大地を焼く灼熱。

 岩盤を砕き咆哮する衝撃。

 巻き起こる破壊の嵐の中で、俺はただひたすらその名を呼び続けていた。いずれ来るであろう死から救えなかった最愛の人の名を。そして死後もなお他人の野心のために平穏を踏みにじられた魂の名を。

 ……リンス・ハーネット。

 ほんの一年足らずの間に出会い、そして愛し合った少女は背負わされた宿命に押し流されて戦場に立つ。

 俺は復讐のために力を欲し、尽き果てぬ憎悪に身を任せて戦場を駆ける。

 

 気付けば、俺の手には未だ鮮血が滴り脈動する心臓が握られていた。

 そう、あいつの心臓だ。俺が自ら引きずり出した……

 違うぞ、引きずり出せるはずがない。相対した時に、あいつはもう人じゃなかった。人の体をしていなかった。臓器などあるはずもない。

 

 刹那、体に後ろから両の腕を絡められて身動きが取れなくなる。おぞましいほどに冷たい感触に俺はすぐにそれが彼女の物だと悟った。

 

(殺して)

 

 殺したくないんだ。

 

(殺してよ)

 

 イヤなんだ。もう誰も殺したくない。

 

(ねえ、殺して? 私と同じように彼女も一緒に)

 

 目の前には無防備なアンスの姿がある。誘う声に導かれて俺の腕がその胸へ突き立てられ―――――― 

 

 

 声にならない悲鳴と共に首を刎ねられたように体を起こした。闇の中でいつもと変わらない蒼い髪が揺れて、今が現実だと教えてくれる。全身をびっしょりと脂汗が濡らしていた。

 久しぶりだ、夢を見たのは。あんな昔の夢はここ何年も見ていなかった。

 アヴァンは無造作にベッドから降りると、自室に備え付けられているパソコンに電源を入れた。デスクの前の椅子に腰を下ろして間もなくして光り始めたディスプレイを見つめていると、背後で衣擦れの音が聞こえてくる。

 

「ん……アヴァン?」

 

 一糸纏わぬ姿で寝そべっていたアンスがゆっくりと顔をこちらに向けた。おもむろにシーツで体を隠しつつ、そっと後ろからアヴァンの首に両腕を巻きつかせてくる。アヴァンも振り返りつつ彼女の顎下を指でくすぐって、しばらくじゃれ合った。

 

「すまない、起こしたか」

「……いいの。それよりどうかした?」

「悪い夢を見ただけ。なんでもない」

 

 そう、とアンスは呟くと、今度はアヴァンの首筋に唇を這わせてきた。

 

「おい」

「いいでしょう? 仕事は一段落したんだし。二人きりなんて、あの子達が気を使ってくれでもしないとまず無理なのに」

 

 いじわる、と言おうとする口をアヴァンが自分のそれで塞いだ。自然と互いに熱い吐息が漏れる。

 休暇を終えたエンジェル隊とエルシオール・クルーは皇国軍司令部から直々に新たな任務を与えられた。いや、正確に言えば本来の任務に戻ったと言えるだろう。

 未開星系における、ロスト・テクノロジーの結晶『リフレジェント・クリスタル』の捜索任務。出発から早くも二ヶ月が経とうとしているが今のところ収穫はない。現在皇国が保有しているクリスタルは惑星アビスフィアのクレーターから発見された一個のみである。軍部は更なる技術向上に執着しており、クリスタルの収集がその近道になると考えているらしい。所詮は軍の野心家に利用されているだけなのだが、これが軍人の仕事である。

 というわけでアヴァンとユウ、ユキ。そしてアンスの四人も研究チームとして非公式ではあるがこの調査団に編入された。おかげで寝る間も惜しんで熱心に働く羽目になり、当然夜の営みも疎かになってしまうというものだ。それを不憫に思ったのかは分からないが、ユウとユキが残っていた仕事を引き受けてくれたため、二人はこうしてアヴァンの自室で色々とできるわけで。

 一度離れ、アヴァンが不敵な笑みを浮かべる。

 

「後悔するなよ?」

「もちろん。それに、その台詞はそのまま貴方に返します」

 

 再びベッドに縺れ合いながら倒れていく二人。甘い一時に他の全てを忘れて夢中になる。

 その時だった。

 

「アヴァ〜ン、朝だぞ〜。いつまで寝て、る、ん……だ?」

「アンスさん、頼まれていたネギネギたちのしゃ、し……」

 

 実はもう朝の十時を過ぎていたため、未だ寝ているらしいアヴァンたちを起こすべく現れたタクトとヴァニラはかくして、イヤンでウフンでバッカ〜ンなシーンに直面してしまったのだった。硬直するタクトの横でヴァニラの頭が四方八方に湯気を噴き出している。

 一方のアヴァンとアンスも困り果てていた。いやまさか、司令自ら起こしに来るほどの時間になっていたとは思っていなかったのだ。部屋は暗いままだったし、時間の感覚が狂っていたのも事実。しかしタイミングよく、こう、アヴァンがアンスにちょうどのしかかった辺りでドアを開けられるとどうしようもなかった。

 そして一瞬の後、アヴァンの眼光に殺意が宿るのとアンスが面白いぐらい赤面したのは同時だった。

 

「タクト……邪魔するな」

「えーと、その、ね? ヴァニラもほら、大佐とね? ね?」

 

 何が“ね? ね?”なのか。ヴァニラはこれでもまだ14歳(第一章開始時は13歳。ブロッコリー公式設定)である。にも拘らずタクトがアヴァンたちと同じところまで手を出してしまったら、ロリコンで性犯罪者で皇国軍をクビになってしまう。いや、その前に親衛隊の手によって公開処刑されかねない。

 

「ちょっと待てアンス。タクトがそこまでやっていたら、あいつは犯罪者だぞ?」

「あ、そうね。じゃあ……どうしようかしら?」

 

 真剣に悩むアヴァンとアンス。だが心配御無用、すでにタクトは第二章八節でヴァニラを押し倒した挙句、一晩中イヤンでウフンでバッカ〜ンな事をガンガンしていたのである。特にあとがきでの不当な発言が読者様に多大な誤解を招いてしまったことを、この場を借りて深くお詫びいたします。

 

「ともかく、アヴァンは一度起きてくれないか。もうすぐ司令部とのミーティングなんだ」

「へいへい……」

 

 ドアが閉じられるとアヴァンはベッドから降り、手早く椅子に掛けてあった服に袖を通す。軍から支給されている士官用のもので、それなりに着心地は悪くない。一方のアンスは途中でお預けを食らったことですっかり不機嫌になってしまっていた。むしろ欲求不満といった感じだろうか。

 

「待ってろ。すぐ戻る」

「でも……」

 

 駄々を捏ねるアンスの頬にそっと口付けし、アヴァンは部屋を出て行った。

 そして徐々に彼女の中である不安感が膨れ上がっていることに、彼はまだ気付いていなかった。互いの距離が縮まれば縮まるほど、それは不安から確信めいたものになっていた。

 つまり、アヴァンは自分と親密になることを恐れているのではないだろうか。

 他に人がいる時には絶対に見せないが、それでも時折どこか悲痛さを秘めた眼差しで自分を見ているのだ。まるで、悲哀と懺悔とが入り混じったような、そんな瞳だった。そしてそれは今回の任務が始まってからさらに見ることが多くなったことが、アンスの感情を煽っているのだ。

 元々アヴァンは軍の人間ではない。これ以上彼が軍の命令に従うことを良しとしないのなら、明日にでもこの艦を下りることもありえる。ただでさえ今の総司令部には不審なところがいくつも見られるのだ。

 不意にアヴァンのデスクのほうへ目をやると、端末のウィンドウに電子メールの着信を知らせる表示が見えた。興味本位で手を伸ばし、端末を操作してメールを開くと―――――

 

「ウソ……でしょ……ねぇ、アヴァン?」

 

 そこには、何よりも恐れていたことが記されて―――――

 

銀河天使大戦 The Another

〜破壊と絶望の調停者〜

 

第三章

第一節 Fall Down

 

 

『よろしい。では調査を続行したまえ』

 

 通信が終了し、ブリッジに安堵の息が漏れる。総司令部との一時間に及ぶリフレジェント・クリスタル調査計画についてのミーティングは、エルシオール側が立案したプランを採用することで決着がついた。なによりこちらで立てた探索プランが総司令部に受け入れられるか否かで、エルシオールに関わる多くの人間の命運が決まってしまうのだから、かなり重要な会合でもあった。

 それにしても、とレスターは眉をひそめた。

 総司令部側が要求したプランは非人道にもほどがある。時間短縮のために必要な事前観測を省略したり、現場に投入するスタッフに与える装備の削減など、こちらの安全を完全に無視したものだったからだ。幸いシヴァ女皇の代理として出席していたルフトの取り成しでなんとか事無きを得たのだが……

 

「タクト……」

「分かってるよ。確かにキナ臭い」

 

 軍の中枢が第二のエオニアになりかねない、ということはタクトもレスターも重々承知だ。権力者というのは僅かに道が逸れただけでとてつもない間違いをしでかす。しかし上位命令が絶対である以上、エルシオール・クルーという多くの者の進退を預かる二人は下手を打つことはできないのだ。

 ともかくしばらくではあるがこちらの安全は確保された。そしてこの間にリフレジェント・クリスタルに関する情報を集める必要がある。現在こちらが持ち得る情報だけでは軍部の目的を推し量ることは不可能だからだ。

