『選ばれし黒衣の救世主』










馬車から降りた大河たちは、目の前の村を眺めた。
 一見普通の村に見える。
だが、ここの村人たちが捕らわれているのだ。そして自分たちはその人たちを救出しなければならない。

「さて、どうすっか」
「師匠、ここは拙者が偵察に入るでござる」

カエデが手を挙げるのを見て、大河は少し考えた。
 確かに潜入調査は忍者であるカエデにとってはお手の物であろう。
 できればどこにモンスターがいるのかも知りたいし、村人とリリィを見つけなくてもいけない。
 それらを考え大河が返答しようとしたのだが……。

「え?」

爆音が響いてきた。
この村の入り口から離れた場所が響いてくる爆音。

「これって、誰かが戦ってるの?」
「まさか、リリィでは!?」
「魔法の音でござるか!?」
「あのバカ、本格的に独断専行しやがって!」
「マスター、どうしますか? まだ村の人たちがどうなっているのか」
「今はあいつの方が先決だ!」

正直、顔も知らない村人よりも、大河にとっては仲間であるリリィの方が重要なのだ。
 それにリリィが戦闘を行っているのなら、もう村人たちはどうにか救出したのかもしれないという考えもあった。

「行くぞ!」

仲間たちに声をかけてから、大河はトレイターを呼び出して音が聞こえた場所へと駆けだした。
 その後ろを未亜たちもそれぞれ召喚器を取り出してついていく。
救世主候補たちの全速力。
それを全開まで使って走る。
大河とカエデが先行して、走り続け、そして目的の場所にたどり着いた時、大河は地面に座るリリィを見つけた。

「おい、リリィ!」

 かなりの大声で呼んだはずが、彼女が気付く様子はない。
 それに訝しげに思いながらも、リリィが見つめる先に視線を送った。
 そして、大河は目を見開く。それは後から辿り着いた未亜たちも同様だった。

「きょ……うや……」

 彼らの視線の先に、恭也が……恭也たちがいた。
 恭也たちはそれぞれの武器をすでにしまっていた。久遠も子狐の姿に戻り、知佳も翼を消している。
 そして、その彼らの目の前にはすでに死に絶えているであろう一体の巨大なモンスターが倒れていた。





赤の主・大河編

第二十三章 重ならない道 





恭也は幾つか増えた気配で、すでに気付いていた。

(早かったな)

出会う時が早すぎた。
それは最後に出会った時からの時間であり、大河たちが到着した時間でもあった。
覚悟していたことではある。
恭也はため息を吐いた後、背後を振り返った。
 それにつられるようにして耕介たちも恭也と同じ方を向く。それから驚きの表情を浮かべた。
 耕介たちは気配に気付いていなかったのだ。
恭也とリリィ以外の者たちが驚きの表情を浮かべたまま、全員がそれぞれの顔を眺めていた。
このまま固まっているわけにもいかず、恭也が口を開く。

「久しいな、大河」
「恭也……」
「ああ」

本当に恭也は気負いもなく大河に声をかけた。
久しいと言いながらも、本当についさっきも会っていたかのような気軽さで。

「きょ、恭也さん!」
「恭也さん!」

恭也に向かってリコと未亜が駆け出そうとした。
 だが、

「来るな」

いつも通りの言葉で恭也の口から紡がれた声は、制止。
 そして……拒絶。
本当にいつも通りの声であったはずなのに、リコと未亜はそれを理解してしまった。

「な、なのはちゃん……」

それが信じられず、未亜は恭也の横にいたなのはに声をかけた。
 だが、なのはは目を反らした。
だから再認識させられてしまった。
 恭也は……恭也たちは自分たちを拒絶しているのだと。
救世主候補たちは、ただ信じられないかのように恭也たちを見つめていた。
未亜の目に涙が溜まった。
 それを見て、大河の中で何かが弾けそうだった。だがそれを押さえ込んだ。
 聞かなければならないことがあるのだ。

