『選ばれし黒衣の救世主』










 その六人の戦いは、本当に真逆だった。
三対三という状況であるにも関わらず、真逆。
一方は敵の動きも、味方の動きも関係なく、全員がただ攻撃を加える。
 もう一方は、一人が主軸となり、残りの二人が徹底的にその一人を援護する。
バラバラの力技とチームワーク。
 火力と緻密さ。
 そんな真逆の戦い。
おそらくは戦っている当人たちが一番わかっていること。
お互いの武器がそれなのだから、変えることなどできはしない。
 変えた時に全てが終わってしまうかもしれない。
だが、全員が負けてやるわけにはいかなかった。
 負けるわけにはいかない理由が全員にあるから。
 だから戦い続ける。






赤の主・大河編

 第二十六章 それぞれの想い






「はあ、はあ」

その息切れは誰のものか。
 ……いや、それは六人全員のものだった。
 六人全員が、大きく息切れを繰り返していた。
 ただ目の前の敵を見ながら、今は息を整える。

「本当にとんでもないな」
「そうだ……ね」

初めて真正面から救世主候補たちと戦うことになった耕介と知佳は、ほとんど苦笑気味に言い合った。

「この人たちと対等に戦ってたなんて、本当に恭也君は凄いよ」

知佳はリリィ、未亜、ベリオの順に眺め見ながら言った。
二人は今まで色々な人間を見てきた。それこそ、色々な力を持った人たちを。だがこの三人はそんな人たちや、自分たちも軽く上回る力を持っている。

「なのはちゃんがいなかったら簡単にやられちゃってたな」
「にゃにゃ、な、なのはだってそうですよ」

いきなり耕介に話を振られ、なのはは慌てて首を振る。
誰が欠けていても結局やられていた。
なのはも知佳も最初は久遠にも援護をしようとしていたが、リコと彼女の戦闘は介入する余地がなく、すぐに諦め、こちらに専念していた。
 それでもなのはは久遠を……そして、恭也を援護できるように、いくつか魔法陣を隠していた。
 とはいえいつまでも魔法の効果は続いてはくれないし、魔法陣自体もやはり長くは保たないので、効果が切れそうになった順に破棄していき、さらにまた作り直すという作業もしているので、三人の中では一番周りを良く見ていた。

「さて、これからどうする?」

耕介は十六夜を構えながら二人……いや、十六夜も入れて三人に問う。
何とか今のところは対等に戦えているが、いつこの拮抗が崩れるかわからない。もしあの三人……とくにリリィが力を合わせて戦うようになったなら、すぐにその拮抗は崩れかねない。
三人の中で彼女のスタンドプレーが一番目立つ。おそらく恭也が理由であるのは間違いないだろうが。

『何より終わりが見えませんね』

 聞こえてきた十六夜の言葉に耕介は頷く。
 そう終わりが見えない。
 いや、何をして終わりとするかが見えない。
彼らを倒して終わりとするか、逃げ出して終わりとするか。
 はっきり言ってしまえば、ここで戦う理由など耕介たちにはない。逃げ出してしまっても構わないのだ。
 もっともその逃げるという行為自体、彼女たちを相手には難しいのだが。

「どうしようかな」

 ははっと苦笑いながら知佳も呟く。
 だがその間にも、知佳は思考を巡らしている。この状況の打破をするために。
 彼女は恭也たちの中で参謀役だ。だからこそ、この状況の打破する方法を考え続けているのだが、彼女でもまだ思いつかないのだ。


 そして対面にいるリリィたちは、

「本当に強いですね」

 顔を歪めながらベリオは呟く。
救世主候補であるのはなのはのみ。だが、残りの二人もそれに負けない力を持っていた。
耕介の霊力、知佳の不可思議な力。
耕介は戦い慣れているようだし、その上に霊力がある。知佳は戦い慣れこそしていないが、その能力の質がわからない。
 だからこそ、この戦いは拮抗している。

「だからって負けるわけにはいかないのよ」

 リリィはきつく三人を睨み付けながら言う。
そうあの三人を止め、さらに恭也を止めて、理由を聞き出さなくてはいけないのだ。こんなところで手をこまねいてなどいられない。

