※本作は『真(チェンジ!)恋姫無双 ―孟徳秘龍伝―』の外伝であります。

※本作は『仮面ライダー電王』の二次創作でもあります。

※本作は『仮面ライダー夢王』の二次創作でもあります。

※ご了承いただいた上でお読み頂ければ幸いです。

 

                       

 

 果てしなく広がる大平原の中を真っ直ぐに走る列車がある。純白のボディに紅蓮のヘッド。一本だけ走るブルーのラインが颯爽と駆け抜ける印象を与えるデザインだ。

 しかしこの列車の頭上には電線が無い。プラグアンテナによる電力供給を受けずに走ることができるとなると、現代で一般に言う『電車』ではないことは確かだ。

 その客車では首を捻る面々が居た。

 注目するべきは、彼らの多くが人間の姿ではないということだろう。

「どういうこったよ、良太郎!?」

 声を荒げて立ち上がったのは赤鬼を髣髴とさせる怪人だ。顔が鬼さながらで頭に角があり、奇妙な模様の刻まれた真っ赤な体躯以外、普通の成人男性と背格好は変わらない。

 まあ、どうみても怪人だが。

「まあまあ、落ち着いてよ先輩。今暴れてもどうにもならないんだしさ」

 赤鬼を宥めるのは青の怪人だ。顔も含めて全身は青。どこと無く磯のかほりを漂わせる彼も、体の模様と顔が亀っぽい以外は標準的な体型だった。

「せやな。まず話を聞いてみんと」

 頷く巨漢は黄一色。衿周りには毛飾りがある。添えた右手で顎を鳴らしながらあくまで冷静だ。

「また敵? ならボクが倒すよ、答えは聞いてないっ!」

 巨漢の後ろでくるくると踊るのは紫の怪人だ。顔はどこと無く龍を抱負とさせるが、その言動は極めて少年的で幼い。背丈で言えば先述の赤鬼より拳半分ほど小さいぐらいか。

 暴れ出そうとする紫の怪人少年(?)を黄の大男(?)が取り押さえ、赤鬼と青亀の二人が改めて話を持ってきた本人に尋ねた。

「それで良太郎?」

「どういうことか説明してもらおうか」

 問いかけられたのは座席に座って、胸に歴史の教科書を抱えている青年だ。こちらは至って普通の人間で、どことなく頼りなさげだが笑顔の優しい美形だった。青年は彼らと知り合いなのか、怪人二人に顔を近付けられても特に気にした様子も無く持っていた教科書を開いて見せた。

「ここを見て欲しいんだ。モモタロス、ウラタロス」

 青年――――――野上良太郎は開いたページを指差す。この教科書は彼が学生の頃に使っていたもので、現代では一般に普及しているタイプだ。別に最先端の学術情報が満載だったり、某諜報機関が付け狙うような秘密があるわけではない。

 その中で。

 『中国・三国時代』の一文を指差され、赤鬼と青亀……モモタロスとウラタロスはその内容を読んでいった。

「どれどれ? 『192年、魏の曹操によって蜀と呉は倒されて、三国統一が行なわれた。曹操は劉備と孫策を従えて斬新な政策を行い、長きに渡って平和を維持した』―――――――なるほど、勉強になるぜ」

「先輩は一回良太郎に勉強を教えてもらったほうがいいと思うよ」

 賢くなった、と満足気なモモタロスをウラタロスは思い切りスリッパで叩き倒した。正しい世界の歴史について、最低限度の教養さえ持っていないグループのリーダー格に巨漢と怪人少年も呆れた様子だ。

「キンタロスとリュウタロスはどう思う?」

「そもそもや。曹操の遺影を見てみぃ、明らかに女になっとる。歴史はよう分からんが、曹操は男と決まっとるんや!」

「あ、ホントだ! 可愛いね!」

 世間一般の常識として、三国志に登場する曹操といえばどんな歴史書や物語でも男となっている。女にしているのはアンダーグラウンドな世界の二次創作物ぐらいなものだ。

 それが、こうして公の書物で堂々と書かれているとは一体どういうことか。

 巨漢・キンタロスと少年・リュウタロスも理由までは分からず首を傾げるばかり。

「みんな聞いて! 古代中国で歴史改変が……あれ?」

 そんなキャビンに飛び込んできた美女が「大変だ」とばかりに声を張り上げて、しかし五人の難しく考え込む様子に気勢を一気に削がれてしまったように立ち尽くした。

「あ、ハナさん。ちょうどその話をしてたんだ」

「そうなの!?」

 ハナと呼ばれた美女は驚いて思わず仰け反った。

 良太郎は鈍い。

 モモタロス他4人は基本的にバカだ。

 そんな面子が自分よりも早くこの異変を察知していたなど信じられなかったのである。

「それで、良太郎はどこでこの話を?」

「侑斗と姉さんと、テレビを見てたんだ」

 それはちょうど昨日のこと。

 良太郎と姉の愛理、そして戦友である桜井侑斗の三人で夕食後にテレビを見ていた時だった。ちょうど放送されていた中国の歴史特番を見ていたのだが、良太郎が一旦トイレの為に席を離れて戻ってくると……

『こちらが三国を統一した曹操のお墓です!』

 と、現地のリポーターが喋っているではないか。

 姉を侑斗に任せ、良太郎が自室においてあった歴史の教科書をめくってみれば記載されている内容がそっくり変わっていたのである。そのまま良太郎は事実確認の為に仲間であるモモタロスたちのところまで来たのだった。

「歴史が、変わっちゃったんだね」

「ええ。デンライナーで過去に行かないと」

 良太郎たちが乗るこの列車は時間移動が出来る特殊なものだ。これまでも時間を好き勝手に操ろうとする輩の野望を幾度も食い止めてきたのも彼らである。

「事態は急を要します」

 ハナの後ろから現れたのは壮年の男性だった。

 彼こそがこの時を駆ける列車、『デンライナー』のオーナーだ。彼は着込んだスーツの内ポケットから一枚のチケットを取り出すと、良太郎に手渡した。

 メカニカルなデザインのチケットには『019309.21.』と記されている。

「何者かの手によって歴史の路線が切り替えられてしまいました。早く元に戻さなければ時間の揺らぎによって、君の時間も消えてしまいます」

「はい……!」

 チケットを受け取る良太郎の目には明確な意志が表れていた。

 時の流れは誰にも止められない。

 もしその理に逆らって過去を変えてしまえば、未来が壊れてしまう。

 だから今日も野上良太郎は戦うのだ、時間の運行を護る為に!

 

 

 

時の列車、デンライナー……次の駅は過去か、未来か?

 

仮面ライダー呉・電王!

超古代クライマックスバトル!

 

 

 

 午後の執務を終えた周瑜が、会議の為に玉座の間へ赴いたのはつい先刻のことである。鬼の活動の活発化に伴って重要案件が山積みとなり、国防と治安維持に呉の国は奔走していた。周瑜としては、一刻も早く現状を打破する為にゆっくりしている時間は無いと考えており、寝食の間を惜しんで対策を議論する場を設けている。

 しかし、広間に入った周瑜はその場にがっくりと膝をついた。

 彼女の視線の先には玉座の前に胡坐を描いて陣取り、酒宴を繰り広げる我らが孫策と……

「また、珍妙な輩を拾ってきて――――――」

 白い体躯の怪人の姿があった。

 真っ向から斬り合っているならいざ知らず、どこぞの者とも分からぬ相手と酒を酌み交わしているとは。孫策の王としての器が計り知れないほど大きいことは知っているが、こればかりは諌めねばなるまい。

「あ、めーりんだー!」

「雪蓮! 貴女は何をしているか分かって―――――!」

「まあまあ、ちょっと座って」

 憤慨する周瑜に対して孫策はあっけらかんと笑って受け流し、逆に彼女を隣に座らせてしまった。

「…………雪蓮、説明してもらえるかしら?」

「えーと、彼はジークっていうの。ね、ジーク?」

 紹介されて『ジーク』と呼ばれた白い怪人は大仰な仕草で頷いてみせた。何でも孫策が朝、広間に来たら何食わぬ顔で玉座に陣取っていたのだという。本来はそれだけで斬首されかねないのだが、そこは孫策の悪い癖でこうして対談と相成った。

 伯符曰く、異人が珍しかったとのこと。

「気軽にプリンスで良い」

「ぷ、ぷり―――――それで、ジークとやらはここで何をしている?」

 周瑜に詰問されるとジークは手に持った茶を啜り、「やれやれ」といった態度で肩をすくめた。どうやら酒を飲んでいたのは孫策一人だけのようだ。

「この世界で起こっている異変から、我が母と兄弟を守る為に」

「ほう」

 その異変とは、と問いかけようとする周瑜の機先を制し、ジークの右腕がゆっくりと上がった。

 あくまで高貴な姿勢は崩さぬまま、白鳥を思わせる流麗な仕草で広間の入り口を指差す。ちょうど郊外の警備に出ていた兵の一人が息せき切って駆け込んできたところだった。

「で、伝令っ! 鬼が市街に出現、黄蓋隊が押さえに入っていますが数が多く―――――」

「ええい、またか!」

 周瑜が舌打ちする。

 このところ、およそ一日に一回の間隔で鬼達は街を襲っては物資を強奪していくのだ。人命よりも燃料や食料を優先している辺り、鬼達を使役している人間の存在が噂されているが今のところ確たる情報は無い。

「これで八回目……そろそろ終いにせねばのう」

「祭殿!? 鬼は――――」

「逃げられた。陽動と引き際の見切り、かなりの曲者が後ろにおるようだ」

 伝令兵の背後から現れたのは老将・黄蓋である。黄蓋は広間に入るや否や孫策の傍に居る珍客を見つけてにやりとほくそ笑んだ。すぐさま駆け寄ってきた妙齢の美女にジークは片手で礼を示し、黄蓋も気分を害した様子も無く軽く会釈して腰を下ろす。

「珍しい客じゃな、気品もあるようだしのう。儂は黄蓋という」

「我が名はジーク。して、鬼とはどのような」

 顔や居姿はともかく振る舞いから察するに高貴な家の生まれであろうジークが鬼に興味を示して、孫策が先程の会話を思い出して呟いた。

「恐らくジークの言う世界の異変が鬼のことだと思うわ」

「ふむ……そこのお手伝い、茶のおかわりを持て」

 周瑜に茶器を差し出してジークが命じる。孫策に促される形で茶器を持って立ち上がった周瑜だが肩が震えている。それでもここは抑えて貰わねばなるまい。何せ待ち望んでいた鬼に関する情報なのだから。

「聞かせてもらえるかしら、知っていることを」

「それについて語るのは―――――」

 外から何やらにぎやかな音楽と共に、兵たちの悲鳴と幾つもの歯車が動き回る音が聞こえてきた。現代で言うところの列車の発着音のようなメロディと、列車の走行音である。

 やがて警護の兵たちを押し切って、広間にぞろぞろと珍妙な一行が押し入ってきたではないか。

「――――――私ではない」

 一行の先頭を歩く女性とジークの視線がぶつかった。その女性と、彼女と並んで歩く青年の服装は明らかにこの国の庶民的な衣装と異なっている。その後ろに続く者たちもジークと似たような出で立ちだ。色取り取りに赤、青、黄、紫とそろっている。

