※ 1. 本作は真・恋姫†無双のネタバレを多量に含みます。
※ 2.真・恋姫無双、魏エンド後のストーリーです。
※ 3.原作プレイ後にお読み頂く事を激しく推奨します。
※ 4.華琳様の涙を拭い去るため頑張ります。
※ 5.一部、登場人物の名前が違う漢字に変更されている場合があります。
『鬼共の追跡逃れ辿り着きし呉の大地。
刹那の安息と共に訪れるは猛追の嵐也』
孟徳秘龍伝・巻の伍「龍再天」より
真(チェンジ!)
恋姫†無双
―孟徳秘龍伝―
巻の伍・龍再天
鬼の追っ手を振り払い、孫権の一行は疲弊しながらも呉の都・建業に入った。その中には国境で離脱する予定だった公孫賛の姿もある。蜀へ戻るための道は鬼の住処と化している可能性が高く、態勢を整えずに突破することは危険すぎたため、孫権が呉へ招き入れたのだ。そういった理由で天一刀も同様に建業入りしていた。
玉座の間に通された天一刀。そして公孫賛と華佗は一列に整列して間もなく姿を現すであろう王を待っていた。彼らの両脇には甘寧と周泰が控え、その前列には黄蓋と孫権が立っている。ちなみに道中で合流した張三姉妹と華雄は北郷三羽烏と共に街の飲食街で暴食の限りを尽くしていた。
「祭!」
奥から現れた長身の女性は早足に黄蓋へ駆け寄ると、彼女をきつく抱きしめた。黄蓋も駄々っ子をあやすように腕を背中に回し、何度も撫でている。
「報告は聞いていたけど、本当に帰って来てくれるなんて……またよろしくね!」
「はっはっは。策殿はこの老体にまだ鞭打つおつもりですかな?」
「隠居する気なんてこれっぽっちも無いくせに!」
快活に笑い合う二人の後ろで、黒い長髪の女性が一人涙ぐんでいた。黄蓋はそちらにも向き直り、
「冥琳よ、すまなかった」
「祭殿……一年前、赤壁の策が破られたのは天命。故に我らは敗北と再生を得られたのでしょう」
「ふっ、その天命が服を着て目の前に居るのだがのう」
くい、と黄蓋が目線で天一刀を示すと、二人の女性の視線が彼へ向けられる。仇敵を見るというより興味津々といったところか。居心地の悪さを感じて姿勢を正し、天一刀は名乗り出た。
「天一刀、字は抱翼だ。今は魏の将をやっている」
「ふむ……名を変えたのか? 以前はホンゴウカズトと名乗っていたはずだ」
「昔はただの御遣いで、今はこの大陸の住人だからね。俺なりのけじめのつもりだ」
黒髪の女性の質問は鋭く、しかしそれに淀みなく答えてみせる。かつて曹操の後ろにくっついていた優男の面影など微塵も感じさせない、一介の将の姿がそこにあった。
「私は周瑜。呉の軍師をしている」
「あの美周郎が……蜀の諸葛亮と並ぶ智将に会えて光栄だよ」
「貴公こそ、魏において覇王の懐刀と目される男だ。期待しているぞ」
周瑜(真名・冥琳)はどうも天一刀を高く評価しているようだ。先の五胡戦においては賛否両論あれど圧倒的な兵数差を覆して戦況を好転させ、同時に敵中にあった陳宮と呂布を救出したことは紛れもない事実である。すでに間諜から情報を得ていた周瑜もまた天一刀の将としての能力の高さに、そしてその正体に気付いていたのだ。
「ちょっと冥琳? 私をのけ者にするのはひどいんじゃない?」
「ならせめて、剣にかけた手を離してからにしてちょうだい」
表面上は穏やかな表情を浮かべているが、周瑜の隣に立つもう一人の女性―――――恐らく彼女が孫策(真名・雪蓮)だろう――――の腰には長剣があり、いつでも抜き放てるよう利き手が添えられていた。殺気もまったく抑えていない。劉備ならこの場に居合わせただけで一呼吸と置かずに卒倒できるほどだ。
場の空気が一変したことに気付いた公孫賛と華佗が身構える。孫権を庇うように甘寧が一歩前に進み出て、しかし天一刀だけは揚々としていた。孫策の猛禽類を豊富とさせる眼光と、天一刀の視線がぶつかりあう。
