0079年10月4日。
ミッドチルダに新たな神話が誕生する――――――
過疎によって廃墟と化し、放棄された市街を完全武装の兵士達が周囲を警戒しながら進んでいく。時空管理局が保有する陸士隊の一個大隊は、ある目的の為に首都からはるばる1000kmも離れたこの地に派遣されたのだ。その頭上では航空武装隊がバックアップに当たっている。
投入された戦力は陸士600名、航空魔導師80名の大部隊だ。彼らは幾つものチームに別れ、人気のない市街をくまなく調べ上げていった。
「こちらチーム・ゴルフ、最終目撃情報地点に到着。魔力反応無し。周辺の調査を開始する」
『指揮車より全チーム。司令部より入電、【目標を完全に破壊せよ】。繰り返す、【目標を完全に破壊せよ】。全兵装使用自由、目標―――――』
指揮車からの通信を兵士の断末魔が遮る。次いで爆発、噴煙が巻き上がり無数の人影が力無く宙を舞った。爆発が起こったのは市街の西側にあるビルの一つで、次いで中を探索中だった陸士一個小隊の全滅が確認される。
「ウインド1から全チーム! 目標を視認! データを転送する、各自位置を確認し――――」
空中から状況を確認していた空挺魔導師の一人が、収集した情報を他のチームへ転送する瞬間。
【Wing Road, Set up.】
全ての通信回線に対して、所属不明のシグナルが送信されてきた。まるで、宣戦布告の様でもある。さらに爆発によって倒壊を始めたビルから、水色の魔力光を放つ『道』が大空へ向かって走っていくではないか。
その『道』は曲がりくねり、攻撃的な軌道で空の魔導師たちを捉えようと際限なく伸びる。もちろん魔導師たちも歴戦の兵士である、すぐさま回避行動に移り暴れ狂う『道』から遠ざかる。
『ギア・エクセリオン』
【A.C.S. Stand By】
通信機の向こう側から、六百余名全員の胸に突き刺さる人工音声と女の声。
轟音。切り裂かれた大気が甲高い悲鳴を上げた。天空へ伸びる『道』を白銀の矢が音速の壁さえ突き破って駆け上ってくるのだ。いつ走り始めたのか、今何処を走っているのか、その姿は常人の視力では捉えられない。
まず鏃が向けられたのは宙に浮かぶ魔導師たちだった。縦横無尽に駆け巡るウイングロードの射程から逃れることは叶わず、たちまち青空に深紅の華が咲き乱れた。
「奴は――――――奴は暴走している! 間違いない!」
最後の魔導師が最後の抵抗のつもりなのか、背を向けて一直線に飛行する。確かに引き離すことは可能だろうが、それはほんの数秒のことに過ぎない。軌道が単調になる為、相手に捉えられ易くなるだけだ。
「ただの殺人マシンだ! 奴は――――――スバル・ナカジマは!」
パンッ、という風船が弾けたような音がして空戦部隊は全滅した。
残された陸士たちは顔を見合わせて絶望した。今から自分達があの化け物と戦わなければならず、この戦場から生還できる可能性が皆無であることに。
劇場版 ある日の補佐官とエース
―背徳の乙女は恋に眠る―
全ての発端は0079年7月、スバル・ナカジマ一等陸士がティアナ・ランスター執務補佐官との結婚を表明したことにある。
身内向けのささやかな報告は何処から伝わったのか、翌朝には各報道機関はこの一大スクープを取り上げた。メディアはこぞって二人を批判し、錯綜する情報の行き着いた先は、『スバル・ナカジマの横暴が招いた結果』としてミッドチルダ全土に認識は広まってしまったのだ。実際のところは管理局の情報操作によって世論は操作された結果である。所詮は現場の人間であるスバルと将来性の高いティアナを天秤にかけた末に、管理局上層部はスバルを切り捨てる形で事態の収拾を図った。時空管理局という秩序の象徴にとって、彼女達のようなイレギュラーは害しかもたらさないのだから。
そしてスバル一人に責任を押し付けて優秀な―――飼い慣らせる人材だけを残そうとしたのだ。
これに対して上層部の予想を裏切ったのは、ティアナだった。彼女は補佐官の職を辞し、自宅謹慎を命じられていたスバルと共に姿を消した。問題の火種が事実上、管理局から消滅したことで幹部たちは揃って胸を撫で下ろしたのだが、憤慨を隠さない者が居た。
執務官ジェスター・オラリアドとその父、作戦顧問ドルヴァン・オラリアドである。JS事件の後、管理局の地上戦力を統括して立ち直らせた手腕の持ち主であるドルヴァンは、跡継ぎであるジェスターの伴侶としてティアナに目をつけていたのだ。
ジェスターもティアナに対して恋慕を抱いていたらしく、二人は地上戦力を大々的に投入して『花嫁探し』を始めた。暴走は一月の間に顕著化し、反対した幹部は軒並み暗殺されてしまった。この動きはスバルたちのかつての仲間にも及び、高町なのはとフェイト・T・ハラオウン、他の旧機動六課のメンバーは拘束され、管理局内で10月となった今も監禁されている。
9月に入り状況は急転する。陸士隊の一隊が移動中のスバルとティアナを発見し、追撃。大量のガジェットを投入したことが功を奏し、負傷したティアナを確保したのだ。さらに戦闘機人であるスバルに対しても大打撃を与え、彼女は大渓谷の底へ姿を消した。
恋人の死に絶望しながらも、ティアナ・ランスターはジェスターとの婚姻を頑なに拒否。他の旧機動六課職員と共に幽閉されてしまった。
もはや息子の恋を実らせる手段を見出せないドルヴァンに、ある報せが届く。
「スバル・ナカジマの目撃情報」。
過疎化と経済低迷によって放棄された旧都市区画で、スバルが目撃されたというのだ。
これにドルヴァンはある策を思いつく。ティアナ・ランスターの前でスバル・ナカジマを完全に抹殺することで、彼女の意志を完全に屈服させようというのだ。
―――――そうして投じられた大兵力の殆どは、今や何も語らぬ屍と化していた。
例外的なケースを除き、管理局の魔導師の攻撃手段は全て『非殺傷』に設定されている。これはスバルやティアナも該当するが……
「助けてくれ、助けて、たすっ―――――」
放たれる魔力光線『ディヴァイン・バスター』によって跡形も無く消滅させられる陸士たち。辛うじて残るのは炭化した衣類の破片ぐらいか。彼らもまさか自分達が、たかだか上官の『花嫁探し』の一環で死ぬことになったとは思いもすまい。
そうして残敵を駆逐して、スバルは椅子として手頃な廃墟の瓦礫に腰を下ろした。
彼女とて、好き好んで彼らを殺傷したわけではない。しかし残念ながら魔導師たちの魔法は全て『殺傷』設定であり、陸士たちの操る銃火器の弾頭には対魔法防御用の特殊加工が施されていた。今も彼女の背や手足には、合計六発の銃弾が食い込んでいる。
殺さなければ殺される。そして、ティアナを取り戻すまでスバルは死ぬわけにはいかなかった。
【Buddy, are you alright?】(大丈夫ですか、相棒?)
