おいおい、一体どういうことだよ!? なんでこの世界にはないはずの魔力が発生するわ、目の前にはデカいネズミがいるわ、何が起こってるんだか……、なんてことを考えてる場合じゃないわな。取り敢えず止めないと。

何のために!? 他人を護るため!? いや、俺にそんな気持ちがあるとは思えない。『護る』ってうのは、俺なんかが容易くできることじゃない。

俺は止めたいだけ。魔法がただの危険なものでしかないなんてのは嫌だから。魔法は……俺にとって……。はぁ、こんなふうに甘い考え方してるから、駄目なんだよな、俺……。

 

 

 

 

 

リリカルなのは――力と心の探究者――

第三話『“蓬莱式(ほうらいしき)”発動!』

始まります

 

 

 

 

ポケットから紙の札を取りだす。それはただの札にあらず。力が込められているのだ!!

 

法域(ファユゥ)符』

 

 竜馬が投げた紙札から力が発せられる。それは竜馬とネズミの怪物、そして周辺の空間を包んでいく。こうして周囲の空間を切り離し、被害を出さないようにすることができるのだ。

ここでなら思う存分力を振るえる!

 

「さて、次はこいつが何者か、調べないとな」

 

 何者なのかもわからないのではどうしょうもない。仕留めることができたとしても、取り返しのつかないことになったとしたら?

 

「(やっちゃあいけないことをやったら、その罪を受け入れるじゃ済まないもんな)」

 

足もとに山吹色の八角形の魔方陣を浮かび上がらせる。そして、手にも紫色をした魔方陣を浮かび上がさせて、ネズミを覗き見るかのようにする。

 

『我に知らしめよ、彼の物の実体を、顕魔(けんま)(きょう)

 

「こいつは……、何かがネズミを取り込んだのか!? 」

 

竜馬が知りえた情報は、どう考えてもこの世界にあるものではない。となると考えられるのは……

 

「誰かが持ち込んだか? でもいったい何のために?」

 

 さすがに会ったこともない人間の意図なんてわかりようもない。とりあえず、相手は動物に取りついた器物。ならば魔力ダメージを与えて封印してしまえばいい。

 そう考えている隙に巨大ネズミが掛ってくる。しかし、この程度、竜馬にとっては隙でも何でもない。

 

発足(はつあし)

 

 その場を一瞬で離れ距離を取る。それを逃がさんとばかりに、ネズミの尻尾が唸りをあげて竜馬に迫り、それを横飛びでかわす。しかし、それでおさまらず、すぐさま連撃で襲いかかってくる。

 尻尾の先は尖っており、コンクリートの地面に次々に穴を穿っていく。

 

「あんなのまともにくらったら、風穴開けられるな」

 

 尻尾に貫かれる自分を想像して一瞬冷や汗を掻いてしまう。

 

「ま、当たってやる気はないがな」

 

 そう言うと、竜馬は持っていたバッグに手を伸ばし、中から、三つに分割された棒を取り出す。そしてそれを連結させ、一本の長棍にする。

 

これこそが竜馬の相棒たる武器、『三牙棍(さんがこん)

 

 迫る尻尾を三牙棍(さんがこん)で打ち払い、そのまま接近する。ネズミは大きく、鋭い前歯を突き立てようと迫る。その前歯は、間違いなく竜馬の体を噛み千切るくらい容易だろう。しかし、その動きは竜馬にしてみれば遅すぎだ。『発足(はつあし)』を発動し、瞬間的に飛び上がり、ネズミの真上を取る。

 

「ハァッ!!」

 

 そのまま三神棍を振り下ろし、大打撃を与える。ネズミは怯むも、すぐさま体勢を立て直し、迫ってくる。

 

「へぇ、頑丈だな!? それともやっぱりただの打撃じゃ駄目なのか!?」

 

 ネズミの予想外のタフさに感心しながらも、向かってくることに安堵する。もし逃げられでもしたらそれこそ厄介だからだ。

竜馬はネズミの懐で対処すべく、三神棍を三つに分割し、太いワイヤーで繋がれた連節棍に切り替える。

 

煉装身(れんそうしん)

 

続けて竜馬の体が一瞬緑色のオーラに包まれる。そしてその状態から『流水(りゅうすい)()』を繰り出す。

 両端を持てば大体小太刀サイズになった三神棍で、さらに懐で流れるように動き周られたのでは、巨体のネズミでは追い切れない。加えて、今の竜馬の身体能力は大幅に高まっている。例えサイズに差があろうと、ダメージは確実に溜められていく。おまけに三神棍にも煉気(れんき)を通している。