 ロスト・テクノロジーの結晶。

 超高性能情報回路。

 現代のトランスバールでは精製不可能な物質。

 分かっていることはこの三つだけで、あとは全て最重要機密というベールに包まれている。そして現存するのは、惑星アビスフィアから回収され白き月に保管されている一個のみ。

 また、今回の任務でもう一つ看過できない問題があった。

 あまりに不明瞭な動機で行われる任務にクルーたちが皇国軍に対する不信感―――――不満が爆発的に高まっていることだ。今まではタクトたちの持つカリスマ性などの諸要素のおかげで大きな混乱こそないが、一触即発の状態であることに代わりはない。

 ふと見れば、アヴァンはまだ席に座ったままだった。

 

「…………」

「アヴァン?」

「…………」

「アヴァン!」

「ん……どうした」

 

 何か考え事でもしていたのだろうか。タクトが呼びかけてもすぐに気付かなかった。それにしても彼が呆けていることは珍しい。

 

「会議なら終わったよ」

「そうか」

 

 よく忘れがちだが、アヴァンは旧時代からあれこれと長く生きている人間だ。彼にしか分からない悩みや気苦労があるのかもしれない。もしそうなら、僅かでも負担を軽くしてやることが戦友としての勤めだろう。

 

「アヴァン、この後はどうするんだい」

「特に予定は入っていないけど、どうした?」

「ちょっと付き合ってくれ」

 

 時計を見ればもう昼過ぎだった。

 二人で並んで歩くのは久しぶりだな、とタクトはふと思い返した。よく考えてみればアヴァンと親しい付き合いが始まったのは、彼がエルシオールを庇って行方不明になり再び生還した後である。それまでは『皇族と親しい民間の協力者』という肩書きで一線を引いていたような気がする。

 そういった意味で、今の関係は利害の一致を除いても良いものになっていると思える。先日もヴァニラの誕生日の件であれこれと相談に乗ってもらったばかりだ。

 

「なあ、タクト」

 

 互いに蕎麦をすすっていると、不意にアヴァンが切り出した。

 

「今のままでいいと思っているのか?」

「そうだな……ヴァニラのことなら、時期を見て式の話をしようかと思ってるよ。まだ結婚できる年齢じゃないからなあ。やっぱりやるならジューンブライドがいいよな。こう、レトロだけど雰囲気のある教会でみんなを呼んで……」

「はぐらかすんじゃない」

 

 アヴァンの目は鋭く、そして真っ直ぐだった。笑っていたタクトの顔も自ずと引き締まる。

 言わんとすることは分かる。このままエルシオールと言う存在を軍の尖兵に貶めてしまうべきではないということぐらい、タクト自身感じている。しかし自分が軍人である以上、命令に違反するわけにはいかなかった。

 

「いきなり何なんだよ。確かに総司令部のやり方はいけないと思うけどさ」

「軍人としてのお前の在り方を否定するつもりはない。だがこれだけは忠告させてもらう」

「………」

「奴らはその目的のためなら、躊躇なくお前の仲間を捨て駒にするだろうし―――――――」

 

 タクトの顔が強張る。

 言わないでくれ。

 分かっているんだ。

 その可能性を捨てきれないってことは、誰より自分が分かっている。

 あいつらがヴァニラを、みんなをどうしようとするぐらい……!

 

「お前の大切なものに向けて引き金も引く」

 

 それはアヴァン自身も経験があるのだろう。その表情は暗かった。

 時間だけが無情に過ぎていく。気付けば蕎麦はもう伸びきっていた。

 

「アヴァン」

「ん?」

「お前なら、さ。そういうとき、どうする?」

「参考にはならないと思うけどな?」

「いいよ。聞かせてくれ」

 

 俯いたままタクトが促す。

 そしてアヴァンは、

 

「今の俺なら、俺の物に銃口を向ける奴は全て殺す。例え相手がタクト、お前でもだ」

 

 断言した。ひたすらに冷徹な眼差しでそう高らかに宣言した。

 容赦はしない。慈悲も無用。仁義や礼儀など糞食らえだ。如何なる理由も認めず、如何なる例外も許さず、ただ全ての敵を血の海に沈めるのみだと、彼の双眸が告げている。

 確かに軍部がユウやユキ、アンスの身柄を確保しようとすれば、アヴァンは容赦なくその牙を彼らに向けるだろう。タクトにはそれが容易く想像できた。

 

「でなければ何も守れない。たった一握りの想いさえ」

「そっか」

「そうだ。だから言っただろう、参考にはならないってな。俺とお前じゃあ、根本的な価値観が違うんだから」 

 

 

 

 

 同時刻、居住区。

 自室にこもったランファがその作業に没頭し始めてからかれこれ五時間は経過しようとしていた。定期的に発信される低出力信号を利用した暗号通信の解読。基礎レベルの知識しか持たない彼女はこれだけの時間をかけて、ようやく先日届いた彼からのメールの封を切ることができた。

 

「ふんふふん〜♪ なになに〜、久しぶりだなランファ……」

 

 久しぶりだな、ランファ。すまないが今回は君のおまじないの答えはできない。というのも率直言ってしまうが、君たちに極めて大きな危険が、それも二つも差し迫っているからだ。

 まず一つ目だが、これは皇国宇宙軍総司令部にある。彼らはエルシオールを接収し『英雄の乗る艦』を自分たちの手駒にすることで、今後の皇国内における発言権を増大させるつもりだ。君たちが本星を出発してから一ヵ月後の今、非公式ではあるがすでにルフト大臣は更迭されシヴァ女皇陛下共々白き月で軟禁状態にある。

 

「ぬわぁんですってぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

 おまじないの答えがもらえないことは確かにショックだが、それ以上にこの情報はヤバすぎる。現在のエルシオールは辺境の中でも辺境と呼ばれるほど星系の端にいるのだ。この手の最新情報が入手できない状態になっているから、彼のもたらした情報はかなり大きかった。

 だがこれで、彼が解読に時間のかかる(実は発信源の特定も難しい)低出力信号による暗号通信でメールをすることを提案したことに納得がいく。自分(本当は自分たち)が窮地に陥ったいざという時に、助けてくれるためだったのだ!

 

「ああ、アポロ様……私のためにここまで……」

 

 半ば妄想というか自己陶酔に陥りつつも、ランファはメールを読み進めた。

 

 そしてもう一つ。これが非常に厄介なのだが、君たちのクルーの一人である、アヴァン・ルースのことだ。こいつはもともと、エルシオールが探索命令を受けたリフレジェント・クリスタルの、旧時代からの研究者なのだ。皇国軍がクリスタルの研究を進めることで自身に危険が及ぶことを恐れた奴は、以前から皇国軍への妨害工作を繰り返していた。詳細は後日説明するが、奴が今すぐにでも離反し、君たちに刃を向ける可能性は極めて高い。テラス4や惑星アトムの件も奴の差し金だ。

 俺も準備が整い次第、エルシオールと合流する予定だ。それまですまないが―――――

 

 そこで文章は途切れていた。ちょうどこの辺りの受信は総司令部とのミーティングとぶつかっていたため、電波状況が悪くデータが破損してしまったのだろう。

 ともかく必要な情報は得られた。とりあえずフォルテと相談して今後の対応を決めなければ……

 

 

 

 

 時刻はすでに夕刻を過ぎていた。

 タクトと別れたアヴァンは一人、紋章機用ハンガーの通路を歩いていく。目的もなく揺れるように歩くその姿は、まるでこれで見納めになる光景を改めて見て回っているような気配さえある。

 

「待ちな」

 

 唐突に呼び止められて振り返ると、そこにはフォルテが立っていた。普段の、のらりくらりとした雰囲気はない。それはアヴァンにもすぐに分かった。

 戦闘態勢だ。彼女は今、自分を倒すべき敵と認識した上で対峙している。

 

「何の用だ?」

「ネタは挙がってんだよ、アヴァン。勝手だけど部屋を検めさせてもらったからね、面白いものが色々見つかったよ、デバイスの中から」

「………」

「核弾頭のデータ、旧時代に開発された人型兵器の設計図面、再編成された皇国本土防衛艦隊の勢力配置図………そして、三種類のRCSの稼動データ」

 

 彼女の言っていることがどういうことを意味するか。

 核弾頭と旧時代の人型兵器のデータはブレーブ・クロックスの勢力に供与されたものと合致する。

 再編成された防衛艦隊の戦力データとあるはずのないRCS稼動データの大部分は、あの未確認のRCSの襲撃事件のそれと符合するのだ。

 

「他のはともかく、RCSの稼動データだけはごまかせないはずだよ。何せ、こっち側には存在しない二機種のミッションレコードや詳細な機体図面まで揃ってるんだからね!」

 

 そこでアヴァンはやれやれ、と肩をすくめた。

 諦めからだろうか。

 いや違う。彼の口元は不気味なまでに吊り上っているのだから。

 

「お前……いや、全員揃っているんだろう? エンジェル隊」

 

 格納庫の角やコンテナの陰から、隠れていた残りの五人が姿を現す。そこにタクトの姿がないのは、やむをえない理由からか、それとも……

 

「タクトはどうした?」

「タクトさんは呼んでいません。私たちの独断です」

 

 その問いに答えながらミルフィーユが悲しそうな瞳を向けた。

 