「うん……まだ、大丈夫」
足元から心配そうに尋ねてくる相棒・マッハキャリバーにスバルは微笑んで見せたが、彼女の気力体力は共に限界の域に達していた。通常ならば致命傷になるほどのダメージを受けてなお健在なのは、戦闘機人としての能力を開放しているからに過ぎない。いずれは倒れるだろう。
それでもスバルが動き続けるのはティアナへの愛ゆえか。
【Please take rest a little. Your body doesn’t last.】(少し休んで下さい。でないと死んでしまう)
「そうも、言ってられないよ……ティアが待ってる」
マッハキャリバーの提案をやんわりと跳ね除け、立ち上がるスバルだったが自身の消耗には敵わなかった。足はもつれ、つんのめった体が地面に倒れ伏す。
「ティ、ア―――――――」
朦朧とする意識は、やがて一ヶ月前の記憶へとシフトしていった。
思い出すのは恐怖の色に染まったティアナの顔と、重力に惹かれる感覚。そして胸を鷲掴みにした、彼女を護れなかったという事実がスバルを絶望という名の谷底へ叩き落した。
それでもこうして足掻き続けている理由は只一つ……
この手でティアナ・ランスターを取り戻す。
墜落した渓谷を包囲するガジェットの大軍を突破し、傷を癒しながら管理局本部を目指して無謀としか言いようのない旅が始まった。仮に管理局本部に辿り着いたところで、待ち構えているのは選りすぐりの精鋭による防衛網。恐らくなのは達も戦闘に投入されるだろう。
そしてそこに、ティアナが居るという保証はない。
だが進むしかない。
スバル・ナカジマは不器用な女で、ひたすらに進むことしか出来ないのだから。
「ん……ぐっ」
【Good morning, Buddy. The Time is 20:12. Nowhere, our position is the seventh township abandoned.】(おはようございます。時刻は午後八時十二分。現在位置は旧第七居住区です)
意識を取り戻したスバルに、マッハキャリバーが矢継ぎ早に状況を報告してくる。場所は相変わらずの廃屋の中だが、割れた天井の隙間から見える空は真っ暗だ。
【Your body is just before the worst. If you advance as it is, winning rate doesn’t have 10%.】(体の状態は最悪の一歩手前。このまま戦いを挑むなら、勝率は10%もありません)
受けた傷は大体塞がったが、消耗した体力は回復しきれていない。何より彼女の体内にはまだ、六発の銃弾が残ったままになっている。立ち上がるだけでも相当な激痛が伴うはずだ。戦闘など到底不可能な状態なのである。
【Do you still do it?】(それでもやりますか?)
きっとここで立ち止まっても、誰も彼女を責めたりはしない。体はボロボロで、マッハキャリバーとしては今すぐにでも病院に担ぎ込みたいぐらいだ。
しかし、相棒はやはり笑うのだ。
「もちろん」
【……Huh, O.K. I follow you forever】(……はぁ、分かりました。ついていきますから、どこまでも)
軽い嘆息に続いて、マッハキャリバーはこれから始める大特攻に同意した。ここで何も出来ないまま終わったら後悔する事を、教えてくれたのは他ならぬスバル・ナカジマだから。
「―――――――で、特に計画も無く突撃するわけね?」
「え!?」
突然の来訪者にスバルが驚いて顔を上げると、そこには自分と同じ色の髪を夜風に揺らす姉の姿があった。
「間に合ってよかったわ、スバル……無事でよかった」
「ギン姉っ!」
だが疑問が残る。攫われる前、情報を集めていたティアナの話では旧機動六課のメンバーは全員拘束されているらしかった。つまりギンガ・ナカジマも管理局によって捕まっているはずである。
【Are you Ginga Nakajima, really?】(本当に貴方なのですか、ギンガ・ナカジマ?)
「ええ。疑われるのも無理ないけれど……暴走しているのはオラリアド親子だけで、それを良しとしない有力者もいるのよ? 表立った行動は出来ないけど」
オラリアド……ティアナが時折、変態親子と罵倒していた人物のことだろうか。頭を捻るスバルの足元で納得したらしいマッハキャリバーがライトを明滅させた。
【I see. We smash their head afterward.】(なるほど。私達は組織の頭をつぶせばいい、と)
「そういうことになるわ」
姉と相棒の間で話が勝手に進んでいき、完全に置いてきぼりを食らったスバルは体の傷も忘れて不貞腐れてしまった。自分が馬鹿なのは分かっているが、蚊帳の外にされるのは幾らなんでもあんまりではないか。
「スバル」
「え?」
「これを持っていきなさい」
振り向きざまにスバルへ手渡されたのは、ギンガの使っているリボルバーナックル。スバル自身はJS事件の折に一度だけそれを借りて使ったことはあるが、その後は姉のもとへ返していた。
それを再びスバルへ預けるという事は、妹の生き方を認めたという事。
「ギン姉……」
「負けたら承知しないわよ? 母さんだって見てるから」
屈託の無い笑顔で笑い合う姉妹の背後で、盛大な爆発が立て続けに巻き起こった。破片と熱風が飛び交い、増援の敵部隊が近づいていることを知らせてくる。
「スバル! あの子のバイクが裏に停めてあるわ、使いなさい!」
「OK!……でもギン姉はどうするの?」
炎上する廃墟の中で、ギンガは不敵な笑みを浮かべてウインクを返した。
【Next meets, it’s wedding ceremony for my buddy.】(次は相棒の結婚式で会いましょう)
「ええ。ブーケは狙ってるもの」
一応、結婚願望はあるらしい。
なおも迫る陸士隊をギンガに任せ、スバルは廃墟の裏手に回る。そこにはギンガが乗ってきたのだろう、アイドリンクで待機していたティアナの愛車があった。すぐさま跨り、ヘルメットをする間も惜しんでスロットルを開放する。
本来は陸士隊の機動力確保の一環として開発された試作機を、性能評価の為にティアナへ貸し出されたものである。その性能は市販品など比べるべくも無く、軍用車両の中でも群を抜くほどの高性能だ。
通称『レッド・トルネイダー』。ティアナの自慢話では、復元された古代技術も組み込まれているらしかった。
走り出したスバルはふと、レッド・トルネイダーのコンソールランプが明滅していることに気付いた。操作してみると、管理局までの最短経路と手書きのメッセージ画像一枚がデータとして記録されていた。
――――――祝賀。
恐らく毛筆であろう、達筆な二文字に添えられた名前はゲンヤ・ナカジマ。
「負けられないね、マッハキャリバー」
【Yes, so that.】(まったくです)
目指すは時空管理局本部。
そう、今この一人と一機は敵の懐へ飛び込もうとしていた。
◇
0079年10月6日。
「ええい、まだ倒せんのか!? 第六戦隊は何をやっておる、全戦力を投入せい!」
管理局本部の第一管制室で、戦闘機人スバル・ナカジマ破壊作戦の指揮を執るドルヴァン・オラリアドの元へ届くのは敗北の報告ばかりだった。市街に何重にも張り巡らせた警戒線に、スバル・ナカジマは正面から突撃してきた段階で彼の作戦は頓挫したも同然だったのだ。
連戦で消耗したスバルは必ず隠密行動で管理局施設へ接近すると予想したドルヴァンは、市街戦を想定した陸戦隊を市街各所に配備。しかし相手に察知される前に包囲殲滅することを前提にしたため、機動力に頼った強行突破に対応しきれなかったのである。
それでも通常の車両ならば追いつくことは別段苦労はしない。進路上を封鎖してバリケードを組み、無理矢理にでも止めてしまえばいい。
だが、彼女の使用しているバイクは最新型のプロトモデル。予算を度外視して実装された性能と、戦闘機人の能力が合わさってリミットオーバーの時速400kmという速度を叩き出したのだ。
「ならば……ジェスター、ランスター補佐官を連れて屋上へ行け。陸士一個中隊も待機させろ」
「ち、父上!? それは――――――」
「奴とて自分の女を盾にされれば手出しできまいて」
ジェスターの顔が青ざめる。ティアナさえ手に入れば後はどうでも構わなかった彼だが、彼女を危険に晒すことだけは躊躇われた。しかし父の指示に従わなかったところで、自分が切り捨てられるだけでティアナの末路は変わるまい。
「急がんか! 奴はもうそこまで来ておるのだ!」
1000kmもの距離をこの短時間でどうやって走破したのかは分からないが、スバル・ナカジマが此処を目指して近づいていることは紛れもない事実である。
無言で管制室を後にするジェスターには一瞥もくれずに、ドルヴァンは部下に迎撃の指示を出していた。自分の権力増強しか考えない父親が、今回の一件でも親子の念を示すことはなかった。ドルヴァンにとって、ティアナとは息子と同じ『執務官』という体のいい駒に過ぎないのだ。
