『とらいあんぐるハート 〜猛き剣の閃記〜』




「二人とも、じっとっしててね?今、治療しちゃうから♪」

「えっ!?治療って……何も持ってないように見えるんだけど……」

「明日香……?」

「まぁまぁ♪見てればわかるよ!!」

出雲学園中庭――巨木との戦闘を終えた一行は、琴乃の意識が回復するのを見計らって、
剛と琴乃の治療をすることにした。
少し離れた所では、恭也が芹に治療してもらっているのが見える。

「えっ!?恭也さんの傷が治っていってる……!?」

「!?嘘みたい……」

『和玉』による治療。
ソレを初めて見た二人は、その『奇跡』とも言える光景に、ただ驚くばかりだった。
ソレは、他のメンバーが最初にその『奇跡』を目撃したのと同じ反応だった。





第二十八話 第一章 分かたれた運命





「はい、おしまいっ!!」

明日香による治療が終了した。
そこには、先程傷だらけになっていた剛と擦り傷があった琴乃の姿はなく、
擦り傷一つ存在しない二人の姿があった。

「こっちも終わり!!――――っと」

恭也の治療にあたっていた、芹の方も終了した。
恭也の治療が剛たちとほぼ同時に終わったのは、何も芹の治療の腕が悪かった訳ではない。
それだけ恭也の傷が深く、広範囲に渡っていた――それだけのことである。

「済まない、芹……」

あわや死にかけ……もとい、常人だったら死んでいてもおかしくない状態から復帰する恭也。
普段の彼ならば、『そういった奇跡に頼ってしまうと、心のどこかでソレをあてにしてしまう』とか言うのだが、
流石に今回ばかりはそんなことは言わなかった。

「どういたしまして!……それより、もう痛いところはない?」

「あぁ。おかげで完治した――――って何だ、その目は?」

芹の目つき――ソレは『ジト目』と呼ばれる目つき。
明らかに何かを言いたそうなその目つきは、かつてどこかで見たことがある。
恭也はソレに対して既視感があった。

「……男の子ってさ、結構痛いのを隠したりするじゃない?だから、もしかして――――って思ったのよ」

「そんなことはないぞ…………今回は」

最後の方が尻つぼみになっていく恭也。
既視感の正体――ソレは家族の、そして主治医の目つき。
女性という存在は、どこに行っても鋭い存在らしい。恭也はソレを再認識した。

「う〜〜ん、まぁ良いわ。ソレより剛くんと琴乃さんに、色々と説明しなくちゃ……」

そう言いながら、剛と琴乃の方に駆け寄っていく芹。
斯く斯くしかじか――というようにではないが、テンポの良いスピードでこれまでの状況を伝えていく。
剛と琴乃は、その話を真面目に聞いていく――所々で脱力しながら。

「……信じられない。けどさっきの巨木の後じゃ、どんなことでも真実に聞こえるな……」

「そう……ですね。もうさっきの騒動の後では、何があっても動じませんよね……」

二人とも苦笑しながらそう答える。
無理もない、アレだけ非常識な事態に遭遇したのだ。
仮に――『地球が崩壊しました!!』――と言われても、信じてしまうだろう。

『――』

「うん、それでね……って、ちょっと?その光は何!?」

『えっ!?』

説明を続ける芹に、訪れる動揺。
その原因は、剛と琴乃から発せられる光――燐光のようなモノ。
より正確に言えば、剛から発せられたその光に巻き込まれる、琴乃の姿だった。

「コ、コレは!?」

「えっ!えっ!?」

『――――』

ソレが二人の最後の言葉になった。
最後にそう言った二人は、言い終わるや否やその姿を消失させる。
さながら魔法のよう――二人の姿の消失は、残された皆の目にはそう映った。








「…………う、うぅん。ココは一体……?」

光に包まれた二人――剛と琴乃は、気が付くと見渡す限りの荒野にいた。
まだ上手く働かない頭を強引に回転させて、剛は状況を把握しようとする。
自分たちが今いる場所、そして再び気絶して傍らにいる琴乃。

「一難去って、また一難……といったところか……」

次々を巻き起こる非日常の出来事。
そんな事態が続けば、流石に幻想崇拝主義でない剛でも、『慣れてしまう』。
半ば諦めの境地に達した彼が次に起こした行動は――後ろを振り向くことだった。

「ほう、流石に殺気ぐらいは読めるか……」

振り向いた先にいたのは、赤毛の少年と黒色長髪の男。
先程の殺気は少年から放たれたモノであることは、先の発言と彼の目が雄弁に語っていた。
そして彼の持つモノ――古代日本で使われていたという直刀――ソレが彼の次に言うであろう台詞が想像できた。

