第一幕 再会


 ーミレトス城ー
 ミレトス、この地の名を知らぬ者は大陸にはいないであろう。ロプト帝国の時代暗黒教団が行なった『ミレトスの嘆き』は数百年経た今でも人々の心に染み付いていた。
 父や母の手から幼な子を奪い取りその目の前で生きながら業火にくべるーーーー。『大粛清』『エッダの虐殺』と並んでロプト帝国の残虐さを物語るこの悪夢の犠牲となった子供の数は数万人に達した。それ以後も暗黒神への生け贄として炎に焼かれる子供は後を絶たず十二聖戦士によって帝国が討ち滅ぼされるまで続けられた。
 ロプト帝国が倒れ聖戦士達の指導者的存在であったヘイムを中心としてグランベル王国と六公国、五王国が建国されるとミレトスは一転して暗黒教団の信者達が連れて来られる場所となった。そこに連れて来られた教徒達は今度は自分達が生きながら炎の海の中に落とされた。まず親から子供が引き剥がされ泣き叫ぶ幼な子を親の目の前で焼き殺し親はあえて餓えさせておいた猛獣達の生餌とするーーーー。その他にも真っ赤に焼けた鉄の靴を履かせたり両手両足を縛り上下から引き千切れるまで引っ張ったり身体を寸刻みにしたりといった血生臭い処刑が執り行なわれた。暗黒教団の者ばかりでなく疑いをかけられた者までその処刑に課されようとするに及んで十二聖戦士の中で最も仁愛に満ちた心を持つ大司祭ブラギが十二聖戦士の指導者である聖者ヘイムにとりなすよう求めたことでこうした惨劇は幕を降ろした。やがてヘイムと他の聖戦士全員の名をもって暗黒教団の滅亡が発表されるに及んで人々も残虐な報復を忘れていった。やがてミレトスはシアルフィ家やエッダ家と友好を結ぶ小都市群となりミレトス城は十二聖戦士を祭る神殿が設けられ巡礼地の一つとなった。ミレトスは歴史の重要な舞台であった。
 そのミレトス白に今一人の少年がいた。紅い髪と瞳を持ち白い肌、豪奢な黒と金の軍服、紅のマントで包んだその少年を知らぬ者はいない。
 魔皇子ユリウス、人々は彼を怖れを込めてそう呼ぶ。冷酷にして残忍、子供が虫を殺すように人の命を玩ぶその所業とそれでいてその忌まわしき行いを全て正当化出来る弁舌、世の者とは思えぬ程の強大な禍々しい魔力と何処か人を惹きつけて離さぬ妖気すら漂う魅力、それはかって大陸に絶望と殺戮の帳を降ろしたガレのようであった。実母でもある皇后ディアドラの死と共に帝国の表舞台で表われると恐怖政治を敷いた。人々はアルヴィスを責めたが最早彼には何の実権も無く事実上帝国の独裁者として君臨していた。
 遠く離れたバレンシアに棲むと言われるガーゴイルやゾンビの像が飾られ上にはバーハラの宮殿の地下にあるのと同じ紅水晶の髑髏で作られたシャンデリラがある。黒檀の扉をノックする音がした。
「入れ」
 扉の前に黒い渦が生じた。やがてその渦は人の背丈程の大きさになり中から人間が現われた。
 それは血の様な赤いフードが付いたローブを身に纏った老人だった。やや高めの背に皺だらけの禍々しい顔付きをしている。右目は無い。潰れているようだ。驚くべきはその左眼である。何と瞳が二つある。その険しい眼つきからこの男が邪眼の持ち主であるとわかるがこの二つの眼からは人のものとは思えぬおぞましい気を発していた。だがユリウスはこの男を見て微笑んだ。
「相変わらず面白い入り方をするな」
 ユリウス自身の声も奇妙である。透き通り高くそれでいて邪な感じのする声と地の底から響く獣のような声が二つ同時に同じく発せられている。
「勿体無きお言葉」
 男は一礼した。ユリウスの笑みがまるで道化師の仮面のようになった。
「ここに来た理由はわかっている。遂にユリアの居所がわかったのだな」
「はい、東のセリス皇子の軍におりました。どうやらレヴィン王が匿っていたようです」
「セリス皇子か・・・・・・。『光の皇子』と愚か者共に持て囃されているバルドの者だな。そしてヘイムの血も引く私の兄弟・・・・・・」
「その通りでございます」