ティアナを軟禁している本部内の一室の前に立ち、ドアのロックを解除するジェスターの顔にはある決意が宿っていた。護衛についてきた部下達を全員屋上へ向かわせてから中へ入る。
「ティアナさん、宜しいでしょうか」
部屋の中は豪勢な造りになっていた。ジェスターが持てる全てのコネクションを使って用意したティアナ専用のスウィートルームである。リビングテーブルだけでも日本円で数千万はくだるまい。
部屋では常時、最高級の食材を用いた料理を堪能することができ、バスルームも完備してある。部屋の外殻は強固な装甲で作られ、計算上では高町なのは教導官のスターライトブレイカーが直撃しても耐えられる。いざという時は脱出ポッドとしても機能するという。
「…………何の用? 結婚の話なら断ったはずよ、オラリアド執務官」
「いえ、スバル・ナカジマが現れました。あと十分ほどで此処に乗り込んでくるでしょう。そこで相手の動きを牽制する為に貴女には人質になっていただく、表向き」
なるほど、この親子はそこまで堕ちたか、と頷きかけてティアナは首をかしげた。
「表向き?」
「従っていただけますね? ランスター執務補佐官」
ジェスターは真意を語らなかったが、ティアナには彼の態度の変化に気付いた。以前に何度か共同で任務をこなしたことがあるが、この男は常に礼儀正しく堂々と職務に当たっていた。
彼の口癖は『Noblesse Oblige』。様々な権限を有する執務官の地位にあるならば、それに相応しい行動を心掛ける。生家が貴族らしい、とは聞いていたがその精神を受け継いでいる人間もミッドチルダの上層階級では珍しかった。
少なくともジェスター・オラリアドは逃げ遅れた子供を、身を挺して銃撃から庇うぐらいのことを平然と出来る男だ。
(それが何で、こんなことしたのかしら?)
一ヶ月前、ティアナが彼らに捕まってしまったのは姿を現したジェスターについ気を許してしまったからに他ならない。このような暴挙に走るほど、愚かな人間ではないとティアナは思い込んでいたのだ。
ジェスターに連れられて屋上へ続くエレベーターに乗り込む。
「聞いて頂きたいことがあります。いいでしょうか?」
「どうぞ」
ティアナは続きを促した。ジェスターの本心は、彼女も知りたいところだった。
「貴女には申し訳ないことをしました。愛しい者と引き離される悲しみは、私とて知らぬはずは無かったのです……今更、許していただけるとは思いません」
エレベーターは動き続けている。屋上まではまだ時間があった。
「私は赤子の頃に母を亡くし、その影をずっと捜し求めていました。恥ずかしながら、貴女に心惹かれたのもそれが在ったからかもしれない……それでも、私にとって貴女は眩しかった。顔、声、立ち振る舞い……全てがあまりに美しかった」
突然の告白に、ティアナは気恥ずかしさに顔を逸らした。スバルとの関係もあって言い寄る男は片っ端から無視していたこともあるが、面と向かって求愛されることに馴れていないのが本音だ。
「貴女とナカジマ一等陸士の関係は聞いていました。それでも私は自分を抑えられず、求婚しようと決意した矢先でした。お二人が結婚宣言をされたのは。そして父に半ば先導されたとはいえ、私が貴女がたの絆を断ち切ろうとしたのは既知のとおりです。しかし父は私と同じ執務官である貴女を抱き込みたかっただけなのです」
そして、とジェスターは天を仰いだ。
「私はこの一ヶ月、貴女を見ていて気付いたのです。貴女が居るべき場所は此処ではないと」
間もなくエレベーターは屋上に到着する。最後にジェスターはコートのポケットからある物を取り出し、そっとティアナの両手に乗せた。
「クロス、ミラージュ……」
「時が満ちたら、私が道を開きます。それまではどうかお静かに」
「オラリアド、貴方まさか―――――」
「Noblesse Oblige……本来の自分に戻るだけです。どうか貴女はご自分の道を」
エレベーターが停止し、三枚重ねの重厚な扉が開いていく。もうすぐ夕暮れなのか、見える空は赤く燃えている。見やれば物資搬入口やヘリポートとしての機能も兼ねている本部屋上には、五十名以上の陸士が配備されていた。上空には対魔導師戦仕様のガジェットが無数に浮かんでいる。
インファイトタイプのスバルが此処から生還することは、およそ不可能に等しい。まして彼女は度重なる戦闘と負傷で消耗しているはずだった。
「ウィング……ロォォォォォドッ!」
茜の空に走る風の道を、レッド・トルネイダーに跨ったスバルが駆け抜ける。リミッターを解除し、時速300kmを超えるスピードを発揮されては人間はもとよりガジェットさえも捕捉は困難だ。
防空網を突破したスバルが屋上に着地する。待ち構えていた陸士隊が一斉にライフルを彼女に向けた。
「そこまでだ、スバル・ナカジマ。動けばランスター執務官の命は無いぞ?」
響く野太い声にスバルが眉をしかめる。何人もの陸士に護られながら姿を現したのは、小柄で三段腹の中年男だ。この男からどうやったらジェスターのような長身怜悧の美男子が生まれてくるのか、ティアナは信じられなかった。
それよりも問題はスバルの負傷だ。顔の左半分は皮膚が剥げ落ち、機械の部分がむき出しになっている。蓄積したダメージから体のあちこちで火花が飛び散った。両手に装着されたリボルバーナックルもヒビだらけだ。
「ドルヴァン……オラリアド!」
「ふん、大人しく谷底でくたばっておればいいものを。まあいい、暴走した戦闘機人を撃破したとなればワシの功績にも白がつくというものよ」
吼えるスバルへ上空のガジェットが一斉に襲い掛かる。無数の触腕を生やして迫る戦闘用ガジェットの群れが殺到し、
「はっ!?」
無数の光弾に阻まれて悉く爆散した。その場の全員が射手を見やるより早く、ティアナとジェスターが走り出す。
ガジェットを撃ったのはティアナのインテリジェントデバイス『クロスミラージュ』とジェスターのストレージデバイス『ローズトリガー』だ。どちらも拳銃型のデバイスだが、ローズトリガーはクロスミラージュよりも大型でハンドキャノンに近い性能を持っている。
いずれも、小型のガジェットを粉砕するには充分すぎた。
「ジェスター!? お前、ワシを裏切るのか!」
「裏切ったのは貴方だ、父上。彼女を人質にするなど、いや彼女を拉致すると言い出したすでに……」
「ワシに従っていたお前が今更善人面か!」
なおも襲い来るガジェットを蹴散らしつつ、ドルヴァンの前に立ちはだかるジェスター。父といえど、今自分の後ろに実現した感動の再会を妨害させるわけにはいかなかった。
「スバルッ!」
「え、ティア……?」
飛びついてくるティアナをスバルは受け止めようとして失敗した。抱きつかれた瞬間に不意打ちにキスを受けて、完全にバランスを崩してしまった。
「バカ! バカよアンタ……こんなになるまで無茶して、死んだらどうするのよ!」
「あ、う…………」
尻餅をついたスバルの胸に、ティアナが縋りつく。血と砂埃で汚れたバリアジャケット越しに体温を感じてスバルの頬が赤く染まった。この期に及んで恥ずかしがる様な関係でもないのだが、滅多に泣いてくれないティアナの涙にもう頭がグラグラだ。
リボルバーナックルの無骨な指で、優しく背中を擦るとついにティアナも嗚咽を零してしまった。
「父上、私たちは侵してはならない聖域に足を踏み入れてしまった。その罪は償わなければならない」
「……だからどうした? 眼の上のタンコブだった連中が消えて、やっと管理局の機能が正常化したのだ! すべてはこれから始まる、人の手に戻った歴史が始まるのだ! 女二人ぐらいに邪魔されるものか!」
突然、本部ビルが大きく揺れ始めた。陸士たちも想定外のことなのか、雲の子を散らすように逃げ出している。思わず膝をつくジェスターが顔を上げると、ドルヴァンがヘリポートの奥へ走っていく姿が見えた。
揺れはさらに激しさを増し、ついにヘリポートが爆発と共に崩落する。黒煙が立ち昇り、事件のあっけない幕引きを思わせた。
「い、いかん!」
次の瞬間、ヘリポートのあった場所から巨大な物体が浮上してきた。横幅はおよそ30メートル、高さは目測でも50メートルはあった。タマゴを思わせる球状だが、各所にはレーザー機銃やVLSが見える。
間違いなく、戦闘用兵器だ。
『遺失技術を復元して造り上げた制圧用有人制御型ガジェット・ハーネットだ! これさえあれば貴様らなぞ、貴様らなぞ!』
このサイズの機動兵器を前にして、この三人では分が悪すぎる。何より、この巨大ガジェットの出現によって屋上施設が崩壊を始めていた。ガジェットの餌食になるか、足場を失って地上に転がり落ちるかの違いしかない。
「くっ、ウイングロードで!」
スバルがウイングロードを展開しようとするが、ここで消耗が響いているのか、発動に手間取っている。バイクを使ってとはいえ、二日で1000kmを走破して管理局の防衛線を突破したのだ。そして彼女の体には先日の戦いで受けて銃弾が残っている。
戦闘機人といえど、とっくに機能停止を通り越して致命傷になっているはずだ。
【Avoid it. Buddy!】(避けて!)
