優しい歌 第13話 終わりを告げる者

    *

「では、いきますよっ」

 シュウはそう言って右手を天に掲げると怪しげな呪文を唱え始めた。

 シュウの前に漆黒の空間が口を開ける。

「いけっ、ワームスマッシャー!!

 シュウが手を振ると漆黒の空間に何かが吸い込まれていき、次の瞬間真横から衝撃波が襲ってきた。

 俺は咄嗟に龍王剣を振り衝撃波で迎え撃つ。

 白と黒の波がぶつかり合い霧散した。

「ほう、なかなかやりますね。ならばこれはいかがです?」

 今度は漆黒の波、ワームスマッシャーが三つ連続で襲い掛かってきた。

「くっ……!!

 俺はまず上から来たワームスマッシャーを払い、次に挟むように飛んできたのをかわすとシュウに向けて衝撃波を放った。

「そんなものでは私は倒せませんよ」

「なっ……!?

 俺の放った衝撃波がシュウが腕を一振りしただけでかき消された。

「もっと本気をだしてください」

 シュウは薄く笑うと最初に投げてきた剣を虚空から引き抜いた。

「貴方が本気を出せるようにしてあげましょう。……いけっ、フラッシュスマッシャーっ!!

 シュウが剣を振るうと上空から無数のワームスマッシャーが降ってきた。

「くっ、……大地を焼き尽くす天上の劫火よ、穢れし者に洗礼を。“烈火天空陣”っ!!

 俺はとっさに呪文を唱えると龍王剣を一閃させた。

 ゴオオォォォッ!!

 凄まじい轟音と共に無数の炎の刃が放たれ、ワームスマッシャーの雨を打ち消す。

「お見事です。やはり私が来た甲斐があったというものです。では次へいってみましょうか」

 そう言うとシュウがまた呪文を唱え始めた。

 この間に俺は間合いを詰めて切りかかりたいのだが、奴の纏う邪悪な気がそれを許さない。

「さあ、これで全て無に返して差し上げましょう。グラビトロンカノンっ!!

「なっ!?

 シュウが呪文を唱え終わると、シュウを中心にして異様な気を纏った闇が放たれる。

 圧倒的な質量を持った闇が迫る中、俺は龍王剣を地面へと突き立てた。

「闇に灯る聖なる炎よ、穢れし者を無に返せ、“破邪聖炎波”っ!!

 紅蓮の炎と漆黒の闇がぶつかり合い、辺りは紅と黒で埋め尽くされていった。

    *

 俺はもう何人目になるのか解からない黒服を蹴り飛ばした。

 想像以上の数に他の皆も苦戦しているようだ。

「さすがにこうも多いとしんどくなってくるな……」

「どこからこんなにわいてくるの?」

「さすがに皆、疲弊してきている、このままだとこっちが先にやられてしまう」

 俺の近くで同じように黒服をさばいていた美由希と美沙斗さんが苦い顔をして呟いた。

「だがやらなければこちらがやられる」

 もの凄い勢いで黒服をさばきながら、たしか虎中さんと言ったか――が厳しい顔をして言った。

 それにしても虎中さんが通った後は黒服が宙を乱舞している。

「でも切っても切っても減らないというのは厄介ですね」

「敵の数に惑わされるな。確かに数は多いが、奴らは普通に倒しただけではしばらくすれば復活する。完全に再起不能にしなければ奴らは止まってくれんぞ」

 虎中さんはそう言いながら迫りくる黒服の大群をさばいていく。

 確かによく見れば俺がさっき倒した黒服がいたるところに見受けられる。

 そのほとんどは血のりで赤黒くそまっているが。

 俺は乱舞していた黒服の山を見やる。

 目だった外傷がないのにぴくりとも動かなくなっているな。

「俺達も負けられないな……」

 俺は刀をしまい構えなおし、迫り来る黒服に薙旋を放った。

 命中した黒服は吹き飛んで動かなくなった。

「やるな。良い動きをする」

 俺の薙旋を見ていたらしい虎中さんが少しだけ嬉しそうな顔をした。

 俺は辺りを見回すと、いつの間にか俺達のところに来ていた黒服のほとんどが動かなくなり山となっていた。

 他の所もまだだいぶ黒服が残っているようだが、確実に数が減っている。

「これならなんとかなりそうだな。……っ!!

 そう思った瞬間、今までとは桁違いな殺気を感じ、俺は咄嗟に横へ飛んだ。

 ズゴンッ!!

