『とらいあんぐるハート 〜猛き剣の閃記〜』




俺は今、海鳴から離れた土地に一人立っている。
父さんの手紙にあった、『塔馬六介』さんを訪ねるためだ。
先日電話した時に、電話口では何なので、直接会う約束を取り付けた。
丁度GWが近かったので、それを利用して……
そして、現在に至る。




第一話 そして少年は旅に出た




「……確か、日本家屋の家だと言っていたな。『塔馬』、『塔馬』と……ふむ、ここで間違いないようだ」

自分の家も日本家屋としてはそれなりだと思っていたが、ここはそれ以上だな。
まさか、ここまで大きな日本家屋が現存していたとは。


「あの〜?俺の家に何か用ですか?」

後ろを見ると、俺に話しかける少年がいた。

「済みません、今日『塔馬六介』さんにお会いする約束をした、高町恭也と申します。
 『塔馬六介』さんはご在宅でしょうか?」

「あ〜っ!聞いてます。今日、人が訪ねてくるって。じいちゃんなら部屋にいますよ。
 案内しますから、どうぞ、入って下さい」

「お邪魔します」

そう言って、俺は門をくぐった。それにしてもこの少年、かなり腕が立つな。
ちょっとした動作など見る限り、少なくとも赤星以上だ。
ということは、『塔馬六介』さんは、少なくともこの少年以上だということか。
今日は別件で来たというのに、剣士としての本能が触発される。



「この部屋です。じいちゃん、お客様をお連れしたぞ!」

そういうと少年は部屋の襖を開けた。

「うむ、ご苦労。君が高町君か。さあ、入りなさい……猛、お前はもう下がって良いぞ」

「了〜解!」

そう言うと少年は部屋から出て行った。
この人が『塔馬六介』さんか。確かに父さんの言ったことに間違いはなかった。
この人は達人だ。こうして対峙しているだけで、それが分かるほどに。

「……さて、実際に会ってて話すのは、初めてじゃな。儂は塔馬六介じゃ」

「自分は高町恭也と申します。本日は、塔馬さんにお伺したいことがあって参りました」

「若いのに立派な人のようじゃな、君は。それで、聞きたいこととは何のことかね?」

俺は一呼吸置いてから言った。

「……塔馬さんは、十九年前に不破士郎という人と一緒に、一人の赤ん坊を拾いませんでしたか?」

「……何故、君がそれを知っているのかね?」

一瞬間を置いて、塔馬さんがそう尋ねた。

「……自分がその赤ん坊だからです」

「なんと!!君があの時の赤ん坊なのか!!」

そして俺は、これまで自分が士郎の子供として育ち、最近までこのことを知らなかったと話した。



「……そうか、士郎は亡くなったのか……」

塔馬さんは目を閉じて、昔を思い出しているようだった。

「不破士郎という奴は常識では測れない男じゃった。最初に我が家を訪れた時、
 いきなり「俺と剣で勝負しろ!そんで俺が勝ったら、飯を食わせろ!」じゃったからな……」

父さん、あなたという人は……ここでも、そんなことをしていたのか……

「父に代わって謝罪します……申し訳ありませんでした」

「いやいや、良いんじゃよ。あれはあれで、良い思い出じゃからな。
 それにしても驚きじゃな。あの士郎が、こんなに立派な少年を育てるとは」

「いえ、自分は、父を反面教師にしたので、こうなったのです。
 剣以外のことは、ほとんど父に教わった記憶がないので……」

そう、父さんに直接教わったのは、剣のことだけ。
あと、父さんを見て思ったのは、日常生活では父さんのまねを絶対にしないということだ。
そのおかげで、父さんの子供でありながら、『礼儀正しい子供』という評価を各地で受けるまでになった。