「雪蓮、止せ。彼の身に何か有れば曹操が黙っていないぞ」
「それは無理な話。だって思春と蓮華を認めさせるだけの男なんて―――――」
孫策が跳んだ。床を蹴り、電光石火の踏み込みと共に剣を抜いてその切っ先を天一刀の首目掛けて叩きつけんと迫る。
「滅多にいないでしょ!」
水平に振りぬかれた長剣『南海覇王』は、しかし天一刀の首には届かなかった。軌道を阻んだのは天一刀の双戦斧ではなく、孫権の剣である。
「蓮華……?」
「こ奴が何者であれ、私の命を救った恩人であることは事実です。姉様といえど、斬ると申すのであればこの孫権が許しません」
孫策と孫権の視線が交錯する。一触即発の二人を横に、天一刀は困り顔で笑った。
「心配無用だよ、孫権。彼女は試しただけさ。俺が本当に天の御遣いで、その真意が何処に在るのか」
「なっ……」
「そうだろ? 孫伯符」
天一刀の問いに孫策は身を翻し、流麗な動作で剣を鞘に収めた。さもそれが「答えだ」と言わんばかりに。
「冥琳、あとよろしく」
「承知した」
玉座の間を足早に立ち去る孫策を見送り、天一刀たちは改めて周瑜と向き合った。彼女も孫策の立ち振る舞いには苦笑するばかりで、それも「いつものこと」と言うのは呉の将たちの間では周知の事実である。
「すまんな、抱翼。同盟から一年……それでも拭いきれぬ禍根はある」
「いいさ。あんただって黄蓋さんの仇と話をするのは、平気じゃないだろ」
あの時、あの戦いにホンゴウカズトが居なければ恐らく蜀呉の二国が勝利を収めていただろう赤壁の決戦。黄蓋と周瑜、諸葛亮が各々に……かつ互いの思考を読み、連携して仕掛けた幾つもの策を彼は看破してみせた。その結果、黄蓋が戦死すれば、自ずと憎しみの矛先はホンゴウカズトへ向けられる。
一年という時間は、呉の者達に刻まれた怨恨を鎮めるには短すぎた。例え黄蓋が戻ってきたとしても、簡単に無かったことには出来ないのだ。
「まだ時間はあるんだ。ゆっくり話をすればいい」
「そう言ってもらえると助かる。……部屋を城に用意しよう。そこで配下の者も寝泊りしてくれ」
滞在についての打ち合わせを始める天一刀と周瑜の後ろで、公孫賛と華佗はただのんびりと事の成り行きを見守るばかりだ。
「私たち、居る意味はあるのか?」
「俺は医者だ。平和で安全な世の中で出番も少ないなら、それに越したことは無い。無病息災、これが一番さ」
「いや、そうじゃなくてだな――――――――――」
殆ど空気と化していた公孫賛は、己の背負わされた宿命に涙を流した。
◇
「えーと……いったい何が?」
夕刻、孫策の城に用意された部屋に戻った天一刀が目撃したのはべろんべろんに酔っ払った張角、張宝と二人を寝台に寝かしつける張梁だった。街の飲食店で大騒ぎしてきたのだろう、李典と于禁も床で大いびきを掻いている。
「申し訳ありません、隊長。止められませんでした」
「凪、いいんだ。例え俺の名前で領収書を切られていたとしても」
実に一週間分の食費に相当する超高額の領収書を財布にしまいながら天一刀は一筋、涙を零した。ここまで出費がかさむといよいよ以って働かなければならない。劉備から内政の献策や賊の討伐などで幾らか報奨金はもらっていたが、それでも先のことを考えれば多少なりとも稼がなければ。
「ところで人和?」
「何かしら」
「俺たちについてきて大丈夫なのか? 興行があるんだろ」
張梁たちは呉での興行が目的でここまで来たのだ。天一刀と行動を共にする必要は無いはずだ。しかし張梁は眼鏡の位置を人差し指で直すと、嘆息しながら言った
「私たちが興行をするためにはその国の政府に許可を貰わなければいけないの。いつ、どこで、どれぐらいの規模で演目を行なうのか……だから貴方に会わなくても、結局は孫策様の城へ来る必要はあったわけ」
