※本作は『真(チェンジ!)恋姫無双 ―孟徳秘龍伝―』の外伝であります。

※本作は『仮面ライダーディケイド』の二次創作でもあります。

※本作は『仮面ライダー剣』の二次創作でもあります。

※ご了承いただいた上でお読み頂ければ幸いです。

 

 

 全ての民を護る為。

 全ての人の笑顔を護る為。

 そして誰もが安心して暮らせる世界を作る為。

 二人の『王』は果てしない理想を追い求めて駆け続ける。

 

 

仮面ライダー剣

Missing Goal…

 

 

 陽光が鋭く夜闇を切り裂き、空を白く染めていく。

 朝日の光を待ちかねていたのだろう、木々に停まる小鳥達が囀り始めた。

「ふんふふんふ〜ん♪」

 夜が明けてまだ間もない時間にも関わらず、劉備はご機嫌な様子で執務室へ入っていった。彼女を良く知る者ならば、劉備玄徳という人物が「早起きという言葉から縁遠い存在のはずだ」、と衝撃を受けるだろう。君主の早起きを知った諸葛孔明はすぐさま調査に乗り出した。

 彼女が得た情報に拠れば、ここのところ劉備は毎朝早くに執務室へやってきていた。指示を受けた馬岱が現場を押さえるべく、気付かれないよう部屋の中へ入ると、

「お早うございます、一真さん。今日もお願いしますね」

「それはいいけど……まだ眠そうじゃないか」

「仕方ないじゃないですかー、昼間だとお仕事で時間取れなくて」

 執務室に備え付けられた来客用の椅子に腰掛ける男性と親しげ(?)に会話する彼女の姿があった。見つかる危険性も忘れ、家具の死角に潜みながら馬岱は会話の内容を反芻する。

 「今日もお願いします」ということは、二人は知り合ってからそれなりに時間が経過している。また頼み事をしていることも鑑みると、友人以上の関係と推察できる。そして待ち合わせに執務室を使っているとなると、この青年は劉備からかなりの信用を得ているようだ。

 さらに「昼間だと〜」のくだりも含めれば、公の場では顔を合わせられない関係とも言えるだろう。

(こ、これってもしかして……)

 間違いない。この青年は劉備の――――――

 これは一刻も早く諸葛亮に報告しなければ。結論に至った馬

「誰だお前は!」

 気配に気付いた青年の手から一枚のカードが放たれ、馬岱の額を掠めて扉に刺さる。つぅ、と切れた額から流れる血もそのままに、恐怖でガチガチに固まった全身を必死に動かして馬岱が振り向くと、仁王立ちする二人が立っていた。

 

 

 

 結局、大したことではなかったのだ。

 城の裏庭で剣の素振りに励む劉備から事情を聞いては納得せざるを得なかった。壁にもたれながら劉備を叱咤する青年を隣で盗み見しながら、馬岱は主君の言葉を反芻する。

『こちらは剣崎一真さん。鬼と真っ向から戦える凄い人で、お願いして指南役とかを引き受けてもらってるの』

 確かに劉備はあらゆる面で戦闘向きではない。彼女の立ち位置はあくまで民衆を導く『王』であって、荒事は部下に任せるのが常だ。腰の剣も飾りと言っても過言ではないぐらいで、事実装飾を散りばめた豪勢な一品である。

「違う! もっと体重を乗せて、上から下へ全身で振り下ろすんだ!」

「はい!」

「回数をこなせばいいもんじゃねえ! 一回に全力を籠めろ!」

「は、はいぃ!」

「掛け声にも力が入ってない! こうやるんだ、『ヴェェェイッ!』」

「うぇ、うぇぇぇぇぇぃっっ!?」

 そんな『非戦闘員』である劉備が今更剣の修練に励む理由が分からず、馬岱は青年――――剣崎一真に声をかけた。

「ねえ、アンタ。何か桃香様から聞いてないの?」

「………………」

「無視!? 無視なの!?」

 一真は馬岱の問いをあっさり受け流した。

 こうなっては直接本人に聞くしかない、と特訓が終わるのを待って馬岱が劉備に尋ねると、

「ほ、ほら! 鬼対策だよ! 一人でも戦えた方が心強いでしょ?」

 あからさまに苦し紛れな返答しか返ってこない。

 大義名分として成り立つ以上、馬岱も追及のしようがなかった。

「今日はどうでした、一真さん?」

「だいぶマシになったな。けど、ここから毎日続けられるかが重要だぞ」

「ホ、ホントですか!? ようし、頑張ります!」

「じゃあ、俺は行くから。街に居るから何かあったら呼んでくれ」

 困り顔の馬岱なぞ知らん振りで、特訓を終えた劉備は街に戻る一真へ一礼していた。

 

 

 

 

 

 

「って、感じなんだけど」

 諸葛亮の執務室に戻った馬岱が報告を終えると、部屋の主である孔明は腕を組んで黙り込んでしまった。

 早朝特訓の問題は劉備の体調管理だけに留まらない。もしこれに過信して劉備が戦場に出て万が一のことがあれば、ただでさえ鬼の脅威に晒されているこの国は君主の死を切っ掛けに崩壊しかねない。

「どうするの?」

「こんなこともあろうかと、既に助っ人を呼んでいます」

 諸葛亮の言葉を受けて部屋の扉が開き、入ってきたのは関羽だった。

 この国の将たちの中でも劉備が最大の信頼を寄せる関雲長ならば彼女の真意を聞きだし、必要であれば制止をかけることも出来るはずだ。

「事情はおおよそ把握したが、桃香様も無茶をされる」

「そういうものかなぁ?」

 嘆息する関羽の隣で、首をひねる青年は小野寺ユウスケだ。先日の一件で正式に蜀軍に合流となった関羽直属の部下である。部下というよりは恋人のような扱いだが、黙認されているのは彼が「対鬼」の重要な戦力でもあるからだ。

「周りが大変なのに、自分だけ安全な場所に居ていいって思えないだろ」

「しかしユウスケ……」

「きっと護りたいんだよ、この国をさ」

 それはこの場に居る全員も同じだ。

 立場は違えど、それぞれの役割は全てこの国に住む民達の為にある。実際に剣を取って戦うことだけが『護る』ことではない。

「それにしても桃香様、あいつとだいぶ仲が良さそうだったよ」

「早朝の二人きりの時間に縮まる距離……も、もしかしてこのまま結婚まで!?」

 馬岱の率直な感想に諸葛亮の妄想が爆発する。どことなく他人を近付けない剣崎一真だが劉備にだけは柔和な態度を取っているので、余計に想像を掻き立てるのだ。

「ともかく、私が一度桃香様と話をする。それまでは保留で頼む」

「分かりました」

 諸葛亮に確約を取り付け、関羽は改めてユウスケへ向き直った。

「それでユウスケ、海東は見つかったか?」

「あ、ああ。それなんだけど」

 海東――――海東大樹はユウスケと共に蜀に身をおく『仮面ライダー』の一人だ。それがここ数日、まったく姿を見ないので関羽とユウスケの二人が探し回っていた。

「こんな置手紙がアイツの部屋に」

「ふむ」

 海東に宛がった客室に残されていた一枚の手紙には、

 

『ちょっと劇場版に行ってくるよ。クライマックスには間に合わせる。

海東』

 

「ユウスケ。『げきじょうばん』とは一体何のことだ?」

「さ、さあ……」

 恐らく海東は今、時の平原を駆け抜けているのだろう。

 ともかく彼のことはユウスケに任せ、関羽は劉備の執務室を訪ねた。ちょうど軍の関係各所から届けられた書簡の山を前に四苦八苦する彼女は、都合よく現れた援軍を涙目になりながら迎え入れた。

 鬼との度重なる戦闘による各部隊の損失は彼女達の予想を上回っていた。特に人的損耗が激しく、全滅を通り越して皆殺しにされた隊も一つや二つではない。報告に拠れば昨日までに延べ千八百七十二名が戦死、四百七十二名が戦闘不能に陥ったという。

