カラオケにて楽しいひと時を過ごしている恭也と山百合会の乙女たちのその後はどうなったのか?

さあ、新たな楽しいひと時を、大いに謳歌してもらいましょう

でわでわ〜

 

薔薇に愛されしもの

 

『恭也とデート後編』

 

彼女は思いっきり歌っていた。

歌詞の言葉をなぞるようにテンポ良く、また言葉の語尾を気にしながら歌い終えると仲間たちからの拍手を受けていると異変に気が付いた。

 

「……ッウ……ウゥ。」

 

瞳から零れ落ちる涙を、恭也が必死に小さな手で拭っていたのであった。

 

「ちょッ、ちょっとどうしたの恭也君!?」

 

「気分悪くなったの?お姉さんに教えてくれる?」

 

皆が慌てて恭也に声をかけながら体調のことを気にしだす。

流石にこれだけの人数を、狭いこの中で集まって居れば空気が淀んでいるのか?

音に酔ったりでもしたのだろうか?

等々と原因を考えていると、恭也の口からポツリと意外な答えが返ってきた。

 

「猫さん……可哀想です。」

 

涙交じりで告げられた言葉の意味に一瞬皆どういった意味なのか分からなかったが、すぐさまひとつの結論に達した。

先ほど歌われていた曲……『K』と言う曲は黒猫と絵描きをモチーフにした歌であり、その歌詞の中には黒猫がボロボロになりながら、名づけ親の願いを叶えるべく手紙を運ぶと言うシーンがある……。

 

「猫さん死んじゃって……それにそれに……酷いです、石投げて苛めて……。」

 

先ほど歌を歌っていた少女……そう、江利子は少しだけ後悔と同時に、恭也の余りに無垢な心と優しさに胸が締め付けられた。

いつの間にか、面白くない世界に対して冷めた目で見てしまう自分とは違い、何処までも優しく、真っ直ぐで傷つき易い心を持つこの小さな剣士のことを羨ましくも思っていた。

 

そっと近づき、泣きじゃくる小さな体をそっと抱きしめながら、髪を優しく梳きながら諭すように耳打ちする。

 

「恭也君……確かにさっきの歌はちょっと悲しすぎるかもしれないわ……。

でもね、猫さんはきっと悲しい気持ちじゃなかったと思うわ。」

 

「どうしてですか?」

 

涙で濡れた頬をそっと手で撫でてあげながら江利子話を続けた。

 

「だって、猫さんは大好きな人の約束を果たすために走ったのよ?

ちゃんと手紙を届けることが出来て……。恭也君はそれでも猫さんが辛いだけだと思う?」

 

頬に手を当て彼女は恭也の小さな顔を自分の瞳と合わせると答えを待った。

 

「思いません……きっと猫さんも幸せな気持ちだったと思います。」

 

思ったとおりの答えを聞くと、江利子は満足げな笑みを浮かべながら何度も頷いた。

優しくて暖かな恭也ならきっと辿り着いてくれる、と思っていた答えを導き出してくれたのだ。彼の姉を自負している江利子が喜ばないはずがない。

 

「うん、偉い。偉いよ、恭也君。猫さんが苛められていたら、助けてあげようね。」

 

確かな答えを導き出した恭也に対して聖もまた、我がことのように喜びながら彼の頭を掻き混ぜるように撫でながら褒めていた。

その後、皆で代わる代わる恭也のことを慰めていると、唐突に制限時間が迫っていると言う内線が伝わる。

 

「チェッ。もう少しだけ恭也君の歌とか聞いていたかったのにな〜。」

 

口を尖らせながら、江利子は愚痴をこぼしていると珍しく聖がまじめな顔をしながらそんな江利子のことをなだめている。

 

「まあまあ、気持ちは分かるけどね、まだ回る場所もあるからそう言わない。」

 

「あの、白薔薇様。まだ何処かに行くおつもりなんですか?」

 