「なんで……なんで俺たちから離れたんだよ!?」

ずっと大河たちが聞きたかったこと。
 理由は何なのだと。
 なぜ、学園から、自分たちから離れる必要があったのかと。
 
「俺たちに目的ができたから。その目的を為すには、お前たちと共にはいられない」

恭也は淡々と、本当にいつも通りの口調で言うだけだった。
目的。
 大河たちがもっとも聞きたいことがそれであるのに。

「どうしてござるか、恭也殿……」
「恭也さんたちの目的って……」

カエデとベリオに問われても恭也は答えない。
 答える気はないと、その態度が語っていた。

「どうして、なんですか……恭也さん……」

今度はどこか寂しそうにリコが聞く。
 そのリコを見て、恭也はどこか複雑そうな表情を見せる。


「救世主が誕生されては困るからだよ、リコ」
「え?」

その答えを聞いて、リコに限らず救世主候補たち全員が目を見開いた。
 その答えはつまり……。

「破滅……」

その言葉を言ったのは誰だったのか。
救世主が誕生しては困る理由がある者は、それしか存在しないはず。

「破滅じゃないよ、俺たちは」

 だがそれをあっさり否定する耕介。
 その口調からして、別に信じてくれなくてもいいと言っているようにも聞こえる。

「なのはちゃん……」

未亜に見つめられても、なのははただ首を振った。

「未亜さん……ごめんなさい。私は……私たちは……全てを知ってしまったから……」
「全て?」

その答えの意味がわからない。
 わからないが、それが恭也たちがいなくなった理由。

「なのは」
「あ、ご、ごめんなさい、おにーちゃん」

 咎めるような恭也の言葉に反応してなのはは謝るが、彼は少し息を吐いてなのはの頭を撫でた。
恭也自身も救世主云々は言い過ぎたと思っている。
 なのはも辛いであろう。だから話しすぎても責めるつもりはないが、恭也たちはまだ理由を話すつもりはない。
だが、恭也の言葉となのはの言葉で、リコが目を見開いた。

「きょ、恭也さん、あなたたちは……」
「リコ、何も言うなよ」

その答えだけで十分。
 リコにはそれで十分なのだ。
だが考えがまとまらない。なぜ、どうして、という意味のない単語だけが彼女の頭に飛び回る。
膠着が続く。
 それぞれがそれぞれの考えがわからず、どうしていいのかわからず、ただ固まっているしかない。
 その中で、リリィが立ち上がった。

「アンタ……じゃない……」

 肩を震わせ、低く呟く。
 だがそれ故に、その言葉の全ては恭也にまで届かない。

「アンタが言ったんじゃない……」

 ずっと、ずっと言ってほしかった言葉を言ってもらえない。
別に理由なんかどうだっていい。
 ただ、ただ……許せない。

「仲間を頼れって言ったのはアンタじゃない! なのになんで何も言ってくれないのよ!?」
「リリィ」
「あの時アンタが言ったのよ! 仲間は頼って頼られって! なのになんでアンタは何も言わないのよ!?
 私は理由なんてどうだっていい!!」

リリィの爆発した感情に、そしてその目に溜めた滴に、恭也以外の者たちが驚きを浮かべているが、今の彼女にはそんなことすらどうでもいいことだった。
恭也に言われたから、仲間は頼って頼られて。だから自身では認めていなかったものの、頼られるために回復魔法だって覚えてみせた。
 恭也の膝を治してやりたいと思ったから。膝を治すという手助けを、膝を治すのに自分が頼られてやろうと。
なのに目の前の男は……。

「アンタはただ消えただけ! 何も言わずに! 私の前から消えた! 私に仲間を頼れって言いながら、私には何も言わずに! 自分は頼らずに、頼らせずに! 元の世界の人たちだけを連れて!
 それとも私は仲間じゃないってわけ!?
 頼むって、なんでそう言ってくれないの!? 一緒に来てくれって! ただそれだけで私は!」
 
 ただ叫ぶ。
意味が伝わろうと伝わらなかろうと、そんなのはどうでもいい。
リリィは今の自分の気持ちと感情を吐き出す。
 だがそれに未亜が乗った。

「私たちだってそうだよ、恭也さん、なのはちゃん! 理由なんてどうだっていいの! ただ私たちを頼って!
 私は二人にいっぱいの覚悟を貰った! だからそのお礼を返したい!」

お礼だけではない。それ以外にもいっぱいの理由がある。
 仲間だから。大事な人たちだから。きっと大事な……人だから。

リコも一歩前に出る。

「恭也さん……! 私……私は……!」

二人と違って言葉にならない言葉。
 この中で、おそらく一番複雑な宿命をもってしまった少女。
 半ば、恭也たちの目的がわかってしまった……精霊。
自分はこの人たちに敵と認識されてしまったのではないかと、それが辛くて、寂しくて。