「それはわかっているけど、リリィ、一人で突っ走りすぎよ」
「火力でいくって言ったでしょ」
「チームワークで負けているのだから、それを補わないと」
「だから、それを火力で補ってるんじゃない!」
「でも! それで何とか拮抗しているだけよ! だからもっとみんなでの戦い方を!」

 突然言い合いを初めてしまうベリオとリリィ。
 それはある意味では当然。
 リリィのスタンドプレーが先ほどから目立つ。それはまるで恭也と出会う前のリリィに戻ってしまったかのように。
リリィの言いようは悪いが、だが内容は間違ってはいない。相手は急造のチームではのだ。リリィたちとて急造ではないが、それでも連携を考えるには全員後衛なので限界が出てくる。それに精神的な余裕も、はっきり言って恭也の言葉や態度によって失っている。ならば長所を突出させなければと。

「いい加減にしてください!」

未亜はそんな二人に視線は向けず、ただ耕介たちから視線を離さずに叫ぶ。

「未亜さん……」
「未亜……」

 珍しい未亜の叫びに、二人は驚きながらも言い合いを止めた。

「あの三人を相手にしてるのに、そんな言い合いなんかしてたらすぐに負けちゃいます。お願いですから、冷静になって。
 二人とも、恭也さんの話を聞きたいんですよね、だったら……」

今はこんな言い合いをしている暇などないのだ。
 救世主候補たちが初めて戦う強敵で、そして絶対に負ける訳にはいかない相手。
 恭也の話を聞くためには、負けるわけにはいかないのだ。
 未亜だって、リリィと同じぐらい恭也の理由を聞きたい、恭也の手伝いをしたい、恭也に頼ってもらいたいと思っているのだから。

「一つだけ考えがあります」
「考え?」

ベリオとリリィは、未亜の言葉に目を瞬かせた。




それぞれがこれからどう動くかを話をあってすぐに、未亜が動いた。
己の巨大な魔力で何十本という矢を作り出し、それを同時に弦へと番え、射る。
まるで散弾のように放たれる矢。だが、出鱈目に放たれた矢は、当然の如く威力もスピードもなく……それでも普通の者から見ればとんでもない速度と力、正確さなのだが……、耕介の十六夜、なのはの白琴、知佳の念動力によって、次々に落とされていく。
しかし、未亜はそれでも矢を放ち続ける。同時に何本も、さらには速射で。
手数がある未亜だからこそできる攻撃ではあるが、やはり耕介たちから見れば、一つ一つの攻撃が甘い。その矢の壁によってかわすことはできずとも、防ぎ、弾くことは簡単に出来てしまう。
だが、

『耕介様!』

 突如として聞こえた十六夜の声で、耕介は気付いた。
弾幕のような攻撃で気付かなかったが、いつのまにか未亜の両隣にいたベリオとリリィがいなくなっている。すぐさま三人は、矢を防ぎながらも、辺りに視線を巡らせる。
 二人はすぐに見つかった。場所は未亜から少し離れた横。耕介たちから見て、斜め前方。
 しかも、すでに二人は攻撃態勢に入っていた。
 
「お義兄ちゃん! なのはちゃん! しばらく私が広いバリア張って未亜ちゃんの矢は防ぐからすぐに離れて!」

知佳は言いながらも、サイコバリアを広範囲に展開させ、矢を防ぎ始める。

「知佳さんは!?」
「いいから早く!」
「知佳、任せた!」

耕介は知佳を信頼している。何かしら策があるのだということを確信して、すぐさま言うことを聞いて、矢の射程外、さらにベリオとリリィの魔法の射程から離れた。
なのはも耕介が言うことを聞いたのを見て、同じように離れた。
 その瞬間、ベリオの杖から放たれる光線とリリィの手から放たれる火球、さらに力をため込んだ未亜の光の矢が知佳のバリアへと向かい、衝突。
救世主候補三人の全力の攻撃の前には、いくら知佳のバリアが強力とはいえ、防ぎきれるはずもなく、まるでガラスが割れるようにしてバリアは砕けた。
 三人の攻撃はバリアに当たったことで多少威力を弱めたものの、それでも知佳へと向かっていく。だが、知佳もバリアが砕けた瞬間にはテレポートし、その攻撃をかわした。
しかし知佳がテレポートで現れたそこに、リリィが突っ込み、彼女へと向かって回し蹴りを放ってきた。
知佳はそれをまたもバリアを使って防ぐのだが、顔を顰めさせた。

