このSSはとらハ3のALLエンド後、高町恭也大学一年のお話です。クロスオーバーSSですので、違和感だらけですが、気にしたら負けです(爆














 鬼塚家の朝食は、昨晩に続き純和風のメニューだった。
 昨日の夕飯と同じく、無言。
 その中で恭也は特に気にすることもなく淡々と食事を続けていたのだが、もう一人の居候──南雲慶一郎はどうにも落ち着かないようだった。
 朝食の後、鬼塚家の玄関付近で顔を合わせた居候二人。そこで不意に慶一郎が恭也に話しかけた。

「なあ、恭也」
「なんですか、慶一郎さん?」
「君は、あの食事の雰囲気をどう思う? 家族の食卓としては、どうにも寂しく感じてしまうのは俺だけだろうか?」

 その慶一郎の言葉に、恭也はきょとんとした顔を見せる。

「え? 食事中に会話がないのはこの家での暗黙のルールとかじゃないんですか?」
「いや、さすがにそんなルールはないから」
「そうだったんですか……なるほど。だとすれば、少し静かすぎるかも知れません。俺の家は逆に賑やかすぎるくらいに会話はありましたから」
「そうだよな。食事はやっぱり楽しく賑やかでないとな!」

 恭也の言葉に満足したのか、慶一郎はうんうんと頷いて、靴を履いて学校へと向かう──が、その前にもう一度振り返り、

「そういえば。恭也は確か剣道部のコーチをするんだよな?」
「はい」
「学校にはいつ?」
「昼あたりに顔を出して、藤堂校長に挨拶をするつもりですが……」
「じゃあ、先に忠告しておいてやる」

 慶一郎は真剣な表情で、告げる。

「藤堂校長にスキを見せるな。油断はするなよ」












『とらいあんぐる・リアルバウト 黒の剣士、乱入』

四の太刀








 ──同日、昼休み。
 大門高校の屋上では、

「ハア……オレは日本一ままならん少年や──」

 金網にしがみついて校庭を見下ろす、赤銅色の肌をした野性味溢れる少年と、

「詩人ですねえ……」

 ベンチに腰掛け、呑気そうに空を眺めている童顔の美少年がいた。

「そのツッコミは間違えてるで、大作! オレの言うたことゼンゼン聞いてないやろ」

 野性的な少年──草g静馬は顔だけ振り向いて、童顔の美少年──神矢大作に言った。

「いいじゃないですか……それより、何がままならないんです?」
「何がて、昨日のアレに決まっとるやろ、涼子のピンチに颯爽登場したとこまでは良かったんや。そん時のオレは確実にヒーローやったはずや! ところが結果はどうや……後からノコノコやってきた南雲がヒーローで、オレは間抜けなピエロや。どう思う!?」

 昨晩の公園での出来事。
 この池袋では有名になりつつあるストリートファイトイベントがある。そしてそのイベントに参加するアマチュア格闘家の事を総称でバイパーと呼び、大体のバイパーはチームを組んでいる。
 そんなバイパーズの中でも悪名高い『ブラックチェンバー』というチームが、昨日、静馬のクラスメイトであり“天敵”でもある女生徒──御剣涼子の親友を誘拐した。理由は以前にブラックチェンバーのメンバーを叩き伏せた涼子への復讐である。まんまと罠にはまった涼子ではあったが親友をさらわれたことによる怒りで孤軍奮闘する。しかし、相手は仮にもバイパーと呼ばれる闘い慣れた連中。善戦空しく捕まり、窮地に追い詰められた。
 そこへ登場したのが、涼子の危機をかぎつけた静馬だった。静馬はその野性的な戦闘能力をいかんなく発揮し、ブラックチェンバーの面々を圧倒していった──のだが、ブラックチェンバーのリーダー、黒木が拳銃を取り出したことで、形勢は一気に逆転。
 だが、

「どう思うと言われても……静馬さんがヒーローだった頃、僕は南雲先生を呼びに行ってましたからね。戻ってきた時にはすっかりピエロになってましたよ」
「あ、あかん……最悪や」