「桃香様?」

「んう? どしたの、愛紗ちゃん」

「率直にお尋ねします。剣崎一真とは、どどど、どういう関係でいらっしゃるのですか!?」

 どもる関羽に劉備は苦笑しながら答えた。

「んー、強いて言うならお友達、かな? 結構楽しい人だよ。皆には違うの?」

「はあ……どうもあ奴は桃香様以外には素っ気無いようでして」

「お、もしかして脈アリかな?」

 ふざけてみせる劉備に側近である関羽は眉根を寄せて溜息をつくしかない。

「早朝に一緒におられるところを見ていた者がおりまして、朱里など桃香様の想い人ではないかと騒ぐ始末」

 早朝と言う言葉を聴いてびくり、と劉備が方を強張らせた。本人としてはこっそり隠れて、のつもりなのだから仕方あるまい。肩を並べて書簡に目を通しながら、関羽はついに切り出した。

「剣の修行をされているそうで」

「蒲公英ちゃんから聞いたんだね」

「ええ」

「そっか」

 書簡に走らせる眼はそのままに、劉備は頷いた。

 その顔にいつもの微笑みは無い。

「何故、ですか」

「こうしている間にも沢山の人たちが鬼に殺されて、住む場所を追われて……でも私は皆に色んな大切なことを任せっぱなし」

 どう贔屓目に見ても劉備に文武の才は無く、それは本人も自覚している。

 故に政務の大半は関羽や諸葛亮たちに委ね、彼女自身はせいぜい国の大方針を決めて各種書類に判子を押すぐらい。

「鬼と戦って、皆はボロボロになって帰ってくる。街に行けば、戦死した兵隊さんの家族が泣いている。私はこの国の王なのに、皆の代わりに戦う事も励ましの言葉をかけることも、何も出来ない」

 何の取り柄も無い。

 理想を語るだけの王に、どれほどの価値があるだろう。

 現実にかつての大戦を上回る速さで多くの人が死んでいる。

「そんなことはありません! 貴方が掲げた理想があったからこそ、私たちはここまで――――――」

「その理想も、一年前の戦いで曹操さんに敗れてしまった」

 魏が三国を統一したことは、同時に劉備の志を曹操の覇道が打ち倒したことでもある。平和を説きながら武器を取り、正義を語りながら謀を仕掛ける劉備の理想はぬるま湯だと、曹操は切り捨てた。

 謀略や武力の行使を進言したのは彼女の部下である。しかしそれを容認したのは紛れも無く劉備本人なのだ。

「だからね、愛紗ちゃん」

 空虚な笑みを浮かべて、関羽に語りかける。

「私は―――――劉備玄徳は一年前のあの時に、死んだんだよ」

「そんな……」

 信じられない、と頭を振る関羽だったが無理も無い。

 この一年、劉備は弱音など吐くことなく三国同盟という新しい世界で蜀の国を護る為に働き続けていた。王としてその責務を全うしようと全力で政務に取り組んでいた。

 けれど、割り切れるわけが無かったのだ。

 砕かれた自分の理想を、間違いだと受け入れるわけにはいかなかった。

 確かに曹操の取り計らいで統一後も蜀の君主は劉備に任されている。けれどそれはあくまで役職の話だ。戦いの末、劉備の信念は覇王の覚悟に届かなかったのだから。

「愛紗ちゃん、知ってる? 曹操さんは私たちに勝った後の祝勝会で、泣いてたの」

「い、いえ」

「前にね、曹操さんと会った時になんで聞いたの……曹操さんの恋人が、あの場所で亡くなったんだって。決戦のだいぶ前から調子が悪くて、それでも一緒に戦って。でもその人物が魏の戦列から離れたらきっと負けていたのは自分達だって、言ってた」

 曹操は恋人を犠牲にしたのだ、理想を成し遂げる為に。

 それでも彼女は前へ進むことを止めない。傷つくことを恐れない。

「それを聞いて分かったんだ。私の理想は、本当にぬるま湯だったんだって。だから……」

「だから、自ら戦うと」

 こくり、と頷く劉備に関羽は深い溜息を返した。しかしその顔に優しい笑顔を浮かべて。

「ならばとやかくは申しません。ですが、一つだけ憶えておいて下さい」

「うん」

「貴方の命が尽きれば、私や朱里たちも含めたこの国に生きる幾千幾万の民の命も尽きるのだと」

「うん……!」

 涙を流しながら答える劉備の頬を優しく撫でながら、関羽は傍らに立てかけてあった剣を取った。流麗に輝く王の剣を劉備に握らせ、関羽が言う。

「朝の調練だけでは足りますまい。職務は私と朱里で対応しましょう」

「…………ありがと、愛紗ちゃん」

 執務室を飛び出す劉備の顔は真剣そのものだ。常日頃から温和で笑顔の絶えない彼女がここまで腰を入れている以上、第一の家臣としてはその背を押すのが道理だろう。

 それでも積み上げられた書簡の山だけは、変わらなかったが―――――――

 

 

 

 

 

 

 街の門の下で剣崎一真はひたすらに続く地平線を眺めていた。門から延びる交易道は内陸へ続いているはずで、本来ならば多くの商人や旅人が行き交う流通の大動脈といえるものだ。

 それも鬼の騒動が続いて諸外国からの来訪者はもとより、三国間の遣り取りもめっきり減ってしまった。

(こんなのって駄目ですよね!? なんとかしなくちゃ、ですよね!)

 活気を失いつつある街を見つめながら、劉備はそう言っていた。

 半月ほど前の夜だった。劉備の執務室に呼び出された一真は彼女から直々に剣の手解きを頼まれたのだ。教えてやる義理もないので断ろうと一真は考えた。他にすべきことがある上に、彼女達と行動を共に出来ない理由が彼にはあった。

 それでも、こうしてこの国に居るのは……

「おっ、こんなところに居たのか」

「…………クウガか」

 繁華街から大きな紙袋を抱えてやってきたのは小野寺ユウスケだった。袋から取り出した肉まんを頬張りながら近づいてくると、もう一個を一真へ放り投げる。

「喰えよ」

「……ああ」

 肉まんを齧りながら二人は並んで地平線を見つめる。カラッと晴れ渡った青空が気持ちよかった。思考を中断させられてしまったが思いのほか肉まんが美味なので、一真はとりあえず出かかった不満を飲み込んでおく。

「そういえば、ディケイドは一緒じゃなかったんだな」

「はぐれたんだよ、色々あって。そっちこそ此処で何してるんだ? 前の戦いの後、帰ったと思ってたけど」

 視線を交わすことなく、尋ねながらユウスケは二つ目の肉まんにかぶりつく。

「鬼が来ないか見張ってたんだ」

「いや、そうじゃなくて……」

 質問の意図をユウスケが改めて説明しようとして、一真はにやりと笑って見せた。どうやら引っ掛けだったらしい。

「此処には護るべきものがある。だから俺は俺自身の誓いにかけて護る。それだけだ」

 けれど真顔で返した答えは、一部の揺るぎも無い真っ直ぐさがあった。

「…………」

「どうした、小野寺ユウスケ」

 まじまじと自分の顔を見つめられて、一真が怪訝そうに眉を寄せた。親しい人間であってもなかなか気分のいいものではない。それでも視線を逸らさずユウスケは真顔で言った。

「いや、アンタも仮面ライダーだったんだなって」

「――――――あ、ああ」

 ライダーは即ち正義の戦士である。

 戦いに身を投じる理由はともかく、その行動は弱きを助け強きを挫く。常に力を持てない人々の代わりとなってあらゆる脅威と戦う。人々を護る為に鬼と戦う剣崎一真は、確かに仮面ライダーだった。

 では何故、彼の表情が苦しそうに歪むのか。

「一真……?」

「小野寺、俺は――――――」

 

『そうだ! 今のお前はもはや仮面ライダーではない!』

 

 二人の前、門から街の外へ続く空間が銀色に輝きながら歪んだかと思うと、一人の中年の男が姿を現した。

「貴様、鳴滝!?」

「ど、どういうことだよ。こいつは仮面ライダーブレイドなんだろ!?」

 何故この男がこの世界に!?

