第六幕 雨の中で


 イシュタル王女の尽力で何とか無事にコノートまで撤退する事が出来たフリージ軍はブルーム王の指揮の下トラキア河東岸に布陣していた。敗れたとはいえその兵力は二十万を越え尚も解放軍より優勢であり守りを充分に固めていた。ブルーム王はコノート城に総司令部を置き解放軍の動向に警戒すると共にトラキアに援軍を要請しそれと連携して渡河し対岸の解放軍を叩くべく多くの船を用意していた。
 睨み合いは数日続いていた。フリージ軍には次第に気の緩みが生じはじめていた。それを解決すべくブルーム王は主だった将達をコノート城へ集め軍議を開いた。会議は何時しかトラキアの動向や今後の戦略、解放軍の状況や動向等に及び夜遅くまで続いた。将達が自らの天幕に入った丁度その時雨が降りはじめた。
 雨はすぐに豪雨となった。将兵達は見張りすら殆ど出さず天幕の中に閉じこもった。
 降りしきる豪雨の中解放軍の騎士団はトラキア河を渡河しフリージ軍の陣に迫っていた。まだ敵軍には気付かれていない。
 先導にはホークがいる。後にセリス、オイフェ等が続く。皆油衣を着馬に轡を噛ませている。
 「よし、轡を解こう」 
 馬の口から轡を取った。手に武器を持つ。ホークが上へトーチの杖を放つ。空を光が覆った。それが合図だった。
 柵を切り倒し陣に侵入する。林立している天幕に突撃する。
 「何だ?」
 天幕の中で何をするでもなく寝転がっていた兵士が外を覗いた。その時だった。
 解放軍の騎士の剣が振り下ろされる。兵士は血溜りの中に倒れ付した。
 解放軍は一斉に雪崩れ込み次々と天幕を倒し兵士達を斬り倒していった。完全に不意を衝かれたフリージ軍は雨の中逃げ惑うばかりだった。
 ホークが上へ再びトーチを放つ。それが第二の合図だった。
 対岸の解放軍の船が一斉に動いた。次々とフリージ軍の岸や船に斬り込んで行く。
 「何の騒ぎだ?」
 城内の居室で地図を開いていたブルーム王が不審に思い家臣達を引き連れ豪雨のテラスに出た。そこで王は己が軍が雨の中壊滅していくのを見た。
 「またしてもか・・・・・・。ぬかったわ」
 忌々しげに言葉を吐く。
 「だがまだ負けたわけではない」
 キッと目を開く。
 「諸将に伝えよ!何があろうとも自身の持ち場を死守せよとな!」
 「はっ!」
 「数では負けておらぬ、機を見て反撃に転じ奴等をトラキア河に追い落とすのだ!」
 だがブルーム王の叱咤も虚しく戦局は時を経るごとにフリージ軍に不利になっていった。雨の中雷の軍旗は血と泥にまみれ組織立った戦闘が出来ず倒れていった。
 「はああっ!」
 シャナンが右に左に跳び縦横無尽にバルムンクを繰り出す。重厚な鎧も鋼の盾も熱く熱したナイフがバターを切る様に断ち切られ倒されていく。雨は血により紅く染まり地も天幕も赤くなっていく。
 解放軍の奇襲は大成功であり勝利の女神は聖なる剣の旗に微笑もうとしているかのようだった。だがその中でも今までフリージ軍を支えてきた歴戦の諸将達は果敢に戦っていた。
 「フェトラ、エリウ、行くわよ!」
 「ええ!」
 「解かったわ、姉さん!」
 今までアーサー、アミッド、アズベルとそれぞれ一対一の勝負をしていた三姉妹が勝負を中断しアーサー達を囲んだ。
 「むっ!?」
 ヴァンパと炎を交えていたアーサーの瞳が動いた。ヴァンパは炎を、フェトラは風を、エリウは雷を手に宿らせた。
 「まさかっ!?」
 アミッドの瞳がピクッと動いた。そして二人に叫んだ。
 「いかん、跳べ!」
 三姉妹の手から魔法が一斉に放たれた。
 「トライアングルアターーック!」
 炎と風と雷が獣の如き唸り声をあげ襲い掛かる。三人は間一髪で上へ跳んだ。
 アーサー達がそれまでいた場で炎と風と雷が入り混じり激しい音を立て渦巻いていた。三人はそれを見てあの中にいては命は無いだろうと思った。
 「チッ、よけたか。流石にやる」
