つい先日。
 俺は聖フランチェスカで、北郷と竹刀で打ち合っていた。
 しかし、今の俺は──



「常に二人一組となって敵兵に当たれば、百戦して百勝しよう。あとは私の指揮に従っていれば、必ずや天は我らに微笑むであろう!」

 行軍する民たちを愛紗は絶えず鼓舞しながら歩いていく。

「天運は我らにあり! 怯むな! 勇気を奮え! 妻を、子を、友を……そして仲間を守るために!」



 ──二刀の小太刀『八景』を手に、実戦……戦場へと向かっていたのだった。



















『恋姫†無双異聞 〜高町恭也伝〜』
 第四章




















 ──黄巾党。
 後漢王朝の圧政、腐敗しきった役人の怠慢などで不満が溜まりに溜まった民衆の間で、一人の宗教家が生まれ、彼の存在から人々は団結し、武装蜂起したことで始まった。
 黄巾党の誕生である。
 武装蜂起した民衆を鎮圧すべく官軍が出陣したのだが、長く戦争がなかったことですっかり平和ボケしていた軍隊では、溜め込まれた不満により暴走する民衆を抑える事なんて出来るはずもない。
 各地で官軍は敗退に次ぐ敗退。それが民衆達を更に焚きつけ、黄巾党は爆発的にその規模を膨張させていった。

 というのが“俺の世界の歴史にある”黄巾党の知識だ。
 そして出陣前に愛紗に確認を取った限りでは、こちらの黄巾党もまったく同じ成り立ちを持っているらしい。
 この世界は確かにパラレルワールドではあるが、俺の世界における三国志と類似した世界ではあるようだ。もっとも、

「関羽、張飛という人物が女性というのは大きな違いなんだが……」

 ただ三国志の世界と思ってみていると、痛手を被る可能性も高そうだが。
 俺の記憶では、黄巾党の首領でもある宗教家の死が、黄巾党壊滅のきっかけになったはずだ。しかし、だからといってそれを待ってみるほど楽観視は出来ない。ここはあくまでも別の世界なのだから。
 ──愛紗によって高められた士気で盛り上がりを見せる軍の先陣で、そんなことを考えていた時。


「居たよ! 愛紗、お兄ちゃん! 準備して!」


 先行していた鈴々の、鋭さを含んだ声が耳に届き、高すぎるくらい高いテンションだった街の住人たちの中に緊張が走る。どうやら荒野のど真ん中にあるという連中の陣が見えたようだ。
 しかしそんな民衆の緊張を察知したかのように、再び愛紗の檄が飛ぶ。

「皆、陣形を整えよ! 若者は剣を抜け! 老人は弓を構えよ! これより敵陣に向けて突撃する!」

 愛紗の声に呼応して、民衆達はそれぞれ剣を鞘から抜き、弓を構えた。
 そんな中で、俺の隣を進んでいた愛紗が、

「ご主人様、これを」

 見た目丸腰の俺に対し、予備の剣を差し出してくる。前線に留まる以上丸腰は危険、という彼女の気遣いは嬉しいが、俺はそれをやんわりと断った。

「やはり、使い慣れたモノが一番だからな」

 俺は愛紗を安心させる意味でも、制服の上着の中に隠し持っていた小太刀の鞘から二刀の小太刀を抜き放つ。

「それは……短刀、ですか?」
「これは日本……ではなく、俺の世界における武具で小太刀というんだ」
「はぁ……しかし、大丈夫でしょうか? 戦場においてはやはり間合いの広い武器の方が……」
「心配はもっともだが。まあ、見てくれればわかるさ。安心してくれ。俺は……御神は負けない」

 俺は心配してくれる愛紗に少しでも安心してもらえるように、と彼女に微笑みを見せた。

 今の俺には負けられない理由がある。
 俺を信じてくれた民衆を守るため。
 俺を信じてくれる愛紗と鈴々を守るため。
 大切なモノを守るためならば──御神の剣士は負けはしないのだから。

