2001/12/30 09:21

――――――???

 

 

「これは忌々しき事態だ、博士」

 

 円卓の会議場にて、二人の男が向かい合っている。うち一人がそう呟き、博士と呼ばれたもう一人が頷いた。その視線の先には一枚の画像……巨大な長刀を振るいBETAを薙ぎ倒す紫の武御雷の姿がある。

 

「すでに第四計画は最終フェイズに到達していると見て間違いあるまい。このまま奴らを野放しにすれば世界のパワーバランスは大きく傾く……そう、日本にだ」

 

 第四計画……オルタネイティヴ4が日本帝国主導で行われていることは周知の事実であり、その成功は即ち日本が今後の国際情勢で優位に立つことを示している。日本政府もその辺りは心得ており、計画遂行の助力は惜しみない。

 だがそれは他の国家……とりわけ対BETA戦略の主導権を握っている米国にしてみれば歓迎し辛いことである。これまで築き上げてきた国家の権威が失われることは望ましくない。

 それ故、彼らの組織は工作員を送り込んで先のクーデターを画策したのだが……

 

「我々は何としてでも計画を阻止し、第五計画を実行せねばならん。この星条旗に誓って、必ずだ」

 

 円卓の中央に掲げられた星条旗が静かに揺れている。遠く響く機会の駆動音と、その合間に聴き取れる小波の音が規則正しいリズムを刻み、数拍の後に博士はゆっくりと口を開いた。

 

「電磁投射砲、ムアコック・レヒテ機関、HIMARFの遺産……いずれも強大な戦力でしょうが、私たちの造り出したシステムの前には無力です。心配は無用ですよ、提督。あれはまさに……神のシステムなのだから」

「それは例の……もう使えるのかね?」

「横槍こそ入りましたが、問題はありません。こちらの希望通りに手配していただけたなら、明朝にも『ヨコハマ』を落としてご覧に入れます」

 

 手配。

 世界中から余剰の戦術機を買い叩き、空母やHSST(再突入駆逐艦)に載せてある場所へ向かわせる……それが博士の提示した『ヨコハマ』攻めに必要な条件であった。

 手元の書類に一度目を落とし、提督は告げた。

 

「昨日までの時点で予定の八割を消化しておる。そう言っても大半はF4F15Eだがな。それと念のため、あれも四基ほど用意してある」

「それは誠に重畳……明日は人類の歴史に新たな1ページを刻むことになるでしょう」

 

 

 

 

 

MUVLUV Refulgence

~Another Episode of MUVLUV ALTERNATIVE~

 

\.絶対運命・哀

 

 

2001/12/30 13:14

国連極東方面第11軍横浜基地・副司令室

 

 BETAの殲滅を確認した俺は休息もそこそこに夕呼先生を訪ねていた。今までのゴタゴタで聞き忘れていたことも山ほどあったし、今後の方針についても色々話さなきゃならなかったからだ。

 自分の椅子に腰掛け、先生は整理していた書類を引き出しに仕舞い込むと改めて俺へ向き直った。

 

「さ、今日こそ洗いざらい喋ってもらいますよ。先生」

「そう? じゃあ何から話そうかしら」

「ならBETAについて。他の星にBETAがいないとか、前に言ってましたよね?」

 

 一番気になっているのは、何よりここ数年間のBETAの状勢だ。表向きの資料では前の世界との相違点は全く無かった以上、甲21号作戦の中で先生が言った『地球以外にBETAはいない』という言葉の真意は本人に聞くしかない。

 

「ああ、それね。別に裏は無いわよ、言葉通り地球以外のBETAは駆逐されたらしいってこと。もちろん、太陽系内という限定した範囲での話だけど」

「駆逐、された?」

「そうよ。白銀が居た前の世界では違うのかしら」

「……違いますよ。火星にも月にもBETAは腐るほど居ました」

 

 でも駆逐された、という表現は引っかかる。

 ただ単に居なくなったのではなく、何者かの手によって倒されたというのはいったいどういう根拠があるんだ? 火星まで核ミサイルでも飛ばしたんだろうか……

 

「先生、BETAは駆逐されたんですか?」

「少なくとも火星と月のハイヴの殆どが消滅したことは間違いないわ。もちろん人類には月どころか火星に戦力を送り込むなんて芸当は到底出来ない」

「……まさか」

 

 俺の言葉が続くより速く、先生はスクリーンを起動させて一枚の写真を映し出させた。それは惑星……たぶん火星を天体望遠鏡か何かで撮影したものだろう。けどその星はあちこちで巨大な白い光に覆われていて、地表は半分以上見えなくなっていた。

 

「1999年12月24日……火星は謎の勢力の襲撃を受け、『Mars Zero』を筆頭にBETAハイヴは壊滅的打撃を受けたわ。火星に送り込まれた人工衛星から送られてきた地表の写真には、地下茎もろとも反応炉を吹き飛ばされた『Mars Zero』の跡地が写っていたわ」

「む、無茶苦茶だ」

「さらに2000年7月6日には謎の移動光源が月面へ落下、明くる7月7日には月のBETAはこの未確認勢力と交戦状態に突入。信じられないことだけれど一週間と経たずに月のBETAは姿を消したわ」

 

 一週間……そんなことがあるわけない。それだけで月の敵を一掃できるような存在がこの太陽系に居るなんて考えたくも無いぞ。

 

「けどこの後、未確認勢力は月から動いていないわ。BETAの代わりに地球を侵略しようとしているんじゃないかって、各国上層部は今もヒヤヒヤしてるからね」

 

 確かにそれが敵ならBETA以上に厄介だな。今ある戦力はあくまでBETAを倒すためのもので、BETAを上回る敵に対して有効かと聞かれればNOと答えざるを得ない。

 

「ま、そういうわけだから今太陽系でBETAが居るのはこの地球だけってわけ。第三勢力も昨年から音沙汰がない以上、人類全体としてはBETAに集中するしかないのが現状よ」

「それは大体分かりました。ともかく俺たちはBETAを倒さなきゃ何も始まらないんだ」

 

 未知の敵なんざ知ったこっちゃない。俺の行く手を阻むなら全部ブッ倒すだけだ。

 

「それで先生、基地の状況はどうですか?」

「最悪の一歩手前、ってところね。反応炉は完全に停止して復旧の目処は立ってないし、最下層自体も小型種の侵入を受けてダメージも大きいわ。特に反応炉周辺のブロックは精密調査が終わるまではどうにもならない」

 

「後ろからガブリ、なんてゴメンだからね」と先生は苦笑した。

 

「次に地上施設。Aゲート、Bゲート共に充填封鎖されて使えるようになるには半年以上掛かるわ。メインゲートや物資搬入用の昇降口は無事だったから特に大きな支障は無し。ただ各演習場や滑走路は使い物にならないわね

「そうですか。戦力は?」

「戦術機部隊のおよそ6割、支援部隊は7割の損失よ。人的被害はそれほどもなかったけど、肝心の戦術機やら戦闘車両やらがだいぶ持ってかれたからね。まともに部隊として動けるのは第19独立警備小隊とヴァルキリーズぐらいよ」

 

 ヴァルキリーズが全員健在なんだ。機体の整備さえ間に合えばなんとかオリジナルハイヴは攻められる、ってところだな……もっとも、先生にその気があればの話だけれど。

 

「それで、これからどうするんですか」

「アンタならもう分かってんじゃないの?」

「じゃあ、やっぱりオリジナルハイヴを……」

「ええ、陥落させるしかないわ。ちょっと待ちなさい」

 

 おもむろに先生は受話器を取り、二言三言告げてから俺に目配せした。

 

「???」

 

 いや、実際のところ目配せされても意味分からねえけど。

 

「ついてらっしゃい。『桜花作戦』の説明をするわ」

 

 

 

 

2001/12/29 現地時間20:37(日本との時差−17時間)

国連太平洋方面第3軍・ユーコン基地

国連軍ブリーフィングルーム

 

 二ヶ月前、ここで起こってはならない事件が起こった。

 国連軍の高官を名乗る男とその部下数名によって二人の少女――――否、衛士が連行されていったのである。罪状は『人類反逆罪』……しかし彼女らと多少なりとも付き合いのあったユウヤ・ブリッジス以下、アルゴス試験小隊の面々は違和感を覚え、上官であるイブラヒム・ドーゥルに詰め寄った。

 しかし、返ってきた答えは『軍事機密』。

 イブラヒムでさえ事の詳細を知る権利は与えられていなかった。

 煩悶とする日々を過ごす中、篁唯依が特別任務で一時帰国する際に入れ替わるようにある男が現れた。彼は世界に名立たる国際戦術機技術開発局の所属であり、その権限で事件を調査することをユウヤらに約束した(男がこの基地を訪れた理由は不明だったが)。

 そして今日、再びその男が現れたのである。

 幸い機体の不具合で試験が中断されていた試験小隊の一同はただちに宛がわれたブリーフィングルームに集合し、今に至る。

 

「先に言うが、これから話すことは国家機密に関わる内容だ。一つ間違えればここにいる全員が、明朝にユーコン川の魚の餌になるだろう。覚悟はいいか?」

 

 不敵な笑みを浮かべ、その男――――アヴァン・ルースは一同を脅迫した。深い蒼を湛える長髪と瞳が印象的な男の言葉に、しかし彼らは臆することなく無言で続きを促した。

 

「まずイーニァ・シェスチナ、クリスカ・ビャーチェノワの両名を拉致・連行したのは米国の諜報機関……分かりやすくいえばCIAだ」

 

 イタリア人衛士のヴァレリオ・イザコーザが口笛を鳴らしておどけてみせる。だがその頬には一筋の冷や汗が浮かんでいた。彼の内心を端的にあらわすなら、作戦前の状況説明で『俺たちの敵はゴジラだ』と言われたも同然だった。