「かっかっかっ!そうか、反面教師か。なるほどのう」

塔馬さんは、そう言ってひとしきり笑った後、真面目な顔で俺に尋ねてきた。

「さて、本題に戻ろうか。君は自分に出生を探しに来たということで間違いないね?」

「はい……それで、俺が父さんの手に渡った時に一緒にいた、塔馬さんなら何かご存知かと思いまして……」

「……残念じゃが、ワシにもそれ以上のことは分からん。
 士郎が君を引き取ってから、ワシなりにこの土地を調べたんじゃが、手掛かりはなかったんじゃ」

「……そうですか……」

「力になれなくて、すまんのう」

「いえ、すぐに分かるとは、思っていませんでしたから」

そう、これは想定内のこと。もし知っていたら、もうけだという位の話だ。



「それで、これからどうするのかね?」

「しばらくこの土地に留まって、地道に調べていくつもりです。
 ……もっとも、地元である塔馬さんが分からなかったことが、自分に分かるかは不明ですけど……」

「そうか……ところでもう宿は取ってあるのかね?」

「いえ、まだです。それに、自分は野宿に慣れていますので、もし宿が取れなくても、なんとかなります」

「そういうわけにも、いかんじゃろう。それに、君はどの位この地の留まるつもりかね?」

「とりあえず、このGW中です。あとは、夏休みなどの長期休暇を利用しようと思っています」

「そうか……しかし、それじゃと色々面倒なことになりそうじゃの」

「……覚悟の上です。高校はきちんと卒業すると、母と約束をしてしまっているので」

「ふ〜む。何か上手い方法は無いかのう……」

そう言うと、塔馬さんは考え込んでしまった。

確かに効率が悪い上に、交通費や滞在費は馬鹿にならない。
しかし、学生である自分にはこれが精一杯だ。


「そうじゃ!!」

俺が考えている間に、塔馬さんは、何やら閃いたらしい。
何故だろう?あれは何か良くないことを考えた時の、うちの母親の顔にそっくりな気がするのは。

「つまり、高校に通いながら、ここでの調査ができれば良いんじゃな?」

「そうですが……それが何か?」

俺の答えを聞いた塔馬さんは、次の瞬間とんでもないことを言った。

「それなら、我が家に下宿しなさい。そして、ここから、この近所にある高校に通うのじゃ」

「…………」

一瞬、何を言われたか、分からなかった。

「この近所にある高校、『出雲学園』は、儂が理事長を務めたことも有り、顔が利く。
 そこなら、ある程度便宜を図れるしの。すぐにでも転校が可能じゃ」

どうして、父さんの知り合いは、非常識な人が多いのだろうか。
ティオレさんと良い勝負ができるんじゃないのか?

とりあえず、正気に戻って反論しなくては。

「待って下さい!そこまでしていただく訳にはいきません。いくら何でも、ご迷惑をかけ過ぎです!」

「なにを言っておるんじゃ。子供は遠慮などせんで良いんじゃ。それに、うちには猛がおるからのう。 
 もう一人増えたところで、大して変わらん。わしは賑やかな方が好きなんじゃ」

冷静に考えてみよう。確かに、魅力的な案だ。
この土地での拠点が構えられて、拠点を中心に調べられる。
それに、ずっと野宿なんかしていたら、不審人物として警察の世話になることは、避けられない。

「本当に良いのですか?自分で言うのも何ですが、会って間もない奴を下宿させるなど……」

「構わんよ。長いこと生きてきたから、人を見る目だけは確かじゃと思う。
 君は信用に足る人間だと思うからのう」

「しかしっ!」

「それに、わしも剣を嗜むからのう。君みたいな強者と手合わせしてみたいと思うのは、いかんか?」

そう言われたら、何も言えなくなってしまうな。俺自身、この人と手合わせしたい。
……いや、だめだと言われても、頼み込んでしまう可能性が高い程だ。

「……その顔は、了承ととっても構わんね?」

「……ご迷惑でなければ、ぜひお願いします」

剣士としてか欲求か、それとも自分の出生が知りたいという欲求か。
どちらが勝ったのかは分からないが、その魅力的な提案に反対する自分はいなかった。

「良しっ!話は決まったな。それでは、今日から君の家族になる奴らを紹介しよう」

そう言うと、塔馬さんは入り口の襖を勢い良く開けた。

バタバタバタッ!

