――1996年12月29日、午前0時21分

 

 

 

嵐の夜だった。

轟音が空を裂き、世界が鳴動する……

天より下る雫はマシンガンのように唸り、大地に降り注ぐ……

暗雲に光が走り、稲妻が地をのたうちまわる……

それはまるで人間のようだった。

人間が、稲妻の叫びを上げ、雨という名の涙を流し、狂いながら地を転げまわっているようだった。

そう、世界は号泣しているのだ。

たった“2人の男”のために、天は涙を流しているのだ。

「『天槍』……」

青白い光を瞳に宿した男が日本刀を右斜め上段に構え、身を沈める。右膝を軽く地に着け、左膝を90度に曲げる。次なる跳躍に備え、足の筋肉が隆々と山を作った。

「天を貫く槍か……破らせてもらう」

灰色の光を瞳に宿した男がナックルガード付きのトレンチナイフを構える。その構えは攻撃にも、防御にも備えた、攻防一体の構え。次なる跳躍に備え、男は身を沈めた。

ピカッと、闇を切り裂く光が走り、雷鳴が鳴った。

2人の体が、ほぼ同時に宙へと舞う。

青白い瞳の男は『鷹』のように……

灰色の瞳の男は『燕』のように……

2人の刃が、空中で交差する。

鮮血が迸り、互いに裂傷を負う。

青白い瞳の男は脇腹を。

灰色の瞳の男は右肩を。

2人の刃は互いの肉体を深々と切り裂いていた。

2人の男の顔が、苦痛に歪む。膝を着く。

(はや)きこと風の如く、(しず)かなること林の如く、侵略すること火の如く、動かざること山の如し……」

青白い瞳の青年が唱えた。

唱えられた“風林火山”には、青年の万感の思いが篭められていた。

苦痛に顔をしかめ、膝を着いた己を戒め、戦意を奮い立たせる。

「安禅不必須山水、滅却心頭火自涼……」

灰色の瞳の青年が唱えた。

唱えられた“快川国師”の言葉には、万感の思いが篭められていた。

苦痛に顔をしかめ、膝を着いた弱い己を殺し、その身を叩きつける嵐のように激しく奮起する。

青白い瞳の男が、正眼に灰色の瞳の男を見据える。

灰色の瞳の男が、正眼に青白い瞳の男を見据える

青白い瞳の男が、大地を蹴って肉薄した。

灰色の瞳の男が、スウッと後退する。

2人の日本刀とナイフが、激しく打ち合った。

火花が散り、滴が乱れる。

攻防を制したのは間合いの面で有利な太刀だった。

下段から突き上げるように払われた太刀の一閃に、ナイフが弾き飛ばされる。

続いて、日本刀の第二撃が男を襲った。

かえす刃が男の顔を切りつける。

眉間から頬にかけて、斜めに刀傷が走った。糸のように細い血が垂れ、雨に流されて消えた。

灰色の瞳の男が、流れる血を見て冷笑を浮かべた。

出血がさほどの量ではないことを確認すると、シースから新たなナイフを抜く。

眉間から頬にかけて傷つけられたというのに、男は冷ややかに落ち着き払っている。

青白い瞳の男が、再び身を静かに沈めた。

軽く右膝を着き、左膝を90度に曲げる。刃を右斜め上段に構え、次の跳躍に備え、全身の筋肉が躍動する。

「『天槍』か……」

灰色の瞳の男が、ナイフを構える。

「『天槍』は、現時点で俺の使える奥義の中でも最高の技だ……たとえ、一度破られた程度で、諦める気はない。それに、今の俺にはこれ以上の攻撃手段はねぇからな」

青白い瞳の男が、やんわりと笑みを浮かべる。

それを見て、灰色の瞳の男もまた、ふっと微笑を浮かべた。

笑みを浮かべる2人の頬を、雨が激しく叩きつけた。

世界は泣いていた。

滝のような涙を流し、泣いていた。

2人の男は、世界の慟哭を聞き、なおも刃を振るった。

 

 

 

第五章「来訪者」

 

 

 

――2001年1月7日、午前8時28分

 

 

 