 

「足取りを追う事自体は単純だった。三つの空港を経由して二人の身柄はロス・アラモス研究所へ移送され、そのまま消息を絶っている」

「ろす・あら……なんだって?」

 

 首をかしげるタリサ・マナンダル少尉を、ヴァレリオがこれ以上の醜態を晒さぬよう横から耳打ちする。

 

(な、なんだよ)

(ロス・アラモス研究所はG弾造った所だよ! 話の腰を折るなって)

「続けても大丈夫か?」

 

 タリサが慌てて頷くと、アヴァンは説明を再開した。

 

「……率直に結果だけを伝えよう。シェスチナ、ビャーチェノワ両名はすでに米国を発ち、日本に向かっている。そしてソ連は彼女達を救う手立ては無い、と判断した」

「ちょっと待て! それはどういう……!?」

 

 耐え切れなくなったのか、それとも日本という単語に反応したのか、感情を露わにしたユウヤが立ち上がる。

 

「もし彼女達を救い出すのなら、米国そのものを敵にまわすことになる。それは得策ではないのだよ、今のソ連には」

 

 BETAの侵攻によって国土を奪われたソビエト連邦は事実上、アメリカにアラスカの一部を借りる形で国家を維持している。そのアメリカを敵に回すことは国家滅亡に直結するのだ。衛士二人の命と秤にかけられる物ではない。

 

「ブリッジス少尉、一つ聞いてもいいか?」

「何でしょうか」

「君は何ゆえに、二人に固執するのだ」

 

 属する陣営が違う彼らが、イーニァとクリスカをここまで気にかける必要など何もないしリスクも大きすぎる。だがユウヤははっきりと答えた。

 

「仲間だからです。国が違ったって敵は同じ。それを見ず知らずの奴に無理矢理連れて行かれたんだ……それに」

 

 一度視線を背後へ移し、不貞腐れているタリサを見やる。

 

「決着をつけたがっている奴もいる」

 

 タリサは過去、あの姉妹に敗れている。その雪辱を晴らさなければ、という彼女の戦士としてのプライドが横槍など許すわけもない。

 

「他の二人はどうだ?」

「俺はこいつらがどうのこうの、というなら付き合うぜぇ。チームだからな……それにこういうオチは気に食わねぇし」

 

 ヴァレリオがにやりと笑う。

 その反対側で沈黙を保っていたスウェーデンのステラ・ブレーメルも微笑を浮かべ、

 

「お守りは必要だもの」

 

 一言だけ告げると今度はタリサが「あたしゃガキじゃねえ!」だのと喚きだす。すぐさまイブラヒムが一喝しなければ場の空気は完全にコメディと化していただろう。

 特に話すべきこともなく、その場は解散となってアヴァンとイブラヒムはブリーフィングルームを出た。四人はそのまま別命あるまで待機だ。

 

「それで中尉。彼らは全員参加ということでいいのか?」

「申し訳ありませんが、そのように取り計らっていただければ幸いであります」

「じゃあそうしよう。機体はそっちのアクティヴとストライク、それから……弐型か?」

「弐型は今回の作戦では使用できません。ブリッジス少尉にはアクティヴに搭乗を」

 

 二人は歩きながら出撃の段取りや細かなスケジュールを確認し、格納庫へ向かう。そこではアルゴス試験正体の機体に限らず、全ての戦術機の搬出準備が進められていた。

 

「やはり、ここに連中が?」

「ええ……基地の機体も半数が持っていかれました」

 

 米国の余剰機買収の動きは後方の戦術機開発基地にも伸びていた。むしろ後方という戦闘の可能性の低いエリアであるが故に、それは買収というよりも接収と表現すべきものであった。さらに激しい抵抗のあったソ連領では死傷者も出たという噂まである。十二月の頭の話だった。

 

「弐型やアクティヴは辛うじて免れましたが、恐らく次はそうもいかないでしょう」

「それで……試作機を返納するのか。奪われないために」

 

 見れば地下の機密ハンガーから運び出されたのだろう、試作型の電磁投射砲も解体されて輸送機に積み込まれていた。また不知火・弐型は戦術機用輸送コンテナに納められ、再突入駆逐艦へ搭載済みだ。

 まだ幾つかのパーツについて性能評価試験を残している不知火・弐型だが、他国に奪取されることは基地の面子に関わる。国家機密を預かる以上、この返納は当然の措置なのだ。

 

「送る先はあるのか? 帝国軍にはこの機体を回収する余裕はないぞ」

「それはどういう……」

「向こうに着く頃には肝心の日本が消滅しているかもしれんよ? 今頃、第五計画の息が掛かった連中が太平洋側に戦力を集結させているはずだからな」

 

 そんな二人の間に割って入ったのは甲高いクラクションだった。見やれば格納庫の搬出口に一台の輸送用大型トレーラーが停まっている。マーキングを見る限り、それはソ連軍の車両のようだ。

 

「来ましたか、ドーゥル中尉。そして……ルース局長」

「サンダーク中尉?」

 

 イェジー・サンダーク。

 ソ連陸軍中尉で、イーニァとクリスカの所属していたイーダル試験小隊の指揮官を務める男だ。非常に有能な人物として評価されているが、その彼が何故西側の戦術機ハンガーに現れたのか。

 中尉は背後のトレーラーを指差し、言った。

 

「彼女達の使っていた機体です。持っていってほしい」

 

 トレーラーの荷台を覆うシートが剥がされると、ソ連製第三世代の傑作機―――――Su37M2『チェルミナートル』が姿を見せた。機体の塗装を見る限り、間違いなくあの二人が使っていた機体だ。

 

「複座だが回路を切り替えれば一人でも操縦できます。兵装はそちらのものを使えば問題ないかと」

「礼を言う、サンダーク中尉。喜んで使わせてもらう」

「ええ。くれぐれもお願いします、ドーゥル中尉」

 

 イブラヒムに一礼し、去っていく彼の背はどこか悲壮感が漂っていた。

 

「ありがたい申し出ではあるが、彼は?」

「例の二人の上官だった男です」

「そうか……それであの機体を」

「中尉の今後を考えれば、最後の抵抗なのかもしれませんな」

 

 ソビエトという国家は共産圏ということもあり、民主主義国家とは異なる思想……組織のための個人という考え方が主流だ。極端な言い方をすれば、例え個人が蔑ろにされようともソビエトが存続するならばそれで良し、というもの。それゆえ、失敗を犯したものには容赦ない制裁が待っている……また新しい人間を配置すれば済むのだから。

 対して西側……民主主義ではそうはならない。個人を重んずる思想であるが故に、ミスを犯してもある程度寛大な措置が取られる。少なくとも射殺されたり収容所に送られることはまずあるまい。

 そして軍人生命を絶たれた彼が残したものは、一機の戦術機だけだったのだ。

 

 

 

 

 夕呼先生について行った先はあの90番ハンガーだった。入り口の前にはすでに純夏と霞が衛士強化装備を着たまま待って……ん?

 

「あ、タケルちゃんだ! おそいおそーい!」

 

 俺を見つけて飛び跳ねる純夏の後ろで失笑しているのは――――

 

「久しぶりだな、白銀少尉。といっても二週間程度か」

 

 同じく強化装備を着用した篁唯依中尉じゃないか!

 なんでここに居るんだ? ここって最重要機密区画とかそんな高いセキュリティが設定されているはずなんだけど……

 

「中尉、首尾は?」

「問題ありません。飛行モジュールと再突入用装甲の取り付け作業はほぼ完了しています。後は各部の調整とコックピット周りのみです」

 

 先生と中尉がそんな会話をする横で俺はポツーン、と棒立ち状態だ。イマイチ状況が飲み込めずにいると、霞がクイクイと腕を引っ張ってきた。

 

「?」

「あれを、見て下さい」

 

 言われるままに入り口へ行き、ハンガーの中へ視線を向ける。

 

「―――――――――――は?」

 

 最初は何がなんだか分からなかった。

 ゆっくり視界を上下させてその全体像を掴み、特に顔をよくよく見てみるとその正体がやっと分かってきた。聳え立つ鋼の巨人……戦術機の三倍近くある巨躯が照明を受けて白く輝く。

 

「ま、まさか……こ、ここ、コイツはっ! あの計画の機体なのかっ!?」

「その通りだ、白銀少尉。これが対異星起源生命体最終決戦用・弩級戦術歩行戦闘機『武御雷・極』だ。もっとも少尉が関わった時よりかなり仕様が変更されているが」

 

 やれやれ、と肩をすくめる篁中尉。

 そう言われてみると肩の装甲とか全然形が違うな……もしかして、あれは荷電粒子砲? 凄乃皇の胸部パーツとそこはかとなく似ているけど、いくらなんでもそんな無茶はしないはず。

 

「オリジナルハイヴを強襲するのに刀と機関砲だけじゃあんまりでしょうが」

 

 ふふん、と鼻を鳴らすマッドサイエンティスト・香月夕呼。この人は考えることがいつもブッ飛んでいて困るんだ。確かに荷電粒子砲があれば行動の選択肢は増えるけど、背負うリスクも高くなる。パッと喜べないんだがなぁ……

 

「まず両肩に荷電粒子砲。次に出力不足の跳躍推進ユニットを外して、背部ラッチにラザフォード場制御式推進翼を一対。パーツ自体は凄乃皇四型から流用したからだいぶ楽だったわ。主機の調整も霞のおかげで9割近い出力を確保できてるしね」

 

 偉いわねー、と霞の頭を撫でる先生。霞も満更ではなさそうだが足元がふらついている。いや、いったいどれだけ働かせたんだよ先生……

 

