『選ばれし黒衣の救世主』










二人の剣士はまるで睨み合うようにお互いを見ていたが、同時にその表情を緩めた。

「ふう、やはり霊力勝負になったら手も足もでませんね」
「それを言ったら、剣での勝負になったら俺の方が手も足も出ないよ」

恭也と耕介はそう言い合った後、お互いの武器を下ろした。
今は深夜の鍛錬。二人は剣の鍛錬と霊力の鍛錬をしていた。
剣の師は恭也。
霊力の師は耕介と十六夜。
お互いが弟子のようであり、師のような間柄になっている。
そして、その鍛錬は今終わった。





外伝三 恭也の霊力




二人はタオルで汗を拭き、身体を休める。
本体の中から出てきた十六夜が、その二人を眺めていたのだが、唐突に口を開く。

「恭也様、霊力を使えるようになってかなり経ちましたが、その後どうですか?」
「そう……ですね」

恭也はそう言われて考える。

「戦術は増えました。まあ、俺の場合は奇策や遠距離攻撃の対策程度ですが」
「あとは破壊力が必要な時かい?」

恭也は耕介の問いに頷く。
実際、霊力を覚えてからそれなりの時間が経ったが、その霊力を戦闘や模擬戦で使用した回数はあまり多くない。
せいぜい奇策、遠距離攻撃の対抗手段。あとは破壊力が必要なとき。そのぐらいだ。

「俺はあまりセンスがないみたいですから」

恭也がそう言うと、耕介と十六夜は苦笑う。二人もそれを否定することはできないのだ。
恭也にあった霊力の才能は、その量だけだ。それの扱いのセンスや才能は並か、それ以下である。
ただぶっ放すぐらいのことぐらいしかできないし、制御が甘いのだ。
それらを恭也自身が正しく理解している。

「あとは自身の回復に使えるぐらいでしょうか」

霊力による自身の傷を治療する。実際これはひどく重宝させてもらっていた。
これのおかげで膝が治った。
そしてある意味、これだけは恭也もかなりの才能があったのだ。

「恭也様の霊力治療は、おそらく今の神咲の誰よりも上でしょう」

霊力治療という霊力の扱いに特化すれば、恭也のこの能力は那美たちすら上回る。
だが、これにもやはり恭也には大きな欠点があった。

「他人に使えませんが」

恭也のその答えに、十六夜はまたも苦笑した。
実際に恭也の霊力治療は相当のものだった。それはリコやリリィの手伝いがあったとはいえ、壊れた自身の膝を短期間で完治させてしまうほどまでに。
だがこれを他人に使うとなると、一気に下手になるのだ。
つまり自分に使うと超一流であるのだが、他人に使うとなると三流以下になるのである。
そういう意味では、霊力治療に関しても並ということになる。
それに自分に使ったとしても、長期的ならばともかく、瞬間的な回復量はベリオたちの治癒魔法には敵わない。ある意味中途半端なのである。

「自分に影響させるっていうのが恭也君は得意なんだろうね」
「おそらく恭也様が最初から霊力を剣に纏わせることができたのもそれが理由でしょう」

霊力を自身に影響させる。つまり自分という存在……自己を正しく理解しているからこその才能で、その才能があったからこそ、最初から霊力をすでに自身の一部である剣に纏わせることができたのだ。
つまり自身に作用させることならば、一流以上なのである。
霊力も自分の一部であるはずなのだが、恭也はこの世界に来るまでは普通の人以下の霊力しかなかったため、それを自己の一部としてまだ認識できない。肉体や武器に作用させるもの以外は並になってしまっている。
それらを考えれば、やはり良く言っても二流と言ったところだ。

「霊力攻撃を放つまでにもかなり苦労しますから」

恭也は苦笑しながら告げる。
剣に霊力を纏わせるまでは、恭也としては簡単な作業であるのだが、それを目的に向けて放つのが難しいのである。最初の頃はまるで狙って場所に向かってくれなかった。それどころか放った瞬間に消えてしまうことすらあった。
今では狙うのはできるようになったが、放つのにかかる時間の短縮が甘い。

「耕介様が一秒で放つとすると、恭也様は二秒かかりますからね」
「ええ」

たかだか一秒の差。だがその差が戦闘では決定的な差になる。それ故に剣術なしの霊力勝負になると耕介には敵わない。もちろん体捌きなどで補っているから、まったく敵わないというわけではないが。

「霊力量は俺の方が大きいみたいですけど……」
「消費量は俺の方が少ないからね」

そう霊力量自体は、恭也は耕介よりも……おそらくは誰よりも大きい。だがその消費量も大きいのだ。
これは耕介が一灯流を使っていて、十六夜を使っているからだけではない。
例えば霊力を数値化するとして、恭也の総霊力量が100とすると、耕介は90と言ったところだ。
そして耕介が紅月を使って洸桜刃を使い、同じく恭也も洸桜刃を使ったとする。
武器の差もなく、技の差もない状態のこの技の消費量、耕介が3とすると恭也の場合は10程になってしまうのである。つまり恭也の場合、霊力量自体は大きくとも消費量が耕介の三倍以上で、燃費が酷く悪いのだ。
そこに耕介は十六夜を使うのだ。さらに消費量の差は開く。紅月には魂が込められていないため、まったくサポートしてくれる者がいないため、武器の差も大きい。
さらに言えば、消費量が大きいにも関わらず、その攻撃力からして恭也は耕介に及びもしない。

「御神流と霊力の複合技は耕介さんと十六夜さんに考えもらいましたから、やりやすくなりましたが」
「元の発想は恭也様が出したものですが」

今まで何回か使った御神流の奥義と霊力の複合技。
この技の発想自体は恭也が出したものであるが、その霊力の制御の仕方、それに乗せる霊力量などの考えは、耕介と十六夜が出してくれたもので、霊力に関することでは、全て二人に考えてもらったと言える。