「ほら、やっぱり遅刻寸前だった」

「くっそ〜まさか始業式に日にまでこんなに遅れてくるとは……」

HR開始直前に教室へと滑り込んだ和人を見て、2人の生徒が声を上げた。

重い足取りで前から3番目の窓際にある自分の席へと座ると、先ほどの声の主を睨みつける。

「……人を勝手に賭けの対象にしないでほしいんだけど」

「畜生ッ!おい叶、まったくお前って奴はぁ……なんてことしてくれたんだ!」

和人の言葉には耳も貸さず、後ろの席で頭を抱えている少年は西川(にしかわ)(ひろし)

和人の高校からの友人で、燐学(燐道学園の略)一の勝負人だ。

とにかく博打と名のつくものが好きで、休日にはパチンコにスロット、競馬場や少し危ない人達の集う賭博場などに入り浸っている。本人曰く、勝率は7割4分とのことらしい。

ちなみに、カンニングの常習犯でもあるが、こちらの方は未だ捕まったことはない。

「ふふふっ、これで私の2勝ね。あと1回勝ったら、なにか奢ってもらうわよ」

そして、やはりこちらも馬耳東風といった感じで勝ち誇っている少女は坂本(さかもと)(かおる)

西川の幼馴染で、彼女もまた西川ほどではないが和人と親しく、博打好きである。勝率は西川より少し低い7割1分。

ただし、彼女の場合は西川と違ってイカサマをすることはないため、実際の勝率は3割ほど落ちる。

「……はぁ、もういい」

溜め息をついて、和人は苦笑を浮かべた。軽く周囲を見回す。

3年生のこの時期、受験生達は多忙を極め、始業式にも関わらず教室はいたって静かであった。人数も、本来の7割ほどしかいない。

クラスメイト達と軽く挨拶を交わし、和人は机に突っ伏した。

舞の手前、兄としての意地なのか表面上は出さなかったようだが、連日のバイトと昨日の地獄の一丁目……もとい、遊園地と、さすがの彼も疲労困憊の様子である。

加えて、朝、目覚めて2時間ほどの間に起きた様々な戦いは彼の体力と気力を確実に消耗させていた。今、目の前で起きている光景も含めて。

「燃えたよ…燃え尽きた…真っ白にな……」

「か、叶君、早まっちゃ駄目だって」

「そ、そうだぜ叶!その発言はヤバイから」

なにやら『えいえん』に旅立とうとしている和人を必死に止めようとする心優しきクラスメイト達。

「あれ、どしたの叶クン?」

「だれてるな〜叶。お前、就職組だろ?そんなんじゃこれからやってけねぇぞ」

そして、今までの自分たちの行動が和人を追い詰めていたことに気付かない友人2人の暖かい言葉……

「貴様ら……」

低いドスの孕んだ声でユラリと立ち上がる和人。

全身からは素人でも分かるほどに膨大な殺気を放出し、心なしかその瞳には憤怒の炎が揺らめいている。

それを見た西川と薫の行動は迅速かつ的確だった。

信じられないほどの速度で床を蹴り、クラスでもいちばんに屈強な、元ラグビー部男子生徒の背後に回る。

「さ…さ……斎藤(さいとう)クン?助けて」

「あとは任せたぞ、さ…さ……西郷(さいごう)?」

無情にもクラスメイトの少年を人身御供に差し出す2人。

少年……日比野(ひびの)俊平(しゅんぺい)は涙しながら和人の行く手を阻んだ。

佐々木(ささき)!後生だ!武士の情けだ!頼む!退いてくれ!!」

……武士だったのか和人。

しかし、殺気を孕んだ和人の言葉にも、日比野君はあくまで退かない。

目尻一杯に涙を溜め、その巨体をもって和人の進行を阻害する。

「か、叶!こいつらにだって悪気があったわけじゃない。だから怒りを静めるんだ」

「そうだよ叶クン。憎しみのオーラ力に身を染めちゃ駄目だよ!」

「そうだぜ叶、斎藤の言うとおりだ!」

「…………ここは佐々木に免じて退いてやる」

とりあえず怒りの矛先を納め、席へと着く和人。

西川と薫もほっと息をついて自分達の席へと戻る。

そして、号泣する日比野君は……

「ほらほら、泣かないで、さ…さ……笹沢(ささざわ)君?」

眼鏡をかけた女生徒に慰められていた。

というか、このクラスには日比野君の名前を呼べる人は誰もいないのだろうか……?

