第４話 日常〜忍び寄る影〜
皆とはもうずいぶんと長い付き合いになる。
皆俺の大事な友達だ。
あの時以前からの付き合いで俺の心を支えてくれた大切な存在だ。
俺達はいつもお互いを助け合ってきた。
俺達はそれぞれ違う力を持っていた。
静香ちゃんは“聖亀王”（セイント・タートル）としての力。
麗奈先輩は“聖蛇王”（セイント・サーペント）としての力。
零一は“聖虎王”（セイント・タイガー）としての力。
真は“聖鳥王”（セイント・バード）としての力。
そしてレミには“聖天使”（セイント・エンジェル）としての力があった。
それは俺達が最初に生まれたときの姿だった。
その頃はまだ地球は存在していなかった。
そして俺達五人は神から美しい緑の星を作るよう命じられた。
まず地の力を持つ聖亀王が岩を作る。
次に風の力を持つ聖鳥王が岩をぶつけ合わせて惑星を作る。
次に火の力を持つ聖龍王つまり俺が惑星の温度を上げていく。
次に水の力を持つ聖蛇王が雨を降らせて海を作る。
そして気の力を持つ聖虎王が酸素を作り、生物が住めるようになった。
最後に光の力を持つ聖天使が他の星とぶつからないように引力を持たせた。
こうして誕生したのが地球である。
＊
次の日、俺は一日中憂鬱な気分だった。
「はじめまして私の名前はクリス。担任の竹中先生が病気で入院されている間、私が担任を務めさせていただきます。よろしくおねがいしますね」
そう言ってにこやかに笑った。
俺は唖然としていた。
真や零一も同じのようだ。
何故こいつが学校にいる？
俺達はホームルームを終えて出て行くシルフィスを呼び止めた。
「待ってください先生。話があります。それから真、時間を止めてくれ」
それを聞いて真が少し戸惑った。
「えっ、いいのかよ」
「ああ、そのほうが都合がいい」
「解った」
そう言って真は精神を集中させて、そして言い放った。
「全てを支配する時の流れよ我が意に従いその流れを止めよ」
すると俺達以外の人間が動かなくなった。
時間を止めたのである。
「祐介っ、どうしたの！」
いつものメンバーが集まってきた。
真の力は指定した奴以外の時間は止まってしまうが、俺達には効かないのだ。
俺達の力は俺達全員に効かない。
ただし美優希の力は俺達にも有効なのだ。
「ほう、面白い手品ですね」
シルフィスは眼を細めて言った。
「とぼけても無駄だ、シルフィス。何故おまえがここにいる」
シルフィスは肩をすくめて言った。
「やはりばれましたか」
「当たり前だ」
それを聞いて静香ちゃんが懐かしそうに言った。
「まあ、シルフィスさんお久しぶりですね」
「駄目よ静香っ！こんな奴に近づいたら。何されるかわかったもんじゃないわ」
そう言って先輩はシルフィスを睨みつけた。
「お二人とも相変わらずでなによりです」
シルフィスも二人を見て懐かしそうに笑いかける。
「うるさい変態っ！あんたみたいな奴は生ゴミと一緒に永遠に埋められてればいいのよ」
先輩とシルフィスは昔からこんなかんじである。確かにシルフィスは生ゴミと一緒に埋まっていてくれるほうが助かるのだが。
「ひっ、人を何だと思ってるんですか？」
「あんた人じゃないでしょ！」
すかさずつっこむ先輩。するとシルフィスが眼をうるうるさせながら俺にしがみついてきた。
「祐介〜、あの人が私を苛めるんですよー。どうにかしてください」
ズゴンッ！
俺は無言でシルフィスを殴った。
腕には炎がまとわりついている。
「みゅ〜、痛くて熱いです〜」
シルフィスは頭にできた煙を上げているたんこぶを押さえながら言った。これは昔からよくある事だ。はたから見ればなかなか愉快なことかもしれないが当事者である俺にとってはたまったもんじゃない。