「やられちゃったなぁ」

知佳はそんなことを呟く。
 それにリリィは不敵に笑った。

「未亜の作戦だったんだけど、うまく言ったみたいね」
「まさか、私たちと同じようなことをしてくるとは思わなかったよ」

悔しげに呟く知佳。
そう、同じことをされた。
 知佳の目の前にリリィがいる。そして、その前方にはなのはと未亜、斜め前では耕介とベリオが相対していた。
 つまり先ほどの攻撃は囮で、引き離されたのだ。最初、恭也たちが救世主候補たちを三組に分断させたように、全く同じことをされてしまったのだ。
知佳たちは、チームワークという武器を取り上げられてしまった。

「ふん、そっちの武器は取り上げさせてもらったわよ。あとは……こっちが力で勝つだけよ!」

 なのは以外は根本的に力で救世主候補たちに及ばない。ならば単機にしてしまい、各個撃破にすればいい。もしくは耕介と知佳を倒した後、それぞれ相手をしていた人物がなのはの相手をしている未亜の援護に回る。それが未亜の作戦だった。
だが、

「リリィちゃん、なのはちゃんは召喚器があるから警戒してるみたいだけど、あんまりお義兄ちゃんも過小評価しない方がいいよ?
 それと私もね」
「別に過小評価なんてしてないわよ、恭也みたいな例があるんだから」
「してるよ。むしろまだあなたたちは恭也君にさえしてる」

知佳はクスリと笑った。
 そして、その瞬間……。

「え!?」

知佳の背にあった一対の翼……それが、四対八枚の翼に変化した。

「私とお義兄ちゃんも恭也君と一緒。結構……ううん、かなり人間離れしてるから」

 そう言って、知佳は背に現れた翼を大きく広げた。




なのはは未亜の矢を白琴で落としていく。
 正直、なのはにとっては未亜が一番戦いづらい相手だった。
 未亜は一瞬で矢を射ることができる。つまり攻撃間隔の短さが救世主候補たちの中で随一だ。そしてなのはの疑似魔法は白琴を複数回振り、魔法陣を描かなくてはいけないのだが、その矢を払うために魔法陣を作り出している暇がないのだ。
ならばと、なのはは未亜の矢を落としながらも未亜の方へと一気に近づく。そして、その攻撃を止めるために白琴を振り下ろした。
 白琴は刃がないため、切っ先以外は鈍器にしかならないが、それでも防がなければならない。
 案の定、未亜は弓で白琴を防いだ。

「なのはちゃん! なんで!?」

弓を握る手に力を入れながらも、未亜はなのはに向かって叫ぶ。

「未亜さん……」
「私たちが戦う理由なんてないよ!」
「そうですね。私にも理由なんて正確にはわかりません」

なのははそう言いながら柄を持つ手から力を抜き、そのまま未亜から一歩離れて言う。
 未亜も話がしたいのだろう、それ以上攻撃をしかけてくることはなかった。

「ならなんで!?」
「たぶん全てを話してしまってもいいと思うんです。むしろ、未亜さんたちの力を借りた方が、きっとうまくいく」

なのはは、恭也が未亜たちを拒絶したのは、守るためだと思っていた。きっとその方が彼女たちのことを守りやすいのだと。
 しかしなのはは、未亜たちに全てを話して、協力してもらった方がうまくいくのではないかと思い始めていた。
全てを話して、彼女たちに協力してもらった方がきっといいと。
だが、

「なら!」
「それでもおにーちゃんは、未亜さんたちと戦うことを決めた」
「っ!?」
「それが正しいのかなんて、なのはには……私にはわからない」

なのはにはわからない。
 だが、恭也がそう決めたから、なのははついていく。
 そして、

(やっぱりずるいな、私)

安堵している。
恭也が未亜たちを受け入れなかったことを。
恭也が彼女たちを受け入れなかった理由はわからない。きっとなのはが考えているようなことは、恭也だって考えているはずなのだ。
 協力してもらった方がうまくいくと。
でも恭也は彼女たちを拒絶した。
 それになのはは安堵していた。
そんな矛盾した想いを抱えていた。