 ヴァンパが着地した三人に対し右手にまだ炎を宿らせながら口惜しそうに言った。
 「どうやら思っていた以上に怖ろしい相手のようですね」
 アズベルが額の汗を手の甲で拭きながら言った。
 「ああ。だが負けられない」
 アーサーが左手に炎を、アミッドが右手に雷を宿らせた。炎が雨を蒸発させシュウシュウと音を立て雷がバチバチと鳴っている。
 「やらせんっ!」
 馬上のオーヴァが至近で雷をデルムッドに連続で放つ。デルムッドはそれを驚異的な身のこなしでかわす。
 ムハマドとダルシンの銀の槍が鈍く激しい音を立てぶつかり合う。それは幾十と繰り返される。
 他の将達も同じだった。マリータとラルゴが、アサエロとオルトフが、フィンとリストが、オーシンとバルダックが、フィーと
パウルスが、ミランダとブルックが、リフィスとニカラフが、トリスタンとパルマンが、ハルヴァンとウォルフが、ヨハルヴァと
バラートが、ロナンとフラウスが、シヴァとザオムがそれぞれ激しい死闘の中にあった。とりわけ岸の船団の甲板上での戦いは凄まじいものであった。
 甲板の上で両軍の将兵が刃を交えている。大型の船の上でフレッドはラインハルトの副官であるミュラーと一騎打ちを繰り広げている。
 その隣の旗艦とおぼしき一際大きな船の上で二人はいた。豪雨の中二人は無言で互いを見ている。
 「まさか敵味方に別れて剣を交えることになるとはな」
 まずラインハルトが口を開いた。
 「兄上、私は・・・・・・」
 オルエンが兄に対し何かを言おうとする。だがラインハルトはそれに対し首を横に振った。
 「良い。御前の言いたい事も考えも解かっているつもりだ。何しろ血を分けたたった二人の兄妹だからな」
 「・・・・・・・・・」
 「御前は自分の思うままに道を歩めばいい。それが御前の騎士としての生き方なのだからな」
 「兄上・・・・・・」
 ラインハルトは腰から剣を抜いた。
 「だが私にも私が信じ歩む騎士道がある。その為に御前と剣を交える事になろうとな」
 オルエンも腰から剣を抜く。火花と水飛沫が舞い散り銀の光が無数の雨の鏡を照らす。
 両軍の将達が互いの軍の威信と存亡をかけ死闘を演じていたその時コノート城へ向けて急進する部隊があった。
 「さあ急ぎましょう」
 サイアスが先導を務めている。 
 「あたし達がブルーム王を倒しに行ってあんたとファバルが書庫へ行くのね」
 ラクチェがサイアスに聞いた。
 「はい、お任せ下さい」
 城門が見えてきた。フリージ兵達が守りを固め城門は閉ざされている。
 「よし、一気に行く?」
 スカサハが大剣を抜こうとする。
 「おい、俺に出番をくれよ」
 ファバルがイチイバルを手に前に出て来た。
 「えっ、幾ら何でも無理よ」
 雨で視界は極めて悪く距離もかなり開いている。
 「まあ良いから良いから」
 余裕の笑みを浮かべながら矢をつがえる。
 矢を放つ。一人の兵士が胸を貫かれ倒れる。
 次々と矢を放つ。外れる事無く兵士達を射ち抜く。
 「これで最後だな」
 兵士達を倒しても尚矢を手に取った。そしてヒョウッと放った。
 「?」
 矢は門を直撃した。
 門は暫く何も起こらなかった。やがて門がゆっくりと開いた。
 「どうだい?」
 得意げに笑みを浮かべる。
 「凄いな」
 「まあ誰でも何かしら取り柄があるからね」
 「・・・・・・どういう意味だよ」
 ラクチェの嫌味もそこそこに一行は城内に侵入した。市街地を抜け内城に入り王を護る近衛兵達が阻止せんと出て来た。
 「何っ、敵が城内にまで!?」
 侵入者来たる、の報はすぐにブルーム王にも達した。
 「して数は!?」
 王は問うた。
 「およそ二千程」
 「二千・・・・・・城内の兵とほぼ互角か」
 王は腕組みをした。暫し瞑目していたがやがて目を開き指示を出した。
 「要所に兵を送れ、特に武器庫と宝物庫、書庫は何があろうと死守でよ!」
 「えっ、書庫もですか!?」