「ぐぅっ!」
機銃掃射によるレーザーの雨がスバルに襲い掛かる。この場で長距離の空中移動能力を持つ魔導師が彼女のみである以上、狙われることは必然だった。回避不可能と悟ったマッハキャリバーが咄嗟にシールドを展開するが、これでスバルの魔力は遂に底を尽いてしまった。
スバルがその場にがっくりと両手を着き、吐血。着弾の衝撃で体内の銃弾が暴れ、内部を傷つけているのだ。
「スバル!? アンタ、その傷で……!?」
【It’s the weakness that love you. Please don’t blame my buddy.】(惚れた弱みですね。責めないでやって下さい)
「こんな惚気はやらなくていいわよ! っていうかマッハキャリバーも代弁するな!」
【So, we are fellows】(相棒ですので)
「最大のライバルがデバイスだと、今日悟ったわ、っと!」
悪態を吐きつつもティアナはスバルを担ぎ上げた。変身状態でマッハキャリバーを装着している為、重量はかなりのものだが動けないほどではない。だが飛行能力を持たないティアナには脱出する方法など……
「飛び降りるわよ」
「絶対言うと、思った」
残された手段はそれぐらいしか在るまい。しかし地上200メートル以上の高度から飛び降りれば魔導師といえど無事では済まない。
何より、ドルヴァンがそれを見逃すはずも無かった。
『逃がしはせん! 死ねぇっ!』
再びレーザー掃射がスバルと、彼女を背負うティアナに襲い掛かる。今度はシールドを展開することも出来ない。ティアナも両手が塞がっている為、クロスミラージュを使って迎撃することも出来ない。
(ここまでなの!?)
思わず眼をつぶるティアナを、横殴りの衝撃がスバルごと突き飛ばした。地面に背中を強かに打ちつけながら、見れば全身をレーザーに貫かれたジェスターの姿がそこにあった。
身動きも取れず無防備な二人を彼は体を張って庇ったのだ。
しかしその代償はあまりに大きすぎる。
「オラリアド!」
「ガ、ハ……ッ」
前のめりに倒れるジェスターにスバルを背負ったままティアナが駆け寄る。片腕で何とか抱き起こすと、ジェスターの傷が致命傷であることが手に取るように分かった。
まず腹部の三分の一が無い。左足も千切れかかっている。傷口から零れ出る血はすでに目測でも1リットルに達していた。
「どうしてこんな!」
「貴女を、傷つけた私が……貴女を守っ、て死、ねる。身に余る、光栄、です」
それほどの傷を受けてもジェスターは笑っていた。
一時は道を踏み外したとはいえ、最後には再び自身の信念である『Noblesse Oblige』を全うできたのだ。
「スバル・ナカジマ……居ま、すか?」
「うん」
「言えた義、理ではない、ですが―――――どうか、どうか幸せ、に」
「ありがとう、ジェスターさん」
最後にスバルと震える手で握手を交わし、ジェスター・オラリアドはその『高貴なる者の責務』を完了した。恋した女性と恋敵の幸福を願い、祝福する。彼の男としての器の大きさは果てしなかった。
「逃げるのは、やめよう。ティア」
男の亡骸を優しく横たえ、スバルが立ち上がる。先ほどまでボロボロで弱々しかった四肢には力が漲っていた。
「そうね。同感」
ティアナもクロスミラージュを構えてスバルの隣に立つ。師である高町なのはからスターライトブレイカーを受け継いだ際にダブルトリガーを封印した彼女だが、その空いた左手にはジェスターの形見の『ローズトリガー』。
『まだやろうというか! フン、無駄な足掻きだという事を――――』
「アンタ、自分の息子を殺してなんとも思わないの!?」
叫ぶスバルにドルヴァンは鼻を鳴らしただけだった。
『息子といっても所詮、試験管で大量生産したうちの成功例に過ぎん。いざとなれば代わりはいくらでも作れるわ』
ブチリ、とスバルとティアナの何かが切れた。
同じだ。
こいつはジェイル・スカリエッティと同じだ。
「お前はァァァァァッ!」
「許さないわよ、ドルヴァン・オラリアド!」
『吼えるな、小娘!』
三度、機銃の掃射が本部屋上を駆け抜けた。幾ら怒りを力に代えたところで消費した魔力が回復するわけでもない。ティアナ一人でスバルと自分の二人をカバーすることは難しい。
「あ、あれ?」
だがティアナたちが防御するよりも早く、二人を護るように出現したのは桜色の魔法陣。ガジェットのレーザーなど物ともしない堅牢な結界から、スバルは懐かしい波長を感じ取った。
「まさか」
「もしかして」
次いでガジェットを襲ったのは蒼と黄金、二つの落雷。如何に巨大かつ重装甲といえど超高空からの衝撃を受けては姿勢を維持できるわけも無い。屋上に落着し、フロアを一部崩落させた。
さらに頭上から爆炎と魔力砲弾の嵐が降り注ぎ、立て直そうとするハーネットを押さえつける。
「「みんな!」」
スバルとティアナの声が重なった。
――――――空から舞い散る桜色の魔力光を背に、史上最強と謳われた魔法少女が降臨する。
「スバル、ティア……ごめん、間に合わなかったね」
ジェスターの遺体を見つめ、高町なのはが目を伏せる。遅れて巨大ガジェットに突撃したフェイト・T・ハラオウンとエリオ・モンディアルも駆けつけてきた。
「ジェスター執務官!? そんな――――」
「フェイトさん、お知り合いの方ですか?」
「うん、何度か仕事を一緒にしたことがあるから……」
フェイトも執務官である以上、面識はあったのだろう。同僚の無残な死に涙を禁じえない様子だ。
「皆さん、ご無事ですか!?」
「スバルもティアも、よう派手にやってくれたわ……修理費がバカにならへん」
屋上の惨状にそれぞれ違う心配をするキャロ・ル・ルシエと八神はやて。キャロの乗る使役竜・フリードリヒが呆れた様子で首をすくめたのは、はやての言動を指してのことだろう。
『ば、バカな!? お前たちは監禁されていたはずだ! デバイスも没収して、AMFも完璧だったはず!』
そう、旧機動六課のメンバーが此処に馳せ参ずることは不可能のはずである。完全に戦力として解体して監禁していたのだから。
しかし現実は違う。
主要メンバーの殆どが自分の目の前に、敵として立ちはだかっているのだ。
「さて、ドルヴァン・オラリアドさん?」
高町なのはが、にっこりと笑った。
「スバルとティアにしてくれた分、たっぷりお返ししなきゃ、だね?」
訂正しよう。彼女の瞳はこれっぽっちも笑っていなかった。
フェイトたちもこんな高町なのはを見たのは、JS事件以来だ。とはいえ今回ばかりはなのはを制止しようとは誰も思わない。無益な戦いを生み、己の欲望のままに暴れまわったドルヴァンに対して、込み上げるのは怒りの念ばかりだ。皆が祝福しようとしていたスバルとティアナの新たな門出を踏みにじったのである。