 気合いを入れ、それでいて頭の中は冷静に保ったまま、何故か顔の赤い愛紗に声をかける。

「さあ、行くぞ愛紗。敵を撃ち破ろう!」
「は…………はいっ! では行くぞーーーっ!」

 どこかボーっとした様子の愛紗だったが、すぐに表情を引き締めると、全軍に号令をかけた。そして、

「鈴々に続くのだーーーーーーっ!」

 軍の先頭に立つ鈴々が、自らの得物──蛇矛を振りかざし、黄巾党の陣へと突撃する。敵陣もこちらの軍に気づいたようだが、敵兵の様子は傍目から見ても戸惑いの色を隠せない。
 やはり明日再襲撃をかけるということで、連中には油断があったらしい。慌てて戦闘準備を整えようとする黄巾党の兵士達に、

「うりゃりゃりゃりゃーーーーーーっ!」

 快足を飛ばし、まずは鈴々が一番槍。
 武器こそ手に取っているモノの、こちら側の奇襲により心の準備が出来ていない敵兵──その全てが黄色い布を頭に巻いている──は上がらぬ士気のまま、鈴々の蛇矛の餌食となる。あの小柄な少女が、並み居る大人の男を矛でなぎ倒していく様は、異様を通り越して痛快とも言えた。

「私も負けてはいられないな……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」

 続いて敵陣に突貫するのは、青龍刀を携えた愛紗。そして、

「俺の前に立ちはだかるモノは………………斬り捨てるだけだ!」

 愛紗と並ぶようにして敵陣に突入する俺。
 俺たちはほぼ同時に敵兵と接触した。

「死にたくなければこの場から消え失せい! 死の覚悟が出来ているのならかかってこい! この青龍偃月刀の錆としてくれる!」

 愛紗の、その細腕からは信じられないほどの威力の薙ぎ払い。ただの一振りで十人以上の敵兵が吹き飛ばされる光景は、敵兵に脅威を与え、味方に勇気を与える。
 二人の活躍が味方の士気を高め、敵兵の戦意を削いでいくのだ。
 そして──

「貴様らに個人的な恨みはないが……立ちはだかる以上は死んでもらう!」

 このポリエステル製の白を基調とした聖フランチェスカの制服は、この殺伐とした戦場でも目立ち、敵兵達が殺到する。俺はそれを充分に引き付けてから、

「御神流……虎乱!」

 御神流小太刀二刀流における高速の連撃技を繰り出し、敵兵を一気に撃破していく。一瞬にして十人以上の兵士を斬り捨てた俺の姿に、敵は一瞬凍りついたが、すぐさま我に返り、再び目立つ姿の俺に向かって殺到する。
 ……まさに狙い通りだな。
 俺は内心でほくそ笑みながら、両の手に二刀の小太刀を握りしめ、敵の布陣を斬り裂いていく──。








「先の荒野での身のこなしで、ある程度の戦闘力はあると見ていたが……予想以上に強い。さすがはご主人様。やはりあなたは間違いなく天の御遣いです」

 青龍刀を休み無く振るいながらも、恭也の勇姿を見て満足げに頷く愛紗。

「おお〜。お兄ちゃん凄いのだ。かっこいいのだー。今度鈴々と打ち合って欲しいなー」

 蛇矛で敵を駆逐しながら、恭也の剣腕に深い興味を抱く鈴々。
 そして、

「うおおおおおおっ! すげえぜ張飛の嬢ちゃんも、関羽の姐さんも!」
「おう! だけど、あの天の御遣いの兄ちゃんも凄い……あの三人と一緒なら……」
「ああっ! この戦、勝てるぞ!」
「続け続けーーーーっ! 一気に黄巾党の連中をぶっつぶせーーーーーっ!」

 この三人の“一騎当千”の武人の戦う姿に、民衆たちは言葉無き鼓舞を受け、敵陣へと突進していった。










 この戦い。
 元々の兵力は黄巾党の方が上だった。
 黄巾党四千に対し、俺たちは二千足らず。この時代、兵力こそが絶対的な戦力の差と言われるだけに、まともにぶつかれば俺たちが不利なのは言うまでもない。
 しかし、連中が油断していたところへの、こちらからの奇襲。
 戦端を切り開き、問答無用で敵を薙ぎ倒していく鈴々、愛紗、そして俺。この三人の飛び抜けた戦闘力。
 付け焼き刃であろうとも、民兵たちはそれなりに統制が取れており、二人一組で敵兵一人を叩くという最低限の作戦は功を奏し。
 そしてなにより、愛紗の幾度となく発してきた檄により、民衆達の士気は圧倒的に高かった。
 これらの要素が二倍はあった兵力差を逆転させてしまう。
 敵はどんどん戦意を喪失し、味方はどんどん志気が上がっていく。
 更に言えば、敵は数任せの烏合の衆で、統制も取れておらず作戦も何もない。一応黄巾党側にも指揮官らしき人間はいるようだが、彼らの声は兵士達には届かず、混乱は増すばかり。