 

「いつまでも遊んでる場合じゃないよな……」

 

 だいぶダメージを受けたところを見計らい、その場を跳び、距離を取る。ネズミはそれを追おうとするがそれこそが狙い。

 三神棍を中央から分割し、片方を地面に突き立て、もう片方を刀剣のように構える。

 

烈光刃(れっこうじん)

 

 棍を軸にして、白色の光の刃が形成される。それを居合のように構え、『発足(はつあし)』で急接近、ネズミの眼前でさらに震脚、『(はがね)(あし)』を繰り出す。力強い踏み込みからの、居合の斬撃がネズミの身体を薙ぎ、すれ違う。ネズミは苦しみながらに地に倒れもがく。

 

火焔(かえん)(ぎょく)

 

 追い打ちとばかりに炎の玉を練り上げ放つ。ただの火の玉と思うなかれ。火属性の炎と爆発の力が込められたそれは、ネズミを爆炎に包みこんでゆく。

 さすがに効いたのか立ち上がろうとしながらも、もがくことしかできない。

 

 竜馬はおもむろに近づき、ネズミの前で両手をかざす。手から黒い光が立ち上り、ネズミを包んでいく。

 

封印(フェンイン)

 

 宝石からの青い光も黒い光へと変わっていき、宝石本体を包む。やがて光が収まっていくと、そこには青い菱形の宝石と、それに取りつかれていた小さなネズミの姿が。

 

「ふぅ、終わったか」

 

 気を失っていたネズミはすぐさま目を覚ましたかと思うと、竜馬に驚いたのかすぐさま逃げだしていく。

 

「やれやれ、っと、こいつが原因か」

 

 手に取って見ると、とても小さく、一見綺麗な宝石にしか見えない。

 

「へえ〜、綺麗だな〜これ。こんな小さいのにあんなことができるのか」

 

 思わず見入ってしまったが、あの出来事が起きた以上油断はできない。とりあえず一度家に戻り、できるだけ調べてみたほうがよいだろう。

 

「ん!? 」

 

 竜馬は振り返る、目に映らないがその視線の先では別の魔力が。すでに終わったのか力が収まっていくのを感じる。

 

「まだあったのか!? どうする? 調べるか……。もしかしたら持ち主かも……」

 

 奇しくもそこでは、先ほどまで自分が世話になっている一家の末妹が戦っていたことを、竜馬は知らない。

 

 

 

現場に向かったものの、そこには警察が来ていたので引き揚げるしかなかった。家に戻ってから再び『顕魔(けんま)(きょう)』を使ってみるが……、

 

「う〜ん、駄目だ! さっぱりわかんね〜」

 

 早くもお手上げだった。しかしそれは無理もない。竜馬に魔法科学の細かい技術のノウハウはほとんどないのだから。ましてや相手は……。

 

「とはいえ、どうしたもんかな。異世界の物となるとこの世界でどうこう出来るものじゃないし、しばらくは俺が預かるしかないよな」

 

 次元世界の管理者が来るかこないか、もう後は成り行きに任せるしかないだろう。

 その判断が吉と出るか凶と出るか……

 

 

 

 

 

翌朝、高町家に向かい、道場の前に立つと中から異常な殺気が。

 訝しむも、いつまでもそのままというわけにはいかないので道場の戸をあけると……。

 

「うおっ!?」

 

 目の前に何かが迫り、慌ててつかむとそれは……、飛針……?

 

「ふむ。いい反応だな。それでは、始めようか」

 

 妙に殺気を立ち昇らせている恭也がスタンバイしていた。

 

「何を……、アノー、ワタクシナニカワルイコトヲイタシマシタデショウカ?」

 

 文句を言いかけたが、恭也の尋常ではない殺気になぜか片言になってしまう。殺気に充てられ、萎縮していた美由希が竜馬にそっと耳打ちする。

 

「昨日の朝のことを根に持ってるんですよ〜」

「昨日の朝って……、あっ!!」

 

 思い出されるのは昨日のなのはとのやり取り。

 