そして、実の息子であるはずのジェスターを殺害した。
親が子をモノの様に扱う。断じて、許すまじきことだ。
「なのはさん」
インテリジェントデバイス・レイジングハートを構えるなのはの前に、スバルが背をむけたまま立った。それは決意の、闘志の表れだった。
「自分にやらせて下さい」
「でも、スバルの体は……」
「お願いします」
確かに事の発端はスバルとティアナにある。しかしこれ以上スバルを戦わせては命に関わりかねない。判断に迷うなのはに、答えを出したのははやてだった。
「ええで」
「はやてちゃん!?」
「ただしサポートにリィンを付けるのが条件や」
驚くなのはを制してはやてはにんまりと笑って見せた。確かにユニゾンデバイスであるリィンフォースUの力を借りれば、スバルの負担を軽減することも可能だろう。なのはもフェイトも、エリオもキャロもティアナもほっと胸を撫で下ろした。
しかし、次の瞬間に全員がそれを後悔することになった。
「リィン! プランMG、発動承認!」
「了解です!」
『……は!?』
どこからともなく現れたリィンフォースがスバルの方に停まる。何やら囁き合っているが、だんだん明るくなるスバルの表情から悪い予感がしてならないティアナだった。
『貴様ら! もう許さん、まとめて嬲り殺しにしてやる!』
ようやく姿勢を立て直した巨大ガジェットが再び屋上に姿を現した。今度は全身からワイヤーケーブルのような触手を目一杯生やして、気持ち悪いことこの上ない。
「ウイングロード!」
何とかウイングロードを展開するだけの魔力は確保できたらしい。肩にリィンフォースを載せて、再び空へ向かってスバルが走り出した。追いかけてくる触手を掻い潜り、二人が叫ぶ。
「「リリカル・ダーッシュ!」」
そしてウイングロードから宙空へ飛び出したのを見て、はやてが茫然自失状態のなのはとフェイトの背中を押した。
「二人とも、変身を解除してデバイスを空に掲げるんや!」
「え、え!?」
「はやて……この間悩んでたのって、まさか?」
不安と疑問が交錯する中、言われるままに自分のデバイスを空高く掲げる。
「「レーッツゥッ! デバイィィィィッス・フュゥジョォォォンッ!」」
スバルとリィンフォースの咆哮を合図にレイジングハート、バルディッシュ、夜天の書の三つが光のレールによって大空へ打ち出され、スバルと平行して飛行する。そして魔力光が描き出す『G』の文字が二人と三つのデバイスを導くのだ。
まずバルディッシュがスバルの腰にベルトに変形して装着された。何故か蒸気が噴出するような音が聞こえるが、きっとドッキングに成功したことを知らせるアラームだとスバルは解釈した。
さらにバルディッシュが生成した追加パーツがマッハキャリバーにドッキングし、一回り巨大なものになる。剥き出しだったローラーが完全に装甲で保護され、バリアジャケットもフェイトと同じ黒のニーソックスが追加された。
続いてレイジングハートが黄金の砲身に変形してスバルの左腕と合体。ギンガから預かったリボルバーナックルと接続され、完全に腕を覆っている。右腕にもグリップ部分を短くしたデザインの追加カートリッジを装着した。
「リィン、これも受け取り!」
遅れてはやてから届けられた騎士杖『シュベルトクロイツ』が夜天の書と融合し、胸部を覆うブレストアーマーとなる。加えて金の角飾りが付いたヘッドセットが取り付けられ、中央に燦然と輝くのはマッハキャリバーのデバイス本体だ。
「夜天の書、蒼天の書、起動!」
これぞリィンフォースUと八神はやてが苦心の末に完成させた究極のデバイス運用理論『プランMax Great』。複数のデバイスを、ユニゾンシステムを利用して接続し、集中運用することであらゆる強敵を撃破する。ただし使用には強靭な精神力が求められ、さらに幾つものデバイスの使用について熟知していなければならない。
そして、これらの問題を一挙に解決する人材が揃ったことで計画は実行された。
「鋼の拳に想いを乗せて、目指せ未来の終点駅!」
溢れる闘志が全身から蒸気となって噴出し、右腕のギアが歓喜の咆哮を上げる。レイジングハート、バルディッシュ、夜天の書という三つの最凶デバイスと戦闘機人・スバルが合体し、ついに人類が待ち望んだ勇者が誕生した。
「魔法勇者リリカルスバル、ティアの愛に応えてただいま到着!」
『ば、馬鹿な! こんなことが……認めらるか!』
信じられるはずが無い。つい先ほどまで死に体も同然だった魔導師が、他の魔導師のデバイスと合体して復活する。曲がりなりにも作戦指揮官として死線を幾つも潜り抜けてきたドルヴァンの常識を、完全に覆すことが起こったのだ。
『どんな力を使った!? ワシの知らん兵器を搭載しているのか!?』
「これが心なんだ、ドルヴァン・オラリアド! そして心から溢れ出る、ティアや皆への想いが私の勇気になる! お前みたいな臆病者には絶対に負けないっ!」
『このワシが恐れるものなど、ないわぁっ!』
それでもドルヴァンは冷静さを取り戻し、ガジェットを操作する。
対してスバルは迫る無数の触手を右の拳で打ち払い、一気に敵の懐へ飛び込んだ。
「一撃、必倒! ディヴァイン・バスタァッ!」
突き込まれた左腕の砲身から、大出力の魔力砲が撃ち出された。完全にガジェットの内装を食い破った一撃は貫通し、本部ビルさえ砕いてしまう。威力、射程共になのはのそれに匹敵するかもしれない。
さらにスバルの拳が唸り、ガジェットの装甲を打ち据える。
「ジェスターさんの気持ちを利用したのも!」
大義名分を振りかざし、
「地上部隊を使って私を殺そうとしたのも!」
遠くから他人を使い、
「全部、私とティアを恐れていたから! 私たちの現実を変えようとする力を!」
罠と謀略を張り巡らしたところで二人の絆を裂くことはできなかった。
『舐めるなぁっ!』
「うわぁぁっ!」
触手に叩き落とされたスバルがコンクリートの床に沈む。さらに追撃を掛ける触手の群れがスバルの背中を襲い、しかし虚しく宙を切る。
『分身!? いや、幻影か!』
落ちたスバルは魔法によって作り出された幻影をすり替えたものだった。本物のスバルは間一髪のところでティアナと、彼女の操るレッド・トルネイダーによって回収されていたのだ。
ウイングロードで一度安全圏まで退避し、転進しつつ改めて敵の姿を見つめる。ボディを貫通するほどの攻撃を受けながらガジェットとドルヴァンは健在だった。恐らく多少風穴を明けたぐらいでは戦闘に支障が出ない、タフな構造を持っているのだろう。
「やっぱり、零距離からの一撃に賭けるしかないわね」
『今のリィンたちならやれますよ!』
【I agree with it. Let’s go!】(同感です。やりましょう!)