「言っとくけど白銀。アンタは明朝○七○○、こいつに乗って出撃するんだからね。全部の作業を今急ピッチで進めてる最中なの。社がフラフラなのは高いところでの作業が苦手だったからよ」

 

 今も機体が直立した姿勢のまま作業は進められている。エンジンの場所がどこかは知らないが……仮に胴体部とすると地上二十メートル以上の高さであれこれいじっていたことになるな。

 ぶっちゃけ普通の戦術機の全高が十八メートル前後だから、それよりもさらに高い。

 

「高っ! 怖っ!」

「そういえばタケルちゃん、絶叫マシンは苦手だったよね」

 

 ぽつりと純夏が呟く。お前はこの世界に、そんな娯楽施設が存在するとでも思っているのか? それに戦術機ほどの絶叫マシンはこの世に存在しねえ。

 

 

 場所を中層のブリーフィングルームに移して本格的な作戦説明が始まった。武御雷・極の開発計画を代表して篁中尉も同席するので、とりあえずさっき見た極の感想について。

 

「…………なんか、途方もなくデカかったですね。そもそもこのタイミングで機体が出来上がっているなんて信じられないし」

「形を成したのはつい一時間前になる。各部の殆どは完成していたが、急遽横浜製の重力機関の搭載が決定し、ここに全ての部品を持ち込んだのが三日前だ」

「三日前ですか。無茶やるなぁ」

 

 そこにこんな横槍が入るとは、と呟く篁中尉は本当に悔しそうだ。よっぽど未完成の機体を実戦に投入するのが嫌なんだろうか……ていうか、三日前からこんなことになっていたなんて露ほども知らなかったよ。

 

「不完全な機体を殿下にお見せせねばならんとは」

「なんだってー?」

 

 ハッッッ!? 思わず棒読みで聞き返してしまった!

 

「知らんのか? 先ほど連絡があって、殿下がこちらにお越しになられるそうだ。貴様があの武御雷を駆ったことと関係がありそうだが……」

「ギクゥッ!」

 

 そ、そうか。篁中尉はその辺りの事情を全く知らないんだっけ。まさか殿下から借り受けたなんて言うわけにもいかないし、かといって強奪しましたなんてのたまった日にはどんな目に遭うことやら。

 そして戦々恐々な俺にさらに追い討ちを掛ける卑劣漢(?)が。

 

「タケルちゃ〜ん、盗みはいけないんだよ!?」

「誰も盗んでねえ!」

 

 純夏がなぜか得意げに俺を指差しているので、とりあえず一発シメるべく拳に息を吐きかけ……

 

「白銀、そなたがよもや婦女に暴行を加えるなどという卑劣な行いに走るとは……私は悲しくてなりません」

 

 突如として背後から現れた日本の象徴たる煌武院悠陽に全米が泣いた。むしろ俺がガチで泣いた。

 

「で、殿下!? そんなギャグパート的な登場の仕方は全国のファンが悲しみますよ!? ウォーケン少佐とか!」

 

 キョトン、と首をかしげる殿下。それにしてもウォーケン少佐は今何処で何をしているんだろうか…………ま、どうでもいいや。殿下の後ろに控える月詠(真那)中尉が物凄い殺気を発していたが気にしないでおく。

 とはいえ、これで役者が揃ったんだろう。夕呼先生がにんまりと笑って大型スクリーンのスイッチを入れた。かつての中国があったエリアのマップが表示される。

 

 

 桜花作戦。

 本来は衛星軌道から降下した戦術機甲部隊によるオリジナルハイヴ制圧作戦を指す。国連宇宙艦隊による対レーザー弾頭の絨毯爆撃の後、戦術機を中核に構成された制圧部隊が予め特定したゲートより最短ルートを進攻。第一目標である反応炉・あ号標的およびG元素生産プラント・い号標的を破壊ないし確保する。

 この一連のスケジュールはすべて甲21号作戦の折に収集されたリーディングデータを基にしており、特に進攻ルートは敵戦力の配置をすべて把握した上で選定されている。

 実際のところ、地表爆撃の段階で敵光線級に出鼻を挫かれ陽動は失敗。配備されているBETAのほぼ全てを撃破しながら進攻するA01部隊は、想定以上の損耗を強いられることになった。

 生き残ったのは俺と霞の二人だけ……仲間は悉く散っていき、純夏はあ号標的の撃破と共にその命を終えた。

 

 けれど今回の桜花作戦は違う。

 投入する戦力はたった一機……対異星起源生命体最終決戦用・弩級戦術歩行戦闘機『武御雷・極』。主席操縦士は俺こと白銀武で、航空管制官を霞、主機制御担当を純夏が担当する。ここは凄乃皇四型と同じだ。

 作戦としては、明朝○七○○に横浜基地の打ち上げユニットから大気圏離脱用ロケットで出撃。その後周回軌道に乗り、再突入……オリジナルハイヴ上空より荷電粒子砲による砲撃で地上構造物を破壊し、メインシャフトから直接あ号標的へ迫るという無茶苦茶な内容だ。

 無茶苦茶だが不可能ではないって辺りがなんとも言えないところではある。

 

「これまでメインシャフト……反応炉の真上から直接侵入する作戦は過去に人類も幾度か試みてきた。しかしその全てが失敗に終わったのは光線級の待ち伏せに対処しきれなかったからよ。何十という照射源から放たれたレーザーを回避、防御する手立ては、作戦が実施された当時には確立されていなかったもの」

 

 ハイヴ内の戦闘においてBETAはレーザーを使用しない。ハイヴの内壁を損傷させたくないからなのか、単純に味方の誤射を回避したいからなのか。ともかくハイヴ内でのレーザー照射はこれまで確認されていないのは確かだ。俺が突入した時もハイヴの中で光線級には遭遇していない。

 しかし唯一の例外がこのメインシャフトでの迎撃だ。上空へ向かって放たれるレーザーは友軍の誤射など殆ど気にしなくていいからだろう。とにかくメインシャフトからの侵入という可能性は絶たれてしまった。

 けれど……

 

「私達にはこの、メインシャフトからの突入が可能になったわ。荷電粒子砲という必殺の攻撃手段、ムアコック・レヒテ機関が生成するラザフォード場の鉄壁、さらに白銀の卓越した操縦技術。そしてこれらの要素をすべて内包、活用できる機体が完成した今、オリジナルハイヴは陥落する!」

 

 作戦自体は至ってシンプルだ。武御雷・極で衛星軌道上から再突入してオリジナルハイヴのモニュメント上空に降下し、荷電粒子砲でモニュメントからメインシャフトを撃ち抜く。あとはそのまま反応炉のあるメインホールまで降りてあ号標的を叩き潰せばいい。

 

「次に作戦で使用する機体について説明するわ」

 

 スクリーンにあの巨人が映し出される。凄乃皇四型ほどじゃないけど、やっぱりデカイな。

 

「対異星起源生命体最終決戦用・弩級戦術歩行戦闘機『武御雷・極』。作戦上の識別コードはXJ1。全高57メートル、重量218トン……サイズは戦術機のおよそ三倍、重量は五倍ってところね。搭載兵装は専用近接長刀と36mmCIWS8門に加えて肩部荷電粒子砲。および増加装甲内蔵のバンカーバスターが四発。使用弾頭はS11よ」

 

 完全に一発勝負の機体だな。いや、そもそも動くかどうかも疑問なんだが……でもさっき、ラザフォード場がどうとか言ってなかったか?

 

「心配無用よ、白銀。この機体は通常の動力ではなくムアコック・レヒテ機関を搭載しているの。元々無謀ともいえる仕様だったもの、通常の動力ではとてもじゃないけど起動させることさえままならないからねぇ」

 

 くっく、と先生が笑みをこぼす。

 そうだったのか……この『極』が横浜基地にあり、そして純夏が主機制御担当という時点で気付くべきだった。本来ならこれは帝国技術廠で完成される筈の機体で、オルタネイティヴ4はあくまで技術提携だけの関係に過ぎないからすっかり失念していた。

 とはいえ動力を欠いた欠陥機に、現存する最大級のエンジン。二つが結びつくまでにそう時間は掛からなかっただろう。問題は―――――どっちが折れたか、だ。

 

「あたしはあくまで対等に交渉しただけよ。イーブンの条件で互いに最良の結果を出せるように提案したわ」

「要するに、機体を完成させるから使わせろってことでしょう」

 

 俺の答えに先生は首を横に振った。

 

「利害の一致はそこじゃないのよ、白銀。言ったはずよ、最良の結果を出すための提案だってね。そうでしょう――――殿下?」

 

 どういう、ことだ?

 

「我々は最良の結果を求めたのです、白銀。日本の純国産兵器がオリジナルハイヴを撃破した……その結果が今の、そして未来の日本に必要なのです」

「な、なんでそんな!? それに、国連の作戦に特定の国家が加担することは国際問題に発展しかねないはずだ!」

 

 そんなことをすれば逆に日本の将来は破滅するぞ!?

 けど反論する俺に、先生は冷たく言い放った。

 

「事情が変わったのよ、白銀」

「一体何が!?」

「今の軍事バランスは急激に変化しつつあるわ。日本にとって大きく不利に傾く形でね」

 

 またスクリーンが切り替わる。今度は日本近海……それも太平洋方面だ。情報の更新日時は12月29日、つまり昨日の午後一時になっている。

 目に付いたのは横浜から南方20キロメートルの地点に赤のマーカーが6、横一文字に並んでいる。さらにすぐ後ろにはそれよりもやや大きめのマーカーが5つ。さらにその後方は数え切れないほどの反応が示されていた。

 

「これは……」

「米軍の連合艦隊よ。元ね」

「元?」

「今朝、ホワイトハウスから帝国軍に打診があったそうよ。『我が連合艦隊、離脱せり』ってね。完全に指揮下から離れたらしいから、離反と見て間違いない」

 

 米海軍の主力艦隊が、離反!?