 驚く二人に対して鳴滝は歯痒さを隠さぬまま吼える。

「確かに剣崎一真は仮面ライダーブレイドだった。しかしその最終形態……キングフォームへの度重なる変身によって装着者の肉体はアンデッド化してしまう!」

「ば、馬鹿な!」

「教えてやろう。ブレイドのライダーシステムをな」

 否定しようとするユウスケに鳴滝が語りかける。

 そもそも剣崎一真が変身する仮面ライダーブレイドは、『アンデッド』と呼ばれる不死生命体を倒す為に生み出されたライダーシステムだ。地球上に存在するあらゆる生命体の始祖である彼らは不死身で、少なくとも現代のあらゆる兵器を用いても殺すことは不可能。

 そのため、ライダーはアンデッドを撃破するのではなく『ラウズカード』と呼ばれるカードに封印することでその活動を停止させる。同時に封印したカードを使用することで各個体の能力を行使できるようになるのだ。

 そしてライダーの力は……カードに封印されたアンデッドとの融合によって得られる。一真が変身の際にベルトのバックルへ挿入するカードもまた、ラウズカードなのだ。

 つまりアンデッドの力を使ってアンデッドを倒す。

 毒を以って毒を制するのが仮面ライダーブレイド。

「敵を、自分の力として取り込むってことか?」

「そうだ。しかし通常ならば、システムに保護されているライダーの体がアンデッドに侵食されることは無い。例外は唯一つ、キングフォームだ」

 キングフォームは一人のライダーが保有できる最大数……13体のアンデッド全てを同時に発現させて変身する、最強形態だ。全身には融合したそれぞれのアンデッドの紋様が浮かび上がり、黄金に輝く鎧を傷つけることはおよそ不可能だ。かつてのディケイドも、一真のキングフォームの前には手も足も出なかった。

「13体のアンデッドと、融合……!?」

「あまりに強過ぎる力は自分自身をも蝕んでいく。変身するたびにアンデッドとの融合は進み……」

「――――――――――言うな!」

 鳴滝の言葉を一真が遮った。

 同じライダーであるユウスケに知られることはまだいい。しかし一人だけ、今自分を『正義の味方』だと信じてくれている彼女にだけは気付かれるわけにはいかなかった。

 たとえ、この場に居なかったとしても―――――

「こんなところまで来て説教だけのつもりはないだろう。鳴滝」

 怒気を孕んだ瞳で相手を見据えながら、一真は腰のバックルにカードを挿入する。

「無論だ。お前の正体を暴き、傷心の劉備に取り入ってディケイドへ投入する戦力とする」

「そうかよ……だったら、俺はお前を許さねえ!」

「ならばこれを見るがいい!」

 言うや否や、鳴滝の背後から鬼達が次々に現れて一真とユウスケを取り囲んだ。鳴滝はともかく、さすがに住人達も鬼の出現には気付いて我先に逃げ出し始めた。見張りの兵たちが機敏に動いて誘導してくれなければ将棋倒しになっていただろう。

「お、鬼と手を組んだのか!?」

「知能は決して高くない。洗脳は簡単だ。そしてクウガ、お前も私の邪魔をするのなら消えてしまえ!」

「くそぉっ!」

 敵意を向けられ、たじろぎならもユウスケはクウガに変身した。鬼は既に自分達を標的と認識して襲いかかってきている。同様に一真も仮面ライダーブレイド・キングフォームへと変身し、鬼達を圧倒的な力で切り伏せる。

 クウガの拳とブレイドの刃の前では鬼など雑兵も同然だ。

 しかし―――――

「くっ……」

 敵を圧倒する戦いの最中で一真が膝をついた。特に手傷を負ったわけでもなく、病を患っていたわけでもないはずだ。

(……まさか!?)

 病、というキーワードにユウスケが一つの可能性を感じ取った。身動きの取れない一真を鬼から護りながら、背中越しに問いかける。

「アンタ、もしかして体が――――!」

 ブレイドは沈黙を保ったままだ。

 それが同時に、答えでもある。

 一真の姿を見て、鳴滝が勝ち誇ったように弁を振るった。

「見るがいい! キングフォームの力は装着者である剣崎一真の肉体を蝕み、造り替える。最強のアンデッド……『ジョーカー』へと!」

「な、なんだって!?」

「今の剣崎一真はアンデッドとしての闘争本能――――人間を抹殺しようとする本能を押さえ込むのがやっとの状態に過ぎないのだ!」

 かつて、超古代の地球ではバトルロワイヤルが行なわれていた。それは様々な生物の始祖たちが、どの生物が地上を独占するか……覇権争いのための戦いだ。ブレイドが戦うアンデッドは、この各生物種族の始祖のことである。

 代表であるアンデッドは他のアンデッドを倒していき、最後の生き残ったアンデッド=種族が地上の最大勢力となる。現代において人類が地上でもっとも勢力が大きいのは、この戦いで人類の始祖である『ヒューマンアンデッド』が勝利したからに他ならない。

 そして『ジョーカー』とは、地球上の如何なる種族にも属さないアンデッドであり、同時に全53体のアンデッドの中でも最強の力を持つ個体でもある。複数のアンデッドの力を取り込むキングフォームによって、剣崎一真は人間とアンデッドの力を併せ持った究極の生命体へと変貌してしまったのだ。

「その証拠に、見るがいい!」

 鬼達に殴り飛ばされ、ついに変身が解けた一真の口元からは赤い血ではなく……緑掛かった乳白色の体液が零れ落ちる。

 まさに、人ならざるモノの証だった。

「だから、どうした」

 ゆらり、と立ち上がる一真の瞳に燃えるのは憎悪の炎。

「人間でなくても、俺には護りたいものがある。戦う理由はそれだけで充分だ!」

 呻きと共に一真の体が歪み、膨らんで異形の存在へと変貌していく。青白い体躯にカミキリムシを髣髴とさせる貌。さらに両腕には鋭い鍵爪が生え、まさしく正真正銘の化け物となった。

 あらゆる生命のルーツから外れた、闘争本能の権化。

 正義を語るにはあまりに醜悪すぎる。

 今の剣崎一真から感じられるものは『殺戮』の意志だけだ。

「ヴォアアアアアッ!」

 取り囲む鬼を鍵爪で瞬く間に薙ぎ払い、一真が鳴滝へと近づいてゆく。残りの鬼達が阻もうと立ち塞がるが何も出来ずに惨殺されるばかり。そうして鳴滝が一人になるまで五分、いや一分さえ掛からなかった。

 錆色の血が滴り落ちる爪を振り上げて、ジョーカーが恐怖に立ち尽くす鳴滝へその一撃を―――――

 

 

「一真さん、だめぇっ!」

 

 

 一真を阻んだのは劉備の声だった。見れば鳴滝を護るように一真の前に立ちはだかる彼女の姿がある。振り下ろされた爪は寸でのところで劉備の頬を掠めるに留まっていた。

「はぁっ、はぁっ……駄目ですよ一真さん」

 騒ぎを聞きつけてここまで全力で走ってきたのだろう。劉備は肩で息をしながら震える声で語りかける。

「自分で言ってたじゃないですか、『全部の人を助けるために戦う』って」

 それは劉備の早朝特訓を始めて一週間ぐらい経った位だったか。

 ようやく様にこそなってきたが、基礎体力から劣る劉備に長時間の特訓は逆効果だった。そうして幾度も取った休憩の合間に交わした雑談で彼女に尋ねられたのだ。

 何故戦っているのか、と。

(そうだ、俺は……)

 その時、自分は答えたのではなかったか。

 護る為に。

 全ての人を護る為に。

「だから、こんな風に戦っちゃ駄目です!」

「グ……ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 両手で頭を押さえてジョーカーが苦しみに仰け反った。怪物の本能と人間の理性がせめぎ合っているのだ。

「りゅ、う……び」

「か、一真さん!?」

 悶えながらも僅かに戻った意識がその名前を呼ぶ。

 だがそれも一瞬のことでしかない。劉備の伸ばした手を振り払って一真は街を飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 鳴滝の引き連れてきた鬼による被害はごく軽微だった。せいぜい門の閂が歪んで、避難の際に転んだ住人が数名足をすりむいた程度。鬼との戦闘においてこれほどまで損失の少なかったことは殆ど無い。喜ばしいことなのだが、頷けない理由もまた存在した。