 そんな中。
 俺は敵陣のど真ん中で次々と敵兵を斬り捨てていた。
 四方八方を敵に囲まれているというのは、確かに危険だが、連中には連携意識もない。ただただガムシャラに襲いかかってくるだけなら、何の恐怖もなかった。
 だが、ある瞬間。

「む──?」

 俺はある違和感を覚えた。
 ……八景の切れ味が落ちている?
 もう数え切れないほどの敵兵を斬り捨ててきた愛刀から感じ取られる手応えに変化を感じたのだ。
 だが、その疑問には即座に答えが浮かんでくる。

「……当然か。敵の血や脂で切れ味が鈍るのは……」

 斬り捨てたことで刃に付着する敵の血や身体の脂が『八景』の切れ味を落としているのだ。とはいえ、矢継ぎ早に兵士が襲いかかってくるこの状況では刃を拭っている時間などない。
 ならば──

「ふんっ!」

 俺は小太刀の刃を返し、小太刀の峰で敵の首筋を強打した。

 ──御神流『徹』!

 斬撃ではなく打撃で潰せばいい!
 肉を斬り裂く音から、骨を砕く音への変化は、近くの敵兵達も敏感に察知する。

「さあ……骨を叩き折られたいヤツはかかってこい!」

 敵兵の、恐怖に引きつった顔が更に青ざめた。



 黄巾党の軍の陣が大きく崩れたのは、それから間もなくのことだった──。

















「あと一押しで敵は崩れるぞ! 皆、力を振り絞れ! ここまでくればもう平押しに押すだけで勝てるぞ!」
「みんな頑張れーっ! あとちょっとなのだー!」

 愛紗と鈴々の声を聞いた民衆達は、雄叫びを上げて大きく崩れた敵陣に向かって突撃を敢行する。その突撃に、黄巾党の前線は戦意を喪失し、逃げ腰になっていた。
 それをあの二人が見逃すはずが無く。

「今なのだっ! みんな突撃ーーーーーーっ!」

 鈴々の号令の元、崩れた敵の先陣に温存していた残存兵力を突進させた。
 その先頭は号令を発した鈴々。
 鈴々は立ちはだかる敵兵を、己の身長の数倍はある矛で弾き飛ばし、彼女の後に続き民衆達は、愛紗の戦訓を忠実に守り、二人一組で敵兵一人に勝負していった。
 一人が積極的に、しかし浅い攻撃を繰り返して敵兵の体勢を崩し、残るもう一人が的確に相手に致命傷を与える。その作戦はシンプルながら、確実に敵兵の数を減らしていた。
 全体の様子はさすがにわからないが、敵兵の圧力が弱まった所を見る限り、もう兵力の差はなくなっているか、もしくはこちらの方が圧倒しているのだろう。最前線で剣を振るっていた俺の周囲でも、その変化は顕著に見られた。
 そして──

 おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……っ

 戦場の一角から歓声が上がった。

「黄巾党の連中が逃げ出したぞっ!」

 民衆達の声がこちらにも届く。
 そしてそれは今もなお戦っていた敵兵にも届いたのだろう。
 他の味方が逃げ出したのに自分たちだけが戦って死ぬなんて御免だ──そう言わんばかりに、それまで剣を振るっていた他の敵兵達も一気に逃げ始めた。
 それを見て愛紗はすかさず民衆たちに号令を発する。

