『とらいあんぐるハート 〜猛き剣の閃記〜』




「(猛、恭也さん……)」

遠ざかる二つの背中。
見る角度によっては重なってしまい、一つにも見えるその背中。
今それを遠くから眺める剛は、その背中に自分を投影していた。

「(何故だ?何であの二人から、なんとも言えない懐かしさを感じるんだ……?)」

先程の、『強酸霧』を目の当たりにしてから芽生えた感覚。猛だけなら納得できる。
同じ施設で育ち、それ以来ずっと親友だった――故に理解できる。だが恭也から、
まだ会ってから半年にも満たない恭也からソレを感じるのは――剛の思考は迷路に突入していった。

「(それに、二人から感じる懐かしさは何だか感じが違う気がする……)」

猛から感じる懐かしさは、自分の半身――自分の中の『光』を見たような気分。
それに対し恭也から感じるのは、自分を映す鏡――自分の『姿』を見せられているような気分になる。
言うなれば、内面的感覚と外見的感覚の異なった懐かしさ。剛はその奇妙な感覚に戸惑った。

「剛お兄ちゃん、大丈夫?何だか顔色が良くないけど……?」

「あ、あぁ……ちょっと考え事してただけだよ」

「?そうなの?」

「あぁ。それより明日香ちゃん、それに逢須さん――少し相談があるんだけど……」

怪訝な顔で剛の話に耳を傾ける少女たち。
それは剛の中で考えられた、恭也と猛の支援作戦。
如何にして二人の作戦の成功率を上げるか、ということに着目して練り上げたモノ。

「う〜ん……ちょっとむずかしそうだけど……」

「……良いわ。その作戦、やってみましょう!!」

やや思案顔で、芹に振る明日香。
ソレを受けて、力強く応える芹。
二人を見て、『やはり窮地の時は女性の方が強いな……』という考えが、剛の頭に浮かんだ。





第二十七話 第一章 血の路を切り開くモノ





「ハァァァァアッ!!セイッ!!」

彼が通った後には路が出来る。
持てる力を総動員し、後ろにいる少年のために路を開く。
文字通り、流血を伴った路――『血路』が徐々に伸びていく。

「(くそっ!!情けないな、俺って……)」

その彼が血路を開いた後に続くのは、この闘いにおいての切り札を持つ少年。
少年――猛が考えた作戦は最高のモノだった。
現状で考えうる限り、最高のモノ。唯一つ見落としがあったが……

「(相手だって追い詰められてるんだ――そうなれば、攻撃が今までよりも激しくなるのは当然じゃないか!)」

猛が見落としたモノ――ソレは『猛が巨木の枝に到達するまでの防御』。
彼の作戦を実行するためには、彼本人が琴乃の捕らえられている枝まで到達しなければならない。
そしてソコに行くまでは、何としてでも『無事』に辿り着かなければならかった。

『――!!――――!!――――!!』

現在巨木の枝は八本。そのうち一本は琴乃を捕らえているので、実質的には七本。
ソレら全ての攻撃を掻い潜って琴乃の下に行くには――悔しいかな、猛の腕では無理であった。
恭也は、ソレが分かっていたから先陣を切ることを申し出たのだ。

――ポタッ!――――ポタッ!!

一滴、また一滴と紅い色の雫が落ちていく。
恭也は別段、致命傷を負っているワケではない。
だが致命傷になりそうな攻撃を防ぎ・弾く過程で、その余波で傷付いているのだ。

「(……流石に、キツイかもしれない、な……)」

声にこそ出さないものの、やはり限界が近づいている恭也。
現在、琴乃が捕らえられている枝まで、距離にして半分まで来た所。
正直な話、『神速が使えれば……』と考えてしまうが……

「(……いや、俺は神速を使えば距離を詰められるが、猛がそこの取り残されてしまう。
 それでは意味がない……)」

御神の剣士である恭也は、奥義の歩法『神速』を使用することで通常の時間軸から開放された動きができる。
しかし、猛は御神の剣士ではない。そのため、恭也が単独で『神速』を用いても意味がないのだ。
故に、このままの状態での突入が余儀なくされる。

「(せめて、この枝の本数が後四本……いや三本少なければ、最後まで乗り切る自信が有るのだが……)」

無駄だとは思いつつも考えてしまう、『もしも……』の可能性。
彼の考えは決して誇張ではない。実際そこまでが彼の出来る範囲であり、そこから先が不可能な範囲である。
だからこそ理解できてしまう――このままでは、辿り着くことができない――と。

「(クッ!……だがここで諦める訳にはいかない!
 約束したんだ――何としてでも、猛を琴乃の下へ連れて行くと!!)」

気迫の篭った一撃を、襲い掛かってくる枝にぶつける恭也。
その鬼気迫る迫力は、周囲のモノたちプレッシャーを与えるモノ。
その重圧が巨木にも通じたかのように、枝たちの動きが一瞬だが硬直する。

「…………!」

「どうしたんっていうんだ……?」

先陣を切る恭也、それに続く猛。それぞれがその異常な事態を見て唖然とする。
恭也の気迫が通じたわけではない。
ならば一体何が――その答えは、恭也を相手にしていた枝のうちの、三本が向かっていった先にあった。

「え〜〜い!!」

飛来する矢――本来の弓道のスタイルを無視したその連射は、枝たちの目を引きつけるだけではなく、
その存在そのものすら引き寄せていた。
恭也と猛は矢が飛んできた方角――自分らの後方を見やる。