「マジに受け取ってんのあの人!? 翠屋に行った時はそんなそぶり見せなかったのに……」

「さすがに仕事中は自重してたみたいで。すみません。恭ちゃんは真性のシスコンで……、あべし!」

「黙れ! 愚昧!!」

 

 余計な事を言い出した義妹を排除したシスコン魔神は構えをとる。

 

「なのはの将来のために……お前には消えてもらおう」

「そんなに俺を変態にしたいんですか! つーか、すげー物騒なこと言いますね!」

「家族のためなら……、俺はいくらでも血にまみれよう……、覚悟!!」

「どんな決意のセリフも、この状況じゃあ間抜けに聞こえますよ!」

「その家族への思いを……私にも……、ガクッ!」

 

 力尽きた美由希の言葉を皮切りに今、さわやかな朝の元、人外大戦が勃発した!

 

 

 

 

 

 

「あれ!? 誰か来てるの!?」

「うん。朝霧竜馬さんって言ってね、時々道場に来るの」

「へぇ〜、って何だかすごい騒がしくなってるみたいだけど? ていうか、なんかもう戦場みたいな音がしてるんだけど」

「ホントだ! どうしたんだろう?」

 

 

 

「なのはをたぶらかした罪は重いぞ! 地獄へ落ちるがいい!!」

「いい加減目ェ覚ませぇ! このどシスコン!!」

「お、お願い……、私を巻き込まないで……」

 

 

 

「い、一体中で何が……」

「もうお兄ちゃんも竜馬さんも!」

 

 なのはが道場の戸に手を掛けたところで静かになった。そして戸を開けると……

 

「「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ」」

「うきゅう〜〜〜(最早屍のようだ)」

 

 

 

 二人の人外が互いに得物を持ちながら向かい合い、今まさに、最後の一撃を放とうとしている光景が広がっていた。

 ついでに近くで巻き込まれた哀れな子羊の屍が転がっている。(ついでかよ)

 道場は二人の闘いの余波か、壁には無数の傷や破砕の跡、飛針が刺さっている。

 

「もう! 二人とも何をしてるんですか!?」

「止めるな、なのは! 俺はお前の兄として、お前の敵を葬らねばならんのだ!!」

「俺は今、生き残るのに必死なんだ! そしてこの舞い上がった兄馬鹿に灸を据えなきゃいけない!止めるな!!」

 

「「いざ……、尋常に……」」

 

二人とも駄目―――!!!

「「むぅ……」」

「二人ともそこに正座してください!!」

 

 腰に手を掛けながら怒るその姿は、可愛らしくも迫力があるのでおとなしく従う。

 

「もう! 何があったかわからないけど限度ってものがあります!! 道場だってこんなにして」

「「すまん……」」

「うぅ〜、妹にまでないがしろにされるんだね、私……」

 

 高町家最高権力者の前では、人外魔神たちも形無しである。

 そして、ここでも忘れられがちなMTさん。がんばれ君の明日はあっちだ。(どっちだ?)

 

 

 

「へぇ〜、ユーノ君ね〜、こいつを飼う事にしたわけか」

「えへへ〜、かわいいでしょ!?」

 

お説教が終わり、朝食中に新しい家族、フェレットのユーノの紹介を受ける。可愛らしい容姿に竜馬も思わずなでながら柔和な表情になる。

 

「けがをしていたところを助けたわけか。良い子だななのはは」

 

 子供だからなのか、この()自身のものなのか、その純粋な優しさには眩しい物を感じる。どうかその気持ちは無くさないでいてほしいと思うのだった。自分とは違って……。

 

 

 

 登校途中、なのはは何かを思い出したのか、竜馬と美由希に尋ねてくる。

「ねぇ、竜馬さんたちは将来ってどうするの!?」

「何でまたそんな事を聞くんだ!?」

「昨日ね、授業で将来の話が出てきて、それでアリサちゃんたちと将来何になりたいのかって話になっちゃって。竜馬さんたちならどうかなって思って」

「聖祥じゃあもうそんな話が出るのか? さすが進学校」

「いや、真剣に考えろって言う訳じゃないと思いますよ。そうだね〜、私はまだ漠然としているけど、護衛の仕事とか、警察関係の仕事もあるからね〜」

「少なくとも料理関係は絶対無理だな!!」

「そんなはっきり言わないで下さいよ! でも反論できないのが悔しい〜」

 

 竜馬からの容赦ない評価に美由希はへこんでしまうが、無理もないだろう。美由希の殺人料理の腕は周知の事実。客は一般市民どころか、毒物を欲しがるマフィアくらいのものだろう。

