. 本作は真・恋姫無双のネタバレを多量に含みます。

    2.真・恋姫無双、魏エンド後のストーリーです。

    3.原作プレイ後にお読み頂く事を激しく推奨します。

    4.華琳様の涙を拭い去るため頑張ります。

    5.一部、登場人物の名前が違う漢字に変更されている場合があります。

 

 

(チェンジ!)

恋姫無双

―孟徳秘龍伝―

抱翼旅記ノ壱

 

 

 

『抱翼、蜀の市街にて民を尊ぶ事』

 

 五胡撃退の祝勝会の明くる朝、張飛の一撃を喰らい出血多量で宛がわれた客室に担ぎこまれた天一刀はまだ重い体を引きずるように起こした。窓から降り注ぐ朝日は若干高く、急がなければ朝食を食い損ねてしまいそうだ。

 そんな当たり前の思考も手が触れた柔らかさにぴたり、と止まってしまった。視線を落とせば生まれたままの姿で眠る楽進、李典、于禁の三人がいる。彼女達を起こさないように寝台から離れ、いつもの一張羅に袖を通すと戸を叩く音が。

「起きているか、カズト」

「秋蘭? 今開けるよ」

 入り口に立っていた夏侯淵は、やはり寝台で眠る三人の姿を見るや天一刀を中庭へ連れ出した。やはり朝食の時間は終わってしまっていたらしく、庭のあちこちで剪定の職人がせっせと働いている。

「これからの事を話しておこうと思ってな」

 職人達の仕事の邪魔にならないよう、手頃な木陰を選んで腰を下ろすと夏侯淵はそう切り出した。

「私と霞は今日の昼に蜀を発つ。華琳様へ報告せねばならんことが山ほどあるからな」

「あと、春蘭も寂しがってるんじゃないか?」

「ふふっ、まあな。ともかく、私たちは魏に戻るが……カズトはしばらく蜀に滞在しろ。凪たち三人を護衛役として預ける」

「まあ、体はまだ本調子じゃないからありがたいけどさ。いいのか?」

 天一刀を置いておくことで傾くほど蜀の台所事情は切迫してはいないだろうが……曹操が「早く帰って来い」と言わないか心配だ。

「これは桃香殿の申し出でな」

「劉備さんの?」

「昨日の騒ぎでまた借りが増えてしまって申し訳ない、だそうだ」

 張飛に一撃でノックアウトされたことだろうか。おかげで再び生死の境を彷徨い、華佗の力を借りてようやく意識を取り戻したのは月が夜空に高々と昇った頃だった。

「お前も見聞を広める良い機会だ……くれぐれも、浮気だけはするなよ?」

「ははは、そんなことしたら華琳の前に凪たちが俺の首を刎ねちまうよ」

 魏の種馬も、さすがに他国で女を作ってはまずいらしい。すでに呂布辺りは危ないと思うのだが、それはまた別の話だ。

「じゃあ、劉備さんに挨拶してくるよ。滞在させてくれるんだ、さすがに何も言わないのはね」

「そうだな。それから―――――――――もう一つ」

「ん?」

「よく、生き延びてくれた」

 冗談も皮肉も無く、ただ真っ直ぐな夏侯淵の言葉に天一刀の頬がかあっと熱くなった。恐らく彼は忘れているかもしれないが、今回の戦いで曹操が望んでいた最大の戦果は『生き残る』ことだったのだから。

「秋蘭、もう少しだけ……時間ある?」

「ほんの少しなら、な」

 

 

 

 

先日の戦闘の影響は何処へやら、劉備の執務室には山のように報告書が積み上げられていた。開墾計画の経過や市街の治安状況、城の修繕要請から新しいメンマの調理法まで……

「……メンマは、違うよね」

「違いますね。間違いなく」

 劉備の傍らで今日の助言役を務めるのは諸葛亮。関羽は城下の警邏に出ており、また他の将も各々の仕事に就いている。劉備も本来は地方の城ではなく本城へ戻るべきなのだが、常日頃から定期的に各地の街や城を廻りながら政務をこなす彼女は「少し予定が変わっただけ」とこの地域での滞在の日程を繰り上げたのだった。

 こうして国内を巡ることで常に国内の現状をより劉備が身近に感じることができ、また民衆に王である劉備を常に意識させることで国との一体感を作り出せる。互いの存在を確認させることで内政の充実を図ろうという諸葛孔明の策だ。

「失礼致します〜……天一刀さんがご挨拶にいらっしゃってるんですけど、お邪魔ですか〜?」

「雛里ちゃん? いいよ、大丈夫」

「はい……」

 城の衛兵と鳳統に案内される形で天一刀が執務室に入ってきた。国の政策が実際に行なわれている場面に他国の将を入れることは、本来はあまり良くない事だが劉備は特に気にした様子も無い。

「怪我、大丈夫でした? 鈴々ちゃんにはよく言っておきましたから」

「あははは、俺もああいうのは慣れてるから大丈夫」

 死に掛けたのは初めてだけど、とは言わない天一刀だった。しかし冷静に考えてみれば外交問題に発展しかねない事件であることは明白。張飛はいつも以上に関羽や厳顔からこってり絞られ、一晩中続いた説教で彼女の頭はスポンジ状態になったとか。

「それで、俺たちがしばらく厄介になるって話なんだけど……いいのかい?」

「もちろん! あ、でも女の子に手は出さないでくださいね?」

 何処までもいっても信用の無い天一刀であった。

 

 

 

 

 晴れて正式に滞在の許可が下りた天一刀ら魏の一行だったが、なにせ客分なのでやることがない。いくら身体が本調子ではないとはいえ、一日中床に臥せって居なければならないほどの傷ではなく、

「―――――――で、結局いつもと同じやないか〜」

「せっかくだから沙和、服屋さんに行きたいの〜」

 不貞腐れる李典と于禁を両手で引きずるのは楽進だ。その楽進も先頭を行く天一刀の後を追うばかり。四人が歩いているのは前回の戦場から程近い蜀の城を中心に構築された城下町だ。本城のそれと比べれば小規模だが、溢れる人と活気は負けてはいまい。

 天一刀の提案で、彼女達は自主的に城下の警邏をしようということになった。やることが無いなら普段と同じ事をすればいい、と安直な発想だったが街を歩くうちに、その考えを天一刀は改めていた。

(五胡の伏兵が居ないとも限らないんだよな)

 確かにこの前の戦いで五胡軍を掃滅したが、生き残りがこの街に潜伏していないという保証はない。そういう意味で彼の判断は的を得ていた。

「しかし隊長」

「うん? どうした、凪」

 振り返る天一刀を、彼女の腹の虫が非難した。

「さすがに我等もお腹が空きました。朝、食べてませんから……」

「そういや、俺も食ってなかったよ。適当にどこか入るか」

 寝坊して朝食を食べ損なったのは何も天一刀だけではない。彼が起きた時点で楽進ら三人はまだ寝ていたのだから。

 ともかく一行は食事処を探して大通りに入った。もうすぐ昼時とあって、見渡せば幾つもの飯店が『開店中』の札を出している。すでに行列の出来ている店もあった。

 そんな中、楽進が天一刀の袖を引いた。彼女の視線の先には『麺麻桃園・弐号店』という名前の飯店が。

「凪……」

「隊長……」

「いくら麻の字を使ってるっつっても……あれ、たぶんメンマ専門店だぞ」

 がっくりと項垂れる楽進を李典と于禁がそっと慰める。確かに楽進は辛い料理が好きだったが、メンマが読めないほどあんぽんたんではない。もはや空腹でグウの音も出ないのか、楽進に代わって李典が説明する。