「そ、そうか」
「――――――――最初の予定よりも滞在期間は延びると思うけど」
「え?」
「なんでもない」
ぷい、と窓の方へ顔を背ける張梁だったが、顔が赤いのは差し込む夕陽に照らされたからではなさそうだ。彼女の背中を見つめる天一刀にはその表情を窺い知ることはできないが、ホンゴウカズトの残した傷痕がまた一つ浮かび上がったことは肌でひしひしと感じていた。気まずい沈黙が二人の間に流れる。
「…………貴方が死んだと聞いた時、最初は歌うことをやめようと思ったわ」
三姉妹にとってこの男は無くてはならない存在だった。興行を成功させるために、そして生きていくためにホンゴウカズトという支えが必要だったのだ。それを失ってなお夢を追えるほど三人の心は強くなかった。
「でも、やめられなかった。やめてしまったら、貴方との思い出まで失くしてしまうもの」
「人和、俺は――――――」
「謝らないで。貴方には貴方の成すべき事があって、それを真っ直ぐに貫こうとするから好きになったんだもの……本当に帰って来るなんて思ってなかったし」
ちらり、と卓上に夕餉の準備を進める呂布と陳宮を見やり張梁は再び溜息をついた。
「相変わらず、女誑しだもの。呆れて感動が台無しよ。今度はどこの女性に……」
「天下の飛将軍・呂布と軍師の陳宮です」
楽進が阿吽の呼吸で答えると、これにはいよいよもって張梁も頭を抱えてしまった。どこをどうやったらあの呂奉先を口説こうとか思いつけるのか、この種馬は……と片手を額に当てて嘆いている。
とりあえず呂布の準備が整ったので、一旦食事をとることにした。張梁や楽進は外で食べてきたこともあって遠慮したが、タイミングよく部屋にやってきた公孫賛と華佗のおかげで山盛りの……
「………………今日は、魚鍋」
「ねねと恋殿で釣ってきたのです! 感謝して食するのですぞ、其処の種馬!」
「……御遣い様、よそう」
「恋殿ぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
真っ先に天一刀の取り皿に甲斐甲斐しく料理を載せる呂布の姿に、陳宮はショックのあまり彫像と化した。素材は恐らく大理石だと思われる。
一方、公孫賛と華佗はそんな光景に見向きもせず、一心に料理を口へ運んでは飲み込み、飲み込んでは次の一口を……というがっつきようだ。
「うん、旨いぜ! 呂布はいいお嫁さんになるぞ!」
ぐっ、と親指を立てて華佗が褒め称える。
相手の男は一日三食鍋料理を年中食べ続けることになるだろうが……毎日呂布の愛くるしい姿を観賞できるのだから別に大した問題ではない。むしろ彼女の手料理を一日三回も食することができるなんて、全人類(♂)の嫉妬の炎で南極の氷が溶けてしまうではないか。
ともかく、華佗のド直球なコメントに呂布も思わず頬を赤らめ、その後ろでは張梁と楽進が物凄い怒気と殺気を込めた視線を天一刀へ放っている。陳宮は例によって塩の柱と化していた。
「華佗、華佗はおるか? すまぬが策殿がお主を呼んでお、る……」
「やあ黄蓋。孫策さんがどうかしたのかい?」
「……これは、修羅場かのう」
華佗を呼びに来た黄蓋が、一連の光景を見た感想は正鵠を射ていた。さらに黄蓋の後ろから現れた巨乳の女性がきらり、と眼鏡を煌かせて言い放った。
「文若さんの言っていたとおりですね〜。ホンゴウカズト……まさに、乙女心の破壊者」
陸遜(真名・穏)曰く、愛と嫉妬のジレンマに乙女の繊細な心は今日も悲鳴を上げている。愛しの彼はまた別の女といちゃこらチュッチュ〜、やってられるかコンチキショウめ。そんなちゃぶ台返しの似合いそうな陳情をする張宝の頭を、よしよしと張角が撫でている。どうやら来客で目を覚ましたらしい。