襖を開けると、さっきの少年と二人の少女がなだれ込んできた。

「イテテテ。爺ちゃん、何するんだよっ!!」

「馬鹿もん!人の会話を盗み聞きする奴が悪い!」

「だって気になるじゃないかよ……じいちゃんに人が訪ねてくるなんて……」

塔馬さんは、さっきの少年を叱り続ける。

「それに、何じゃ。琴乃ちゃんや明日香ちゃんまで」

「済みません、六介さん。つい気になってしまって……」

「えへへ……ごめんなさ〜い」

「全く……」

どうやら、先に答えたのが『琴乃』さんで、後に謝ったのが『明日香』さんのようだ。

「まあ、丁度良いから紹介しよう。高町君、『コレ』がさっき少し話した『猛』。
 そちら女の子たちが、『琴乃』ちゃんと『明日香』ちゃんじゃ。
 二人は姉妹で、うちに住んでいる訳ではないんじゃが、
 食事を作りに来てもらっていたりするから、まあ『家族』も同然じゃ」

「じいちゃん!『コレ』はないだろうが!!」

「直して欲しければ、日頃の態度を改めろ」

「ったく!」

そう言うと、『猛』少年は立ち上がった。

「俺は『八岐猛』……あんたは、『高町恭也』さんで合ってるよな?」

「ああ。これからしばらくの間、下宿させてもらうことになったのでよろしく頼む。
 ……あと、俺のことは呼び捨てで構わない」

「ん、そうか?じゃあ、俺のことも『猛』で良いよ」

「わかった。これからよろしく、『猛』」

俺と猛の挨拶が済むと、さっきの『明日香』さんが、一歩前に出た。

「えっと〜、わたしは『白鳥明日香』って言います。『白鳥』は、お姉ちゃんもいるから、名前で呼んで下さい。
 ……ところで高町さんは、何年生なんですか?」

「自分は三年生です……あの、それが何か?」

「ふ〜ん。私より 二つ先輩さんだね。じゃあ、『恭也お兄ちゃん』って呼ぶね!」

「え、ええ……それで構いません。では自分は、『明日香さん』と呼べば良いですか?」

「う〜ん、なんか硬いなあ〜!それに、敬語じゃなくて良いよ。わたしの方が年下なんだから」

「……なら、『明日香ちゃん』でどうだ?」

「うん!それで良いよ!これからよろしくね、『恭也お兄ちゃん』!」

元気の良い娘だな。なのはが大きくなったら、この娘のようになるのかもしれないな。
そんなことを考えていると、『琴乃』さんがこちらを向いていた。

「はじめまして、『白鳥琴乃』です。よろしくお願いします……あの、先程は済みませんでした。
 聞き耳を立てるような真似をして……」

「いえ、気にしないで下さい。誰だって、家に不審な奴が訪ねてきたら、警戒しますよ」

「でも……」

「それなら今度、美味い飯を食べさせて下さい。さっき、塔馬さんに聞いたのですが、
 あなた方が、この家で料理を作って下さるんですよね?楽しみにしていますよ」

「!?わ、 わかりました!!腕によりをかけて作りますので、楽しみしていて下さいね!!」

琴乃さんは、少し赤くなりながら答えた。

「……もしかして、具合が悪いのですか?お顔が赤いですが?」

「い、いえっ!!何でもありません!大丈夫です!!」

「なら、良いのですが……」

そんな俺たちの会話の向こうでは、何やら猛と明日香ちゃんが、声を潜めて話していた。

「お兄ちゃん、恭也お兄ちゃんって……」

「ああ、かなり鈍いらしいな……」

何か激しく馬鹿にされたような気がするが、気のせいだろう。というか、気のせいにしておこう。

「さて、改めて自己紹介しよう。儂は、『塔馬六介』。この家の家主じゃ。
 儂も名前で呼んでもらって構わん……儂も君のことは『恭也君』と呼ぶことにするからの」

「わかりました。では、『六介さん』で良いですね?」

「ああ。これからよろしく頼むの、『恭也君』!」











あとがき

第一話終了です。

IZUMO2の時間軸に行くには、もうしばらくかかります。

まだまだ、キャラクターを表現し切れていない部分が多いですが、
精進しますので、よろしくお願いします。


塔馬家へと下宿することになった恭也。
美姫 「更に、転校も」
この地で恭也を待っているものとは。
美姫 「運命のその時はゆっくりと近づいていく!?」
次回も非常に楽しみ〜。
美姫 「本当よね〜。次回も待っていますね〜」
待っています。



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