「そうやなくて、隊長……あそこにおるの、呂布とちゃうん?」

「お、本当だ。あー……すまん、凪」

「―――――――麻婆、奢りです」

「お、おう! 天抱翼に任せておけ!」

 貰った字をさっそく使う天一刀。楽進の顔に満面の笑顔が戻るならば多少の出費も痛くはない。

 一方、『麺麻桃園・弐号店』は普通の屋内型の飯店だった。今は暖かい季節なので戸を全て開け放ってある種のオープンカフェに近い状態である。その店内でもっとも大きい机に陣取り、呂布は並べられた料理を次々に平らげていた。皿ごと食べていないか心配になるほどの勢いだ。

「おお、抱翼殿ではござらんか。奇遇ですな」

「趙雲?」

 山のように積み上げられた皿の陰から姿を見せた趙雲が手招きしている。一行は誘われるままに店に入った。

「こりゃすごい」

 改めて机の上を見ると呂布の食欲の凄まじさが良く分かる。それ以上に、

「全部、メンマなのかよ。酒の肴ならともかく、ご飯といっしょにはキツイぜ」

「…………大丈夫、いける」

 一瞬だけ箸を止め、きらりと目を輝かせる呂布。さも「アイアムナンバーワン!」と言わんばかりの眼光におもわず仰け反る天一刀だった。

「麻婆は、あるのでしょうか。隊長」

「心配無用だ。店主! こちらに麻婆麺麻をお出ししてくれ!」

「結局メンマかよ!?」

 さも当然の如く注文する趙雲に思わず突っ込みを入れてしまう天一刀だったが、そもそも店の名前からしてメンマ専門店であることは明白である。五分後には、各々席に着いてメンマ料理をつついていた。

「――――――旨い」

 麻婆麺麻がよほど気に入ったのか、すでにおかわり(三皿目)を注文する楽進。李典は麺麻炒飯、于禁は麺麻酢豚をそれぞれ食べている。なんだかんだと順応性の高い三人だった。

「それで、天下の趙子龍さんは此処で何を?」

「見ての通り、酒を飲んでおる」

 酒瓶を揺らしながら答える趙雲の頬は朱が差し、ほどよく酒が廻っているようだ。しかしその両目は絶えず表の通りへ……いや、道を行き交う人々へ向けられていた。これまでの戦いの結果次第では、失われていたかもしれない風景である。

「いいもんだな……」

 ぽつり、と天一刀は呟いた。彼もまた、この何気ない日常こそこの大地でもっとも価値のある宝だと知っている。国は違えど「民の為に」戦ってきた彼らには、あまりにも眩しい世界なのだ。

「やはり、おぬしには礼を言わねばなるまい」

「そう大したことはしちゃいないさ」

 いや、と天一刀を見据える趙雲の眼は酔いなど微塵も感じさせぬほどに真剣だった。

「抱翼よ。あの時、おぬしが我らの尻を叩いていなければ、私はこの風景を心から受け入れることは出来なかっただろう」

 仲間を見捨て得た勝利には、必ず拭いきれない影が付き纏う。天一刀に叱咤されなければ呂布たちを救い出す算段さえまともに出せなかった自分達にとって、その一連の行動はある種の憧憬さえ抱かせた。

「隊長は、偉大な……いだいなおかたなのです!」

「せやでぇ! 隊長の一物は―――――むごもご!?」

「はいは〜い、助平親父は黙ってろなの〜」

 いつの間に酒をかっ喰らっていたのか、北郷隊の三羽烏はすっかり酔っ払っていた。

「……というわけだ。どうかな、一献」

「頂くよ、趙雲」

「星でよろしい。我等はすでに――――」

「大陸の民を想う同志、かな?」

 これは一本取られた、と苦笑する趙雲。

「うむ。では今日も守られた大陸の平和に」

「乾杯」

 趙雲の注いだ杯を受け取り、彼女の杯に天一刀が酒を注ぐ。かちん、と打ち鳴らして一気に飲み乾せば腹の底から燃え上がった。その熱さから明日も生きよう、という明確な意思が生まれてくる少し不思議な感覚に、天一刀はしばらく酔いしれたのであった。

 

 

 

 

『抱翼、蜀の将と武を競う事』

 

 天一刀が蜀に滞在し始めてから数日、徐々に調子を取り戻してきた彼は戟戦斧を持って中庭に姿を現した。いつもの一張羅ではなく、動きやすい服装に着替えて傍らには手拭いと水筒。

「よーし、やるぞぉっ!」

 掛け声と共に斧を一閃、縦一文字に振り下ろす。以前の感覚で横へ薙ごうと試みるが切っ先の重さを御しきれずに、斧は地面を裂き砕いて止まった。

「…………やっぱ無理か」

 五胡掃滅戦の際、呂布の手によって変貌した双戦斧は天一刀の手に余る代物と化していた。2mはあろう戟戦斧はその極端な重心ゆえに振り回すには高い技量と膂力を必要とする。残念ながら今の彼には扱いきれないものだった。

 それでも天一刀は激戦斧を構え直し、振り上げた。扱えない、では駄目だ。扱えて当たり前、でなければ……

「うおおおおおおおっ!」

 再び大地へ突き立つ戟戦斧。いっそこのまま薪割り作業に切り替えてしまおうか、と天一刀が諦めかけたその時だった。

「鍛錬か、精が出るのう」

「祭様! じ、地面が割れてますよ!?」

「黄蓋……さん、と周泰」

 いつの間に長椅子に腰掛けていたのだろう、黄蓋と周泰(Neko Mimi着用)が声をかけてきた。

「その気迫や良し、しかし他はさっぱり駄目じゃな。いっそ薪割りに変えてはどうだ?」

「俺も今そう思っていたところだよ……」

「冗談じゃ。しかし呂布の手によって武器が形を変えたのは、ちと驚いたが」

「うん、それはまあ」

 あの場に居た黄蓋と周泰は一部始終を目撃していたので、事情はおおよそ把握している。呂布の持った双戦斧が雷光をまとったかと思うと、瞬く間に戟戦斧へ姿を変えたのだ。

 常識ではありえない話だが、現実に変形してしまった以上は受け入れるしかない。

「儂が思うに、抱翼よ。この斧は呂布の氣によって形を変えたような気がする」

「なるほど」

 さすが中国四千年、と納得する天一刀。楽進が氣弾で敵兵どころか家屋や城壁まで破壊する光景を目撃していては、この世の摩訶不思議は氣で全部説明できるような気がしてしまうのも当然だろう(少なくとも硬氣功は実在するらしく、現代でも少林寺拳法の使い手が真剣を腹で受け止めている)。