 

「艦隊の総司令はジョシュア・D・サンダース中将。親オルタネイティヴ5勢力の急進派で結構有名よ。まあ、問題は沖合に集結中の戦術機母艦延べ50隻の方だけれど」

「50隻!?」

 

 1隻当たり最大数の16機を搭載しているとして計算すると、800機もの戦術機が洋上に待機していることになる。それを親オルタネイティヴ5の司令が指揮するということは……

 

「この基地を潰すつもりなんですか、そいつらは!?」

「そうよ、しかも厄介なことに敵の主力である戦術機はぜんぶ無人機。こっちはたった十数機で迎え撃たなきゃならないのよ」

 

 基地の戦力の殆どは使い物にならない。あれだけの戦闘の後で、整備だって間に合ってないはずだ。でも無人機って……まさか、前にアルフィ特尉が言っていた新型オートパイロットシステムが完成したのか!?

 

「明朝まで突貫作業させてヴァルキリーズと武御雷は間に合わせるつもりだけど、はっきり言って絶望的ね。一度に来られたら五分と経たずに陥落するわ」

 

 そう告げる夕呼先生の顔は青ざめていた。昨日から緊張の連続でろくに休んでいないだろうし、何より今の状況なら誰だって血の気が失せるってもんだ。

 

「ともかく米軍が本来守るべき人類に向かって銃口を向けたという事実は各国に伝播して、いまや米国の信用は大暴落。同時にオルタネイティヴ5の存在が芋づる式に露呈して各国上層部や国連安保理は大慌てよ」

「そんな状況下でこの国が生き延びるには、確固たる戦果が必要なのです」

 

 言いたいことは分かる。今此処でオリジナルハイヴを潰しに行かなければ連中に全部台無しにされちまうんだ。BETAじゃなくて、同じ人間に……

 横浜基地が接収されれば桜花作戦どころじゃない。そのままオルタネイティヴ5に移行して人類は故郷を捨てて宇宙という大海原か、あるいは勝算も何もない破滅への戦いへ踏み出していくだけだ。

 

「桜花作戦の遂行に異議はありません。けど……俺たちが行っている間、ここをどうやって守るんですか?」

「さっきも言ったはずよ。一気に来たら守りようもないわ」

「俺に、仲間を見捨てて行けと?」

 

 先生に掴みかかろうとする俺を押しとどめたのは、殿下だった。

 

「そなたの戦う意義は十分に理解しています。そして、それを踏み躙らなければならないことも」

「くっ……」

「『武御雷・極』の操縦にはそなたたち三名のほか、二人の副操縦士が必要です」

「え?」

 

 副操縦士だなんて、さっきはそんなこと一言も言わなかったのに。

 いや違うな……これは、二人だけなら融通が利く。そういうことだろう。

 

「砲撃担当および近接防御担当の二名。選抜はそなたに任せます」

 

 俺に選べと? 今まで守ってきたものの中からたった……たった二人なんて選べるわけがないのに。

 確かに俺と一緒に来れば無謀な特攻に付き合うことになるけど、生きる望みはある。いや、俺が生き延びさせてみせる。けど残った奴らはなぶり殺しにされるだけじゃないか――――――!

 

「これが私達にできる精一杯なのです。許せとは言いません……」

 

 俺は部屋を出る。その選抜とやらもしなきゃいけないし、何よりその場の空気に耐えられなかった。

 

 

「白銀に酷な道を歩ませてしまうこと、申し訳なく思います。香月博士」

 

 沈痛な面持ちの悠陽に、夕呼はあくまで毅然と言い放った。

 

「我々は彼に依存しすぎたのですわ。そしてそのツケが廻ってきた……いよいよもって白銀の奇跡に頼ることなく生き延びなければならない」

「そのために、為すべき事を為す―――――そうでしたね、私達はまだ生きている。生ある限り足掻くのが命の務めでしょう」

「では便宜のほど、宜しくお願いいたします」

 

 深々と頭を下げる夕呼に一礼し、悠陽はブリーフィングルームを後にする。慌しさを増していく通路を足早に進みながら一歩後ろを歩く真那に、しかし振り向かず彼女は問いかけた。

 

「斯衛の動きはどうですか」

「はっ……申し訳ありません。先の横浜急襲を受けて帝都防衛に重きを置くよう内閣府から通達があり、現状でこちらに兵を回す余裕はないと。首相はあくまで米艦隊とは対話での解決を望むようです」

 

 BETAの地下茎はすでに関東内陸・絶対防衛線内まで伸びていた。そうなればいつ帝都が攻撃を受けるか……戦々恐々の政府が余裕のある基地から戦力の抽出に奔走するのも致し方あるまい。

 

「分かりました。彼らには現状を優先するよう伝えて下さい」

「かしこまりました。では」

 

 命を受け、姿を消す真那に入れ替わり現れた月詠真耶は衛士強化装備姿のままであった。表情は冷たい仮面のようだが、内心の焦りなのか僅かに息が粗い。

 

「殿下、緊急事態でございます。たった今、偵察衛星より20号ハイヴ周辺にBETA群が集結中との情報が。内閣府はこれをBETAの本州再上陸の前兆と見なし、現在帝都を中心に急遽防衛網を構築中です。しかしとても間に合うものではございません。真那にも追って帝都防衛の指示が来るかと」

 

 20号ハイヴは本州の北西、朝鮮半島の中腹に位置し、BETAの極東侵攻の要となっている。佐渡島や横浜のハイヴは所詮前線基地に過ぎず、大陸からの補給線が確保されているこのハイヴを撃破して初めてアジア圏の選曲を覆すことができるのだ。

 そしてその大要塞に途方もない戦力が集められているという。これは間違いなくこちらの作戦を予期しての行動だろう。

 

「前門に虎、後門に狼……進退窮まったか」

「殿下、いかがなさいますか」

「大規模作戦の前です。事は内密に……夜明けまでは口外無用」

「ではそのように」

 

 音もなく姿を消す真耶。一方の悠陽の足はすでにヴァルキリーズの機体を収容する専用ハンガーに辿り着いていた。その最奥で神代、巴、戎の三人が自分達の武御雷を整備・点検を行なっている。無論、白銀武が表向きは無断で乗り回したとされる将軍専用機も。

 

「そなたたち、無事でありましたか」

『で、殿下!?』

 

 悠陽の存在に気付いた三人が一様に作業を中断し、彼女の前にかしずく。

 

「我々のようなものに、ありがたきお言葉!」

「お出迎えできず申し訳ございません!」

「汚いところですが、どうぞお寛ぎ下さいませ!」

 

 ガチガチの斯衛兵たちに微笑み、

 

「皆のような武勇に長け、礼節を重んじる臣下を持ったことを私は嬉しく思います。ここに参ったのはそなたたちに頼みがあったからなのです」

『何なりとお申し付けください!』

 

 一語一句違うことなく答える三人。しかし次の瞬間、悠陽の頼みが如何なるものか聞いた彼女達はただ絶句した。

 

 

 

 

 大切な話がある。

 そう言ってブリーフィングを終えたばかりの晴子と冥夜を呼び止めたのは他ならぬ鑑純夏だった。明朝から何百機という戦術機を相手の防衛戦を控えている以上、少しでも多く休息を取りたい二人だったが……彼女のただならぬ意志に気圧される形で頷いてしまった。純夏は武と共にオリジナルハイヴを叩く作戦に参加する。その彼女が残す言葉を聞き届けなければならなかった。

 人目を避けて屋上へ場所を移し、純夏はまっすぐな瞳を揺らすことなく告げた。

 

「タケルちゃんを、お願いします」

 

 それはあまりに一方的な宣言だった。彼女は恋敵であるはずの二人に、恋人の白銀武を頼むと言ってきたのだ。驚くよりも速く冥夜が『何故』と問いかけるが、それを制して純夏は言葉を続けた。

 

「私の体は殆どが擬似生体になっています。それも今度の作戦が限界です。もし生還できても一日と生きられません。だから……」

「だから私たちに白銀を?」

「託すというのか―――――」

 

 こくり、と首を縦に振る純夏の胸倉を晴子は掴んでいた。

 

「それで諦められるの!? 理屈は分かるよ、わたしか御剣が妥当だよね! だけど、だけどさ……そんな簡単に諦められるの、アイツを!?」

 

 俯いたままの純夏に、さらに冥夜が言う。

 

「鑑、そなたの言うことは一理ある。だがそれは同時に我らを侮蔑するに等しいのだ……我らの想いと、そなたの想いはそうも簡単に譲れるほど軽いものだった、とな」

「本当は――――」

 

 純夏の右手が胸倉を掴む晴子の腕を握り締めた。震えるほど、その切なさに震えるほど、彼女の手は小刻みに揺れている。

 

「本当は御剣さんと柏木さんに乗って欲しいんだよ、タケルちゃんは! 一緒に来てほしいんだよ、残していきたくないんだよ!」

「それって、桜花作戦の……?」

「決戦兵器のことか!? あれに乗れというのか!」

 

 ブリーフィングで武たちは帝国軍と共同で開発した決戦兵器に搭乗することは知らされていた。だがまさか、武がそれに自分達も乗せようと思っていたなど露ほども知らなかった。

 

「あと二人、パイロットが必要なんだ……だけどタケルちゃんは誰も連れて行こうとはしない―――――ううん、連れて行けないよ。今まで守ってきた人たちの中から二人だけなんて選べない」

 