 玉座の間で緊急に執り行われた軍議で声を荒げるのは厳顔だ。

「なりません、桃香様! お一人であの男を捜しに行かれるなど……聞けばそやつは妖怪の類だとも。危険です!」

「それに鳴滝と言う男の動きも気になります。桃香様を狙っていることが明白である以上、守りを固めるべきかと」

 厳顔に続いて意見を述べる諸葛亮。彼女の指摘は正鵠を得ている。確かに鳴滝は劉備を自分の勢力に取り込もうと考えているらしい。『ディケイド』という存在と戦うためらしいが……

「ユウスケ、何か考えは在るか?」

「そうだな……まずディケイドは俺の仲間のことだ。鳴滝の口ぶりから考えれば、たぶんこの世界に来ていると思う」

 ディケイドがユウスケの仲間であるなら、鳴滝と協同するわけにはいかない。

「それからもう一つ。剣崎一真を危険と考えるのは間違いだ」

 厳顔を見据えてきっぱりと、同じ『仮面ライダー』として小野寺ユウスケは断言した。

「し、しかしだな」

「桔梗さん」

 反論する厳顔を制して劉備が玉座から立ち上がる。

 王の証たる宝剣を腰の鞘に納め、ゆっくりと前を向いて歩き出す。

「一真さんは、私に教えてくれました。自分がどういう風に生きてきたのかを」

 特訓の合間に、「知りたい」とせがむ劉備に一真は諭すように語って聞かせてくれた。

 幼い頃に両親を火災で亡くした彼は『誰かを護りたい』という強い思いを抱いて『仮面ライダー』としての道を選んだ。彼を待っていたのは決して楽な世界ではなかった。怪物との戦い、本当に護るべき物の意味、願いと乖離する運命……苦悩の末に一真が選んだ答えは、何よりも耐え難い道だった。

「独りで、です……一真さんはずっと独りきりで戦ってきたんです。大切なものを傷つけてしまわないように、自分を遠ざけて」

 朝焼けの空を見上げながら、語り終えた一真はぐしゃぐしゃに泣いている劉備に最後にこう付け加えた。

『護るのって、しんどいよな……でも、護りたいから頑張れるんだ』

 優しく彼女の頭を撫でる一真の顔には疲れきって、それでも満足気な笑顔があった。

「それで、気付いたんです。私は今までずっと、傷つくことを遠ざけてたんだって。誰かを傷つけることが嫌で、自分が傷つくのも嫌で、皆仲良く出来ればそれでいいって思って……」

 それこそが自分に無くて覇王が持っていたもの。

「理想の為に全てを受け入れること。そして、その結果として自分が傷つくことも厭わない勇気が私にはなかった」

 一真はきっと心のどこかで恐れていたはずだ。

 劉備の傍で剣を教えていれば、いずれジョーカーの本能に自分が飲まれてしまうかもしれない。

 自分の正体が暴かれて、劉備たちから拒絶されてしまうかもしれない。

 それでも此処に居てくれたのは、他ならぬ劉備たちの笑顔を護りたかったから。その為に自分が傷つくことになったとしても……

「もう一度言いますね、桔梗さん。私は一真さんを探しに行きます。護るべきものを護るために」

「桃香様――――――ならばこの厳顔、もう何も申しますまい。留守は我らにお任せあれ!」

 かつて戦乱の世に流されながらも己の理想を貫こうとしたか弱い乙女が、独りの『王』としてついに立ち上がることを知った。

 平伏する厳顔に軽く会釈して劉備は駆け出した。きっとまだ近くに居るはずで、探せば必ず見つかるはず。一真の行く当てこそ分からないが確かな確信だけが彼女の胸にはあった。

(大丈夫!)

「桃香様っ!」

 刹那、広間の出口へ足を踏み出そうとする劉備を横から関羽が思い切り突き飛ばした。悲鳴を遠くに聞きながら劉備が視線を動かすより早く、巨大な火炎弾が関羽の姿を飲み込んだ。

「あ、愛紗ちゃん!?」

 天井を突き破って襲来したのは龍の顔を持つ灰色の魔人だ。その後ろにはユウスケや一真、仮面ライダーに良く似た格好の兵隊が付き従っている。

「迎えに来たぞ、劉備。今こそ世界の破壊者『ディケイド』を倒す為に、私に協力するのだ」

 しかし劉備は答えない。

 代わりにその右手が腰の剣に添えられ、食いしばった歯がぎしりと鳴った。

「無駄な抵抗は止めるべきだ。これ以上、配下の将を失いたくないだろう?」

 ぷつり、と何かの切れた音を厳顔は聞いた。

 自分ではない。

 他ならぬ、我らの王が……

「愛紗ちゃんを――――――――」

「!?」

「愛紗ちゃんを、返せぇぇぇぇっ!」

 劉備が放った渾身の一撃が魔人の鱗を砕き、打ち倒す。致命傷には決して至らないが、確かに彼女の力は憎むべき敵を退けたのだ。

 偽りの無い魂の叫び。

 決して怯むことのない怒りの炎。

 立ち止まらない代わりに溢れ出る涙は、勇気の印だ。

「よくも……」

「良い一撃でした、桃香様」

「よくも愛紗ちゃんを……お?」

 聞きなれた義妹の声に劉備が振り返る。先程の火炎弾が打ち込まれた場所から立ち込める黒煙が晴れ、まず現れたのは青の戦士。あの火炎弾を受け止めたのだろう、手に持った棍がぶすぶすと焦げている。

「うむ。よくやってくれた、ユウスケ」

「俺が傍に居て、姐さんをやらせるわけないじゃないか」

 クウガ・ドラゴンフォームの後ろから姿を見せるのは、天下にその名を轟かす美髪公――――――勇将・関雲長。誇らしげに胸を張るクウガに満足気に頷きながら関羽が高らかに叫ぶ。

「先程桔梗も申しました、此処は我らにお任せください!」

「そうだぜ、劉備さん! アンタは早く剣崎一真を!」

 襲いくる怪人と兵隊を昆で薙ぎ倒しながらクウガも吼える。

「おのれ……だがクウガ、この数ではお前と言えど!」

「舐めるでないわ!」

 先刻の火炎弾を思わせるほどの爆音と共に仮面の兵士たちが粉微塵に弾け飛ぶ。厳顔の大筒から放たれた一撃が動揺する兵隊の群れを薙ぎ倒したのだ。

「人間の力と技を侮るとこういうことなる……覚えておけい!」   

「そういうこと。そして俺が姐さんの……愛紗の前に立つ限り俺は負けない!」

 威風堂々と宣言するクウガの後頭部を、あろうことか関羽の青龍刀が襲った。辛うじて回避したクウガの抗弁を一喝して封じ、関羽が改めて劉備に向き直った。遠くから聞こえてくる諸葛亮たちの黄色い悲鳴も無視しておく。

「そういうことです。お急ぎください」

「……うん!」

 

 

 

 

 

 

(俺は……守りたい)

 城の北側。人気も無く、鬱蒼と木々が生い茂るその場所は、暗い雰囲気からか城の人間も特別用事が無ければ滅多に近づかない。

 そこで、一つの異形が立ち尽くしている。

(ずっと、そう想ってた……)

 親を火災の中で見殺しにした幼い頃から。

 仮面ライダーという天職に出会い、その道を選んで今に至るまで。

 剣崎一真という男はヒトを捨ててまで何を護りたかったのか。

(みんな生きている。誰かの勝手な理由で死なせてたまるか)

 家族、親友、恋人……皆がそれぞれに持つ大切なもの。それはとても美しくて、儚くて、脆い。アンデッドという脅威の前にはあまりに無力で、気付けば自分は仮面ライダーに志願していた。

 戦った。

 最初は未熟で、生き残るのがやっと。

 迷いながら、挫けながら、それでも誰かの笑顔が護れるならと戦い続けた。

 剣崎一真がヒトではなく、忌むべきアンデッドへと変貌しても。

(全部の人が平和に暮らせるなら)

 例え自分が人から疎まれる存在になってしまってもかまわない。

 そうだとも、自分はジョーカー。

 力を持てない人々を待ち受ける悲劇をひっくり返す為の切り札だ。

「――――――!?」

 遠くから悲鳴が聞こえる。

 そして、怪物の唸り声。

(鳴滝、か……)

 性懲りも無くまた現れたらしい。

 これ以上この国を脅かすというのなら――――――

 

 

「一真さん!」

 

 

 

 

 

 