夜天の書、蒼天の書と共に合体したリィンフォース。
額に本体の位置を移したマッハキャリバー。
そして一緒に乗るレッド・トルネイダーを操るティアナ。
これだけ心強い面子が揃ったなら、何も恐れることは無い。立ちはだかる現実を打ち砕き、果てしない明日を目指すのだ。
「…………よし! 行こう!」
スバルが拳を打ち鳴らし、戦闘再開を宣言する。
「まずスバルが先行して道を切り拓いて! そこへ私が突入して合流、一気に飛び込んで決めるわよ!」
「任せといて! うおおおおおっ!」
『ルシファー・ウィング!』
【Flyer System, setup!】
リィンフォースの合図でスバルの背中に漆黒の翼が三対、出現する。はやての物とは違い、恒常的な飛行能力は得られないがスバルの移動力を飛躍的に高める補助推進装置となる。もちろん、名前はリィンフォースのオリジナルだ。
右手のナックルを起動させ、一気呵成にガジェットへ突撃する。
『ワシの未来は貴様らには渡さん! 邪魔もさせんわ!』
「アンタは沢山の人の未来を壊そうと―――――いや、壊したんだ!」
スバルを捕らえようと蠢くワイヤーアームを片っ端からナックルで粉砕するが、数が違いすぎる。次々に死角から回り込もうとする触手たちに前へ踏み込むことが出来ない。
『スバルさん、私に任せて下さい!』
「……お願い!」
絡み付くワイヤーを振り解き、距離を取るスバルの足元に金色の魔法陣が現れた。収束する黄金の魔力光が嵐の到来を予感させ、見上げていたフェイトはその正体に気付いた。
「あれは、私の!?」
「うん。フェイトちゃんの……フォトンランサー!」
夜天の書……様々な魔法を記録することでそれを使用可能とするストレージデバイスである。レイジングハート、バルディッシュと共にスバルと合体した状態にある今、夜天の書は前者二基のデバイスに記録されている魔法を完全な形で使用可能になるのだ。
雷鳴と共に大量に生み出された光の矢が、その矛先をガジェットに向ける。
『フォトンランサー・ファランクスシフト!』
「いっけぇぇっ!」
光弾は瞬く間に触手の群れを喰らいつくし、ドルヴァンへと続く道が此処に開かれた。
「ティア!」
ウイングロードに乗って後方から迫るレッド・トルネイダーだが、途中でスバルが跳躍した為か、途切れてしまっている。しかしティアナはその程度の事は予定に織り込み済みだ。
素早くコンソールを操作し、レッド・トルネイダーの隠された機能を作動させる。
ティアナが大きく跳び、その瞬間、あろうことかレッド・トルネイダーは変形を開始した。前輪と後輪を支えるジョイントが大きく伸び、タイヤを水平にする形で飛行形態『スライダーモード』へ移行したのだ。
そのレッド・トルネイダーの上へ着地し、クロスミラージュを操作システムとシンクロさせると巧みに風を切って飛翔する。さながら深紅のサーフボードである。
「スバル!」
「うん!」
スバルを再び乗せて、レッド・トルネイダーは一直線に未だ足掻き続けるガジェットへ突き進む。生き残ったレーザー機銃が応戦するが、その程度の弾幕が魔法勇者の鉄壁に通用するはずも無い。その守りは、あの高町なのはと同質同等。機械風情が打ち破れるものか。
「決めるよ、ティア。ギア・エクセリオン!」
「ええ。クロスミラージュ、ブレイザーモード!」
突き出されたスバルの左腕と、ティアナのクロスミラージュがガジェットの装甲の向こう側――――――――ドルヴァンへと狙いを定める。
『シンクロスタート……フルパワーです!』
【Alright Ready! Full Charge!】
左腕と合体したレイジングハートの砲身が、変形したクロスミラージュの銃口が桜色の魔力光を放ち始める。続けて同色の多層型魔法陣が出現し、合わせてレッド・トルネイダーも二人を乗せたままホバリングモードでその場に滞空する。
神聖なる一撃を越え、
星の輝きよりも強く、
今辿り着く、大切なものを守る『正義の力』。
「「エクセリオォォォォンッ……」」
光が一気に膨れ上がる。
愛しさ、優しさ、怒り、悲しみ、憎しみ……全てを籠めて叩きつける。そうしなければ明日へ進めないから。
「「バスタァァァァァァァァッ!!!」」
突き抜ける閃光が全てを焼き尽くし、夜の帳を下ろし始めたミッドチルダの空を駆け上っていく。一人の男が抱いた悲恋と、二人の女の絆を乗せて……
◇
0079年10月23日。
後にリリウム事件と呼ばれるようになるこの事件は、ドルヴァン・オラリアドのクーデター未遂として処理された。経緯はどうあれ彼が規格外の兵器を秘密裏に所有し、それを使って政府機能を掌握する計画が明るみに出た為である。
記者会見を終えてハイヤーに乗り込む八神はやては眉根を寄せていた。メディアの矢継ぎ早な質問は彼女にとってストレス以外の何ものでもなかった。警護役のフェイトが苦笑するのを見て、深い溜息をついた。
「お疲れ様、はやて」
「まあ。これが仕事やもん、しゃあない」
「でもこれで、終わりだね」
スバルとティアナの結婚宣言を単に発した一大事件はかくして幕を下ろす。ドルヴァンの企てた悪事は本人の死を以って完全に粉砕されたのだから。しかし腑に落ちないのは、彼があれほどの巨大兵器を開発・保有していた理由が不明な点である。遺失技術を流用した、というくだりも気になる。
「せやかて、一番重要なんはあの二人や」
「なのはが世界一ゆっくり出来る場所を紹介する、って言ってたよ」
スバル・ナカジマは巨大がジェットを撃破した後、出血多量と心身衰弱で病院に担ぎ込まれた。やはりあのデバイス合体は相当な負担を彼女に強いたようだ。
物語なら傷が治ったら退院して、現場に復帰するのが普通なのだがスバルの場合はそうはいかない。彼女は陸士一個大隊を完全に壊滅させ、何百人という死者を出している。陸士たちもドルヴァンの命令で動いていたとはいえ、彼ら自身になんら罪は無い。勿論スバルも彼らに襲われなければその様なことをする必要も無かったのだが。
それでも大量殺戮の事実は消えず、スバルはその償いをしなければならない。
ティアナも付きっ切りだが、病院のベッドで苦悩するスバルは答えを出せずにいた。そんな二人にある日、見舞いに来たなのはがある提案をしたのである。
「どこやろ……紹介してくれんかなぁ?」
「あはは、大丈夫だよ。私たちはよく知ってる場所だから」
「んん? もったいぶらんと、揉むで?」
割と本気で迫ってきたはやてをいなしつつ、フェイトはそっと耳打ちした。
そこは、なのはたち三人にとっても大切な場所。
「…………次の休暇ぐらい、遊びに行ってもええかな?」
「休みがあればね」
「スバルさん! 3番テーブルオーダー!」
「はいはい!」
「スバルちゃん! ティラミスのセットを2番さん!」
「はいはい!」
「スバル! カウンター三名様、お会計よ!」
「はいはい!」
海鳴市。駅からの大通りに面する喫茶店『翠屋』はうららかな午後でもやっぱり繁盛していた。元々人気の高いカフェだったのだが、先週から働き始めた二人のウェイトレスが普段以上の集客効果を発揮しているのだ。
そう。これが高町なのはが二人だけに教えてくれた安息の地。
「っていうか、ティアも働こうよ」
「私はレジ打ちとテイクアウト担当。アンタはフロア担当」