 俺が今までいたところには大剣が深々と突き刺さっていた。

「はっはっはっ!!よくぞかわした」

 突然、突風が吹いたかと思えばそこには全身鎧をまとった大男が立っていた。

「我が名はバルトアンゼルスっ!!道を拓く剣なり」

「なっ、なんだか豪快な人が出てきたけど……」

 美由希が困惑した顔で言った。

「……気をつけろ、奴は今までの奴等とは違う」

 そう言う、虎中さんの気が突然変わった。さきほどまでとは違う鋭利な気だ。

 俺も奴が只者ではないことには気付いている。

 俺は刀を握りなおして、相手を睨みつける。

「さあ、切られたい者からかかってこいっ!!

 バルトアンゼルスと名乗った男は大剣を振り回して構えをとる。

 その迫力に気おされながらも、気を取り直して全員が刀を構えなおす。

「どうした?わしはここを動かんぞ、かかってこい」

「(……挑発に乗ったら、負けるっ!!)」

 俺はそのままの体勢で相手の出方を伺うことにした。

 美由希や美沙斗さんも同じみたいだ。

 ただ虎中さんが気になる動きをしたり苦い顔をして舌打ちしたりしていた。

 俺には何をしているのかいまいち解からなかったが。

「どうした?かかってこないのか、ならばこちらからいかせてもらうっ!!

 そう言ってバルトアンゼルスは地を蹴った。

 ザッ!!

「なっ!?

 それはバルトアンゼルスの巨体には似合わないほどの鋭い踏み込みだった。

「まずはお主からだっ!!

 そう言って、美由希に向かって大剣を振り下ろすバルトアンゼルス。

 美由希はそれを軽いステップで避けた。いや、避けようとした。

「……っ!?

「美由希っ!!

 届かないはずの大剣が美由希の懐へと伸びようとする。そして、吹き荒れる突風。

 ガキイインッ!!

「早く離れろっ!!

 美由希を薙ぎ払うはずだった大剣は虎中さんに止められていた。

 美由希はその隙に礼を言って離れた。

「速いっ……!!

 美沙斗さんが驚きの声を漏らした。

 それは俺も同じだ。虎中さんが動いたことすら感じられなかった。

「ほう、わしの斬龍剣を受け止めるとはたいした根性だ。どうやらお主はできるようだな」

 いったん距離を置いたバルトアンゼルスは、驚愕と歓喜の表情を浮かべて笑った。

「……三人共、さっきの俺の動きは見えたか?」

 虎中さんは真剣な表情で俺たちに尋ねてきた。

「速いね、完成された御神の剣士でもあれについていくのは至難の技だよ。いったい君は何者なんだい?」

 美沙斗さんは見えていたようだ。しきりに驚いている。

「……俺は動いたこと自体気づけませんでした」

 悔しいがそれが現実だ。

 美由希も同じらしく、俺の言葉に頷いている。

「なら下がっていろ、邪魔になる」

「なっ……」

「奴が本気を出せばあんたでもかなわない。だから大人しく下がっていてくれ」

 美沙斗さんはまだ何か言おうとしたが、虎中さんに睨まれて渋々と後ろに下がった。

「母さん……」

「仕方ないさ。私たちは静観するとしよう。だけど彼の動きをできるだけよく見ておくんだよ。たぶん彼は私達よりもずっと完成された剣士だから」

 虎中さんは俺たちが安全なところまで離れたのを確認してバルトアンゼルスと対峙した。

「仲間の安全を優先したか」

「あの三人を庇いながら戦っていたら時間がかかるからな。それにその方があんたも本気をだせるだろう?」

「ほう、あの三人を守りながらでもわしとやれるというのか。ふっ、面白い。ならばわしも本気を出させてもらう。……いくぞっ!!

 ジャッ!!

 バルトアンゼルスが更に深く踏み込んできた。

 半瞬で間合いをつめ、虎中さんに上段から切りかかる。

 虎中さんはそれを軽いステップでかわし、斜め下から切り上げる。

それをバルトアンゼルスは僅かな動きでかわし、刃を横にして薙ぎ払った。

虎中さんはそれを屈んでかわすと、左の掌打で斬龍剣を跳ね上げ、同時に刺突を放つ。

「むっ!!

