『極上とらいあんぐる!』




 私立宮神学園には教職者達よりも権限を持つ美しき乙女達がいる。
 私立宮神学園極大権限保有。
 最上級生徒会。

 略して――。

 極上生徒会!



第四話 有罪!?無罪!? 極上裁判! お♪わ♪り♪

 講堂内に奏の打ち鳴らした木槌の音が響き渡った。
 途端に内部にいた人間全てが口を閉ざし、三日の長きに亘る闘いの決着を見届けるべく、中心にある壇上へと視線を巡らせた。
「さて、昨日までの結果、被告人高町恭也にかかる疑惑の大半は消え去りました。ですが、同時にそれは別の苦境に彼を追い込んだといってもいいでしょう。検察側、準備はよろしいかしら?」
 右手に佇む影に奏はちらりと顔を向けた。
「もちろんですわ。今日は全てが終わる時。女子高に男子が交換留学に来るという、システム自体が間違いであった。と、全校生徒に謂わしめるような決定的な結末を容易いたしております」
 副会長、久遠はそう優雅に宣言した。
 そんな様子を満足そうに頷いて、今度は左手へと視線を向ける。
 それに気づいて、久遠に対峙する位置にたったもう一人の副会長は腕組をした。
「決まっている。昨日の話で間違いなく新聞部部長は黒だ。だから今日は必ず勝つ!」
 奈々穂は短い髪を爽やかに揺らし、久遠へと火花散る気合をぶつけた。もちろん久遠も黙ってはいない。即座に彼女に匹敵する気合を眼に宿した。

「それでは、新しい証人に入廷お願いします」

 裁判長たる奏の合図に、全員が一斉に証人台に向かうただ一人の人物に注目した。

「証人、名前と所属部をお願いします」

「はい。名前は紙聞新(かみぎき あらた)。所属は新聞部部長よ」

「では、証人、証言をお願いします。高町恭也さんがあなたに受けた取材の一部始終を」










〜証言・紙聞新。取材当日の事〜

 あの日、私は夜の八時に学校で高町さんと待ち合わせをしました。剣の稽古もあるというので、その前に時間をもらうことにして。それで大体夜九時頃に取材を終えて彼と別れた後、何気なく昇降口で三階を見上げると、彼が生徒会のロッカールームに入っていくのが見えたわ。



「……尋問の前に、一ついいですか?」
「何か?」
「下校時刻は夕刻六時。でも八時から取材でしかも学校でというのはどうしてですか?」
「ああ、確認してもらえればわかると思うけど、学校新聞の締め切りが近いため、生徒会並びに職員へ下校時刻延長の許可を頂いているから。それを伝えたら、だったら稽古前に伺うと高町さんが言ってくれたの」

「そうなのか?」
「ああ。紙聞さんが忙しいとの事だったし、それなら出向かせるのは頂けないと思ってな」

 傍聴人席と被告席を隔てる柵越しに恭也と赤星が小声で話しているのを、再びアシスタントに戻った香が一瞥して黙らせる。
 だが弁護人である奈々穂は心の中で小さく舌打ちした。

(つまり、あいつの言う事はとりあえず、事実であると言う事か)

 事実であるのならば、それ以外の部分を指摘せざる得ない。しかし特に穴になり得る部分が彼女自身見つけられないでいた。ここで手を抜けば間違いなく恭也は赤星と一緒に海鳴へ不名誉な肩書きを背負って帰される事になる。
「弁護人としてそれだけは回避しなくては……」
 机の上におかれた手を握り締め、奈々穂は決意の視線を紙聞へ向けた。











〜尋問・紙聞新。取材当日の事〜

 あの日、私は夜の八時に学校で高町さんと待ち合わせをしました。剣の稽古もあるというので、その前に時間をもらうことにして。それで大体夜九時頃に取材を終えて彼と別れた後……。