 

「竜馬さんは?」

「俺か? まあ俺はスポーツインストラクターとか、道場を開きたいな、とか考えたりしてるけど」

「竜馬さん、運動神経いいですし、教え方も恭ちゃんみたいに上手いですもんね」

 

 鍛錬を通して、竜馬も自分が教わった事を美由希に教えたりしているので、美由希としても合ってるのではと思う。

 

「そうですか〜、いいな〜、アリサちゃんもすずかちゃんも将来が固まっていて、竜馬さんも目標があるんだもんな〜。私、何ができるんだろう?」

「なのは……」

 

 自分には何も目標が見えていないことに、どこか自分だけという疎外感を感じ始めるなのは。

 そんななのはに美由希はかつて、まだ竜馬が高町家と出会う前の頃を見ているようで声を掛けづらくなってしまう。

 

「あせって出来る事を見つけても、それがやりたいことになるってわけじゃないぞ」

「え!?」

 

 竜馬の指摘に目を丸くするなのは。

 

「どんなに出来ることがあったって、その気も無いのに嫌々やってもつらいだけだろうさ。それが相手のためになるものなら、相手だって辛くなる」

「……」

 

竜馬の言っている事は決して間違っているわけではないだろう。その気もないのにただ義務感で事を為せば、最後にはつらさしか残らない。それどころか、最後までやりきれるかどうかもわからない。

 

「だから、そうあせらずにやりたい事を見つけるんだ。やりたいことか出来ることにつながれば、きっと自分にとっても相手にとっても良いことになるだろうな」

「……うん!」

 

 竜馬の言ったことに何か思うところがあるのか、しばし考え、迎えのバスが来るころには寂しさのある顔は見えなくなっていた。

 逆にバスが見えなくなるころには、竜馬の顔に寂しさが見えるようになっていた。

 

「なに都合の良いことしか言ってないんだろうな俺。やりたいことが人の役に立たないどころか、役立てることすら許されないこともあるっていうのに……。もっとも俺自身に役立てようっていう気がないしな」

 

 それは己の持つ力に関する自嘲なのか、それとも己の心の持ちように対する侮蔑なのか、つぶやきが聞こえた美由希にはその真意はわからない。

 

 

 

 学校も終え、バイトがない今日は街に出ていた。骨董品屋に行って何か掘り出しものでも物色しようかと思った矢先……、

 

「ん!? またか!?」

 

 再び感じるのはあの謎の宝石の魔力。その発信源へと向かう。走った先で光が輝きを増している光景が見えてくる。

 

「チィッ、『法域(ファユゥ)符』」

 

 人目に付く前に結界で覆い隠し、戦闘フィールドを形成する。

 輝きが収まり姿を現したのは黒く、巨大な鳥の姿が。

 

「今度は鳥か。取りつかれたのはスズメか!? それともカラスか!?」

 

 何しろ以前のネズミから考えるに、取りつかれたものは姿を大きく、そして化け物じみた姿に変えてしまうようだ。一体どの鳥が取りつかれたのか想像がつかない。

 

「空を飛びまわられて、結界の外に出られでもしたら厄介だな。『法域(ファユゥ)符』を追加だ!!」

 

 さらに数枚『法域(ファユゥ)符』を追加し、範囲を広げる。これならある程度飛び回られても大丈夫だ。

 怪鳥は竜馬を標的として定めたのか、見据えた後飛び上がり、大きく羽ばたせ、硬質化した羽を飛ばしてくる。

 無数に、そして放射状に飛んでくる羽は、竜馬を射抜かんと襲いかかってくる。しかしそれは、

 

(しゅ)護法(ごほう)(じゅん)

 

 黄色に輝く八角形の盾によって塞がれる。

 防御の力は『土』に属する。その力を発現させれば術者を守る盾が現れる。

 続けて、相手の跡を追うべく、『風』の力の一つを使う。

 

飛翔(フェイシャン)

 

 グングン上昇し、鳥と同じ高さまで来る。

 怪鳥は自分のところまできた竜馬を煩わしく思ったのか、翼をはためかせ、自身が持つ鋭利な嘴で串刺しにしようと向かってくる。

 竜馬も迎撃するべく向かう。寸前で急旋回して嘴を紙一重でかわし、怪鳥の背後に着く。巨体であるためいまだ向きを変えられていない取りに反撃のすきを与えないべく、飛びながら更なる技を使う。