 騎士は問うた。
 「そうだ、何か不服か?」
 「いえ、了解しました」 
 騎士は慌てて敬礼をして引き下がった。王はその後ろ姿を見ながら書庫にあるものについて思案を巡らせていた。
 (あれだけは奴等に取られてはならぬ・・・・・・・)
 窓を見た。雨が窓を打ち付けている。
 (もしあれが手に入れられれば我等も帝国も破滅してしまう・・・・・・)
 怒号と金属の撃ち合う音、断末魔の悲鳴が聞こえて来る。城内においても激しい戦いが幕を開けた。
 城外の戦闘は解放軍圧倒的有利となっていた。フリージ軍の将兵達は次々に地に伏し武器を棄て投降する者が現われていた。
 将同士による一騎打ちも勝敗が決しだしていた。まずはアーサー、アミッド、アズベルとヴァンパ、フェトラ、エリウの闘いである。
 「くそっ、このままじゃらちが明かない」
 ヴァンパと勝負を続けるアーサーが炎を避け構えを取りながら言った。
 「どうします?今度トライアングルアタックが来たら危ないですよ」
 アーサーの横でフェトラのエルウィンドを相殺しつつアズベルが二人に対し小声で言った。
 「いや、チャンスだ」
 アミッドがアズベルの言葉を落ち着き払って否定した。
 「どういう事だ?」
 「属性だ」
 問い掛けたアーサーに言った。
 「・・・・・・・・・」
 「解かったな」
 「ああ」
 「はい」
 二人は頷いた。三姉妹が距離をとった。
 「来るな」
 三人は互いに目で合図し合った。三姉妹が一斉に構えを取った。
 「今だ!」
 三人は横に跳び相手を変えた。アーサーはフェトラ、アミッドはヴァンパに、アズベルはエリウの前に来た。
 「むぅっ!?」
 三人は既に手に魔法を宿らせている。だが三姉妹は躊躇わずトライアングルアタックを仕掛けた。その時だった。
 「ボルガノン!」
 「トローン!」
 「トルネード!」
 彼等がそれぞれの最も得意とする属性の最高位の魔法をそれぞれ放った。
 フェトラの風にアーサーの炎が、ヴァンパの炎にアミッドの雷が、エリウの雷にアズベルの風が、轟音を立てぶつかり合った。三姉妹の魔法は三人のそれに押され潰された。彼女達は爆発の中吹き飛ばされた。
 「バ、馬鹿な、我等の奥義を破るとは・・・・・・」
 三姉妹は瀕死の重傷を受けながらもかろうじて上体を起こし呻く様に言った。
 「魔法の属性を衝いたのさ。そうすれば如何に強力な魔法が来ても勝機はある」
 「そ、そうか・・・・・・見事・・・・・・」
 三姉妹はアミッドの言葉に満足そうに頷き息絶えた。三人は会心の笑みで互いを見やった。
 「喰らえっ!」
 オーヴァがデルムッドにトローンを至近でぶつけようと右手を振りかざした。大型の雷球が右拳を包む。一瞬隙が生じる。
 デルムッドはその隙を逃さなかった。オーヴァの右手をきり落とした。剣を返し横に払う。胸を一閃した。
 オーヴァは自分の右手と同時に地に落ちた。その喉にデルムッドは止めの短剣を投げた。
 ダルシンが渾身の力を込め槍を突き出した。ムハマドは盾でそれを防ごうとする。
 槍は盾も鎧も貫いた。そのままムハマドの胸を貫いた。ムハマドは口から多量の血を吐き出し大きく後ろに崩れていった。
 他のフリージの将達も解放軍の将達の前に倒れていった。歴戦の知将勇将達は一人また一人とヴァルハラへ旅立っていった。
 その中で激しい死闘を演じる二人の騎士がまだ残っていた。
 嵐の中振り子の様に揺れる船の上でラインハルトとオルエンは火花を撒き散らし撃ち合っていた。両者共池から出た様に濡れそぼりながらそれを苦ともせず攻防を繰り返していた。
 ラインハルトが剣を振るった。オルエンはそれを受け止めたが衝撃で剣が飛び回転しながら甲板に突き刺さった。
 「取れ、武器を持たぬ者を相手にはせぬ」
 だがオルエンは剣を取ろうとはしなかった。ジッとラインハルトを見た。
 「どうした、何故取らぬ」