「ちょっと待ったぁっ! 誰が乙女心の破壊者だ! そんなことをやってみろ、真っ先に華琳が俺の首を刎ねるわ!」
「おや、正論ですね」
「っていうか君は誰だ?」
冷静に戻った天一刀が尋ねる。ちなみに彼、一年前に死んだ時点で魏の攻略対象ヒロイン全員(荀ケを除く)のハートを粉微塵に粉砕していることを忘れてがいけない。
「申し送れました〜。私、呉の軍師の陸遜です〜」
「君が、陸遜……俺は天一刀だ。君も華佗を呼びにきたのかい?」
「いえいえ〜、私は貴方を迎えに来たのですよ、孫権様がお話したいことがあると」
背後から感じる殺気が数倍に膨れ上がり、冷や汗をたらしながら天一刀は頷いた。とはいえまだ食事中である。陸遜曰く「急ぎの件ではない」ということなので、呂布の魚鍋をしっかり堪能してから天一刀は陸遜の案内で孫権の自室へ向かうことにした。
一刻後、天一刀と随伴の楽進、呂布の三名は孫権の部屋を訪れた。案内役の陸遜に促され、用意された椅子に腰掛ける。
「夜分にすまない。色々と、話しておきたいことがあってな」
「いいって。俺たちも泊めてもらっている身だし、聞きたいこともあったからね」
「そうか……では改めて名乗ろう。呉の王・孫策の妹、孫権だ」
「魏の天一刀だ。よろしく」
孫権と握手を交わすと、今度は傍らに控えていた甘寧が一歩前に進み出た。
「私は甘興覇。蓮華様の御身を身を挺して守ったこと、感謝する」
「い、いや俺は当然のことをしただけなんだ。気にしないでくれ、興覇」
甘寧が深々と頭を下げるので、天一刀もつい焦ってしまう。実際に敵味方として戦っていたからこそ、その勇猛さは天一刀も聞き及んでいた。その猛将が自分に謝辞を述べる姿に「畏れ多い」と感じてしまうのも仕方ないだろう。
謙遜する天一刀だが、孫権は首を横に振った。
「鬼に襲われた時にお前が居なければ私の命は無かった。こんなことを言うのは、同行の申し出を断っていながら虫の良いことだと重々承知している」
それでも、と孫権の真っ直ぐな瞳が天一刀を見つめた。
「力を貸してくれ、天抱翼。今大陸に起こっていることが何なのか、解明するために」
「言われなくてもそうするさ。何せ俺たちは―――――」
「大陸の民を想う同志、だろう?」
以前趙雲から聞いた言葉を耳にして、天一刀はたじろいだ。
「それは、星が言っていた……」
「平和になったおかげでな、他国の将とも語り合う時間を得られたということだ。……さて本題に入ろう。思春、あれを」
甘寧が部屋の隅から運び出してきたものは大きな紙だった。1uほどはあるだろうそれを机一杯に広げると、一面に巨大な龍が描かれていた。不思議なことに龍の胴体と尾の中間点には円筒状の甲殻があり、そこから巨人の上半身が生えている。
「これは……」
「明命――――――周泰の報告を元に本国へ遣いを出し作成した、五胡殲滅戦時に出現した龍の似姿だ。周泰もこれに間違いない、と言っている。蜀にも先日、この絵を持たせた使いを出した。しかし過去の伝承や伝記を調べてもこの様な龍は影も形も無いのだ」
説明する甘寧の横で、天一刀はその絵をじっくりと観察していた。説明など殆ど耳に入っておらず、この奇怪な巨龍を隅から隅まで見回すことに集中しきっている。
「これは、まさか…………」
しばらくして、天一刀の口からポツリと言葉が漏れた。まるでそれが何であるか知っているような口ぶりに、孫権たちもその続きをじっと待った。
対する天一刀は特に巨人の顔を注視していた。逆立った一対の髭と角ばった額に輝く宝玉。そして頭部から生える幾本もの角……その顔は天一刀の、過去の記憶を呼び起こした。
(嘘だろ? でも、これじゃあまるで……いや信じられない)
かつて同級生の及川とゲームの攻略速度を競い合ったことの懐かしさなど微塵も感じられない。今はその恐ろしさに身の毛もよだつばかりだ。