 

(そら)(あし)

 

 空を蹴る動作を行い、一瞬にして鳥の懐に入る。それは『飛ぶ』ではなく『跳ぶ』。そして拳に炎を灯し、拳打を放つ。

 

烈火衝(れっかしょう)

 

重い一撃を受け、鳥は苦しむ声をあげなら地へと落ちていく。

 

縛水鎖(ばくすいさ)

 

 青い光を放つ水の鎖が竜馬のまわりに発生した八角形の魔法陣から発生し、怪鳥の体をからめ捕る

 怪鳥は唸り声をあげながら鎖を引きちぎろうとするも、柔軟性のあるそれはたやすくは切れない。

 

「『雷電(らいでん)』・・・・・いや、念のためあれで行くか」

 

封印するにも相手の魔力は膨大だ。それを削らなければ術を掛けても振り切られてしまうかもしれない。一気に削るには大技を仕掛けるのみ!

 かざした右手に左手を添えて、紫色に輝く魔法陣を発生させる。そこに紫電が収束され、膨張していく。

蓬莱式(ほうらいしき)』の金属性の力、『雷』と『砲』の術が今ここに!

 

砲雷撃(ほうらいげき)

 

 収束された紫電が砲撃のごとく放たれ、怪鳥に直撃する。

 

「〜〜〜〜〜!!!」

 

 声にならない奇声をあげながら鳥は昏倒する。体の周りではまだ電気が帯電している。

 掌をかざし、封印を行い、宝石を取りだすと鳥を元に戻る。目の前には雀が。

 

「オイオイ……、こんな小さい奴があんなデカブツになってたのか……」

 手の平に収まった宝石を眺め、この宝石のすごさと、恐ろしさを改めて感じ取る。とりあえず雀を猫とかにいたずらされないよう、安全な場所に移し、その場を後にしようとすると……、

 

「くぅ〜ん」

「ん!? 久遠!」

 那美のペット兼友達の狐、久遠だ。

 久遠はどこかおぼつかない足取りで、竜馬へと近づいて行く。

 

「どうした久遠? 一人か? 神崎はどうした?」

「なみ……いえに……いる」

 

 その声色はいつもの舌ったらずに加え、どこか悲しみが宿っている。

 

「そうか!? ならついでだし、送ってってやるよ」

 

 そう言って竜馬は歩を、那美の住まい、さざなみ寮へと向かう。

 このときの竜馬は、もっと久遠の様子を気にかけていたら勘付いただろう。さざなみ寮で何が起きているということに……。

 

 

 

 さざなみ寮に着いた竜馬を那美が出迎える。それはそれは沈痛な表情で……。

 

「……何があった……?」

「いいえ、何もありませんよ」

 

 そんなことを言われても、それを真に受けるほど竜馬は能天気ではない。これは絶対何かあった! なにしろここは海鳴の伏魔伝とすら言われる場所。何もないと考える方が無理だろう。

 

「竜馬さん、あがっていきませんか!?」

「いや、いいよ……」

「そう言わずに……。夕飯(ゆうはん)をどうぞ……」

 

 そう言ったあと一度言葉を切る。

 そして、続けて言葉を、いや、宣告を口にする。

 哀れみの涙を流しながら……。

 

 

 

「ごちそうを作ってくれてますよ……、愛さんと美由希さんが……」

 

 

 

 その言葉を聞いた後、竜馬は那美に背を向け駆け出そうとする。

一刻もその場を離れなければ!生き残るために!

ここで那美を置いて行くことを薄情だと思うなかれ。竜馬にはわかっているのだ。那美は大丈夫だということを。そしてこういう場合、おもに生贄として差し出されるのは、自分と恭也と、ここ、さざなみ寮の全自動雑用マッスィーン、もとい、管理人であるということに!

