『とらいあんぐるハート 〜猛き剣の閃記〜』















 恭也が靴紐を結び直している間に起きた出来事。
 ソレは端から見たら、『何やってるんだ!!』と思われるであろうモノだろう。
 そして本人たちからすれば、『うぅ、何やってるんだろ……自分たち』というようなモノであった。

「ねぇ、まだ見えてこないのぉ……?」
「もう、疲れたよぁ〜〜」
「……………………」

 『女子たちから投げ掛けられる、言葉と視線が痛い』――猛はそう思いつつも、彼女たちを励まそうとした。
 断っておくが、この状況は猛が作り出したモノではない。
 だが彼の持つ優しさ(この場合もその表現で良いのか疑問だが)が、そうさせたようだ。

「たぶん、もうすぐだよ!さっきから魔物も出なくなってきてるし、そろそろだと思うぜ!!」
「う、うぅん……そうだね!もう少しだよね!?」

 猛が何とか女子たちを元気づけようとする。
 それが分かっているからか、皆猛の気遣いで元気が出た振りをする。
 そこには、皆が気遣いながら支えあっていることが現れていた。

「あぁ!だから、もうちょっとだけガンバろうぜ!!――――って、今何か踏んだような……?」

 猛が踏んだ地面――ソコから奇妙な音を聞こえた。
 今まで踏んでいた地面とは、明らかに異なった音を発する地面。
 猛は恐る恐る足を上げようとする。すると、

「八岐くん!足を上げちゃダメ……!!」
「えっ?」

 麻衣としては珍しく大きな、それも焦った声でそう叫んだ。
 しかし時既に遅く、猛は疑問符と共に足を上げてしまった。
 刹那、皆の見ている風景が逆転する。

「な、何だ!?コレは一体――っ!?」
「……コレは、魔物用に仕掛けられた罠のようね。そして仕掛けたのは人間……」

 罠を発動させてしまった張本人である猛が、声を大にして叫ぶ。
 その問いかけに対して律儀に答える麻衣。
 その構図は先程罠に掛かった時に再現のよう。恭也と麻衣が入れ替わっているという差を覗けばだが。

「冷静に分析してる場合じゃ、ないでしょう!!……って、仕掛けたのは人間!?」
「あ、芹お姉ちゃんっ!!服が脱げそう!!」

 それぞれの足に蔦が巻きつき、重なるように宙吊りになる。
 その過程で互いに接触し合い、もつれ合う。
 そうなれば、互いに引っ張り合うことにもなる。故に先に明日香が言ったような状態が発生した。

「何っ!?それは大変だ〜〜!!」

 明日香の報告を聞いて、嬉しそうな悲鳴をあげる漢が一匹。
 『これは事故なんだ!不可抗力なんだ!!』――そう言いつつ、どのように動くかを検討する。
 今猛の顔は、緩みきって心中が透けて見えそうだった。

「……だからって、ワザと動いたら許さないわよ!!」

 猛の動きを先に封じる芹。それを受けて顔が元に戻る猛。
 もし一瞬でも不埒なことをしでかしたら、猛の意識は間違いなく三途の川へ旅立っていただろう。
 それは比喩ではなく現実に起こり得るということを、彼は身体で理解していた。

「…………」

 そんな様子を、やや離れた所から一つ影が見ていた。
 背の丈から判断して恐らく女性。
 それを発見した猛は、その人影に助けを求めようとした。

「引っかかったわね!魔物ども!!」

 しかし猛のその言葉がその少女に届くことはなかった。
 何故なら、彼女こそがこの罠を仕掛けた張本人だということが発覚したからだ。

「…………へ?ちょっと待ってくれ!?俺たちは人間だっ!!」
「えっ!?…………言われてみれば確かに…………でも、服装が変よね……?」
「えっ!?コレは…………」

 一旦納得しかけるものの、猛たちに格好を見て再び勘違いし出す少女。
 猛たちとしても、『俺たち、異世界から来たんです!!』と言って、通じるとは思っていない。
 そんなことを言ったところで、頭がおかしなやつらとして片付けられてしまうだけであろう。

 先程カグツチが自分たちの姿を見て妙な勘違いをしなかったのは、彼が元々コチラ側の人間だったからだ。
 つまりこの世界の人間として正しい反応は、彼と一緒にいた者たちのように勘違いをすること。
 だからこそ、目の前の少女に信じてもらうのは非常に困難だった。

「あたしたちは人間よ!!カグツチさんっていう人に、ココに行きなさいって言われたのよ!!」
「お父さんの名前!?――――さては、悪霊軍のスパイね!!」
「違っが〜〜う!!」