「セリス皇子が『光の皇子』ならばさしづめ私は『闇の皇子』か。世を絶望の闇に染め上げる闇の後継者。そしてユリアは・・・・・・。フフフ、まあ良い。それにしても二人が同じ場所にいるとはな。各個に消す手間が省けるというものだ。既に手は打っているのだろうな」
「はい、ペルルーク城に私の部下を数名潜り込ませました」
「ペルルーク?あそこはまだ我等の勢力圏だぞ」
 ユリウスはそう言って悪戯っぽい、それでいて邪悪な笑みを浮かべた。
「これは意地のお悪い。すでに我等が同志達はペルルークを引き払い残されたのは僅かな将兵のみ、陥落は時間の問題です」
「そして奴等が気を抜いたところを、か」
「はい。ユリアを捕らえるのは私が直接行きます。必ずやユリウス様の御前にユリアを連れて来ましょうぞ」
「よし。マンフロイ、全てをそなたに委ねよう。吉報を待っているぞ」
「ハッ」
「ところで外に出ないか?是非見せたいものがある」
「喜んで」
 二人は笑みを浮かび合わせると黒い渦の中に消えた。
 二人が現われたのはバルコニーだった。周りには黒と赤の軍服に身を包んだ不気味な者達がおりその下には広間を埋め尽くさんばかりの子供達がいた。皆親や兄姉の名を呼び泣き叫んでいる。
「どうだ、素晴らしい歌だろう」
「まことに。我等が神の復活を祝う麗しき賛美歌ですな」
「そうだ。もうすぐイシュタルが新たな子供達を連れて来る。そうすればこの子供達を互いに争わせ残った者を暗黒教団の信者に敗れた者はいけにえにしてくれる」
 ユリウスは周りの者が持って来た水晶の杯に紅い葡萄酒を注ぎ込みつつ子供達を見下ろしながら言った。
「よろしいのですか?陛下は子供狩りだけは反対しておられましたが」
 マンフロイの意地の悪そうな笑みを浮かべた質問にユリウスは目を閉じ口だけで笑った。
「父上?フフフ・・・・・・・・・」
 すぐにその目を見開いた。
「父上も私には逆らえんよ。それはそなたが一番よく知っている筈だがな」
 紅い瞳が竜のそれになっていた。大きく裂けた口からは牙が見える。
「皆の者、我等が時代が復活する日は近い。世を暗黒で包み絶望と恐怖で彩り断末魔の叫び声で満たし地獄の業火で全てを支配しようぞ!」
「はっ!」
 禍々しく伸びた爪で杯を高々と掲げるユリウスに周りの者達はいっせいに敬礼した。その敬礼は右手の平の先を右目尻に付けるヴェルトマー式でも右拳を左肩に付けるバーハラ式でもなかった。両方の踵を付け右手を真っ直ぐ斜めに突き上げる敬礼だった。それは百年以上前に滅び去った帝国の敬礼であった。

 ーペルルーク城ー
 ミレトスとレンスターの境にその城はあった。都市としても大規模であったがこの城の最大の役目は要塞としてミレトスへの侵入を防ぐことであった。その為三重の城壁は高く濠は深く広かった。かって魔法騎士トードがこの城において暗黒教団の軍を迎え撃ちガレ十一世の重臣でもあった敵将モンフォールを壮絶な一騎打ちの末に倒したことでも知られておりその堅固さはレンスターの諸城よりも数段上と言われている。そのペルルーク城で今歴史の歯車がまた一つ組み合わされんとしていた。
「珍しく静かな夜だな」
 一番外の城壁の上で夜空に浮かぶ満月を見上げながら槍を持った歩哨の一人がポツリ、と言った。白いバーハラの軍服を着ている。
「ああ。あの不気味な連中がいなくなったおかげだよ」
 相方がその言葉に同意する。彼も同じ軍服を着ている。
「・・・・・・それにしても何であの連中が生き残ってたんだ?確か先の聖戦で滅んだ筈だろ」
「ああ、それが今頃・・・・・・もしかしてアルヴィス皇帝が?」
「その話詳しく聞きたいわね」
 不意に城壁の方から女の声がした。
「ん!?」
 二人は声のした方を見た。そこには満月を背に城壁の上に立つ女剣士がいた。
 長い黒髪を風にたなびかせている。月を背にしているが黒い瞳と白い肌を持つ凛とした美しさを持つ女性である。紫の上着と白いズボンに白の胸当てを着けている。右手には業物と見られる剣が握られている。
「いっ、何時の間に!?」
「さっきの貴方達のおしゃべりからね。さあ続きを聞かせてくれる?」