「私はずるいんですよ、未亜さん」
「なのはちゃん?」

先ほど未亜たちが恭也の前に再び現れた時、なのはが感じたのは僅かな恐怖。
 このまま前と同じに戻ってしまうのか、と。
でも、恭也は拒絶した……拒絶してくれた。

「私はおにーちゃんに全てを任せながら、それでも私は自分のためにこうしてる。未亜さんと戦ってる」
「なにを、言ってるの?」
「私にも可能性が欲しくて。そんなのないって、ずっと昔からわかってるのに、見せつけられてきたのに……それでも……それでも、今ならその可能性がほんの少し、0から1……ううん、0.1%ぐらにはなってくれるんじゃないかって。
 そんな自分の考えで、今の状況を受け入れてるんですよ」

なのはは寂しそうな笑顔でそう言い切った。

きっと、世界のためでもない。
 きっと、家族のためでもない。
きっと、恭也のためでもない。
 きっと、自分のために……この状況を受けて入れている。
 だから未亜に話そうとしないのだ。
話してもいいはずだと思いながらも、自分のためになのはは話そうとしていないのだ。



「なのはちゃん」

 その笑顔を見て、未亜は既視感を覚えた。
言葉の意味がわかるようでわからない。
だけど、その寂しそうな笑い方が、どこか壊れてしまいそうなものに未亜には見え、それがどこかで見たことがあるような、感じたことがあるような……。

「未亜さん、ごめんなさい」
「なのは……ちゃん」
「私はあなたと……あなたたちと戦います。おにーちゃんのために、私のために、仲間だったあなたたちと戦います」

そう言って、なのはは再び白琴を構え、すぐさま白琴で魔法陣を作り出した。
 その魔法陣から飛び出てきた光の塊をかわし、未亜は再び矢を高速で撃ち始める。
 それによって、またもなのはは防戦一方にになった。
 だがそれでも、なのはは再び未亜へと近づいていく。
 同じ攻撃は受けないと、未亜は矢を射ながらも移動しようとした瞬間、なのはの左手が未亜の方へと向く。

「ブレイズノン!」

その声とともになのはの手から飛び出る火球。それは矢の間を抜けていき、未亜の目の前で爆裂し、炎を撒き散らす。
白琴から魔力を借りて、なのは自身の魔力と混ぜ合わされて放たれたその魔法は、威力だけならば、リリィが使う同じものと遜色ない。
しかし一瞬で未亜は弓を地面へと突き刺し、しならせ、まるで棒高跳びでもするかのように、その反動で上空へ飛び上がり、爆炎をやり過ごす。
 召喚器を手放したため一気に身体能力が落ちた未亜は、このままでは地面に激突する。だが地面に激突する前に、あの爆炎の中でも地面に突き刺さったままであってくれたジャスティに何とか触れ、身体能力を取り戻し、不格好ながらも着地した。

「なのはちゃん、いつから魔法を……」
「学園にいたときからですよ。最初はリリィさんに教えてもらいました。
 学園を離れてからもおにーちゃんのためになるからと思って、ずっと勉強してきましたから」

なのはには魔法がある。まだうまくは扱えないが、魔法陣を作り出せなくても、攻撃の手段はあるのだ。

「私は……負けられないんです、未亜さん」
「なのはちゃん……」
「私はあなたを倒します」

なのはは……無表情な顔で、だが辛そうな声で、悲しい宣言をした。




「元素変換は……リスティと違って得意じゃないんだけどっ!」

 そう言いながらも、知佳は羽根に受けた光を瞬間的にエネルギーへと変えていき、それを元に……。

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

リリィたちとは違い、何の呪文の詠唱もなくその力を解き放つ。
放たれた力は雷撃の雨。
 仕事上、こうした力はあまり使わないのと、元々あまり得意ではないため、その威力はリスティには及ばないが、魔法のように呪文の詠唱を必要としない上に、強力な攻撃。

「なっ!?」

 知佳が初めて攻撃らしいことをしてきたことに驚くリリィ。
今まで知佳は耕介の援護に回っていたため、念動力などしか使っていなかった。だが、とうとう目に見えた直接的な攻撃方を開始してきた上、何の呪文もなしに強力な攻撃だ、驚くの無理はない。
だが、

「邪魔を……するなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

リリィは組み立てていた魔法を完成させ、同じく雷撃を知佳の雷撃に当てて相殺……どころか、貫いた。
リリィの雷撃はそのまま知佳に向かっていくが、彼女はバリアでそれを防ぐ。