「あのぅ、すみません」

 頼りない声色で代表の青年が孫策たちに話しかけてきた。

「お前たちは何者だ? ここが孫呉の都、建業の本城と知って踏み入ってきたのか?」

「すすすす、すみません……!」

 孫策の代わりに周瑜が凄んで問い返すと青年は瞬く間に縮み上がってしまった。相当に気の弱い男らしい。

「それで、この子達が答えてくれるのね。ジーク?」

「えっ?」

 その名前は知っているのか、青年の隣の女性が声を上げる。孫策の視線を辿った先で堂々と腰を据えて茶器を傾けるジークを見て、青年達は一様に目をまん丸に見開いた。

「なんでアンタが此処に居るのよ!?」

 怒鳴りつける女性に対して、ジークはあくまで穏やかなままに答えた。

「姫、久しぶり……しかし此処では慎むべきだ」

 孫策を優雅にかざした片手で示し、

「こちらはこの国の王である。礼節を以って接したまえ」

「ひえええええええええ!」

 青ざめた顔で青年が慌てて土下座する。彼の知る限り、将軍様に粗相した平民は斬り捨て御免のはずだった……

 

 

 

 とりあえず必死の謝罪と自己紹介を終えたところで上良太郎と名乗った青年と異人・モモタロスたちは、そのまま玉座の間で周瑜たちと共に簡単な会議に参加することになった。

 もちろん議題はこの珍客について、である。

「未来から、ねぇ」

 良太郎をしげしげと見つめて孫策が不思議そうに呟く。彼女達にとって1800年も先の時代からやってきた、などとそうそう信じられるものではない。

「しかし信じねばなるまい。彼らの存在は確かに現在の文化とはかけ離れている」

 そう言う周瑜も正直なところ、半信半疑だった。しかしモモタロスたち異人達を見る限り、普通の人間ではない。これはもう、未来から来た新しい人間だと考えるのが妥当だ。

「細けえことはいいじゃねえか! なあ良太郎!」

「う、うん……」

 良太郎の背中を叩きながらモモタロスが豪快に疑問を流してしまった。会話の流れさえぶった切る勢いに孫策が眉をひそめ―――――

「話が分かるわね、モモタロスだっけ?―――――モモでいいや。うだうだ考えるのは後回しにしましょ」

「おう! あれこれ気にするのは性にあわねえからな!」

「周りがうるさいと余計にね〜」

「そうなんだよなぁ……もっとこうズバッと行かねえと」

 何故かモモタロスと意気投合してしまった。元々気性が荒く大雑把な孫策である。似たような性格のモモタロスとは馬が合うのだろう。おまけに互いの愛剣を取り出し、振り回しながら歌い始める始末。

 そんな二人を周瑜とウラタロスが羽交い絞めで取り押さえる。

「やれやれ……先輩はすぐこうなんだから」

「お互い苦労する相方を持ったな」

「まったくです。けれどこんな美しい女性が傍に居る貴女は充分幸せですよ、周瑜さん?」

「ウラタロス。貴公の不遇に同情する」

 軽く視線を交わす程度の会話だったが、こちらはこちらで何やら共感するものがあったのだろうか。「何しやがる、この亀!」「ぶーぶー! 横暴よー!」という文句はもちろん一文字たりとも聞き入られない。

 ともかく騒ぎは収まり、改めて孫策が尋ねた。

「貴方達の目的は何かしら? 鬼について何か知っている?」

「じゃあ、まず一つ目の質問から」

 ハナや良太郎よりも早くウラタロスが答えた。普段はあまりやる気を見せない彼だが、今回は美女が多いせいか非常に積極的である。余談だが、彼は普段から女の子と遊びまわっている優男だ。

 ちなみにモモタロスは良太郎たちの後ろに縄で縛られて転がっている。キンタロスは熟睡状態で、リュウタロスに至ってはどこか遊びに出かけてしまった。

「簡単に言えばこの時代に起こるはずのない事件が起こったことで未来が変わってしまった。このままだと今ある未来の世界は消えてしまう。僕たちはそれを阻止する為に来たってわけ」

 ウラタロスはすぐに事件の核心から切り出した。すでに孫策や周瑜の眼は鋭い光を放っており、王を名乗る孫策のこの態度に嘘や誤魔化しが通用しないとウラタロスは判断したのだ。

 彼の言葉を引き継いで、良太郎が真剣な眼差しで語る。

「この世界は僕たちのとっての過去。過去が変われば未来も変わる」

「―――――未来が変われば世界が変わる、ということだな」

「そうなんです。僕たちの未来はこのままだと、消滅してしまうかもしれない。僕の家族や、大切な人達が」

 時の流れが切り替われば、変わる前の流れの先に存在したもの全てが消滅しかねない。それほどまでに古代中国における歴史の改変は巨大な影響力を持っていた。

「なるほどのう。理屈は良く分からんが、つまりこのまま鬼が跋扈しているとお前たちの家族や仲間が危ういんじゃな?」

「はい。たぶん、ですけど……その鬼が原因だと思います」

 要約した黄蓋の言葉に良太郎とハナが頷いた。

 事はこの呉の国のみではない。

 この歴史の先に生きる多くの人々の存亡も掛かっているのだ。

「とりあえず食事にしましょ? さっきからお腹すいちゃって」

 そんな真面目な空気の中で孫策が屈託のない笑顔で言った。なにより先程から孫策とモモタロスの腹の虫が鳴りっ放しなのである。これにはハナや周瑜も呆れて溜息をつくしかなかった。

 やがて広間に運び込まれてきた大量の料理を前にさっそくモモタロスと孫策が飛びついた。並んで食事をむさぼる姿は双子さながらに違和感が無い。確かに香辛料の香りが食欲をそそり、良太郎も手近な料理を小皿にとって食べ始めた。

 一方のハナは半分寝ぼけたままのキンタロスがぼろぼろと料理を零すので、その対処と説教に追われていた。このところ二人が一緒に居ることが多いな、と思いつつもウラタロスは黄蓋の差し出してきたスッポンを前に懊悩するばかり。はたしてこれは共食いになるのだろうか。

 そこへ、賑やかで派手な音楽と共にリュウタロスが帰ってきた。しかも桃色の髪を二つ輪に結わえた少女と共にグルグル舞いながら、である。

「ボクたちも食べるけどイイよね!?」

「でも答えは聞いてないんだから!」

 現代で言うところのブレイクダンスを二人で踊りながら料理の山に突撃する。

「リュウタ!?」

「シャオ!?」

 キンタロスと孫策が驚く間も料理の争奪戦が勃発。箸と箸が凌ぎあう激闘に発展し、

「「「「あいだっ!?」」」」

 周瑜の鞭に叩き落されて別室に連行される四人。モモタロスたちも含めて彼女に任せておけば大丈夫だろう。そんなことを考えながら、黄蓋に口いっぱいに肉を詰め込まれた良太郎は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

「良太郎」

 頭が重い。

「起きんかい」

 というよりもお腹が重い。

「良太郎!」

「キ、キンタロス!?」

 叩き起こされた良太郎が体を起こすとそこは真っ暗な広間だった。どうやら宴はいつの間にやら終わってしまったらしい。片付けもそぞろに他の面子は床に寝転がっている。

 ハナたちに毛布をかけてから、不意に気付いた。

「あれ……周瑜さんが、いない?」

「リュウタもな」

 そういえば他の部屋に説教に連れて行かれたことを思い出し、良太郎はおぼろげな記憶を頼りに彼女の辿った後を追っていく。キンタロスもそれに続いて着いた部屋に入ると、そこには寝台に腰掛ける周瑜の姿があった。

「すみません、リュウタロス見ませんでした?」

「紫の奴やけども……」

 尋ねられて周瑜が「ああ」と視線で自分の膝元を示す。

「あ」

「むぅ」

 リュウタロスは周瑜の膝枕ですっかり眠り耽っていた。時折寝言で「おねえちゃん」と呟いている。

「最初は派手さに驚かされたが、単に寂しかっただけなのだろうな」

 その龍を象った刺々しい額を撫でながら周瑜は優しい口調で言った。彼女の膝で眠るリュウタロスもどこか安らいでいる様子で、声をかけようとする良太郎をキンタロスが後ろへ引っ張った。

「キンタロス……?」

「すまん、周瑜。今夜はこのままにしてもらえんやろか」

「め、迷惑だよ」

 良太郎の反応はもっともだ。

 初対面の男(正確には少年だが)を同じ寝室で寝かせてもらおうなど、普通ならば断られて当然のことである。

「構わないさ」

「え?」

「こんなに楽しかった時間は久しぶりだ。私も皆も、鬼との戦いでこういう気分は随分遠ざかっていたからな」

 鬼がどれほどの敵なのかは分からないが、普通の人間にとっては恐ろしい脅威に違いない。いつ襲われるか、昼も夜もその恐怖に晒されていては宴会も何も楽しめるはずがなかった。

「だから、これぐらいはさせてもらえないか?」

「……分かりました」

 良太郎が頷く。

 新たな決意を乗せて。

「明日から、僕たちも戦います」

 

 

 

 

 

 

 翌朝、日の出と共に建業の一日は始まる。

 いち早く仕入れた食材を並べようと商人達が行き交い、程なくそれらの品を求めて多くの料理人達が訪れる。鬼の脅威があろうと日々の営みを中断することは出来ず、しかし日を追う毎に商人の数は減っていた。

