あとがき物語 二つの伝説 4−B

    *

「あっ、ああ……きい……もう、うちダメ……」

「わっわたしも……もう限界です……ああっ」

「ふふふ、二人ともどうしたの?顔が真っ赤だよ」

「きい、もう許して〜」

「もうあんなことしませんから〜」

「だ〜め、まだ許してあげない。いずれ欲求不満に耐えられず襲い掛かってくるでしょ?それに我慢してたら体によくないよ。ほらっ、二人共もっと力を抜いて。そのほうが楽だよ」

「そんなこと言うたって……ああっ!そこはダメ〜」

「柚菜は敏感だね。由衣はどうかな?」

「ああっ!そこはそんなに強くしないでくださいっ」

「ふふふ、二人とも敏感なんだね。わたしは嬉しいよ、じゃあそろそろ次いってみようか」

「ああっ、紀衣。そんなに強うしたらあかん」

「こんな格好恥ずかしいです」

「お楽しみはまだまだこれからだよ。ふふふ、二人ともどこまで耐えられるかな」

「いやああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!

    *

 朝きたら学校がなくなっていたことに対して、生徒達は三者三様だった。

 学校がなくなっていて嘆く生徒。

 学校がなくなっていて喜ぶ生徒。

 そんなことはお構いなしに授業の準備を進める生徒。

 しかしそんな中でも誰もが気になっていることがあった。

「なあ、姐さん達あの中でなにやってると思う?」

「そりゃ三人で楽しいことに決まってるだろ」

「お前もそう思うよな」

「あんなことやこんなことまで……ああ、やべえ。俺興奮してきた」

 ヤンキーな人達がお仕置き部屋と看板を掲げている倉庫の周りにたむろしていた。

「おまえらは全然解かっちゃねえな」

「あっ、兄貴」

「それってどういうことっすか?」

「おまえら、“死の見原河”って知ってるか?」

「いや、知らないっす」

「俺もです」

「なら、無理もないか。ちょうどいい、おまえらちょっと付き合え」

「いいすっけど、どちらへ?」

「今から連れてってやるよ。見原河に、そこで俺が知ってる姐さんのこと教えてやるから肝にしっかりと銘じておけ。これからこの世界で生き残りたかったらな」

 そう言って男は歩き出した。それに続く数人のヤンキー。

「まっ待ってくださいよ〜、兄貴」

    *

 ――黙殺の女神。

 それが彼女に付けられた異名だった。

 彼女が歩けば世のヤンキーは皆ひれ伏すと噂されるほどだった。

 しかし所詮は噂なので真相は定かではない。

 普段の彼女を知る者が聞けば眼を丸くしてひっくり返るだろう。

 それでも彼女を知るヤンキーは皆声を揃えて言うのだった。

 ――あいつに出会ったら迷わず逃げろ。絶対に眼を合わせてはいけない。

 それが何を意味しているのかは当事者の口から語られることは決してなかった。

    *

「ほら、着いたぞ」

「うわ〜、綺麗な所ですね」

「こんな場所がこの街にもあったんですね」

「だろ?いいもんだろここは。ここにはいろんな奴が安らぎを求めてやってくるんだ。俺も昔はよくここに来たもんだ」

 男は満足そうに笑いながら草むらの上に寝転がって眼を閉じた。

「こうやって風に吹かれてればむかついてることも面倒なことも全部どうでもよく思えてくるんだよ」

 ヤンキー達が寝転がってその感触を確かめているのを横目に男はぽつりぽつりと放し始めた。

「俺と姐さんが出会ったのはちょうど三年前のことだった」

    *

