恭也が再びリリアンに来るようになってから・・・・・・

 

その麗しい姿を目に映そうと、放課後には校門前に生徒が集まるようになっていた。

 

最初は皆恭也が目当てだったのだが・・・・・・

 

『祐巳さまの弟さまって、かっこいいですわ・・・・・・』

 

『うわぁ、あの子可愛い・・・・・・』

 

1年生からは祐麒へ視線が、逆に3年生からはアリスにも視線が向くようになった。

 

アリスは、リリアンに受け入れられたことを、ものすごく喜んでいたのだが・・・・・・

 

 

「おい、ユキチ・・・・・・大丈夫か?」

 

館に到着して、祐麒はぐったりとした顔をしていた。

 

恭也がまだ到着していないので、練習へ行くまでには少し時間があった。

 

最初は、モテる祐麒を正直妬んでいた小林も、祐麒の疲れきった表情に心配顔だ。

 

「祐巳ってすごい人気なんだな・・・・・・」

 

祐麒が言うと

 

「え?そうなの・・・・・・?」

 

この天然の姉は、自分の置かれている立場を理解されていないようだ。

 

「ああ。俺が祐巳の弟ってだけでみんなが見てくるくらいだ」

 

(それは、それだけが理由じゃないでしょう)

 

その場にいた全員がそう思った。

 

「祐麒さん、なんだか恭也さんみたい」

 

由乃の言葉に、一同は納得するが

 

「それって誉められてる気がしないんですけど・・・・・・」

 

祐麒がそう言った瞬間、ドアが開いて恭也が入ってきた。

 

「ん、どうかしたのか?」

 

恭也が首を傾げて言う姿が、先ほどの祐麒そっくりだったので思わず笑いが漏れた。

 

 

 

練習が終わり、恭也は一息ついた。

 

舞台の上では、まだみんなが演技の確認などをしている。

 

それを眺めていた恭也のところに、乃梨子がやってきた。

 

「あの、黒薔薇さま。少しいいでしょうか・・・・・・」

 

乃梨子は恭也に伺いを立てると、恭也を連れていったん外へ出た。

 

体育館から少し離れて、辺りに誰もいないのを確認すると

 

「週末、時間が空いているようでしたら、うちに来ていただけませんか?」

 

 

 

『リコ、ずいぶんと難しい顔してるね。シワ増えるよ』

 

乃梨子は、下宿先の家主で、大叔母である二条菫子の言葉に顔を顰めた。

 

『それに対して突っ込み入れたら、菫子さん怒る?』

 

『そうだね、怒ると思うから言ってみな』

 

『じゃあやめとく・・・・・・』

 

制服を脱いで家着に着替えると、乃梨子はパソコンを立ち上げた。

 

タクヤ君こと、志村タクヤからのメールが届いているか確認をする。

 

だが、今日は届いて無かったので、パソコンの電源を落とした。

 

『で、何があったんだい?またお姉さま関係かい?』

 

『う〜ん、違うとも言い切れないんだけど・・・・・・』

 

『じゃあ男関係だ。志摩子さんに、それでからかわれたりしたんじゃないの?』

 

ケタケタと笑う菫子に、乃梨子は冷や汗が伝った。

 

何より菫子さんは、半世紀以上年下の人間を突っついて遊ぶのに人生をかけているような人間だから・・・・・・

 

『リコ、今すごく失礼なこと考えなかった?』

 

『え!?い、嫌だな、菫子さん。そんなこと無いよ』

 

『でも、反論してこなかったってことは・・・・・・本当に男関係なのかい?』

 

菫子は、真面目な顔になって乃梨子を見た。

 

こういうところはずるいと思う。こんな顔をされると話さなければいけないような気がしてしまうのだ。

 

『話す気になったかい?』

 

にや〜っと菫子が笑う。

 

年を取ると、行動全てが計算ずくだから参る。

 

『り〜こ〜、顔に出てるよ!?』

 

『えっ!?』

 

慌てて顔に手をやったところで

 