「ほら皆、席に着けーッ……ん?おい鷺澤(さぎさわ)、早く席に着かんか」

……どうやらいないらしい。

入ってきた担任教師の言葉に、日比野君はさらに涙した。

 

 

 

「おい叶、聞いたか?」

何の隔たりもなくHRが進行する中、不意に、西川がボリュームを押さえて訊ねてきた。

和人は振り向かずに、「何の話だ」と質問を返す。

西川は勝ち誇ったように両腕を組むと、ニヤリと怪しい笑みを浮かべる。

「……実はな、何を隠そう今日、転校生が来るらしいんだ」

「……転校生?」

隣りで聞いていた薫が、思わずオウム返ししてしまう。

当然だろう。

3年のこの時期、卒業も間近に転校してくるなど、あまり聞かない話だ。

「なんでまたこんな時期に?」

「そんなこと知るかよ。……イジメとか、前の学校で問題起こしたとかじゃねぇの?」

「……もしくは、親の仕事か、進路関係の都合でこっちに来たか」

西川の言葉にうんうんと頷いて付け足す和人。

大学受験のシステムは高校受験のそれと比べてはるかに複雑化しており、AO入試、指定校推薦、推薦入試、公募制一般入試、入試形態だけでもいくつかのパターンがある。

早いものでは9月の終わり頃から行われ、もう結果が出ているところもある。

また、就職組にしたって、和人のようにすでに内定の決まっているものもいる。

和人は、件の転校生がそういった都合で転校してくるのではないかと思った。

「……まぁ、なんにしろすぐに分かると思う」

和人の言葉に同意する2人。

始業式のある今日は、式が始まる9時20分まではいつもより長い時間、HRが行われる。

勝負師の西川は、その転校生はHR終了の10分前に紹介されると予想した。

「……まぁ、さしあたって問題は1つだけだな」

「う〜ん……そうねぇ」

「なにが?」

2人の言葉の意図が分からず、和人は首を傾げた。

「んなこと決まってんだろ?その転校生が男か、女かだ」

「……それが重要なこと?」

「そうだ」

理解できないといった様子の和人。

西川は両腕を組んだまま誇らしげに続けた。

「なにせ、俺の1年という長期間をかけた壮大な博打の結果がかかっているんだがな」

その言葉に、和人は共学の表情を浮かべた。

西川はたしかに博打好きだが、すぐに結果の出ない博打はあまり好まない。大抵がポーカーやブラックジャックといった、すぐ、その場で結果が出る博打しかやらない。『何日後にはこうなる〜』といった、ある程度の期間をおかねば結果のでないトトカルチョ形式の賭け事は滅多にやらない。やったとしても、せいぜい一週間以内に結果の出るものばかりだ。

加えれば、ストックといった行為もあまりしない。パチンコやスロットでも、球やコインはキープせず、その場で使い切るタイプだ。

これは、彼なりの博打に対する美学らしい。

「運なんてのはあるうちに掴まえておかねぇとすぐに逃げちまう。博打をしかけたその瞬間にはあったかもしれねぇが、結果が出るまでにその運が逃げないとも限らねぇ。俺は、運を掴んでいるうちに賭けて、運のあるうちに栄光を手にしてぇんだ」とは、西川の持論である。