「っ、やっぱり一撃の威力じゃ敵わないか、リスティなら何とかなるかもしれないけど」

その分知佳のバリアは、ベリオ並にまで強力だから攻撃は防げるが。

「私は恭也に聞くの! あいつに頼らせてやるって!」

リリィは次々と魔法を放っていく。
知佳はそれをバリアで防ぎ続けながら、リリィの叫びを聞いて表情を曇らせた。
 リリィの気持ちもよくわかるから。
 彼女が、恭也に好意を抱いていたのは、先ほどからの言葉を聞いていればわかることだ。なのに拒絶された。
 その気持ちがわかる。

(私も……恭也君に拒絶されたら同じようにするかもしれない)

 好きだからこそ許せなくて、頼ってもらえないのが悲しくて。同じ女性として、知佳はリリィの気持ちがわかってしまう。
知佳の考えでは、ここは全てを話してしまっても良かった。リリィたちがあそこまで恭也たちを信頼しているのなら、協力してもらってもよかったのだ。
きっと彼女たちは真実を話しても絶望せず、理解して協力してくれると思った。救世主という拠り所がなくなっても立っていられると思ったのだ。
だが恭也は拒絶した。
 恭也は知識こそ豊富ではないが、鋭く、かなり先を見る目がある。知佳やクレアが、その知識と頭脳で先の戦略を立てるに対して、恭也は経験や本能で先を読み、対策を練る。
 この場合、知佳は自分の戦略などより恭也の経験や本能の方が正しいと思っていたのだ。だから全て恭也に任せ、彼が出した答えに乗った。
恭也が何を思ってこの答えを出したかは、知佳にもわからない。だが、知佳は恭也を信頼している。
 彼の出した答えはきっと正しいと。
 それで間違いで誰かを悲しませ、恨まれてしまったとしても、自分も一緒に恨まれるからと。

(恭也君は、いつも守るために最善を尽くしているんだから)

 そのことを知佳は誰よりも知っているから。
だから、

「あなたの気持ち……全部とは言えないけど、少しはわかる。でも、あなたを恭也君の前に立たせるわけにはいかない。
 私を恨んでも構わない。それでも私たちは止まれないの!」
「っ! ただ頼れって言ってるだけじゃない! 止まれなんて私は言ってない!」
「でも、恭也君はそれを受け入れなかった! それが答えなんだよ! たぶん、あなたたちを受け入れる、それ自体が止まることと同義になるの!」
「うるさいわよ! アンタじゃ話にならないのよ! 私は恭也の所へ行く!」
「行かせない!」

リリィは自分の意志を貫き通すために、大火力の魔法を放つ。
 知佳は恭也の意思を通させるために、それを悉く防ぎ、無詠唱で行える強力な攻撃を雨霰と降らせる。

「私は決めたの! あの人を護るって! いろんなものを背負ってきて、今も背負い続ける彼の心を護るって誓った!」
「そんなの知らないわよ! だけど私も、あいつに頼らせるって決めた! あいつが何を背負ってるかなんて知らない! そんなのどうだっていい! この意思は曲げない!」
「私だってこの誓いを曲げられない! きっとあなたにその想いをぶつけられたら、恭也君の心は痛む! だから、あなたを行かせられない!」

知佳とリリィは、その誓いと意思を曲げないために、想いすら力に変えて、ただぶつかり合う。




耕介は全力で突っ込むのだが、そこに突如として壁が現れ、進行の邪魔をされる。
本当に戦いにくいと、耕介は舌打ちしながら飛び上がり壁の上を抜けようしたのだが、そこにベリオの光の輪が回転して彼に襲いかかってきた。
空中で大きく体を入れ替えることなど不可能。耕介はこの光の輪をかわすこはできない。この時ベリオは勝利を確信しただろう。
 だが耕介は霊力を纏わせた十六夜を横へと構え、その霊力を誰もいない真横へと一気に放出する。
その反作用の力を借りて、耕介は空中で横へと移動してしまった。そして、誰もいなくなった空中……作り出された壁の上を光の輪は通り抜けていく。
 耕介はそのまま着地し、一直線にベリオへと向かう。
 ベリオは予想もできなかった回避を目の前で見せられ、驚き、身体を硬直させてしまっていた。その間を使って、耕介はベリオへと接近し、十六夜を振り下ろす。
だがベリオはハッと正気を取り戻し、ユーフォニアで受け止めた。
 見た目的には、大柄である耕介に力では分があるように見えるが、召喚器で強化されているベリオは彼と同等以上の力を見せ、二人は鍔迫り合いのようにお互いを押し合う。
 その中で、ベリオは顔を顰めながら叫んだ。