 「・・・・・・兄上、そこまでして帝国に仕えるのですか」
 オルエンは兄に問うた。
 「そうだ。騎士としてな」
 兄は素っ気無く言った。
 「兄上はいつも私に言っておられました。騎士は武器を持たぬ民の為にこそ剣を取らなければならないと」
 「そうだ」
 「では何故帝国に仕えるのです?今の帝国は古のロプト帝国と何ら変わりはありません。兄上はどうお考えなのですか?」
 「・・・・・・私は帝国の、皇帝陛下の正義を信じている。必ずや帝国はかっての志を思い出し民の為に動く。そう信じるからこそ・・・・・・オルエン、例え御前に剣を向けることになろうとも帝国に剣を捧げる!」
 「兄上・・・・・・!」
 オルエンは叫んだ。しかしラインハルトはその妹に剣を向けた。
 「さあ剣を取れ!これで決着を着ける!」
 オルエンは甲板から剣を差し抜いた。最早一言も語ろうとはしない。
 二人は突き進んだ。剣を振り上げ一気に振り下ろした。影が交差した。
 二人は背を向け合ったままで暫く動かなかった。船が大きく揺らいだ。そのまま傾きはじめた。
 オルエンが腹を抱え蹲った。だが傷は浅い。立ち上がり兄の方を見た。
 ラインハルトもオルエンの方を向いていた。傷は無かった。だが構えようとせずオルエンに笑みで返した。
 「・・・・・・見事だ」
 首の左の付け根から鮮血が噴き出した。ラインハルトの顔が見る見る蒼ざめていく。
 「御前の勝ちだ。強くなったな」
 「兄上・・・・・・」
 「そんな顔をするな。騎士は大儀の為時には血を分けた肉親とも剣を交えなければならない。そう教えたな」
 「・・・・・・・・・」
 「御前が自分の道を歩む日が来るのを待っていた。その日が遂に来た。それだけだ」
 「兄上・・・・・・・・・」
 船の傾きが酷くなる。ゆっくりと沈んでいく。
 「これからは自分の信じる道を歩んでいくのだ。例えどのような障壁があろうとな」
 「・・・・・・・・・はい」
 オルエンは頷いた。
 「これからの御前の成長を楽しみにしているぞ。・・・・・・・・・さらばだ」
 そう言い残し船から落ちていった。激流に呑まれ消えていく。
 「兄上〜〜〜〜〜っ!」
 オルエンはそれを見つつ叫んだ。だが船は尚も沈んでいく。呆然としたオルエンも船と共に河の中に消えようとしていた。
 それを別の船上で戦っていたパティとレスターが発見した。咄嗟にパティは手近にあったロープを切り自分の身体に巻き付けた。
 「レスター、ちゃんと持っててね!」 
 パティは叫んだ。
 「おい、一体何をするつもりだ!?」
 レスターが問い掛けた。
 「決まってるじゃない、オルエンを助けるのよ!」
 「馬鹿な、御前も死ぬぞ!俺が行く!」
 「あんたが行ったら重過ぎてあたしじゃ持ち上げられないでしょ!」
 「!け、けど・・・・・・!」
 「時間が無いわ、行くわよ!」
 パティが飛び込もうとしたその瞬間だった。向こう側の船から一つの影が飛び降り今河の中に消えようとするオルエンを抱きかかえると目にも止まらぬ速さで船を駆け上がり大きく跳躍し元の船に跳び戻った。
 影はフレッドだった。自らのマントでオルエンの肩を包むといたわるように彼女を抱き締めた。それを見てパティとレスターは口をあんぐりとさせ目を点にした。
 城内の戦いも激しさを増していた。解放軍は迫り来るフリージ軍近衛兵達を次々と倒し着々と要所を押さえていった。
 書庫の前でも死闘が続いていた。数人の兵士が一斉にゼーベイアに襲い掛かる。
 「・・・・・・むんっ!」
 巨大な槍を思いきり横に薙ぎ払う。薙ぎ払うというより叩き落とされるといった感じで兵士達は一撃で倒された。
 フリージの兵士達は皆地に伏すか縄を手にかけられている。書庫は解放軍の手に陥ちた。
 「後はサイアス殿が来られるだけだな」
 ゼーバイアは書庫の扉の前に立って言った。
 「まさかこれだけ来るとはな」