「――――ということは、じゃ」

「俺の氣を送り込めば、元の双戦斧に戻るかもしれない?」

 応、と頷く黄蓋。向かうところ敵無しの呉の宿将、大胆な発想はさすがと言うべきか。

「でも俺、氣なんて使ったことないぞ。使い方も知らないし」

「……おぬし、それであれだけの技を放ったというのか」

 今度こそ黄蓋が驚いた。

 彼女が指すのは呂布を助けるために単騎吶喊する天一刀が放った轟雷の如き一撃だ。何十人と言う兵士を吹き飛ばし、岩盤を砕いたそれは斬撃と言うよりは爆発に近かった。恐らく真正面から受けていれば黄蓋自身も耐えられる保証はない。

 恐らくは天一刀よりも斧自体に宿る力なのだろう。それを引き出せる資格を持つのが彼だった、というだけで。それでもあの時彼から感じた闘氣は紛れもなく本物で、それは隣の周泰も感じ取っていた。

「まさに天賦の才というのか……うむ。ならば力技しかあるまい! 助っ人を呼ぶぞ、明命」

「す、助っ人ですか?」

 眼を丸くする周泰に黄蓋が何やら耳打ちすると、彼女はすぐさま城の中へ向かって駆け出していく。呆然とする天一刀だが、五分もしないうちに確かに頼もしい助っ人が登場したのであった。

「この錦馬超、逃げも隠れもしないぜ天抱翼!」

「蜀の武将は化け物か!?」

 完全に武装し戦闘態勢で現れた馬超に、天一刀がこう叫ぶのも仕方がなかった。彼女の仇名は白銀の流星。かの高名なエースパイロットもこんな二つ名がついていたので、そりゃあ言わなきゃ失礼ってものかと。

「それで黄蓋殿、あたしに頼みって一体なんだい?」

「うむ。抱翼の一撃を防いでほしいのだ」

「あいつの?―――――――まさか、この間のあれじゃないだろうな」

 馬超も心当たりがあるのか、顔を渋らせる。馬や地面も破壊されてはいかに武を極めた者でも真っ向から戦うことは難しい。何せ自分の足場を崩されては踏ん張りが利かず、どうしても力を発揮しづらくなるのだ。まして天一刀の一撃は広範囲に及ぶ。ちょっと飛び退いたぐらいでは避けきれない。

「だが関羽、張飛と並び立つ剛の持ち主と言えばおぬしか呂布ぐらいしか居るまい。関羽も張飛も今日は職務に駆け回っておるし呂布は居場所が思い当たらんで、おぬしに来てもらったのだ。儂の得物は弓、かといって幼平の剣は細身で受け止めるに向かんからのう」

「そう言われちゃ引き下がるわけにはいかねえよな……今日は非番で手も空いてるし、しょうがない」

 十文字槍を構える馬超から、一陣の風が巻き起こる。彼女の闘氣が大気を圧迫したのだ。その気迫は天一刀の肌を焼き、痺れさせるほど。

「さあ来いよ、遠慮は要らないぜ」

「あ、ああ……」

 対する天一刀も激戦斧を右肩に乗せるような形で大きく振り上げ、ぴたりと制止した。馬超のように空気を揺るがすことはないが、研ぎ澄まされた存在感がひしひしと伝わってくる。

 馬超から踏み込むことは決してない。何故なら今回は、彼女が受ける役だからだ。天一刀が動かない限り、この緊迫が延々と続く。

(振り抜く……何があっても)

 天一刀はあの戦いの時と同じように決死の覚悟を固めた。背負った肩書きや奪った命の重さを刃に乗せて、そして馬超や黄蓋たちが自分を認めてくれたことに応えるために、ただ意地を通す。気付けば、あれだけ重かった戟戦斧の柄が驚くほど軽い。

 互いの間合いはわずか一投足。

「うおおおおおおおおっ!!!」

「でえええええええいっ!!!」

 天一刀と馬超が同時に前へ一歩踏み込む。

 ぶつかり合う鋼が咆哮を上げ、眩い雷が全員の視界を覆い尽くした。

 

 

 

 

 目を覚ました馬超が身を起こすと、そこは同じ中庭だった。寝かされていた長椅子から立ち上がった馬超が目にしたのは、隣の長椅子で華佗の治療を受ける天一刀の姿。側では黄蓋と周泰が物凄い剣幕で孫権から怒られている。

「祭! 呉の宿将たる貴方がこんな大問題を起こして! 幸い双方とも大事無いと言うことだから良かったけれど、万が一の時はどう責任を取るつもり!?」

「権殿……いや、その時は儂の首でも―――――」

「つまり私に、死の淵から生還したという貴方をもう一度殺せと言うのね!」

 時間はあれからそう経っていないらしく、日もまだ十分高い。自分が気を失っていたのはごく短い時間というのは間違いなかった。

 どうにも状況がよく飲み込めない馬超の肩を叩いたのは関羽だった。

「翠よ、眼が覚めたか。お前が怪我をしたと聞いたときにはさすがに驚いた」

「愛紗……あたしは抱翼と模擬戦をやって、それで――――――」

「気絶していた。事情は黄蓋殿から聞いたが、天抱翼の轟撃を正面から受け止めたそうだな」

「ああ、そうだ。あいつの切っ先に槍を合わせたんだ」

 その瞬間が、だんだんはっきりと脳裏に蘇ってきた。

 馬超は踏み込んできた天一刀の戟戦斧に己の槍の切っ先をぶつけたのだ。もしあの一撃を耐える術があるとすれば、その威力が発揮される直前に相手の得物を止めるしかない。どれだけ切れ味の鋭い剣も、鞘に入ったまま砕かれては相手を斬ることは出来ないのだから。

 だが結果は違った。砕かれたのは彼女の槍で、どうやら戟戦斧の重量と天一刀の踏み込みに耐え切れなかったらしい。馬超の技量を天一刀が上回っているとはにわかに信じがたいが……

「……あれ? じゃあ何であたしは無事なんだ?」

「それはこちらが聞きたいぐらいだ」

 呆れ顔の関羽だが、それでも彼女にはだいたい予想はついていた。

「最後に天一刀さんが身を捻ったんです」

 孫権の怒りが黄蓋に向いている隙に抜け出してきた周泰が言う。

「ギリギリのところで刃を引いて、体ごと斧を別の方向へ持っていったんです。それで彼は姿勢を崩して地面に――――――」

 頭をぶつけ、昏倒して今に至ると。

「じゃあ、あたしは何で気絶してたんだよ」

「刃風で切り落とされた枝が頭に直撃しました」

 これには関羽も本当に呆れ返ってしまった。なんとも情けない理由である。

「みんな! 天一刀が目を覚ましたぜ!」

 華佗の声に反省会を一旦中断し、体を起こした天一刀の周りに集合する一同。

「うううう……俺はいったい―――――そうだ、馬超を避けようとして転んだんだっけ」

「ふむ、翠よりは物覚えがいいようだな」

 関羽、そんな身も蓋もない言い方をしては馬超も立つ瀬が無い。

「幸いただの脳震盪だったから良かったけど、鍛錬には危険が付き纏うからしっかり注意してくれよ?」

「うん、すまない」

 華佗の忠告に頷きつつ、天一刀が視線を巡らせると見かけない顔が一人。まだ怒り冷めやらぬ孫権だ。

「私は孫権。呉の家臣の失態、孫策に代わって謝罪する。黄蓋たちが粗相をしたようだな」

「いや、そんなことはないさ」

 笑う天一刀に、孫権も他の者も一様に首を傾げる。

「斧が元に戻ったからね」

 彼の手元にはすっかり元の形に戻った双戦斧があった。恐らく黄蓋は天一刀に必殺の一撃を使わせることで、無意識に彼の氣を戟戦斧に触れさせたのだろう。軽やかな仕草で立ち上がり、双戦斧を腰の留め具に通しながら天一刀は言葉を続ける。

