『とらいあんぐるハート 〜猛き剣の閃記〜』




「北河さん、今日は遅かったですね……なるほど」

「理由、説明しなくても大丈夫みたいですね」

「大方、渦中の人物の世話で遅くなった……という所では?」

「正解です」

あまり感情を込めたしゃべり方をしない彼女にしては珍しく、少しふざけたようなしゃべり方だ。

「恭也、おまえも屋上でいつも昼飯食べてるのか?」

一人会話に取り残された猛が、俺に尋ねてきた。

「ああ。俺が学食に行くと、何故かいつも混雑しているんだ。
 だから、自然に穴場である屋上に流れ着いたんだ」

『…………』

何故か北河さんと猛の、二人ともが黙ってしまった。





第十三話 一日目……屋上にて昼食を……





「……それで、噂の猛がここにいるのは、『避難のため』で良いんだな?」

噂……それは、今出雲学園中に満ちているモノだ。
なんでも、猛のクラスに来た転入生の女子は、実は猛の婚約者だということだそうだ。
そして猛は、そんなことを忘れて学園の白鳥姉妹に手を出す、人類の敵だという噂だ。

「(……まあ、後半は噂に尾ひれが付いたモノだろうが……)」

「そうなんだよ〜。俺が気絶している間に、噂だけが一人歩きしちまって……」

猛は知らないだろうが、今回の噂にはある程度下地が無ければ成立しなかった。
『八岐猛は白鳥姉妹と仲が良い』という下地が無ければ……

「それで、恭也はいつもここで昼飯を食べてたのか……北河と一緒に♪」

猛なりの仕返しなのだろうか。
俺と北河さんのことを、からかおうとしているようだ。
・・・だが、まだまだ修行が足りないな。

「いや、実はまだいるんだが……」

「なにぃ〜!?誰だ、誰なんだ!!」

俺たちをからかうつもりだった猛は、俺からの思わぬ発言で、逆に驚くことになった。

「北河さん、『アイツ』も呼んで昼飯にしましょう」

「……ええ、そうしましょう」

特に打ち合わせをしたわけではないが、俺の発言の意図を読み取った北河さんは、話を合わせてきた。
流石は文武両道の学生会長。非常に優秀な人物なようだ。
……才能の使い方に問題があるような気もするが……

「恭也っ!!一体どんなヤツなんだ!?やっぱり、その娘も可愛い子なのか!?」

「……その意見の出所が非常に気になるが、とても頭の良い『ヤツ』だぞ」

「なにぃ〜!!恭也っ!!お前、北河だけじゃあきたらず、他の女の子にも手を出してたのか!?」

……今俺の目の前にいる人物は誰だ?
こちらから仕掛けたとはいえ、今の猛は彼の親友のようになっていた。

「(これ以上は見ていられんな……)猛、今のお前は”あの”鈴木君のようだぞ」

「ぐはっ!!」

今回はギャグではないのに、壊れかけてしまった猛。
これ以上彼のイメージを壊さないためにも、俺は一撃で止めを刺した。

「……スマン、恭也。あまりに理不尽なことがあったから、ストレスが溜まってたみたいだ」

その結果、猛は”アッチ側”から帰還し、正気に戻すことに成功した。
ちなみに、俺が猛の親友である鈴木君を知っているのは、彼が有名人だからである。
……出雲学園のパパラッチとしてだが……