そしてベリオも続く。

「恭也さん、あなたは私に言ったじゃないですか!」
 
 恭也が初めてベリオたちと出会って、それから救世主クラスに入ることになって、その時彼は確かに言ったのだ。

「何かを切り捨てなければいけない状況でも、仲間と協力してなんとかしたいって! 私たちは仲間ではないの!?」

協力する仲間とは、自分たちのことではなかったのかとベリオは問う。
だが、だがそれでも恭也は応えない。
 
 それでもカエデが一歩前に出る。

「恭也殿! 拙者たちは確かに恭也殿に比べれば未熟かもしれぬでござる! しかしそれでも僅かばかりでも力になれるはずでござるよ!」

 師である大河とは別に意味で、カエデは恭也を尊敬していた。
 自分と似たような戦い方をし、しかしもっと上の技術を持つ。それがどれだけの修練の上に手に入れた力なのか。
自分とは比べようのないほどの、気が遠くなるほど修練を積んでいたであろう恭也を尊敬していた。
 その尊敬する人物の力になりたいと思うことはおかしいことなのか。

そして大河は……。

「恭也!!」

 ただ、ただ彼の名を呼ぶだけ。
 力強く、ただ彼の名を叫ぶだけ。




 リコの寂しげな表情。
未亜の涙。
そして、大河とベリオ、カエデの激情。
そんなものを見ることになるなどとは思わなかった恭也は、内心では酷く驚いていた。
 だけどそれ以上に、あの勝ち気なリリィが涙を溜めていることに驚かされた。
今の救世主候補たちを見て、恭也は初めて己がしたことを理解した。
 彼らに何も告げずに出ていったことが、ここまで影響しているとは思っていなかった。ここまで自分を信じてくれていたなんて。
泣かせたくなかった。
 ただ守りたかった。
笑っていてほしかった。
 そのために恭也は剣を握っているから。
だが、それでも……

(止まれないんだ)

決めたのだ。
 最後まで戦い抜くと。
最後まで走り抜けると。
 彼らには悪いと思う。憎まれても仕方ないと思う。
それが独りよがりな考えであることは恭也にもわかっている。彼らは守られるだけの存在ではないこともわかるのだ。
こんなにも信じてくれていた。きっと全てを話しても、彼らならば信じてくれるだろう。
 だが、それは彼らの幸せに繋がるのか? 
救世主になれば大河を殺すと言うことができるのか?
 恭也とて彼らに死んでほしくない、大河を殺したくなどない。
だけどその時が来たら、きっと恭也は大河を殺すだろう。
憎まれてもいい。涙を見せられても、自分に笑顔など向けてくれなくてもいい。
それでも不破として、恭也は大河を殺す。
恭也がしたかったのは笑顔を守ること。
 今していることが……そのもしかしたらの未来が本末転倒なことはわかっている。
 それでも元の世界で何も知らずに日常を過ごしている大切な人たちの笑顔を守るためには、彼女たちを再び泣かせてしまうかもしれない。
どちらかしか選べないかもしれない。
 どちらも大切だというのに。
 今の状況では、彼らを頼ることなどできない。
 彼らは彼らのやり方で運命と闘ってもらわなくてはならない。
だから……

「俺には俺の、お前たちにはお前たちの道がある。その道が重なることは……もう、ない」

突き放し、今ここで拒絶した。
 



「俺には俺の、お前たちにはお前たちの道がある。その道が重なることは……もう、ない」

その言葉を聞いて救世主候補たちは目を見開き、呆然としていた。
 未亜は涙を流したまま、リリィは溜まっていた滴が頬にこぼれ落ちていく。
恭也は言葉で、確実に彼らを拒絶した。
そして今の救世主候補の中で唯一の男は……。

「……っざけんな!」

大河は拳を握りしめた。
恭也の放った言葉。
完全な拒絶。
 それは許せるものではない。
いや、それ以上に恭也は未亜とリリィを泣かせた。リコに寂しそうな表情を浮かべさせた。
 
「ふざけんな!!」

この男を尊敬していた。
 いや、今でも尊敬している。
 恭也が言うのだから、彼はそれだけ大きなものを背負っているのだろう。何かを、誰かを守るための道なのだろう。
 だが、大河にはそんなこと知ったことではない。
今大事なのは泣かせたこと。
 仲間を泣かせたこと。
未亜を泣かせたこと。
こんなにも恭也たちを想っている仲間を拒絶したこと。
 それを許すわけにはいかない。
 どんなものを背負っていようが、相手が恭也だろうが、未亜と仲間を泣かせ、辛い想いをさせるヤツは許さない。
 大河はトレイターを呼び出して、その剣先を恭也へと向けた。