「よしっ、時は今だ! すぐに追撃を掛けるぞ! 皆、疲れているだろうがあと一踏ん張りだ! 我に続けぇっ!」

 得物である青龍刀を高々と掲げた愛紗は、周囲を鼓舞しながら逃げ始めた黄巾党の兵士を追いかけるように駆け出していった。
 それに続けとばかりに、民衆達が喊声を上げながら追撃を開始する。
 疲れ果てて戦意も完全に喪失した黄巾党の兵士達と、疲れはあれどほぼ勝利を手中に収めた民衆たちでは、その動きはまるで違うのだ。
 追撃戦はもう、一方的なモノとなっていた。
 我らの軍は黄巾党を圧倒し、敵兵のほとんどを殲滅していくのだった──。















「…………」

 今朝、目を覚ました時と同じような荒野。
 しかし、あの時と違うのは──目の前に広がる死体の山と、目にしみるほどの血の臭い。
 地面の色を覆うほどの鈍い赤。
 俺は意気揚々と街へ凱旋する軍からはずれ、ほんの一時間前までは怒号渦巻く戦場だった場所をただ黙って見据えていた。
 そんな時、俺の背後に砂を踏むような音が聞こえ、俺は振り返ろうともせずに、その音の主の名を呼ぶ。

「……愛紗か」
「はい」

 愛紗は気配を消すでもなく、ゆっくりと俺の隣まで歩いてくると、どこか心配そうな瞳で俺の顔を見つめてきた。

「……戦で亡くなった兵達を悼んでおられるのですか?」

 今回の戦いは確かに俺たちの圧勝だった。犠牲になった兵数を見ればそれは一目瞭然でもある。黄巾党の兵士達には甚大な被害を与え、こちら側の被害は微々たるモノだった。
 しかし、その“微々たるモノ”の中にも当然命を落とした者もいる。その数は三桁にはならないだろうが、確実に二桁の人数はいるはずだ。これが戦争である以上、誰一人犠牲者を出さないなんていうのは夢物語だ。
 それは理解している。

「それもあるな。敵味方関係なく、多くの人命が失われたのだから……だが、主目的は別にあるんだ」
「別……ですか?」
「ああ……俺はこの光景を目に焼き付けておく義務がある。俺は“この惨劇を起こした張本人”なのだからな」
「そっ、それは……」
「違わない……だろう?」
「…………っ」

 俺の言葉を即座に否定しようとした愛紗だったが、俺はそれを言わせなかった。
 愛紗だって理解はしているのだから。
 街の住人たちを焚きつけたのは愛紗だし、実際に決断したのも民衆だ。
 それでも、この軍を率いたのは間違いなくこの俺なのだから。
 この戦争の責任がどこにあるのか、と言えば間違いなく大将の俺にあるのだ。
 愛紗の立場からすれば、真っ向から反論したいはずだろう。
 元はと言えば、愛紗が俺を担ぎ上げたのだろうと。
 住人たちの決断による自己責任だろうと。
 そして、黄巾党が悪いのだと。
 だが、それを口にしないのは……彼女が一番分かっていることだ。
 これこそが、一軍を束ねる将が背負うべき責任なのだと。

「…………」

 だから俺は再び口を閉じ、この光景を見据える。そして、

「…………」

 隣にいる愛紗もまた、俺と同じようにこの地獄絵図とも言える光景を黙って見据えた。
 それは……まるで俺が背負うべき“責任”の一端を受け持とうとするかのように。
 先ほどの戦場では、誰よりも多くの敵兵を薙ぎ払っていた“戦乙女”は、その実、誰よりも優しい少女なのだと。
 俺はあらためて実感し、俺は自然と彼女の頭に手を乗せ、優しく撫でていた。