「どんな理由があるかは知らないけどさ。やっちゃいけないことはいけないんじゃないんですか!?」

 

 ランファが必死に問いかける。

 

「無理ですわ。ランファさん、すでにあの人はもう……」

 

 ミントが辛そうに顔を伏せた。

 

「そうさ、骨の髄まで外道に成り下がっちまったんだからね」

 

 フォルテが愛用のリボルバー拳銃をぴたりとアヴァンの額に照準する。

 

「どうして? アヴァンさん、いや、いやぁっ……」

「ちとせさん……」

 

 その場に泣き崩れるちとせ。それを支えるヴァニラはただ真っ直ぐな瞳を彼に向けていた。

 

(……………)

 

 アヴァンはその時を感じていた。

 もはや決定的だった。生じてしまったこの溝を埋めることはもう出来はしないだろう。いや、だめだ。もっと徹底的に、完膚無きまでに打ち砕かなければならない。そう決めたはずだ。

 こいつらに本当の意味で手を貸してやると決めたのだ。生半可なものでは意味を成さないのだ。

 

「今ならまだ間に合う。投降しな」

 

 フォルテが決まりきった文句を告げる。しかしそれに自分が答えるなどと、彼女とて思ってはいまい。

 

「もう一度聞く。投降しろ」

 

 瞬間、アヴァンが動き始めると同時にフォルテが拳銃の弾丸をすべて叩き込んだ。飛翔する弾丸は常人では回避不可能な状況の中で標的に向かっていく。

 しかし、

 

「ば、ばかながぁっ――――――――!?」

 

 次にフォルテが見たのは、横から自分を蹴り上げる蒼い影だった。ハンガーの天井に叩きつけられ、そのまま付近のキャットウォークに落ちるフォルテを、残りの仲間たちは呆然と見ていた。

 ありえなかった。撃ち出された銃弾より速く射手の死角に回り込むなど、フォルテ以上の体術を持つランファですら不可能な芸当だ。そしてその蹴りの威力も、彼には及びもしない。人一人を五メートル以上の高さへ吹き飛ばすなど、どこの化け物の仕業であろうか。

 

「ごぶっ―――――!?」

 

 そこでランファの思考は途切れ、その体はカンフーファイターの装甲に打ち付けられていた。腰を抜かしてその場にへたり込もうとしたミントとミルフィーユは、軽々と投げ飛ばされて近くのコンテナに激突して昏倒する。

 まったくありえない現象だった。

 まるでこれは嵐だ。エンジェル隊の中でも屈指の戦闘能力を持つ二人が悲鳴の一つもあげる間もなく倒されてしまった。そして次の瞬間にはさらに二人。

 殺される。

 そうヴァニラが結論した瞬間、ちとせごと通路のドアまで吹き飛ばされて彼女の意識は闇に落ちた。

 

 

 

 

「ふぅ……」

「はぁ……」

 

 アダルティな雰囲気の中、レスターとアルモは本日通算三回戦目を終えてベッドのシーツの中でまどろんでいた。かれこれ二週間ぶりの逢瀬ゆえに熱く燃え上がるのは必然で、まあ色々困ったちゃんなのだった。

 とはいえこんなことをやっていられるのも、タクトが善意(という名の諦め)で一日艦長代行を引き受けてくれたのである。そのときの会話はこんな感じだ。

 

(レスター、最近ご無沙汰なんだろ?)

(お前には関係ない)

(冷たいやつだなぁ。たまには代わってやろうか? 艦長)

(しかしな………)

(いいって。欲求不満で倒れられちゃかなわないし)

(よし、ではお前に一日艦長代行を命じる)

What’s!?

 

 こうしてタクトは現在もブリッジで指揮をしているのだった。多少かわいそうな気もするが、もともと艦長職だった彼にとってもいいリラックスになっていることだろう。

 

「さて、さすがにもう行かないとまずいか」

「ですね。もう交代してから三十二時間ですし……」

 

 一日艦長と言いながら、実は一日以上やらせていたとは侮りがたしレスター・クールダラス。

 ともかく二人はシャワーを浴びて(ちゃっかり四回戦)手早く着替えるとブリッジに向かうべく部屋を出た。そして出たところで、

 

『わあっ!?』

「うごっ!?」

 

 時速三百キロで走行中だったアウトローにハネられて床をごろごろと豪快に転がるレスター。何事かとアルモが問いただすと、

 

『ご主人様……じゃなくてフォルテさんがいないんです! クリスタルの通信にも応答してくれなくて……エンジェル隊の皆さんも同じなんです!』

「え!?」

 

 エンジェル隊にはいつでも緊急事態に対応できるよう、クロノクリスタルによる通信は必ず応答するよう言いつけてある。特にレスターが艦長に就任してからはいっそう厳しく言い渡してあるため、余程のことがない限り通信を無視することはありえない。

まして一番そういった重要性を理解しているはずのフォルテが音信不通となると、

 

『何かあったんでしょうか……』

「とりあえず私たちはブリッジに向かいます。アウトロー君は引き続き捜索を」

『分かりました、副艦長』

 

 倒れたままのレスターは放置し、話がどんどん進んでいく。まあ、損な役回りなのは昔からのことだ。仕方がないと思って諦めて欲しい。

 

 

(ご主人様、皆さん……無事でいてください!)

 

 アルモたちと別れたアウトローはそのままフォルテたちの追跡を続けた。全員の無事を信じながら艦の隅々まで検索し、やっとの思いで彼女たちの居場所の特定に成功して駆けつけた時には、

 

『ご、ご主人様ッ!?』

 

 擬人化した少年が格納庫に倒れる女主を抱き起こした。見れば彼女は吐血し、ひどく苦しそうに喘いでいる。透視スコープで確認すれば肋骨が数本折れていたものの、幸い内蔵に損傷はなさそうだ。

 他のエンジェル隊たちも同様に、命の危険に晒されてはいなかった。しかし彼女たちをここまで追い込むほどの存在を、アウトローは否応無しに知っていた。

 

『アヴァン……ルース』

 

 

 

 

 彼女はひたすらに待っていた。

 何もかも失っていく不安、大切な物がことごとく腕の中からすり抜けていく恐怖、成す術がない現実への絶望。諸々の感情を胸に抱いて、アンスは彼が現れる瞬間を待っていた。

 なんと言葉をかけるべきか分からない。彼が今までしてきたことが一体何のためなのか理解できないからだろう。いや、理解はしている。すべてはユウとユキ……あの子達のためだ。彼は自分自身のために傲慢になれない人だから。

 ここ―――――コスモのコックピットでアヴァンを待つこと四時間あまり。整備班の人間には操縦系のメンテナンスと言ってあるから問題ないだろうが、自分の忍耐力はそろそろ限界だった。

 部屋を出て行ったアヴァンを待つなら、彼の自室でよかったのかもしれない。しかしもう一度彼がここに戻ってくる確証は無い。

 

「なに、やってるんだ?」

 

 言われてに顔を上げると、蒼の髪が視界一杯に広がっていた。後ろからは緊急警報が五月蝿いほど鳴っている。もう彼は引き返せないところへ来てしまっていたのだ。そして自分も。

 

「裏切ったんですね」

「……黙っていたことは認める。言い訳をする気もない」

「私のことも、騙していた?」

 

 刹那、背けた彼の表情が曇る。

 卑怯だ。そういう顔をされたらもう追求できなくなってしまう。けれど聞かずにはいられなかった。

 

「私への気持ちも全部……ウソだったんですか」

「それは……」

「それは?」

「それだけは違う。信じてくれ」

 

 自分を見つめるアンスの瞳から不安の色は消えない。こうなることも分かっていたはずで、必要ならエルシオールに置いていくつもりだった。だがそれは最初から選択できないことも、アヴァンは承知している。

 だから最後に、一つだけ。

 

「真実を」

「え?」

「真実を、知る覚悟はあるか」

「それは事件の? それとも貴方の?」

「すべての、真実をだ。知ればもう後戻りは出来なくなる」

 

 アンスにとって知らなかった頃へ戻れないことは、正直どうでも良かった。必要なのは覚悟でも決意でもない。もっと大切なものだ。

 

「それでもいいなら、俺と一緒に来てくれ」

「……アヴァン」

「…………」

「貴方は私を、守ってくれるの?」

 

 欲しいのはその腕。

 願うのはその温もり。

 それさえあれば自分はどこへでも行ける。彼と一緒なら地獄の底でも笑っていられるはずだ。

 

「もちろんだ。いや違うな……守らせてくれ」

「なら決まりです。もう――――――離さないで」

 

 コックピットの中で抱き合う二人。

 そこへ別の警報が発令されると、アヴァンはにやりと口元を歪めた。

 

「?」

「ショウ・タイムだ。行くぞ」

 

 

 

 

 エルシオールのブリッジに緊張が走ったのはつい今しがたのことではない。額からの出血も顧みずヴァニラがアヴァンの離反を通告した五分前からタクトとレスターの脳裏に後悔と焦燥が駆け巡り続けていた。

 しかしそこへ追い討ちを掛ける様な事態が発生した。

 

「艦長! 本艦正面、距離4万に移動する熱源を感知! 数は2!」

「識別照合……ライブラリに該当あり……あ、RCSですっ!」

 

 報告するオペレーターの声が上ずった。出現したのはテラス4を破壊したあの二機なのだ。

 

「なんだとっ!?」

「お迎えだ。手が込んでるよ、まったく」

 