「理由を教えてください!」
「…………」
「なんで、なんで私たちが戦わなくてはならないんですか!?」
「……たぶん知佳やなのはちゃんたちは、君たちと戦う意味も、理由もないと思ってるよ。
 君たちは本当に恭也君となのはちゃんを信じてくれていた。だからきっと、全てを信じてくれると思う。俺たちに力を貸してくれると思う」

実際、話しても問題はないと耕介も思っていた。
 確かに重い事実だが、それでも彼女たちは受け入れて、自分たちに力を貸してくれるだろうと。
 それはおそらく知佳やなのはとて同じ考えだろう。

「そ、それならなんで!」
「でも恭也君が受け入れなかった。それが俺たちにとって全てなんだ」

恭也の思惑が何であるのか、なぜ彼らを受け入れないのか。
 実の所、耕介には検討がついていた。
 なぜ恭也が彼らを拒絶したのか。

(本当に君は不器用だな、恭也君)

耕介はさざなみ寮の管理人として、色々な人と出会ってきた。だが彼ほど不器用な人間に出会ったことはない。
恭也が救世主候補たちを拒絶した理由。
一つは巻き込みたくないということだろう。
そして、

「恭也君は、たぶん君たちの……仲間だった君たちに向けられる恨みと憎しみすら背負うつもりなんだ」
「恨む? 憎む? 私たちが、恭也さんを……」

ベリオの呟きに、耕介は何も応えない。
耕介は、恭也が大河を殺すという決意を持っていることに気付いていた。
天秤にかけたくない存在たちを、それでも天秤にかけて、恭也は集まって重くなってしまった方をとった。
恭也たちとしての最善の未来は、白の主と精を捕縛することだ。それで時間を稼ぐこと。
だが、それが本当に可能なのかは未知数。むしろ難しいと言えるだろう。それでも全てを救世主候補たちに話せば、きっとその協力をしてくれる。なぜなら大河の危険から守ることにもなるのだから。
だが、

「恭也君は、あらゆる未来を想定してる」

まかり間違って、もし白の主たちが死んだなら、大河は救世主となる。
 それも男の救世主。最悪の救世主の誕生と言っていい。
恭也はそのことすら考えて、彼らを拒絶した。
そのときは自分が大河を殺そうと。
 おそらく最初に彼らから離れた、離れようとした理由も、そのためというのが大きいのだろう。
大河を殺した時、憎まれやすく、恨まれやすくするために。
 それらのことを耕介は正しく感づいていた。
知佳やなのは、十六夜、クレアがそこまで気付いているかはわからない。だが、それでも耕介は気付いてしまったのだ。
 恭也の不器用な考えに。

「俺は最後まで恭也君の傍で戦って、一緒に恨まれる、憎まれる。もちろん、そうならないように努力はするけどね。
 恭也君が話さないと決めた以上、俺は君たちに何も言うことはできないよ。それをすれば、恭也君の決意や誓いを汚すことになる。
 だから……!」

 耕介は真剣な表情で言い、腕に全力を込めて、ベリオを杖ごと弾き飛ばす。

「俺と恭也君を恨んでくれて、憎んでくれて構わない。俺たちはそれを受け止める覚悟がある。
 恭也君の決意と誓いを汚させないために、俺は君を倒す」

耕介は霊力を十六夜の刀身に纏わせて、そう宣言した。




理由がないと言う神弓使いの少女に、相対する白き剣を持つ少女は、愛する者の決定だからと、そして自分が欲しい可能性のために、それを拒否した。
自らの意思の邪魔するなと言う赤き少女に、相対する白き翼を持つ女性は、自らの誓いのために、その意思を砕くと言い放つ。
 理由を問う神の信奉者たる女性に、月の名の一つを冠する剣を構える男性は、理由は語らず、誰よりも不器用な弟の決意と誓いを汚させないと力強く宣言した。