 それは分かる。彼は誰かのためではなく、誰も死なせないために戦ってきたのだ。そして命の重さを知っているからこそ、その中で特別扱いはできない。

 例え、かけがえのない戦友だったとしても。

 例え、温もりを分け合った女性だったとしても。

 例え……永遠の愛を誓い合った恋人だったとしても。

 だがもしも、誰が乗るか相応しいか問うのであれば、ヴァルキリーズの誰もが冥夜と晴子の名前を挙げるだろう。甲21号作戦と昨日の篭城戦を顧みれば当然のことだ。

 

「けど、白銀が断ったらどうするの?」

「無理矢理乗っちゃっていいです。どうせタケルちゃんなんか最後まで優柔不断のままだろうし」

「なるほど、もっともだ」

 

 三人が不意に見つめあい、笑みがこぼれる。出撃した後もぶつくさ文句を言う彼の顔がありありと思い浮かんでしまっては、もう想いがどうのこうのと議論することがバカらしくなってしまった。

 そういう男にひっかかってしまった自分が悪いのだ。こればかりは死ぬまでどうにも直らないだろう。

 

「では鑑、条件がある」

「え?」

 

 不敵に笑う冥夜に純夏は面食らった。今更何を言うつもりなのか……

 

「我らの仲に敬語など不要だ」

「本妻と愛人二人の仲だけどね」

 

 再び、今度は腹を抱えて笑い合う。これが互いに承諾のサインとなった。

 

「でも問題は大尉になんて報告しようか。まさか黙って行くわけにもいかないでしょ」

「そうなの?」

 

 不思議そうな顔をする純夏に冥夜が困った顔で説明する。どうも純夏は軍人然としていないので、こういうところでズレが生じることがある。

 

「ヴァルキリーズはそなたたちの出撃を防衛する任務を賜っている。無論、そのフォーメーションの中には私も柏木も組み込まれている故……」

「そっか。こっちに乗っちゃうとみんな困っちゃうもんね」

 

 はてさてどうしたものか。

 

『心配無用よ、アンタたち!』

 

 頭を抱える三人の上辺りから聞きなれた声がして、三人が振り返るとその主は屋上に備え付けられた貯水槽の上に立っていた。

 

「「「…………」」」

 

 言葉を失う冥夜たち。

 それも仕方がない。美味しいタイミングで搭乗した速瀬水月中尉は貯水槽から格好良く飛び降りようとして足を滑らせ失敗し、さりげなく下で待機していた男性士官(T.N.)に抱きとめられていた。そこはかとなく周りに花が咲いているようなビジョンが見えるのは錯覚である。

 

「話は全部聞かせてもらったわ。大尉には私から―――――」

 

 そこまで言いかけて自分がいわゆる『お姫様抱っこ』状態で先任士官の威厳台無しということに気付いた水月は、自分を抱きあげている男性士官(T.N.)を凄まじい威力のアッパーカットで吹っ飛ばした。

 ごろごろと転がる男性士官(T.N.)を背中で隠しながら、水月はさも何事もなかったかのように平然と言葉を続けた。

 

「――――――えー、とにかく話は私が大尉に通しておくから! 三人とも安心して行ってらっしゃい」

 

 色々と不安要素が残るが、水月が橋渡し役を買って出てくれたことで冥夜と晴子も桜花作戦に参加できるようになるはずだ。とはいえ欠員二名……それも一人は突撃前衛というエース級のポジションだけに、フォローは難しいはずだ。

 そんな疑問に水月は苦笑いを浮かべた。

 

「一応ね、昨日の戦闘で途中参加した帝国軍の二人が引き続き編成に入るから。それに築地も復帰したし」

「あ、戻ってきたんですか」

「本人曰く、怪我は大したことなかったらしいのよ。ただ、あの子の場合は色々事情が事情だから」

 

 やれやれ、と心底疲れきった表情で溜息をつく水月。こんな彼女も珍しいが、そうさせる築地という衛士……一体何者だというのか。事情をよく知らない冥夜と純夏の隣で晴子だけが、一人納得してしきりに頷いていた。

 

 

 

 

 日が暮れる頃、西の空には黒雲が立ち込めて遠雷が耳を打つようになっていた。この天候の崩れが吉と出るか凶と出るかは分からないけど、今の俺にはどうでもいいことだ。俺の心を覆うものはどうやっても晴れそうにないから。

 けどもう時刻は午後六時を廻っている。いい加減副操縦士を決めないと機体の着座調整や他の作業に支障が出てしまう……

 

(連れて行くなら――――)

 

 脳裏を過ぎる柏木と冥夜の姿。

 ……いや、誰を連れて行っても同じだ。全員を連れて行けないことは一人も連れて行けないことと同じ……俺が行った後、この基地は米軍に蹂躙されてしまうだろう。殺されるかは分からないが、大切なものを全て失ってしまう気がする。

 そもそもこの基地を接収するだけなら極端な話、書類だけで事は足りてしまう。少なくともこれほど大規模な軍事行動を伴う必要なんか無いはずだ。それも元々籍を置いていた米軍から抜けてまですることじゃない。

 つまりそれだけ相手は追い詰められていることになる。この基地の人間を片っ端から皆殺しにしたっておかしくはない。奴らにとって必要なのはオルタネイティヴ4の成果である凄乃皇と00ユニットである純夏だけなんだから。

 

「いや、そうか……」

 

 凄乃皇四型は解体されて主要な部品は武御雷・極に組み込まれている。それに桜花作戦には純夏も出撃する以上、オリジナルハイヴへ向かった俺たちを奴らが追いかける術はない。仮に生還しても00ユニットは停止しているし、何よりオリジナルハイヴは消滅しているからオルタネイティヴ5を発動させる正当性はなくなるはずだ。

 それに向こうで戦死すれば俺たちの機体を回収する方法はないから、夕呼先生どころかオルタネイティヴ5も手が出せなくなる。どっちに転んでも奴らの企みを挫くことができる……だからこんな急なスケジュールで俺たちを出撃させるんだな。

 なら尚の事、俺は誰を連れて行くか決めなきゃならない。

 

「白銀、ここにいたのね」

「あ、特尉?」

 

 90番ハンガーのど真ん中で立ち尽くしていた俺に声をかけてきたのはアルフィ特尉だった。まだ衛士強化装備を着けたままの特尉は腰に刀を帯びている。聞いた話だと、特尉は生身でBETAを刀で斬ったらしい。それも一匹や二匹じゃなく、百匹以上もだ。

 

「どうかしたんですか?」

「例の機体の副操縦士、決まったわよ」

 

 き、決まった? 俺はまだ何もしちゃいないぞ!?

 

「夕呼先生はどこに居ますか?」

「今副司令室でその副操縦士に説明とかやってるはずよ」

 

 今度という今度は直接問い詰めてやるぞ! 人に任せておきながら勝手に決めるなんて認めねえからな……!

 ドアを蹴破るぐらいの勢いで副司令室へ踏み込んだ俺が見たのは、純夏と霞に部屋の奥でいつもの調子で説明やってる夕呼先生。

 そして―――――

 

「ようやく来たか、タケル。特尉殿が呼びに行かれてからだいぶ経ったゆえ、そろそろ探しに行こうかと思っていたのだぞ?」

「――――っていうか顔色悪いよ? 白銀、ちゃんと休んだ?」

「冥夜、柏木……」

 

 斯衛用の〇式衛士強化装備を纏った二人はなんでもない顔でこっちを見ている。

 

「バカヤロウ……」

「「え?」」

 

 この作戦がどれだけ危険なのか。

 俺たちが出撃した後で横浜基地がどうなるのか。

 こいつらは全部分かった上でここに来た。しかもちゃんと強化装備着けているって事は正当な手続きを踏んだ上でのことだから、きっとヴァルキリーズの皆が後押ししたに違いない。

 

「バカとは何だ。私と柏木はそなたの背中を預かっておる。ならばそこが如何なる死地であろうとも共にするのが道理だ」

「海の上の連中の事は聞いてるよ。だけどどっちを選ぶって聞かれたら、後悔だけはしたくないじゃない」

 

 ああ、分かってる。分かってるよ、それぐらい。

 

「バカヤロウ」

 

 だからこれだけしか言えないじゃないか。

 

「タケル……」

「泣いてる、の?」

 

 もう言葉が出ない。後は全部涙が持ってっちまった。

 

「そろそろ最新の状況を説明したいんだけど、いいかしら?」

 

 

 なんとか涙を止めた俺を待っていたのは途方もない戦況だった。

 

「大陸のBETAが再上陸とはな……」

 

 俺の呟きが部屋に響く。

 

「今のところ海岸沿いに配置された帝国陸軍の観測チームからは、特に異常はないという話よ。恐らく奴らは夜明けと同時に行動に出るはず……」

「先生、その根拠は?」

「このタイミングでの再上陸なんて、こっちの作戦を読んでいる以外に他ならない。そして奴らの狙いは――――――」

「極、ですね」

 

 俺たちの出撃を見越してBETAは大陸沿岸部に戦力を配置している。恐らくもう再上陸の戦力は海底を進軍しているはずで、地上のはこっちの目を引き付けるための囮だ。そして本命は昨日の襲撃で使われた地下トンネルを使ってこの横浜基地まで一気に駒を進めるって寸法に違いない。

 つまりあれだけの激戦も、まりもちゃんのパーツを使った個体も、全部この直接攻撃のための布石だったわけだ。

 

「ホント、まいったわよ……これじゃあ人類同士がいがみ合ってるところを横から持ってかれる。情けないことこの上ないわ」

 