その彼が、1年もの時間を用いて行っている賭け……その内容は、和人の好奇心を揺さぶるには充分な材料だった。

「……意外」

「あ?」

「いや、西川がその手の賭け事をするなんて珍しいなと思って」

「ああ…いやよ、俺も最初は参加しなかったんだけどな。なんか見てるうちに面白そうだったからさ」

和人は小首を傾げた。

今の西川の発言から、その賭けはかなりの大人数……それも学校関連の者達が関与しているらしい。しかし、和人はそのような話を、聞いたこともなければ見たこともなかった。

西川の言動から、その賭けには数十人規模の人間が関わっているのは明かであり、それだけの人数ともなれば、いかに守秘義務を徹底しても限界がある。

同じ学び舎で時間を過ごしている和人の耳に入らぬはずがない。

入らぬはずがないのだが……

「……その賭けってどんな内容なんだ?」

「あー…それはねぇ……」

和人の問いに、複雑な笑みを浮かべる薫。

興味津々とばかりに、椅子を傾け上体を後ろへともっていく。

――と、そこで西川からストップがかかった。

右手で制され、押し戻される。

「悪ィ叶。それはまだオフレコなんだ」

「う〜ん、わたしもちょっと言えないな」

椅子をグラグラと揺らしながら西川が言い、薫がバツの悪そうな顔をする。

「…………わかったよ」

ひとつ溜め息をついて、和人は2人に『賭け』の真相について聞くのを諦めた。西川と薫は、博打関係の話で盛り上がっている。この手の話に、和人が介在する余地はない。

和人は「ほどほどにな」と言って、自身もまた鞄から文庫本を取り出して、机を影にページを開いた。

先日買った、早坂紀本の新刊である。

連日のバイトであまり時間がとれなかったため、購入してもう5日が経つというのに未だ半分も読み終えていない。

和人は昨夜読んだところまで戻ると、栞として挟まれた銅製のブックダーツをはずして、小説の世界へと自らの意識を飛ばし始めた。

――と、

「おい、こらそこ!何大声で喋ってるんだ!!」

いつの間にか大声になっていた2人を、担任の教師が叱責する。

和人はそれを見ながら少しだけ微笑んだ。

ふと、文庫本から視線をはずし、窓の外を見てみる。

どんよりとした雲の隙間を縫って差し込む陽光が、裸の桜の木を照らしていた。

やがてあの桜の木も、芽吹き、葉を生やし、花を咲かせ、散らしていくのだろう。そしてまた、芽吹き、葉を生やしていくのだ。天寿をまっとうするその日まで……

当たり前のことである。しかし、和人にとっては、そんな当たり前のサイクルこそが、なによりも幸せなことなのだと思った。

それは、彼自身感じていることだった。

いつものように片倉家へと向い、朝食を作り、学校で友人達と過ごし、青龍館で汗を流す。

何の変哲もない、ありふれた日常。

和人にとって、それはかけがえのないものだった。失いたくはないと、心から思っている。

それに関しては、彼の過去が起因しているのかもしれない。

和人は、一瞬だけ険しい表情を浮かべると、すぐに柔和な笑みを浮かべ、再び文庫本を読みふけった。

 

 

 

「よし、それじゃあ…もう何人かは知っているかもしれんが、転校生を紹介するぞ」

西川の予想通り、長々と40分もの間、何故かUMAドーバーデーモンの話をして満足気味の担任教師は言った。

その一言に、教室がわっと喧騒に包まれる。

特に男子などは盛大な歓声を上げた。

「おおぉぉぉーーー!!!」

その声に、文庫本に集中していた和人が顔を上げる。

きょろきょろと視線だけを動かして、何が起こっているのかを悟ると、和人は今読み終えたページにブックダーツを挟んだ。

担任教師は歓声を上げる男子達の不気味さに身を引きながら、

「……ちなみに、男だぞ」

と、一部の人間にとっては絶望的な言葉を告げた。

「うおおぉぉぉーーー!!!」

先刻にも増して、巨大な歓声が上がる。

……和人の身が、一瞬ブルッと震えた。本能が、この場から逃げろと警鐘を鳴らしている。

彼は今、生まれて初めて身の危険を感じたのだ。

(……こ、このままこのクラスにいて大丈夫か、俺?)

たしかに、よく聞いてみると、女子の黄色い声も少しだけ混ざっている。しかし、圧倒的な男子達の声量に負けて、かなり集中しないと聞き取れない。

というより、歓声の中には西川の声もあった。

(西川……お前……)

和人は西川を見た。

いつになく楽しそうにしている西川を見て、和人は溜め息をついた。

「……ま、まぁ、とりあえず入ってくれ」

担任教師の言葉に、みなが教室の扉に視線を注ぐ。

“ガラガラガラ……”