「黙れっ！それに妙な声を上げるんじゃない。だいたいおまえはなんでここにいるんだ」
「貴方の監視ですよ。そのためにはこのほうがやりやすいでしょ？」
シルフィスはえっへんと胸を張って、「えらいでしょー」と言った。
俺は怪訝な顔をして尋ねた。
「おい、なんで俺の監視なんかしてるんだ？」
いつもなら「貴方を調べるため」とかいった答えが返ってくるのだが、今回は違った。
「こればっかりは貴方にも言えません」
それを聞いて俺は眼を細めて言った。
「ほう、どうしても言いたくないと？」
「どうしてもです」
だいたいは俺が頼めば「貴方の頼みなら何だってきいちゃいますよ」と頬を赤く染めて言うのだ。……やっぱりこいつは先輩の言う通り変態だ。そのうちゴミ処理業者に引き取ってもらおう。
それにしても珍しく口を割らないな。まあ、聞かなくても見当はつくがなんだか面白くない。少し愉快なめにあってもらうか。
「ならこっちにも手がある」
「………？」
シルフィスは訳が解らず首を傾げていた。
俺は笑顔で言ってやった。
「先輩、こいつが先輩の研究の実験台になってくれるそうです」
俺の意図を読んだのか先輩は嬉しそうに言った。
「あら？そんな変態にも、困っているあたしのことを気遣ってくれるほどの能があったのね。さすがにかわいい後輩達を実験台になんてできないし、でもあんたのおかげで思う存分研究ができるわ、ありがとう」
シルフィスの顔がみるみると青ざめていった。さすが長い付き合いだけあって自分に降りかかった災厄がいかに恐ろしいかを理解しているようだ。そう、それはシルフィスですら震いあがらせるほどの恐ろしさなのだ。
「これはどういうことですか祐介？」
怯えながら見上げてくるシルフィスに俺は不敵な笑みを浮かべて言った。
「おまえが言わないからいけないんだ」
「さっ、行くわよ変態」
そう言って先輩はシルフィスを引きずっていく。
「いっ、いやです！実験台なんかいやですー！助けてください！」
シルフィスはすがるような眼で静香ちゃんを見た。
静香ちゃんはニッコリと笑って言った。
「安心してください。お墓はちゃんと用意しておきますから」
「いやああぁぁぁぁぁ―――――?」
そして断末魔を残して先輩に連れ去られていった。
美優希はそれを気の毒そうに見送っていた。
「あそこまでやることはなかったんじゃない？」
それを聞いて俺は苦笑しながら答えた。
「あいつはあの程度では死なないよ。それにあいつが誰に使われてるかだいたい見当はつくし」
「えっ？そうなの」
美優希は意外そうな顔をする。
「ああ。だから別に聞く必要はなかったんだ」
「じゃあさっきのは………」
「まあ、お仕置きみたいなものかな。あいつにもたまには頭を冷やさせないとな」
俺は悪戯っぽい笑みを浮かべながらそう答えた。
「そうだったんだ、よかった。あんまりにも祐介にべたべたしてたからこれで始末しようかと思ったけど取り越し苦労だったみたいね」
美優希は例の木箱を抱えてほっとしたように笑った。
「あっ、あはは………」
俺は笑うしかなかった。
シルフィスよ、美優希に眼を付けられたら最後だぞ。おまえが晩ご飯のメインディッシュに出てこないことを心から祈っているよ。
＊
「どうしたのシルフィス、その格好は？」
その日いつもよりも遅く帰ってきたシルフィスはなんともいえぬ異形と化していた。
「彼等にやられました。うかつでした、まさか魔獣に効く薬があったとは」
私は彼等と騒ぐシルフィスを思い浮かべて苦笑した。