 店を壊されて居場所を無くした者。

 命惜しさに街を離れた者。

 安全な仕入先を求めて旅立った者。

 衰え始めた経済を立て直すには不穏をもたらす存在――――――鬼を排除しなければならない。少なくとも、鬼に対して国家の防衛機能が有効であることを証明する必要がある。

 その一環として市井の巡回が呉の国の将たちには義務付けられている。王である孫策も例外はなく――――むしろ率先して―――――日頃から市場の様子を見に来ていた。

 しかし普段と違うのは、あからさまに目立つ異邦人の姿が隣にあるからだろう。できることから始めよう、と良太郎はモモタロスと共に巡回に赴く孫策に同行を申し出たのだ。

「悪いわね、付き合ってもらっちゃって」

「今の僕たちにできることって、これぐらいしかないですから」

「そういうこった。良太郎、しっかり見回りすんだぞ!」

 庶民用の麻の服を着込んだモモタロスが良太郎の肩を叩く。姿勢を崩しながら頷く青年に孫策は怪訝顔だ。

「大丈夫? 鬼と戦うとか昨日冥琳に言ってたみたいだけど」

 彼女の不安はもっともだ。

 初対面から貧弱、臆病と情けない姿しか見ていなければ仕方のないことだろう。

「モモの方がよっぽど頼りになるんじゃない?」

「そんなこたぁねえよ」

 そんな孫策の言葉を他ならぬモモタロスが否定した。歩きながら市場を見回し、立ち寄った果物屋で買った桃を齧りながらモモタロスはあくまで真剣な声で言う。

「確かに良太郎はへなちょこだ。体力はねえしへっぴり腰だし、ドジだし、オマケに運も悪りぃしな」

 出てくる言葉は到底、好印象を与えるものではない。

 では何が違うというのか。

 言いかけた孫策に向かってモモタロスがびしり、と人差し指を突きつけた。

「けどよ、コイツには誰にも負けねえモンが一つだけある」

 二人の会話を遮ったのは少女と思しき甲高い悲鳴だった。声の先は市場の奥、無数の屋台の向こう側からのようだ。他にも何かが暴れているような騒音も聞こえてくる。

 これらが何を意味するのか―――――孫策とモモタロスが理解するよりも早く、

「りょ、良太郎!?」

「待てよオイ!」

 走り出したのは良太郎だ。人ごみを掻き分け、屋台の隙間を潜り抜けて助けを求める声の主を探して走り続ける。

 生まれついての不幸体質のせいか、屋台の柱に頭をぶつけた。木箱に足を引っ掛けて盛大に転んだ。おまけに馬車にはねられそうにもなった。

 それでも彼の足は止まらない。

「はぁっ! はぁ……はぁ……」

 息はとっくに上がっている。しかし良太郎は間違いなく事件の現場に辿り着いていた。

 彼の視界に飛び込んできたのは全長二メートルはあるだろう異形の化け物。真っ黒な肌に頭から突き出た角は太く、その眼は爛々と凶暴に輝いている。

 そして鬼の腕の延びる先には、逃げ遅れた女の子を庇う桃色の髪の少女―――――確か『シャオ』と呼ばれていた―――――の姿があった。

「シャオちゃん!」

 鬼の爪が抉るよりも早く、良太郎が二人を抱えて跳んだ。間一髪のところで難を逃れたが、良太郎は着地に失敗して地面を転がった。『シャオ』たちを放り出してしまわなかったのは不幸中の幸いだろう。

「け、怪我はない……?」

「え、と……リョウタロウ、だっけ。今シャオの名前―――――」

「いいから逃げて! 早く!」

 何か言おうとする『シャオ』を立たせ、女の子と一緒に走らせる。しかし周りの大人たちはそんな状況など知る由もなく、我先に安全な場所を求めるばかりだ。

「お、鬼だっ!」

「逃げるんだ、急げ!」

「どこに逃げるって!? どこに行ったって変わるものかよ!」

 足掻いても特に武芸を体得していない人の身では、魔の存在を打ち倒すことは出来ない。出来る事は踵を返して走ることだけだ。仕方がないとはいえ、この子供は『シャオ』に任せるしかないだろう。

 そんな大の男達が我先に逃げ出す中を逆走する影が二つ。

「良太郎! また無茶しやがってコノヤロウ!」

「ご、ごめん」

 駆けつけてきたモモタロスに頭を叩かれて寝転がったままの良太郎がしゅんと謝る。だが結果として彼の行動によって二人の少女は窮地を脱したのだ。

「良太郎、貴方……」

「話は、後で―――――孫策さん」

 立ち上がった良太郎にもう息も絶え絶えの弱々しい様子はない。あるのは大切なものを破壊しようとする目の前の脅威に、真っ向から立ち向かう意志だけだ。

「行くよ、モモタロス」

「よっしゃあ!」

 良太郎が呼ぶと、モモタロスの体が赤いオーラと化して良太郎の中へ入り込んでしまった。

 これがモモタロスたち『イマジン』の特性である。

 『イマジン』は未来の世界から肉体を捨て、精神体のみとなって時間を逆行してきた存在だ。彼らは人間に取り付き、契約を交わし、その代償として契約者の過去を奪う。

 分かりやすく言ってしまえば、契約した人間の記憶を辿って過去へ飛んでその時間を破壊し尽くす。

 多くのイマジンが使命として破壊活動を行うのに対してモモタロスたちは違った。彼らはイマジンとしての使命よりも己の生き方を優先し、良太郎と共存することを選んだ。

 そして生まれたのが、時を護る『電王』の力。

「また俺が悪役になっちまうじゃねえか……大人しく退治されやがれ!」

 良太郎がいかつい目つきで鬼を睨む。

 モモタロスが憑依した良太郎の髪は逆立ち、前髪に赤いメッシュが入っている。また瞳には燃える様な赤い色が宿り、その全身はアグレッシヴなエネルギーに満ち溢れていた。

 イマジンは憑依した人間を強化し、操ることが出来る。もっとも良太郎は特殊な体質の持ち主で、この憑依を跳ね返すことが可能だが。

 したがって今の二人は憑依、というよりも合体と言うべきか。

「変身!」

SWORD FORM

 良太郎が腰に巻いたメタリックなベルトのバックルへ黒いパスケースを叩きつけるようにかざすと人工音声が流れ、同時に彼の全身を銀色の仮面とスーツが覆ったではないか。続けて現れる深紅の装甲を身に纏い、桃の形をしたフェイスガードが顔に装着されて、眼の様に二つに割れた。

 これぞ野上良太郎が変身する、時の運行を護る仮面ライダー電王の一形態。剣の扱いを得意とするモモタロスを取り込んだ、『ソードフォーム』である。電王は仲間である各イマジンが憑依した状態で変身することで四つの形態を取ることが出来る。その際に肉体の主導権はそのイマジンに移るのだ。

 悠々とモモタロス―――――赤の電王は右手の親指で誇示するように自身を指し示し、

「俺、三国時代に参上!」

 素早く大きく広げた左手を突き出し、まるで歌舞伎の見得きりのようなポーズを決めて見せた。これを敵対の意思表示と見たのか、鬼が電王に対して身構える。

(この国の人たちを護るんだ!)

「おう! 任せときな良太郎!」

 腰のアタッチメントツール『デンガッシャー』を繋ぎ合わせ、愛用のソードモードに変形させて肩に担ぐと、電王も腰を落としながら戦いの開始に備える。

「いいか、鬼野郎? 俺にマエフリはねえ……最初から最後までクライマックスだ!」

 見合うのも僅か数秒、先に動いたのは啖呵を切ったモモタロスだった。

「行くぜ行くぜ行くぜぇっ!」

 鬼に真っ向から突撃し、電王が全力疾走からの斬撃を見舞う。腕を、胴を切りつけるたびにデンガッシャーの刃から派手に火花が散った。

 しかしこの怒涛の攻撃も鬼には効果がなかったようで、受けた傷を特に気にする様子もなく反撃に転じたのだ。斬られた部位も見る見るうちに再生していく。

(そんな!?)

「ひ、卑怯だぞ〜〜〜〜〜っ!」

 爪が電王の装甲を叩き、吹き飛ばす。

「ちくしょう、治っちまうんじゃあどうにもならねえ!」

「でも、隙は出来たわ」

 うろたえる電王に声をかけたのは孫策だ。いつの間にか鬼の背後へ回りこんだ彼女は愛剣を振り下ろし、鬼の頭部を粉砕した。

「鬼の弱点は頭なのよ。それ以外はいくら斬ってもすぐ治っちゃう、ってわけ」

(なるほど)

「分かりやすい弱点だな、おい」

 立ち上がった電王はやれやれ、といった様子で頭を振った。化け物の弱点といえば非常にわかりにくい場所にあったりする物なのだが、モモタロスと良太郎は難しく考えることを止めた。

 隣で揚々と剣を構える孫策と視線を交わす。改めて前を見据えればどこからともなく沸いてきた鬼が二匹、三匹と電王と孫策を取り囲みつつあった。

「やっぱり、まだ居たわね」

「いつもこんなに出るのかよ」

「前はそうでもなかったんだけど、ね」

 以前の出始めた頃に比べ、此処最近の鬼は必ず集団で行動している。何匹から倒されても、奪取した物資を確実に自分達の巣に持ち帰ることができる様に、というのが周瑜たち呉の軍師の見解だ。

 事実、奪った物資を持って逃げる鬼と、残って呉軍を迎え撃つ鬼の二手に分かれて行動している様子を幾度も確認していた。

 今も、自分達を倒すほどの強敵に対して複数で戦おうと戦力を集めている。

「いつの間に賢くなったのやら……こっちはいい迷惑よ」

「だったら、一気に片付けてやらぁ!」

 不意に電王が取り出したのは黒いパスケース。変身する為のキーアイテムであるこのケースを、モモタロスはベルトのバックルにかざした。

Full Charge

 ベルトから流れる音声と共に、手に持つデンガッシャー・ソードに膨大なエネルギーが注ぎ込まれていく。変身した状態でパスケースをもう一度バックルにかざすことで、電王は持ちうる最大限の力を一瞬に凝縮するのだ。

「俺の、俺の必殺技……Part 2!」

 デンガッシャーから射出された赤い刀身が、グリップを振るう電王の動きに併せて縦横無尽に鬼達を屠っていく。叩き切られた鬼は悉く爆散して跡形も残らなかった。

「ざっとこんなモンだ」

「一緒に私も斬る気だったのかしら?」

 とっさに伏せていなければ、孫策も危うく斬られてしまうところだったが。

「まあいいや。鬼は撃退できたし」

 それに、と孫策がほくそ笑んで電王の肩を叩いた。

「今度、私にもやらせてよ。これ」

 

 

 

 

 

 

「全滅……だ、と!?」

「あらん、珍しいわねん」

 洞窟の奥底から響く醜悪な男の声と裏返り気味な野太い声はまさしくこの世に存在する究極の髣髴とさせた―――――かもしれない。少なくともヤマビコとなった二人の声は周辺の集落に恐怖と混乱を与えていた。

 椅子代わりの平たい岩の上で胡坐を掻き、唸る男は首をかしげた。

(俺の与えた戦術が破られたというのか)

 この超古代では現代戦のノウハウは最先端を通り越した神の叡智であり、それを現地人が打破することは―――――自惚れながら―――――無いと確信していた。

 鳴滝なる人物より借り受けた『鬼』は個体の能力において人間を遥かに凌駕し、高度な自律思考を持たないにも拘らず主人からのを命令を忠実に実行できるだけの理解力を持っていた。充分な頭数を揃え、彼の言う『戦術』を行使した鬼達は最強の軍隊と化して向かう敵を悉く打ち破っている。

 呉軍など恐れるものではない。それほどの力を持って男の願うことはただ一つだ。

「まあいい……そろそろ動く頃合だな」

「そうね。石炭も食料も充分確保できたし」

「これで俺の作戦……『恋姫の熟女を全部ゲットしちゃうもんね』作戦を開始できるぜ!」

 ほくそ笑み、男はかねてより考えていた大作戦を実行する決意を固めていた。その計画の何と邪なことか。少なくとも日曜日の朝8時から全国の子供たちに向けて放映できるレベルではない。
 そこへ鬼たちが声をかけてきた。どうやら彼の立案した作戦が気に食わないらしい。

「なんて言ってるんだ? パー子、通訳してくれ」

「はいはい……うんうん……あらん、そうなのぉ」

「それで?」

「この子達が言うには、『襲うなら若い娘がいい』ですって」

 さすが鬼である。言う事が極悪極まりない。

 対して男は肩を激しく震わせ、激昂した。怒りのままに男は手に持った棍棒を振り回し、鬼達をしかりつける。

「バッキャロウ!」

『ウガガ!?』

「ピッチピチの恋姫ちゃんは十年、いや二十年後には必ずダイヤモンド級の熟女になる! 必ず、か・な・ら・ず! ダイヤモンド級の熟女になる! 大事なことだから二回言ったぞ!? それを芽のうちから摘み取ることはこの桜坂柳也が許さんッッッ!」

 己の正義の為、若い蕾は開花の時まで護るべきである。それが彼、桜坂柳也の信条であった。

 それに対して鬼はなおも抗弁する。

『ウガ、ウガガガ、ウガウガー』

「なに? 若い乙女の柔肌が一番だ? 三十路過ぎは乾いててマズイ?」

『ウガ!』

 なんと己の欲求に忠実な鬼だろうか。

 しかし、桜坂柳也はさらに怒りを爆発させた!