「ちょっと待った!」
「何か?」
「まぁある程度の守秘義務は覚悟の上だが、簡単でいいので取材内容を教えてもらいたい」
「……それは新聞部の内情を知らせろと?」
「そこまでは言わないが、どうだろうか?」
 正直、思いっきり苦汁の待ったである。
 内容には特に意義を感じる部分はなく、今回の召喚も昨日の高町恭也の証言より発生しただけのものである。
 だからこそ、どんな些細なものでもいいので、ヒントが欲しかった。
「まぁいいでしょう。内容は至って簡単です。簡単な家族構成を含めた高町さんのアンケート。これは先日赤星さんにも取らせて頂きました。続いてやはり剣術に関するアンケート。そして最後に学校について伺ったわ」
 証言に奈々穂が視線で恭也に問いかける。もちろん、嘘がないので彼も頷くことで答えた。
「続けても?」
「ああ。悪かった」



 何気なく昇降口で三階を見上げると、彼が生徒会のロッカールームに入っていくのが見えたわ。

「ちょっと待った!」
「またですか?」
「ああ、少し気になったんだが、学園の建て方で昇降口は建物内部に収納されている形なっているが、どこで彼が中に入るのを見たんだ?」
 図面を広げれば一目瞭然なのだが、宮神学園は窓の多い作りをしているが昇降口や職員関連の入り口は全て一般的な学校と変わらぬ作りをしている。
 しかし今紙聞は昇降口から見上げたと言い切った。
 ならばどこで見上げたのか?
 これが取っ掛かりになる……心の中で僅かに頷きかけた奈々穂の視線の先で、新はすらりとした指で眼鏡を押し上げると、そんな彼女の考えなどお見通しとばかりに鼻で笑い捨てた。
「何がおかしい?」
「ええ。だって、私は昇降口は玄関を出て段差があり、そこを少し過ぎてからだと思っています。つまり個人の取り方によって生まれた差異を指摘するなど、おかしいです」
「く……」