 静馬は意気消沈してガックリと頭を垂れた。大作はそんな静馬の落ち込みように興味なさそうに自分の感想を言う。

「最悪? 逆に僕らはラッキーだったと思いますよ。素手で拳銃に勝てる人とも巡り会えたんですし。南雲先生もけっこう銃の扱いには慣れてたみたいですけど」
「それや!」

 静馬はガバッと顔を上げて、血走った目を大作に向けた。

「あの黒ずくめはなんやねんな!? この際南雲はどーでもええ! その前に出てきたアイツは誰やねん!?」
「それを僕に言われても……名前だけなら聞いてますけど」
「なんてヤツや?」
「聞いても静馬さんが知ってるとは思えませんけど? 高町恭也さんって名乗ってましたよ」

 静馬はその名前を聞いて、自分の記憶の中にあるかどうか、考え込む。
 しかし、どうやら思い至ることはなかったようだ。

「やっぱ知らんな」
「でしょう? 少なくとも、バイパーズでは見ない顔でしたし。ただ、見たところ年齢的には僕らとそう変わらないか、ちょっと年上くらいだったのに、拳銃を目の前にして随分と落ち着いてましたよね」
「落ち着いてるどころのタマか? 銃口向けられても平然と相手に近づくなんて正気の沙汰やないやろ? どう考えてもヤバイで」
「正気の沙汰云々はともかく、かなりの実力者だってのは間違いなさそうですよね。格闘技はやってないなんて言ってたけど、アレを見たら鵜呑みには出来ませんし」

 大作は、昨晩の恭也の答えは単に何か隠したいことがあるから嘘を付いたくらいに思っている。だが、それは大きな間違いだと言うことに気づくのは、もう少し後の話である。

「……まあ、もう会うこともないにーちゃんの話はもうええわ。考えるだけ時間の無駄やし」
「南雲先生のことをさておいてまで話題にしたのは静馬さんなのに」
「うっさいわ! とにかくオレにとっての問題はやっぱり南雲や! あいつも相当銃の扱いには慣れとったやろ? 絶対にプロや! アメリカ帰りっちゅうてたけど、IMFのエージェントなんか?」

 静馬の質問に、大作は懐から取り出したメモ帳を見ながら、答える。

「校長先生に聞いてみたんですけど、南雲先生が過去に諜報機関に所属していたことはないそうですよ。どこで銃の訓練を受けたのかは不明と言うことでした……けど、気になること言ってましたよ」
「気になること?」
「ええ。今朝、南雲先生の話を聞き終えて帰ろうとすると、全然関係のない話のように言ったんです。昨夜、裏で銃の密売をしていたとある暴力団の大親分の屋敷に、謎のお面を付けた男が一人で殴り込み、組長と三十人からのヤクザ全員を再起不能にしたって──」
「その謎の男って……」

 二人は探り合うように顔を見合わせたが、答えは一つだった。

「んなアホな! 一人でヤクザの組一つ丸ごと潰すやと? 今日び、マンガや小説の世界でもそんなムチャクチャな奴おれへんで」
「どうやら僕らの現実はマンガや小説を超えてるみたいですよ。なにしろ、その無敵の男が“クラスの担任”なんですから」

 恐ろしい事実を突きつけられた静馬は唖然とした表情になるが、すぐに我に返り、のほほんとしている大作にびしぃっと指を突きつける。

「お前はそれで面白いかも知らんが、オレの方はそうはいかん!」

 そして、動物園で無駄に元気のいい猿のごとく、屋上の安全対策の金網をよじ登り、上端部から身を乗り出して空目がけて叫びを上げる。

「風よ、雲よ、教えてくれ! なんでこのオレがピエロにならなあかんねーーーーーん!!」
「そういう運命なんですよ、きっと」

 静馬渾身の主張に、大作はまったくフォローする気のないコメントを口にした。そして、

「ま〜た飽きもせずにバカなことやってるわね。今度の芸は何? 欲求不満のサル?」

 静馬の姿を見事なまでに、皮肉を交えて表現する女生徒の声が二人の耳に入る。
 大門のケンカ番長、“天災”の野生児などの異名を持つ静馬をこんな口調でからかえる女子など、実はこの大門高校には一人しかいなかったりする。
 静馬と大作が同時に振り返った先──階段への出入り口前に立っていたのは、二人の予想通りの姿がそこにある。女子にしては高い身長とポニーテールがトレードマークの女子生徒、御剣涼子であった。