祐巳は首を傾げながらそう訪ねると聖は満面の笑みを浮かべながら彼女の質問に答える

そして、話題においていかれている恭也はと言うと令と祥子の二人に手を握られてまるでブランコに揺られているかのように、二人の手をユラユラと揺らしていた。

 

「子犬と言うよりも子猫だよね……恭也君って。」

 

「あら、先ほどの上着の件もあるけれど、ウサギとも言えるわね。」

 

「?何がですか〜。」

 

二人にそっと頭を撫でられながら、交わされている会話の内容が自分のことを指しているなどと思いもよらない恭也は、ただただ首を傾げるばかりであった。

 

「え、え、エッエエエエエ!!」

 

静かでちょっとした幸せを噛み締めることの出来る空間をものの見事なまでに粉々に砕いてくれる祐巳の叫びによって、祥子は少々うんざりとした表情をしながら恭也のことを令に任せてそちらのほうへと言ってしまう。

 

「にゃぅ〜どうしたんでしょうか?」

 

「恭也君は気にする必要ないよ。良い子良い子〜。」

 

握っていた手を離して何処かへと祥子が言ってしまったがために、困惑している恭也のことを気遣っているのか、由乃は優しく頭を撫でてあげながら落ち着かせていた。

 

「ちょっと祐巳!あなたね、このような所で叫んだりして一体何を考えているの!!」

 

「ヒッ!?も、申し訳ありません、お姉さま。」

 

久しぶりに受けた姉からのお叱りに、思わず祐巳は竦んでしまう。

その後に延々と続くお小言が始まるかと思ったが、思わぬ人物から救いの手が差し伸べられてきた。

 

「まあまあ、祥子。そう怒りなさんなって。」

 

「白薔薇様、どうしてあなたはそう祐巳に甘いのですか。」

 

「ん〜別に甘やかしてるつもりは無いんだけどね〜。祐巳ちゃんが驚いたのだってこの後さらにボーリングに行こうって言ったからだし〜。」

 

「ぼ、ボーリング?」

 

彼女たちの声が聞こえていたのだろうか、恭也もまた首を傾げながらすぐ傍にいた由乃のことを見上げるようにして訪ねていた。

 

「由乃お姉さん。ボーリングって何ですか?」

 

「ボーリングって言うのはね、こんな形したピンにボールをぶつけて倒した本数を競うゲームのことなんだけどね、恭也君もしかしてやったことない?」

 

「えっと〜無いです、たぶん……。」

 

「それじゃあお姉さんが教えてあげるからね。」

 

「令ちゃんズルイ!!私が教えてあげるからね。」

 

ポッと頬を染めながら、恭也の小さな体を後ろから抱きしめてなにやら美味しいところを持っていこうとしている姉のことを、牽制するかのようにして由乃も負けじと恭也のことを抱きかかえながら、ボーリングのレッスンに関する申し出をしていた。

 

それからサクサクと会話を交わしながら歩いて行くと目的地が見えてきた。

きらきらとネオンで彩られている店を見て、こういったところへ来る機会が少ないと言うか、覚えていない恭也はと言うと少々はしゃいでいるのか、すぐ傍で自分の手を握り締めている志摩子の手を少しだけ強く握り締めながらその顔を見上げていた。

 

「志摩子お姉さん、ここスゴイです〜こんなに綺麗です!!」

 

「そうね、キラキラしていて綺麗だね……。」

 

微笑みかけながら答えを志摩子が返していると、恭也はそれだけで嬉しかったのかフニャッと可愛らしい微笑を浮かべながら何度も頷いていた。

 

「オリャ!二人とも楽しむのはこれからだからね。さあ入った入った。」

 

「お、お姉さま。」「聖お姉さん♪」

 

後ろから抱きしめられるようにして声を掛けてきた聖は、志摩子のふわふわとした髪が顔に当たり少々くすぐったかったのか、顔が笑みに崩れていた。

 