「ご……御主人、さま?」

 突然のことに狼狽え、赤面する愛紗。しかし、

「俺は形だけでも、君の主なんだろう?」
「形も何も、貴方様は間違いなく──」
「なら、主の命令だ。しばらくこうさせてくれ……」
「…………」

 俺の突拍子のない命令に、顔を赤くしたまま絶句していた愛紗だったが、

「……まったく、しょうがないですね。これも主の命ならば……」

 甘んじて俺の手のひらの感触を受け入れてくれたのだった。
 その時の彼女の表情がどこか嬉しそうに見えたのは……きっと、俺の見間違いだろう。




















 気が済むまであの光景を眺めていた俺と愛紗は、民衆達からは随分と遅れた形で街へと帰還した。
 黄巾党によって一度破壊された街には、その爪痕がくっきりと残っている。だが、俺たちが初めてここを訪れた時と違い、今は活気に包まれていた。
 凱旋した民衆達は、自分たちの力で外敵を殲滅したことを誇り、街を守れたことを喜び、生きて帰ってきた事に安堵している。怪我が酷くて戦場に行けなかった者や女子供たちは、男達の生還を心から喜び、街には笑顔が溢れていた。
 ……しかし、その笑顔の影では、街に戻ることが出来なかった犠牲者達の家族の涙に暮れる姿も目に入り、俺は素直に喜べはしなかった。
 そんな悲喜こもごもの街の住人たちを見ていた所に、

「おーーーいっ! 愛紗、お兄ちゃーーん!」

 先に軍を率いて街に戻っていた鈴々が元気いっぱいに駆け寄ってきた。

「二人とも遅かったから心配したのだ」
「ああ、すまなかった鈴々。お疲れさま」
「へへー。鈴々はまだまだ平気へっちゃらなのだー」

 にかっと無邪気な笑みを見せる鈴々。そんな表情を見ていると、俺もようやく安堵の息を漏らすことが出来た。
 が、ホッと出来たのもその一瞬だけ。

「おおっ! 天の遣いの兄さん!」
「あらま、ホント! 天の御遣い様!」
「この戦を勝てたのはあんたのおかげだよ!」

 戦に勝利し、お祭り騒ぎだった民衆達がこぞって俺たち三人を何重にも取り囲んでしまったのだ。

「関羽の姐さんの強さには驚いたよ!」
「張飛の嬢ちゃんの槍捌きも凄かったぜ!」

 街の住人たちが口々に讃えるのは、二人の武勇。
 そんな賞賛の声に、

「い、いや……それほどでも」

 愛紗は戸惑い、

「へっへー。鈴々は無敵なのだー♪」

 鈴々は褒められて有頂天になっていた。
 そんな二人の対照的なリアクションに微苦笑を浮かべていた俺だったが、

「む……?」

 俺たちを取り囲む人垣を割るようにして数人の青年達がこちらに近づこうとするのが見える。彼らは、酒家で住人たちのことをまとめていたリーダーたちだ。
 彼らは、「すまないが、天の御遣い様に話があるんだ」「悪い、道を開けてくれー」と人々に声を掛けて、多少強引ではあるが俺たちの前までやってくる。
 そんな彼らの様子に、愛紗たちも気づき、

「どうした? なにかまた問題でも?」

 彼らに話しかけた。

「あ、いやそうじゃないんだ。実は、こっちに帰ってきてから住人の代表者一同で話し合いをして決めたことがあって」
「決めたこと?」

 愛紗と話をしていたリーダー格の青年が、その視線を突然俺の方へと向けてくる。

「ああ……俺たちは出来れば、天の御遣いである貴方様に、この街の県令になって欲しいんだ!」
「は……? 県令?」

 ……確か県令と言えば、日本で言う所の知事みたいなモノのはず。
 とはいっても、この時代背景からすれば、今の知事よりもずっと独裁性は強いはずだ。街の行政は勿論、おそらくは街の軍備に関しても最高責任者となるのではなかったか。しかし、それを俺にと言われてもな……。

「ちょっと待ってくれ。俺はそのあたりの知識はあまり詳しくないが、そういった役職は、本来朝廷あたりで任命した役人がつく役職だろう? それを余所者の俺が勝手に就くのはまずいのではないか? そもそもこの街にだって県令はいるはずでは?」

 俺の疑問に、リーダーの横にいる青年が歯噛みしつつも答えてくれた。

「確かにこの街にも県令はいたんだ……でも、ヤツは黄巾党にこの街が襲われた時に、どさくさに紛れて逃げ出しちまったんだよ。俺たちを捨ててな!」

 その吐き捨てるような物言いには、やりきれない怒りが感じられる。
 ……そんなことがあったのか。
 そもそも黄巾党の起こりは、朝廷の圧政や役人の怠慢にあったらしいが……ここの役人も例に漏れなかったらしい。それは腹立たしい限りだ。