つん、とそっぽを向くティアナに肩で息をするスバルは何も言えない。元々オフェンスとバックスが発揮している二人だけに、この配置は当然の選択である。驚くべきは、その関係を初対面で看破した高町母だろう。
高町家はなのはの紹介という事もあって、快くホームステイを受け入れてくれた。もちろん、二人が非公式ながらも夫婦であるという事実も込みで。もっとも読書家であるなのはの姉は色々と妄想したらしく、鼻血を噴いて兄に叩きのめされていたが。
少なくとも、此処ならばミッドチルダの様々なしがらみが追ってくる事はない。
閉店業務を終わらせて、全員で家に戻って夕食を摂る。もっぱら話題に上るのはミッドチルダでのなのはの様子だ。ヴィヴィオがなのはの娘になる話はすでに高町家では周知の事実だったが、普段の生活における親子のやり取りまでは情報が来ないらしい。
「なのはさん、忙しいですからね。でもヴィヴィオが言うには、ちゃんと朝と夜はエプロンをつけて料理してるらしいです」
六杯目の白米(どんぶり)をかきこみながら、スバルが得意げに頷く。隣ではティアナから鬼教官ぶりを聞いた姉・美由希が「かんっぺきに追い越された――――」と崩れ落ちていた。
「うむ。やはり一度、手合わせをする必要があるな」
美由希の向かいの席で兄・恭也が血走った眼で小太刀を見つめていた。仕事の関係で日本に帰国したらしい彼は、剣を久しく握っていなかったことで半ば中毒状態に陥っていた。
「止さないか、恭也。こんな美人の前で刀を抜くなひょほほひはい、ひはいほほほほ(いたい、痛いぞ桃子)」
「あーら。なのはの部下さんに鼻の下を伸ばしてるのは誰かしらね」
「わはっは、ほへはわふはっは」(分かった、俺が悪かった)
頬をギリギリと抓られて涙目の父・士郎と母・桃子のおしどり夫婦っぷりに、ついスバルとティアナも吹き出してしまった。こちらに来る際になのはから聞かされていたが、まさに犬も食えぬなんとやら。
結局、食後の運動と称してスバルは恭也との立ち合いに臨み、がっぷり四つの大勝負に発展したところで仕事から帰ってきた彼の妻が乱入。浮気と勘違いされて大騒ぎになってしまった。最後はぐずる妻を連れて自室に撤収する辺り、やはり親子なのだろう。
そうして夜も更け、宛がわれた部屋で同じ布団に入る。この国では女性同士の結婚が法的に認められていないため、日常でいちゃつけない二人に「せめて寝るときぐらいは」と桃子が気を利かせてくれたのだ。
「いい人だね、みんな」
「そうね」
安らげる時間、空間、居場所。
いつかは此処も出なければいけない。今回の一件でスバルは特別救助隊の職を失い、ティアナも執務官を辞した。しかし自分達はまだ歩むと決めた道の途中で、それを諦めたつもりは無い。
考えるべき事は山ほどある。悔やむべき過去は消し去れない。
たとえ二度とミッドチルダに戻れないとしても、心に誓った信念だけは貫き通そう。
「また明日ね、ティア」
「また明日。スバル」
今夜も抱き合って二人は眠る。
愛しい相棒となら、どこまでも未来を追いかけていけるから―――――――
【Hey, Buddy! Don’t forget us!】(あ、相棒! 私たちを忘れないでください!)
【Give it up, brother.】(諦めろ、兄弟)
【Cross Mirage!? Aren’t you annoyed, Uh!?】(クロスミラージュ!? あなたは悔しくないのですか!?)
【Don’t be upset, Mach Caliber. We pray for the happiness of our master.】(取り乱すな、マッハキャリバーよ。我々はマスターの幸福を願うのみ、だ)
そんなやり取りが、リビングテーブルの上で聞こえたとかなかったとか。
あとがき
リィン「せーんとおーかーいしだー、ちからーのかーぎりー♪ ふーけよー、ゆうしゃーのーかぜー♪」
はやて「チャァンスをっのぉがすなぁっ! ひぃっさぁつわぁざだぁっ! ちょぉこぉぉそくだぜぇっ! グレェトォォォッ!」
はやて・リィン「「マイッッガァイィンッ!!!」」
ザフ○ーラ「主とリィンで『勇者特急マ○トガイン』より、挿入歌『グレート・ダ○シュ』をお送りした。本編中の某シーンのBGMの参考にしていただきたい。しかし何故私の名前まで伏字が?」
ゆきっぷう「はいはい! 劇場版「ある日の補佐官とエース」をお読み頂きありがとうございました。初っ端から『バトルかよ』と思われた方、申し訳ありません。百合分が欲しい方は通常版の『ある日の補佐官〜』をご覧ください」
リィン「百合ものの続編にしてはラブラブしてないですね?」
ゆきっぷう「うむ。今回のテーマは『同性愛に対する社会的刷り込みと、それに立ち向かう二人』だからな。イチャイチャできる空気ではなかった。というか何よりもデバイス・フュージョンがやりたかった。二番煎じにも程があるだろうが、後悔も反省もしていない!」
シャマル「最近うちに『ガオ○イガー』とか『ジェ○デッカー』とかの映像ディスクが届いたりしてたのはそういう陰謀!?」
ゆきっぷう「そう、その通り! そのおかげか、お宅の二人は今やすっかり勇者通さ!」
シャマル「ええ、もう酷い位にね!」
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ヴィータ「バッキャロー! デッカード以上の勇者は居ねえ!」
シグナム「だが獅子王も捨てがたい。あらゆる困難に立ち向かうガッツはヴォルケンリッターとして見習うべきだ。いや、むしろ主はやてに頼んで彼を新たな騎士として――――――」
ヴィータ「そっちかよ!? っていうか呼ぶならデッカードだって!」
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ゆきっぷう「さて、じゃあそろそろお開きに―――――」
ギンガ「ドッセェェイッ!」(地面から左手のドリルで穴を掘って登場)
ゆきっぷう「ギンガすわぁん!?」
ギンガ「スバルの、結婚式は!?」
ゆきっぷう「流れたよ」
ギンガ「………………ガクッ」
ゆきっぷう「――――――で、では皆さん、また来週(?)お会いしましょう!」
Mach Caliber【Thank you for reading such a trashy work. See you again.】(こんな駄作を読んで頂きありがとうございます。またお会いしましょう)
Cross Mirage【Our Masters said that thank you. And, “If this story continued, we hope for the peaceful episode”.】(マスターたちもよろしくと言っていた。「次があるなら平和な話がいい」とも)
ゆきっぷう「す、好き勝手言いやがって! お前たちの台詞が一番面倒だったんだぞ!? 翻訳ソフトがバカで、意訳と直訳の磨り合わせにどれほど苦労したと……」
Mach Caliber【Bye♪】(ではでは〜)
Cross Mirage【Good luck for all readers.】(読者の皆様に幸運を)
Avan【Don’t end it without me! Fuck you!】(勝手に終わらせんな! クソッタレ!)