「ふふふ……、それは大変でしたね。それでどうでしたか彼のほうは？」
笑うのを止めて真面目な口調で尋ねる。
「彼は既に覚醒していました」
「そう……ならいよいよなのね。ダークマスターのほうはどうなっているの？」
「奴も準備をしていました。そろそろなんらかの動きを起こすはずです。ただ……」
「ただ？」
「以前から調査していた“闇の根源”も動いているようです」
「ありがとう、任務に戻って」
私はまた夜の街並みを眺めていた。
もうすぐ全ての戦いに決着がつく。
私達のことも“神邪戦争”のことも………
あとがき
祐介「今回はシルフィスがいきなり学校に現れて驚いたよ」
麗奈「まったくね、まさかあの変態が乗り込んでくるとは思わなかったわ」
シルフィス「おかげでこっちは、さんざんなめにあいましたよ。なんでこのわたしがビオランテなんかにされなくちゃ、いけないんですか。しかもまだ戻ってないし」
麗奈「変態には相応しい姿だわ」
紀衣「あの〜、わたしのこと忘れてませんか？」
麗奈「？あんた、誰だっけ」
紀衣「紀衣ですよ！前回幽霊だったのを、皆さんに戻してもらったら、なぜか性別がひっくり返ってたんですよ」
麗奈「あー、そういえばそうだったわね」
美優希「ごめんなさい、紀衣さん。どうやら失敗しちゃったみたいです」
麗奈「別にいいじゃない。人間に戻れたんだから。それにそっちのほうが可愛がり甲斐があって、あたしは好きよ」
紀衣「そんな無責任なこと、言わないでくださいよ」
静香「でも、とても可愛らしいお姿ですよ」
紀衣「静香さんまで、からかわないでください」
静香「本当に可愛いのに」
紀衣「わたしは男なんです。そんなことを言われても嬉しくありません」
麗奈「でも、今は女よ」
紀衣「がーん」
麗奈「いいじゃない。黒髪の美少女ってかんじで、人に自慢できるくらいの容姿はしてるんだから」
紀衣「そんなことになっちゃってるんですか!?」
麗奈「ええ、とっても」
紀衣「はぁ〜。どうしてこんなことになっちゃったんどろう」
麗奈「ちなみに、そのままでいてくれると嬉しいんだけど。たっぷり可愛がってあげるわよ？」
紀衣「そんな〜。嫌ですよ、僕は男だったんですよ？ちゃんと元に戻してください」
零一「男だったら、割り切れ」
真「それは無理だと思うぞ」
シルフィス「あの〜、わたしのこと忘れてませんか？」
祐介「なんだこのビオランテは？」
シルフィス「わたしですよ」
祐介「悪いが、マッドな友達はいても、ビオランテの友達はいない。というか、存在がえげつないので、消えろ」
シルフィス「きゃぁぁぁ、燃えるぅ〜」
紀衣「これからわたしはどうなってしまうのでしょう」
１．ネコになる。
２．メイドさんになる。
３．巫女さんになる。
４．お湯を被ると男に戻れる。ただし、水を被るとまた女に。
さて、どれかな〜（ワクワク）
美姫 「アンタね。人様のコレからを選択肢にするなんて、不謹慎よ。しかも、２と３は何なのよ」
あはははははは〜。
え、えっと、そうそう、シルフィスのいきなりの登場には驚いたよな。
美姫 「またすぐに誤魔化す」
なはははは。
でも、あの後、シルフィスが担当する授業はなかったのだろうか。
美姫 「初日から自習っていうのも、生徒には人気が出そうじゃない？」
いや、そうかもしれんが。
まあ、代理だから、それまでも自習だったのかもしれないし。
美姫 「それは兎も角、何やら動きが……」
うーん、一体、何が起こるんだろうか。
美姫 「それは次回以降のお楽しみ、ってやつよね」
だな。それじゃあ、今回はここまでで。
美姫 「次回もお待ちしておりますね〜」