『An unexpected excuse』

  〜能美 クドリャフカ編〜




「俺が、好きなのは…………」

恭也はそこで喋るのを一旦止める。FCの子達は肝心の部分を促そうとするが、それより早く恭也は別の方向を見つめた。

―まるで、此処ではない何処かを見ているような、憂いの目で。

FCの子達から見れば憂い顔の恭也も格好良い、という程度だったが付き合いの長い美由希達から見ると、何かを耐えているようにも見えていた。

「恭ちゃん………?」

心配した美由希が声をかけた瞬間、恭也の携帯が鳴り、メールの着信を告げた。

「一応マナーモードにくらいしておきなさいよ………」

忍が注意するが、その声は恭也には届いていなかった。

先程のメール受信時の着信音。設定により、それが鳴るのは一人だけ。

慌てて携帯を開き、届いたメールの内容を確認した恭也は、黙り込む。

「恭也…?」

恭也の様子を不思議に思った忍が声をかける。

―――振り返った恭也は、先ほどまでとはうって変わった、美由希たちですら殆ど見た事がないような笑顔だった。

「忍………」

恭也はそのまま忍を見つめ、名を呼ぶ。

その様子に今まで恭也に見惚れていた美由希達+FCは正気を取り戻し、そろって「まさか!?」と叫ぶ。

「恭也………。もしかして……」

忍もその事に思い至り、顔が赤くなる。

それを見て周囲の叫びが更に大きくなるが、恭也はそれを気にする事無く口を開く。

「後は頼む」

「うん、もちろんいいよ……」

「「「「「「……………って、え?」」」」」」

恭也が忍に告白すると思っていたその場全員は完全に混乱する。

「後は頼む、ってどう言うこ………いないし!?」

正気に返った忍が問いただそうとしたその時には、すでにその場に恭也の姿はなかった。

「な、なんなのよーーーーー!!??」

忍の叫びに応える事が出来る者はその場におらず、叫びだけが空しく響いた……。





恭也は全力で走っていた。さすがに忍に後を頼んだ直後に思わず使ってしまった神速は解除していたが。右手には、一つのボタン。

「預かってもらえませんか。コロリョフさんに倣って」

ふと、このボタンを預かった時の会話が浮かぶ。

「に・ぷーか、に・ぺーら………」

別れ際に交わした言葉。外国っぽさを求めていた彼女に、「外国っぽい」と言ったら、瞳に涙を浮かべたまま笑った。

「ぷらしゃーいちー」

最後に彼女が呟いた言葉の意味は、未だに判らない。だが今となっては、知る必要がないような気がした。

とても危険な場所に向かってしまった彼女にできることは何もなく、ただニュースの報道を聞くことしかできなかった。

―――そして、彼女からの最後の連絡。

「…うう、恭也さん! …たすけっ」

後悔しか、できなかった。彼女を引き留めていればよかった―――。

苛まれる日々の先に彼女がいることは、奇跡なのかもしれない。

だが、奇跡だろうと何だろうと、恭也にとっては彼女が帰ってくるという事だけが重要だった。




そして辿り着いた、校門。

そこに、彼女は、立っていた。

亜麻色の髪、蒼色の目、埃と泥、そしてそれ以外の何かで汚れた帽子とマントを身につけた――恭也が愛し、愛された彼女が。

思わず、足を止める。彼女のマントが、ぱたぱたとはためいた。

「――クドリャフカ……!」

彼女の名を、叫ぶ。そして再び走り出した。

彼女も恭也に気付き、恭也に向かって走り出す。

「―クドッ!!」

距離がなくなると同時、力一杯抱きしめる。

「わふーっ!恭也さん、苦しいですっ!」

「す、すまない…」

力を入れ過ぎていた事に気付き、恭也はクドを放し離れようとする。

「あ、いえ…。できればもう少し、このままでいて欲しいです……」

「判った」

少し力を緩め、今度は優しく抱きしめる。

抱きすくめられたまま、クドもまたそっと恭也の背中に手を伸ばした。

クドの温もりを制服越しに感る。

それが幻ではない、本物だということを何よりも教えてくれた。

恭也は少し力を加えて抱きしめる。クドもまた、少し力を加えてきた。

「恭也さんが出迎えてくれて、少しびっくりです。メール、届きましたか?」

「ああ…届いた。………お帰り、クド」

「ただいまです、恭也さん」

クドが恭也を見上げ、目を閉じる。恭也も目を閉じ、唇を重ねた。


―――彼女を、ずっと守っていくという誓いと共に―――





余談だが、消えた恭也を探していた美由希達に抱き合っている光景を見られており、夜にじっくり問い詰められたのであった。





<END>






【あとがき】

はじめまして、『湯浅の父と呼ばれた男』です。

このサイトを発見したのはほんの一か月ほど前なのですが、SS量の多さとその質にやられ、たちまち虜になりそのままなんか書いてしまいました。

一応この作品は、氷瀬 浩様の『An unexpected excuse』を元にした、

「とらいあんぐるハート3」とKeyブランドの作品「リトルバスターズ!」のクロスとなっています。

リトバスやってて、「そういやー恭也と恭介声優同じだな〜」と思った瞬間、

「進呈!贈呈!掌底!ずびし!」

ときた訳なんです(何が?)。

設定としては、リトバスの学校と恭也達の学校が同じという事で。

クドリャフカについて軽く説明しておくと、

『クオーターの帰国子女、ものすごく日本的。外国っぽさにあこがれている』

みたいな感じでしょうか。

彼女の両親がいるところで大きな事故が起き、そこへ向かって行ったまま音信不通に。

シチュエーションとしてはそんな感じです。

にしてもクド出番少ない…。




感想、修正点など頂けると幸いです。

機会があれば、またよろしくお願いします。



リトバス〜。しかも、クド編ですよ。
美姫 「グッジョブです、リキ」
いやいや、リキじゃないから。
思わず変なテンションになってしまったが、このシリーズでリトバスは初じゃないかな。
美姫 「かもしれないわね」
犬っぽいクドが出てくると、それだけで和んでしまう。
クド効果か!?
美姫 「ともあれ、投稿ありがとうございます」
ではでは。



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