「さあドラゴンオルフェノクよ! クウガを八つ裂きにしてしまえ!」

 この怪人はドラゴンオルフェノク、というらしい。

「くっ!」

 吐き出される火炎弾を前転で回避して、クウガが一気に相手の懐へ飛び込んで拳を見舞う。すでに青から赤の戦士へ変身したクウガの一撃は城壁さえ砕かんばかりだが、それを受けても怪人は平然とした様子でクウガを殴り返した。

「ユウスケ!」

「だ、大丈夫だ! それより姐さんたちは他の奴らを!」

 ドラゴンオルフェノクは攻撃、防御のいずれをとっても並以上の強さを持っている。とてもではないが関羽たちでは太刀打ちできまい。

「愛紗! ここは儂が援護する、お前は雑兵どもを蹴散らせい!」

「……すまない、桔梗!」

 厳顔の大筒が火を噴き、ドラゴンオルフェノクを横殴りに吹き飛ばす。

 その隙を突いてユウスケは衛兵の一人から剣を借り受け、

「超変身!」

 今度は紫のクウガへと変身する。

 紫――――――タイタン・フォームと呼ばれるこの形態は防御力に特化しており、胸や肩に鋼を纏っている。さらに剣を用いた一撃は赤のクウガ――――マイティ・フォームを遥かに凌ぐのだ。

 一方の仮面の兵隊達だが、すでに黄忠、張飛率いる蜀の主力部隊が動いていた。

 幸いにもこの事態を早急に察知した馬岱が郊外で演習中だった彼女達を呼び戻してくれたのである。

「オラオラオラなのだ―――――!」

「これだけの兵力をどうやって……いえ、考えるのは後ね!」

 二人の率いる兵士たちはいずれも精鋭であり、特に今は鬼との戦闘を想定した過酷な訓練を受けている。

「やろうども! 奴らの■■■■を食い破れ、なのだー!」

「ああ、鈴々ちゃんが毒されていくわ……」

 張飛に訓練法を伝授した者が誰なのか、いずれにせよ責任の追及は避けられまい。

 

 

 

 

 

 

「一真さん!」

「劉備……」

 駆け寄ってくる劉備は肩で大きく息をしながら、ようやく見つけた、と一真の前でぺたりと座り込んだ。こ全力で走ってきたのだろう。汗だくの彼女はしかし、此処までの道のりを迷うことは無かった。

「どうして、俺が此処に居ると……」

「なんとなく、です」

 一真を見上げて劉備が悪戯っぽく笑ってみせる。

「一真さんが私たちを置いてどこかに言っちゃうわけないですし、でもあんなことがあったから顔も合わせづらいかなって思って。たぶん人気の無い此処じゃないかなぁ、と」

「――――――」

「それに、いつも此処だったじゃないですか」

「……そうだったな」

 此処だったのだ。

 秘密の特訓を行なう場所として、二人は半月ものあいだを毎朝此処で過ごした。短い時間ではあったが、共に過ごした思い出は決して少なくはない。

「ひどい特訓だったな」

「え?」

「素振りの一回目で、手からすっぽ抜けた剣がこっちに飛んできたんだぞ?」

「ううぅ……」

 特訓初日の事だ。思い切り振り下ろした剣が劉備の手から抜けて、一真の側頭部を掠めたのである。

「そ、そんなこと言ったら一真さんの作ってきてくれたお弁当だって!」

「何かあったか?」

「普通に美味しかったです」

 早くに両親を亡くした一真は一人暮らしが長く、節約せざるを得ない生活のため自炊の技術も身についていた。当然、一通りの料理は体得している。もっとも普段は面倒なので、作る人間がいればそちらに任せきりにしているのだが。

 思い出せば、何と可笑しく、楽しい日々だったことか。

「……心、落ち着いたでしょ?」

「ん? あ、ああ」

「よかった。いつも通りの一真さんです」

 気付けば先程までの湧き上がる衝動も、暗い絶望感も消え失せていた。

 もう、その魂が揺らぐことはない。

「それで、鳴滝が来てるんだろ」

「あぁっ! そうだった、忘れてた……!」

 ユウスケたちがやられてしまうことは無いにしても、今頃は四苦八苦しているに違いない。一刻も早く戻らなければ、後でどんなお小言を言われるか分かったものではなかった。

「急ぎましょう!」

「待て!」

 走り出そうとする劉備を一真が引き止める。

 次の瞬間、二階部分の城壁が弾け飛び、変身の解けたユウスケと関羽が転がり落ちてきた。それを追って灰色の魔人も地面へ降り立つ。

「愛紗ちゃん、ユウスケさん!」

 立ち上がろうとして片膝をつくのが精一杯の二人だ、答える余裕も無い。

 クウガと関羽を相手にしてここまで圧倒する相手である。かなり手ごわいことは想像に難くない。問題は劉備たちが動くよりも早く魔人の腕が二人の命を奪うことか。

 ドラゴンオルフェノクの爪がまずユウスケに狙いを定め――――

「!?」

 何処からか投げつけられた石つぶてに怪人が振り返った。見やれば茂みの中から飛び出してきた三人の子供達が各々に拾った石を掴んでいる。

「ソウ、チョウ、ヨウ!?」

 ユウスケが名前を呼ぶ三人の少年少女は、以前に鬼の襲撃を受けた集落で孤児になった子供たちだ。それをユウスケと関羽が自分達の手元へ引き取ったのである。

 その彼らが今、小さな勇気を振り絞って悪へ立ち向かって行く。

「ユウスケを護る!」

「絶対護る!」

「ぜったい……助ける!」

 しかし怪人の前では幼い子供など足元で動き回る蟻に過ぎない。特に迷うことも無くドラゴンオルフェノクは三人に向かって火炎弾を吐き出した。

 数千度の熱と大地を深く抉るほどの破壊力が迫り、

「があっ!」

 その侵攻を一切阻むために立ちはだかったのはジョーカーだった。如何に最強のアンデッドであっても今の一撃は相当に堪えたのか、しかしよろめきながらも倒れることは無かった。

「だ、大丈夫か……?」

 背後の子供たちに声をかけると、最初は誰かは分からなかったらしく首を傾げるがすぐに相手が「ユウスケの仲間」と気付いて頷き返してきた。

「カズマだ!」

「カズマ強い!」

「……でも、大丈夫?」

 子供たちの声にジョーカーは頷いて、立ち上がった。

 表情こそ窺えないが、その居姿に迷いは見受けられない。今や彼は地上最強の存在、究極の切り札――――――ジョーカーなのだ。全身から放たれる闘氣にドラゴンオルフェノクもたじろぐばかり。

 その隙を突いて劉備が関羽とユウスケを肩に担いで安全な場所へ引っ張っていく。

「と、桃香様……」

「大丈夫。あとは私達が何とかするから」

 なおも立ち上がろうとする関羽を押し留めて劉備は諭すように言った。

 子供たちと共に茂みの後ろへ誘導して、再びジョーカーの隣へ戻る。右手に王の剣を握り締めて。

「何故だ、劉備!? 理想を失った君を何がそこまで突き動かす!?」

 大穴の開いた城の二階から心底信じられないといった顔で鳴滝が叫ぶ。事前に集めた情報で曹操に劉備が敗れ、温情によって君主の地位に居ることは知っていた。王として君臨してきた人間にとってそれは屈辱以外の何物でもないはずだった。

 しかし目の前の本人に、そういった感情が一切見えてこない。

「貴方には分かりませんよ、鳴滝さん」

 劉備は満面の笑みで、しかし立ち昇る怒りの闘氣だけは押さえずに告げる。

「私たちには護りたいものがあります!」

 傍らのジョーカーの手を握り締めて、もう一方の手で高く剣を掲げて。

 ジョーカーもその手を握り返し、もう一方の手を高く突き上げて。

 劉備が、一真が……二人の王が宣誓する。

「たとえ自分の理想を失っても!」

「たとえ自分が人間で無くなっても!」

 それは願い。

 それは想い。

 愛する人々の平和を願い、その命の尊さを想う。

「「全ての人たちを護りたい!」」

 真っ直ぐで、一途なまでの信念は時として生物の理を超越する。

 かざしたジョーカーの拳が光を放ち始め、それは瞬く間に彼の体を覆いつくした。情熱のような激しさと愛情の如き優しさを髣髴とさせる輝きは程なく治まり、現れたのはいつもの青年だった。