「ん〜志摩子の表情がこうも崩れるなんてね〜。やっぱり恭也君の力は偉大だね〜。」

 

「ふぇ?僕の力ですか?」

 

しみじみと一人何度と無く頷いている聖とは違い、何がなにやら分からない恭也はやはり首を傾げるしかなくて。

一方の志摩子はと言うと、姉である聖の言葉がものの見事に的を射ていたがために頬を紅潮させながら悶絶していた。

 

「〜〜ッ。お、お姉さま、私はただ恭也君に楽しんでもらおうと……。」

 

「まあまあ、そう硬くならない。恭也君といると楽しい。それで良いじゃないの。」

 

………やはり妹と言うのは姉に勝てない存在なのだろう。

聖の一言は、まるで砂漠に降り注いだ雨のごとく、志摩子の心の内に沁みこんで行く。

隣で幸せそうに微笑んでいる恭也の笑顔。それがあるだけで良いのでは?

 

思わず、志摩子は姉のほうを振り返ってみると、彼女は意味深な微笑をたたえて恭也の手を引いて連れていた。

 

(………お姉さまには敵いません。)

 

……そして

 

「ねえ、祐巳。私、パンプスを履いてるけど、大丈夫なの?」

 

「大丈夫です、お姉さま。館内用のシューズをレンタルできますので!!」

 

「よーし、このボールにしようっと。」

 

「あ、僕も一緒のボールで……。」

 

「ダメよ恭也君。重すぎるし、それに指が上手く通らないでしょう?こっちの軽いのにしておきなさい。」

 

「うぅ……。」

 

ボーリング場内では皆、大賑わい。

特に一番はしゃいでいるのはやはりなんと言っても恭也のようである。

靴にしてもボールにしてもそうだが、姉である彼女たちのことをすぐに真似してみようとしてばかりで。

 

もちろん彼女たちとしては真似してくれるのはとても嬉しいのだが、ちゃんと自分にあったものを使わせるために目を光らせている。

 

二組に分かれてゲームを楽しむこととなった。

一組は、三薔薇に志摩子を加えたメンバーで。

もう一組は、祥子、祐巳。そして、令、由乃といった下級生スールで構成されていた。

恭也はと言うと……

 

「それじゃあ、先に恭也君は私たちのほうで……」

 

「はい、よろしくお願いします。」

 

「ん〜良く出来ました。」

 

2ゲームをすることになったので、恭也は1ゲームごとにそれぞれのところへと移動してもらうことになり、そして恭也はどうしてそうなったのかは分からないが、小さく頷き受け入れていた。

グリグリと少々荒っぽく頭を江利子が撫でていると、くしゃくしゃになった髪を恭也は軽く直すとニィッと無邪気な笑みをたたえていた。

 

「それじゃあ、いきます。」

 

勢い良く腕を振り、ボールを転がそうとする。

……が、しかしアクシデントと言うものは必ず起こるものである。

勢い良く転がそうとしたはずのボールは、どういうわけか宙を舞い、隣のレーンの中へとご挨拶。

そして、隣人のピンを弱々しく倒してしまう。

 

「あ、あ、ああ!!?」

 

「す、すみません。何分この子初めてボーリングに来たので!!」

 

「ああ、良いですよ。どうせタカの番でしたし。」

 

「そうだそうだ、ロボらしくカクカクしとけって。」

 

「ひ、ヒデエよ、みんな……うわぁあん!!」

 

何故か、迷惑をかけたはずなのにその場はただ一人を除いて賑やかで。

一人の男だけが涙ながらに遠ざかって行くだけであった。

 

「まあ、気にしないでください。いつものことですから。」

 

「え、ええ。お言葉に甘えて……。」

 

咄嗟に謝っていた蓉子はどうしたら良いのか分からなかったのでとりあえず苦笑いを浮かべながら頷いていた。

 

「恭也君。ボーリングって言うのはね、こうやってこう転がすんだよ?」

 

「あぅ………。ごめんなさいです。」

 