しかし、悲しいかな。古今東西、自分だけ助かろうという浅ましい行いは、決して叶えられることはないということを。

 

 

 

「待つんだっ! 竜馬君!!!」

「ぬおっ!?」

 

 

 

 竜馬の腰に飛び着き、前のめりに地面に倒したのは、件の管理人、槙原耕介だ。

 

「こ、耕介さん!? 放して! 見逃してください!!」

「ふっふっふ、竜馬く〜〜〜ん、自分だけ逃げようったってそうはいかないよ〜〜〜」

 

 もはや耕介の顔は逝っている人間のそれだった。思わず恐怖が走ってしまうのは無理もない。

 

「なら耕介さん、一緒に逃げましょう! とにかくこの場を離れないと……」

「竜馬君……、俺の帰る場所はここなんだよ。逃げるなんてわけにはいかないんだよ!」

「……」

 

 確かにその通りだ。管理人が寮生をほっぽり出してトンズラ、なんてわけにはいかない。

 

「そもそも、逃げ切れるわけないじゃないか!」

「それもそうっすね……」

 

 竜馬の頭によぎるはさざなみ寮の裏のボスとその後継者の黒い笑みを浮かべている顔が。

 

 

「でも! なんで! どうして! 二人がそろって料理するなんてことに!? 二人の合作料理なんて、もはや兵器ですよ! 兵器!!」

「……夕べ、なんでも動物病院の近所でガス管の爆発があったらしくてね……、」

「(ガス管の爆発? そう言えば夕べの別の宝石の魔力を感じたのも、結構近かったな。まさか……)」

 

 思考の海へ入ろうとするが、続けられる耕介の絶望の告知はそれを許さない。

 

「病院の方も滅茶苦茶になってね、後片付けを俺たちも手伝ったんだが……、愛さんがそのお礼にとご馳走を作ってくれることになってね……」

「……断ることはできなかったんですか……?」

「竜馬君! 君は……愛さんが優しく微笑みながら「ありがとうございます、お礼をさせてくださいね」なんていう感謝の気持ちを踏みにじってでも、断るなんて真似ができるとでもいうのかい!!」

「無理です! そんなことをしたら、胸が痛くなりますよ!!」

「そうだろう!そうだろう!」

 

 愛が感謝の気持ちを込めようとしてくれているのに、それを断って悲しげな顔にさせてしまったら、まず間違いなく罪悪感が湧くだろう。

 

「それじゃあ、美由希はなんで……」

「その原因は……君だよ! 竜馬君」

「俺っすか!?」

「なんでも今朝、将来の話とかで、美由希ちゃんに料理は駄目とかそういう話をしたそうじゃないか!」

「まさかそれで……、なんてこった……」

 

 今日ほど己の失言を呪った日はないだろう。ああ、時を戻せるならあの時の戻って自分を止めたい。

 

「お〜い耕介〜、ってお前ら、何ホモってるんだ!?」

 

 寮から出てきたのは、この寮の影のボスこと仁村真雪と、彼女の影響を受けまくったリスティ槙原の御登場だ! 竜馬の逃げ場はますます塞がった。

 

「まぁいいけどさ。生贄V3が来たことだし、さっさと中へ入れてやりな、生贄1号」

「生贄1号……」

「生贄V3って俺ですか!? てことは2号は恭也さん……って、んなこと冷静に考えてる場合じゃねぇ〜〜〜!!!」

 

 耕介は竜馬の足を取り、そのまま寮の中へと引きずっていく。普通なら竜馬の方が腕力は上。地面にへばりつこうとしながら必死に抵抗するが、一人でも多くの道連れを欲する耕介の力の前には無駄な努力だった。

 そのあとを追って那美も寮の中へと入っていく。もし二人の魂が冥府へ旅立ちかけたら、すぐにでも戻せるように。

 

「あ、あ、あ……、いやだーーーーー、だれかーーーーおたすけーーーーーーっ!!!

 

 恥も外聞もなく絶叫をあげるが、それは夕焼けに染まる空へと消え、ばたんと閉められた寮のドアによって封じ込められた。

 合掌。

 

 

 

 

 


・名前:朝霧竜馬

・年齢:17歳

・誕生日:11月24日

・血液型:AB

・好きなもの:ファンタジーなもの(魔法を含む)、骨董品、甘い物(特に翠屋のスィーツは大好物)

・嫌いなもの:物事を否定的にしか捉えないこと

・趣味:修行、菓子作り、読書

・コンプレックス:自分の本心や自分の楽観的な考え方

・性格:年上や目上には丁寧に話すが、同年代や年下には砕けて話す。しかし、興奮したり、ツッコミを入れるときは口調が荒くなる。

   魔法に対しては過去の出来事で絶望していた自分に光を与えてくれたものとして、好意的に考えている。同時に、危険な側面であることも理解しているため、否定してくることに対しても、仕方がないと割り切っている。