 少年は一人河を眺めていた。

 あたり一面に広がる大きな河。

 少年はこの場所が好きだった。すべてを忘れられるこの場所が。

 不意に隣から誰かの気配を感じた。

 でも別に気に留めることはなかった。

 この場所は誰もが癒されたくてやってくる場所だ。

 だからここにくる奴は皆兄弟みたいなものなのだ。

 たまにこの場所を荒らそうとする不埒な輩が来るが、皆が“おやっさん”と呼んでる人がそいつらを片付けてくれる。だからいつもここは平和だ。

「あの河の向こう側には何があるんだろうね……」

 しばらく河を眺め続けていると風に乗ってそんな声が聞こえてきた。

 今思えば独り言だったのだろうけど、何故か少年はそのとき振り向いていた。

 そこにはここに来るにはやや浮ついた格好をした少女が立っていた。

 真っ白なワンピースに大きな帽子。見るからにいいところのお嬢さんである。

 歳は自分とあまり変わらないだろう。

「ねえ、君はあの向こうに何があると思う?」

 そう言ってこちらを見つめてくる少女の瞳は真っ直ぐで穏やかだった。

 全てを見透かされそうな錯覚に陥った少年は眼を逸らして小さく呟いた。

「別に向こう側には興味はねえよ。俺はここに居られればそれでいい」

「そう……ここはすごく落ち着けるものね」

 そう言って微笑んだ彼女に思わず少年はドキッとしてしまった。

「そういうあんたはどうなんだよ?」

「わたし?わたしは島があると思うな。ずっとずっと遠い所に、だけど進み続けたらいつかは辿り着ける」

「はあ?おまえ何言ってんだよ。そんなの当たり前じゃんか」

「ふふふ、そうだね。でもわたしはそういう当たり前が好きだな」

「そんなもんか?」

「そんなもんだよ」

「おまえ変な奴だな」

「それは褒め言葉と取っておくわ」

「ははは、おまえ結構面白い奴かもな」

「ふふふ、やっと笑った」

「なっなんだよ?」

「ちょっと暗いオーラを背負ってたからね。ちょっとしたお節介」

「ほっとけっての」

 そんなことを言われた少年は実はそんなに悪いきはしていなかった。

 少年はこの不思議な少女に興味を持った。

 見た目よりもずっと親しみやすくどこかさっぱりとした喋り方が少年は気に入った。

「なあ、あんたはこの近くに住んでんのか?」

 気づけば少年は彼女にそんなことを聞いていた。

「そうだね。ここからはちょっと遠いけど。君は?」

「俺も似たようなもんかな」

「そう、だったら縁があればまたどこかで会えるかもね。……そろそろいいかな」

 彼女は腕時計で時間を確認した。

「もう行くのか?」

「ええ、ちょっと野暮用」

「彼氏とデートとかか?」

「そんなんじゃないよ。ちょっと貸してるものを返してもらってくるだけ」

「ふーん」

 少年は素っ気無い態度をとりつつも内心では安堵していた。

「それじゃあまたね」

 そう手を振って彼女は去っていった。

    *

「それが俺と姐さんとの出会いだ」

 男は懐かしそうに眼を細めてタバコの煙を吐き出した。

「へえ、案外平凡だったんすね」

「まあな。俺もあの後真っ直ぐに帰ってたらそのまま平凡で済んだんだろうな」

「それって」

「ここからが本題だ。おまえら姐さんの通り名は覚えてるか」

「はい。たしか黙殺の女神でしたっけ」

「ああそうだ。普段のあの温厚な姐さんにはあまりにも相応しくないと思われている通り名だ。、もっともそう思ってるのは善人面した奴等だけだがな。そうあれは何の前触れもなくやってきた」