 それでも作戦に変更はないのだと先生は言う。

 俺たちがオリジナルハイヴを潰すことが最優先であり、それさえ成せば人類は僅かなりとも希望の光明を得られる。そのためなら基地の一つぐらい潰させてもいいだろう、と。

 

「先生」

「アンタ達は作戦の成功だけを考えれば―――――――」

「俺は泣き言を聞くつもりはないですよ」

「白銀……?」

 

 あの夕呼先生がうだうだと、情けないことこの上ないぜ。

 

BETAの小細工なんざ行きがけの駄賃ついでに踏み潰せばいいんだ。そんな難しく考えることは何も無い」

「アンタね……もう極は再突入用装備を取り付けているのよ? 今更外すことなんて出来ないわ」

「俺は言ったぜ、先生。難しく考えることはないんだ。飛ぶ方向をちょっと横に向けるだけさ」

 

 ラザフォード場と増加装甲を同時にぶつけてやれば最高の運動エネルギー兵器になる。五十メートルぐらいの大きさのハンマーを叩きつけてやるんだ。逆に言えば米軍はもう、先生たちに賭けるしかない。

 

「分かったわ。白銀たちは90番ハンガーで操縦系の最終調整を」

「さ、採用されるのですか副司令!?」

「さっきのアンタと同じよ、御剣。面白いことはノッたもん勝ちよ」

 

 そう言われては反論できる冥夜じゃない。むう、と唸って黙り込んでしまった。

 

「先生、後のことは……」

「何とかするわ。諦めるわけないでしょう、この私が」

「そうですね」

 

 言われてみればその通りだ。先生がおいそれと自分の道を変えるなんて考えられないぜ。

 

 

 

 

2001/12/30 19:02

国連極東方面第11軍横浜基地・第一ハンガー

 

 昨日の篭城戦では戦術機甲部隊が辛うじてメインゲートを死守出来た為、基地施設の中で地下に位置する大部分はほぼ無傷であった。無論、最下層と反応炉周辺など一部の例外はあるが、それでも戦闘の規模から判断すれば基地の中枢機能が生きていることは奇跡とも言えるだろう。

 だがそれは地下に限った話であり、戦場となった地上に位置する各施設は壊滅的なダメージを受けていた。全ての滑走路は使用不能となり、連絡艇を打ち上げる電磁カタパルトも大破。管制塔や訓練施設などの地上建造物は片っ端から倒壊しており、もはや基地としての原形を留めていない。

 

「―――――というわけで、今日はここが食堂だよ!」

 

 威勢よく声を張り上げる『食堂のおばちゃん』こと京塚志津恵曹長に、集まった衛士十数名と基地要員数十名は呆然となった。

 曹長が食堂だ、と言い張った場所は戦術機用の格納庫である。昨日の戦闘で格納する機体が無くなって伽藍洞になっているが、だからといってPXにするには責任者の許可が必要なはずだ。

 実は先述の片っ端から倒壊した地上施設の中に曹長の働くPXも含まれていたのだ。天井が崩落し、もはや人の立ち入れる状態ではなく、他に大勢が一度に食事を取ることのできるスペースなど用意されているわけもなし。

 ならば、と基地の彼方此方から必要なものをかき集めて即席の『京塚食堂』を造ったのであった。

 あまりの無法に開いた口の塞がらない一同ではあったが、空いた腹は素直だ。一人、二人と腹の虫が泣いてしまい、全員が居ても立ってもいられなくなるまで数分と掛からなかった。

 空のコンテナなどを椅子代わりにして座る兵士たちが目を向ける先は、長机にガスコンロを置いただけの簡易的な厨房だ。そして気になるのは今日の献立。誰が作るのか、メニューは何なのか……尽きぬ欲望が口の端から涎となって垂れる寸前、

 

「どれ、私がインド仕込みの野戦食を教えてやろう」

 

 軍服の上からエプロンを着用したパウル・ラダビノット基地司令の登場で、浮ついた空気が一気に厳格なそれへ変じた。たぶん、いやきっと……厳しい雰囲気になったのだ。

 ちなみにインド仕込みの野戦食とはナンとカレーのことである。インドに限らずあちらの方ではカレーが主流らしい。国によってはナンがライスだったりするとか。

 そんな傍らで、床に正座させられている男が一人――――名は鳴海孝之。奇跡の生還者として称えられるべきなのだが、ある事情によってそれも今となっては叶わぬ夢。

 

「キ・サ・マァ…………」

 

 彼の眼前には仁王立ちする伊隅みちるの姿がある。その憤怒の形相は鬼のそれと言っても過言ではなく、すでに壬姫は恐怖のあまり発狂寸前にまで陥っている。

 というのもこの鳴海孝之、こと恋愛関係においては水月と遥の証言通りの優柔不断野郎だったのだ。二人のモーションに応えるでもなく断るでもなく、ただズルズルと関係を続けて二年。本人が戦死(正確には行方不明)になるまで変わらなかったとか。

 ともかく無事に戻ってきた上に、ヴァルキリーズに臨時編入されることになったものだから少しは穏便に済ませようとみちるは思っていた。プライベートの問題であるなら当人に解決させることが望ましいからである。

 だが――――

 

『あ、お兄ちゃん?』

 

 ブリーフィングルームで顔合わせをした際に涼宮茜が発したこの一言で、状況は一変した。まず遥が『茜にまで手を出してたなんて』と泣き崩れ、茜は茜で自分の失言にまったく気付いておらず、水月に至っては問答無用で必殺の奥義『ゼロレンジ・スナイプ』で速攻殺しにかかる始末。

 誰にもこの怒りを止めることなど出来るわけもなく、孝之への折檻はそれから数時間経った今も続いているのだった。

 

「覚悟は出来ているんだろうな!? この蛆虫野郎め!」

「ウワアァァッッッ!? ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい―――――」

 

 殴られ続け、パンパンに腫れ上がった顔面。

 床を引きずり回され、ボロボロになった強化装備。

 全身が訴える痛みからか、それとも己の業の深さを悔いているからか……溢れる涙は止まらない。

 それでも懲罰という名の私刑は続き、彼はひたすら土下座する。

 

 

 そんなシュールな光景を尻目に茜は別の問題に頭を悩ませていた。

 

「茜さーん! 茜さんの分のナンをお持ちしまし――――どうわぁっ!?」

「私が茜ちゃんとご飯食べるの! 田舎侍はすっこんでろぉ!?」

 

 ナンとカレーをたんまり載せた皿を持って駆け寄ってくる剛田城二に猛然とショルダーチャージをかまし、その皿を奪い取る築地多恵。負けじと城二が皿の端を掴み、多恵もそれに抵抗する。

 あわや皿が真っ二つに裂けようか、というところで茜が一喝。二人はしゅん、と肩を落として言われるままに正座した。

 

「茜さん、こいつが――――」

「茜ちゃん、こいつが―――――」

 

 しかし反省の色は全く無く、今度は責任のなすりつけを始める始末。その様はまさに犬と猫の喧嘩さながらでもはや手のつけようが無い。多恵の服装が軍の制服ではなく衛士強化装備だったらなら、今頃取っ組み合いの大乱闘に発展していただろう。

 

「もう知らないわよ、このバカ―――――――!」

 

 ついには茜も癇癪を起こしてその場を走り去ってしまった。去り際にナンとカレーの皿を持っていくことも忘れない。なんとも強かな少女である。

 とはいえ茜も二人の心情を全く知らないわけではない。城二は陸軍学校卒業以来会っていなかったわけで、一目惚れを公言する本人がえらく高揚するのも理解できる(納得はしない)。何より昨日の戦闘で自身の醜態を晒した上に命まで助けられたのでは、強く否定するのもはばかられる。

 一方の多恵も12.5事件で自分の負傷した責任を茜から払拭しようと、完治していない体をおして敢えて明るく振る舞っているのだ。多恵自身が言ったわけではないが、軍服の影に見え隠れする包帯にじわりと滲むくすんだ赤が示している。もし強化装備を着用するなら更衣室でこの包帯を周囲に見られてしまうかもしれない。彼女が制服を身に着けているのはそういうわけだった。

 そんな二人がバカ騒ぎを起こすのに、感情的にならないわけが無い。

 

「はひー、疲れただぁ」

 

 仮設PXから離れた壁にもたれかかり、腰を下ろした多恵は首筋に浮かぶ脂汗を拭った。本来ならあと半月は絶対安静の身である。やはり病院でおとなしくしていれば良かったと少し後悔した。

 

「おい、築地とかいったな」

 

 ふと見上げれば先ほどの剛田城二が自分を見下ろしている。

 

「そんな体で明日の戦闘に参加するつもりか?」

「うんだ。病院でじっとしてる間に全部終わっちゃったら、絶対後悔するから」

 

 間違いなく、明日この基地は陥落する。そうなれば基地に所属する全ての人員の命はどうなるか―――――そう考えた時、多恵は病室のベッドから跳ね起きていた。

 多恵にとって茜とはかけがえのない親友であり、大切な恩人であり、目指すべき目標でもある。訓練でいつも泣いていた自分を叱咤し、ここまで引っ張ってきてくれたのは彼女だ。築地多恵という人間は涼宮茜が居なければ今日まで生きてこられなかっただろう。

 クーデター事件の時、囲まれた茜を咄嗟に庇ったのも。

 ボロボロの体を引きずって基地に戻ってきたのも。

 

「茜ちゃんに、死んで欲しくないんだ」

 

 ただそれだけのこと。

 我ながらバカだな、と苦笑してしまうぐらい。

 

「わおわっ?」

 

 不意に肩から体を持ち上げられて変な声が出てしまった。多恵が慌てて城二を見ると、彼はこちらを見ないまま言った。

 

「医務室に行くぞ」

「え?」

「痛み止めでも打たなきゃやっとれんだろう。その顔色と汗じゃあな」

 