「真、ドラゴン―――――――」
「隊長?」
冷や汗を流しながら、言葉を絞り出そうとする天一刀を楽進が心配そうに覗き込む。
「これは、真ドラゴンだ――――――――!」
◇
「久しぶりね、華佗」
城下を見渡せる城壁の上で華佗を待っていたのは孫策だった。かつて孫権の病を治したことがあった華佗は、以後何度か呉の国に立ち寄っていた。
「まさか貴方が黄蓋を救ってくれたなんて。教えてくれても良かったんじゃない?」
「俺も連絡を取ることを勧めたんだが本人が嫌がってね。結局今になってしまった」
「祭の言いそうなことね」
苦笑する孫策だが、その表情は決して暗くは無い。昼間、天一刀に見せた過激さの裏にあった禍根は微塵も感じさせない。華佗もその辺りの事情を察しているからか、特に追及をしようとはしない。
「ところであの二人は? 助手の……」
「貂蝉と卑弥呼は俺も半年ぐらい会っていないんだ。何でも世界が危ないとか何とか言って出かけていったきりさ。冗談だと思っていたんだが……」
「今度会ったら聞いてみましょ。詳しい事情を知ってそうだし―――――――あら?」
ふと、街の外へ目を向ければ暗闇の荒野に蠢く影がちらりと視界を過ぎる。一瞬の内に孫策の表情が苦々しげなものへと変わり、華佗も緊迫した表情を浮かべた。
「鬼め、建業まで来たか」
「呉でも鬼が?」
「まあね。ちょっと暴れてすぐ引っ込むぐらいだったけど……」
呉も蜀と同時期から鬼の出現が確認されていた。無論孫策たちも対抗策を打ち出してはいたが大きな効果を上げるには至っていない。その苛立ちが孫策をなお戦いへ駆り立てるのだ。
「悪いけど、華佗。避難誘導を手伝って」
「ああ、協力する」
華佗が頷き、孫策は声も高らかに叫んだ。
「衛兵、鐘を鳴らせ! 鬼の襲来を皆に伝えよ!」
「は、はっ!」
警備の兵たちに伝令を頼み、孫策は剣を一振り掴んで走り出した。
◇
それは彼自身予想外の、そして存在するはずの無いものだったのだろう。興奮気味の天一刀が落ち着くのを待って、孫権が改めて尋ねた。
「教えて頂戴、天一刀。えー、と」
「真ドラゴンは……俺の、天の国に伝わる物語に登場するものだ。詳細はともかく、もしその力を完全に発揮すれば大陸を跡形も無く破壊することもできるだろうね」
真ドラゴン。
かつて天一刀―――――ホンゴウカズトが級友と共に遊んでいたゲームに登場した巨大ロボットである。下半身に相当する円筒状のユニットを巨大な龍に変形させ、強大なエネルギーを有するそれは間違いなく最強の力を持っていた。
しかし、それはあくまでゲーム……物語の中での話。現実に存在するはずの無い代物だ。
「大陸を跡形も無く……止める方法はあるのか?」
「分からない。ただ一つだけ言えるのは、あれを操る人間が何処かに居るってことだ。本当に大陸が消し飛ぶかどうかは、そいつ次第だと思う」
「剣と同じだな。持つ人間によってその在り方も変わる」
甘寧の言葉に天一刀が頷く。あれを使う人間が悪人ではないことを祈るばかりだ。ともかく龍の正体は一応判明した。敵か味方か、目的さえも不透明なままだが……
ふと、孫権が顔を上げて窓へ視線を向けた。何やら城門付近が騒がしい。それに遠く響くこの音は――――――
「これは、非常呼集の鐘!?」
状況を把握するべく甘寧が部屋を飛び出そうとするが、それを天一刀が引き止めた。その視線は甘寧を見ることなく、窓の外……市街地へ向けられたまま。
「鬼だ。きっと俺たちを追ってきたんだ」
「抱翼、貴方―――――」
「何とかするさ」
驚きの表情を見せる孫権に天一刀は笑い返し、椅子から立ち上がった。呼応するように楽進と呂布も席を立ち、部屋の出口へ向かう天一刀に付き従う。
「私も行くぞ。思春、供を」
「はっ!」