 芹の機転を利かせた台詞も、彼女の誤解を加速させる材料になってしまった。
 あんまりな事態に猛は絶叫する。
 宙吊りでなかったら、頭を掻き毟りたい位の苛立ち方だった。

「私は、カグツチとアマテラスの娘――サクヤ。そんな嘘には騙されないんだからっ!!
覚悟〜〜っ!!…………って、アレ?」

 猛たちに直接手を下そうとする少女。
 しかし、その行動は遂行されなかった。
 先ほどの猛と同様の反応をし、自らもまた逆さづりになってしまったからだ。

「きゃぁぁぁぁああ〜〜〜〜っ!?」
「……自分で仕掛けた罠に掛かってる」
「オイっ!!この辺は人通りがある方なのか?」

 自ら仕掛けた罠に引っかかる少女。それを呆れた目で見つめる芹。
 少女を説得して救助してもらおうとしていた猛。
 しかしソレが出来なくなったことを悟ると、別の人に助けを求めることを考えた。

「誰も通らないわよ!この辺りは、危ないから外出禁止なのよっ!!」
「なぁにぃぃ〜〜〜〜っ!?ソレじゃ、助けなんて来ないじゃないか〜〜っ!!」





 第三十二話 第二章 神になった者たち





「――――と、言うワケなんだ」
「色々と言いたいことはあるのだが、まずは……」
「……救助が先決のようだね」

 猛から説明を受けた恭也。
 半ば呆れながらソレを聞いていた恭也は、いつの間にか後ろにいた男に話を振る。
 馬に跨った男は、サクヤの父であるカグツチ。どうやら帰還途中だったらしい。

「……フゥ」

 溜め息を吐きながら、小太刀を抜刀する恭也。
 抜刀した勢いで、次々に猛たちに絡まっている蔦を切り裂いていく。
 猛たち全員の蔦を切り終えると、今度は少女の前に立ち、コレもまた切り裂いた。

「フ、フン!!お礼なんか、言わないわよっ!!」

 そんな様子を、彼女の父親であるカグツチは苦笑するしかなかった。
 この時に彼の気持ちを代弁するのならば、『
 あぁ、ウチの娘が人の話を聞かない子になってしまった……』と、いったところだろう。






 ∬

「ようこそ、ネノクニへ……私がこの村の長、アマテラスです」
「アマテラスは俺の妻だ。そして、サクヤは俺たちの娘だ」

 長く艶やかな髪の女性――アマテラスが自己紹介する。
 彼女の容姿は整っており、一言で言えば【大和撫子】。そんな表現が似合う女性。
 そしてカグツチが彼女は自分の妻であることを紹介し、サクヤとの続柄も説明する。

「…………ふんっ!!」

 先程のことが尾を引いているのだろう。
 まだ幼さが残る二人の娘はご機嫌斜めだった。
 もっとも、猛たちに言わせれば【逆ギレ】の一言で済んでしまうだろうが。

「それじゃあ、後の細かい説明は、アマテラスに聞いてくれ」
「あ、お父さん!行っちゃうの?」

 『それじゃあ……』と言って、その場を去ろうとするカグツチ。
 そしてそれを確認するサクヤ。
 そこにはまだ父親と話をしたいという、少女の言葉にならない願いが込められていた。

「あぁ。これから大事な軍議があるんだ……終わったら、ゆっくり話そうな?」
「うん……行ってらっしゃい、お父さん」

 カグツチの優しさが籠もった言葉で納得するサクヤ。
 渋々といった感じはあったものの、引き下がってくれた様子に、カグツチは内心でホッとする。
 そして今度はアマテラス――愛する妻の方で視線をやる。

「いってらっしゃい、貴方……」

 その言葉を受けて、カグツチはその場を離れていった。
 その姿は新婚したての夫婦のよう。
 正直、この光景を見た彼らの反応が見てみたいぐらい、万年新婚夫婦だった。


「それにしても……本当、懐かしいです。まるで、あの頃に戻ったよう……」
「あぁ、この制服ですか?」
「はい。あの人が――カグツチが私の村にやって来た、あの日のことを思い出して……」

 カグツチが軍議に出た後、恭也たちは自分らの状況を語っていった。
 気が付いたら、この世界【ネノクニ】にいたこと。
 消えてしまった友人たち――剛と琴乃のことなどを。