「オタンチン!」

『ウガッ!?』

「いいかクソッタレども! 熟女の尻は、胸は……肌は! 熟れきって食べごろの果実なんだぞ! それをマズイたぁどういう了見――――ん、まてパー子! 俺の正義の怒りはまだ―――――」

「はいはい、時間ないんだからさくさくいくわよー」

 

 

 『しばらくお待ちください』byチェン恋製作委員会

 

 

 

 

 

 その後も巡回を続けた孫策と良太郎、モモタロスが城に戻ったのはすっかり夕暮れになってからだった。門をくぐり、出迎えに来たウラタロスと周瑜が何やら慌てた様子で良太郎に駆け寄ってくる。

「みんな……どうしたの?」

「どうしたもこうしたもないよ、良太郎」

 真っ先に口を開いたのはウラタロスだった。

「街中でいきなり孫策さんの妹を口説いたんだって? まさか良太郎がそんなに大胆だったとは知らなかったけど、ちょっと強引過ぎるね」

「え、ええ?」

 話の脈絡が全くつかめない良太郎の両肩を、周瑜ががっしりと掴んだ。

「今回の経緯については色々と憤懣やるかたないが、選ばれた以上は仕方あるまい。小蓮様は天真爛漫に見えて非常に繊細だ。くれぐれもよろしく頼むぞ」

「ええええええええええええええ!?」

 ますます混乱する良太郎の隣で、「やっぱり」と呟く孫策。心当たりのあるらしい彼女にモモタロスが詰め寄った。

「どうなってるんだよ、おい!? どうして良太郎があのチビッコとそういう話なんかになるんだよ!」

「うーん、なんていうか、仕来たりみたいなモノなんだけど」

 どうやら深い事情があるらしく、首を捻りながら孫策は神妙な表情で説明を始めた。

「私たちの名前は家柄を示す姓、個人を示す名、その人物のありようを示す字の三つの他に真名というものがあるの」

「ま、まな……?」

「そう、真名。その人物が生涯において『信に足る』と認めた相手にしか呼ぶことを赦さない、神聖な名前よ。認められた人間以外は例え知っていても使ってはいけないほど、ね」

 これがこの世界の文化である。もちろん現代に伝わる歴史の中で当時の中華大陸でこういった氏名制度が存在していた記述は無い。これも『改変された歴史』である証拠なのだろう。

 ともかく孫策曰く、良太郎の求愛疑惑とこの真名が密接なかかわりがあるらしい。

「信に足る、ってことは……」

「例えば、そうね。家族とか、親友とか、主君とか―――――恋人とかね」

 孫策のトドメの一言で良太郎の全身がビシリと固まった。自分がいつ何処でそんな大それた事をしてしまったのか、気付いたのだ。

 先刻、鬼から女の子達を庇った時。

「ももももももも、もしかして、あの、『シャオ』ちゃんっていうのは」

 ガクガクと震えながら言葉を絞り出す良太郎に横から桃色の髪の少女……孫尚香が飛びついてきた。そのままおんぶの態勢で抱きつき、ご機嫌な様子で彼女は高らかに宣言した。

「そうだよ、私の真名は小蓮(シャオレン)っていうの。よろしくね、良太郎!」

 そこへさらにリュウタロスが完全に停止した良太郎の顔を突っついた。

「あれ? 良太郎動かないね」

「えへへ、きっとシャオの愛に喜んでるんだよ」

「良太郎ってシャオが好きになったの?」

「っていうか、シャオが好きになったの! だから良太郎にも好きになってもらうんだから!」

 良太郎の背中で孫尚香が凄まじい持論を展開する。もうこうなっては止められない、と孫策も周瑜も呆れた様子で彼女を制止する素振りはない。

「そっか、がんばってね良太郎!」

「応援してどうすんだ、小僧!」

 そこで納得して応援の言葉を投げかけるリュウタロスの頭をモモタロスがはたき倒した。

「何すんのさ!」

「いきなり「良太郎大好き!」って言われてコイツが納得できるかってんだ!」

「まあ、確かにその真名をうっかり呼んでしまったから、って言うにはちょっと本気すぎるね。良かったら聞かせてもらえないかな?」

 憤るモモタロスを後ろに追いやって、ウラタロスが孫尚香に尋ねた。

「もちろん理由はあるよ」

 対して薄い胸を張って知る人ぞ知る弓腰姫は自慢げに語り始めた。

「私のもう一人のお姉ちゃんがね……今は出かけてて居ないんだけど、隣の国の武将に惚れ込んじゃってるんだ。その切っ掛けがすごくカッコイイの! 戦いの真っ只中であわやって所でね、その相手の人が颯爽と駆けつけて助けてくれたんだって! それで思ったの、シャオも恋をするならそうやってシャオを助けてくれる人がいいなって」

 そこまで孫尚香が語ったところで、一同は未だに固まったままの良太郎を見る。

 

 

 

 ちなみにその頃、話題に上がった姉はというと……

「くちゅん!」

「だ、大丈夫か、蓮華?」

「え、ええ。風邪ではないと思うけど」

 想い人である天将軍と共に魏の市街を散策中だった。

 

 

 

 閑話休題。しばしの沈黙が流れ、納得したらしいモモタロスが溜息をつきながら言った。

「……なら勝手にしな。ただし!」

「ふぇ!?」

「良太郎も含めて俺たちは、いずれ元の世界に帰らなきゃならねえ。それだけは憶えとけよ」

「――――――うん」

 それは必ず訪れる運命であり、別れの結末は必然だ。良太郎たちはこの時代の、この世界の住人ではないのだから。歴史の改変を阻止する立場にある以上、万一にも孫尚香を未来の世界へ連れて行くわけにもいかない。逆に良太郎が残ることもできない。

 だから、覚悟だけはしなければ。

「オホン!……ま、まあなんだ、この調子じゃあしばらくは帰れねえだろうが」

 今しがたの台詞を誤魔化すようにモモタロスがわざとらしく咳き込んで、こんなことを付け加えたのは彼なりの優しさなのだろう。

 そこへハナとキンタロスが黄蓋と共に街から戻ってきたのだろう、門をくぐって来た。キンタロスの両肩には近くの山林で狩猟してきたと思しき巨大魚や猪がある。見れば三人とも髪はぼさぼさ、服もあちこち破けていた。

 もっとも、精根尽き果てているのはハナだけだったが。

「あん? クマ、どうしたんだよ、それ」

「良太郎が街で大活躍やったと聞いてな。今夜は豪勢にやらんとアカンやろ?」

「鬼に対して快勝など久しかったからのう。儂も手伝わせてもらったぞ」

「………………しぬかと、おもった」

 ガッハッハ、と快活に笑うキンタロスと黄蓋の後ろで、山菜を一杯に詰めた皮袋を放り出してハナがばったりと倒れこんでしまった。無茶で通るキンタロスと猛将・黄蓋の珍道中に付き合ったのなら、こうなってしまうのも仕方ないだろう。

 かくして記念すべき快勝を祝して二日目の夜も宴が執り行われることとなった。黄蓋や孫策は「今日も宴だ、酒が飲めるぞー」と上機嫌で、モモタロスやキンタロスと共に老酒の瓶を抱えて大騒ぎだ。一方の孫尚香も良太郎にぴったりとくっついて離れず、それを面白がったリュウタロスにからかわれていた。

 そんな乱痴気騒ぎの玉座の間で、一段高い場所から杯を傾けるジークが乾杯の音頭を取る。

「今日は我が家臣の戦果と我が友、孫伯符の活躍を祝して」

「だから、なんでジークが一番上!?」

「よいではないか、姫。今はこの時を楽しもうではないか」

 納得のいかないハナにジークがやんわりと諭すように語り掛ける。もともとジークと良太郎たちの付き合いは長いが、その立場はあくまで対等のものである。ジーク曰く『主と家臣』の関係となっているが、互いに助けて助けられての間柄だ。

 にも拘らず、ジークは『主』としての振る舞いを変えようとはしない。ハナもそれが口先だけのものではないということを知っているだけに、本気で怒れないのが歯痒いところなのだが。

「では、乾杯」

 ともかく、ジークの音頭で皆が杯を鳴らして酒、あるいは茶を飲み干した。

 そこからはもう他人行儀抜きの無礼講である。出会って二日しか経っていない相手とここまで打ち解けられるのも、孫策たち孫呉の器の大きさか。

「それでぇ、良太郎はそこんとこどうなのよぉ!」

「そ、孫策さん!?」

 孫尚香と料理をつまんでいた良太郎の肩を孫策が掴んで揺さぶってきた。大きく前後に振り回される良太郎の頭を今度は孫尚香ががっちりと掴んで、姉から護るように抱きかかえる。

「良太郎に何するの!?」

「ほら、意思確認って奴。もしかしたら私の義弟になるかもしれないんだし」

「シャ、シャオちゃん……ぐ、ぐるしい」

 孫尚香の腕がいい具合に極まっているのか、良太郎の顔色がどんどん青くなっていく。気付いた二人が慌てて放さなければ彼の物語は此処で終わっていただろう。

 そのまま倒れ伏した良太郎はすっかり参ってしまっていた。今しがたのダメージもさることながら、孫尚香の求愛によるプレッシャーで精神的に限界を迎えてしまった。

「おいおい、良太郎。そんな調子で大丈夫かよ」

「うう……頭が、グラグラする」

「だらしねえなぁ。おいチビッコ、膝貸してやってくれ」

「え?」

 モモタロスの言葉の意味を良太郎が理解する前に、

「シャオ、チビじゃないもん!」

「チビはチビじゃねえか」

「むっきー!」

 彼の目の前で二人の大バトルが始まっていた。体格差の不利もなんのその、モモタロスの脇腹を蹴飛ばした孫尚香がちゃっかり良太郎の頭を自分の膝に乗せて、あっという間に決着は着いてしまったが。