 バルトアンゼルスは後へ飛んでそれをかわし、刀を構え直した。

 ちなみに今までのやり取りはほんの数秒の間で行われていた。

「すごい……」

 隣で見ていた美由希が感嘆の息を漏らす。

「一つ一つの動きにまるで無駄がない。正しく完成された剣士の動きだよ」

 目を見張ってそう言う美沙斗さんの隣で俺は少し考えていた。

 虎中さんが放った刺突が射抜に似ていたのは気のせいだろうか。

「お主、いい腕だ。ならば次はどうだっ!!

 バルトアンゼルスは剣に手を添えて深く屈んだ。何か技を出すつもりなのだろう。

 虎中さんも警戒している。

「我が奥義、受けるがいいっ!!

 そう言ってバルトアンゼルスが地を蹴った。

    *

「くらえっ!!サンダークラッシュ」

「ぐあああっ!!

 リスティさんの電撃でまた一人黒服が沈黙した。

「しつこいなあ、いい加減休ませてよっ!!

 シェリーさんが悪態をつきながらサンダーブレイクを放っていた。

「さすがに疲れてきましたね」

 わたしは念動波で黒服を締め上げて吹き飛ばしていた。

 フィリスの様子も気になるし早めにかたをつけたいところだな。

「フィリス、大丈夫?」

「えっ、ええ、でも……なんだか苦しい感じが……っ!?

「フィリスっ!!

「胸が……いたい……っ!!さっきと同じ…」

 わたしは苦しそうに喘ぐフィリスの様子を見てあることに思い当たり、いそいで意識を集中させた。

「……そこかっ!!

 わたしは邪念を感じた所に思い切り念動波を叩きつけた。

 その瞬間ふっと糸が切れたみたいにフィリスの体が崩れ落ちる。

 リスティさんが慌ててそれを支える。

「おいっ、フィリス。しっかりしろっ!」

「大丈夫です、眠っているだけです」

 わたしは困惑するリスティさんに前を見たままそう告げた。

「……そろそろ出てきたらどうなんですか?邪神“あやなぎ”」

 わたしの呼びかけに呼応するかのように地面の中から一人の老人が現れた。

「ふぉっふぉっふぉ、久しいな蒼き龍よ。あまり驚かないのだな」

「これだけ不可解なことが起こっているのですから今更というものですよ」

「それもそうだな。ところでワシがここにいるということはどういうことか、解かっておるな」

「ええ、わたしもちょうど決着を付けたいと思っていましたからね」

「こちらとて望むところだ。今度こそ月の巫女をもらいうける」

「そんなことはわたしがいる限りさせません」

「ふむ、確かにお主が万全の体勢であれば、ワシは以前の二の舞になっていただろうな。しかし今のお主には元の姿に戻る力も残っておらんようだが」

「……それでもやらないよりはマシですから」

「なるほど。……ならば、行くぞ。ワシとて譲れんものがあるのでな」

 そう言って、あやなぎは漆黒の龍に変化した。

 わたしは意識を集中させて念動剣を召還した。

 あやなぎは空へと飛び上がり、口から炎を吐いてきた。

 わたしは念動剣でそれを迎え撃つ。

 空中で炎と見えない刃がぶつかり合って火花を散らした。

「どうした?お主の力はそんなものではないはずだ」

「くっ……」

 早くもおされ気味になってきた。やはり負傷したままでは勝てないか……。

「だからと言って、引けるわけがありません。わたしは愛する者の為に戦う。この身が滅びぬ限りわたしは戦い続けます」

 苦痛を跳ね除けるように叫んだわたしの頭上から不意にその声は降ってきた。

「その通りっ!!男なら好きになった女を守れなくて生きていけるか」

「なっ、何物!?

 不意に聞こえたその声にあやなぎが辺りを見回す。

 わたしも目だけでその声の主を探す。

 と、近くの木の上に光に包まれた一人の影があった。

「この世に悪がはびこる限り、俺は戦う。行くぞライダー……変身。とうっ」

 掛け声と共に光に包まれた人影が飛び降りてきた。そこに立っていたのは……。

「……まさかと思ったけど……本当にするんだ」

 この緊迫した空気にそぐわない光景に、リスティさんが一人感心して手を叩いた。

「なに感心してるんだよ。ただでさえ漣、おされてるのにこの上変なバッタも出てきちゃったじゃない」

 そんなリスティさんにツッコミもいれるシェリーさん。

「安心したまえ、私は君たちの敵ではない。私は悪しき者を討つ正義の味方、その名も」

「仮面ライダー!」

「……あ、いや、まあ、その通りなんだが……」

 リスティさんに先に言われて少し落ち込む仮面ライダー。

「まあ、人手がほしかったので嬉しいのですが……」

「よしっ、ならいくぞ。というわけで仕切りなおしだ。やいっそこの変態ドラゴン!俺がきたからにはもう好きにはさせんぞ!」

「だれが変態だっ!!