 口の端を歪めて上から覗き込むような口調で奈々穂を見る新に、憎憎しげに歯軋りの音が隣にいる香にも聞こえた。
 と、その時。
(あれ?)
 ふと香の頭を何かが過ぎった。
「ちょっと、私が発言してもいいですか?」
「ただの付き人が、何をおっしゃるの?」
「そうね。差し出がましいわ」
 途端に久遠と新の同時反撃にあい、一歩引いてしまった彼女の背に暖かな感触が体を支えた。
「え?」
 そして体に感じた温もりに視線を走らせると、そこには不敵に笑う奈々穂の顔があった。
「何に気づいたかわからないが、言ってみろ」
「何を勝手な事!」
「いやこれは弁護側としての正式なものだ。付き人であっても無実の被告人のために気付いた事は発言をさせたい。裁判長?」
 久遠の眉が釣り上がり、更に口火を切ろうとしたを制したのは、奈々穂でも裁判長たる奏でもなく、何とブッちゃんだった。
「おいおい、別に発言させてもいいんじゃね〜か?」
「な! 弁護人以外からの発言など、検察側として……!」
「いえ、構いません。発言を許可します」
「会長!」
「久遠さん、今は裁判長です。その私が許可しました。紙聞さんは真実を語るように」
「……了解しました」
「香、気付いた事を言ってみろ」
 何とはなしに若干済崩し的に進んだ感は否めないが、それでも奈々穂の言葉に大きく頭を振った。
「紙聞さん、一つ確認したいんです」
「何です?」
「……生徒会専用のロッカーは何処にありますか?」
「質問の意味が……」
「答えてください」
「……ロッカールームは、学校を正面に見据えて一番右手端……」
 そこまで澄ました表情で言葉を紡いで、はたと新は動きを止めた。
 途端に冷や汗が額に滲むのがはっきりとわかる。
「そう。右端です。そして下校時刻を過ぎて校舎内の電気は必要最低限の状態。そんな中で貴方は一番遠くにあるロッカールーム、しかも暗く三階という高所にある高町さんを正確に把握できたのか?」
「う……」
「それはつまり、貴方が高町さんをロッカールームに連れ込んだからじゃないですか?」
「はっきり、してもらおうか?」
 追い討ちとばかりに、奈々穂が締めていく。
 だが確かに香の指摘通りだった。下校時刻を過ぎ、自らも帰宅の途に着くという時に、闇に包まれた校舎三階を省みる必要性。そして見えたというはっきりとした証言の矛盾。全てが彼女の不振を煽るものだ。
 新は奈々穂の指摘に視線が泳ぎ、時折久遠を見る。
 だが久遠もまた唇をかみ締め、それ以上何を言うべきかと机に視線を落とした。
 その様子に、奏もまた小さく嘆息した。
「どうやら、決まったようね」
「さ、裁判長!」
「久遠さん、もう紙聞さんの様子から貴方もお分かりでしょう?」
 そう言われては、久遠も何も言えなかった。
「……紙聞先輩。どうして?」
 それまで事の成り行きを見ていたりのが、悲しげに新に質問をした。
 合わせる様に視線が集まる中、新は大きく溜息を一つついてからぽつりと語り始めた。
「最近、私達の新聞部は業績不振に陥っているわ。校内新聞ではなく、高校生らしい支店や記事を中心にした『全国高校新聞コンクール』で、入賞すらできない始末。そこに赤星さんと高町さんという格好のネタが現れた。でも二人はとても優秀で、ネタになりそうな出来事なんで微塵も起こさなかった。ええ。三年に交換留学に選ばれるだけの素質があるお二人でした。でも……」
 ここで一旦、言葉が途切れた。
 そんな彼女の後に続くように奏が付け加える
「新聞部は今年ある程度の成果を上げなければ、来年度の部費削減が決定しているわ」
「そうなんですか?」
「ええ。だから……なの?」
「そうです。私は部長として、来年度の後輩達に苦渋を舐めさせる事を黙ってみているわけにはいかなった。だから……」
 新の視線はいつしか恭也に向けられていた。
「高町さん、貴方は……無罪です」
「紙聞さん……」
「どうやら、結論は出たようですね……。では、裁判長として判決を申します」
































 無罪!












 小さな講堂に大きな拍手喝采が響き渡ったのであった。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「なんて映画を、お別れ会で上映しようと思うのだけれど、如何かしら?」
『却下』
 お茶目なかわいらしい、悪気の欠片の一つもない笑顔で微笑んだ奏の言葉を、生徒会全員+高町恭也の一言でばっさりと斬りすてられる。
「えぇ〜。何でですか〜?」
「会長! いくらなんでもプロモで役者を雇ってビデオを先に作るなんてやりすぎです!」
「私が検事で負けるなんて納得いきません!」
「わ〜。面白かった〜」
 等々。
 完全に蚊帳の外に出された男性二人は、小さく溜息をつくと、
「荷物、纏めるか」
「そうだな」
 そう苦笑交じりにつぶやいたそうだ。









                     完  



終わった〜。終わったよ〜。
夕凪「これでようやく一つね。完全実験SSで一年とは、またなんと言うか……」
あっはっは。久々にもうSS〜〜〜〜〜。みたいなの書いたね。
夕凪「普段のが重苦しいの」
そうかなぁ?
夕凪「とりあえず、これで暫くは私達の……」
次回からFate/Triangle nightを送ります! よろしく〜!
夕凪「とら剣をどうにかしなさい!」
あぶぶぶぶぶぶぶぶ!



極上はこれでお終い〜。
美姫 「まさか、最後のオチがあんな風だとは…」
流石に予想できなかった。
美姫 「でも、面白かったわね」
うんうん。夜上さん、お疲れさまでした〜。
美姫 「次回作も期待してます〜」
勿論、とら剣の方も。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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