 タクトが自嘲気味に笑う。

 

「どういうことだ?」

「このタイミングで現れるって事は、そういうことだろ」

 

 踵を返し歩き出すタクトに、レスターは振り返らずに告げた。

 

「生きて帰って来い。命令はそれだけだ」

「了解、艦長殿」

 

 交わした言葉はそれっきり。タクトがブリッジを出て行ったのを合図に、レスターが声を張り上げる。

 

「緊急警戒態勢! 全兵装起動! エンジェル隊は動けるか!?」

「FCSリンク開始、各員は所定の位置につけ」

「エンジェル隊は医療班が現在応急処置中。フォルテ中尉とランファ少尉は重傷、ミルフィーユ少尉とミント少尉も意識はありませんが、四人とも命に別状はないそうです。ただ、ちとせ少尉は軽症ですが精神的にかなり錯乱しており、現在は鎮静剤を打って眠っています」

 

 これで実質、出撃可能なのはヴァニラのみだ。しかし戦力的には向こうが上である。なにせテラス4の戦闘では、RCS一機に対してエンジェル隊総がかりでも足止めが精一杯だったからだ。いくら度重なるチェーンナップによってギャラクシーが強化されていても、敵う相手ではないのだ。

 

「砲撃準備! ギャラクシーが接敵したら援護射撃だ! クロノ・ドライブ、スタンバイ!」

 

 必要なのはここから離脱すること。正面からぶつかるような戦闘は回避しなければならない。最悪、味方機を囮にしてでもクロノ・ドライブを強行することも考えられる。

 

「艦首カタパルトが一人でに起動しています! 停止信号、受け付けません!」

「艦首ブロックへのエネルギーラインを切って!」

「無理です! 予め細工してあったらしく、制御コードが……」

 

 書き換えられていたというのか。

 アルモは愕然としながらも、この騒ぎは周到な準備の上で起こされたものだと推測した。ともすればアヴァンはすでにエルシオールを脱出する手はずを整えているはずだ。

 しかしオペレーター上がりとはいえ副官の大役をこなしているだけあって、彼女も戦術やらなにやらとかなり勉強したらしい。しっかりレスターのサポート役を果たしている。

 

「EMX-02の起動を確認! カタパルトで艦外へ出るつもりです!」

「艦長!?」

 

 アルモが指示を乞うように振り替えると、彼はすでに一つの決意をしていた。

 

「タクトに追跡させろ、RCSと合流させるな!」

「りょ、了解!」

「RCSレッド、ブルー、こちらに接近中!」

 

 機体の塗装カラーからRCSの標準装備型をブルー、砲撃装備型をレッドとそれぞれコードネームが設定されている。アヴァンが搭乗していた機体はブラックで、テラス4の一件の後にこの呼称が採用された。

 

「ちっ、砲撃開始! 特にレッドにはあのキャノンを撃たせるな!」

「了解です!」

 

 

 

 

皇国宇宙軍第二方面・第零番艦隊

旗艦・武蔵三型

 

「ここまで輸送していただけて光栄です。烏丸提督」

 

 ブリッジで皇国軍の将校が敬礼する。階級章は少佐を示している彼は、あくまで真摯な眼差しで提督――――そしてブリッジのクルー全員にもう一度敬礼した。

 

「構わんよ、少佐。楽にしたまえ。我々も以前より総司令部の意向には賛同しかねる部分はあったのだ。ましてルフト将軍を……失礼、今は大臣だったか。更迭の名で監禁するとはな」

 

 横暴にも程がある、とまでは言わず提督は口をつぐんだ。

 

「ところで少佐。例の物はもう見たかね?」

「はッ。……しかし、あれは極秘計画だったはずでは?」

「蛇の道は蛇、そういうことだ。これもルフト大臣の指示でな。本星の秘密工場から予め運び出してあったのだよ。そして直属の部下だった君が使うのが最良だろうと私が判断した」

 

 艦底部に臨時に増設されたハンガー。そこにそれはあった。すでに組み上げ作業も終了し、あとは最終調整を待つばかりである。敵を破壊し、殲滅し、あらゆる恐怖を与えるために造り出されたそれは、ある意味彼と相性は良かった。

 不意に内線が鳴り、それを取って二言三言話した士官が提督に報告する。

 

「技術班より入電です。三号機の最終調整、完了しました」

「よろしい。ではミスタ・アポリオン、時間だ」

「はい。……ところで提督?」

「ん?」

 

 アポリオンの名で呼ばれた少佐は不敵な笑みを浮かべて言った。

 

「ルフト大臣が現職を離れた以上、もう自分は大臣の部下ではありません」

「ふむ。コードネームは不要というわけか。では闇舞北斗少佐?」

「はっ」

「行きたまえ。行って君の使命を果たしたまえ」

「了解しました」

 

 

 

 

 二機のRCSの動きを察知すると同時に艦砲射撃を開始。いつもながら優秀だとアヴァンは胸中で毒づく。実戦における迅速かつ的確な判断は生死を分ける。そういった意味ではタクトもレスターも生き残る軍人だと言えるだろう。その戦果は別にしても。

 そして後方から迫るギャラクシーもまた―――――例え自分の足元にも及ばなくても―――――無視できない存在ではあった。

 

「アンス、戦闘機動だ。……無理するなよ」

「分かってます! それより」

「ん?」

「いえ……ミスだけはしないで」

 

 誰に言っているのか、半ば呆れながらアヴァンはコスモを反転させギャラクシーと対峙する。しかし彼もアンスの顔に潜む憂いの色を気付いてはいない。

 

『アヴァン! お前、何してるのか分かってるのか!?』

「開口一番がそれか。タクト、俺がそんなに馬鹿だと思っちゃいないだろ」

 

 裏切りは百も承知。

 

『ふざけるな! ヴァニラから聞いたぞ! テラス4もアトムも……全部お前がっ』

「だからどうした?」

『っ!?』

 

 どうということはない、と彼は平然と語り出した。罪の意識も、懺悔の情も一切感じさせない淡々とした口調で。

 

「必要だったから手配したまでだ。皇国軍に歴史の禍根を再認識させて防衛力の再編と増強を促し、最新鋭機に格好の相手と戦場を演出した。それだけだぞ?」

『そのために……そのためにどれだけの人間が死んだと思ってるんだ!』

「散って礎となった敵に報いる方法も知らん小僧が綺麗事を抜かすんじゃないっ!」

『ぐ……っ』

「戦死者を出さない艦長? 皇国の英雄? 笑わせるな。その一隻のために犠牲になった何千という艦と何万という兵士をお前は顧みたことがあるのか? お前たちが生き残るために殺した兵士たちにお前は何を手向けた? 知ろうともしない戦を語るなっ!」

 

 アヴァンの激昂と共にコスモが突進する。その速度はタクトたちの持つコスモのスペックデータの数倍近く、ギャラクシーは身じろぐことすら出来ずに何百メートルと蹴り飛ばされた。

 

『ぐうっ……!』

「今回の任務もそうだ。『リフレジェント・クリスタル』の何たるかも調べず任務に臨むお前たちと皇国軍には愛想が尽きた」

『それは―――――』

 

 開示される情報が無いとはいえ、調べようはある。正規軍ならともかく白き月との繋がりが強いエルシオールならやりようはあったのだ。調査を進めていけば分かるだろう、という甘えがあったのは紛れも無い事実だ。本来なら集められるだけ情報を集めて、自分たちの行動の意味とその結果を推察する義務があった。

 アヴァンは、それを……

 

「だからお前たちに教えてやる」

『っ』

「リフレジェント・クリスタルの力……その片鱗をな!」

 

 その言葉にはアンスさえ目を見開いた。理解不能というレベルを遥に逸脱している。どうして彼がそんな台詞を? どこにリフレジェント・クリスタルが使われているというのだ? あれはまだ解析どころか兵器に転用する数も揃っていないというのに?

 アヴァンは音声入力回路のスイッチを入れる。通信回線は開いたままだ。

 

「エンゲージリンク。すべてのバイパスを直結。OSを設定変更、モード・エクスレンス。出力臨界値………」

 

 コスモの全身から蒼く眩いフレアが吹き上がる。

 アヴァンの髪と同じ、

 アヴァンの瞳と同じ、

 深く、しかし透き通る果てしない蒼。

 

「リフレジェント・クリスタル・レプリカ・ジェネレーター、フルドライブ!」

『あ、ああ、あ……』

 

 タクトの口から嗚咽が漏れる。    

 ただひたすらに恐ろしい。計測した限り、あの機体が内包するエネルギー量は桁違いだ。全長20メートルもない機動兵器が発するものとしては、あらゆる法則、理論が成立しない。それでいて機体が崩壊しないなどまるで悪夢だ。

 コスモがフラッシャーエッジを構えた。

 

「さあ、行くぞタクト。せいぜい逃げ回れ」

 

 

 

 

 激痛に痺れる体を引きずってヴァニラは格納庫にたどり着いた。フォルテとランファは肋骨に数箇所の骨折があり、ミントとミルフィーユは軽い脳震盪で立って歩くことすらままならない。ちとせも鎮静剤で眠っている。出撃できるのは自分だけだ。一刻も早くタクトの援護に向かわなければ。

 

『ヴァニラ。動けるのか?』

 

 ブリッジからの通信をクロノクリスタルが受信する。

 

「は、い……」

 