刹那、重い教室の扉を開けて入ってきた件の『彼』を見て、教室内の空気が凍った――

時間が滞り、呼吸すらも忘れてしまう。

『彼』の登場によって、それまで異様な雰囲気を醸し出していたクラスは騒然となった。

それほどまでに、『彼』の存在は美しかった。

日本人離れした190センチ近い長身でありながら、均等のとれた絶妙なプロポーション。

まるで女のように色白の肌には若さを象徴する張りがあり、紅色のバンダナの下に万人を魅了する甘い美貌があった。

研ぎ澄まされたシャープな顎のライン。同じく研ぎ澄まされた細い双眸。これまた日本人離れした肉の薄い高い鼻。

ともすれば、整いすぎて冷たく感じられるのだが、その口元に湛えた優しげな微笑が、それを感じさせない。

無骨な学生服すらもが、彼にはよく似合っている。

突然の来訪者に、教室にいた誰もが、魅せられ、声を発せられないでいる。事前に面識のあったはずの、教師までもが震えている。

完成された“美”に、男も女も関係なかった。

……ただ、和人だけが他とは違った反応を示していた。

「……お、お前は……お前は……まさか……」

端正な顔立ちが驚愕の表情で歪む。眼を大きく見開き、震える声で呟く。

“ガタンッ!”と、大きな音を立てて椅子が倒れた。

その音に、『彼』に魅せられていた者達の意識が覚醒する。はっとして、ワンテンポ遅れて音のした方向を見た。

「…………し……信一……なのか?」

やっとの思いで、和人はその言葉を口にした。

青年……吉田(よしだ)信一(しんいち)は首を縦に振ると

「……久しぶりだな、和人」

――と、万人を魅了する笑顔で言った。

和人の中で、何かが、ガラガラと音を立てて崩れていくのを感じた。

和人の守りたいと思っていた日常が、壊れようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

章末武器解説

 

――H−47チヌーク――

 

陸上自衛隊で使用されているCH−47C

 

現行型CH−47Dのスペック

全長(ローター含む)

15.54m(30.18m)

全幅

18.29m(ローター込み)

全高

5.68m

ローター経

18.29m

自重(全装備)

10475kg(22680kg)

最大飛行速度

298km/h

巡航飛行速度

246km/h

上昇率(海面上のデータ)

464m/min

航続距離

2060km(空荷:増槽使用)

エンジン

アブコ・ライカミング社製・T55−L−712−ターボシャフト×2

出力

3750hp×2

燃料搭載量

3899リットル

搭載能力

12700kg

乗員数

乗員2名+兵員33〜55名

開発

米国・ボーイング・バートル社

初飛行

1961年9月21日

 

 

 

タハ乱暴「前回に引き続き今回もヘリだーーー!!!」

薫「でも、今回のは前回のとずいぶん違うね」

西川「(カンペを見ながら)このチヌークってヘリは輸送ヘリらしいからな。

捕捉すると、前回のAH−1コブラみたいなのは攻撃ヘリって言って、被弾率を低くするために無駄を省いたスマートな形をしているらしい。けれど、このチヌークみたいな輸送ヘリは貨物を運ぶための余裕が必要だから、より多くのものが積めるようにって、円柱状になっているんだと。

まぁ、道具なんてモンは使い道次第でいくらでも形を変えちまうからな」

薫「ふーん」

タハ乱暴「あ〜〜〜とりあえず、お二方とも準備はよろしいですか?」

薫「……なんで逃げ腰なの?」

西川「察してやれよ。最近、自分の子供(和人)に何発も銃弾を浴びせられてるからな」

タハ乱暴「うぅぅぅぅ……」

薫「あ〜あ、泣いてるよ……」

西川「ほっといてやろうぜ。……さて、こいつが今回の武器、H−47チヌーク輸送ヘリだ。開発は1958年までに遡り、米陸軍が戦場移動能力の高い『空中機動部隊』を構想したことに端を発する。つまり、『空中機動部隊』の運用のために、垂直離着陸機能(VTOL)のついた輸送ヘリを求めたわけだな。

この開発競争には計5社のヘリコプター・メーカーが参加し、結果的にバートル社のモデル114が採択された。このモデル114が、チヌークの原型機『YCH−47A』5機の製作が開始されたわけだ」

薫「チヌークのいちばん最初の量産型モデルはCH−47A。これhライカミングT55−L−5っていうエンジンを2基使ってて、推力はひとつにつき2200hp。でもすぐ後にT55−L−7っていうエンジンに変えられたの。こちらの推力は2650hpで、このエンジンを搭載したチヌークは総重量15000kg、機外吊り下げ重量5t余の性能をもったわけ。

……さて、ここからが本番だよ。最初のCH−47Aが開発されて20年……様々なマイナーチェンジを行ってきたチヌークは、その20年間のノウハウの集大成とも言える機体になるの。それが、現用標準型CH−47Dよ」