「ああ。では猛も落ち着いたことですし、”アイツ”を呼びましょうか?」

「……そうですね。八岐くんをからかうのは、これくらいにしておきましょう」

「お前ら、からかってたのか!?」

猛は、からかわれことに気付いていなかった。

「(そんな調子だから、自分の学園内での立場が分かっていないのだろうが……)」

赤星にも似た所があった。
周りからの、自分に対する評価を知らない。
これは致命的である。

「ヤタロー」

北河さんがそう呼ぶと、一羽の烏が北河さんの肩に舞い降りてきた。
俺とは顔馴染みである、北河さんの友達『ヤタロー』だ。

「それじゃあ、メンツも揃ったことですし、お昼にしましょう」

猛をからかうことに時間を割いてしまったせいで、あまり時間がなくなってしまった。

「へっ?もしかしてコイツが、さっきからお前たちが言っていた”アイツ”なのか!?」

「ああ、そうだ。コイツは『ヤタロー』。北河さんの友達だ」

「クワァ、クワァ〜」

俺が紹介すると、ヤタローは猛に向かって言葉を投げ掛けた。

「……スマン。俺はカラス語を知らないから、通訳してくれないか?」

しかし当然のことながら、猛にはヤタローの言葉は理解できなかった。

「……『ヨロシク』だって」

「わかるのか!?」

「……なんとなくだけど」

猛と北河さんは、そんなやり取りをしていた。



「そんで、二人……じゃなかった、二人とヤタローはいつも一緒に昼飯を食べてるのか?」

「ああ。特に示し合わせたわけではないのだが、いつの間にかこうなっていたんだ」

昼メシを食べ始めてからしばらくして、猛が俺たちに疑問を投げ掛けてきた。

「しかし、俺たちのことをからかっている場合か?今のお前は、学園中の男子の敵だぞ?」

「うぅっ!?そ、それは……」

俺は猛に、忘れかけていた事実を突き付けてやった。

「俺たち三年にも噂が届くということは、既に学園中に噂が満ちているということだ。
 ……猛……そのせいで琴乃さんの機嫌が悪くて、夕飯が作ってもらえなかったら俺は……」

「『俺は……』の後は、何なんだ!?頼む!!殺さないでくれ!!」

「……何を言ってるんだ?俺がお前を殺すなんてこと……すると思うか?」

「殺気を出しながら言っても、説得力ねぇ〜〜〜!?」

猛は、この世の終わりのような顔付きになっていた。

「……安心しろ、猛」

そんな猛に、俺は最上級の笑顔で対応した。
……最上級の”営業スマイル”でだったが……

「半殺しで済ませてやる……」

「オイオイ、シャレになってね〜ぞ!!」

「心配するな……シャレではなく、”本気”だからな……」

「…………」

猛は気の毒なほど、落ち込んでしまった。
すっかり生気がなくなり、文字通り色を失ってしまった。

「……高町先輩、八岐くんに少しアドバイスしても良いですか?」

「?構わないが……」

あまりにも猛が哀れに見えてきたのだろう。
北河さんは俺に断りを入れると、猛の方に向き直って口を開いた。

「(……やはり、彼女は優しい人だな)」

「八岐くん、一つだけアドバイスがあるわ……」

「な、何だっ!?この噂を何とかできるのか!?」

猛は藁にも縋る勢いで、北河さんの話に飛びついてきた。

「……後ろから刺されないように気を付けることね……」

「それはアドバイスじゃないじゃないか〜〜〜!!」

……訂正。
彼女は、誰に対しても厳しい学生会長だったようだ。



「何にせよ、後で二人……いや三人か。
 琴乃さんと明日香ちゃん、あとその転入生にもフォローをしておけよ」

北河さんの口撃から復活した猛に、俺は現状打開の唯一の策を授けた。

「トホホ……何で俺が、こんなことに……」

「諦めろ、それがお前の人生なんだ」

すっかり哀愁を漂わせた猛に、俺はそう言うことしか出来なかった。

「ったく。何で恭也は、こういった噂が立たないんだ?」

「……猛。俺とはお前とでは、顔の構造が明らかに違うぞ。
 お前は美形だが、俺は標準かそれ以下だ。
 噂が立つことなんて、ありえないだろうが」

猛がいつものように俺を半眼で見ているが、この際無視させてもらおう。

「……高町先輩、それ本気で言ってるんですか?」

「……北河。信じられないだろうが、コイツは本気で言ってるんだ。
 だから、”鈍い”だとか”鈍感”だとかは、言わないでやってくれ……」

猛は半ば諦めたような態度で、北河さんは信じられないモノを見たかのような表情で俺を見ていた。
……もっとも、その内容までは分からないが……

「ともかく、放課後になったら明日香ちゃんの練習を見に行くんだろ?
 なら、それまでに琴乃さんと転入生のフォローをしておかないと、面倒くさいことになるぞ?」

「……そうだな。わかった、なんとかやってみるよ!」

「最悪の場合、俺もフォローしてやるから、安心して『逝って』こい」

「……お前って、時々意地が悪くなるから油断できないんだよな」

猛はそう言い残すと、屋上を後にした。










あとがき

屋上での一幕でした。

今回はなぜかギャグが主体に……
最近ギャグの構想ばかり練ってたせいでしょうか?
書いていて、猛に心底同情してしまうぐらいに、猛の扱いが悲惨になってしまいました。

そして、自分のことを棚に上げて猛に説教する恭也。
これが恭也視点の物語でなかったら、どれぐらいツッコまれていたか、不明ですね(笑)。

次回は、いよいよ”アノ”人が登場します。


それでは今回は 、このあたりで失礼します。





散々な目にあった猛のお話。
美姫 「ある意味、自業自得の部分もあるけれどね」
まあ、そう言ってやるなって。
にしても、次回登場のあの人というのが気になる所だな。
美姫 「一体、誰が登場するのかしらね」
次回も楽しみに待っていますね。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る