    *

 少年はいつものように見原河にやって来た。

 半分は落ち着ける場所に行きたかったから。

 もう半分は以前出会ったあの少女にここに来ればまた会えるかもしれないという期待からだった。

 しかしそこには少女の姿はなく、代わりに見かけないゴロツキ集団と小柄な少女がいた。

 別にどうでもいいことだったが何故か気になって、ゴロツキ達の話し声に聞き耳を立ててしまった。

「それにしてもあの女、本当に来ますかね?」

「別に来ようが来まいがどっちでもいいだがな。来たら来たでたっぷり可愛がってやればいい。来なかったらこの嬢ちゃんをじっくりと料理するのさ」

「へへへ、それもそうっすね」

 どこにでもいそうなゴロツキ達だった。

 獲物の深く関係している人間を拉致して金を巻き上げる。

 できの悪い悪党の見本みたいなものである。

 所詮は自分達が弱いから去勢を張っているに過ぎない。

 本当に強い奴はああいう手は使わない。

 そんなことを考えているとゴロツキ達におやっさんが近づいていった。

「よう、あんちゃんたち。見慣れない顔だな」

「あん?何だよ」

 おやっさんに声を掛けられて不機嫌そうに顔を顰めるゴロツキの一人。

「別に何ってことはねえけどよ。ここがどこだか知ってるか?」

「んなこたあ知らねえよ」

「知らないのなら別に構わねえが、ここに物騒を持ち込むのは遠慮してもらいたい。ここはそういうものを持ち込んでいい場所じゃない」

「んだとぉっ!!テメエ俺達にけちつける気か」

「どうしてもやるっていうのならいつでも相手になってやるぜ」

「いい度胸じゃねえか。なら望み通りいますぐ叩きのめしてやる」

 いきり立ったゴロツキの一人が構えを取った。

「止めとけ。お前じゃこの人には適わん」

「なんでですかっ!?兄貴」

「そうだよ。君みたいな雑魚がおやっさんの手を煩わせるのは十年早いよ」

「何っ?……ひっ!!

 後ろから肩を掴まれたゴロツキはまるで金縛りにでもあったかのように一歩も動くことができなくなっていた。

「来たか……」

 ゴロツキのリーダー格は眼を細めた。

「おおっ!君か」

 おやっさんは少し驚いた顔をしていた。

 少年はそれ以上にそこに立っていた人物を見て我が眼を疑った。

「この人達はわたしに用があるんです。すぐ片付くのでご心配なく」

 そこに立っていたのはあの少女だった。

 しかし以前会った時とあまりにも雰囲気が違いすぎた。

 立っているだけで相手に異様な威圧感を与える圧倒的な気を放っていた。

「それじゃあ後は頼むが、あまり派手にやらないでくれよ」

「それは彼等次第ですよ」

「なんだとっ!?このアマ、言わせておけば」

「わたしが素直に貴方達の言うことを聞くとでも思っていたの?」

 少女はゴロツキ達を嘲るように眼を細めた。

「なっ!?こっちには人質がいるんだぞ。この女がどうなっても構わねえってのか」

 そう言ってゴロツキの一人が人質の少女の首筋に大型ナイフを突きつけた。

「きゃっ、やめてください」

「へへへ……少しでも動いてみろ。この女の首が地面に転がるぜ」

 まるでドラマのワンシーンだと少年は思った。

 ドラマだったらこういう場合、警官が必死の形相で説得でもするのだろう。

「やれやれ、そういうのはドラマの中だけにしてほしいなあ」

 少女は呆れたように溜息を吐いた。

「由衣、すぐ助けてあげるからね。少しだけ眠っててもらうよ」

「えっ?…あっ」

 由衣と呼ばれた少女は一瞬戸惑った表情を浮かべるが急に意識を失ったように体から力が抜けた。

 それに動揺したゴロツキが由衣を揺する。

「おいっ!!いったいどうなってるんだ、いったい何をしたんだ……ひっ!?

 慌てていたゴロツキの動きが不自然な形のまま止まった。

 それに他のゴロツキ達も戸惑いをみせている。

「おいっ!どうした」

「あっ兄貴、かっ体が……動かねえんだ」

「何だと?」

 リーダー格のゴロツキが怪訝な顔をした。

 少年も同じだった。

 そんなことは意にも介さず、少女はゆっくりとそのゴロツキに近づいていった。

「ひっ!?くっ来るな」

 それに怯えるゴロツキ。

 しかし、少女は顔色一つ変えずに歩を進める。その手には布で覆われた棒が握られていた。

 少女はゴロツキの前まで来てゆっくりと布を取り払った。

 それは一振りの刀だった。刃渡り一メートルといったところだろうか。

「わたしを本気にさせたことを後悔しなさい」

「ひいぃぃっ。おっ俺達が悪かった。だっだからいっ命だけは助けてくれ」

 金縛りにあったゴロツキは震えることすら許されない。

 他のゴロツキ達もその圧倒的な殺気に一歩も動けなくなっていた。

「散々人に偉そうなことを言って、挙句の果てに刃物まで出してきたんだ。お前達がどうなろうとわたしの知ったことではない」

 少女は刀を抜き放つと、由衣を抱えるゴロツキに突きつけて笑った。

 それは身も心も凍りつきそうな笑みだった。

 その笑みを見たゴロツキは皆悟った。この少女が誰なのかを。そして誰を敵に回したのかを。

 少女はゴロツキ達の表情に愉快そうに笑った。

「今頃気づいたところでもう遅いっ!!