「なら話ははやい!俺の言おうとしてることは分かるな?」

「……断る。君が何者かは知らないが、俺たちが刃を交える必要はないはずだ!」

赤毛の少年の真意を悟り、そしてソレを断る剛。
ココが何処で彼が何者かは関係ない。
例え誰が相手であっても、真剣を交えた闘いをする道理はない――剛はそう思った。

「フンッ!!そちらにはなくても、コチラにあるんでな!!」

そう言いながら、自分の持っていた剣のうち、一振りを剛の前に放る少年。
両刃の剣――今まで使っていた片刃の日本刀を模した木刀とは、異なった剣。
柄を握ってみる――何故だか手に吸い付くような既視感が、剛を襲った。

「それに、オマエが剣を取って闘わないのなら――――『その女』の命は保障しないぞ?」

「!?き、貴様――――っ!!」

その手に握っていた剣に力が入る。
次の瞬間、剛の身体はそこにはなかった。
剣を構えた少年と刃を構えた状態――ソレが彼、剛の現在の立ち位置だった。

「!?……少しはやるようだな!!」

「琴乃さんに手出しはさせないっ!!」

鬼神――あるいは般若。
鬼のような形相をした剛の、鬼気迫る迫力とその力。
そして一瞬にして間合いを詰めたその脚。その様相は、先程猛と仕合した彼の姿を思い起こさせた。

――キィン!――――キィンッ!!

打ち合うこと数合。
一見剛優勢の事態は、続いていた。
しかし少年の口元には笑みが浮かび、余裕すら感じられる。

「ハッハッハッ!!何だ、この程度かっ!!」

それまで押していた剛を、力のみの太刀で押し返す少年。
彼の――少年の太刀は『力の太刀』。技を必要とせず、必要に迫られることすらない程の力。
彼の力の前では、如何に火事場の馬鹿力を出した剛とて、敵うものではなかった。

「ック!!うわぁぁぁぁあっ!!」

圧倒的な『力』の差。ソレをまざまざと見せつけられた剛の首筋に、少年の剣が突きつけられる。
その瞬間、冷たいモノが背筋を伝う。そして頭が急激に冷える。
――『殺される』――ソレを悟った剛は、自分が冷や汗を流していることを感じた。

「腕試しをしてみれば、この程度か……お前、弱いな。
 そんなんじゃ『やめなさい、ミナカタ!』――――!?ヒミコ様っ!!」

死を覚悟する剛。その時、戦場に似合わない――よく澄んだ女性の声が少年の刃を止めた。
その声は、長髪の男の後方から――今までは男の影に隠れて見えなかった、『駕籠』から届いたモノだった。
花嫁のヴェールのようなモノに隠されているので顔は分からないが、剛はその女性の声に聞き覚えがあった。

「そうだ、その声……夢の中で…………」

「祈りが通じたのですね!?そうです、貴方をこの世界に導いたのは、私なのです!」

その返事は、剛の質問を肯定するモノだった。
剛の夢に出てきた女性――少女は『助け』を求めていた。
この世界を救うモノ――『救世主』として剛に呼びかけていたことになる。

「ここはネノクニ……人間と悪霊が住まう世界。
 そして我が名はヒミコ――――このネノクニの行く末を憂う者です」

「ネノクニ?この世界?一体、何のことなんだ?」

聞きなれない単語が登場し、混乱する剛。
目の前の女性から害意は感じない。
しかし先程襲われたこともあって、剛の頭の中は処理不能に陥った。

「混乱するのも無理はありません。ゆっくりと、順を追って説明いたします。ですが、その前に……」

「その前に……?」

「救世主様、貴方のお名前をお聞かせください……」

「大斗剛……俺の名前は、大斗剛だ……」








「ダメだっ!!二人とも、どこにもいないぞっ!!」

「こっちもダメ!!…………一体どこに行っちゃたのよ!?」

それぞれが組を作り、剛と琴乃を捜索する残されたメンバー。
二人が消えた出雲学園では、恭也たちが必死に捜索を行った。
結果は、先の猛と芹の台詞――つまり、振るわない結果が残された。

「これだけ探していないということは、恐らく既に出雲学園にはいない……ということか」

「もしかしたら、もう帰ってるかもしれないよ?」

「そうだな、その可能性も否定できない……どちらにせよ、今日はもう帰宅した方が良いだろう」

これまでの経緯を総括して、恭也はそう結論付けた。この状況は、『出雲物語』と酷似した状況である。
ならば、その作者――行方不明になっている琴乃の母親にして、作者である綾香に聞けば、何か手掛かりが掴める。
恭也はそう考えた上で、その結論を出した。