 六人全員が、すでにもう無理だと、諦めにも似た感情が生まれていた。
 目の前に相対する者を、言葉で止めるのは不可能なのだと。
 だって、すでに全員の心が決まってしまっていたから。
それを全員がわかってしまったから。
 もう止める術、進む術は一つしかないのだと、わかってしまった。
 だから……ここに全力の一撃を。
 言葉で届かないのなら、この一撃に全ての想いをのせて……


「ジャスティ! 私に力を! なのはちゃんたちを止めるために!!」
「白琴! 魔力を貸して! 私たちが……私たちの道を行くために!!」


「サンダーブレイクッ!!」
「ヴォルテカノン!!」


「楓陣刃ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「クリアレェェェェェェェイ!!」


それぞれの想いがぶつかりあっていた戦場。
 その戦場に、六つの破壊の力が顕現し、辺りを破壊していく。
それはまるで、その破壊の力すら彼らの想いであるかのように。







あとがき

よし、今回は戦闘を縮められた。
エリス「ちょっと」
 い、いいじゃないか、少しぐらい! それになのはたち三人の想いと考えの違いは語っておかないといけないんだ! それにその分話自体今回は長い!
エリス「まあそうだけど。なんかなのはがちょっとずつ狂想の影響を受け始めてない?」
 それはない、元からだよ。それと今回の戦いと久遠とリコの戦い、そして次の戦いは時間軸は一緒ですので。
エリス「でも、恭也が救世主候補たちを受け入れない理由を正しく理解してるのは耕介だけなんだね」
 そうだよ。知佳となのはは、ただ恭也がそうしたから自分の考えを消してるだけ。恭也の考えを正しく理解しているのは耕介だけ、ある意味彼が一番の恭也の理解者。十六夜もまあ不破の剣の理を知ってるだけに半ば気付いてるけど。
エリス「あと知佳の翼が増えてない?」
 うん、あれから結構経って、増えたという設定。これによってさらに光合成しやすくなったという感じに。
しかし、今更気付いたけど魔法少女でもないなのはを思い切り戦わせてるのって自分ぐらい? いや、まあ一応魔法は使うけど。
エリス「かもね」
うわぁ。自分の場合他の作品でも結構なのはを戦わせたりしてるんだけどなぁ。
エリス「それじゃ次は恭也たちだね」
 次の戦闘が色んな意味で一番面倒くさい。一番地味な戦いでもあるし。そのくせすんごい文字量多くなりそうだ。
エリス「あー、確かに派手さはなさそうだね」
 うちの恭也君、あんまり派手に戦闘しないからなぁ。地味に、あくまで地味に戦う。恭也編のデザイア事件の時はとんでもなく派手に活躍したけど、敵として。
エリス「ほらほら、ちゃんと息抜きでリリィの狂愛書いたんだから」
 そうだけど。っていうか重い作品が生き抜きってどうなんだろう?
エリス「それはアンタが歪んでるから」
 うるさいよ。しかしクロススクランブル、クレア主人公の外伝だけやったけど、なんか大河編に入れられそうだな。
エリス「ちょっとやる気なの?」
まだ検討中。発売したばかりでそうそうにネタバレするのはまずいし、なんか大河と恭也の立場が入れ替わっただけにしか……いや、キャラがいっぱい出せる?
エリス「そなの?」
 うん……でもやっぱやめよう。自分の首を絞めるだけのような気がする。
エリス「首って」
 どなるかはわからないけど。
エリス「ま、先の話は後にして、とっとと続きへ」
 そだね。
エリス「それでは今回もおつき合いありがとうございました」
 ではでは。








互いの想いがぶつかり合う。
美姫 「見てて思わず胸にくるわね」
とても良いです! もう流石。
美姫 「本当に誰かさんに…以下略」
グサグサと胸に突き刺さる言葉の槍にもめげず!
うーん、クレア主人公の外伝が大河編に入るのなら、俺はクロススクランブルのエスカを入れてみようかな…。
美姫 「またそんな無茶を」
……だよな。いやいや、勿論設定はちょこちょことね。
美姫 「あー、はいはい。下手するとネタバレになるけどね」
大丈夫! あれの更新速度は亀の如く。
美姫 「それは威張るな!」
ぶべらぅ!
う、うぅぅ。じ、次回も待ってます……。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る