「来たわね〜〜!!ココからはわたし『たち』の腕の見せ所ねっ!!」

「あぁ。頼りにしてるよ、逢須さん!」

そこにいたのは、その矢を放った明日香ではなく、二人の友人の姿があった。
一人は芹。グローブ越しに握った両の手が、気合が十分であることを示している。
そして、もう一人は剛。まだ痛々しい傷跡が残るその身体で、木刀を正眼に構えている。

「明日香ちゃんが引きつけてくれた枝は三本!私たちが一本ずつ相手をすれば……」

「その分、恭也さんたちへの負担は小さくなる……済まない、こんなことに協力させてしまって……」

先程剛が芹と明日香に相談した内容――それは、
『恭也と猛にかかる負担を少しでも減らすために、自分たちの方へ枝をひきつけておく』というモノ。
最初に明日香の連射で枝を攻撃し、自分たちの方へ引きつけた後に、三人で相手をする。

「えいっ!やぁっ!!」

「いっけぇ〜〜っ!!」

「今度は、さっきのようにはいかないぞ!!」

矢の連射、拳の連打――そして、木刀による三連撃。
本来『面・胴・突き』として放つその連撃は、
今はその特性――『連撃』としての特性を生かして枝を攻撃していた。

「(皆――――ありがとう……)」

三人の心遣いが随所の傷口に染みる――彼らの想いを受け取った恭也の偽らざる気持ちだった。
――自分だけで何とかするつもりだった。それだけの力はあるつもりだった――
だから、どこかしら皆の存在を軽視したのだろう――しかしソレはただの言い訳だった。

「(目標まで約五十メートル――――)猛!準備は良いかっ!!」

彼が――猛の言う『方法』が自分の考えたモノと同じならば、もうすぐその『業』の勢力範囲になる――
恭也はその確認の意味も込めてそう尋ねた。
返ってくる言葉が、自分の考えたモノと変わらないことを確信して。

「あぁ!準備オッケーだっ!!」

意思を確認しながらも距離は縮まる。
一メートル、また一メートルと歩みは進む。支援してくれる友人たちの『応援』を背に受けて。
残り十メートル――猛の勢力範囲に到達した。

――カチッ!

納刀された刀の鍔が、彼の――猛の親指によって迫り上げられる。
コノ『業』は剣速が増せば増す程、その威力と到達範囲が伸びる。
よって、抜刀した状態からの方が、この場合はより適している。

「――――――――」

精神は水面に浮かんだ葉のように――それでいて猛る魂を一つの『業』に打ち込む。
かつて先人たちが――彼の『兄』たちが使った『業』が具現化する。
鞘走りが始まり、それに連れて剣圧が生じ始める。

――
――――
――――――

「(枝との距離、五メートル!!)恭也っ!!ちゃんと避けろよっ!!――――『孤閃』っ!!」

猛の合図と共に、恭也と猛の位置が――前後が逆転する。
瞬間、一筋の光が戦場を駆けていった。
その剣圧から生じた、風――竜巻のようになったソレを引き連れて。

『――!!――――!!』

光が琴乃を捕らえた枝を通り過ぎていった。
数瞬後に、音もなく切断される枝。
その見事な切り口は、あたかも一つに芸術品のようだった。

「琴乃っ!!」

納刀するとや否や、落ちてくる琴乃に――その落下するであろう地点に駆け出す猛。
――『このままでは間に合わない!』――猛はそう判断すると、左手に持っていた日本刀を放り出す。
そして加速――それでもギリギリ琴乃の落下に間に合うかどうか、際どいタイミングだった。

「コレなら、どうだ――――っ!!」

野球選手のスライディングの、ソレを思い起こさせる突撃。
あと一歩届かないと踏んだ、猛の必死さが伝わってくるかのような動作。
その甲斐があったのか、落下してきた琴乃は猛の両の手にスッポリ収まった。

「おっしゃぁ!!……あとは、はやく逃げないとっ!!」

一瞬勝利に酔いしれそうになる猛だったが、
後方から飛ばされる重圧――血に染まった服を纏っている青年から放たれるプレッシャーによって、
現状を思い出した。というより、思い出させられた。

「(頼む……もう少しだけ持ってくれ!俺の身体っ!!)」

一歩間違えれば――いや、一歩間違えないでも倒れそうな恭也。
彼の着ている制服には、既に赤い――『紅い』色彩が新たに加わっていた。
しかし彼は倒れない――倒れられない。自らの信念、『皆を守る』というモノのために。

「恭也――――っ!!コッチはもう大丈夫だっ!!」

後方に退避した猛からの声が聞こえる。
準備は完了した。
『皆で』開いた活路の――最終段階の準備が。

「……今度こそ、でかいのをお見舞いするとしよう――『強酸霧』!!」

枯れる、枯れる――ソレが彼らの目の前で繰り広げられた光景だった。
先程の闘いで既に余力を失っていた巨木は、どんどんその身を縮ませていく。
酸の霧が止む――その時にソコにあったのは、一本の木。久しぶりに見た『通常サイズの木』だった。










あとがき

一章のボス戦が終了しました〜

これにて出雲学園のイベントは、終了……しません(笑)
このままハッピーエンドになれば良いんですが、そうもいかない裏事情(マテ)
次回は、恭也たちにとって運命の分岐点が控えています。
さて、どうなるんでしょう?(マテ)


それでは今回は 、このあたりで失礼します〜




連続投稿ありがと〜。
美姫 「まずは、無事に倒せたわね」
ああ。琴乃も無事に救出できたし。良かった、良かった。
美姫 「さーて、次回はどうなっているのかしらね」
早速…。
美姫 「次回へ、レッツゴー」



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