「とにかく……『親切で美人な保健教諭』なら、何か分かるかもしれない」

『…………確かに』

恭也が弾き出した結論――その理由を聞いた皆は、長い沈黙の後に納得した。
沈黙の意味は、それぞれが頭の中である事案を想像したため。
恐らく、保健室と理事長室での一件を思い出したのだろう。

「……そうだね。ここでじっとしてても、しょうがないし――――いったん、家に帰ってみるね!」

姉が行方不明になったせいだろうか。
いつもの快活さに陰が見える明日香は、それでも元気を振り絞ってそう言った。
そんな彼女の様子を目の当たりにした他の面子は、彼女の意を汲んで同意した。

「よっし!それじゃあ、さっさと帰ろうぜっ!!」

「……あぁ。既に日が落ちているから、はやく帰らないと六介さんたちが心配するしな」

沈んだ場を盛り上げるために、ワザと大きな声で皆に呼びかける猛。
ソレを受けて、彼なりに冗談を言う恭也。
段々と連携が取れてきている二人の姿を見て、皆の微笑が零れた。








「――――で、意気込んできたの良いけど……」

『ウォ〜〜ン!!ウォ〜〜〜〜ン!!』

既に夜の帳が落ちてしまった空に、野犬の群れの遠吠えが響き渡る。
校門まで来た恭也だちに降りかかった事態は、思った以上に深刻だった。
女子も含めたこのメンバーで山を下りることは――危険極まりないことだった。

「……仕方がない。今日は学校に留まって、明日の朝に帰るしかないな」

『え〜〜〜〜!?』

女子二人の――芹と明日香のブーイングが吹き荒れた。
無理もない。学校に留まるということは――今日は風呂に入れないことを意味する。
年頃の女子にとってソレは――何にも勝ることである。

「ぅぅ、しょうがない……明日帰ったらすぐにシャワー浴びるようにするわ……」

「……そうだね。それしかないっポイね……」

『かといって、野犬が犇く山を下りるのは……』――そう結論を出した女子二人組は、
しぶしぶながら出雲学園お泊りツアーに同意した。
そして、『せめてベッドがある所が良いっ!!』という考えの下に、保健室に陣を構えた。

「やっぱ、ベッドくらいはないとね〜〜!!」

「うん!!……って、アレ?恭也お兄ちゃん、どこに行くの?」

ベッドに腰掛けながら、明日香に話を振る芹。それに答えながら、ベッドの上で跳ね回る明日香。
ふと視線を入り口の方にやると、出て行こうとする恭也が――明日香はソレを発見すると、
恭也に自らの疑問を投げ掛けた。

「俺は外で寝る。また鼠が出ると危険だから、見張りも兼ねてな……」

ソレは間違っていないのだが、もう一つの真実を隠した説明だった。
――『女子と同室で寝るのは……』――そういった気恥ずかしさと倫理的な問題。
そのウェイトの方を重く考えた恭也は、即座に退散しようとした。

「オ、オイ!恭也っ!!俺も……」

「お前は保健室内での警戒を兼ねて、この部屋で寝てくれ――――頼んだぞ?」

ニヤリ!――そんな擬音が聞こえてきそうな笑みを残して去っていく。
流石は、義妹に『ワリと嘘つき』という称号を与えられた男。
その能力は、既に詐欺師並に研ぎ澄まされていた。

「ぅぅ、恭也のヤツ……」

「?どうしたの、猛?」

「いや!?何でもないよ!!」

まさか、芹たちにその理由を言うワケにもいかない猛は、仕方なしに現状を受け入れた。
そして思った――『いつか恭也に勝ってやるっ!!』――と。
しかし、ソレが剣術の腕前の話ではないのは、如何なモノであろうか。








「ここは……?」

ふと気が付くと、猛は草原――外に出ていた。
日の光が差さない所を見ると既に夜であり、月の光が幻想的な風景。
そして月明かりに照らされた場所に、一人の女性が佇んでいた。

「ここは私の精神世界です、猛様……」

「だ、誰……?」

「私の名前は『蔓』……先程猛様と闘っていた、樹木の精霊です」









あとがき

色々な意味で物語が動き出した、転換点となる回でした。

戦闘がひと段落して、シリアスパートもひと段落。
ようやくギャグが再開できる……(笑)
これで苦手な戦闘シーンもしばらくお預けに(違っ!!)

次回は、最後にちょっと登場した『蔓』が活躍(?)する予定です。


それでは今回は 、このあたりで失礼します〜




剛と琴乃だけが別の所へ!?
美姫 「いよいよ、物語は本格的に動き出すのね」
一体、どうなるのか。
美姫 「次回よ、次回」
ああ、分かってるって。
って、押すなーー!!



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