「気にしなくって良いから。こうやって〜。」

 

聖は体を寄せて、後ろから抱きしめるかのようにスローイングの仕方を恭也にレクチャーしていた。

申し訳ないと思いながらも、恭也はと言うと、ただただ彼女の教えを理解するように努力するしかなく、先ほど涙ながらに遠ざかっていった男のことなど気にならなくなって言ってしまった。

 

「そ、それでは今度こそ……」

 

ガラガラーン。

音を立てながら崩れて行くピンを目にして、恭也は踊り出さんばかりに喜んでいた。

 

「いっぱい倒しました〜」

 

「上手だったよ、恭也君。」

 

思わず蓉子は表情を蕩けさせながら迎え入れていた。

満面の笑顔、はしゃぐ姿、子供らしい活発な動き。

どれをとっても、彼女たちの心を和ませてくれて、柔らかな空気が流れる。

 

「では、次は私が行きます。」

 

そう、宣言してから志摩子は第一球を投じたのであったが……

 

「見事なまでのガーターね、志摩子。」

 

「お姉さま……。」

 

恨めしそうな視線を姉の聖に向けるが、軽く流されてしまう。

だが、天使からはちゃんと愛の手が差し伸べられるのであった。

 

「志摩子お姉さん、気を落とさないでください。」

 

「ありがとうね、恭也君。」

 

潤んで視線で恭也に声をかけられると、思わずその体を抱き寄せて、彼の柔らかな髪の海に顔を埋めて瞳に浮かんだ涙を隠した。

 

「チィッ。その手があったか!!」

 

「聖……あなた、最近本当に腹黒いわね……。」

 

「う、五月蝿いなあ。江利子だって本当はしたいくせに!!」

 

あきれたような口調で聖のことをなだめているのか刺激しているのか、分からない江利子。

そんな二人のことをやれやれと首を竦めて蓉子はただただ見ているしかなかった。

 

「いっくわよ〜!!」

 

豪快なフォームから繰り出されてボールは、まさにピンを壊さんかと言う勢いで次々となぎ倒していく。

その姿を見た恭也はと言うと

 

「聖お姉さん、スゴイです。一度に全部倒れちゃいました!?」

 

「むふふ〜。凄いでしょう?ストライクって言うのよ。」

 

「す、すと……?」

 

「ス・ト・ラ・イ・ク・よ、恭也君」

 

「馬鹿力……。」

 

「蓉子、一言多い!!」

 

……賑やかなボーリング大会はこうして進んで行く。

やはりと言うかなんと言うか、初体験である恭也と祥子は余り成績が芳しくは無かったが、この場において重要なのは楽しむことであるので、差して皆気にしていないようである。

 

 

 

「えっと、よろしくお願いします。」

 

「は、はいこちらこそよろしくです、恭也君。」

 

「恭也君、何か飲み物でも飲む?」

 

二ゲーム目、恭也は祥子たちのグループに混ざるために挨拶をすると、祐巳は思わず妙に丁寧な口調で挨拶を返していた。

そんな妹の存在を横目にしながら祥子は、かわいい弟である恭也が喉を乾かしているのではと思い小さな手を握って問いかけていた。

 

「えっと、良いんですか?」

 

「ええ、お姉さんが買ってあげますからね。」

 

祥子に手を引かれて自販機のほうへと行くと

 

(こ、これは、どうしたらよろしいのかしら?)