   自分に対して自信を持てず、自分の行いが偽善ではないかと悩んでしまったりするので、自分より相手の意見が正しいと考えている。

 

・魔力光:山吹色

 

・バトルスタイル:距離を選ばないオールラウンダ型だが、一番得意なのは素手による格闘戦。武器を持った相手には『三牙棍(さんがこん)』を振るう。

   

・武器:連結式三節棍『三牙棍(さんがこん)

   三つに分割すればヌンチャクのように振り回したり、両端を持てば小太刀と同等のサイズの片手棍として使用可能。

   一つにつなげば一本の長棍。

   半分から分割して、二本、或いは一本の片手棍として使用。竜馬の場合、『烈光刃(れっこうじん)』を使って刀剣のように使用したりする。

   簡易ではあるが、デバイスであるため、煉気(れんき)を付与する際、煉気(れんき)付与の術式を掛ける手間が省ける。(普通の武器だと、金属性に含まれる、武器への煉気(れんき)付与の術式を込めなければいけない)

 

・使用魔法:『蓬莱式(ほうらいしき)

 竜馬の使うミッド式ともベルカ式とも違う魔王体系。魔法陣の形は八角形。

 人に内包する『霊力』と世界に広がる『魔力』を合一し『煉気(れんき)』にする。そうすることで術者は、この世の現象を八つの属性に分けられた、現象を呼び寄せ、発動させることができる。

 『煉気(れんき)』は現象を呼び寄せるものであり、『魔力』そのものを加工して現象を発動させるミッド式やベルカ式と異なる。 

作者の見解では、元々『魔力』には現象の理が組み込まれていて、『煉気(れんき)』にすることでその理を引き出し、現象を発動させるが、ミッド式等は外から『魔力』に、自分たちで組んだ理を用いて、魔力を変換して現象を発動させると考えている。

 術名は日本語、或いは中国語の読み方で唱えられる。

属性は木、火、風、土、金、水、闇、光の八つに分けられている。発生させたときの基本色は、緑、赤、銀、黄、紫、青、黒、白となっている。

 同時に『煉気』そのものは木属性に位置している。

 

 

 

・術・技

 

『霊力』

 神崎の『霊力』とは異なり、自身に流れるエネルギー、『気』を昇華させ、『霊力』としている。いわば人工的なもの。

 竜馬はこれだけを用いて、肉体の強化や、放出して戦うこともできる。

 

『符』

 あらかじめ紙の札に術を込めておき、その場の力の消耗や、他の術を使う時に余裕を持たせる、瞬時に術の発動をしたりすることができる。

 

法域(ファユゥ)

 闇属性の術。

蓬莱式(ほうらいしき)』において結界は闇属性に属する。

封時結界と同様に周りの空間と切り離すことで、通常空間に被害を出したり、魔法がばれたりしまいようにすることができる。

第一話冒頭でもこれを使用し、鍛練を行っていた。

 

顕魔(けんま)(きょう)

 金属性の術。

 調査や、探査などは知ること、科学的なことは金属性に位置する。

 紫色の八角形の魔法陣を発生させ、それを通して見ることで、調べることができる。

ただ、なんでもわかるわけでもなく、術者自身にも知識を要求される。

 

煉装身(れんそうしん)

 木属性の術。

 人間や生き物の力は木属性に位置する。

 身体に煉気(れんき)を通して、肉体を強化する。打撃力や防御力、素早さが増す。

烈光刃(れっこうじん)

 光属性の術。

 光は破壊、武器は刀剣を司る。

白色の剣を形成し、斬撃を行う。フェイトのサイズスラッシュと違い、バリア貫通能力を込められているわけではなく、強引に切るという感じになっている。

 

(はがね)(あし)

 歩法術 

技を放つ際や、相手の攻撃を受け止めるときに踏み込みを行うことで、一撃の重さを向上させたり、攻撃を受けて吹き飛ばされるのを防ぐことができる。

 『発足(はつあし)』からつなげることで強力な一撃を放つことができる。

 ちなみに、第一話で襲牙を放った際に、使うはずだったのがこれである。

 

(しゅう)(そう)

 斬撃技。

 『発足(はつあし)』、『(はがね)足』から続けて放たれる一刀の技。

 

火焔(かえん)(ぎょく)