 音声通信のみに設定する。苦痛に歪む今の自分の顔を見たら、たぶんレスターでも出撃をやめさせるかもしれない。

 

『急いでくれ』

「はい」

 

 転げ落ちるようにハーヴェスターのコックピットへ乗り込む。シートの角で額を打ち付けたが気にはならなかった。さっきからナノマシンをフル稼働させているおかげで、ある程度の痛覚は感じなくなっているからだろう。

 もっとも、そこまでしても無視できない激痛ということは、自分もどこか体をやられているかもしれなかった。しかしどのみち、手当てなどしている余裕はない。

 そしてハーヴェスターが発進位置に移動した時、

 

『タクトッ!?』

 

 繋いだままの通信から、艦長の叫び声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 ほんの数分のドッグ・ファイトで8000近く離れていたエルシオールまでギャラクシーは追い込まれ、ついにその甲板に叩きつけられた。すでに右脚を失っており、左手がホールドしていたシールドも二回防御しただけで熔解してしまっていた。

 

「はあっ……はあっ……くそっ」

 

 弾切れのライフルを支えにしてギャラクシーを立ち上がらせる。推進系は半分近くダウンしてしまっていた。

 

「ま、まだだ……まだ俺は……っ!」

 

 諦めない。諦めればそこですべてが終わってしまう。しかしこの孤立無援の状況下では、虚しい咆哮にしかならない。ひとかけらの希望もなく、足元から泥沼のような闇に沈んでいく感覚がタクトを支配していく。

 

『まだ動くのか。意外にしぶといな』

 

 ギャラクシーの眼前に蒼の燐光を纏ったコスモが舞い降りる。

 この機体の戦闘機動は異常だった。元々の高い機動力を生かしたドッグ・ファイトを想定していたコスモだが、現在の反応速度、追従性はもはや化け物染みている。至近距離からのレーザー射撃―――――しかも連射を紙一重で全て回避し、一瞬のうちに背後に回りこんで一撃。とっさに機体を捻るのが遅れていれば今頃片足と言わず頭から真っ二つになっていただろう。

 おかしいのは機体の挙動もそうだ。従来の直線的な動きではなく、上下左右の立体的高速戦闘をより複雑な機動を取り入れて実行している。文字通り四方八方へ飛び回っているのだ、一瞬複数の敵に囲まれているような錯覚に陥りそうにもなった。

 

「そっちこそ……よく、動く」

『ふん、減らず口を。まあいい、最後にいい物を見せてやる』

「な、に?」

『ユウ、ユキ。やれ』

 

 その名を告げた刹那、エルシオールの砲撃を回避し続けていたRCSレッドがぴたりと止まり、二門の砲口をエルシオールに向けた。

 

「ま、まさ、か……」

 

 閃光が炸裂する。闇を突き破る一つの光明がエルシオールのメインスラスターだけを削り取っていった。これでもうこの艦は推力の殆どを失ったも同然だ。離脱どころか回頭すらままならない。

 

「ユウ、ユキって……あの、二人か?」

 

 射撃の反動で後退していく真紅の機体と、そのカバーに入るもう一機を見つめる。だがどうして、彼女たちがあれのパイロットなのか。

 

『お前が知る必要はない。これで安心したな? 仲間と一緒に死んでいけるぞ』

「ふ、ざけやがって」

『これで終わりだ。地獄の底で泣きべそかいてろ』

 

 コスモがフラッシャーエッジを振り上げる。間合いは一足分。確実にこちらを真っ二つにできる。

 

『っ!?』

 

 瞬間、何かを察知したアヴァンが機体を飛びのかせるより速く巨大な何かがコスモを突き飛ばした。空中で姿勢を建て直し、甲板に片手を付いて倒立反転。着地と同時にアヴァンが叫ぶ。

 

『邪魔をするなヴァニラッッ! 死にたいのか!?』

『アヴァンさん……私にはあなたの真意が分かりません』

 

 どういうことだ? 分かるも何も、アヴァンは裏切った。これは間違いない事実だ。

 ヴァニラはハーヴェスターをタクトたちの頭上で旋回させながら問い続ける。

 

『あなたが私たちを裏切るなら、なぜエンジェル隊にとどめをささなかったのですか? あの時なら時間的にも、そうすることができたはずなのに』

『……………』

『今の砲撃も、そうです。確実に撃沈できたはずなのに、そうしなかった理由は?』

『さあ、な』

 

 アヴァンがつぶやいたと思った時、コスモは眼前の獲物に向かって飛び出していた。あくまでもギャラクシーを狙う彼に、ヴァニラは再びハーヴェスターの機首を向ける。ファランクス・レーザーが行く手を遮り、コスモが機動を変える。こうなってはアヴァンも戦う相手を間違えるわけにはいかない。

 

『くっ……』

『タクトさんは、やらせません。例えあなたが相手でも、私は許さない』

 

 タクトの脳裏に先刻の光景がよみがえる。食堂でアヴァンが自分の問いに対する答えが、フラッシュバックする。

 

(今の俺なら、俺の物に銃口を向ける奴は全て殺す――――――

 

 あれは価値観の違いなんかじゃなかった。

 

――――――例え相手がタクト、お前でもだ)

 

 それは覚悟の有無に他ならない。例え何があっても、絶対に譲れないという意志。そのためなら仲間さえ裏切るという決意。あの時のアヴァンは、それが言いたかった……?

 

 ギャアアアアアッ

 

 熾烈なドッグ・ファイトの末にコスモとハーヴェスターが再び激突し、装甲同士の擦れ合う悲鳴にタクトの思考が引き戻される。見ればハーヴェスターの左主翼が斬り飛ばされ、エルシオールの甲板に突き立っていた。

 一瞬だけ猛禽類を髣髴とさせる紋章機の機首とコスモの双眸が睨みあう。

 

『『おおおおおおおおおおっ』』

 

 二人の叫びが重なった。

 三度激突し、さらにハーヴェスターのシールド発生器が落ちてエルシオールの装甲を叩く。見ればスラスターもあちこち破損しており、戦闘の続行は望めないだろう。対するコスモもフラッシャーエッジのエネルギーが残量ゼロになったらしく、ビームの刃が消えている。

 しかしアドバンテージはアヴァンにあった。

 

「やめろヴァニラ! それ以上は無理だ!」

『いやです!』

 

 断固たる拒否。普段、二人きりの時でも見せない強い声にタクトはたじろいだ。

 

『今ここで私が下がれば、タクトさんが死んでしまう』

「だけどっ……!」

 

 答えるより早くコスモとハーヴェスターは動いていた。

 タクトの眼前で二つの機影が吸い込まれるように重なり合い、

 

 

――――――そして惨劇が始まる

 

 

『きゃあああああああっ!』

「ヴァニラ!?」

 

 フラッシャーエッジのグリップガードがハーヴェスターの下腹から突き刺さっている。鋭利な突起になっているその部分は、エネルギー切れの際に打突武器として使えるようになっていた。それが紋章機の中でも特に装甲の脆い底部を食い破り、

 

『あぐっ……はっ、うぅ……タク、ト……さん………』

「ヴァニラ、脱出しろ! ヴァニラ!」

 

 その先端部がコックピットまで達していた。そしてそれはさらにハーヴェスターという獲物を深く抉っていく。

 グシャグシャと金属以外の何かが嫌な音を立てて潰れ引き千切られ、

 

『おね、が……に、げ……ああっ! あああああああああ――――――』

「ひ……っ」

 

 そしてハーヴェスターとの通信ウィンドウが一瞬だけ紅く染まり、画面をノイズが支配する。それが一体何を意味するのか、残念ながらタクトには理解できてしまった。

 

「あ、ああ……あ、あ」

 

 ずしゃり、と中枢を破壊されたハーヴェスターが甲板に沈むように落着する。そして引き抜かれるフラッシャーエッジのグリップガードの先端に赤黒い何かが見えた。

 その刹那、何かが弾け飛んだ。

 

「おま、おまえ……」

『――――――』

「お前はあああああああああああああああっ!?」

 

 ギャラクシーが獣のように跳躍し、コスモに殴りかかる。タクトの意識は何が起こったのかよく理解していない。無我夢中で、感情の赴くままに、それをぶつけようとするだけだ。

 

「よくもっ! よくもヴァニラをぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 だが、その暴挙がこの場で叶うはずがない。

 

「殺したなっ!? 殺したな、アヴァァァァァンッ!」

 

 ガガガガガガンッ

 

 降り注ぐ無数の銃弾が白銀の猛獣の残った片足を吹き飛ばし、

 

 ザシュウッ

 

 炸裂する熱線が両腕を破壊する。

四肢を奪われ再びエルシオールに叩きつけられる機体の中で、タクトはもはや正気を保ってはいなかった。抑えきれない衝動に体を蝕まれ、コントロールレバーをむちゃくちゃに動かし続ける。

 それを無視し、蒼と紅、二機のRCSがコスモを守るように降り立った。

 

『アウ、怪我は?』

『離脱を。予定より二分と十二秒オーバー』

 

 もはや負け犬に用はない。

 一言も残さず、三機はこの惨状を残して姿を消した。

 

 

 

 

 まもなくエルシオールの予想針路とぶつかる。ランファやフォルテもしばらく会っていなかったから、何を言われるか分かったものではない。きっとアウトローのことだろうから上手くやっているはず、と思いたいが、あの男の側ではこの信頼も当てには出来ない。