西川「CH−47D……米陸軍が、空中機動作戦を実施するにあたって火力支援に必要な155mm砲を運搬できる大型ヘリを必要とするため、それまでのCH−47A型、B型、C型に、約13項目にもおよぶ改修を施したのがこいつだ。

13項目全部を詳しく解説するには時間(?)が足りないが、その中でも、輸送ヘリにとって最も重要な貨物運用能力について紹介していこう。CH−47Dの貨物運用能力は、CH−47C型の運用有効性より58%向上したって話だ」

薫「運用能力は最大全備重量が22tを超えて、有効搭載量はCH−47A型の2倍にもなって、ペイロードは10tにも達したのよ。たとえば155mm型M19曲射砲を運用するときには、砲弾32発と兵員11名を一度に搭載することが出来るようになって、11tを超えるD5ブルドーザーを中央のカーゴフックに吊り下げることも出来るようになったの」

西川「CH−47Dは湾岸戦争やフォークランド紛争のときにも活躍し、その性能を100%フルに発揮した。史上最大のヘリコプター進行作戦と呼ばれる1991年2月24日の戦闘には90基近いチヌークが出動したんだ。まさに開発当時、チヌークは世界最大の軍用輸送ヘリコプターだったわけだ」

薫「チヌークは民間機としても大ヒット商品だったのよ。モデル234って名前で、西側世界最大のヘリコプターって言われてたんだから。ただ、ちょっとだけお値段がね……」

西川「羽田空港〜成田空港間のヘリコプター旅客輸送が構想段階にあったとき、これを実行に移すためには大型のヘリコプターが必要って意見があったんだ。それでボーイング・バートル社に民間型チヌークの調査に行ったこともあったんだが……やっぱ、コストの問題で却下されたらしい」

薫「ふぅん、大変だね」

西川「高すぎる性能ゆえに……ってやつだろ」

タハ乱暴「具体的な数字を述べれば、現在、日本の陸上自衛隊はCH−47C型を改修したJ型、さらにそのJ型を改良したJ/A型(両機とも川崎重工でライセンス生産されている)を使ってるんだが、保有数全50機、航空自衛隊も含めると65機にも及ぶんだ。それで、CH−47J、J/A1機あたりのお値段はというと、陸上自衛隊のJ/Aが57憶3100万、航空自衛隊のJ型が43億2900万」

西川「ご、57億……」

薫「そんな大金想像もつかないんだけど……」

タハ乱暴「分かりやすく言うとトマホークミサイル249本分」

薫「余計分からないって」

タハ乱暴「……それ以外の言い方だと……うむ、1ドルを110円と換算した場合、和人のベレッタM92が平均価格で約7万1400挺買える」

西川「くわばら……くわばら……」

タハ乱暴「恐い話だねぇ」

和人「……で、その恐い兵器で大量虐殺をしようとしているそこの犯罪者」

タハ乱暴「HAHAHAHAHA!誰のことを言ってるんだい?んん?」

和人「貴様のとるべき選択肢は2つある。ひとつは、己の罪を懺悔し、生という名の十字架の下に贖罪をするか……もうひとつは、己の罪を懺悔せず、この場で断罪の時を迎えるか……だ」

タハ乱暴「ようするに Dead or Arive ? ってことですか!?」

和人「7万1400挺か……単純計算で107万1千発の弾丸が撃てるな」

タハ乱暴「か、和人ぉッ!!なんだ!?お前の背後にいるこわそ〜な人達は!?」

和人「……気にするな。『打倒・タハ乱暴友の会』の皆さんだ」

タハ乱暴「どんな組織だそれ!?」

和人「諸悪の根源にして108の絶望、煩悩のうち7割を占める存在たる貴様を倒すための軍団だ」

タハ乱暴「は、早まるな〜〜〜!!!」

西川「叶、ほどほどにしとけよ」

薫「節度は大事だからね」

和人「分かっているさ……必要悪という言葉もある。なに、殺しは……しない」

“パンッ”

 

 

 

 

 

……その日、一発の銃声を合図に、ひとつの戦い始まった。

    

   


謎の転校生。
美姫 「果たして和人との関係は」
多分、予想だけど…。
美姫 「私もそうだと思うわ」
果たして、彼の転校は何をもたらすのか。
美姫 「平穏な日常は崩壊してしまうのでしょうか」
それでは〜♪
美姫 「タハ乱暴さん〜♪」
また次回ま〜で〜♪





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