「それでは、今度はコチラの世界のことをお話ししましょう……」

 そして聞いた。この世界、【ネノクニ】のことを。
 アマテラスは数十年前、ネノクニと隣り合った世界【アシハラノクニ】から来たカグツチとその仲間と協力し、
 【ヨモツオオカミ】という悪霊軍の長と戦った。
 その闘いに勝利した後、カグツチとアマテラスの二人は神となり、二つの世界の調和を保ってきたとのこと。

「しかし……最近になって、再び悪霊が各地で暴れ始めたのです」
「それでカグツチさんたちが、闘っていたんですね?」
「その通りです。今は互角以上に闘えていますが……」
「長期戦は厳しい――っと」
「……はい。そして、悪霊を率いているのが【ヒミコ】という存在としか分かっていないのです」
「だから、怪しいモノにはピリピリしてたのよ」

 サクヤがそう締める。
 その場にいた面子は、大体の事情を理解した。
 そして不安に駆られた。『自分たちはとんでもない所に来てしまったのではないか』――と。

「お爺ちゃん、心配するだろうな……」
「お母さん……」

 今まで事情が分からなかったので、無我夢中にがんばってきた。
 しかし自分たちがいる場所が死後の世界――自分たちの世界でないときちんと理解した時、
 少女たちは思わず泣きたい衝動に駆られた。

「ふふ、心配しなくても大丈夫ですよ。貴方達をアシハラノクニへ帰す方法なら、ありますよ……」
『えっ!?』

 『もう、元の世界には戻れない』――そう思っていた時に、まさかの不意打ち。
 今にも泣きそうだった少女たちの顔に色が戻る。
 ソレは【喜びの色】。皆はアマテラスの言葉の続きを待った。

「【反魂の術】と呼ばれる方法を用いれば、貴方達をアシハラノクニに送り帰すことが可能です」
「良かった〜〜!!もう、戻れないんじゃないかと思ったわ〜〜!!」
「うん!……でも、お姉ちゃんと剛お兄ちゃんも一緒じゃないと……」
「……あぁ。二人を探して、一緒に帰るんだ」

 アマテラスの説明を受けて、ホッとする芹。
 芹同様ホッとするものの、行方不明の姉と兄的存在を心配する明日香。
 明日香の言葉に同意するように、猛が自らの意思を表す。

「そのお二人でしたら、恐らくここと同じような隠れ里に匿われていると思います。
見つかるまでは、どうぞここに滞在なさって下さい」
「済みません。何から何まで……」
「いえ、お気になさらずに……」

 アシハラノクニから来たメンバーの中での年長者である、恭也が代表して礼を述べる。
 見ず知らずの自分たちに、ここまで良くして貰っていること。
 どう考えても、戦時下での予期せぬ客にする対応を超えている――その感謝の意も込めて。

「ねぇ、恭也君!!」
「……それはもしかして、俺のことか?」

 普段年下からは、決して呼ばれることがない呼び名で呼ばれる恭也。
 呼びかけたサクヤは気にした様子はない。
 ……が、恭也と過ごしてきた他のメンバーは、下を向いたまま必死に笑いを堪えていた。

「うん!あのね、アシハラノクニって、ココとどう違うの?」
「どう違うと言われても――――共通点の方が少なくて、どこから説明したら良いものか……」

 先程と一転した態度に驚きつつも、サクヤからの問いに答える恭也。
 アシハラノクニ――自分たちの住んでいた環境と、ココ――ネノクニは違いが多すぎる。
 明らかに共通点の方が少ないため、恭也は素直にそう答えた。

「う〜〜ん……お父さんに聞いても、同じようなことを言うし……」

 過去において、アシハラノクニからネノクニに移り住んだカグツチ。
 現代文明から原始文明への転換は、かなり過酷だったであろう。
 その現代文明を知らない娘に、どう教えたら良いのか――それを悩んでいる彼の姿が思い浮かんだ。









 あとがき

 五人目のヒロイン、サクヤの登場でした〜

 オテンバ娘の登場で、一通りヒロインが登場したことになりました。まぁ、あくまで『一応』ですが(エッ?)
 そして『出雲物語』の最後のヒロインも登場(笑)
 コレで、『出雲物語』のヒロインで登場していないのは、あと一人。
 さて、彼女のの登場は…………?
 次回は、カグツチと恭也の対話を予定しております。

 それでは、失礼します〜




サクヤも登場し、アマテラスも登場。
美姫 「後残っているのは?」
それはさておき。
美姫 「いや、おくの、そこ?」
まあまあ。兎も角、いよいよ恭也たちが元の世界へと戻る方法が明らかに!?
美姫 「次回で明らかになるのか、どうかね」
一体、次回はどうなるんだろう。



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