 そんな思考を繰り返しながら、アポリオンこと闇舞北斗は何度目かの溜息をもらした。

 

(どうも、な)

 

 さきほどから嫌な予感が止まらないのだ。最初は本当に軽いものだったのだが……今はもう『もしかしたら親友が瀕死の重傷を負っているかもしれない』ぐらいに大きなものになっていた。

 

「む?」

 

 レーダーがエルシオールを捉えた。距離はおよそ10万。もう向こうでもこちらを捕捉してくれているはずだ。しかし距離が5万まで近づいても何の連絡もない。そしてエルシオールから離れていく三つの反応……

 エルシオールとの接触を急ぐか、それとも離れていく反応を追うべきか。彼は迷った末、エルシオールとの接触を優先することにした。

 

(妙だな)

 

 目視でエルシオールを捉える距離まで来ても音沙汰なし。しかもエルシオールの推進器が煙を噴いていた。とりあえず呼びかけてみる。

 

「こちら皇国宇宙軍本星防衛隊所属、闇舞北斗。識別コードは43−0220。エルシオール、応答せよ。繰り返す……」

『こちらエルシオール……確認しました、闇舞少佐』

 

 オペレーターの声に覇気がない。どことなく艦全体が意気消沈しているような雰囲気すら感じられる。

 

「何があった?」

『レスター・クールダラスだ。まずは着艦を。できれば甲板で攫座している機体を一緒に収容してくれ』

「……了解だ」

 

 カメラを走査させるとなるほど、EMX-01と紋章機が一機横たわっていた。

 

 

 

 

「改めて、アポリオンこと闇舞北斗だ。階級は少佐だが気にしなくていい。よろしく頼む」

『よろしく』

 

 格納庫に集った一同に自己紹介を終えた北斗は、あまりの空気の重さに驚いていた。ランファとのメールで聞き及ぶ限り、もっとフラットな現場ということだったのだが……

 特に再会したランファとフォルテを含むエンジェル隊はひどい有様だった。ランファもフォルテも肋骨の骨折で身動き取れないところを痛み止めを飲み、それぞれミントとミルフィーユに肩を貸してもらって艦首格納庫まで出てきたのだ。支えている二人も額に包帯を巻いていたり、片足を引きずっている。

 しかしエンジェル隊にはあと二人―――――ヴァニラ・Hと烏丸ちとせがいた筈である。するとミントがそれを察したらしく、静かに告げた。

 

「ちとせさんは鎮静剤を打って、まだ眠っていますわ。ヴァニラさんは……」

 

 彼女の視線の先……大破した五番機に闇舞北斗も目を向ける。艦首格納庫の中で横向きの状態のまま作業が進められている。回収の際に見えた機体底部の大穴は、今はビニールシートで塞がれていた。

 そこへ中破したギャラクシーから半ば救助された形でタクトが降りてきた。その顔はまさに蒼白で、死人と見紛う程だ。北斗が挨拶しようと前に出ると、ミルフィーユがそれを止めた。

 

「?」

「今は、待ってあげてください。お願いします」

「あ、ああ…」

 

 普段のミルフィーユを知る者なら驚くほど、静かな声で北斗を押しとどめる。

 タクトはそのままハーヴェスターのほうへ近づいていく。すると、ちょうど中で作業をしていた何人かのスタッフが、同じく青ざめた顔で中から担架を運び出してきた。こちらもビニールシートがかけられていて、何を運んでいるのかは見えない。

 

「………」

 

 だが、その場に居る全員が、それが何なのかを悟った。事情を飲み込めていない北斗でさえもだ。

 担架がタクトの前に下ろされ、スタッフたちは申し訳なさそうに一礼して去っていく。そしてタクトがビニールシートを少しだけめくると、奇跡としか言いようのないほど綺麗なままの少女の顔があった。

 

「ヴァ、ニ、ラ」

 

 掠れるような声でその名を呼ぶ。だが返事はない。

 

「ヴァニラ」

 

 もう一度、その頬を撫でながら。

 すると淡い光が彼の手に宿る。明滅しながら徐々に小さくなっていくそれはナノマシンの光だ。

 

(タクト、さん)

 

 彼の脳裏に失われたはずの声が蘇る。

 

(生きて、ください)

 

 溢れる大粒の涙は堪えようがなく、ぽたぽたとヴァニラの顔を濡らしていく。

 

(生きてください)

 

 恐らくは自分の最後の思考をナノマシンに投影したのだろう。残せるものはこれだけだった。ほんの僅かな言葉しか、この少女は最後に残せなかったのだ。

 

 冷たい格納庫に、乾いた男の嘆きが響く。

 己の未熟を悔い、

 己の弱さを憎み、

 己の無力を呪い、

 

「ヴァニラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ」

 

 そのすべてを否定することしかできない、男の悲しき結末であった……

 

筆者たちの必死な解説コーナー(第一回おしおき編)

 

ドカバキベシャグシャドゴベキッ ゴリドスビシメシドンッ!

 

(ゆきっぷう「助けてくだしゃぶらっ!?」)

 

ドムッ ドムッ ドムッ ドムッ ドムッ ドムッ!

 

(ゆきっぷう「ちが、ちがちがちがうぶるぼっ!?」)

 

ドルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルッ!

 

アヴァン「皆様、本日は銀河天使大戦第三章一節をお読みいただきありがとうございます。責任者は現在上記のようにその責務を現在進行形で果たしておりますので、少々お待ちを。ちなみに上から集団リンチの撲殺音、リボルバーマグナムの射撃音、ハインド攻撃ヘリの機銃掃射音となっております」

 

ゆきっぷう「………ごべんびゃばい」(ガクッ)

 

アヴァン「さてと。本当にやっちまったよ、こいつ。どうする、アポリオン?」

 

アポリオン「俺は今日から本名で行くぞ。だから闇舞北斗と呼べ」

 

アヴァン「そうだったか。ところで本当にどうするよ」

 

北斗「我々だけではどうにもならんな」

 

アヴァン「呼ぶか?」

 

北斗「それしかないだろうな」

 

 

※ここから先はゆきっぷうと、タハ乱暴氏の実際の会話を同意の上で収録したものです。

※キャラクターも登場しますが、仕様ですのでご了承ください。

 

ゆきっぷう「そ、それではご登場いただきましょう! 我が盟友にして悪友にして諸悪の根源っっっ! タアアァァァァァハ乱暴さんッ!」

 

タハ乱暴「どうも、今回お招きにあがりましたゲストのタハ乱暴でございます。さてさて銀河天使大戦をお読みの皆さん、何故、このような場所、このようなタイミングで私が登場したのか、不思議に思っていることでしょう。なので、最初にそのあたりの説明から。……ということでゆきっぷう、そもそもの発端から語ろうや」

 

ゆきっぷう「ふむ……あれは2004年の冬のことだ。俺がギャラクシーエンジェルのクロスオーバーSSを書こうと思いついた。当初は既存のガン○ム作品と掛け合わせる予定だったのだが、相談したタハ乱暴氏に『それ、厳しいんじゃね?』と指摘されてな。そして完璧オリジナル(?)とのクロス作品に変更した。2005年初頭の話になる」

 

タハ乱暴「ギャラクシーエンジェルという作品とガ○ダムという作品は、背景に同じ戦争というテーマを抱えているとはいえ、世界観があまりにも違いすぎた。『黒歴史』が登場するアレならまだしも、この駄目人間は空に羽ばたく5人の美少年達と絡ませようと(別に深い意味はない)していたんだ。しかも、クロスオーバーの醍醐味である別種の作品の登場人物の絡みを(しつこいようだが深い意味はない)、極力廃した形で。だから、そのあたりの問題も含めて待ったをかけたんだ。……そして、その結果出来たのが――――――」

 

ゆきっぷう「今の銀河天使大戦というわけなのだ。そして私が五年前から(オイ)手がけていたオリキャラを参戦させるに至った段階で、非常に大きな問題が発生してしまった。そうだよな、タ・ハ・乱暴?」

 

タハ乱暴「もともとおいどんはこの作品の極めて初期の段階からオブサーバー的な役回りとして参加しとったでごわす。もっと言うと、5年前の段階からそのオリキャラ……アヴァン・ルースの存在を知っていたのでごわす。だから、ゆきっぷうが新作(銀天のことね)にそのアヴァンを登場させるということに異論はなかった。ただ、話的にアヴァンひとりでは進行に問題があるのもまた事実だった。…なんせ、ぶっちゃけアヴァン強すぎなんだよね」

 

ゆきっぷう「そもそもアヴァン・ルースは他の既存作品への干渉……つまりクロスオーバーを想定して作られたマルチプルプレイヤーユニットだ。他世界への親交(武力的侵攻まで含む)を実行するために様々なファクターを付加していった結果、今のような『あんぽんたん』ができてしまったんだ。リフレジェント・クリスタルはそのファクターの一つに過ぎない。

 そしてこんな爆弾キャラを使えば物語が崩壊するのは必然。そこで俺はタハ乱暴氏に助力を求めたのである」

 

タハ乱暴「分かりやすく言うと、アヴァンというキャラクタはもともとゆきっぷうがまだ若気のいたりに燃えていた頃、ほぼ身内だけ限定で紹介していたオリジナルのスー○ーロ○ット大戦の小説に登場させていたのが、文章としての初出。しかしながらその後、ゆきっぷうが年老いるにつれ、多くの良作・あるいは駄作と触れていったことにより、作家としてスキルアップ(人間としてはレベルダウンし、種としてはむしろ退化していったが)していったゆきっぷうの成長に伴って、アヴァンもまたより多くの作品に登場するために必要なファクターを盛り込まれた。ここに、二次創作に登場させるオリキャラとしては最も嫌われる傾向にある、“最強キャラ・アヴァン”が完成してしまう。