「むーっ! ヒドイ奴なのだ!」

 そんな俺の思いを代弁するように、鈴々が素直に怒りを表現してくれた。
 そして鈴々の言葉に同調して話を続ける青年達。

「そうだろう? だから俺たちはもう朝廷なんか信じない。この街は俺たちの手で守るんだ!」
「だけど俺たちだけで街を治めるなんて、多分出来ないと思うんだ……だからさ──」
「天の御遣い様に、この街を治めてもらいたいんだ」
「そ、そんな……」

 代表者達の期待の視線が。
 そして俺たちを取り囲んでいた住人たちの視線もまた、俺に集中していた。
 とはいえ、俺は剣を振るうことは出来ても、そんな政治家じみた事は……と戸惑っていたのだが、

「出陣前の貴方様の言葉や、戦場でも常に先頭に立って戦うその姿を見て、俺たちは思ったんだ! 貴方様なら信用出来る!」
「そうだそうだ! 俺たちはあんたになら付いていくぞーっ!」
「俺たちを導いてくれーっ!」

 住人たちの声は高まるばかり。
 とはいえ、こればかりは俺の一存で決められることではない。俺は愛紗と鈴々の二人に視線で問いかけた。すると、愛紗は迷うことなく頷き、鈴々もどこか嬉しそうにコクコクと頷いてしまう。

「……いいのか?」
「うん。県令が居なくなったってことは、街を守る軍隊も居なくなったって事だし。放っておけばまた黄巾党にこの街が襲われるかもしれないのだ」
「鈴々の言う通りです。それに、こうやって我々を認め、頼ってくれる人々を無視してここを後にするなんて、出来ないのではないですか?」
「む……」

 鈴々の言葉に納得し、愛紗の問いかけを受けて言葉に詰まってしまった。そこへ、

「お願いだ! 俺たちの街を一緒に守ってくれ! この街にはあんたと、関羽の姐さん、張飛の嬢ちゃんが必要なんだ!」
「俺たちは、あんたのためなら命を張れる! 俺たちの街を守るために命を懸けてくれたあんたたちにこの街の行く末を託したいんだよ!」

 街の住人たちの畳みかけるような声。
 これでは……

「……そこまで言われてしまっては……出ていけるはずがないじゃないか」
「じゃあ!?」

 覚悟を決めるしかない。

「分かった。俺に務まるかどうかはわからないが、県令をやらせてもらおう。その代わり、至らないことも多いと思う。だからその時はみんなの力を貸して欲しい」

 俺ははっきりと、この街の県令の職に就くことを宣言した。
 すると、ところどころから怒号にも近い歓迎の声が上がり出す。

「うおおっ! もちろんだぜ! こうなったらみんなで力を合わせて街を復興させよう! そしていつかこの街を大陸一の街にするんだ!」
「おうっ! 誰もが安心して住める街に!」

 歓喜の声は瞬く間に街全体に広がり、今日一番の盛り上がりを見せるのだった。







 そんな住人たちの様子を見ていた俺の左には鈴々が並び、

「頑張ろうね、お兄ちゃん♪」

 そして右隣には愛紗が並び、

「ご安心くださいご主人様。貴方様の背負うモノは我らも共に」

 二人とも俺に元気を与えてくれる。
 そうだ……俺にはこの二人がいるのだ。
 不安になることは何もない。

「ああ……よろしく頼む」

 こうして、異世界に迷い込んだ俺の激動の初日が終わりを告げるのだった。






















あとがき

 地味だったストーリーにようやく盛り上がる部分が……あったかなぁ?(ぇ
 未熟SS書きの仁野純弥です。
 恭也のこの世界での初陣となります今回。派手なアクションシーンを期待していた読者さんがいましたら……申し訳ない。今はこれが精一杯、なのですよ。
 まあ、これからも戦闘シーンに関しては、これ以上に上等なモノはないんで、まったりと呼んでいただけたら嬉しい限りです。
 では最後に。
 今回もこのSSを読んでくださった読者の皆様と、作品公開の場を与えてくださった氷瀬さんに最大級の感謝を。
 では〜。





黄巾党は何とか倒せたみたいだな。
美姫 「そして、県令になった恭也」
いよいよここからか〜。
美姫 「どうなっていくのかしらね〜」
とっても楽しみなのだ〜。
美姫 「次回も待っていますね〜」
待っています!



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