「一真さん、体が……」

「戻った、のか?」

 だが喜んでいる暇は無い。敵は目の前に居るのだから。

「いくぜ、劉――――び?」

 飛び出そうとする一真の唇を劉備の人差し指が阻む。

「桃香です。私の真名」

 ふと、以前にユウスケが言っていたことを一真は思い出した。

 この世界の乙女達は、自分の信頼を置くものにだけ伝える真の名前があると。それは剣崎一真が一つの存在として彼女に受け入れられたことを意味している。

「…………いくぜ、桃香! ヘシン!」

「はい!」

Turn Up!】

 腰に変身ベルト―――――ブレイバックルを当てて一真は挿入したラウズカードを反転させた。バックルから空中に描き出された光の紋様を潜り抜け、不死の異形たちを従える王が降臨する。隣に立つ劉備と互いの剣を頭上で重ね合わせれば、全身から力が漲るようだ。

 対するドラゴンオルフェノクも、自身の体躯と同様に禍々しい剣を抜いて来たる猛攻に構えた。

 だが今の二人は人に在らず。

 『王』。

 全ての人々を守る為に己を捨て去った『王』である。

「ヴェアアアアアッ!」

「ええいっ!」

 宝剣・靖王伝家と重醒剣・キングラウザーの連撃をドラゴンオルフェノクの大剣が迎え撃つがたちどころに折られてしまい、怪人は全ての攻撃を全身に受けることとなった。

 体中から火花を散らして吹き飛ぶオルフェノクを、一真たちが逃すはずも無い。

「今です!」

「よし!」

Spade Ten, Jack, Queen, King, Ace…Royal Straight Flash!】

 ロイヤルストレートフラッシュ。

 キングラウザーに読み込んだ五枚のカードの紋様を潜り抜けることで刀身にアンデッドの力を宿して相手を切り伏せる最強の奥義だ。淀みない動作で一真がカードを読み込み、五枚の光の紋様が二人と怪人の間に出現する。

「おおおおおおおおおおっ!」

「たあああああああああっ!」

 一真と劉備が共に並んで紋様の中を駆け抜け、各々に振り上げた剣でドラゴンオルフェノクを両断した。崩れ落ちた怪人はたちどころに爆散し、立ち昇る黒煙を背に劉備と一真が視線を交わし、頷きあう。

「やれば出来るじゃないか」

「えへへ、そうですね!」

 人々の脅威を打ち払った、確かな手ごたえを感じて劉備がはにかんだ。小さな一歩かもしれない。今回とて一真が居なければどうにもならなかったかもしれない。けれど、劉備もまた確かに必要な存在なのだと本人は確かに感じ取っていた。

 自分にも出来る、という事実は自信に繋がる。

 自信は人に新たな可能性を示し、己の限界を踏破させる原動力になる。

「一真さんが……教えてくれたからですよ」

 剣の使い方だけではない。

 戦うこと、護ること、その意味を彼は身を以って示してくれた。

「まあ、俺は大したことしてないけどな」

「ありがとう。一真さん」

 じっと見つめる劉備の視線から顔を逸らしつつ一真は頬を掻いた。まだ変身したままだが、寄り添ってくる彼女の胸の温もりは鎧越しでもあまりにボリュームがありすぎた。

 もし変身を解いていたなら、間違いなく彼の顔は耳まで真っ赤だっただろう。

「おのれ、おのれ……おのれ仮面ライダーブレイドォッ! ならば、人の造り出した最強の悪魔でお前たちを倒してくれる!」

 激昂した鳴滝が叫ぶ。

 二階から身を乗り出し、歯軋りする彼が天に手をかざして銀色にたわめくカーテンを呼び出した。異次元の扉となる銀幕から現れたのは、先程のドラゴンオルフェノクなど比べ物にならないほど凶悪なモンスター。

 二人の前に現れたのはジョーカーをと酷似した肉体と、通常の顔のほかに両肩に二つの顔を持つ怪人だ。腕には鉤爪や触手が生え、禍々しい牙が見える口からはおぞましい吐息が漏らしている。

「こいつは……ケルベロス!?」

 ケルベロス。

 かつてバトルロワイヤルに勝利し、人類を抹殺して新たな世界の創造主となろうと画策した男が居た。その男はライダーを利用してアンデッドを封印し、そのデータを基に造り上げた人造アンデッドである。

「そうだ、ブレイド! 世界の平和の為に生み出された究極のアンデッドの力でお前たちは滅び―――――ぬわぁっ!?」

 鳴滝の背後で何かが爆発し、宙に放り出された体が大地に激突する。それでも何とか立ち上がると、そそくさと彼はケルベロスの後ろへ消えていった。恐らく例の銀幕を使って逃亡したのだろう。

 そして鳴滝の居なくなった二階から姿を現したのは――――――

「やれやれ。あまり僕の手を煩わせないで欲しいな」

 蒼き仮面を纏った銃士が悠々と立っているではないか。

「か、海東さん!?」

「オマエ、どこに行ってやがった!」

 二階から舞い降りた海東大樹は至極不満げな様子で、愛用の超拳銃・ディエンドライバーをケルベロスへ突きつけた。躊躇うことなくトリガーを引けば銃撃が怪人を徹底的に打ちのめす。

「僕は劇場版から帰ってきたばかりなんだけど……まあ、いいや。事情は大体把握している」

 この世界のものではない怪人。

 そして、手を取り合うジョーカーと劉備。

 此処で何が起きて、自分が何をすべきなのか……海東大樹はすでに理解していた。

「さて、劉備君。後ろを向いてくれたまえ」

 ディエンドライバーに新しいカードを挿入し、しかしあろうことかその銃口を海東は劉備へと向けた。

「え? あの、もしかして……」

「ほら早く! 痛みは一瞬だから!」

Final Form Ride…Ryu, Ryu, Ryu, RYUVI!】

 光弾に撃ち抜かれた劉備の体が瞬く間に折りたたまれ、まるで剣の柄のように変形してしまった。さらに彼女の宝剣が柄と合体し、あれよあれよと言う間に見事な長剣が完成した。

 これには茂みで静観していた関羽も大激怒である。

「海東、貴様! 桃香様が元に戻らなくなったらどうしてくれる!」

「あ、姐さん待った! 今は先にあの化け物を何とかしないと!」

 ユウスケが間に入ってとりあえず関羽も冷静さを取り戻したが、海東は特に気にすることも無く変形した劉備の剣を一真へ向かって放り投げた。

「君が使いたまえ」

「ああ、ってこれ……ラウザーか!」

 人呼んでトウカラウザー。ラウズカードを読み込む為のスリットとカードホルダーまでも兼ね備えた劉備の新しい姿である。おまけにホルダーにはカードもセッティング済みという超豪華仕様の一品だ。

 ふと、大事なことに気付いて一真は手元のラウザーに視線を落とした。

「桃香は大丈夫なのか?」

(な、何とかなってますけど、ちょっと窮屈です)

「分かった。一気に終わらせるぞ!」

(はい!)

 頭に直接響いてくる劉備の声に頷いて一真はトウカラウザーから三枚のカードを引き抜き、スリットへ通していく。

Fire, Drop, Gemini…Burning Divide!】

 まず驚くべきはブレイド・キングフォームが二人に分身したことだ。ラウズカード『ジェミニゼブラ』の力によって現れた分身は実体を持ち、攻撃をさせることも可能となっている。普通は本体に分身が追随するのだが、今回は分身を劉備が操る。

 そして『ファイアフライ』『ドロップホエール』のカードによってライダーの攻撃に炎のエネルギーが付加され、さらに脚力の強化によって強力な踵蹴りが使用できるようになるのだ。

 だがそんな攻撃の準備をケルベロスが許すはずもない。すかさずブレイドへ襲い掛かろうと跳躍し、

「好き勝手に動かないで貰いたいね」

Final Attack Ride…Di, Di, Di, DIEND!】

 仮面ライダーディエンドの一撃を受けて再び地面に叩き落された。もちろんこれで動きを止められるわけではない。すぐさま立ち上がったケルベロスが駆け出した。ディエンドが追撃を掛けるが通常の射撃では全く怯まない。

 ブレイドに向かって真っ直ぐに突き進む怪人を、この二人がそのまま見逃すわけがなかった。

「俺たちも行こう、姐さん!」

「当然だ!」

 クウガの渾身の跳び蹴りと関羽の斬撃を受けてついにケルベロスがついに膝をついた。

「トオガァッ!」

(一真さんっ!)