「そう言う意味では、才能がないというべきでしょうかね」

それほど悔しいことでもないので、恭也は淡々と告げる。

「そんなこともないと思うけど」

耕介は慰めで言っているわけではない。
実際にそんなことはない。霊力量から全てを考えると、才能がないということはないのだ。一流とは言えないが、それでも一端の退魔士としてやっていけるだけの領域にいるし、これからも鍛錬続けていけば、恭也はその努力を続けるという性質から必ず一流になることができるだろう。
だが、

「いえ、俺はこの程度でしょう。少なくとも俺が御神の剣士である以上は。
そして、俺は何があろうと御神流と不破の剣を捨てられません」

恭也が御神の……そして不破の剣士である以上、耕介たちのような『超』一流の霊力使いになるのは不可能だ。
元々、御神の剣は霊力を使うことを前提に作られた剣技ではない。もし一定以上の霊力の制御を覚えたければ、今まで御神の剣の鍛錬に使っていた時間を、霊力鍛錬の時間に費やさなくてはならない。
だがそれをすれば、御神流の練度が低下する上、勘が間違いなく鈍るだろう。
これはつまり御神の剣士としての終わりだ。
だから恭也は霊力に頼りすぎることはない。
もし今から、霊力を選んだとしても、おそらく耕介に並ぶことはないだろうし、それどころか、そのうち剣でも勝てなくなるだろう。
これは耕介たちの一刀流は元々霊力を使うこと前提に、一灯流から派生して編み出された剣技なため、霊力を多用する鍛錬を行ったとしても極端に連度が低下したり、勘が鈍るようなことはないためだ。
だが恭也は、霊力を選んでしまえば戦闘力の低下は免れない。それも一気に低下するだろう。

「何より神速の中で霊力は使えません」

御神の剣士の象徴である神速。その中では霊力は使えない。
恭也の場合、耕介と違って霊力を使用するのにも極大の集中力が必要なので、神速に全て集中力を使っている状態では使用不能なのだ。
これこそが、霊力が御神の剣にとっては異端であるという証拠だ。

恭也は御神の剣士であり、不破の剣士。
それは変わることはなく、そして何があろうと変える気はない。だから霊力はその補助程度で構わないのだ。
もしこれが魔法という力であっても同じであったろうし、他に特別な能力があっても同じだ。
恭也はあくまで御神の剣士。拘りもあるが、それだけではなく、今から他の技術を一から学んで一流になることはできないとわかっているからだ。すでに身体が御神の剣士としてあるために、それ以外の身体の動かし方もそう簡単にできはしない。
他の技術や力を必要以上に手に入れようとしても、やはりある程度までしかいけない上、御神の剣士としては衰え、弱くなってしまうというのならこれまで通りでいるか、新たな技術で使える部分だけを取り入れてしまえばいいだけのことだ。
今回それが、霊力による奇策と遠距離対策、破壊力だったわけである。これだけを取り入れることができれば、恭也としてはそれで十分すぎるものなのだ。

「それでも霊力のおかげで、対応できることは増えましたから」
「そうだね」

あとは恭也の使い方次第である。

「実際、何度も助けられました。だから二人には本当に感謝しています」
「そう言って頂けると」

十六夜は式服の袖で口元を隠しながら微笑み、嬉しいですと告げた。
霊力は確実に御神の剣の補助として役に立っている。
なければかなり苦戦したであろう戦いがいくつもあったし、下手をすれば負けていたかもしれない戦いもあった。

救世主候補たちとの試合でもそうだ。
身体能力では下回るが、戦闘中は身体の制御能力……瞬間的な力の上げ下げや、同じく速度の上げ下げなど……に長けている恭也は、その身体能力もある程度追いつける。
そして経験や勘、それによって救世主候補たちと対等に戦えてた。
そして奇策や対遠距離として霊力があったからこそ、勝利することもできたことも多かった。
だから、

「ありがとうございます」

それを教えてくれた二人に感謝し、恭也は頭を下げた。
それに二人は苦笑する。
そして、二人はどういたしまして、と返すのだった。









あとがき

今までで一番短い話で、さらに山なしの話ですが、恭也の霊力に関しての話でした。
エリス「ホントに短いね」
まあ最初はリレーSSの方でやらせてもらおうかなと思ったものだから。ただ、やっぱり結構重要な話だから投稿させてもらうことにした。
エリス「とにかく霊力だけになったら、恭也は耕介に敵わない、と」
そういうこと。体捌きを使って、何とか相打ちぐらいになら持ってけるかもしれないって所だね。霊力量だけは膨大だけど、センスが全くない。
エリス「はあ、本編この頃進んでないのに」
ああー、それについてはすいませんとしか言いようが。これも何とか時間稼ぎみたいな感じだし。
エリス「時間稼ぎって」
基本設定送ろうと書いたんだけど、それを元あった大本の設定に上書きしてしまった。今二度目の書き直し中。忘れてしまった設定がかなりあるし、そのせいで気力も激減。一部、過去話とか設定とプロットが一緒くたになってた所もあったし、消えたおかげで、少しばかりわからなくなってしまった所がある。
エリス「とにかく早く」
はい、できるだけ頑張ります。
エリス「それでは今回はこのへんで」
ではでは。




今回は恭也と霊力についてのお勉強〜。
美姫 「やっぱり霊力は耕介の方が分があるわね」
まあ、当然かもな。
美姫 「恭也はあくまでも剣士としてのスタイルだしね」
だな。それでも、牽制などに利用できる事で戦術の幅が広がったのは良い事だよ。
美姫 「久しぶりの外伝、ありがとうございました〜」
本編も楽しみに待ってます。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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