 

当然のことながら祥子は自販機での買い物は初めて。

百円硬貨と十円硬貨を持っていないと言うのも拍車を掛けて混乱を導く要因となっていた。

 

「あの、祥子お姉さん。僕これが欲しいです。」

 

指差した先にあったのはメロンソーダのジュース。

どのようにしていいのか分からないが、それでも祥子は弟の前で失態を見せたくないがためにとりあえず優雅に微笑んでごまかす。

 

「これが良いのね?もう少しだけ待ってね……。」

 

(如何したら良いのかしら……ああ、祐巳を連れてくれば良かったわ。)

 

「祥子、あなた何をしているの?」

 

「お、お姉さま!!」

 

振り返った先にいるのはなんと蓉子であった。

思わず耳打ちするかのように祥子は教えてもらうことにした、自販機の使い方を。

 

「はぁ……あなたはもう少し、一般常識を知るべきね。」

 

あきれたような表情をしながら蓉子は財布から硬貨を取り出すと、それを入れて缶コーヒーをひとつ買う。

 

その様子を見て、祥子もどのようにしたら良いか分かりはしたが、財布の中に肝心の硬貨が無いことに気が付き、再び奈落に突き落とされた……。

 

「もぅ、仕方ない子ね。」

 

そう、蓉子は言うと祥子の手のひらにそっと自分の持っている硬貨を恭也に見えないようにして握らせた。

 

「お、お姉さま……。」

 

「恭也君に良いところ見せたいんでしょう?だったら、早く買ってあげなさい。」

 

コクコクと、頷くと彼女は先ほどの蓉子がしていた動作を真似て恭也の求めているメロンソーダを買い、恭也に手渡す。

 

「はい、これでよかったわよね?」

 

「そうです〜。ありがとうございます、祥子お姉さん。」

 

深々と頭を下げてお礼を述べると恭也はすぐさま缶を開けてジュースを飲み始める。

コクコクと喉を鳴らしながら飲み終えると、嬉しげな微笑を浮かべて満足そうな表情をしている彼のことを見て、祥子もまた内心で思うところがあった。

 

(もう少し、色々と勉強しないといけないわね……恭也君の笑顔が見れるなら。)

 

 

 

 

こうして、ボーリング大会も終わりが見えてくると、疲れが出てきたのだろうかみな足取りが少々遅い。

 

「さってと、これから如何しようかな?」

 

江利子はと言うと、何処かの手ごろなレストランで食事でもして、今回のデートを終わらせたいと思っていたのだろう。

あそこはどうかとか、あっちの店のほうが安いとか……話し合っていると。

 

「お姉さんたち、お食事するなら俺たちと一緒しない?」

 

髪はそれぞれ明るい色に染め上げ、スーツを少々着崩した格好の男たちが数人ワラワラと寄ってくるかのごとくやって来た。

 

「結構です。私たち、この子と一緒にお食事をしたいものでして……。」

 

刺々しいまでの言葉によって祥子は男たちのことをあしらおうとしたが、このことがかえって悪かった……

 

(おい、この嬢ちゃんたち、結構金もってそうだな……)

 

(ああ、言葉遣いからして他の女たちと違う……これはやるっきゃないでしょう。)

 

アイコンタクトを取りながら男たちは少しずつ彼女たちを壁際に追い込むようにして迫ってきた。そう、彼らはキャッチをしにやってきたのだ。

そう、彼らはこのあたりに新規にオープンしたばかりのクラブのホストたちであったのだ。

 

「なあなあ、すぐそこにさあオシャレな店があるんだ。行こうぜ?」

 

「ですから、結構ですと言ってますでしょう?余りしつこいと警察を呼びますよ?」

 

などと言っているのに男たちは、一向に怯む様子を見せることがない。

彼女たちの容姿もさることながら、言葉遣いの端々から窺える高貴な振る舞いにお金の匂いを嗅ぎつけなんとしても顧客として確保したかったのだろう。

 

そして………

 

「良いからこいよ!!」

 

「イタッ!?」

 

「由乃、大丈夫!!人が大人しくしていればさっきから……」

 

とうとう、比較的体格の小さい由乃のことを男たちは無理やりに店に引き連れていこうとする。そんな彼らの横暴な振る舞いにとうとう令は堪忍袋の尾が切れそうになったが。

 

「僕のお姉さんたちに触らないでください!!」

 