 そんな時だった。

 広間の扉が突然開け放たれ――――否、突き破られたのは。

 踏み込んでくるのは醜悪な形相を引っさげた鬼達で、外を見やれば次々に地中から湧き出ている。遠くから聞こえる阿鼻叫喚が既に街も襲われていることを示していた。

 何より、鬼の一匹が担いでいる人影が孫策たちから冷静さを奪い去った。

「冥琳!?」

 飛び出そうとする孫策をキンタロスと黄蓋が押さえる。

「待たんかい! ここで戦っても周瑜を盾にされてまうだけや!」

「如何にも、今は機を待つ他あるまい」

「―――――――ふざけるなぁっ!」

 彼女の全身から噴き上がる闘気が暴風と化し、黄蓋たちが弾き飛ばされる。自由になった体で鬼達へ突撃しようとする孫策だが、すでに今の遣り取りの間に鬼達は退却を始めていた。

 目的は達した。そういうことなのだろう。

「おのれ……っ!」

 盟友・周瑜を奪われた以上は黙っているつもりは無い。地の果てまで追いかけてでも取り戻さなければならない。一切迷う間もなく駆け出す孫策の前に、赤鬼が立ちはだかった。

「邪魔をするな」

「別にそんなつもりはねえよ」

「ならば、どけ」

 今の孫策はまさに触れるもの全てを斬り捨てる刀身そのものだ。

 しかし、モモタロスは動こうとはしなかった。

「どけと、言っている!」

「……手伝ってやる」

「?」

「良太郎はまだ参っちまったままだしな。手伝ってやるって言ってるんだよ」

 

 

 

 

 

 

 洞窟の最奥部、鬼達の巣に築かれた玉座で桜坂柳也は最高の戦果に酔いしれていた。美周郎で有名な名軍師、周瑜を手に入れてきた鬼達に酒と肉を与え、自身も相棒と共に老酒を注いだ杯を傾ける。

「いやぁ、最高だな! しっかり教育した甲斐があったぜ。……よーしよしよしよし」

 徹底的に熟女の魅力を叩き込んだおかげだろう、鬼の一団は命令通りに目についた最高の美女(やや若い点に不満が残るが)を誘拐してきた。思えばここまで彼らを育てるのにどれほど苦労したことか。

 不殺を説いて無闇に人命を奪うことを禁止するだけでも相当な労力を必要とした。もっとも、熟女の何たるかを説明することに比べれば楽なものだが。

「なぜ鬼達に殺させない、桜坂柳也」

「ん? 鳴滝か」

 光の銀幕が柳也の背後に揺らめき、現れたのは中年の男……鳴滝だった。

「彼女達にはっきりと恐怖を与えなければ懐柔しにくくなる」

「やれやれ……アンタ、ハーツアンドマインズって知ってるか? 人心獲得作戦とも言うが、武力ではなく人望を以って現地住民を味方に引き入れる戦術さ。力で押さえつけるんじゃなく、協力的な姿勢を提示することで相手を信用させる」

「何が、言いたい」

 こめかみを震えさせながら鳴滝が問う。

「今時、『俺は強いから嫁になれ!』なんて流行らないってこと。ましてや、人殺しを斡旋するような輩じゃあ、乙女の心は動かんさ。なあ、周瑜さん?」

 話を振られた俯いたままの周瑜がコクリと頷いた。無抵抗の意思を表示していたこともあって彼女は縄などで拘束されていなかった。柳也自身がそういった行為を嫌うことも理由にあるが、普通に走ったところでこの狭い洞窟で鬼から逃れられるわけがない、というのが本音だ。

 周瑜にまで同意されては鳴滝も二の句が次げないのか、開いた口が塞がらない様子だ。その顔は怒りで真っ赤に染まっている。

 そして顔を伏せていた周瑜がゆっくりと顔を上げて、悠々と告げた。

「いずれにせよ、女の子はウソを並べ立てるだけの相手には心は開かない。騙すにしても、それと別に本心だけは見せてあげなきゃ」

「!?」

 鳴滝の、なにより柳也の両眼が驚愕に見開いた。彼は事前に何度も呉の将たちを入念に調査し、その戦力を正確に把握していた。もちろん彼女達が普段どういった言動をするのかまで、その情報は仔細に渡る。

 少なくとも彼の知る限り、周公謹がこんな口調で喋るはずがない。

 腰まで届く美髪を掻き揚げ、ずれた眼鏡の位置を直す彼女の長い前髪には一束の青色が入っている。その瞳は澄んだ海のように蒼く、口元に浮かぶ微笑は酷薄だ。

「まさか、イマジンが憑依していたのか!?」

「攫われるところを偶然見ちゃってね……ホントは女の子に憑依するのは主義じゃないんだけど。それに先輩達も誰も気付かないんだもんなぁ」

 自慢げに語る周瑜――――もといイマジンの中で、ようやく意識を取り戻した周瑜本人が苦情を訴えた。

(ウラタロス、貴様――――――!)

「まあまあ、一宿一飯の礼ってことで」

(そうではなくてだな、第一……まあいい、ここから脱出する算段はあるのだろうな?)

「もちろん」

 言うや否や、ウラタロスはどこからともなく掌に収まるほどの黒い薄型の箱―――――ライダーパスを取り出した。次いで腰には銀色のベルトが現れ、それをしっかりと装着する。

「馬鹿な! ライダーパスは野上良太郎だけが保持していたはずだ!」

「その認識は甘いね。ライダーパスはデンライナーの備品、予備だって用意してあるのさ」

「ヒーローの変身アイテムなんだぞ!? そんな、そんな夢をぶち壊すようなこと言うんじゃねえ!」

「夢は所詮、幻さ。だからこそ嘘偽りの裏にある真実を追い求めたくなるんだ」

 ブーイングを繰り返す桜坂柳也にウラタロスはぴしゃりと言い放ち、ライダーパスをバックルへかざそうと腕を振って……

「うわっ!?」

 入り口からの爆発音に思わずバランスを崩してしまった。柳也や鳴滝も尻餅をつきながら「何事か」と入り口の方へ視線を向ける。

 天井から砂塵があちこちに降り注ぐ中、落雷の如く轟いたのはバイクのエンジン音だ。岩肌を跳ね回りながら猛スピードで柳也の玉座の間へ突撃してきた一台の二輪車……青と白の塗装が美しいマシンデンバードに跨るのは凶暴な赤鬼と勇猛で鳴らす孫呉の王。

「冥琳!」

「雪蓮!」

 デンバードから舞い降りた孫策とひし、と周瑜が抱き合った。絶世の美女二人であるだけに、隣のモモタロスも恥ずかしそうに視線を逸らすしかない。

 ふと、モモタロスと柳也の視線がぶつかった。

「お? テメェ、何時ぞやの剣バカじゃねえか。フラッと居なくなったと思ったらこんな所で何してやがる」

「あれさ。今回の実行犯って奴だ」

 おもむろに立ち上がった柳也が腰にデンオウベルトを装着し、ライダーパスを構えた。

 この男もまた電王の力を持ち、時の流れを旅する存在だ。

 どうも面識のある様子に孫策が尋ねる。

「あら、知り合い?」

「腐れ縁みたいなもんだ。気にすんな」

「じゃあ―――――叩きのめしますか!」

 孫策の放つ闘気が洞窟全体を揺さぶった。孫呉の王の実力たるや鬼の一匹や二匹では相手にならないほどである、と柳也も知っている。彼はすかさずバックルにライダーパスをかざして叫んだ。

「こうなりゃ一気にいくしかねえ! パー子!」

(焦っちゃうと女の子に嫌われちゃうわよん?)

「死ぬよかマシだ! チェンジ・ドリーム!」

DREAM FORM

 体を迷彩色の装甲板で覆い、虹色に輝く電仮面を装着した桜坂柳也は今や桜坂柳也ではない。超人の力を振るい、夢を追い求める脅威の変人。

「あたし、中国に参上よん!」

 二つの声が重なり、世にも可笑しい(?)仮面ライダー夢王の登場である。

「言っておくけど、あたしは最初から最後までドリームよん!」

 くねくねと腰をくねらせ、仮面ライダーがオカマ言葉で決め台詞を言い放つ。奇怪なことこの上ない光景に、周瑜とその中のウラタロスが同時に呆れた溜息を吐いた。

 一方、不機嫌なことこの上ないのは孫策である。

「なによ、あれ! 私もやりたかったのに!」

「怒るところはそこかよ、オイ!」

「モモタロス、私たちもやるわよ! 冥琳も! 中に青いのが居るんでしょ!?」

 どうやら孫策には憑依していたウラタロスの気配も察知出来るらしい。まあ、外見からして髪に青のメッシュが入っていたりすれば普通に気付くかもしれないが。

 そこでふと、疑問が一つ。

「そういやお前、亀がくっついてるんだよな?」

「ああ」

 モモタロスに尋ねられて周瑜が頷いた。

 本来ならばイマジンに憑依された人間は肉体の主導権を奪われてしまう。今の周瑜のように自分の意志で会話して、体を動かすことなどできないはずだ。

「ま、いっか!」

 もともと難しいことを考えることが苦手なモモタロスだ。浮かんだ疑問をさっさと放り捨てて孫策に向き直る。

 孫策もまた、モモタロスと向き合った。

「二人で行くぜ」

「分かったわ。なら……私のことは雪蓮(シェレン)と呼びなさい」

「テメエの真名ってやつか?」

 その名は信に足る存在にのみ赦すもの。

 少なくとも、通りすがりの旅人に与えていいものではないはずだ。きっとそれは、モモタロスと良太郎の絆のように大切なものだから。

「命を預ける戦友だもの、当然でしょ!」

「そうかい。じゃあ、ありがたく使わせてもらうぜ雪蓮!」

 モモタロスの姿が紅蓮の輝きとなって孫策と重なった瞬間、一際強い風が洞窟の中を駆け抜けた。それは夢王さえもたじろぐほど強く、激しくうねって新たな王の誕生を告げるのだ。

 孫策の髪が大きく逆立ち、一瞬の内に大きなウェーブを描いた髪型に変わった。前髪には一筋の赤いメッシュ、そして瞳は闘志に燃える赤色に染まって敵を視線で射抜く。

 宝剣・南海覇王を肩に構えて叫んだ。

「私、参上!」

 モモタロスと一体化した孫策の覇気は洞窟どころか、もはや三国の大地を揺るがすほど巨大なものになっていた。

(テメエ、普通の人間とはチョット違うな。生まれたときからクライマックスって感じだ)

「クライマックス?」

(最高潮って意味だ。あと言っとくが俺が手を貸す以上、最初から最後までクライマックスだから覚えとけ!)