「黄蓋さんには色々相談に乗ってもらったし、周泰も手伝ってくれた。馬超も俺のわがままで怪我させちゃったみたいだしね。こんな大事になったそもそもの原因は俺なんだから、謝るのは俺の方だよ」

 爽やかに笑う天一刀。これが彼の絶技『気にするなスマイル』だ。これによってあらゆる外史でこの男は数々の女性を篭絡してきたのである。

それはともかく、「貴公がそう言うなら」と孫権は引き下がったが、「それみたことか」とふんぞり返る黄蓋の耳を引っ張ることは忘れない。慌てて周泰が仲裁に入るが、油を注がれた孫権の剣幕は激しくなるばかりだ。

「祭! 貴方という人はまったく悪びれもせず……!」

「しかし蓮華様、結果として天一刀にはよい経験となったようじゃ」

「それとこれは別問題よ! せっかく生きていてくれた貴方を叱らなければならない辛さが分かって!?」

「う、うぬ……この公覆、不覚にも涙が」

 一瞬だけ素の顔が覗く孫権に、黄蓋もついに折れた。

「祭……分かってくれるわね?」

「蓮華様のお心遣いを汲めず、申し訳ない」

 とりあえず彼女達の問題は丸く収まったようである。一方で、収拾の目処がつきそうにないのが関羽だった。いつの間に持ってきたのか、愛用の青龍刀をぶるんぶるんと振り回して、

「抱翼殿よ、翠だけでは物足りぬであろう。ならば劉玄徳一の家臣である私が直々に鍛えて進ぜよう。なに、二十本も組み手をすれば一角の将となれるはずだ。いや、私だけでは偏ってしまうな。翠、鈴々もそろそろ兵錬が終わるだろうから呼んで来てくれ」

 と仰る美髪公殿。馬超も「合点承知!」と物凄い速さで張飛を呼びに行ってしまった。

「いや、ほらでも、関羽も仕事があるんじゃないか?」

「私はもう終わらせてきた。気遣いは不要だ」

 じりじりと近づいてくる関雲長の貌には、それはもうサディスティックな笑みが張り付いている。ここしばらく溜まっていた鬱憤を晴らそうとでも言うのか。

 いずれにせよ、天一刀に残された選択肢はただ一つ。

「うおおおおおおおっ!?」

 避けて。

「どわああああああっ!?」

 避けて。

「うひぃぃぃぃぃいぃっ!?」

 走って跳んで転がって、ひたすらに逃げ続ける天一刀。周りからのブーイングも彼の耳には届いていない。縦横無尽に繰り出される関羽の斬撃をギリギリの所でかわせば、背後にあった石造りの灯篭が豆腐のように切り裂かれた。そりゃあ誰でも逃げ出すさ。

「逃げるな天一刀! 貴様、それでも武人か!」

「殺す気満々のくせに何言ってやがる!」

「黙れ! こんな優男に恋をくれてやるものか!」

「それが本音かコンチキショー!」

 祝勝会で呂布が『御遣い様のお手伝いさん』宣言をしたことで彼女にお熱だった関羽は怒り心頭、眼光だけで人を殺せるほど荒れ狂っていたのだ。そんな所に天一刀を全力で叩きのめせる絶好の機会が訪れたら、

「蜀の大地に屍を晒せ!」

 ちょっぴり暴走してしまうのも頷ける。

「けれど、愛紗の攻めを見事に受け流すものね」

 感心する孫権だが助け舟は出さない。天一刀が一角の武将なら独力でこの窮地も生き延びられよう、という達観した考えによるが、このままでは一方的な嬲り殺しにしかならないだろう。主に筆者の意図によって。

 とはいえ、次々と繰り出される猛撃が少しも彼を掠らないのはどういうわけか。関羽の実力ならば例え呂布であってもどこかで受け止めなければならないほどだ。それがこうも簡単にいなされてしまうのは……

「そら、普段から隊長は怒り狂った春蘭様から逃げたりしとるからなぁ」

「……魏武の大剣から!?」

 驚く周泰の隣でうんうん、と李典が頷く。魏最強の武将と常日頃からそんな実戦染みたことをしていたのなら、あの巧みな逃げ足(?)も理解できる。

「ぜぇっ……ぜぇ、ぜぇっ」

 立ち木などの障害物さえも利用して何とか数メートルの間合いを確保する天一刀だが、彼の呼吸は乱れ切っていた。氣は息を吸い込むことで集められ、吐くことによって練り上げられる。息を整えなければ満足な攻防は出来ないのだ。

「もう息が上がったか。これで終わりにしてくれる! 行くぞ翠、鈴々!」

「合点承知なのだ!」

「応よ!」

 今度こそは逃がさん、とばかりに合流した馬超と張飛の三人がかりで襲い掛かる関羽。もはや完全に周りが見えていない彼女の前に立ちはだかる者など――――――

「…………愛紗、駄目」

「れ、恋!?」

 ―――――居た。ちょっと丈の足りないメイド服を身に付けた呂布が、竹箒を武器代わりに関羽たち三人を次々とあしらったのだ。さも道端のゴミを片付けるかのごとく。

 天一刀の眼は呂布に釘付けだった。正確には、彼女の身に着けていたメイド服に。

「あれは、俺が死ぬ前に考えていた新型のメイド服!?」

 彼の死後、遺品は主に李典と于禁によって売却されていた。その中には天一刀直筆による天衣の型紙集も含まれており、それが巡り巡って蜀の国に流れ着いたのだろう。

「――――――――ぶはあっ!」

 関羽が盛大な鼻血を噴き、ばったりと仰向けに倒れてしまった。呂布のメイド服姿にすっかりやられてしまったと見える。遠くから「ちょっと恋!? ボクの服を返しなさーい!」と賈駆の叫び声が聞こえてくるが気にしてはいけない。

 

 こうして関羽が倒されたことによりこの勝負はうやむやになってしまった。夜、城の中に宛がわれた自室へ戻った天一刀は元に戻った双戦斧を壁に立てかけ、

「真桜、沙和……事情を説明してもらおうか」

「「ガタガタブルブルガタガタブルブル―――――――――」」

 楽進によってあらかじめ連行され、床に正座させらている李典と于禁に視線を向けた。二人が恐怖の色に染まりきっているのは、「隊長命(は〜と)」な楽進による無言の圧力が相当効いているからである。