 振り上げられた刀が今まさに振り下ろされようとする瞬間。

「待ってくれっ!!姐さん」

 刀はゴロツキの首筋に触れるか触れないかの距離でピタリと止まった。

「ボッ、ボスっ」

 ゴロツキは泣きそうな(泣いていたが)声でそこに立っていた男の名を呼んだ。

「貴方は斎藤さん。どうしました?」

「そいつ等は皆俺の部下なんだ。許してくれとは言わない、だけど大目に見てやって欲しいんだ。頼む。こいつ等は知らなかったんだ姐さんのこと。だから止めようとして来たんだが、……遅かったみたいだ」

 斎藤と呼ばれた男は少女が持っている刀を見て神妙な面持ちで頭を垂れた。

「姐さんがそれを持ってるってことは。姐さんがむちゃくちゃ怒ってるって証拠だ」

「当たり前だよ。大事な友達を誘拐してあまつさえ金を要求してくるんだから身の程知らずもいいところだよ」

「姐さんの気持ちはよく解かる。だけどここはどうか見逃してやってほしい。こいつ等には俺がきっちりと姐さんのこと叩き込んでおくから」

 頼む、と斎藤は深々と頭を下げる。

 少女はそれを無言でしばらく見つめた後、由衣を捕まえていたゴロツキの前髪を薙ぎ払った。

「ひっ」

 その衝撃でゴロツキは尻餅をつき、金縛りが解けていることに気づいて後退る。

 少女はそれを一瞥して、眠っている由衣を担ぐと踵を返した。

「今度同じことがあれば命はない」

 それは底冷えのする地の底から響いてくる声だった。

 少女はそれだけ言い残すと見原河を去っていった。

    *

「それ以来姐さんを見かけたことはなかった。ちょうど一年たって姐さんは入学してきた。正直驚いたぜ。あの頃よりもずっと綺麗になってたからな」

 などと男は懐かしそうに笑っていたが。聞いていた側はそれどころではなかった。

「あっ兄貴……それマジっすか?」

「あの姐さん……」

「ははは、初めて聞く奴は皆そんなもんだ。まっ怒らせなけりゃ問題ねえよ」

 からからと笑う男とそれに怯えるヤンキー達。

 今日も見原河は平和だった。

 


 あとがきのあとがき

麗奈「今回は紀衣の武勇伝ね」

紀衣「うわ〜んっ!!こんなのわたしじゃない〜」

佐祐理「あはは♪若かりし思い出というやつですね」

紀衣「こんなの知りませんよ〜」

真雪「昔を思い出すな。あたしも紀衣くらいの頃はタカと一緒に街中を乗り回してたからな」

地価「あの頃のお姉ちゃん……うう、思い出したくない」

麗奈「まあ、それは置いといて紀衣もついにやったわね」

紀衣「何のことですか?」

真雪「またまた〜、とぼけちゃって」

麗奈「そうよ。柚菜と由衣にあんなことやこんなことまで」

紀衣「うっ、うそだっ!!

佐祐理「駄目ですよ現実逃避しちゃ」

紀衣「嫌だっ!こんなこと認めないぞ」

麗奈「証拠写真もあるわよ。ほら」

 麗奈、紀衣に数枚の写真を見せる。

紀衣「そっそんな……、こんなのって、……こんなのって……、いや――――――――――っ!!!!

 

 





こっちのパートは殺伐というか。
美姫 「もの凄い武勇伝ね」
あ、あはははは。
美姫 「こっちはどんな風に展開してくのかしらね」
こっちの次回もドクワクして待つべし!
美姫 「それじゃあ、まったね〜」



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る