孫権と甘寧も武器を携え、すでに臨戦態勢だ。
「では、私は兵を率いて住民の避難を〜」
「穏、鬼の弱点は頭だ。兵たちは数人で一体を囲み、頭を狙うように」
「蓮華様、分かりました〜」
鬼の弱点さえ分かれば鬼も不死身ではない。孫権から指示を受けた陸遜は待機中の兵たちと合流するべく駆け出した。
一方の天一刀、楽進、呂布の三人は真っ先に街と外を繋ぐ門へ向かった。すでに何体か侵入した鬼が見受けられる上に、そこで果敢に戦い続ける孫策の姿もあるのだ。他に鬼の入り込んだ場所は見当たらない。
ならば、まずは目の前の敵を叩くべし。
「行くぞ、凪! 恋!」
「はっ!」
「………………(コクコクッ)」
血沸き肉躍る建業の長い夜が始まった――――――――
あとがき
ゆきっぷう「真(チェンジェブラオオオオオオオオオオオオッ!?」
孫策「悪・即・斬っと。真(チェンジ!)恋姫†無双 ―孟徳秘龍伝― 巻の伍・龍再天を読んでくれてありがとねー! とりあえずこいつは真っ二つにしといたから!」
孫権「姉様、明るすぎです」
孫策「何言ってるの。王っていうのはこれぐらいはっちゃけなきゃいけないのよ? 貴方も孫後の次代を担うんだから、しっかりしなさい」
孫権「はあ……ところで物凄い単語が出ましたね。真ドラゴン」
孫策「まあね。巻の参で最初にアレが出たときに気付く人は気付いたと思うけど、この世界って実は―――――――」
孫権「わ―――――――っ! わ―――――――――っ!」
孫策「何よ、蓮華。別に隠すことも無いでしょう」
孫権「駄目です! お母様が化けて出ます!」
孫策「分かったわよ、もう……あ、そうそう。真ドラゴンって何か良く分からない人は巻末に用語解説があるらしいから、それを読んでみてね?」
孫権「ゆきっぷうが一体、どういう目的でこのSSを書き始めたのか丸分かりです」
孫策「じゃあ皆、また次回会いましょう!」
孫権「また会おう!」
孫尚香「ダブルシャオ・ブーメラン!」
ゆきっぷう「よ、よし。なんとか体が繋がったぞ……って何か飛んで来てレボブァァァァァァッ!?」
孫尚香「よし!」
孫策・孫権「シャオはまだ早い!」
人物紹介
孫策(真名・雪蓮)
呉を統一した孫堅の娘で、現在の呉の王。天真爛漫自由奔放が服を着て歩いているような女性で、陽気に街を散策しながら市民と触れ合うなど名君と名高い。その一方で目的のためならば容赦しない冷徹さも兼ね備え、まさに生まれついての『英雄の天才』とも言うべき人物。
反董卓連合解散後、袁術に反乱を起こし占領されていた呉の領土を奪還した。以降は江東の小覇王として力を蓄え、三国統一へ乗り出していくことになる。呉ルートでは領土奪還後、侵攻してきた魏軍の暴走によって孫策は暗殺されてしまう。まさかの急展開にPCのモニターへ向かって真シャインスパークをかまそうとしたユーザーは……はい、ゆきっぷうだけです。
そのため回想シーンの数は全ヒロイン中最少という、二次創作上回避できない弱点があったり。なんだかんだと冷遇されつつも、死の間際に孫権とホンゴウカズトの手を取り、「冥琳、蓮華、カズト……私の敷いたレールもこれで最後。後は貴方達の手で切り拓きなさい、この国の未来を」と呉の未来を託した。
最期の最期まで英雄であり続けた孫策だが、その内に抱えた暗い闇を吐露できたのはやはりホンゴウカズトだけだった。
荀ケ「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい(以下リピート)」
甘寧「け、桂花殿が……」
陳宮「こ、こここ壊れたのです」
周瑜(真名・冥琳)
呉の軍師。知る人ぞ知る天才軍師の一人で、孫策とは断金の誓いを交わした仲。だからといって百合にするのはちょっと違わないかい、Baseson?