「いいか? あの型紙集にはな……俺がお前たちに着せようと思って、春蘭たちに隠れてこっそり描き上げた奴なんだぞぉっ!」

「いや、ウチらに着せる気やったんかい……」

「隊長の趣味、全開なの〜」

 ツッコミを入れる李典たちだったが、

「凪、おしおき」

「はっ!」

 楽進の張り手で執行された「お尻ぺんぺんの刑」。受ける二人の悲鳴は、その夜途絶えることはなかったという……

 

 

 

 

『抱翼、侍女に囲まれる事』

 

 昼下がりの暖かな日差しの中、天一刀は自分に貸し与えられた客室の寝台で大の字に寝転がっていた。外へ出かければ関羽や張飛に勝負を挑まれたり、市街で警備隊の仕事をする羽目になったりで休む暇もないのだ。たまには部屋に篭もってのんびりと過ごしたい今日の彼だった。

 そういうわけで天一刀は久方ぶりに一人の時間を満喫していた。楽進たち三羽烏も今日は別件で外に出ているので、周囲はとても静かだ(騒がしいのは主に李典と于禁だが)。

 というわけで得られた貴重な時間は、

「失礼します」

 ノックと共に現れた美少女メイドによって粉微塵に打ち砕か――――訂正。薔薇色に生まれ変わった。自分のデザインしたメイド服を蜀の侍女が着ているのはちょっとした優越感だったりする天一刀は、にこやかな笑顔でメイドを迎え入れようとして、ぴたりと止まった。

「おや? 君は……前、どこかで……」

 美しい銀の髪に白磁の肌。どこか脆く儚げで、思わず抱きしめたくなる愛おしさが込み上げてくる。これはメイド服がもたらす幻惑か?……いや、確かにどこかで会っているはずだ。

 相手も天一刀に見覚えがあるらしく、少し思案してからぽつりと言った。

「あの、洛陽で……」

「ああ! 董卓んとこのお姫さん!」

「……その、私が、董卓なんです」

「なんだってぇっ!?」

 突然明かされる驚愕の新事実。そりゃあ蜀ルート以外じゃあ知る由も無いけれど、それでも天一刀は驚きのあまり(むしろ狙って)董卓を抱きしめようとして、

「大遠投ちんきゅーきぃぃぃぃぃっく!」

「ドワォイッ!?」

 窓から飛び込んできた陳宮の跳び蹴りを喰らって壁にめり込んだ。対して華麗に着地した陳宮は天一刀を指差し、こう叫んだ。

「せくしゃるはらすめんと、なのですっ!」

「そ、そんな天界語を、どこで……ぐふっ」

 現代人でも人によっては略称しか知らない「セクシャルハラスメント」という言葉を、この時代に正しい用法で使用できる陳宮はいったい何者なのか?

「と、とにかく……陳宮よ、事情を説明してくれ」

「ふん、まあ話してやりましょう。つまり、かくかくしかじかで、月は権力争いに巻き込まれただけだったのです」

「そっかー。面倒臭くて色々省いたみたいだけど、良しとしておく。それで劉備さんの所で保護してもらってメイドしてるんだ?」

 天一刀の言葉に頷く董卓の後ろからもう一人メイドが現れた。

「お、もう一人可愛らしいメイドさんが」

「分身ちんきゅーきっく!」

「ドドワォッ!?」

 再び陳宮の蹴りを受けて床に沈む天一刀。そこまで魏の種馬の悪名は轟いていた。きっと反董卓連合が流した醜聞の数々よりもひどい内容なのだろう。

「ボクは軍師の賈駆。便宜上、月と一緒に真名で呼んでもらってるけどね」

「……それは、あの戦いのせいか」

 起き上がった天一刀の表情が曇る。賈駆も頷くが、やはりその顔はどこか気落ちしていた。

 反董卓連合によって各地に伝えられた暴君董卓の情報によって彼女達は孤立無援となり、袁紹たちの権力争いに捧げられた生贄も同然。幸い、天一刀(当時ホンゴウカズト)が偶然保護した董卓と賈駆を劉備に預けたことで二人は難を逃れ、蜀の最終決戦時に全てを知っていた劉備は彼女達を呂布に預け故郷へ帰したのである。

 しかし袁紹の情報操作は思った以上に深く民衆の心を動かしていたらしく、故郷の戻った董卓は、焼かれてしまったかつての実家と両親の死に直面する事となった。居場所を失い、故郷を本当の意味で追われた彼女たちが再び蜀に戻ったのが半年前。

 五胡掃滅戦の前に関羽から聞いた話をにわかに思い出し、天一刀は得心した様子で改めて名乗った。

「俺は天一刀、真名はカズトだ。よろしく」

「改めまして……董卓、真名は月(ゆえ)です。桃香様から滞在中のお世話を申し付かりました」

「名前は賈駆、真名は詠よ。まさかこんなところで再会するなんてね」

 どうやら賈駆も洛陽で天一刀と会ったことは憶えていたらしい。

 ふと、視線を感じて四人が入り口の方へ振り向くと……

「………………(じーっ)」

「りょ、呂布!?」

 入り口の縁から顔を上半分だけ出して中の様子を伺い見る呂布に、思わず天一刀は腰を抜かしてしまった。正直、可愛らしいんだか怖いんだかで訳が分からない存在感を放つ呂布に、みんなの視線が集まる。

「どうしたんだよ、呂布は月たちに用事かい?」

「………………違う。恋」

「へ?」

「…………真名、恋。呼ぶ」

 彼女の言葉の意味を理解して頷く天一刀の背後で、陳宮がガラガラと音を立てて崩れていた。

「あ、ああ。恋ね……うん。恋はどうしたんだ?」

「…………恋、お手伝いさん」

「もしかして、侍女の仕事を?」

 全てを察した董卓にコクコクと呂布が肯定する。崩れた陳宮の残骸が砂と化し、風に吹かれてどこかへ散っていった。そんな哀れなちびっ子軍師など見向きもせず、賈駆は何やら納得した様子である。

「それでこの間、ボクの服を……でも、一人前の侍女になるには相当な修行が必要よ?」

「………………頑張る」

 元軍師の賈駆が侍女の仕事を語る。なんとも珍妙な光景であった。それはさておき呂布の熱意は本物らしく、前回の戦いで折れた方天画戟の代わりなのか竹箒をブルンブルンと振り回している。正直危ないことこの上ない。

 何やら嫌な予感がしたのは、天一刀だけではないはずだ。

 

 

「あ、こら! 恋! 瓶が落ちる、落ちるぅぅぅぅぅぅっ!」

「なんでボクに突っ込んでくるのよ! ってきゃあああああああっ!?」

 試しに床の雑巾がけをさせてみるが呂布の有り余る力と速度で大破壊の嵐が巻き起こった。天一刀が必死に落ちそうになる花瓶を支えているが、それもいつまで持ち堪えられるか。呂布に追突された賈駆が窓の外へ飛んでいったのはお約束である。

 

 

「あの……恋さん? それは――――――」

「…………とってきた。熊は煮ても焼いても美味しい」

「――――――――ふぅっ」

 ならばと晩餐の準備をさせてみるが、呂布は狩ってきた熊を厨房でさばき始め、その光景を目の当たりにした董卓がおぞましさのあまり失神してしまった。張飛と肩を並べる野生児の奔放ぶりに天一刀も開いた口が塞がらない。