恐らく必要ないであろう用語解説
AMFC弾頭(アンチ・マジック・フィールド・コーティング弾頭)
0078年に管理局で秘密裏に採用された最新型質量兵器。JS事件における本部襲撃から教訓を得て、管理局上層部は特例的に質量兵器の採用を決定。この流れは同事件によって最高評議会という歯止めが失われたこともあり、非公式での運用を前提とすることで各機関と調整を図ったことで実現した。
この弾頭は着弾時に極めて限定された範囲(弾頭を中心に半径70cm)にAMFを瞬間的に展開。対象の魔法効果を無力化することができる。連射することで対象の魔法防御を突破することが可能となった。リンカーコアを持たない人間が魔導師に対抗しうる数少ない攻撃手段となり得る、画期的な発明とも言える。
ただし、現在のミッドチルダでは生産できる施設がごく一部に限られる上、発案者がドルヴァン・オラリアドであったことから、彼のクーデター計画発覚後の0080年に導入中止。計画は破棄された。
本作においてはスバル・ナカジマ追撃部隊の一部隊員が使用し、攻撃目標を負傷させている。
LSR0079『レッド・トルネイダー』
旧暦から続くバイク製作会社『TO=EI』が開発した二輪車両。絶大な加速力と最大走行距離を誇り、また最大の特徴として地上走行形態と空中飛行形態への変形機構を持つ。飛行能力を持たない陸士の機動力向上の狙いで0079年に管理局へ試作車三台が納入された。内の一台が、担当任務の内容もあってティアナ・ランスターに預けられた。
前作「ある日の補佐官とエース」の時点ですでにティアナの愛車としてプライベートでも使われているが、その加速性能で公道を走ることは無謀以外の何物でもない。
デバイス集中運用計画『プランMG』
リィンフォースUによって提唱された、最新のデバイス運用法。彼女の上司である八神はやてが複数のデバイスを同時運用することをヒントに、ユニゾンデバイスを中枢として複数のストレージ・インテリジェントデバイスを合体させ、一人の魔導師で運用することを目的としている。
発案に際して、海鳴市から持ち込まれた映像ディスクが深く関わっているという噂があったが、これについて関係者は完全に否定している。
最低三基のデバイスを合体させ、それぞれに攻撃・防御・移動の機能を特化した形で分担させる。メインコントロールを魔導師自身に預けつつ、各デバイスの出力調整、コマンドの最適化をユニゾンデバイスがリアルタイムで行なうことで瞬間的に絶大な戦闘力を発揮することが出来る。
しかし術者に多大な負担を強いることと、プランに適合する人材・機材を確保できないことからお蔵入りしていた。しかしはやてとリィンフォースの野望が潰える事は無く、リリウム事件の最終局面でスバル・ナカジマに対してプランを発動。計画は成功し、誕生した魔法勇者リリカルスバルによって事件は解決へと導かれた。
なお、各デバイスの合体シークエンスについては昨年、閉鎖空間から救助され、ミッドチルダに移住してきたある人物のアドバイスを元にリィンフォースが構築したものである。
余談だが、MGとは「魔導」「合体」の略である。
魔法勇者リリカルスバル
レイジングハート・エクセリオン、バルディッシュ・アサルト、夜天の書(+シュベルトクロイツ)、リィンフォースUとスバル・ナカジマ(+マッハキャリバー、リバルバーナックル二基)が『デバイス・フュージョン』して誕生した、百合界最後の勇気の結晶である。
まずバルディッシュが腰のベルトに装着され、同時に両脚のローラーブレードに追加パーツがドッキングされる。これによって足回りのデバイス制御はバルディッシュの特性が付加されることになる。
次いで左腕に砲身へ変形したレイジングハート、右腕にはグリップ部分のパーツで構成された追加カートリッジが合体する。レイジングハートが攻撃機能を補佐することで魔力射撃の威力精度が軒並みパワーアップし、プロテクションの耐久力も上昇している。
さらに夜天の書とシュベルトクロイツが合わさり、胸部用の防護アーマーに変形して直接スバルの体を覆う。この際にリィンフォースUと蒼天の書もスバルと融合し、全てのデバイスとリンクすることであらゆる魔力制御を効率化するのだ。もちろん夜天の書、蒼天の書の機能も使えるので、本編中のようにフェイトの「フォトンランサー」も使用できる。
最後に額にシュベルトクロイツのパーツの一部で構築された角飾りが装着され、中央のスリットにマッハキャリバーのデバイス本体(クリスタル)が移動することで合体完了。
以上のシークエンスを経て誕生した魔法勇者リリカルスバルは、高町なのは、フェイト・T・ハラオウン・八神はやての三人の能力を受け継いだ新たな主人公として――――――(ここで文面が一度途切れている)
なお、レッド・トルネイダーを強化パーツとして合体した『リリカルスバル・ブレイズ』という形態もあったが、レッド・トルネイダーの改造が間に合わず合体を断念したという。
ジェスター・オラリアド
劇場版「ある日の補佐官とエース」に登場するオリジナルキャラクター。執務官の資格を持ち、各地を転々としながら各部署の現場での活動を支援している。そのため様々な人物のコネクションを持ち、本編中でもティアナ、フェイトと共同で任務に当たった経験がある。
長身怜悧、銀髪のイケメン22歳。局内での女性人気は非常に高く、玉の輿を狙う職員が後を絶たない。ジェスターが紳士的で女性を邪険に扱わないことから、その勢いはティアナへの片思い疑惑が浮上するまで加速する一方だった。
先祖代々「貴族」であるらしく、母親の最期を看取った時に譲り受けた言葉『Noblesse Oblige』を信条としている。また父・ドルヴァンによって生後間もなく母とは引き離され、英才教育を十数年に渡って施されていたこともあって、彼自身会った記憶は数回程度しかない。
プロジェクトFの技術を流用して、受精卵から大量生産されたクローン体をDNAレベルで選別した『成功例』であり、身体能力は極めて高い。魔導師ランクはB。使用デバイスは『ローズトリガー』で、際立った特徴は無いが魔力効率と威力に優れる。
ゆきっぷう恒例の死亡フラグからティアナを護る為に戦死した。
ドルヴァン・オラリアド
JS事件後、地上部隊の約半分を統括する第二方面作戦司令。JS事件までは陸士隊一個師団を率いて各都市の警戒任務を担い、最高評議会という管理局中枢の壊滅を受けて現在の役職に就いた。現場の評価は高く、的確な判断と状況分析能力を持つ優秀な指揮官として有名。
機動六課設立に当たり、非公式な支援を行っていた人物の一人でもある。彼もまた『管理局の機能崩壊』を八神はやて達とは違う形で予想し、機動六課にはその際の台頭戦力としての機能を期待していたのが支援の理由。
評議会の存在を疎ましく思っており、人類の歴史を影からの支配から奪回すべく自身の権力増大を図っていた。0079年の現在でも評議会の影響は大きく、旧体制に依存する機関は少なくない。管理局のみならずミッドチルダ全体の組織改革がドルヴァンの計画だった。
そのために優秀な人材を抱きこもうと様々な策を練り、結果として人道に反した手段に依存するようになってしまう。ドルヴァンの妻(ジェスターの母)はそんな夫を心配しつつも、最後まで付き従っていた。しかし受精卵提供の際の医療ミスで体調を崩し、0070年に病死。彼の暴走が本格化したのもこの頃である。
悪政と戦うための代償は、あまりに大きかった……
前回の続きでてっきり甘い展開かと思ったら。
美姫 「熱い展開に」
いや、まさかの展開だったけれど、熱いバトルでしたな〜。
美姫 「スバル、頑張ってたわね」
うんうん。愛する人のために。
美姫 「投稿ありがとうございました」
ありがとうございます。