 女は悪戯っぽく笑った。
「誰がっ!」
「痴れ者!」
 槍を手に向かって来る。女剣士は舞うように城壁から飛び降りると剣を振るった。
 二本の槍が回転しながら夜空に舞った。彼女は呆然とする歩哨達の方を振り返り微笑んだ。
「これで話してくれるかしら」
 女が兵士達を屈服させたのを合図とするようにペルルークの三重の城壁の門が次々とこじ開けられていく。その門を軍勢が疾風の如く突き抜ける。
「無駄な抵抗は止めろ!命を粗末にするな!」
 迎撃に来たバーハラの兵士達の剣や槍を弾き飛ばす長身の剣士が言った。金髪碧眼の美男子で濃緑のズボンに黄色の上着、そして青い胸当てに銀の大剣を持っている。
 軍は瞬く間に城のほぼ全域を制圧した。そして内城へと入って行った。
「・・・・・・終わりだな」
 城主の間で城を預かっていた将軍が言った。白の軍服、やはりバーハラの者である。
「ほとんどの兵が戦いを止め投降しております。この内城にも既に侵入しておりこの部屋に来るのも時間の問題かと・・・・・・」
 壮年で髭を蓄えた参謀が言った。その言葉が言い終わらぬうちに扉が開かれた。
 二人入って来た。一人は髪を立たせた細い目の長身の青年でありもう一人は波うつ髪を持つ小柄な少女だった。
「貴方達は・・・・・・。そうですか、これ以上の戦いは無駄ですな」
 城主はそう言うと腰の剣を棄てた。そして片膝を折った。
「そうか」
 青年は城主を立たせた。そして何やら話しはじめた。

 ーメルゲン城ー
 ミレトスから帝国本土をつくべくメルゲン城に集結した解放軍の士気は天に届かんばかりであった。鍛え抜かれた六十万を越す大軍は武具、兵糧共に万全の補給を受けセリスの命を待っていた。ペルルークへ向かう西の城門の前は軍で埋め尽くされ色とりどりの旗が整然と並べられまるで万華鏡のようであった。城壁の上にはシャナン、アルテナ等神器の継承者をはじめとして解放軍の諸将が並んでいた。
「やっぱり緊張するね」
 セリスは城壁を登る階段を前にして張り詰めた顔で横のオイフェに言った。
「はい。ですが皆待っているのです。セリス様が我等の悲願に対して号令を発せられるその時を」
 珍しい事に拳を強く握り締め熱い口調で言葉を発している。
「そうだね。よし、行こう。城壁の上に」
「はい」
 二人は階段を登っていった。光が段々大きくなりその中に出た。
 城壁の上に出前に現われた。雲一つ無い晴れ渡った青い空の下六十万の兵もそれを率いる将達も静まり返った。
 兵士達を見る。どの者もセリスに視線を集中させ耳を傾けている。
 気負されそうになる。だがこれに負けては到底帝国など倒せないと思った。気をさらに張り詰めさせた。
「皆」
 隅々にまでよく響き渡った高い声が響いた。息を吸い込み再び声を発する。
「遂に時が来た。グランベル帝国のくびきから民を救う時が」
 さらに続ける。
「民衆を虐げユグドラルを暗黒に包んでいる帝国はクルト王子を暗殺しその罪を我が父シグルド、我が祖父バイロンに着せ大陸各地に戦乱を起こし多くの命を奪った。そして我が父を死に追いやるとバーハラ王家を滅ぼし王位を簒奪すると皇位を僭称した。その後の悪逆非道は皆も知っているとおりだ」
 一陣の風が吹いた。セリスの青い髪が風に揺れた。
「だがそれも終わる時が来た。今から私は帝国を討ち民と大陸に平和と幸福を取り戻す為グランベルに向かう」
 右手を上げた。翼の様に広げられた。
「さあ行こう。光を取り戻すんだ!」
 ポツポツと声が起こりだした。それはすぐに地を揺らさんばかりの大歓声になりセリスを包んだ。今ここにグランベルへの道が、そして光と闇の戦いがはじまったのである。

 解放軍はほぼ全軍をもってペルルークへ進軍をはじめた。その進撃は大河の如くであり一糸の乱れも無かった。
「むっ!?」
 前軍の先頭にいたトリスタンが前に旗を掲げる一団を認めた。その旗は白旗だった。
「どうします?帝国のことです、罠かもしれませんよ」