 

 

 結局その夜、天一刀の食卓に並んだのは山盛りの熊鍋だった。

「お優しい恋殿はこうしてねねに愛情たっぷりの料理をいつでも振る舞ってくれたのです。そこの馬、感謝しておこぼれ頂戴するのです」

「……御遣い様、あーん」

「恋殿ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!?」

 復活した陳宮は、呂布の隠し奥義『はい、あーん』が天一刀に向けて発動されたショックに塩の柱と化した。これには賈駆も董卓もドン引きである。

「御遣い様はそういうご趣味が……」

「うっわ、サイテー」

「俺が悪いのか!?」

 そう言いつつ差し出された呂布の箸を頬張る天一刀。あの瞳で見つめられたら誰が断れよう。今日のところはそういう理由で見逃しておいてやるが、次はないから覚悟しておけコノヤロー。

「ひがみはよせって……ところで、恋の服だけどさ」

 「何のこと?」と首を傾げる呂布はさておき、天一刀は賈駆と董卓に改めて尋ねた。

「予備とか無いのか? 前の戦いでボロボロになったままだよね」

「ど、どうなんでしょう……いつもねねちゃんが管理してますから」

「そうねぇ。お金に余裕があれば新調してみる?」

 塩の柱となった陳宮はそっちのけで話は進んでいく。

 そもそも、前回の五胡戦で単騎突撃して取り囲まれて大乱闘の末に生還した呂布の服は殆どの布地を失い、かろうじて原形を留めている程度だ。今も「あーん」する度に胸元が弾けそう(誤字に非ず)でピンチだ。

「じゃあ俺が意匠を考えよう」

「できるんですか?」

「君たちの服も、もとは俺が考えたんだよ」

 賈駆も董卓も自分達の服が、機織り職人の間で半ば伝説となっている型紙集『北郷書』より作られた侍女服だとは聞いている。でも目の前の男がそんな職人達の注目を一身に浴びるような人物だったとは……

「いっそ、そっちに転職したら?」

「悪くは無いけど……それはそれ、さ。まあ呂布の服は俺が仕立ててもらってくるよ」

 すべてはマイ・メイドの為に。

 魏では叶わなかった天一刀の野望の第一歩が、今踏み出されようとしていた……

 

 

 

『誕生! 真なる華蝶』

 

 城下町のはずれ、田畑が一面に広がる農業地帯を通るあぜ道を陳宮は愛犬の張々と共に歩いていた。今日も天一刀の『お手伝いさん』となるべく奮闘中の呂布のため、旬の食材を召し上がって抱くためにこうして近郊を散策しているのである。

「天が呼ぶ〜♪ 地が呼ぶ〜♪ 人が呼ぶ〜♪ 悪を倒せと恋殿を呼ぶ〜♪」

「これこれ、そこのお嬢ちゃん。そんなに飛び跳ねると危ないぞ」

 呂布賛歌その参を口ずさむ陳宮を呼び止めたのは旅の商人だった。見たところ西洋人で被った幌から覗く髪が蒼い。連れている馬の背には見たこともない果物が積まれていた。

「お前、羅馬の商人なのですか」

「いかにも。俺は瓜だいお―――――旅の瓜商人だ」

「なんと……初めて見たのです」

 物珍しさにまん丸に眼を見開く陳宮の腹から、ぐうぐうと大合唱が聞こえてきた。これには旅の商人も苦笑するばかり。古今東西、腹が空けば中の虫が悲鳴を上げるのは一緒なのである。

 ちょうどお天道様は真上を過ぎた辺りで、昼食にはちょうどいい頃合だった。

「じゃあお嬢ちゃんにこれをあげよう」

 そう言って商人が差し出したのは見たこともない果物。皮は緑色できめ細かい模様が入っている。商人は慣れた手つきで小刀を取り出し、それを半分に割ると中にたっぷり詰まった果肉から甘い香りが立ち昇った。

 陳宮がたまらずかぶりつくと、これがまた旨い。口いっぱいに頬張った果肉は甘くてやわらかく、溶けるように胃の奥へたちまち吸い込まれていく。さらににじみ出るたっぷりの果汁もとても甘く、喉の渇きもたちどころに潤った。

「がふがふがふがふ。張々も食べるのです!」

「わおん! がふがふがふがふ」

 一人と一匹が物凄い勢いで瓜一個を食べ終えるまで五分と掛からなかった。

「はっはっは、いい食いっぷりだ。しかしお嬢ちゃん、どうしてこんなところに?」

「主に献上する食材を探していたのです!」

 えへん、と胸を張る陳宮。対する瓜商人も得心した様子で、荷袋から一際大きな瓜を取り出すと陳宮に手渡した。

「こいつを持ってきな」

「なんと!? しかし、御代も払わず貰うわけにもいかないのです」

「いいってことよ。ただ、次からはよろしく頼むぜ」

「お前……ありがとうなのです」

 手を振って国境へ向かうと言う瓜商人を見送り、陳宮は来た道を引き返し始めた。この瓜一つだけではまだ足りない、もっと多くの食材を集めなければ主人の空腹を満たすことは不可能だ。物量的に。

 そうして彼女が辿り着いたのは城からやや離れた農村だった。市場に流通しない隠された珍味を探すには絶好の場所である。

 村の入り口には蝶を象った看板が柱に打ち付けられていた。陳宮が以前聞いた話では、この地域では昔から神蝶と呼ばれる守り神が居るらしい。時折、人里に現れては子ども達と戯れたり、妖怪を退治したりしているという。

 瓜を布で包んで張々の首に提げさせ、さっそく情報収集を開始。広場で遊んでいる子ども達の輪に加わる陳宮は、彼らと打ち解けることで今晩のおかずの献立を聞き出し、あわよくばそれを頂戴しようという―――――

「あははは! 待て待てー!」

「こらー! 待つのです!」

 と見せかけて、一緒に遊んでしまっている陳宮。それも割と本気で鬼ごっこに興じている様子。きっと呂布が見たら羨ましがること間違いなし、というぐらいの弾けっぷりであった。

「ふーふー……おーまーえーたーちー!」

「わー! 怒ったぞ、逃げろー!」

 どうやら陳宮が鬼役から抜け出せないらしく、顔を真っ赤にして子ども達を追いかけている。ついに戦場(?)は広場だけでは治まらなくなり、村の裏手に広がる森林地帯へと伸びていった。

 そうなれば勿論、土地勘の無い陳宮が道に迷うのは当然で。

「ここはどこなのですか」

「ぼくたちも分かんない」

 一緒に遊んでいた子ども達も分かるはずも無く。

『迷った(のですか)!?』

 こうなった以上、頼りになるのは愛犬の張々だけ。そう思い、陳宮が振り返ると肝心の張々は森の奥へ進んでいく途中だった。

「置いていくなですー、張々ー!」

 走り出す陳宮に子ども達も続き、張々の後を追う。

 森は奥へ行けば行くほど不気味さを増していた。妖怪の類が出ても不思議ではないような、腹が底冷えする気配が漂っている。足元を見れば見たこともない茸やコケ類がびっしり生えており、木の枝はぐねぐねと曲がりくねったものばかり。