 クロスオーバーは基本的に二次創作だから、この最強キャラのみを投下するということは、はなはだ不味い。不肖、タハ乱暴はそう思ったのであります!」

 

ゆきっぷう「そこで当時、俺はタハ乱暴氏が現在も連載を何気なく続けている諸作品を含む多くのクロスオーバー作品を徹底研究。不完全だったアヴァンのキャラクター性を再構築し、いわゆる『人間的な弱さを含んだ魅力(私見)』を加えることで問題の解決を図ったのだが………キャラクターが持つ圧倒的過ぎるパワーだけはどうにもならず、同様の要素を含みながら一歩先を進んでいたタハ乱暴氏のキャラクターを銀河天使大戦に参加させてもらうことで安定化を図ろうと考えた次第だ」

 

タハ乱暴「それが今回登場し、番外編にも登場したキャラ……アポリオンこと闇舞北斗だ。アレ、実は私の息子なんですよね〜」

 

北斗「認めたくない事実だが…(ここはタハ乱暴が書いています)」

 

アヴァン「諦めろ。俺なんか生みの親の実力不足で何度改造されたことか(ここはゆきっぷうが書いています)」

 

タハ乱暴「ちなみに北斗に関しては同時期にこちらのサイトに投稿する予定の『Heroes of Heart』、その外伝(どちらも連載中)に登場するので、そちらの方が詳しい(何気に宣伝)。……そして、その北斗が本話にて本格的に登場することとなった(登場することになっちまった)ので、その記念すべき第一回として、こうしてあとがきに私が呼ばれた次第であります。……以上、長々とした説明お読みくださいましてありがとうございました。では、さよう―――――」

 

ゆきっぷう「マテ、オブサーバー。ちゃんと本編の解説も手伝えよ。軍事関係はお前に依るところが大きいから。……もっともイラストは全部俺だけど(半泣き)!」

 

アヴァン「俺のイラストを送ってから言え」

 

ゆきっぷう「うるさい。それでタハ乱暴、まず全体の感想から頼む」

 

タハ乱暴「むぅ…仕方がないなぁ。一読者から見た今回の話だが、全体的に話のテンポが早すぎるって印象が強かったな」

 

北斗「珍しく真面目なことをほざきおって」

 

タハ乱暴「そこ、うるさいよ。……でだ、アレだと下手すりゃ読者おいてきぼりのスピードで、読んでいて理解がしづらいかもしれない。…まぁ、こんなところでそんな指摘してももう遅いけど。

 あと、唐突に登場したな。烏丸提督」

 

ゆきっぷう「……………(泣)」

 

アヴァン「タハ乱暴が泣かした〜」

 

北斗「言ってやるな。本人も、あれは唐突すぎたと反省しているらしい」

 

タハ乱暴「とうの提督と会話していた人間に言われてもなぁ。

 ……しかし、北斗とエルシオールの合流シーンはよかったと思う。普通はあの場合、ピンチに陥ったエルシオールを危機一髪で北斗が助ける……っていうのが王道パターンだけど、銀天ではすでにそれをやっているから、マンネリを防ぐっていう意味でも、新しいパターンで独創的だったと思う。

 あと、アヴァンVS生身エンジェルズのトコ」

 

ゆきっぷう「……………(寝)」

 

アヴァン「泣き寝入りか。それでタハ乱暴、俺が後ろから刺されそうなあの戦闘シーンのどこがよかったんだ? 個人的には腰が痛くて死にそうだったんだが」

 

北斗「お前、あんなに関節動く人間だったか?」

 

タハ乱暴「無駄に長くなかったから、良かった。アヴァンの強さを引き立たせるのにダラダラとした文章ではなく、すっぱりとした短い文章で綴ることで逆にストレートにアヴァンの強さが伝わってきた。……まぁ、こんな評価するほど偉い立場にはないから、8割がた阿呆の戯言と思ってくれて構わないけどさ」

 

北斗「そういえばあの合流シーンだが、結局俺は何に乗ってきたんだ? オブラートに包むのも良いが、実際アレでは書きにくいだろう?」

 

アヴァン「企業秘密だ。最高クラスの軍事機密といえば分かるだろう。あれを描く苦労はタハ乱暴ならともかく、息子には分かるまい」

 

タハ乱暴「俺っちは絵心ゼロの人間だからなぁ」

 

北斗「絵? 絵があるのか?」

 

タハ乱暴「――――――はぅあッ! しまった! 最高クラスの軍事機密にも拘わらずばらしてしまった!」

 

ゆきっぷう「な、何ということをしてくれたんだタハ乱暴! 読者の楽しみを奪いやがって。…アレの登場には、もっとカッコ良いシーンを用意したのに……これじゃ読者の期待も半減だ!」

 

アヴァン「……カッコ良いシーンで登場するような、何かなんだな?」

 

ゆきっぷう「とりあえず、だ。話を戻そう。アヴァン、北斗、念のためにお前たちにも聞こう。感想は?」

 

アヴァン・北斗「「ヒロイン殺すな、駄目人間め(ちょっと怒っている)」」

 

タハ乱暴「コラコラ、製作者泣かせな発言をするでない。ヒロインを殺すのも、物語を盛り上げるための手法のひとつだ(そろりそろりと忍び足でこの場を離れようとするタハ乱暴)」

 

アヴァン「逃げるな?」(ガシッ)

 

北斗「逃げるなよ?」(ガシッ)

 

タハ乱暴「ぬおぅッ! 両肩を掴まれた!?」

 

ゆきっぷう「なんて潔い説明口調なんだ……」

 

北斗「よくよく考えてみたら、お前もあのヴァニラ殺しには賛成こそしなかったが、反対もしなかったなぁ?(かなり怒っている)」

 

アヴァン「さらにその情報を事前に入手していたお前が、阻止作戦を一切展開しなかったおかげで、俺が外道的扱いを受ける羽目になったんだぞ?」

 

タハ乱暴「い、いや、考えてもみろ? 逆に俺がゆきっぷうの作品に直接手を加えるなんて、おかしなことだし、それだったら合作になるから、作者の名前を変えなくちゃいけない。無駄な手間はかけさせないべきだろう?」

 

ゆきっぷう「そもそも合作以前に、アウトローは半ば俺のオリジナルになりつつあるしな。北斗の立ち絵も何枚か描いてタハ乱暴に提供しているぞ、俺は」

 

アヴァン「…………活用されてなさそうだが」

 

タハ乱暴「私はスキャナー持ってないのよ! 手書きを渡されてもむしろ困る!」

 

北斗「じゃあ、模写しろ」

 

タハ乱暴「無茶を言うでない! 拙者のパソコンにはお絵かきソフトは初期設定のペイントしか入っておらん。ペイントでゆきっぷうの絵を模写など、出来るはずがないではないか!」

 

北斗「通常、出来ないことをやってみせるのが作家だ。現実でも、架空でもな(とんでもなく怒っている)」

 

アヴァン「とりあえず、闇舞北斗? 何をそんなに怒っているんだ? 未だに自分の姿形が完成していないから? それとも……」

 

北斗「番外編における紹介文のカンペを書いたのはお前だったな? あの紹介だと、俺はまるで不審者だ。その件について、ゆっくり話し合おうじゃないか? 父上?(ドスを孕んだ声で、語尾を上げながら)」

 

アヴァン「とりあえず、だ。ヴァニラ殺しはどうなるんだ? 結局発案と実行はゆきっぷうだろう(ホントに言わなくていいことを言うアヴァン)」

 

北斗「たしかにその件についても怒り心頭だ。だが、これでこの男を痛めつける正当な口実が2つも出来たわけだ」

 

タハ乱暴「うわ〜〜〜〜〜ん! 最初のリボルバー掃射とかハインド攻撃の時点で分かっていたんだ。絶対俺も、いつものゆきっぷうみたいな目に遭うって! だからさっさと帰ろうとしたのに……ゆきっぷうが引き止めるから!」

 

北斗「また気持ちの良いぐらいに潔い説明口調だな」

 

ゆきっぷう「それでだ、皆。そろそろ機体解説に移りたいんだがOK?」

 

北斗「俺の専用機だな? タハ乱暴は最近、生身の戦闘しか書かないからこういうのは久しぶりだ」

 

アヴァン「……もしかして」

 

タハ乱暴「いやいや、お前の機体じゃないだろう? まったく活躍してないんだから。今回紹介するのは、RCSのレッドと、ブルーについてだよ」

 

北斗「……ここまでくるのにえらい横道に逸れたな」

 

ゆきっぷう「およそA4で5ページだ。タハ乱暴が参加すると必ずこうなるのが最大の欠点なんだが……まあいいだろう。感想ももらえる生まれついてのギャグ作家だ。仕方あるまい」

 

アヴァン・北斗「「お前、浩さん以外もらってないからな。感想」」

 

タハ乱暴「なんかぁ、感想をせびっているみたいだな……まぁ、それはよいとして。機体の解説に移るぞ〜。良い子のみんな、準備はいいかい? お兄さんが今からゆきっぷうからもらったカンペを読むぞ〜〜?」