 騎士の一人がトリスタンに耳打ちした。トリスタンも顎に手を当てて考えた。
「そうだな・・・・・・。ブリアン殿に話してみるか」
 前軍の指揮を執るブリアンは即断した。一団に自分達の下に来るよう言った。
「成程な。それならたとえ罠を仕掛けていても何も出来ない」
 かくして白旗の一団は解放軍前軍の中に入った。そしてブリアン達と会った。
 その者達は言った。自分達はシレジア解放軍の者でありセリス皇子達に会いたい者がいると。
 それはすぐ本陣のセリスにも伝えられた。セリスは思わず首を傾げた。
「僕に?何だろう」
「ここは会ってみるべきでしょう。シレジア解放軍はかってシグルド様と共に戦った者達を中心とし反帝国を掲げる言うならば我等の同志、彼等の協力が得られれば非常に頼もしいです」
「そうだね、そうしよう」
 セリスはオイフェの言葉を採り入れた。その者達と会うべく彼は諸将と共に自軍の前に来た。
 前から五人の人影が近付いて来る。彼等の姿を見た時オイフェとシャナン、フィン、そしてスカサハとラクチェはアッと息を呑んだ。レヴィンも誰も気付かなかったがその整った眉をピクリ、と動かした。
 彼等のうち二人はペルルーク城の戦いで活躍した二人の剣士だった。後の三人はどうやら騎士のようである。
 一人は金髪に青い瞳を持った赤い鎧の男であり全体的に精悍で激しい感じがする。二人目は長い深緑の髪を布でまとめた緑の瞳の男で緑の鎧を身に着けている。こちらは先の赤い鎧の男に比べて軽い、それでいて知的な印象である。最後の一人は岩山の如き身体を青い鎧に包んだ薄緑の髪に黒い瞳の大男であった。五人の中で最も体格が良い。
「ノィッシュ、アレク、アーダン・・・・・・」
 普段の沈着さは何処へ行ったのかオイフェは思わず馬から飛び降り三人の方へ駆け出した。そして四人はヒシッ、と抱き合った。
「久し振りだなオイフェ。リューベック以来か」
 ノィッシュと呼ばれた金髪の騎士が顔を崩して笑った。
「あれから十七年、まさか再び会える日が来るなんてな」
 緑髪のアレクも笑っている。
「しかしオイフェも変わったな。背も大きくなったが老け込んだんじゃないか」
「髭も生えたしな」
「俺達なんか全然変わらないのにな」
「止めてくれよ、歳の事を言うのは」
 大男アーダンの言葉に突っ込みを入れたノィッシュとアレクにオイフェが反論した。
「父様、母様・・・・・・!」
 スカサハとラクチェが二人の剣士に走り寄った。スカサハは男の剣士に、ラクチェは女の剣士にそれぞれ抱き付いた。
「スカサハか・・・・・・。大きくなったな、本当に」
「ラクチェも・・・・・・。産まれた時はあんなに小さかったのに」
 スカサハはともかくラクチェは今でも小さいが。
「ホリン、アイラ・・・・・・。まさかこんな所で会えるなんて」
 シャナンが来た。表情こそ崩していないが喜びと感激に打ち震えているのがわかる。
「シャナン・・・・・・。成長したな」
「本当に。まるでマリクル兄様のよう。・・・・・・それにレヴィンやフィンまでいるなんて」
 フィンは静かに涙を流していた。レヴィンも表情にこそ出さないが喜びに包まれているようだ。
「・・・・・・セリス様ですね。御初に御目にかかります。シグルド様の部下だったノィッシュです」
「アレクです」
「アーダンです」
「イザークのアイラです」
「ホリンです」
 五人はオイフェ達から離れるとセリスの前に出て片膝を折った。
「我等五名、シレジア解放軍を代表してセリス様が率いられる解放軍の末席に加えさせて頂く為に馳せ参じました」
「我が軍に・・・・・・」
「はい。バーハラの戦いの後シグルド様が倒れられて以来我等はこの日が来るのを待ち続けてきたのです」
「セリス様が兵を挙げられ帝国を討たんとする時・・・・・・。それがようやく来たと思うと」
 ノィッシュ、アレク、アーダン等三人の目に熱いものが滲んできた。見れば五人共手の甲にまで細かい傷跡がある。今まで想像を絶する戦いを幾多も潜り抜けてきたのだろう。
「・・・・・・・・・」