「もしかして……鬼の住処?」

「お前、ちゃんと説明するのです」

 ぽつり、と呟いた女の子を問い詰める陳宮。

 話を聞くと、どうもこの村では半月前から鬼が近隣に出没するのだという。今のところ人が襲われたことは無いが、家畜の牛や馬が何頭も食い殺された。国に警護の要請は出しているがまだ兵士は派遣されてこないと子ども達は言う。恐らく先の五胡軍の対応に追われて、こちらに人手を回せなかったのだろう。

(鬼かどうかはともかく、迅速な対応が必要なのです)

 さすがは軍師である。先ほどまでの遊びに興じていた時とは打って変わった真剣な表情で、劉備たちへの進言内容を纏め上げる。

 それにしても鬼とは、また面妖な相手が現れたものだ。人外の輩では関羽の青龍刀も通用するかどうか。

「まずは森を出なければ。張々、道案内するのです」

「わふっ」

 頷き、張々が先頭を歩き出そうとすると、目の前の古木がメキメキと音を立てて倒れ、道を塞いでしまった。訳も分からず子どもたちが泣き叫ぶ。古木の後ろから現れたのは、

「お――――――――鬼!?」

 大の男を大きく上回る巨躯。

 鉄を思わせる漆黒の肌。

 鋭く尖った爪。

 何より、頭に生える二本の角が何よりの証だ。

 黒鬼は子ども達を獲物と認識したのか、舌なめずりをしながら地響きのような足音を立てて近づいてくる。

「張々、お前たち、逃げるのです!」

 陳宮が叫ぶも子ども達は半狂乱で泣くばかり。張々は我先に走り出すが鬼の振り上げた腕が届く方が僅かに早く……

 ドガッ!!!

 鬼の手から張々を庇った陳宮の体が吹き飛び、地面を転がった。全身を強かに打ちつけてしまって、立ち上がろうにも力が入らない。狩りを邪魔されて怒ったのだろう、うなり声を上げて鬼が陳宮へとどめの一撃を繰り出してきた。

 動けない。

 これまでか。

(恋殿……)

 最後に思うは最愛なる主の事。

 だがいつまで経っても陳宮の走馬灯(の様な妄想)は終わらなかった。

「むむ?」

 不思議に思い、何とか瞼を開けると金色の蝶が胸元にとまっていた。対して鬼は蝶の放つ輝きから逃れるように森の奥へ去っていく。

(これが……あの神蝶とやらですか)

 この大陸にはまだ見ぬ秘蹟が多々あると言うが、恐らくこれもその一つなのだろう。

 

 

 泣き止んだ子ども達と張々に連れられ、陳宮は村の宿に運び込まれた。(結果として)鬼から子ども達を守った陳宮を、村長は蜀の軍師と知っていたため村は上へ下への大騒ぎ。

「うーん……ここ、は?」

「おお、軍師様! お気づきなられましたか!」

 寝台の布団から体を起こすと背中がまだ痛む。張々が足元で心配そうに陳宮を見つめているが、こちらも怪我は内容で一安心だ。城に滞在している華佗に改めて治療を頼もうと決め、陳宮は改めて尊重と向かい合った。

「怪我はもう大したことないです。鬼はどうしたのですか?」

「森の奥へ逃げていったと……神蝶様のご加護ですな。今晩は村でゆっくり体を休めて下さいませ」

 どのみち、休まなければ城まで戻るのも辛い。村長の言葉に甘えて今夜はこの村で寝床を借りることにしよう、と頷いたその時だった。

「鬼だ! 鬼が来たぞぉぉぉぉっ!」

 山火事の時に鳴らす鐘を力いっぱいに鳴らして、男衆の一人が声を張り上げる。どうやら昼間の報復に来たらしい。

「村長! 女子供を城へ避難させるのです! 張々は道案内するのです!」

「は、はい!」

「わふっ!」

 張々が付いていけば村長の説明も真実味を帯びるだろう。走り出した張々が逃げてきた村人たちを先導し、城へ向かっていく。

「村長、男衆に作業用の長縄を持たせ、いたたた……」

「軍師様!?」

「ねねのことはいいのです! それより、長縄を準備するのです!」

 鬼に太刀打ちできるのは関羽や張飛といった一騎当千の猛将でなければ無理だ。ならば少しでも到着までの時間を稼がなければ、先に逃げた村人が危うい。

 村の倉庫から田畑の縄張り用の長縄が運ばれてきた。陳宮はそれを村でも俊足の男二人に両端をそれぞれ持たせ、鬼を挟み込むように立つよう指示した。

「鬼が間に来たらぐるぐる巻きにしてやるのです! 相手の動きが止まったら縄を家の柱にでも縛り付けて逃げるのです!」

「お、おお!」

 鬼が家屋の壁を突き破り、いよいよ広場に出てきた。

「今です!」

 二人の男が鬼を中心に、縄を持って回り始める。さすが村で一番を競う俊足だけあって、瞬く間に鬼が縄で縛り上げられていく。

 しかし、鬼の膂力は並外れていた。何重にも巻かれた縄を一息で引き千切り、男達へ襲い掛かったのである。逃げろ、と指示を出す時間もなく肉塊と化していく村人達。残ったのは泡を噴いて気絶した村長と、陳宮だけだ。

「くっ……」

「ゲフウッ」

 恨みの対象を見つけたからか、鬼が薄気味悪い笑いを浮かべる。だがその貌に金色の光が体当たりを掛け、鬼を大きくよろめかせた。光―――金色の蝶はひらりひらりと鬼の反撃を避け、再び陳宮の胸に止まると、昼間の時と同じように輝き始める。

 しかし今度は違う。光は形を成し、【Hennshinn】のコールと共に陳宮の体を包み始めたのだ。全身をまず漆黒のタイトスーツが覆い、その上から金色の蝶を中心に胸部を純白の装甲が固め、腰には同じく純白の腰当が現れる。両脚の長靴も鋼のそれへ作り変えられ、両の肩当てから白地のマントがなびいた。マントには金糸で蝶のレリーフの刺繍が施されており、一目で神蝶の化身であることを周囲に示している。

 顔は複眼と触覚という蝶を髣髴とさせる意匠のフルフェイスの兜で隠され、その上からさらに【Face on】のコールと共に蝶を象った金色の仮面が装着された。

 その神々しい姿に黒鬼がたじろぎ、気を失っていた村長が意識を取り戻した。

「ま、まさに……華蝶仮面」

 仮面を纏いし蝶の戦士。それを華蝶仮面と呼ばずに何と呼ぶ。まして彼の者は神蝶と一体化し、その御力を授かった真なる存在。

 鬼も負けてはいない。薙ぎ倒した柱を掴み、華蝶仮面となった陳宮へ襲い掛かった。鬼が一度この柱を叩きつければ陳宮はたちどころにぺしゃんこになってしまうだろう。仮に避けたとしても、後ろで倒れている村長が犠牲になるだけだ。

 陳宮は迷わず、胸の蝶に触れた。驚くべきことにこの蝶は不思議な金属で出来ており、鎧と完全に一体化している。指で右の羽を押すと、【Clock up】のコール音と同時に彼女の動きは超高速化した。