「いいわね、それ。じゃあクライマックスでいくわよ!」

 孫策がモモタロスから受け取ったライダーパスを天にかざすと、腰にデンオウベルトが出現する。バックルの横にある赤いボタンを押し込み、横で呆けている周瑜を叱咤することも忘れない。

「冥琳!」

 こうなった孫策はもう止まらない。長い付き合いから分かりきっていることだけに、周瑜は泣きそうになった。

「―――――ああ。私もやればいいのだろう? まったく……」

(まあまあ、貴重な体験が出来るってことで。ボクも協力するし)

「ウラタロス。城に戻ったら覚悟しておけ」

(ええ? ボクは関係ないでしょ!?)

 そんな遣り取りはさておき、周瑜もベルトの青いボタンを押し込んだ。二人のベルトからそれぞれ独特のメロディが流れ、それを合図に構えたライダーパスを振り下ろした。

 孫策は激しく。

「変身!」

SWORD FORM

 周瑜は優雅に。

「変身……だ」

ROD FORM

 たちまち二人を中心に凄まじい嵐が巻き起こり、吹き荒れる砂煙にすっかり置いてけぼりの夢王は視界を遮られてしまった。

「じょ、冗談じゃねえぞ!」

 別に前が見えないからではない。これから自分が戦わねばならない相手があまりに強すぎるからだ。

「私、もう一度参上!」

 彼の目の前に現れたのは仮面ライダー電王・ソードフォーム。良太郎が変身したものと同じ形態だが、その中は孫策である。基本的な身体能力からして別次元の相手だ。

 そして、もう一人。

「フッ……お前、私の策に釣られてみるか?」

 柔らかな仕草で夢王を指差すのは、仮面ライダー電王・ロッドフォーム。棍の扱いを得意とするウラタロスの力を宿した電王の別形態だ。青を基調とした装甲を纏い、顔の仮面は亀の甲羅をイメージしている。

 腰のデンガッシャーを合体させたロッドモードを片手で構える姿は、穏やかであるからこそ底知れない。

「電王が二人同時に……面白いじゃねえか!」

 果敢に立ち向かう夢王に、果たして勝機はあるのだろうか――――

 

 

 

 

 

 地平線の彼方から舞い上がる粉塵が圧倒的な暴力の到来を告げている。最初に気づいた旅の商人はその場で卒倒した。騒ぎを聞きつけてきた住民達も門から見える嵐に立ち尽くすしかない。

 誰もあれが何なのか、問うこともしない。

 否、分かっているのだ。アレの正体を。

「鬼だ」

「鬼があんなにもたくさん!」

「だめだぁっ! もう助からない!」

 如何に孫伯符が強くとも。

 如何に孫呉の軍が強くとも。

 異形の大軍団の前では太刀打ちできるはずがない。

 しかし、その前に立ちはだかる四つの影があった。

「初見でおよそ三百、かのう」

 弓兵の視力を以って敵の戦力を捉え、黄蓋が満足気に頷いた。

「奴らを逃がさんことが一番肝心や」

 いつものようにキンタロスが首を鳴らしながら指針を述べる。

 今回の戦いにおける最大のポイント、それは鬼を一匹たりとも街へ入れないことだ。呉の兵たちも弱くはないが、鬼達と戦うには非力すぎる。

「片っ端から倒すだけでしょ?」

「めんどくさいけどね」

 愛用の棍と銃を構えて孫尚香とリュウタロスが一歩踏み出した。黄蓋とキンタロスもその後に続く。既に鬼の群れは目の前まで迫っている。

「お前ら、邪魔だよ」

 リュウタロスの銃が火を噴き、一瞬の内に十匹以上の鬼が粉みじんに消し飛んだ。それを切っ掛けに黄蓋たちが敵陣へ斬り込んでいく。

 だが、不意に気づいたキンタロスが黄蓋に尋ねた。

「お前さん、弓は使わんのか?」

「今回は弓よりもこっちの方が都合が良さそうでな」

 そう言って黄蓋が抜き放ったのは二本の棍棒を鎖で繋いだ―――――ヌンチャクだった。それを二振り、両手に持った黄蓋が宙を舞って鬼達へ猛撃を叩き込む。

「ホゥアアアアアアアアアアッ!!!!!」

 熟練の腕によって操られるヌンチャクが血飛沫の嵐を巻き起こし、瞬く間に取り囲んでいた鬼を薙ぎ倒した。さらに反撃を仕掛けてくる別の鬼を片手のヌンチャクでいなし、今度は華麗な連続蹴りを厚い胸板に打ち込めば籠められた氣が爆発を起こしてその頭諸共に弾けた。

「貴様らはもう、死んでおる!」

 昼間にも拘らず天に輝く柄杓の正座を頭上に掲げ、黄蓋が戦場を駆け抜ける。

「こりゃあ負けとれん!」

 負けじとキンタロスの張り手が行く手を阻む鬼達を次々に突き倒し、見る見るうちに何十匹という鬼が山のように積み上げられてしまった。相手が身動き取れないと悟るや否や持った斧を天高く放り投げ、キンタロスが跳ぶ。

 遥か頭上で掴んだ大斧を振り下ろし、鬼の山を一刀両断とばかりに切り払った。

「………………ダイナミック、チョップ」

 大技を放った一瞬に生まれる隙を狙って、後続の鬼達がキンタロスへ殺到する。如何に彼といえど連続で必殺の一撃を繰り出すことはできない。

 だが、その鬼達は悉く打ち倒された。

「ヤっちゃうけど答えは聞かないよ!」

 リュウタロスの銃から放たれる無数の光弾によって一瞬の内に迎撃したのである。

「スマン!」

「しっかりしてよね、クマちゃん!」

「にしても、数が多すぎや」

 ここまでで既に百匹近い鬼を撃破していながら、その包囲網が衰える様子は一向にない。むしろその壁は厚みを増し、キンタロスたちを押しつぶそうとさえしている。

 それでも、まったく怯むことなく前進するのは孫尚香。

「小蓮様!?」

「祭? こういう邪魔な奴はね、全部……振り切っちゃえばいいの!」

 踏み込みは神速。

 振るう棍は雷光。

 何人も追いつけない速度で勝利へ突き進む。

 纏うは蒼く眩き神速の凰羅。

 繰り出される魔爪を一息に潜り抜けた孫尚香が棍を走らせ、絶望に歪む悪鬼たちの貌を片っ端からかち割った。包囲を崩すには一匹倒したぐらいでは話にならない。十匹でもまだ足りないだろう。ならば瞬き一つの間に百匹、千匹倒せばいい。

「どう? これが絶望っていう最期だよ♪」

 あれほど居た鬼達は全て骸と化し、残ったのは孫尚香たち四人と……

「ぬう、またしても恋姫の世界がライダーに……おのれディケイドォッ!」

 天を仰いで憤慨する中年男が一人。どうやらこの男が今回の首謀者のようだが、そうなると浮かぶ疑問が一つ。

「そういえば姉様たちは?」

「策殿がまさかとは思うが―――――」

 黄蓋と孫尚香が顔を見合わせて首を捻る。倒されてしまったとは思えないが……

 その時、戦場を一望できる小高い山の上から甲高いエンジン音が辺りに響き渡った。中年男と黄蓋たちが一斉に山の頂上へ目を向けると、そこには燦然と輝くマシンデンバード。

 そして、それに跨る孫伯符と周公謹の姿が。

「鬼を操り孫呉の民に―――――ん、どうした雪蓮?」

 中年男を指差して怒りの叫びを上げようとする周瑜を孫策が制止した。話の流れを見てもなんらおかしい所は無いはずだが……

「せめて待ってあげなさいよ」

「あ――――――」

 孫策が自分達の背後を視線で示して言った。

 その先では、

「待ちやがれ雪蓮! ちきしょー! なんで俺たちだけ走りなんだよ!」

「し、仕方ないよ先輩。身分が違うんだから」

 まだ後方2キロメートルの地点を走っているモモタロスとウラタロスの姿があった。マシンデンバードは元々一人乗りのバイクであり、どう頑張っても二人乗るのが限界である。

 当然、あぶれたモモタロスとウラタロスは二本の足でここまで来なければならなかった。

 

三十分後

 

「鬼を操り孫呉の民に仇名す外道よ! この周公謹と!」

「孫伯符がお前を滅する! 覚悟するがいい!」

 南海覇王を振り上げ、崖に近い斜面を駆け下りようとする孫策。もちろんモモタロスも憑依済みだ。

 しかし相対する中年男が大仰な仕草で腕を振るうと、その背後にいきなり光の銀幕が出現したではないか。

「ならば、この仮面ライダーネガ電王でお前たちを倒すまでだ!」

 銀幕を潜り抜けて現れたのは禍々しい色合いの仮面ライダー電王・ソードフォームだった。モモタロスのソードフォームを表とするなら、まるで裏のような禍々しい闘気をまとっている。

「こいつ、強いわね……」

(気にするこたぁねえぜ、雪蓮! 変身だ!)

「もちろんよ、モモ!」

 デンバードに跨ったまま、孫策がデンオウベルトを装着してライダーパスを振るった。周瑜もすでに要領を得たようで、同じようにパスをバックルにかざす。

SWORD FORM

ROD FORM

 光の装甲と仮面を纏い、瞬時に電王へと変身した孫策と周瑜を見て地団駄を踏んだのは黄蓋と孫尚香である。

「ささささ、策殿ぉっ! 儂の知らんうちにこんなうらやましい!」

「私もやる! やるったらやるの! やるやるやる〜ぅっ!」

 見るからに強そうで格好良い事この上ない電王である。孫呉でも我儘で通っている二人がやりたいと言い出さないわけがなかった。とはいえ、モモタロスとウラタロスが孫策たちに憑依していることは見て分かっていたが、はてさて孫尚香たちにそんな相手が居たかどうか……

 ふと、となりの二人と目が合った。

「そういえば……」

「いける、かも?」

 キンタロスとリュウタロスにしてみても渡りに船である。相手が同じ電王である以上、黄蓋と孫尚香の協力が不可欠だった。

「しゃあない。やったるか!」

「いっくよ〜!」

 黄蓋にキンタロスが、孫尚香にリュウタロスがそれぞれ憑依する。

 豪快にして豪快。

 破天荒にして破天荒。

「儂らの強さに貴様が泣いた!」

 いつの間にか浴衣に着替えた黄蓋が右手で顎を鳴らし、仁王立ちで構える。束ねた銀髪は一房だけ黄色い。

「私達が倒しちゃうけどいいよね? 答えは聞いてないけど!」

 こちらもこちらで露出度の高いチャイナドレスに着替えた孫尚香が軽く舞い、ポーズを決めた。やはり前髪が一房紫に染まっている。

 そして二人は颯爽と腰にデンオウベルトを装着し、

「「変身!」」

AXE FORM

GUN FORM

 黄と紫。

 斧と銃を携えた二人の電王は、奇しくも孫策たちと挟撃する形でネガ電王と対峙した。四対一という圧倒的な形勢の中、しかしネガ電王は怯えた様子もなくデンガッシャーをソードモードに変形させ、目にも留まらぬ速さで跳んだ。

「はっ!」

 同じく宙空へ飛び上がった孫策こと電王ソードフォームがネガ電王と切り結び、幾合も交えた末に相手を地上へ叩き落した。そこへ孫尚香のガンフォームが容赦ない射撃を叩き込み、

「この状況で射線を回避する先は限られている。見え透いた手だ」

 照準を外すために後方へ逃れたネガ電王の背を強かに周瑜のロッドフォームが、構えたデンガッシャー・ロッドで打ちのめす。しかし敵とて黙ってやられてやる理由は無い。すかさず周瑜へ反撃の刃を放つ。

「効かんわ。腰を入れい!」

 周瑜を庇う形で斬撃を苦もなく胴で受け止めた黄蓋のアックスフォームは、連続張り手でネガ電王を弾き飛ばした。

「なんだ、弱いじゃない」

「拍子抜けだな」

「まったく骨が無いのう」

「楽勝じゃん」

 地面に這い蹲るネガ電王を指差し、けらけらと四人が笑う影でぽそりとモモタロスたちはひそひそと囁きあった。

(アイツ、こんな弱かったか?)