美周郎の名の付くとおり、容姿端麗才色兼備の超人。直接戦闘することこそ無かったが、その智謀は諸葛亮以上とも言われる。陸遜、黄蓋、孫策などの問題児を抱える呉がこれまでやってこれたのは偏に周瑜のおかげ。彼女の以外に呉の面々を纏め上げることは不可能だっただろう。
呉ルートでは途中から「あれ? 何か病気っぽくね」フラグが立ち、最終決戦直後のまさかの病死にPCのモニターへ向かってストナーサンシャインをぶち込もうとし(以下略)。
幸い最終決戦まで生き延びたので孫策よりも回想シーンは多いです。半分以上シリアスシーンっていう非常に絡みづらい内容で、ゆきっぷうは見るたびに「孫策返せ孫策」と呪いの言葉を吐いたのは秘密です。
ちなみに断金というのは「金属を断つほど堅い絆」だそうです。ゆきっぷうが最初「金より堅い絆」だと勘違いしていたのは秘密……わ、こら、まてやめ(以下略)。
荀ケ「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……はぁはぁ……」
甘寧「ようやく止まったか。では覚悟はいいな?」
陳宮「けっきょく殺すのですか!? やめるのです!」
陸遜(真名・穏)
呉の軍師で、巨乳痴女。未読の書籍を読むと発情するという凄まじい性癖の持ち主……い、いかん、こんなコメントしか書けないというのは非常によろしくない!
訂正……あの周瑜をして「独特の発想の持ち主」と高評価の文官で、呉の内政に深く関わっている。また呉ルートではホンゴウカズトの教育係も兼任し、見事彼を一人前の文官に育て上げた。また新人の呂蒙の教育にも携わり、彼女も立派な軍師として大成させた。
その実、けっこう怠惰な性格をしており黄蓋に付け込まれて賄賂をせびられたりしていた。自分の部隊の訓練ぐらい自分でしましょう。エンディングではホンゴウカズトとの間に娘の陸延をもうけている。
荀ケ「甲斐性が有るのか無いのか、あの男もはっきりしないわね」
甘寧「ということは、曹操の子供の父親は奴ということになるのか?」
陳宮「ああ、桂花殿が灰になってしまったのです!」
用語解説
真ドラゴン
いったい誰が持ち込んだのか、恋姫世界に出現した最強最狂最恐のスーパーロボット。元々はOVA『真(チェンジ!)ゲッターロボ 世界最後の日』に登場する。真・恋姫無双のタイトルロゴにあしらわれた龍のレリーフを見たゆきっぷうが「これは、真ドラゴンに違いない!」と解釈したことが、このSSの出発点。
解説としては、ゲッターロボの強化発展型である『ゲッタードラゴン』が集合・合体・融合して誕生したゲッターロボ。三段階に渡る進化を遂げ、本SSに登場するのはその最終形態。全長は6000mにもおよび、その能力は絶大でビームの一撃で木星の衛星「ガニメデ」を粉砕できる。中央の円筒部を中心に真ライガー、真ポセイドンにも変形できる。原作最終決戦で敵の侵攻を阻止するため突撃・大破した。
それを何者かがこの真・恋姫無双の地球へ運び込み、修復したものと思われる。パイロットも現時点では不明。
その他、機体の活躍ぶりはOVAを見てね♪
いや、龍の正体って。
美姫 「全く予想してなかったわね」
ああ。と言うか、戦国自○隊以上に滅茶苦茶なものが紛れ込みましたよ。
美姫 「これを人の身で解決できるのかしら」
いや、本当にどんな展開が待っているのか分かりません。
美姫 「まあ、その前に呉に出てきた鬼との対決が先だけれどね」
確かに。次回も楽しみにしています。
美姫 「待ってますね〜」