 火属性の術。

 火球を放つ術。小さければ、連射も可能。

 

封印(フェンイン)

 闇属性の術

煉気(れんき)』だけでなく、相手の魔力もそのまま封印の力にして停止させる。

自分より大きな力を持つ物も停止させることができるが解くのは容易。

 

(しゅ)護法(ごほう)(じゅん)

 属性は土

 土はその名の通り土だけではなく、防御の力も司る。

 ハ角形の黄色の盾を発生させ、相手の攻撃を防ぐ。ラウンドシールドに酷似。

 

飛翔(フェイシャン)

 風属性の術

 いわゆる飛行魔法。

 

(そら)(あし)

 空中での歩法術。

 足元に風(空気)の足場を一時的に作り上げ、その状態で『発足(はつあし)』を使い、一瞬の高速移動を行うことができる。なお、今の竜馬の力量では連続して行うことはできない。

 『風』を使うため、『霊力』だけでは使うことはできない。

 

烈火衝(れっかしょう)

 火属性の術。

 拳、或いは足に炎の甲を発生させ、打撃力を強化させる。『煉装身(れんそうしん)』による打撃よりはるかに威力がある。

 火属性の武器属性は拳や足に装着される甲。

 

縛水鎖(ばくすいさ)

 水属性の術。

 相手を縛りあげる術。チェーンバインドに酷似。

完全に水の鎖にすることもでき、水にすれば柔軟性があり、拘束力が増し、力づくで引きちぎってもすぐ再生する。

 水で縛った状態で雷系の術を放てば威力が増す。逆に、炎系は多大の威力を打ち消し合ってしまう。

 通常状態ならば、属性効果は発生しない。

 水の武器属性は槍や鞭など長い物が属している。

 

雷電(らいでん)

 金属性の術。

 今回は使わなかったが、紫電を放つ。

 

砲雷撃(ほうらいげき)

 金属性の術

 金属性に位置する『雷』と『砲』による術。

 フェイトのサンダ―スマッシャ―のように収束された紫の雷で相手を砲撃する。

 『雷電(らいでん)』より威力があるが、発射まで多少時間が掛かる。

 

 

 

 


あとがき

 どうも皆さんお待たせしました。

 第三話『“蓬莱式(ほうらいしき)”発動!』はいかがでしたでしょうか。なんかやたらと技やら術が出てきて無茶苦茶だと思われたかもしれませんが、これが竜馬、及び『蓬莱式(ほうらいしき)』の特徴でもあります。

 設定もいくつか出してみました。細かいところや、竜馬の弱点、蓬莱式(ほうらいしき)の問題点などもありますが、それは話が進むにつれて明らかになりますのでお待ちください。

 途中、竜馬の「やりたいことと出来ること」についての話がありましたが、これは自分の

「やりたいことと出来ることは、イコールとは限らない」という考えから来ています。これは『ガンダムSEED DESTINY』の『ディステニ―プラン』に対するものでもあります。あれは遺伝子検査によって運命、つまり出来ることを決めていくというものではないのかと解釈しており、決してやりたいことではなく、やりたくなくても出来るんだからやれ、というものなのではと思っています。

確かに現実では、やりたいことばかりやるわけにはいかない、やりたくなくても、やらなければいけないことはいくらでもありますが、そればかりでは夢も何もないのではないでしょうか。やりたいことを見つけて、出来るようにするか、妥協して別のことを見つけるか、そうやって落ち着いて行くのではと思います。

 最後の方に海鳴が誇る(誰が誇ったんだか)二代必殺料理人が出てきました。美由希はTVでは結構上達しているようですが、やっぱり自分の中では、料理下手であるのがデフォルトと化していたので(笑)

 とまあ、色々とおかしなこと、知ったかぶったことを申し上げましたがここで失礼します。

では次回の「病院は戦場!?」(仮)です。あの()たちが出てくるのでお楽しみを。




前半はシリアスだったんだけれど。
美姫 「朝の鍛錬でシリアスじゃなくなったわね」
しかし、前回のあれが伏線みたいな感じになっているとは。
美姫 「本当よね。それにしても、美由希は……」
可哀相な扱いだな。でも、ちゃっかりと竜馬に復讐しているし。
美姫 「本人は単に料理しているだけだけれどね」
まあ、そうなんだが。戦闘と日常とが交互に繰り返された今回。
美姫 「次はどんな話になるのかしら」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね」



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