(それは先輩……中の人が桁違いに強いし)

(確かに、変身せんで鬼を倒すぐらいやからな)

(半端ないね)

 四人の武将の能力が現代人に比べて、あらゆる面で非常に上回っていることは間違いない。特に孫策と黄蓋は超人と言っても過言ではないだろう。そんな彼女達が電王に変身したのなら、それはそれは恐ろしいほど強くなることは自明の理であった。

「ならば……止むを得ん!」

 もはや敗北は必至。

 それでも中年男は外套を翻し、再び銀幕を呼び出した。

「この黒王鬼二世で建業の都諸共に薙ぎ払ってくれるわ!」

 出現したのは全長10メートルを軽く超える巨大な鬼だ。先程倒した鬼達をそのままスケールアップしたような容姿だが、その膂力は数十倍となって襲い掛かった。

「きゃあっ!?」

 黒王鬼二世が思い切り振り下ろした拳は大地を容易く砕き、弾け飛んだ岩盤の破片は無数の矢尻となる。岩の矢を雨のように受けた孫策たちはろくろく防ぐことも出来ずに地面に倒れるしかなかった。

 ぐったりとした孫策の中でモモタロスが必死に叫ぶ。

(お、おい! しっかりしやがれ!)

「と、言ってもね……」

(諦めてる場合か!? ヤバイ、ヤバイヤバイ! 次が来るぞ!)

「だから、体が動かないんだって」

 そう言っている間に巨大鬼が再び拳を振り上げた。今度は間違いなく直接孫策を殴りに来る。そうなれば助かる手立てなど――――――

(やられるぅっ!?)

「くっ……!」

 拳が眼前に迫る。

 叩き潰される、と確信した刹那。

 

 

 ―――――――鈴の音が、鳴った。

 

 

 ちりん、という聞きなれた音色に孫策が首だけを動かして顔を上げると、そこには鬼の拳を下段から振り上げた剣で弾き返す仮面の戦士の姿。

 そして、同じく剣を振るう我らが勇将・甘興覇の姿もある。

「し、思春?」

「雪蓮様の窮地に馳せ参ずること遅れまして申し訳ありません」

 甘寧は元々、建業近隣の集落の警備に出ていた。その幾つもある集落を廻る中でこの騒ぎを聞きつけたのだろう。

 しかし、解せないのは彼女の隣にいる仮面の戦士。

(こ、幸太郎!?)

「知ってるの?」

 孫策の中のモモタロスが声を上げた。

「俺は野上幸太郎。野上良太郎の孫で、新しい電王だ」

 そう、彼こそが未来から来た野上良太郎の孫にして未来の電王。その名も仮面ライダーNew電王・ストライクフォームだ。親友にして契約イマジン・テディを大剣『ヘビーマチェット』として戦う、新しい時間の守護者。

(なんでお前がここにいるんだよ!?)

「というか、なんで思春と一緒なの?」

 孫策とモモタロスの疑問に、甘寧と幸太郎は難なく答えた。

「知り合いました」

「知り合った」

 そりゃそうだろう、と突っ込みを入れる気力も無い孫策とモモタロスだった。

 実は彼、ジークと共に良太郎よりも先んじてこの時代を訪れていたのだ。目的は勿論、歴史改変の黒幕の調査。その過程で鬼との戦いに遭遇し、集落の警備に当たっていた甘寧と鉢合わせたのである。

「じゃあ、此処に来たのは?」

「この白いのが案内を」

 甘寧がすっと横にずれると、その後ろからゆっくり歩いてきたのはジークだった。どうやら今まで為りを潜め、美味しい頃合で登場する機会を窺っていたようだ。

 色々と文句を付けたいモモタロスたちを余所に、ジークは甘寧と向かい合った。

「孫策は我が友である。故に助力するが道理だろう」

「ほう」

「しばし、その体を借り受けたい」

「ふむ。いいだろう」

 幸太郎や、孫策たちの姿を見て関連性に気づいたのだろう。甘寧はあっさりとジークの要望を承諾した。

 そのまま彼女へ憑依するや、淀みない動作でライダーパスをベルトのバックルへかざせば、さらなる電王が現れる。

WING FORM

「降臨、満を持して」

 純白の羽の幻影を背に降臨せしは電王・ウィングフォーム。

 イマジン・ジークの力を得て変身する、この世で最も優雅にして高貴たる仮面ライダーだ。

「え、ええい! 二人増えたぐらいでこの黒王鬼がどうにか出来ると―――――」

 ジークと甘寧の圧倒的なまでの凰羅を受けても、中年男はあくまで強気な姿勢を崩さない。更なる追撃を黒王鬼二世とネガ電王に指示し、

「――――!?」

 荒野の向こうから歩いてくる人影に気づいた。

 瞳に籠めるは闘志。

 腕に宿るは憤怒。

 脚に纏いし気迫。

 普段の彼からは、到底感じられないほどの激情が渦巻いている。

「この国の人たちも、僕たちの時間も――――好きにはさせない」

 時は砂の如く流れ落ち、それは誰にも止められない。巻き戻せないからこそ時間は尊い物であり、一分一秒に宿る記憶は儚く美しい。

 過去はその時を生きた人々の生き様そのもので、それを積み重ねることで現在へと至り、未来へ続く。楽しい時も、悲しい時も、全てはまだ見ぬ明日の為に、きっと素晴らしい時間の為に。

 だからこそ歴史を書き換え、時間を歪める存在を赦すことはできない。その行為は、多くの人々の一生を否定してしまうことだから。

「変身」

 その言葉と共に野上良太郎は赤い携帯電話をデンオウベルトに装着した。するとベルトから現れた光のレールに走るように、空の彼方から一振りの大剣が良太郎の手元へと飛来したではないか。

 ソード、ロッド、アックス、ガン……四つの電王の仮面をグリップのターンテーブルにあしらった、これぞデンカメンソード。モモタロスたち四人のイマジンの力を具現化させた、電王最強のアタックツールである。

LINER FORM

 ベルトのコール音と共にデンライナーを象ったエネルギー体が良太郎の全身をすり抜け、迸る閃光と共に彼を最強の戦士へと変身させた。

 仮面ライダー電王・ライナーフォーム。世界の為に、友の為に……孤立無援の中で戦うことを選んだ良太郎が体得した、『一人だけど一人じゃない』形態である。

 だが相手はかつて苦戦した強敵・ネガ電王と巨大な鬼で、真っ向からぶつかり合えば到底勝ち目はない。

 その時だった。

 黒煙を吐き出す巨大な鉄の塊が鬼の横っ腹に激突したのは。

「あれは――――――ドリームライナー!?」

 かつて一度だけ見たことがある。

 熟女と夢を追い求める電王が操る、時を駆ける汽車を。

「パー子! もっと石炭燃やせぇいッ!」

OK、柳也!」

 ドリームライナーの運転席で号を飛ばす桜坂柳也と石炭を炉へ投げ込むオカマイマジン・パー子の姿が見える。見る見るうちにドリームライナーの加速は強まり、ついに黒王鬼二世を大地に薙ぎ倒してしまった。

「今だ、野上良太郎!」

「がんばってねん!」

 二人の珍プレイのおかげで活路が見えた。

 良太郎は柳也たちに頷いてみせると、

「決めるよ、みんな……!」

 デンカメンソードの刀身にあるスリットへライダーパスを入れつつ良太郎が呼びかけ、七人の電王が同時に動いた。

FULL CHARGE

「いっくよぉ!」

 まず孫尚香のガンフォームがデンガッシャー・ガンの銃口を黒王鬼へ向け、巨大な光弾が撃ち出された。さらに黄蓋のアックスフォームと周瑜のロッドフォームが空中へ跳び上がり、

「逃がさんわ!」

「大人しく、地べたに這い蹲るがいい……!」

 デンガッシャー・アックスとデンガッシャー・ロッドの一撃が起き上がろうとする黒王鬼を再び押さえつける。

 それを好機とし、地を駆けるのは甘寧のウィングフォームと幸太郎のストライクフォームだ。

「醜悪な……滅びよ」

「お前のカウントはとっくにゼロだ!」

 岩さえ豆腐のように切り裂くストライクフォームの一刀と、ウィングフォームの放った刃が華麗に鬼の頭部を粉砕した。

 

 

 そして、逃れようとする中年男を庇うネガ電王の前に立つのは……

「いくわよ、良太郎」

「ええ。孫策さん……あれ?」

 モモタロスと思っていたのだろう。ソードフォームから聞こえてきた孫策の声に良太郎が思わず首を傾げた。

「細かいことは気にしない、気にしない♪」

(んなこたぁ後にしろ!)

「う、うん。今は―――――」

 覚悟を決めたのだろう。

 デンガッシャー・ソードを振りかぶったネガ電王が踏み込んでくる。

「ほいっ」

 その凶刃を容易く受け流すと、孫策は下段に構えた南海覇王であっさりとネガ電王を打ち払ってしまった。

(おい雪蓮、良太郎! 決めるぜ!)

「そうね!」

「いこう!」

 良太郎がデンカメンソードのターンテーブルを勢い良く回転させ、大きく振り上げた。すると空から再び光のレールが現れ、良太郎の足元を通ってネガ電王まで繋がっていく。

 ちょっと危なっかしい動作でレールに飛び乗り、デンライナーを象ったオーラを纏う良太郎はまさしくライナーとなって敵へ突撃する。ライナーフォーム必殺の『電車斬り』はネーミングこそあれだが、その威力たるや強大なイマジンさえ叩き臥せるほどである。

 その一撃が炸裂する直前、孫策のソードフォームはネガ電王の背後へと回りこんでいた。ちょうどライナーフォームのレールを逆走する形で赤の電王が駆け抜ける。

 その手には宝剣・南海覇王ともう一振り、デンガッシャー・ソードの二刀流。

FULL CHARGE

 すでにライダーパスはバックルにかざした。

 後は、斬り捨てるのみ。

(俺の!)