「ふざけんじゃねぇ! お前が何と言おうと、お前はここで捕まえて、俺たちから離れた理由を全部吐かせてやる! その後に未亜たちに謝らせてやるぜ!」

怒りに身を任せ、大河はそう宣言した。

「お前らもぼうっとしてんな! 構えろ! 今は恭也を止めればいい! ここであいつの理由を聞けばいいだろうが!」

大河の言葉に他の救世主候補たちも呆然とした表情を引き締めして、大きく頷いた。
彼女らとて知りたいのだ。なぜ恭也たちが自分たちの目の前からいなくなったのか。
そしてそれが納得できる理由なら、力なれるものなら。
全員がそう思い、召喚器を構えた。




「恭也君……」

 耕介は小さく彼の名を呼ぶ。
わかってる。
 耕介にはわかってる。
 恭也がどれだけ辛い思いで彼らを突き放したのかを。

(ふざけてなんかないんだ)

恭也は背負った。
 大切な人たちを守るために背負ったのだ。
 彼らに恨まれることさえも。
それでも彼らと、大切な人たちを守ると。
耕介の弟分は、それだけのものを背負った。
また、その背中に重たいもの背負った。
 彼は背負いすぎなのだ。
 耕介は唇を噛み締めながら十六夜を抜いた。

『耕介様……』

 耕介の気持ちをわかってくれたのだろう、十六夜が名を呼んでくれた。
それに少しだけ勇気づけられる。

「大河君、俺『たち』の道がこれなんだ。恭也君の言うとおり、俺『たち』の道はもう君たちとは違う方向に向かってるんだ。だからその道を走りきるまで、俺『たち』は止まれない」

耕介の言葉に恭也が驚いた顔を見せる。

(言っただろう、恭也君だけを戦わせないって……同じように恭也君にだけ背負わせたりもしない)

恨まれるなら共に恨まれる。
 兄である耕介の役目がそれだ。
その想いが伝わったのだろう。恭也は少しだけ笑ってくれた。
 そして知佳も翼を広げ、なのはも白琴を前に向ける。久遠も人型になると恭也を守るように彼の目の前に立つ。
知佳の翼と久遠が少女になった姿を見て驚きの表情を浮かべているリリィを抜かした救世主候補たちに、三人は少しだけ苦しそうに笑う。

「私たちは止まらない……止まれないの。ごめんね」
「ごめんなさい。でも私はおにーちゃんと一緒に行くって決めたから、だから私は止まれません」
「くおんは……きょうやといっしょ」

三人とて一緒。
ここにはいない……だが、恭也の仲間であるクレアとて、おそらくは同じことを言う。
止まれない。
恭也と共に行く。
たとえ誰から恨まれるとしても、それでも恭也と一緒に守り抜く。
本当はここで彼らと戦う必要なんてないのかもしれない。全て話してしまってもいいのかもしれない。
 だが、恭也は何も言わずに彼らを守ると決めた。ならば耕介たちもそれについていく。彼が決して一人にならないように。

「恭也君を止めたいなら、俺たちも一緒に止めてもらわないと駄目だよ」

耕介も剣先を大河へと向けて、そう宣言した。




 そうして、恭也たちはとうとう救世主クラスの者たちと対峙する。

「耕介さんは後衛組をお願いします」
「ああ」
「久遠、お前はリコを頼む」
「うん……わかった」
「知佳さんとなのはは、耕介さんと久遠の援護を。俺への援護はいらない」
「わかったよ」
「うん」

恭也にそれぞれが頷く。

「俺は……大河とカエデの相手をする」

 前衛の二人を恭也は一人で相手にする、と言い切ったのだ。
それに救世主候補たちは目を見開く。

「舐めてるのかよ」

 大河はトレイターを構えながら、顔を歪めた。
恭也は前に大河とカエデの二人を相手にして戦ったが、その時は未亜の援護あった。だが、今回は援護の全てを他に向けさせた。
 さらに言えば、大河とカエデはあの時よりもずっと強くなっているし、禁書庫で実戦も積んだのだ。
 だから恭也の言動は、救世主クラスの者たちからすれば二人を舐めているようにしか聞こえない。

「そんなつもりはない。
 ただ、戦えば勝つ。それが俺の流派に根付く根底の一つ。それは敵が百人いようと、救世主候補……いや、救世主が相手だろうと、変わらない」

 だが、恭也は顔色を変えずに言う。
自分が負ければ、守らなければならない人たちが傷つき、死ぬかもしれない。そのために御神に敗北は許されない。
そしてそれは不破も同じ。殺さなければならない相手を殺せなければ、後に誰かが傷つき、誰かが死ぬかもしれない。だから不破も敗北を許されない。
どんなに自らが傷つこうと、戦えば勝ち、守るのが御神。
どんなに自らが傷つこうと、戦えば勝ち、殺すのが不破。
恭也はその二つを同時に背負っている。