恭也の甲高い声が、悲鳴のごとくその場を切り裂いた。

大好きな姉たちを困らせ、傷つけようとする男たち……。

彼らの振る舞いにとうとう恭也は切れた。

 

「あのな僕、俺たちのこと舐めてんのか?」

 

しゃがみ込んで視線を合わせるとガンを飛ばすホスト。

だが、そんな幼稚なものに怯むほど恭也は剣士として幼くは無かった。

 

「フッ」

 

一瞬にして思考が切り替わると、一気に懐に飛び込み掌打で腹部を強烈に叩く。

何が起きたのか分からないうちに、男は倒れ伏した。

 

「こ、このクソ餓鬼!!」

 

冷静さも何もないただ握りこまれた拳が飛んできても、恭也にとってはそんなものはゆっくりと流れてくる木の葉も同然である。

今度は足に力を込めて飛び上がり、顔面を殴りつけて鼻を潰してやる。

 

「ヤァ!!」

 

呼気を吐きながら一瞬にして足刀を二撃繰り出し、二人の男を悶絶させてやった。

 

「あんま騒ぎを起こすとマズイ。逃げるぞ!!」

 

リーダー格らしい男がそう号令を出すと、ホストたちは一目散に逃げていった。

恭也の後ろで呆然と見守っていた蓉子たちはと言うと、どう驚いて良いのか……

 

「きょ、恭也君かっこよすぎ!!もう、私の弟になろう。ね、ね〜?」

 

いち早く立ち直った聖は、恭也の小さな体を後ろから目一杯強く抱きしめながら、頬擦りをしながら無茶難題を言っていた。

 

「せ、聖お姉さん。苦しいです〜。」

 

「そうよ、聖。早く離れなさい!」

 

引っ手繰るようにして恭也の体を聖から引っぺがすと、蓉子は令たちのほうへと恭也のことを押しやった。

 

「ありがとうね、護ってくれて……。」

 

「カッコ良かったよ、恭也君。」

 

一番嫌な目にあっていたはずの令、そして由乃はと言うと恭也の細い髪をそっと撫でながら感謝の言葉を投げかけていた。

こうして、賑やかで何かと問題も起きた恭也とのデートは幕を閉じたのであった。

 




〜あとがき〜〜

 

はあ、やっと終わりましたな〜

 

祐巳「はいはいは〜い、質問です。」

 

アイヤ〜。何でございましょうか?なるべく手短にお願いいたしますよ〜。

 

由乃「キャッチって何?」

 

志摩子「それと、本当ならこの後に行われるはずであったお食事会のお話はどうなったのですか?」

 

あ……キャッチと言うのは、ですね……簡単に言うとホストさんたちが行うナンパのことです。新規顧客を獲得するための重要な営業だそうです。

詳しくは某青年漫画にて好評連載中の『都立水商』と言う漫画の二巻をご覧ください。

 

それと、お食事会ですね……本当ならこの後に令様のお宅に少々お邪魔して色々とクッキングタイムをしてもらう予定でしたが、書ききれませんでした。申し訳ない……

 

志摩子「それと、なるべく早くに黒衣の守護者のほうも書いてくださいね。

その、早く先生と………こ、これ以上は恥ずかしくていえません。」

 

祐巳、由乃「志摩子さんズルイ!!

それでは皆様ごきげんよう。」

 

でわでわ〜〜




投稿ありがと〜。
美姫 「所で、ボーリング場で恭也たちの横にいたグループって。
     しかも、そこから泣きながら走り去ったのは……」
いかん、美姫! それには触れてはいけない。
人間、知らない方が良い事もあるんだよ…。
美姫 「いや、そんな大層な事でも…。まあ、良いけどね」
それにしても、相変わらず恭也が可愛いな。
美姫 「本当よね〜。いいな、いいな〜」
何か、危険な薫りがしてきたので、本日はここまで!」
美姫 「ねえ、浩。…って、もういない!? えっと、それでは、また次回で♪
     ちょっと、浩〜!」



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