「私の!」

「僕たちの、必殺技!」

 真逆の二方向からレールを駆ける二人の電王に挟まれ、ネガ電王にもはや成す術はない。瞬く間にデンカメンソードとデンガッシャー・ソード、南海覇王に切り刻まれて爆散してしまった。

 立ち昇る爆炎を背に変身を解いた孫策は良太郎と向かい合うと、

「見直したわよ、良太郎」

「いえ、こちらこそ……ありがとうございます」

 熱い握手を交わす。

 それは良太郎の強さが時代を越えて、孫呉の戦士たちに認められた証だった。

 

 

 

 しかし、問題が解決したわけではなかった。

「え? 鬼ってまだ居るんですか?」

 ちゃっかり逃げ出そうとしていた仮面ライダー夢王を詰問したところ、彼に鬼の戦力を提供していた鳴滝なる人物に行き着いたのだが……

「奴はどこからかそれを調達していたみたいだ。すまない、それが何処かまでは分からないが」

 戦いの後、鳴滝――――――あの中年男はすでに姿をくらましていた。また襲ってくる可能性は否めないが、あの銀幕の先にあるだろう潜伏場所を特定するにはあまりに判断材料が足りない。今は放置するしかなかった。

 とりあえず情報を聞き出し用済みになった夢王をデンライナーに拘束監禁し、良太郎たちは新たな決意を固めていた。

 すなわち、

「孫策さん。僕たちはもうしばらくこの時代に居ようと思います」

 まだ歴史改変を阻止できたわけではない。中途半端なまま帰れるはずもない良太郎たちが残る考えに至るのは、ごく当然のことだった。

「こっちはありがたいけれど」

「えいっ!」

 苦笑する孫策の横から飛び出してきたのは孫尚香だ。そのまま彼女は良太郎の首に抱きつくと、頬へ熱い接吻の雨を浴びせられては良太郎も思わず抵抗してしまう。

「だ、ダメだって!」

「いいじゃない! 未来の妻なんだもの♪」

「それは、シャオちゃんがそう思ってるだけで……」

 そんな遣り取りを繰り広げる二人の横で、野上幸太郎はやれやれと呆れるばかりだった。そんな幸太郎に相棒のイマジン・テディがおもむろに孫尚香の顔を見るように促してきた。

「テディ?」

「いいから、良く見てみるんだ」

 言われるままに孫尚香の顔を観察していた幸太郎の顔が、見る見るうちに青ざめていく。

 彼のそんな様子に気づいたウラタロスが声をかけてきた。

「幸太郎?」

「お、おおおおお、おば、おば」

「おば?」

「おばあちゃん!?」

 あろうことか幸太郎は見た目うら若い乙女の孫尚香を指差して、『おばあちゃん』とのたまったのである。これには孫策も黄蓋も憤慨して詰め寄った幸太郎の首筋に剣を突き付けた。

「どういうことかしら?」

「いや、だから、俺のおばあちゃんなんだ!」

「小蓮様が……お主の祖母だと申すのか。空似ではないのか?」

 黄蓋の問いに幸太郎は首を横に振った。

 さて、野上幸太郎は野上良太郎の孫であり、良太郎は幸太郎の祖父に当たる。その幸太郎が言う祖母とはつまり、良太郎の妻ということになる。

 もし本当に孫尚香が幸太郎の祖母であるならば、イコールで良太郎の妻ということに。

「なるほどな」

 何故か得心いった様子でモモタロスが頷いた。

「幸太郎が良太郎の孫の癖にめっぽう強いのは、このチビッコの血が入ってるからってことだ」

「なるほど、確かに血縁にしては差がありすぎる」

 そう言って納得しているのは甘寧だ。

 先程の戦いぶりを見る限り、幸太郎は良太郎と似ても似つかないほど強かった。立ち回り一つをとっても鋭く、力強い。軽やかなステップから繰り出す変幻自在の攻めで相手を翻弄し、隙あらば猛撃を放ち速やかに敵を仕留める。

 少なくとも甘寧が隣において戦わせるほどの実力はあるという事だ。

「ということは……」

 ギシギシ、と軋ませるような動きで振り返る良太郎に、キンタロスとリュウタロスがその両肩を叩いて言った。

「この子が、お前の嫁さんっちゅうことや」

「良かったね良太郎!」

 孫尚香を抱きかかえたまま、良太郎は呆然と立ちつくしかなかった。

 

 


あとがき

 

夢王「待ちやがれゆきっぷうッ! 熟女とイチャイチャ出来るって言うから出演してやったのに……死ねぇッ!!!」

 

ゆきっぷう「…………そんなこと言ったっけ?」

 

夢王「このペテン師野郎がァッ!!!」

 

ゆきっぷう「ブピャッ!?」

 

 

タハ乱暴「どうもー、今回、あとがきに御呼ばれしたので参上いたしました。仮面ライダー夢王原作者にして、愛のペ天使、タハ乱暴でございます」

 

夢王「どうも、今回出演依頼を受けてはせ参じました仮面ライダー夢王こと、桜坂柳也でっす」

 

パー子「どうもん、みんなのアイドル、パー子よん♪」

 

ゆきっぷう「来てくれてありがとう、みんな! おかげで恋姫×ライダートリロジーが完結したよ!」

 

タハ乱暴「いやいや、どういたまして。さてゆきっぷう、今回の話についてなんだが……まぁ、例によって製作動機と、なぜ登場ライダーを電王にしたか訊いておこうか? んん?」

 

ゆきっぷう「いやあ、真ドラゴンに挑むには恋姫勢力だけでは厳しくって。底上げで仮面ライダーを出そうと。それで魏と蜀でライダーネタをやったんだけど、呉だけやらないわけにいかなかったからね。電王なのは、ちょうど構想を練っていたとき、タハ乱暴に電王のDVDを見せられたから」

 

パー子「結局、あんたが原因じゃない!」

 

夢王「んで、俺の出演が決まった理由は?」

 

ゆきっぷう「なんとなく」

 

タハ乱暴「なんとなくだとう!? キサマ、俺の息子を、なんとなくで出演させたというのか!? ……ハッ、まさかじょにーも!」

 

ゆきっぷう「それどころか、チェン恋もマブラヴも銀天も全部『なんとなく』、だ!」

 

タハ乱暴「な、なんだってぇー!?」

 

夢王「あの超大作二作品もなんとなくだったというのか!?」

 

パー子「いま明かされる衝撃の事実、ってわけねん。……ちなみに、このままだと読者さん置いてきぼりだろうか説明するけどん、私と、夢王はタハ乱暴著『仮面ライダー夢王』、『仮面ライダー電王 キンのコハナは聖夜に咲く』に登場するキャラクタで、今回は友情出演という形で出させてもらったわん」

 

ゆきっぷう「カミングアウトはさておき、感想を聞かせてもらいたいナー」

 

タハ乱暴「うん。イマジンの扱いがダメダメすぎる」

 

ゆきっぷう「???」

 

タハ乱暴「もっと…もっとモモはバカっぽく! 扱いをもっと酷く! 鬼だー、って追われないと!」

 

ゆきっぷう「フッフッフ、なんだ? そんなことか? そんなことか、タハ乱暴!!!」

 

タハ乱暴「あと、もっと高岩さんの出番を! 岡本さんの出番を! そしてジャッキーの出番を!」

 

ゆきっぷう「ジャッキーは無理だから。ジャッキーは絶対無理だから!」

 

夢王「ナズェダ!?」

 

タハ乱暴「ジャッキーが無理ならジェット・リーでもいい」

 

ゆきっぷう「無茶言うな! パー子! ヘルプミー!」

 

パー子「無理よん。こいつらテンション上がると抑えが効かないもの。……冷○ピタでも貼ってあげたら?」

 

ゆきっぷう「よし! ……さて、次回以降についてだが」

 

タハ乱暴「スルーされた!?」

 

夢王「それより俺の出番は!? 次回も俺の出番はあるんだろうな!? チェン恋本編に!」

 

ゆきっぷう「タハ乱暴に頼みなさい」

 

タハ乱暴「え? 俺がチェン恋本編書くの? 書いてもいいけど、贔屓するよ? 翠と、蒲公英と、あと文ちゃんを贔屓するよ? 彼女達の出番八割で、カズト五分、華琳様一割、その他五分という構成になるよ?」

 

夢王「……あで、おでは?」

 

ゆきっぷう「つまり、どう転んだところで在り得ないってことさ。というわけで次回以降は、チェン恋本編に戻ります。もちろんディケイドとかも出ます。でもそこの熟女好きは出ません」

 

夢王「何ッ!? せっかく、遠路はるばるた行、タハ乱暴のコーナーからや行、ゆきっぷうのコーナーまで出張ってきたというのに! もう、帰れと!?」

 

ゆきっぷう「う○い棒(キムチ味)やるから帰れ」

 

夢王「……二十本」

 

ゆきっぷう「一欠け」

 

夢王「十五本」

 

ゆきっぷう「粉末3グラム」

 

夢王「十二本」

 

ゆきっぷう「包装ビニール」

 

夢王「……よし、取引に応じよう」

 

パー子「え?! リュウヤ、それいいの!?」

 

夢王「だってよぉ! う○い棒だぜ? うま○棒! セレブのご馳走じゃねぇか! 一本十円もするんだぞ、アレ!?」

 

リュウタロス「じゃあ次回予告いくよ! 答えは聞いてないから!」

 

柳也大好きミニオンズ「「「次回は普通に抱翼旅記ノ六だよ! 出番なくてもドンマイ、リュウヤ様!」」」

 

タハ乱暴「お前らが煽るのかぁ!」

 

夢王「チェン恋読者置いてきぼりー!」

 

パー子「そもそもあたしたちの存在自体がチェン恋読者置いてきぼりー!」

 

タハ乱暴「うぇぇ!? 俺も!?」

 

リュウタロス「だから言ったでしょ、答えは聞いてないって!」

 

タハ乱暴「ええ? 俺、そんな知名度低いの!? ええ? もしかしてアセリア読者って、思っているよりも少ない!? うぇぇ?」

 

天一刀「いや、だから答えは聞いてないんだって。……というわけで、やっと俺が主人公だよ」

 

曹操「ええ、ようやくね。これだからゆきっぷうとタハ乱暴に任せるべきではない、と言ったでしょう?」

 

天一刀「う、スマン」

 

曹操「さて、次回のチェン恋では私の出番が通常の三倍に……」

 

良太郎「では皆さん、また次回お会いしましょう! 答えは!?」

 

モモ・ウラ・キン・リュウ「「「「聞いてない!」」」」

 

 

曹操「また持ってかれた?」

 

天一刀「ああ」

 

曹操「おのれ、でぃけいど!」

 

天一刀「いや、それ違うから」




ドキッ、ライダーだらけの恋姫無双と言わんばかりにライダーがかなり増えたな。
美姫 「呉もこれで戦力増強ね」
わーい、前半部分に関しては突っ込みすらなしか。
美姫 「でも、これで各国、鬼に対抗できるようになったわね」
元から武将クラスはしてたけれどな。
美姫 「次回は本編に戻るみたいだけれど」
こちらはどうなっているのかな。
美姫 「次回も待っていますね」
待ってます。



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