 絶好の勝機を掴み、運命の切り札を開く。

 跳躍した二体のブレイドは空中で体を捻り、紅蓮に燃えるドロップキックをケルベロスの顔面に打ち込んだ。一発だけでも城壁を貫通するほどの威力を持つ技を分身による二人同時攻撃に昇華すれば、如何な怪異とて屈服せざるを得ない。

 だが相手は三つ首の悪鬼で、アンデッドだ。不死生命体を滅ぼすにはまだ力が足りない。

「もう一撃だ!」

(はい!)

 分身の効果が消え、一人に戻ったキングフォームが再びカードを読み込む。

Slash, Thunder,…Lightning Slash!】

(やああっっ!)

 逆手に持ったトウカラウザーが下段から斬り上げ、

「ヴェェェェェェイッ!」

 仰け反ったケルベロスの上体へ全体重を乗せたキングラウザーが振り下ろされる。ラウズカードによって雷光の力を宿したキングラウザーとトウカラウザーの二連撃を胸に浴びてケルベロスはその肉体を爆発の中に消したのだった。

 静寂に包まれながら、トウカラウザーの中で劉備はポツリと呟いた。

(一真さん、滑舌悪いです)

「ウェッ!?」

 

 

 

 

 

 

 翌日の剣崎一真を待っていたものは、今まで以上に騒々しい日々であった。

 まず早朝から関羽に捕まり、何故か「桃香様を万が一にも傷つけるようなことがあれば―――――」と鬼気迫る形相で釘を刺された。その後も昼前まで続いた彼女の説教から開放されたと思いきや、今度は『鈴々』と名乗る少女に城の調練場まで連れて行かれ、「決闘なのだ!」と武器を突きつけられながら申し込まれてしまった。

 逃げようにもこの少女、恐ろしいほど素早い上に馬鹿力で挑みかかってくるのだ。ブレイドの力を使うわけにも行かないので軽くあしらい、やっと遅めの昼食を取るべくと食堂へ向かおうとして今に至る。

 昨日、あれほどの騒ぎがあったはずだが……日が変われば日常の流れを取り戻せるのがこの国の人々の強さなのか。

「一真さ〜ん!」

 中庭を横切ろうとしたところで後ろから劉備が追いついてきた。一真の横に並ぶともう息も絶え絶えだ。どこから追いかけてきたのだろう。

「仕事はいいのかよ」

「やっと一区切りついて〜……もうお腹ぺこぺこ!」

「なら、今日は俺が作ってやる!」

 腕まくりして意気込む一真に劉備の顔に笑顔が咲いた。

「やった! 私、炒飯がいい!」

「炒飯だけでいいのか?」

「じゃあ麻婆豆腐……ダメダメ! 最近やっとお腹周りがスッキリしたのに!」

 どうやら特訓と併せて減量中だったらしい。むしろ減量の為の特訓だったのかもしれないが、今となってはどうでもいい話である。

 むしろ会話のたびに弾み、押し付けられてくる胸元を何とかして欲しい剣崎一真だった。

「……まあ、材料次第だな」

「そうだよね。最近鬼のせいで流通が滞りがちで仕入れも……」

 鬼の脅威に晒されている蜀では貿易にも多大な悪影響が出ている。今はまだ何とかなっているが、将来的にこれが払拭されなければ料理を作ろうにも材料が手に入らないという状況に陥るだろう。

「勝たなきゃな」

「ええ。その為に皆頑張ってくれてます。でもちょっと、厳しいかなぁ」

「おいおい、桃香がそれでどうするんだよ」

「だから……」

 不意に言葉を切った劉備が一真を見つめ上げる。

「少しだけ、分けて下さい。貴方の勇気を」

「桃香――――――」

 彼の男らしい胸板に指を添え、爪先で立つ。

 本当に桃のような唇が近づいてくる。

 僅かに乾いた一真の口元と繋がる、その刹那に―――――

 

 ガンガンガンガンガン!

 

「「!?」」

 二人の動きを止めたのは、街から聞こえてくる鐘の音。抱き合ったまま鐘が響く方角を見据え、一真は肩をすくめた。向かい合う劉備の顔にあからさまな不満の色が見えたからだ。

「鬼だな」

「……もう、よりにもよってこんな時に」

 良かったのか、悪かったのか。

 どちらなのかは後でまたゆっくりと考えよう。

 今は、護りたいものの為に駆け抜けるだけ。

「行くぞ!」

「はい!」

 走り出した二人はあっという間に城の正門から外へ飛び出した。最近の報告では鬼達は小さな集落には見向きもせず、最大の敵対勢力である自分達に狙いを絞ってきている。

 正門前に集結した鬼の数を数えれば、百は居るだろう。

 しかし劉備は慌てる様子も無く携えた宝剣を抜き放ち、正眼に構える。

 一真も腰のバックルにラウズカードを挿入し、準備は整った。

「俺たちを忘れるなよな!」

「桃香様もお人が悪い!」

 城壁の上からユウスケを抱きかかえた関羽が飛び降りてくる。仮面ライダーとしてその登場の仕方はどうなのか、一真は追及したい衝動を懸命に飲み込んだ。

「僕も手伝った方がいいね。まだお宝も手に入れていないし」

 厨房からそのまま駆けつけたのだろう。料理人姿のまま海東大樹がディエンドライバーを片手で操りながら戦列に加わった。

 

 全く終わりの見えない、異形との戦争は今日も続く。

 しかし彼女らが、彼らが諦めることは無い。

 

「総員、突撃っ!」

「「「「応っ!」」」」

 

 天下無敵の恋姫と、不屈不滅の仮面ライダー。

 手を取り合う皆の願いは唯一つ。

 

 

『全ての人が平和に暮らせますように』

 

 


あとがき

 

 

タハ乱暴「ゲルバ・ドボ・グルグ・ゴトダバ?」

 

ゆきっぷう「オンドゥルルラギッダンディスガー!?」

 

タハ乱boy「ゴドルバ・ザルバドス・ド・ラダ。ゴ・ガルド・バ」

 

ゆきっぷう「ナズェミデルンディス!?」

 

タ波乱暴「ラ・ドルド・グ。ラドルボダス・ダ・ゲルバ・ドボス」

 

一真「いい加減にしろ! ヒドォオチョグッデルドヴッドバスゾ!?」

 

 

タハ乱暴「えぇ〜……仮面ライダーのあとがきということで、グロンギ語であとがきを通そうかと思ったのですが、敬愛する剣崎一真氏よりダメ出しされてしまったので、日本語で」

 

ゆきっぷう「おほん……仮面ライダーのあとがきなので、オンドゥル語で言ってみようと思ったんですけど、我らの剣崎一真殿から指摘があったので標準語で」

 

劉備「というわけでチェン恋外伝『仮面ライダー剣 Missing Goal』をお読み頂きありがとうございました!」

 

タハ乱暴「ありがとやんした〜。どうも、なんでか知らないけど、今回のあとがきに呼ばれたタハ乱暴です」

 

劉備「そう言えばそうですよね。もしかしてゆきっぷうさんを暗殺しようとか!?」

 

タハ乱暴「えぇ〜やだよ、面倒臭い。あいつ殺したら、責任取って、俺が続き書かないといけないじゃないか。……はっきり言って、贔屓するよ? 蒲公英と翠、それから文ちゃんを贔屓するよ?」

 

劉備「案外受けが良かったりして」

 

ゆきっぷう「うぇ、ウェェェェェェェェェッ!?」

 

タハ乱暴「ま、俺っちが書く書かないは置いておいて、今回の話だよ。今回のチェン恋……じゃないな。仮面ライダー剣か。今回の話は、愛・空我、仮面ライダーディケイドの続きということだが?」

 

ゆきっぷう「その通りだ、良く分かったな!?」

 

一真「誰でも分かると思うが……」

 