 

北斗「良い子のみんなはカンペなんて言葉知らないと思うが……」

 

ゆきっぷう「そもそも、そのカンペは2年前のものだ。最新のものはアヴァンと北斗に渡しておこう。俺はこれからタハ乱暴に絵心を教えるという過酷なミッションがあるから、その間は任せるぞー」

 

アヴァン・北斗「「また無謀なミッションを……」」

 

タハ乱暴「コラ2人とも、なんて失礼な発言を…って、ゆきっぷう! 引き摺るのはやめろッ!!」

 

(タハ乱暴とゆきっぷう、退場。退場後、ヴァニラ殺しの罪でエンジェル隊から一斉砲火を浴びる)

 

北斗「……結局息子任せか。まぁ、よい。それでアヴァン、今回登場した2機のRCSだが……そもそも、RCSとはいったい何なんだ? 設定からすると、モ○ルスーツともまた違うようだが」

 

アヴァン「ふむ。ではあの機体の基本概念から説明しよう。RCS――――――正式名称Refulgent Crystal Supported(リフジェント・クリスタル・サポーテッド)、劇中に登場しているロスト・テクノロジーであるリフレジェント・クリスタルを動力源に採用した多目的戦闘システムユニットだ。

 このシリーズは少数精鋭での特殊作戦遂行を目的とした20m級人型兵器で、今回登場したレッドとブルーはその正式採用型のテスト機だ。さて北斗、この二機の機体の特徴を教えてくれ」

 

北斗「分かった。まずRCSブルーの方だが、これは本編中に“標準装備型”と表記されていた通り、RCSの最もスタンダードな形態だ。そもそも、RCSは多目的戦闘システムユニットと呼称されるだけあって、装備の換装で様々な戦局に対応出来る仕様となっている。言ってみれば、現代のマルチロール・ファイターのような物だ。標準装備型のブルーの兵装の特徴は、汎用性に優れていることだ。レーザーライフル1挺、ビームセイバー・ユニット2基、多目的実体シールドの装備が基本で、その他様々な兵装が用意されている。これらの基本武装は戦況を選ばず、一撃の威力や特殊性には欠けているが、安定した戦力を機体に提供している。機体そのものの特徴としては、アヴァンが搭乗していたブラックよりも全体的な性能がアップしており、特に高機動戦闘時における機体の安定性に優れている。運動性が高いということだな」

 

アヴァン「その通りだ。ちなみに俺が第一章で搭乗していたブラックはいわゆる概念実証機で、機体そのものはマオ・イ○ダストリー製、RTX01002T ヒュッ○バインMk−Uをベースに改造しただけにすぎなかったりする。

 さて北斗、レッドはどうだった?」

 

北斗「レッドはやはり本編中で言われていたように砲撃戦用装備の仕様だ。砲撃戦……といっても、ここでいう砲撃戦は通常の砲兵部隊が行う砲撃戦のみならず、戦車同士が戦うあの砲戦も含まれる。重装備によって重量が増加した分、機体の機動性は下がっているが、それを補ってあまりある圧倒的なパワーを持っている。リフレジェント・クリスタルから供給される膨大なエネルギーを原動力に撃たれる両脇のエネルギー・キャノンは、一発でスペースコロニー1基を崩壊させるだけの威力を有している。武装は、このキャノンに加えて、近接防御用の全周囲回頭60mmチェーンガン、多目的バリア・システムが基本だ。接近戦に持ち込まれたら圧倒的に不利な仕様だが、ブルーを含めた他の機体との連携で死角をなくしている。また、装備しているエネルギー・キャノンの砲撃時の反動・余剰熱に耐えるために、装甲も強化されている」

 

アヴァン「装甲材の強化は、俺のブラックがエルシオールを庇ったあの一件を元に再検討され、より防御力が上昇している。そういったフィードバックはタハ乱暴直伝らしいが……本当か?」

 

北斗「まぁな。軍事オタクの奴のことだ。戦車の装甲板の技術を伝授したんだろう。熱に強く、衝撃にも強い、粘り強い装甲だ」

 

アヴァン「さてここから先は少しネタバレになるが、まあ問題ない。このRCSは少数精鋭機ではあるが量産化を前提にしている。すでにロールアウトしたテスト機から収集したデータもかなりよいもので、本格的な量産を検討している。そしてその次期量産機が、この間予告したアレに登場する……かもしれない」

 

北斗「少数精鋭の考え方は現代の軍事を語る上ではなくてはならない要因ではある。しかし、その有効性については議論も多い。もっとも、宇宙を舞台にしたことでこの少数精鋭機は、諸々の問題から脱却した、登場人物にとっても、作者にとっても極めて扱い易い機体となった」

 

アヴァン「しかし、あれだな。ゆきっぷうの奴、タハ乱暴に絵心を教えると言っていたが、そのゆきっぷうの絵心がどれほどのものか一度見せたほうがいいと思うんだけど」

 

北斗「あいつに絵を教えるということは、たったひとりでノルマンディー上陸作戦を実行し、かつ成功させるぐらいの難易度の任務だが。それはともかくとして、すでに何度も皆様のお目汚しをしているぞ。RCS、ギャラクシー、コスモで」

 

アヴァン「よし。とりあえずここで俺の立ち絵っぽいの、大公開!」



アヴァン「……ペン入れ、してねえ」

 

北斗「それ以前の問題に、人間っぽくない」

 

ゆきっぷう「裏切って外道になったからOK! というわけでユウとユキもいってみよう!」



アヴァン「…………」

 

北斗「…………」

 

アヴァン「……でけぇ」

 

北斗「……でかいのに小さいというこの矛盾!」

 

アヴァン「ちなみに保護者として言っておくが、右がユキで左がユウだ。何気なくニーソックスを履いているのはタハ乱暴の陰謀」

 

ゆきっぷう「そうだったのかっ!?」

 

タハ乱暴「そうだったのだッ!!」

 

北斗「このロリコン! 鬼畜!! 腐れ外道が!!!」

 

アヴァン「実はユウの趣味と実益」

 

三人「「「実益!?」」」

 

アヴァン「うん。三割り増しで俺に(・・)気持ち良くして貰えると言って喜んでいる」

 

三人「「「――――――――――」」」

 

アヴァン「…………………」

 

三人「「「やっぱりお前がいちばんの外道だぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁッッ!!」」」

 

アヴァン「しまったっ! 言わなくていいこと言っちまったっっ!」

 

ユウ&ユキ「「それを生んだ親とその諸悪の根源と、ある意味影響を与え合っている人非人×2めぇ☆ 私たちのうれし恥ずかし赤裸々ライフを暴露するなぁぁぁぁ☆☆☆」」

 

(炸裂するRCSレッドのエネルギー・キャノン)

 

ちゅどむっ

 

 

アヴァン「ま、待てちとせ、話せば分かる! だからその縮んだ身長を元に戻そうっ!」

 

ちとせ「じ〜っ………」

 

アヴァン「アンス、君もだ! 揃って縮む奴があるか! あの豊満な胸はどこにやった!?」

 

アンス「じ〜っ………」

 

アヴァン「シヴァ、お前も大人気無いぞ! 一国の主ならこんなところで腰をくねらせてないで城に戻りなさいっ!」

 

シヴァ「よいではないか。あ・な・た」

 

 

北斗「結局、今回の話で証明されたのは、あいつが大きいのも小さいのも好き……ということだが」

 

タハ乱暴「あいつの息子だ。仕方が無い(さわやかな笑顔)」

 

ゆきっぷう「小○生に手を出した北斗を息子に持つ父親の言うことは説得力がないぞ、タハ乱暴?」

 

ヴァニラ「牛乳飲んで大きくなって、タクトさんに喜んでもらいます」

 

三人「「「何を!?」」」

 

 

 

 

 

 

出演

 

アヴァン・ルース

闇舞北斗

ゆきっぷう

ユウ・ルース

ユキ・ルース

 

ヴァニラ・H

烏丸ちとせ

シヴァ女皇陛下

アンス・ネイバート

 

友情出演

 

タハ乱暴

 

 

音楽

J○M PR○ECT(好きなんよー)

 

本編演出

ア○ジュ(嘘です。マヴラヴに影響されただけです)

 

あとがき演出

タハ・ランボー

タ・波乱・坊

 

作家

ゆきっぷう

タハ乱暴

 

監修

アヴァン・ルース

闇舞北斗

他、本編中の皆さん

 

スペシャルサンクス

これを最後まで読んでくれた皆さん

 

プロデューサー

シヴァ女皇陛下

バネッサ・キースリング(?)

ユウ・ルース

ユキ・ルース

フォルテ・シュトーレン

アウトロー

 

総監督

美姫様

 

エグゼクティヴ・プロデューサー

氷瀬 浩さん

 

首謀者

ゆきっぷう(処刑済)

 

 

提供・製作

トランスバール皇国・行政広報部

PAINWEST様

 

 

 

アウトロー「ナンなんでしょう? このあとがき」

 

 

 

 

 

 

 

 





うーん、色々とあるがとりあえずまず一つ。
何故、お前が総監督?
美姫 「これからは超監督と呼びなさい!」
いや、それ違うから。
ともあれ、遂に始まりました第三章。
美姫 「最初からとんでもない事態よね」
ヴァニラが、ヴァニラが。
美姫 「一体どんな展開が待っているのかしら」
次回も待ってます。



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