 殆ど止まったかのような鬼の動きを見て、まず陳宮は振り下ろされた柱を左腕で押し退けた。柱はたちどころに圧し折れ、破片を撒き散らしながら空中にゆっくりと散らばっていく。あまりに陳宮が高速で動くため、他の動きはすべてスローモーションに見えてしまうのだ。

 それも束の間、【Clock over】のコールで高速化が解除されてしまった。どうやらこれは一定時間しか使えないらしい。

「グファッ!? グゥ、グゥオオオオオオオオッ!!!」

 何が起こったのか理解できない鬼は折れた柱を捨て、怒りに任せて突進する。相対する陳宮は勝利を確信したのか、いつものあの構えを取った。同時に右の指で胸の蝶の腹を撫で上げる。

Three, Two, One…Rider―――――】

「ちんきゅー・はいきぃぃぃぃぃぃっくっ!!!」

【――――――Chinnkyu High Kick

 一瞬で懐へ飛び込んだ陳宮の上段回し蹴りが鬼の胸を打ち、盛大な炎と共に鬼の体を一瞬で粉砕した。ばらばらと飛び散る鬼の残骸を背に、陳宮――――――改め、真・華蝶仮面は天へ向かって拳を突き上げ叫んだ。

「ねねの勝利は恋殿の勝利なのですっ!」

 彼女の正義は何処へ向かうのか……

 

 村の被害は建物数棟が倒壊したことと、自警団の男たちの半数以上という大きなものだった。この「鬼出現」の報が大陸全土を揺るがす事態となるのは、そう遠くない話である……

 

 


あとがき

 

ゆきっぷう「真(チェンジ!)恋姫無双 ―孟徳秘龍伝― 抱翼旅記ノ壱をお読みいただきありがとうございました。以後、本作はメインの孟徳秘龍伝と小話(原作ゲームの○○伝みたいなもの)の抱翼旅記の二つでお送りしていきます」

 

陳宮「旅記では小話を三つから四つぐらいまとめてお届けするのです!」

 

ゆきっぷう「長さによっては二つになるかもしれませんが、どうぞよろしく。ところで陳宮さん」

 

陳宮「?」

 

ゆきっぷう「変身、しましたね?」

 

陳宮「というか、何でねねなのです?」

 

ゆきっぷう「いや、単純に原作で唯一天界語を喋れるから。キックとか、スライディングとか」

 

陳宮「ねねの博識ぶりが今日の評価に繋がったのですな。ではこれからは仮面軍師・陳宮として……」

 

呂布「…………ねね、危ないことは、止める」

 

陳宮「れ、恋殿がそう仰るなら」

 

天一刀「おーい、恋やーい!」

 

陳宮「へんしん!」

 

バタフライゼクター【Hennshinn

 

真・華蝶仮面「ちんきゅー・はいきっく!」

 

バタフライゼクター【Three, Two, One…Rider―――――Chinnkyu High Kick

 

天一刀「あぎゃああああああああっっっ!!!」(炎に包まれ砕け散る)

 

真・華蝶仮面「ではさらば、なのです!」

 

ゆきっぷう「まったねー!」

 

天一刀「お、れが主人公、だ……」

 

 

 

人物紹介

 

董卓(真名・月)

 涼州出身の元将軍。都の権力争いに巻き込まれ、ついには洛陽の暴君に仕立て上げられてしまった悲運の少女。戦いから逃れるため洛陽を捨てるも包囲網を突破することは難しく、最終的には劉備たちに見つかって保護される。

 以後は劉備のもとで侍女(メイド)として賈駆と共に働くようになる。元々家事全般が大好きだったらしく、メイドの仕事にもすぐに順応していったが、蜀ルートでは何故かホンゴウカズトにメロメロになり、賈駆もついに感化されて誑し込まれてしまった……純真な乙女を傷物にした罪は、必ず償わせてやるぞっ!

 ホンゴウカズトがデザインしたメイド服を身に着けているため、街へ買い出しに行くと70%の確率で店の親父さんが値引きしてくれる(らしい)。

荀ケ「彼女の境遇には同情するわ。あんな男に誑し込まれるなんて……」

甘寧「同感だ」

陳宮「まったくなので……ってそっちなのですか!?」

 

 

賈駆(真名・詠)

 元董卓軍軍師。権力争いに巻き込まれた董卓のため四方八方手を尽くすも連合軍に包囲され、都を放棄して涼州へ帰還することを決断するが脱出に失敗し、発見した劉備に保護された。軍師としては非常に優秀で、特に部隊指揮は諸葛亮らも一目置くほどの実力を持つ。

その一方で董卓を溺愛しており、彼女に近づくホンゴウカズトに対して辛辣に当たる。しかし彼に軍師として再登用され、また君主としての真意に触れて徐々に態度を軟化させていく。気がついたら襲われていたのはお約束。

 ホンゴウカズトのデザインしたメイド服を着用しているが、部隊指揮の際には着替えている。必殺技はデコピンで、天一刀の意識を奪い去るぐらいの威力がある。

甘寧「戦術においては三国でも随一の実力者だな。やや感情的になりやすい部分はあるが……」

荀ケ「今なら、こちら側に引き込めないかしら?」

陳宮「無理なのです。月がまず、ねねたちに賛同しないですから」

 

 

用語解説

 

神蝶・バタフライゼクター

 某未来の世界から時間逆行で恋姫の世界までやってきた仮面ライダーの変身アイテム。本作では陳宮を装着者として認め、真・華蝶仮面として共に戦う。

 本来の名称はバタフライゼクター。通常は変身用のツールとセットになっているが、バタフライゼクターはツールが無くても単体で変身できる。その際、装着者の衣服をベースに外殻を形成するのが特徴。また人工知能を持ち、独自に活動することも出来る。

 決め技の際のコールが正規品と微妙に違うのは仕様です。あしからず。

 

 

真・華蝶仮面

 またの名を仮面軍師・陳宮、もしくは仮面ライダー神蝶。陳宮がバタフライゼクターによって変身した姿で、まさに蝶の化身。通常の仮面の上から蝶を象ったフェイスアーマーを装着するのが最大の特徴で、逆にこれが無いとパワーが十分の一まで低下してしまう。

 ZECT系列のシステムを継承(?)しているためクロックアップも可能。クロックアップとは装着者の周囲に存在するタキオン粒子を制御することで、超高速戦闘を可能にする機能のこと。一度の発動における時間制限こそあるものの、この能力によって事実上本作最強キャラの一人となっている。

 必殺技は「ちんきゅー・はいきっく」。陳宮が胸のバタフライゼクターに触れることで発動する。しかし本来、バタフライゼクターは【Three, Two, One…Rider Kick】とコールせねばならないが、名称が違うため【Chinnkyu High Kick】と言い直している。




短編集という形の今回。
やっぱり、何と言ってもメイド――ぶべらっ!
美姫 「一刀が職人の間では伝説扱いされていたり、新しい華蝶仮面が誕生したり」
かなり楽しめました。
こういう形のお話も良いな〜。
美姫 「確かにね。これからも、こんな形のパターンもあるみたいよ」
それは楽しみだ。
美姫 「次回も楽しみに待ってますね」
待ってます。



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