『ほぉ〜、やっぱり失礼なことを考えていたんだねぇ・・・・・・それは不問にしてやるから、アンタの方を吐いてもらうよ!』

 

それから、道で恭也に助けられたこと、そしてその恭也と学校で思わぬ再開をしたこと・・・・・・

 

『へぇ〜、だから最近リコは馬鹿みたいに機嫌良かったりしてたんだ』

 

『そんなことないもん』

 

乃梨子は頬を膨らませてそっぽを向く。

 

『じゃあ決まり。週末にうちに呼びなさい』

 

『えっ、なんで!?』

 

『アンタね、恭也さんにちゃんと、助けてもらったお礼は言ったの?』

 

『うっ・・・・・・』

 

乃梨子は言葉に詰まった。

 

考えてみれば、恭也と志摩子の関係が気になって、それどころでは無かった気がする。

 

『ほらね、やっぱり・・・・・・。どうせ志摩子さんのことが気になったんでしょうけど・・・・・・。一応乃梨子を預かっている以上、お礼は言わせてもらうから』

 

そんな感じで、恭也に了解を取り付けて来なさい、と菫子から家主命令が下った。

 

 

 

「それで、黒薔薇さま・・・・・・ご迷惑とは存じ上げますが・・・・・・」

 

「いや、俺は構わない。第一、好意を無にするのは礼にそぐわないだろう」

 

だが・・・・・・、と恭也は

 

「志摩子が怒るかも知れないな・・・・・・」

 

「えっ!?そ、それはどういうことですか!?」

 

もしかしたら、志摩子は既に恭也と付き合っているのでは、とそんな想像をしたのだが・・・・・・

 

「乃梨子さんは志摩子の妹だろ?俺が乃梨子さんの家に行くとなると、志摩子が乃梨子さんを心配しないかと思ってな」

 

恭也の言葉に、乃梨子は半分ほっとして

 

「う〜ん、それは大丈夫だと思いますよ。だって、志摩子さんは黒薔薇さまを信用されていますから」

 

それに、家には菫子さんもいますし、と補足すると

 

「わかった。それなら日曜にでもお邪魔させていただこうか」

 

「はい。菫子さんにも伝えておきますね。時間は菫子さんと相談して決めてもいいですか?」

 

「ああ、それでいい。それと、一つ頼みがあるのだが・・・・・・」

 

「頼み、ですか?」

 

「その、黒薔薇さま、って言うのはやめてくれると助かる。なんかあの方々と並べられると、自分が名前負けしててちょっとな」

 

「はい!?」

 

そんなこと絶対無いから!

 

乃梨子はズビシッと、関西風の突っ込みの手を入れたくなったが、恭也の顔が本当に困ったような顔なので

 

(うわ、この人本気で言ってるよ・・・・・・)

 

だが、その困った顔がなんとも可愛いというか・・・・・・

 

「わかりました。それじゃ・・・・・・恭也くんで」

 

乃梨子は半分、これで恭也の反応が見たくて言ったのだが

 

「ああ。それなら俺も乃梨子と呼ばせてもらうか」

 

恭也が思わぬ反撃を仕掛けてきて、乃梨子は焦った。

 

「え!?あ、あの・・・・・・そ、それは・・・・・・」

 

「俺は志摩子を呼び捨てにしてるからな。それなら妹の乃梨子をさんづけするのもおかしくなるだろう」

 

笑いながらそう言った恭也に、乃梨子は少し拗ねたような顔をして

 

「恭也くんって、やっぱり薔薇さまみたい」

 

人をからかって面白がるところなんかそっくりです、と言うと

 

「悪いな、元からこういう性格なんだ」

 

悪い、と言いながらまるで反省してないような顔。

 

この人のことは、みんなの前ではやっぱり『黒薔薇さま』と呼ぶことにしよう、と乃梨子は思った。

 

 




恭也と乃梨子のやり取りが楽しいね。
美姫 「本当よね〜」
さて、乃梨子宅へと招かれた恭也。
美姫 「一体、どんな出来事が待っているのかしらね」
うんうん。非常に楽しみだな。
美姫 「本当に」
次回を待ちつつ、ではでは。



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