

恭也の周りをグルグル回りながら、ホントにぃ〜?とニヤついた横目で見る。

 

恭也はそんな聖に視線を合わせないようにすると

 

「そういう聖はなんでここにいるんだ?」

 

「リリアン大の生徒がこの辺にいたらおかしい?」

 

「・・・・・・それもそうだな」

 

リリアン大学は高等部のすぐ隣にあるので、たまに卒業生が妹に会いに来ることがある。

 

「ま、せっかく恭也に会ったんだし・・・・・・」

 

と、そう言うと

 

「ごめんね加東さん。今日はちょっと・・・・・・」

 

「ああ。この人が以前佐藤さんの言ってた・・・・・・」

 

「わーーーーーー!そ、それじゃ行こうか、恭也」

 

大声を出して加東景の言葉を消し去ると、恭也の腕を掴んで手を振る。

 

「佐藤さん、明日ゆっくり聞かせてね」

 

「わかったわかった。んじゃね」

 

そのまま景は、恭也に手を振ると歩いていった。

 

「な、なあ・・・・・・さっきあの人は何を・・・・・・?」

 

「なになに、恭也は女同士の秘密の話を聞きたいわけ?」

 

うっしっし、と、女とは程遠い笑い方をして恭也に詰め寄る。

 

そう言われては恭也としても、追求するわけには行かない。

 

「うむ、いい心がけだ。ご褒美にこの聖さんが、恭也にコーヒーを奢られてあげよう」

 

ほら、行くよ。恭也は相変わらずのノリな聖にため息を吐きつつも、変わらない彼女を少しうれしく思った。

 

 

 

近くの喫茶店へ入る。

 

聖は、ブルーマウンテンを注文し、恭也もあわせた。

 

「ここね、静に教えてもらったんだ。コーヒーがおいしいんだってさ」

 

「ふむ・・・・・・確かに落ち着いてていいな」

 

最近流行りの、ファーストフード店のような安っぽい作りでなく、かといって暗い内装で高級感をごまかして演出する感じでもない。

 

言うなら翠屋に近いような、そんなセンスを感じる。

 

「それでさ、恭也。なんかあったの?」

 

コーヒーを飲みながら、聖は恭也に尋ねた。

 

「なんか困ったような顔をしてたから、気になったんだけど・・・・・・」

 

そんな聖に、恭也は少し考えた。

 

だが、おそらくこの話をするならば聖が一番的確だと思った。

 

「実はな・・・・・・最近志摩子と乃梨子の様子がおかしいんだ」

 

「乃梨子って・・・・・・志摩子の妹の乃梨子ちゃん?」

 

「ああ」

 

「ふ〜ん、やっぱりそういうことだったんだ」

 

納得顔で頷いている聖に、恭也は首をかしげる。

 

「今日ね、大学行く途中で志摩子を見たんだけど・・・・・・な〜んか暗い顔してたからさ」

 

「それで聖は、志摩子に会おうとしてリリアンに顔を出したのか」

 

恭也がそう言うと、聖は少し笑って首を振った。

 

「違うよ。確かに志摩子の様子を見には来たけど、会う気は無いよ」

 

恭也が意外そうな顔をしたので、聖は言葉を続けた。

 

「恭也。私はリリアンの生徒じゃないの。それに志摩子はもう、『白薔薇さま』で一人の妹を持つ立場なのよ」

 

「だが・・・・・・」

 

恭也は、聖の言葉に納得が行かずに言葉を返そうとする。

 

「それにね、志摩子には友達がいるし、乃梨子ちゃんだって横のつながりがあるのよ。そんな状態を放っておくような子たちに見える?」

 

恭也は首を振る。

 

「つまりね、そういうこと。だから私たちに出来ることは、見守ること」

 

「見守ること・・・・・・か」

 

「そう。でもそれは私の意見。恭也は恭也の思ったとおりに行動すればいいと思うよ」

 

思ったとおりに・・・・・・

 

「私は志摩子の『姉』って立場だけど、恭也はそれと少し違うから・・・・・・。さて、そろそろ出ようか」

 

聖が伸びをして席を立った。

 

「聖・・・・・・」

 

「ん〜?」

 

「ありがとうな」

 

「い〜え。どういたしまして」

 

恭也は伝票を持ってレジで清算した。

 

 

 

店を出たところで聖は、おもむろに恭也に質問した。

 

「ところで恭也は何の役をやるの?」

 

「ああ。なんか祥子さんと令さんに、はめられてな・・・・・・」

 

うっかりと言ってしまって、恭也は慌てて口を閉じて聖を見ると・・・・・・

 

「やっぱり劇に出るんだ?」

 

予想通りの反応と、予想通りの答えが返ってきたことに満足顔だった。

 

「・・・・・・卑怯だ」

 

「まあ、なんとなく予想はついてたけど・・・・・・期待してるよ」

 

肩をポンポン、と叩いて聖は駐車場へ歩いていった。

 

恭也も聖と分かれてリリアンの校門をくぐり、館へ向かった。

 

(俺に出来ること・・・・・・か)

 

漠然と考えながら銀杏並木を歩いていると

 

 

 

『乃梨子!?』

 

 

 

叫ぶような志摩子の声と・・・・・・

 

志摩子の元から泣きながら走り去って行く、乃梨子の姿があった。

 




おわっ! 一体、何があったのか…。
美姫 「いや〜ん、次回が無茶苦茶気になる〜」
気になる所で…。
美姫 「また次回〜」
ぬぐおぉぉぉ! 次回、次回が待ち遠しいぃぃぃ。
美姫 「それじゃあ、次回も楽しみに待ってます」



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