 言われて多恵は全身が汗でぐっしょり濡れていることに気付いた。

 城二に連れられるまま医務室へ歩いていく途中、

 

「お前も俺と同じだな」

 

 彼はぶっきらぼうに、そう言った。

 

 

 

 

2001/12/30 23:41

第三戦術機ハンガー

 

 弄っていたノートパソコンを置き、アルフィ・ハーネットは大きく背を伸ばす。かれこれ四時間近く不知火・弐式の最終調整に没頭していた彼女の体は、ようやく修理が完了したことで安息を得るに至った。

 推進跳躍ユニットの調整にかなり手間取ったものの、辛うじて日付の変わる前に作業を終えることが出来たのは協力を申し出てくれた篁唯依の存在があってこそである。

 

「誤差範囲はすべてコンマ3%以内に収まっています。駆動系の調整も完全と言っても問題ないレベルですね」

「協力に感謝する。篁中尉」

「いえ、私も触れてみたかったのです。不知火のもう一つの可能性を」

「弐式と弐型か……総合性能では弐型の完成度は弐式を上回っていると聞く」

 

 不知火の総合改修機である弐型はあくまでスペックアップに重点を置いた機体だ。対して特殊兵装搭載型の弐式は対電子戦に特化した機体であり、その性能評価は大きく分かれる。

 運動性、最大出力、新装備への対応……最新鋭のパーツを搭載した不知火・弐型はオフェンスとして非常に優れた機体となりつつある。

 一方の不知火・弐式は強力なレーダーシステムと新型OSの搭載によって、戦場の極めて広範囲をカバーできる索敵能力と反応性を獲得した。

 矛と盾。

 相反する力を持った二機の不知火。

 

「まあ、それも生き延びる事ができれば……な」

「―――――特尉は、これで出撃を?」

 

 唯依が弐式を見つめながら尋ねた。

弐式は先の甲21号作戦では白銀武が搭乗していたが、本来はアルフィの乗機(正確には私物)である。いよいよメインパイロットの手に返るのか、と唯依は言いたいのだ。

 

「いや、弐式はヴァルキリー1に譲る。あの機体は指揮官向けだ」

「しかし、それでは―――――!」

「構わん。私には『零式』がある」

「っ……!?」

 

 『零式』。

 2000年に正式配備された斯衛専用機・武御雷、零式はその通称である。だがアルフィの指す『零式』は武御雷の原点たるプロトタイプのことだ。開発途上に建造された試作機は要求スペックを満たすために繰り返された改修の末に規格外の機体となり、今や帝国技術廠の秘密倉庫で解体されたまま保管されている……

 その詳細はベールに包まれており、唯依は知る由もない。

 

「本当にあれを回収したのですか?」 

「そうだ。もっとも当時のままではさすがに私も使いこなせんからな。多少改造を加えたが……ん?」

 

 ふと、後ろから響く足音に二人が振り返る。

 

「邪魔したな、篁中尉」

「月詠中尉。どうしてこちらに……?」

 

 現れたのは月詠真那だった。紅の強化装備を身に纏う彼女はアルフィに一礼すると、

 

「中尉、貴官の機体が届いたそうだ。私の小隊のハンガーに運び込まれている」

「そうでしたか……お手数おかけしました」

「構わん。それより着座調整は済ませておいたほうがいい。最悪明朝には開戦だろう」

 

 素早く敬礼して唯依が駆け出す。その後ろ姿を見送って真那は深く、長い溜息をついた。

 

「若さに嫉妬か?」

「いえ……次の戦い、背負うものがあまりにも大きいものですから」

「確かに此処が陥落すれば次は帝都だ。ましてや、今の横浜基地には殿下が滞在しておられ―――――待て中尉、殿下は脱出されたのか?」

 

 アルフィの問いに真那は首を横に振った。

 

「殿下は『帝国より援軍が来れぬならば、一人でも衛士は多い方が良い』と仰られ、今も神代たちと操縦訓練中という次第で」

「あの武御雷に乗るつもりか……」

 

 ならば真那の溜息も分かるというものだ。

 悠陽自身、以前より操縦訓練は受けている。12.5事件の折、強化装備なしで長時間の実機機動に耐えられたのもそれ故だ。しかし今回は訳が違う……実際に機体を操縦しての実戦。ましてや第三世代機も含むであろう敵の大部隊が相手である。

 

「殿下が無理をなさるのも、すべてこの場所を守る為……白銀武のためなのです」

「白銀の?」

 

 沙霧尚哉との謁見の時、突然戦闘を開始した米軍のラプターに武は無謀にも単独で挑みかかった。相手に土をつけるまでの、その激烈なる戦いぶりは悠陽に限らずその場に居た全ての者の魂を奮わせたのだ。

 その後、武への恩義は彼の挙げる戦果と共に増していき、同時に彼女の心にある渇望を抱かせるに到る。

 

「『自由に戦場を駆け、己の全てを賭して戦う』……守るべきものの為に傀儡を演じねばならなかった殿下にとって、この戦は最後の夢なのです」

 

 だがこれは負け戦だ。勝算は一分もなく、万に一つ勝利を得たところで疲弊した日本は、失脚した米国に代わって国際社会を牽引していく余力などあるまい。

 何より、今回の相手は離反したとはいえ元は米海軍。米国から何がしかの言い掛かりがあってもおかしくはない。それを理由にあらゆる国際支援を打ち切られる可能性もある。

 国連は未だに米国が主導権を握っているのだ。この一件で失脚したとしても、その影響力はすぐには消えるとは考え難い。

 黙りこむ二人の向こうから、ドタドタと駆け寄ってくる影が一つ。

 

「あぁ、やっと見つけたよ! アルフィちゃん、こんなところに居たのかい!」

 

 大声を張り上げるのはPXの責任者である京塚志津恵曹長だ。両手で配膳用のワゴンを押しながら、アルフィたちへ駆け寄ってくる。

 

「そ、曹長? アルフィちゃんはやめて下さいと――――」

「いいじゃないか、アルフィちゃんで」

 

 志津恵の言葉に思わず失笑する真那をアルフィはジト目で見やりつつ、

 

「何か私に?」

「そうそう、お願いがあってね。タケルたちに食事を届けて欲しいんだよ」

 

 今、武たちは90番ハンガーで機体の最終調整の真っ最中だ。志津恵のIDではあの区画にはセキュリティの関係上、入ることが出来ない。そこで彼女はセキュリティを解除できるアルフィを探していたのだ。

 

「きっと今頃お腹空かせてるだろうと思ってねえ。ちゃんとゲンを担いだもんこさえといたから、しっかり届けておくれよアルフィちゃん!」

 

 有無を言わさずワゴンをアルフィに押し付け去っていく志津恵曹長。こうなってはアルフィも届けに行くしかない。曹長を敵に回すことはこの基地を敵に回すことと同義なのだ。

 

「仕方が無い。行くか―――――で、月詠中尉はいつまで笑っているつもりか?」

「いや、失礼」

 

 BETAを圧倒する戦闘能力を持つが故、戦鬼の異名さえ取るアルフィ・ハーネットを「ちゃん」付けで呼ぶ。志津恵の豪胆さとそれに戸惑うアルフィのギャップが真那にはツボだったらしい。

 

「笑った以上、ついて来るのだろうな?」

 

 そう言われては笑ってしまった真那に断る術はない。黙々とワゴンを押すアルフィの後ろについて行く。

 ハンガーへ向かうエレベーターに乗り、真那はふとアルフィに尋ねた。

 

「特尉は昨夜の戦いで最下層に向かわれたと聞きました。しかし如何に貴女といえど百体以上の小型種を相手に――――」

「正確には八百と三十九匹、だな。無論、一匹残らず刀の錆にしてやったが」

 

 何でも無いように答えるアルフィだが、たった一人でそれだけの数を殲滅するにはとてもではないが無理がある。ましてや銃器を用いず、一振りの刀でそれを成し得るなど……

 

「恐ろしいか? 私が」

「いえ、そうでは」

「人間はな、中尉。鍛え続ければいつか人外の域に辿り着く」

 

 エレベーターの駆動音だけが嫌にはっきりと聞こえる。

 

「風よりも速く動き、その膂力は獣を超え、他の一切を寄せ付けぬほどの強さを手に入れることができる。私のように、あるいは白銀のように」

「…………」

「だが其処にあるのは孤独のみだ。人の枠から外れた人間はな、人の常識から外れた人間はな、化け物と同じなのさ。どう足掻いても人間には戻れない」

 

 生身だろうと、戦術機に乗っていようと、あの化け物の軍勢をたった一人で打ち負かすことなど出来はしない。もし出来るのならば、それは神か悪魔の類だろう。

 それが人間の枠組みなのだ。

 

「幸い、私には全てを受け入れてくれる夫と娘がいる。二人の前ならば私はただの女として、妻として、母として在る事が出来る。だが果たして白銀は、自身のありのままを打ち明けられる相手がいるだろうか」

 

 晴子や冥夜とそこまで深い付き合いが在るのか、他人であるアルフィたちには分からない。純夏と霞とは親しいようだが、それもどれ程かは見えない。

 

「さあ、着いたぞ」

 

 話の最後を聞く間もなく、エレベーターは停止する。

 やや短めの通路を抜けるとそこはちょうどハンガー正面ゲートから見て左奥、武御雷・極の足元だった。機体の前では武と純夏が何やら揉めているようで、二人の周りで霞達が困惑した表情で動向を見守っている。

 近づいてみると何のことはない、

 