 セリスは無言のまま彼等の手を取った。そして握り締めた。
「僕を信じてここまで・・・・・・。有り難う。本当に有り難う」
 セリスの手の甲に涙が落ちた。火よりも熱いそれはポタリ、ポタリと彼の手を濡らし止ることなくあふれ出て来た。
 三人はもとよりホリンもアイラも泣いていた。彼等の長年に渡る辛苦の戦いが今ようやく花となり咲き誇らんとしていた。

 ノィッシュやアイラ達を加えた解放軍は彼等に先導されペルルーク城に入城した。市民達に歓喜の声で迎えられたセリス達は城内に案内された。
「セリス様」
 ノィッシュが何時にも増して真摯で強張っている様にさえ見える表情で言った。
「これから私共が案内致します大広間でセリス様にお会いしたいという方々がおられます。・・・・・・その方々のお話を是非お聞き下さい。・・・・・・そしてその話が夢物語ではないと知られても・・・・・・決して逃げないで下さい」
 セリスはその言葉に嫌な予感がした。大体察しは着いた。だがそれが偽りであって欲しいという気持ちは持っていた。
 大広間の扉が開かれた。赤い絨毯の真ん中に一組の男女がいた。
「あっ」
 ティニーとリンダは男の方を見て思わず声を挙げた。男は二人を見ると優しく微笑んだ。
「久し振りだな、二人共」
「イシュトー兄様・・・・・・」
「シレジアにいてらしたなんて・・・・・・」
「色々とあってな。それを今から話そう。さてと・・・・・・」
 セリスをはじめ解放軍の一同を見た。
「名のある将は全て揃っているな。・・・・・・セリス皇子」
 その細い目をさらに細めてセリスに言った。
「御初に御目にかかる。フリージ家のイシュトーだ。かってメルゲンで卿等と剣を交えた」
「はい」
「だが今はシレジア解放軍の末席におりこうして卿の率いる解放軍に加えさせて頂く事になった。そこで卿に問いたい。我等がこれから戦うべき敵は帝国か?」
 イシュトーの言葉に解放軍の殆どの者は眉を顰めた。
「何言ってるのよ、そんなの決まってる・・・・・・」
 マリータは何も言葉を発さずイシュトーを見るセリスを見て口をつぐんだ。
「・・・・・・知っていたかか。もしやと思ったが。・・・・・・だがそれなら話が早い。・・・・・・皆聞いて欲しい」
 イシュトーはそう言うと懐から一冊の書を取り出した。どうやら魔道書らしい。表紙は夜の様に黒い。
「これから私が話す事は信じられない者もいるかも知れない。だがその話が真実であるとこのミレトスで戦ううちに知るだろう。・・・・・・まずこの魔道書を見てくれ」
 手渡し回し読ませた。
「どの魔法の書かわかるだろうか」
「・・・・・・少なくとも炎や雷なんかじゃないだろう」
「かといって光でもないようですが」
「・・・・・・ルーン文字じゃないわね、この文字は。一体何の文字?」
「・・・・・・アカネイアの竜人マムルークの種族の一つ地竜達の使う文字だ」
「地竜!?」
 書に目を通して疑問を呈したアーサー、サイアスも文字を指摘したミランダも他の者達も声を挙げた。
「アカネイアに住むマムルークの中でも地竜は神竜に次ぐ強大な力を持つ事で知られている。その強大な力と全てを溶かす魔性の息吹でな。・・・・・・そして地竜は千年生きると皮を脱ぎ捨てさらに強力な存在となる。アカネイアの者はそれを暗黒竜と呼ぶ」
「暗黒竜・・・・・・」
 殆どの者が声を失った。セリスやノィッシュ達はもとよりイシュトーもその後ろに立つ少女も顔を蒼くさせていた。
「皆察しはついたな。本題に入ろう」
 イシュトーは話しはじめた。その怖ろしい話は一同を震撼させた。だがそれは序幕に過ぎなかったのだった。



アイラたち、先の戦の戦士たちも加わり、これ以上ない味方が!?
美姫 「そして、イシュトーから語られる、今、大陸を覆わんとしている闇の正体…」
果たして、その話を聞いた時、セリスたち解放軍は何を思うのか!?



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