 ファバルは書庫までの路の途中で迫り来る敵兵にイチイバルで矢を放った。
 「仕方ありませんね」
 サイアスも火球を放つ。二人は足止めを受け書庫の辿り着くのは暫く後だった。
 スカサハとラクチェは王の間までの路をひた走っていた。部屋までの路は一直線で路を阻む敵兵もいない。
 扉が見えてきた。その前に一人の男がいた。
 「ここは通さん!」
 アイヒマンであった。剣を抜き二人に襲い掛かる。
 ラクチェが前に出た。アイヒマンの剣を受け止める。
 「ここは任せて!」
 スカサハは黙って頷き扉へ向かった。
 体当たりで扉を開けた。部屋の中央に王がいた。
 「遂にここまで来たか。どうやら貴様等を甘く見過ぎていたようだ」
 王はスカサハの方を見ながら落ち着いた口調で言った。
 「だがまだ負けたわけではない。余の首、容易く渡すわけにはいかぬ」
 両手に雷を宿らせる。スカサハも大剣を構えた。
 ブルーム王がトローンを放つ。スカサハは前に跳びそれをかわした。
 スカサハが空中から思いきり剣を振り下ろした。王はその剣撃をかわした。そして至近で雷撃を放つ。
 剣と雷の熾烈な一騎打ちが続く。ブルーム王はトゥールハンマーこそ無いものの強烈な雷撃を連続で放つ。スカサハはそれを驚異的な身のこなしでかわし剣撃を放つ。一進一退のまま二人は闘い続けた。
 スカサハが剣を唐竹割りに一閃させた。王は後ろに跳びさけた。隙が生じたように見えた。王はそれを好機と見た。
 ガラ空きのスカサハの胸へ渾身の力を込めてトローンを放つ。これで勝負は決まったかに見えた。
 スカサハは思いきり下に屈んだ。雷が頭上をかすめる。 
 下から上へ大剣を振り上げた。剣撃が王を一閃した。
 縦一筋に血が噴き出した。ブルーム王はゆっくりと後ろに倒れていった。
 「ぬかったわ・・・・・・」
 それがブルーム王の最後の言葉だった。あえて隙を見せ誘い込んだスカサハの作戦勝ちであった。
 「そっちも終わったみたいね」
 ラクチェが部屋に入って来た。激しい闘いだったらしく髪が汗で濡れている。
 「ああ。これでフリージとの戦いも終わりだ」
 目を見開いたまま事切れているブルーム王を見ながら言った。窓の外に目をやった。それまでの土砂降りが嘘の様に止み太陽の光が差し込んできていた。
 豪雨も止み晴れ渡った日差しの中解放軍の将兵はコノート城の天主を見ていた。その中にはフレッドのマントに包まれたオルエンも作戦を提案したホークもいる。
 ゆっくりとフリージの大旗が降ろされる。そしてシアルフィの大旗が掲げられた時天地が割れんばかりの喚声が木霊した。解放軍は勝ったのだ。
 後に『コノートの戦い』と呼ばれるトラキア河東岸とコノート城で行なわれた解放軍とフリージ軍の戦いは解放軍の圧倒的な勝利に終わった。参加兵力は解放軍十五万、フリージ軍二十三万、死傷者は解放軍約七千、フリージ軍約七万、フリージ軍は歴戦の知将勇将達を全て失いブルーム王も戦死した。残った将兵は全て解放軍に投降し解放軍の兵力は三十万と一気に倍に達した。それだけでなく多くの資金と武具も手に入れ武装も強化された。とりわけ先の大戦におけるアルヴィスとランゴバルト、レプトール両公の密約書も手に入り公表された事で帝国の威信は完全に崩壊した。その威信を奈落の底に落としてしまった帝国に代わり名を挙げた解放軍だがすぐに帝国との直接対決とはならなかった。南のトラキア王国が空白地となったマンスターにその隠していた牙を剥いてきたのである。新たな、そしてセリスが今まで知らなかった戦いが始まろうとしていた。
 



フリージ軍を倒したものの、トラキア王国が。
美姫 「一つの戦いの後が終ったとしても、セリスの戦いはまだまだ終らない!」
次回も楽しみに待ってます。



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