タハ乱暴「いや、頭ンところで書いてあったし……。んで、舞台は蜀。主人公は一真と桃香、ヒロインは鳴滝さんという構成だったわけだが、多分、読者の皆さんがいちばん気になっているのが、そこだろう。なんでヒロインが鳴滝さん?」

 

ゆきっぷう「…………その解説はねえわ」

 

一真「ねえな」

 

劉備「ないですね。もしかして人外です?」

 

タハ乱暴「三票!? いや、一応、人間よ? うん。改造人間。まぁ、それはさておき、真面目に今回の話ではなぜ一真と桃香の二人をフューチャーしたんだ?」

 

一真「なんとなく」

 

劉備「一目惚れでした」

 

ゆきっぷう「神が降りてきて言ったんだ。『時代は一真と桃香のウェディングロードが見てぇ』って」

 

タハ乱暴(神)「あぁ〜、うん。そういえば、そんなことも言ったね」

 

ユウスケ「お前が元凶じゃないか!」

 

ゆきっぷう「というわけで、生まれたこのシナリオ……単純に劉備は蜀の『王』で、一真は仮面ライダーブレイド・『キング』フォームっていう共通点がスタートになってます」

 

タハ乱暴「みんなを護りたい。そんな理想を抱く二人の王。一方はその理想のために命を燃やし尽くし、結果、その身を異形とした。そしてもう一方は、別な理想とのぶつかり合いの果てに、自らの理想を砕かれた。そんな二人なら、意外と良い感じの話が出来るんじゃないかと、電話口でね」

 

ゆきっぷう「話していたら一時間後にはおおよその構図が出来上がっていた。さすが俺」

 

タハ乱暴(神)「いや、神の一声あってのことでしょう。さすが俺」

 

一真「その前に原作を作った皆さんを敬えよ」

 

劉備「っていうか、お似合いですよね私たち」(さりげなく一真の腕を抱く)

 

タハ乱暴「あー、うんー、お似合いダー。羨ますぃー(棒読み)」

 

ゆきっぷう「劉備は男に餓えていたしな。ユウスケのせいで」

 

ユウスケ「え? 俺!?」

 

ゆきっぷう「お前さんが関羽とくっついたことで彼女は焦り出したんだ。さも、三十路前の独身女性の如く」

 

じょにー「三十路前だってぇ!? 勿体無い。女子は四十過ぎてからが本番だっていうのに!」

 

タハ乱暴「……どっから出てきた」

 

一真「……うるせぇ」

Royal Straight Flash!】

 

 

一真「で、結局どうなんだ」

 

ゆきっぷう「ですから、ね? 鬼がのさばる現状を見過ごせなくて残った一真に劉備が急接近し、今回の話に至ると」

 

タハ乱暴「ディケイドに登場した一真は、役所のせいか素っ気無い態度が多かったけど、原作ブレイドの一真はもっと人懐っこかったし、面倒見の良いキャラだったからなぁ。色々と相談に乗っているうちに、コロリと」

 

一真「べ、別にそういうわけじゃねえって」

 

劉備「違うんですか?」

 

一真「いや、アンタが放っておけない言うのは確かだけど、そのなんだ……」

 

劉備「じーっ」

 

一真「かかかか、勝手にすればいいだろ!?」

 

タハ乱暴「あー、お暑い、ことでー。いま、夏だしねー。よーし、お前らー、南極行ってこーい」

 

一真「独身男のやっかみか、みっともないぜ」

 

劉備「南極ってどこですか?」

 

ゆきっぷう「さてさて、時間も頃合という事でタハ乱暴! そろそろ次回予告行くぞ!」

 

タハ乱暴「次回? ……ふふっ。そうだな、次回の仮面ライダーは!?」

 

関羽「チェン恋じゃない!?」

 

タハ乱暴「ついに中国ロケ決定! 超・電王シリーズ、非公式第四弾! 上海を舞台繰り広げられる華麗なカンフー・アクション。ジャッキーが、ジェット・リーが、我らが佐藤健とアクションを展開する!」

 

じょにー「そして、後に高岩○二は語る。『中国? 暑かったよ。スーツの中がすごくてね。倒れるかと思ったよ』と」

 

ゆきっぷう「というわけで、次回『仮面ライダー呉・電王! 超古代クライマックスバトル!』にご期待ください! あとジャッキーもリーも出ません!」

 

タハ乱暴「ええ〜!? キャメロン・ディアスはぁ?」

 

じょにー「ええ〜!? ジョニー・デップはぁ?」

 

ゆきっぷう「適当に大物俳優の名前を出すんじゃない! せめてパク・ヨンぐはっ!?」

 

孫策(髪に赤いメッシュが入っている)「悪・即・斬ってね」

 

劉備「それでは、読者の皆さん、またお会い出来る日を楽しみにしてますねー」

 

ゆきっぷう「ザヨダバー!」(さよならー)

 

 

ダディ「みんな、大変だ! あの剣崎に女が出来たらしい!」

 

ムッキー「ええ!? あの剣崎さんに恋人が!? ありえない!」

 

ムッコロ「これはひやかしに行く必要があるな」

 

ヒロシ「そんなこと言って出番を欲しがってもダメよ」

 

 

 

用語解説など

 

劇場版

 海東大樹が本編中で書き残した手紙にあった単語。

 通常ではいわゆるTVシリーズなどの映画化作品を指すが、ここでは映画『仮面ライダー×仮面ライダー×仮面ライダーThe MOVIE 超・電王トリロジー』のこと。本編開始時の段階で海東大樹はこの劇場作品に参加していた為不在だった。

 

 

王醒剣トウカラウザー

 劉備がファイナルフォーム・ライドによって変形した仮面ライダーブレイド専用ツール。劉備の体がグリップと鍔に、宝剣・靖王伝家を刀身となっている。

 グリップにはラウズカードを収納する為のホルダーがあり、ブレイドの保有していない様々なカードがランダムで出現する。今回は仮面ライダーギャレンの保有していた『ファイアフライ』『ジェミニゼブラ』『ドロップホエール』の三枚が入っていた。

 また、トウカラウザー自体を装備することでブレイドの基本能力を底上げする効果もある。

 

 

ダディ

 『仮面ライダー剣』に登場するライダーの一人、仮面ライダーギャレンこと橘朔也および演じた天野浩成氏を指す愛称。作中ではなく、主に作品のファンが使用する。

 由来は放送当初、滑舌の悪かった剣崎一真役の椿隆之氏の台詞『オンドゥルルラギッタンディスカ、ダディャーナザン!(本当に裏切ったんですか、橘さん!)』。いわゆる空耳だが、空耳とは思えないほど滑舌が悪かった。

 

 

ムッキー

 『仮面ライダー剣』に登場するライダーの一人、仮面ライダーレンゲルこと上城睦月および演じた北条隆博を指す愛称。作中ではなく主にファンが使用する。

 こちらも由来は『オッペケテン、ムッキー!(追いかけて、睦月!)』という台詞の空耳。

 

 

ムッコロ

 『仮面ライダー剣』に登場するライダーの一人、仮面ライダーカリスこと相川始および演じた森本亮治氏を指す愛称。作中ではなく主にファンが使用する。

 言うまでも無く由来は台詞の空耳で、『オレァクサムヲムッコロス!(俺は貴様をぶっ殺す)!』から。居候している家の小学生の女の子に、剣崎が正体を明かすと言ったことからこの台詞が飛び出した。その少女と仲が良かったこともあり、相川始=ロリコンライダーという見方もある。

 

 

ヒロシ

 『仮面ライダー剣』登場人物の一人、広瀬栞および演じた江川未右氏を指す愛称。作中ではなく主にファンが使用する。

 彼女を剣崎一真が『ヒロシザン』と呼ぶことから。

 『仮面ライダー剣』という作品とこれらを筆頭とした空耳『オンドゥル語』は切り離せない要素であり、同時に作品の魅力(?)でもあるため本作『Missing Goal』でも拙いながらオンドゥル語を使用させていただいている。




蜀にライダーが集まったな。
美姫 「鬼に対する防衛力はアップしたわね」
桃香と一真も一気に仲良くなったし。
美姫 「これからどうなっていくのかよね」
次回も楽しみです。
美姫 「それじゃあ、次回も待ってますね〜」



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る