 二人は酷く驚いていた。
 何故なら涼子はこの日、1限から4限まで欠席していた。おそらく昨晩の出来事のショックのせいだと大作は見ていたし、それは事実でもあった。
 それでも涼子が昼休みの屋上に現れた理由。
 それは、静馬と大作の二人へのお礼だった。
 確かに、最終的に涼子たちの窮地を救ったのは恭也であり慶一郎ではあったのだが、それでも静馬たちとて涼子や涼子の親友であるひとみを助けようとしてくれたのは事実。そんな二人への義理を果たすために、わざわざ手作りの弁当を届けてくれたのである。
 普段から気が強く、静馬の天敵として存在する涼子のそんな心遣いに、静馬も大作も呆気にとられていたが、それでも“御剣涼子の手作り弁当”というレアなアイテムには飛びつくように食いついた。

「先に言っとくけど、味の保証はしないからね」
「“命”の保証はあるんやろな?」

 途中、こんなやりとりがあるあたりが、静馬と涼子の一筋縄ではいかない関係を言い表しているのかも知れないが。
 結局涼子は二人に弁当を渡した後、自分の、らしくない行為に気恥ずかしさを覚えて逃げるように屋上を後にするのだった。



 ちなみに余談ではあるが。
 涼子の弁当が、本当に味の保証がされていないシロモノだと知り、二人が愕然とするのは、この数分後であった。























 静馬たちに弁当を渡した涼子は、午後の授業を受けるつもりは毛頭無く、そのまま家に戻ろうと、昇降口を目指していた。
 昨晩のショック、というモノはもうほとんど無く、授業を受けられるくらいには精神的には安定していた。しかし、涼子は授業よりも先に考えなければならないことがあった。
 それは──昨晩、自分が『ブラックチェンバー』の連中に勝てなかった事。そして、どうすれば勝てる用になるのか、ということである。
 涼子の剣道の腕は相当のモノがある。少なくとも高校の女子剣道ではトップクラスと言っていいだろうし、こと一対一の戦いでは、大門最強の男とも言われる草g静馬にも遅れはとらない。しかし、昨日は10人もの男に囲まれ、しかも涼子の武器である木刀への対策として、トンファーなどで武装されていたこともあり、取り押さえられたのだ。
 その事実は、これまで剣道に打ち込み、そして我流ながらも実戦的な戦いを想定して鍛練を積んだ涼子にとって何よりの屈辱であり、

「……このままじゃ、ダメ……なのよね」

 そう気づかせる出来事でもあった。
 涼子にとっての剣は、剣道でいい成績をおさめるためのモノではなく、自らの正義を貫くためのモノなのである。だからこそ、それが十対一であっても、敵が武装していたとしても、敗北しては意味がないのだ。
 そう、例え相手が拳銃を所持していたとしても怯まず立ち向かえる──それが涼子の理想。
 そして、その理想は……静馬でも、そして慶一郎でもなく。

「……なんでだろう? 妙にあの男の人の事が気になる……」

 昨晩、突如涼子たちの前に現れ、混乱気味の場をおさめたあの青年の姿とだぶるのであった。
 涼子はそのことを考えながら、昇降口で靴を外履きに履き替え、校舎を後にしようとしたところで、不意に声をかけられる。

「あの……少しよろしいですか? 校長室の場所を教えて……」
「え……?」

 その声に反応し、振り返った涼子は硬直した。
 涼子に声をかけたのは誰あろう、昨日の青年──高町恭也であった。


























あとがき
 4話目の投稿となります。
 今回もやはりリアルバウトメインのお話となってしまいました。前回のあとがきで、恭也が大門高に顔を出す、と言っておきながら、結局最後にちょっとだけ、というなんとも中途半端な形になりましたが、次回こそは恭也がメインで動くと思いますので、ご容赦くださいませ。



うおぉぉぉ。いい所で次回だ〜!
美姫 「はいはい、喚かない。ちゃんと次回分も預かっているから」
お、おお! さすがです仁野さん。
って、何でお前が預かっているんだ? じ、仁野さんは無事なのか!?
美姫 「アンタ、失礼にも程があるわよ」
じょ、冗談だよ。いやいや、今回も大変面白かったです。
美姫 「本当に。何度読んでも、文章が綺麗なのよね」
うぅぅ。俺も頑張ります。
美姫 「はいはい、頑張ってね」
それじゃあ、すぐさま次回を。
美姫 「って、私も読むんだからね!」



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