 救世主候補たちが構えを取るなかで、恭也は自らが着込むコートに手をかける。
それを見て、さらに救世主候補たちが構えを深めた。何かしらの隠し武器が出てくると思ったのだろう。
だが恭也は、そのコートを脱いだだけだった。
 そして、コートをそのまま脱ぎ捨てる。
 すると地に落ちたコートから、何やら金属音や重い音が響いた。

「それって……」

未亜は、脱ぎ捨てられた恭也のコートを見ながら呆然と呟いた。

「色々と武器を隠せると言われて、叔母に貰った特別な作りのコートなんだが、本当に色々と隠せてな。隠せる場所全部に武器をしまい込むとかなりの数になる」

 恭也はゆっくりと肩を動かしながら言う。
黒いコートの下から出てきた服は、やはり長袖の黒い服。

「多くの敵と戦う時には、武器は多い方がいいのだが、お前たち二人を相手にするには、多すぎる武器は逆に邪魔だ」

恭也はさらに首を捻りながら言う。

「嘘……でしょ……」

 リリィは目を見開きながら恭也を見ていた。
 確かに彼の暗器は、戦う上で大きな武器だ。だが恭也は手の内を見せないために、そのほとんどを彼女たちに見せていない。
それは今は関係ない。なぜなら恭也はそれを捨てたのだから。まだいくつかの暗器は身体のどこかしらに隠してあるだろうが、だがそれはあのコートに隠されていた暗器、武器に比べればずっと少ない数でしかないだろう。
問題はそんなことではなく、今まで彼はあれを着込んで戦っていた。
 一つ一つはそれほどの重さでなくとも、全て揃えばどれだけの重さになるのか。
彼はある意味、多くの武器を得るため、自らに枷を強いていたに等しい。
それを脱いだ。

「これでもまだ、カエデのスピードには敵わんし、大河の力にも勝てんだろう。
 だが、これならば動きやすい。全体に武器を仕込んだままあれを着ていると全身に重みがかかるから、技の精度と機動性が落ちる」

 恭也の言葉を聞きながら、救世主候補たちは愕然としていた。
それらは召喚器を持たない恭也の大きな武器であったのだ。それがさらに上がるというのだから。

「俺はお前たちに、まだ俺の全てを見せた訳ではない」

 小太刀を抜かずに恭也は構えた。

「俺を止め、理由を聞くのだろう?」
「っ!?」
「だが、俺は……俺たちはまだ止まれない。全力で抗わせてもらう」

 恭也のその言葉で、知佳たちも構えをとる。

「別に俺たちはお前たちと敵対したいわけではない。だがそれでも、お前たちと敵対してでも為さなければならないことがある。
 俺たちの信念とお前たちの信念……どちらが上なのか、ためさせてもらおう!」

そう言って恭也は駆け出した。
 



 こうして、恭也たちと救世主候補たちの戦いが始まる。
どちらも望んでいない戦いが。






あとがき

 とうとう始まるとらハ組VSデュエル組。
エリス「どう考えても個人の能力だと恭也たちが不利だと思うけど」
まあそうだね。
エリス「恭也、見事に拒絶したね」
 そうだねー。何か悪役っぽく。
エリス「そしてまたもやリリィが弱く見えるけど」
 リリィの心が弱いのは大河編の仕様だと思って。
エリス「ってかコートを脱いでパワーアップって」
あ、これはちょっと裏があり。
エリス「裏ねぇ」
 まあ次回ですぐにばらしますが。
エリス「それじゃあ、その話にれっつごー」
 ういうい、もうできてるからねぇ。
エリス「ここ最近、大河編の方ができるの早いね」
 恭也編、少し詰まってるんだ。話自体はいくつかできあがってるんだけど、それを書き直していたら詰まっちゃって。恭也編に限らず微妙にスランプ気味なんだけどね。文体がグダグダになる、いや元々かもしれないけど。
エリス「早くなおして、早く書く」
はい。
エリス「それでは次の話でー」
 それではー。







おお、熱い展開に。
美姫 「とらハ組が不利に見えるけれど、呪文詠唱のいらない知佳だけはかなり有利っぽいよね」
負担が大きいけれどな。それに、久遠は単純に強いぞ。
ああ、もうどうなるのかな。
早く次回へと行こう!
美姫 「とっても気になるので、今回はこの辺で」
また次で!



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