「何で晩御飯無いのさー!」

「しょうがねえだろ!? ずっと着座調整で考えてなかったんだよ!」

「なにさ、タケルちゃんのバカー! アホー! 変態ー!」

「んだとぉ!? このアホ毛! アホ毛! アホ毛ー!」

 

 二人とも、特に武は空腹のためか頭の回転が悪くなっているようだ。語彙に偏りが出ていることから見ても間違いない。いつ本気の殴り合いが始まるか分からない切迫した状況だ(もちろん、成層圏を突き抜けるのは武だろうが)。

 そうこうしている間に騒ぎはさらにヒートアップし、純夏が自慢の拳を大きく振りかぶった。

 

「タケルちゃんの分からず屋! どりる、み・る・き・ぃ……」

「まあ、待ちなさいな。二人と――――――」

「ぷぅわあぁぁぁぁぁんんんんちぃぃぃぃっ!!!」

 

 咄嗟に間に入ったアルフィを憤怒の一撃が天高く打ち上げる。一直線に天井へ叩きつけられ、きりもみ状態で落下した彼女は軽く30cmほど床を陥没させた。

 結論。

 鑑純夏は、BETAと生身で互角以上に渡り合うアルフィ・ハーネットよりも数段強い。

 

 

「すんません、特尉。あいつにはちゃんと言い聞かせますんで……」

「別にかまわないわよ。まあ、気にしないで頂戴」

 

 平謝りの武は必死だった。扱いとしては上官に当たるアルフィを純夏が誤ってではあるが殴り飛ばしてしまったのだ。しかし元は武が純夏と口論になったことが原因であり、彼女の立場や経緯を踏まえれば彼が頭を下げるのも当然のこと。

 一方のアルフィも、まさか純夏がこれほどのパワーの持ち主だとはまったくの想定外であった。不覚を取ったのは自分の読みが甘かった、という自覚がある故に彼の謝罪をすんなりと受け入れるわけにはいかず……『殴った側』が『殴られた側』に詫びるという極々当たり前の決着と相成った。

 

「それで特尉、あのワゴンは……」

 

 気まずい空気を何とかしようと武が話題を変えた。

 彼の視線の先にはアルフィたちが運んできたワゴンがある。載せてあった京塚曹長からの差し入れは現在進行形で冥夜たちが堪能していたが、気になったのはその献立だった。

 

「何で、ニンジンばっかり?」

 

 合成ニンジンのソテーに合成ニンジンのキンピラ、スティックタイプの合成ニンジンサラダバーに加えてトドメの合成キャロットジュース。これでもか、というほどのニンジン尽くしだった。

 

「ゲン担ぎ、だそうよ」

「はあ」

 

 それにしてもこのメニューは、と武は渋い表情だ。

 

「何か引っかかるみたいね?」

「霞はニンジンが苦手なんですよ」

 

 なるほど、決戦前に敢えて苦手な食材を使った料理を差し入れるなど嫌がらせにしかならないはずだ。しかし基地の食事事情を預かる志津恵が、特に霞のように目立つ人間の好き嫌いを知らないとは考えにくい。

 霞に尋ねると、

 

「クーデター事件の時、私がこれを食べたら皆さんが無事に帰ってきたんです」

 

 彼女がこのメニューを完食することはどれほど困難なことだったろう。しかし自ら苦行に打ち込み克服することしか、帰りを待つだけの霞には出来なかったのである。

 もはや犠牲無しに万事解決する術はない。

 ならばせめて、微かな希望に縋るも良し……

 不意に、キンピラをつまんでいた武がおもむろに霞の肩に手を添えた。

 

「ありがとうな、霞。俺達はやらなきゃいけないことをやるだけだ。明日のために死んでいった奴らのために、明日を生きる奴らのために……そして俺達の生きる明日のために、後腐れのないように全力を尽くすんだ」

 

 ただ、生きるために。

 最後まで一個の命としての責務を果たす。

 その決意に異論を唱える者は誰もいなかった。

 

 

 

2001年12月31日 06:31

―――――――駆逐艦『エリオット』・艦橋

 

 間もなく夜も明けようかという頃である。慌てふためく部下からの連絡を受けてブリッジに上がった艦長は、眼前に広がる光景にその目を疑った。

 

「空が……雲が、渦巻いている」

 

 空を覆う黒雲が綺麗な螺旋を描いているのだ。測量の結果、今回の作戦目標である横浜基地が渦の中心であることが確認されるといよいよもって、彼の動揺は隠しがたいものとなった。

 たちこめる雲は徐々に動きを早めながらその渦を大きく広げている。何かとてつもない力が自分達を飲み込もうとしているのではないか。クルー達は戦慄した。

 だが、その空気を吹き飛ばしたのは伝令係の叫び声だった。

 

「旗艦より入電! 全艦攻撃準備! 繰り返す、全艦攻撃準備! 時刻0700より全戦力を以って目標を制圧せよ!」

 

 ついに戦いの火蓋が切って落とされる。

 同胞相食む愚かな戦争が始まろうとしている。

 

 

 2001年12月31日。

 人類はついに、世界最期の日を迎えた――――――

 

 

 

 


筆者の必死な説明コーナー(真面目に説明編・ぱーと4)

 

武御雷・極(キワミ)

 

 日本帝国陸軍および城内省が国連極東方面軍と共同で開発した対異星起源生命体最終決戦用戦術歩行戦闘機。全長は54.3メートル、ハイヴ突入用増加装甲装着時には60.8メートルという破格のサイズスケールを誇り、史上最大級の人型機動兵器となっている。

 機体の構造自体は武御雷をそのままスケールアップしたものになっているが、その巨大さゆえに現状搭載されているジェネレーターでは機体を起動させることが出来ないため、外部からのエネルギー供給が必要となる。またオブサーバーで国連から参画した白銀武とアルフィ・ハーネットの提案によって防御性能と整備性を重視したことにより、両肩部に搭載予定だった荷電粒子砲はオミットされた。これによって極の武装は専用大型長刀『雷桜剣』と対空防御用機銃八門のみとなっている。

 なお、本編では桜花作戦用に改修を受けている。

 

 

築地多恵

 マブラヴの百合担当その2にして茜の真の恋人と噂されるサブキャラクター(ある意味サブヒロイン。相手は武ではないが)。本来エクストラでは夕呼の実験で呼び出された猫(立ち絵無し)として登場するぐらいで、オルタネイティヴでは佐渡島から上陸したBETAを迎撃する作戦でいつの間にか戦死している悲運の少女でもある。

 本作では茜のトラウマの原因となるべくかなりシナリオをでっち上げた。あくまで筆者の推測だが、原作において横浜基地篭城戦で茜が遥の死に茫然自失状態に陥ったのは多恵の死とダブったからではないだろうか。

 そこでより具体的な事実内容を持たせて、その上でちゃっかり生き延びて今回登場させたのである。ちなみに負傷した戦闘がクーデター事件の際、となっているのは対BETA戦だと生存率が著しく低く辻褄が合わせ難かったから。

 基本的に茜でハァハァするだけでご飯三杯イケる娘だが、色々な都合でハァハァさせる暇も無く散っていく羽目に……ゴメンよ!

 

筆者の必死な説明コーナー(ゴール手前で昼寝編)

 

武「どもー、MUVRUV Refulgence\を呼んでくれてありがとな! ってか昼寝すんな!」

 

ゆきっぷう「ぐぅ……俺、もう限界」

 

武「何が限界だ! 作家仲間に描くと言っていたオリキャラのイラストだってまだ仕上がってねえんだろ!? さっさと描きやがれ!」

 

ゆきっぷう「だってよう。次回のRefulgenceは二部構成なんだぜ? そりゃあ少しぐらい休みてぇさ」

 

武「えーと、何で二部構成?」

 

ゆきっぷう「普通に横浜基地サイドと桜花作戦サイド。前者はオルタネイティヴ5との激戦で、後者はBETAとの決戦を書く。同時進行しようものなら100ページじゃ収まらないもの」

 

武「……それじゃあ次回の投稿はいつになるんだ?」

 

ゆきっぷう「早くて年明けだろうな。たぶん二月ぐらい」

 

武「それは年明けって言わねえよ!」

 

ゆきっぷう「何はともあれお前たちの戦いはこれで一段落だ。だから少し寝かせろ」

 

武「こら、今……一段落って言っただろ? 続くのか?」

 

ゆきっぷう「―――――ぐぅ」

 

武「寝るな! 答えろ――――――!!!」

 

 

多恵「ねえねえ、茜ちゃん。次の副題は『えっくす』なの?」

 

茜「は? え……ああ、]ね。これはアルファベットじゃなくてローマ数字の『10』だよ」

 

多恵「あ、そうなんだ〜。台本に『えっくす』って書いてあったからびっくりしたよ〜」

 

茜「え゛!?」

 

武「マブラヴ・リフレジェンスゥゥゥゥゥ……エェェェェェェェェックスゥッッ!!!」

 

純夏「エーックス!」

 

壬姫「えーっくす!」

 

※諸事情により今回の『柏木春子とマブラヴ・ジャンケンポン』はお休みとさせていただきます。

 

晴子「え? そんなコーナータイトルだったの?」

 

霞「残念、です」

 

 

人々は明日を生きるために今日戦うことを選んだ。

もはや滅び行くだけの世界で武達は、夕呼達は何を見るのか……

 

MUVLUV Refulgence

~Another Episode of MUVLUV ALTERNATIVE~

 

].絶対運命・翔

],絶対運命・滅




いよいよ最終決戦。
美姫 「なのに、横浜基地は大変な事に」
というか、他国も止められないんだな。
美姫 「それだけ、戦力があるって事かしらね」
ああ、出撃する武たちも、防衛するヴァルキリーズたちもどうなるのか。
美姫 「とっても続きが気になります」
次回も待っています。



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