「黙れっ!!悪党は変態って相場が決まってるんだ。大人しく成敗されろ」

「ふん、まあいい。たかが一人、しかもそんな胡散臭いバッタなど敵ではないわ」

「ふっ、なら試してみるか?」

 そう言って、バッタもといライダーは腰にさしていた刀を抜いた。

 あやなぎは大きく羽ばたいて勢いよく炎を放った。

「その程度かっ!!

「なにっ!?

「うわっ、炎を一撃でなぎ払っちゃったよ」

「ライダーの名は伊達じゃないってところだね」

「言っただろ?仕切りなおしだって」

「ふっ、面白い。よかろう。こちらも全力でいかせてもらう」

「どっからでもかかってこい変態。戦って勝つのがライダーだ」

 そう言ってライダーは地を蹴った。

 この時、仮面ライダーの中身が誰であるのか、まだ誰も気付いていなかった。

彼に変身ベルト“レジェンド・オブ・ハート”を託した水瀬秋子以外は……。

    *

 外の戦闘が激化する中、私は不意に嫌な予感を感じた。

「(祐介……)」

 私はいてもたってもいられなくなって外へ飛び出そうとした。

「……美優希、どこへ行くの?外は危ないよ」

「フィアッセさん……行かせてください。なんだかすごく嫌な予感がするんです、このままだと取り返しがつかないことになってしまうんじゃないかと思って」

「……美優希はわたしと同じだね」

「えっ?」

「わたしもね、大事な人が危ない目にあいそうになった時、すごく嫌な予感を感じるの。士郎のときも恭也のときも。大切な人がいなくなっちゃうような、悲しい気持ち。だから一緒にいこう」

「……はい」

「ちょっ、ちょっと二人とも外は危ないで」

「大丈夫だよ、ゆうひ。ちょっと外の様子を見てくるだけだから」

「すぐ戻ってきますから」

 そう言って、不安げなゆうひさん達をおいて私達は外へ出た。

 外では、皆がそれぞれの持ち場で戦っていた。

 でもほとんどの黒服はゴミの山のように積み上げられていた。

 麗奈さんと真君は残存勢力を蹴散らしながらそれの処理をしている。

 零一くんは鎧武者みたいな人と戦っていた。

 美沙斗さん、恭也さん、美由希ちゃんは遠くで静観しているということは、零一くんに捨てられちゃったのかな?三人とも強いと思うんだけどな。

 肝心な祐介は結界の中で誰かと戦ってる。結構苦戦しているみたい。

 私はふと空を見上げて息を呑んだ。

 時空の穴から今度は物置ではなく、日本家屋が現れたのである。

 麗奈さんと真君もそれに気付いたのか少し青い顔をしている。

 黒服のほうはもう片付いたみたい。

 知佳さん真雪さんグループもさくらさん、薫さん、那美ちゃんグループも一息入れてる。

 それにしてもあのゴミの山の後始末はどうするんだろう?埋めるのかな。

 私はそんなことを考えながら麗奈さんのもとへと駆け寄った。

「美優希っ!?それにフィアッセさんも。ダメじゃない外に出てきちゃ」

「それより、あれ……。どうするんですか?」

「そりゃ倒すしかないでしょ」

「手強そうですけど」

「なんとかなるわ。それよりもあの空にあいた穴どうにかできないの?あれがある限り際限なくでてくるんじゃない」

「今の時空はあまりにも不安定です。でも一時的にはあの歪みを閉鎖できると思います」

「よしっ、ならあたし達はあの屋敷をどうにかするからそっちはお願いね」

「はい」

 そう言って麗奈さんと真君は臨戦態勢に入った。

「ねえ美優希、いったい何をするの?」

「あの空にあいた穴を塞ぐんです」

「そんなことできるの?」

「まあ、見ててください」

 不思議そうに私の顔を見るフィアッセさんに笑いかけでから私は空を見上げた。

一度深呼吸をして大きく翼を広げる。

そして、私は両手を掲げてそっと呪文を唱え始めた。

「異なる流れを導く門よ、我は門を守りし裁者なり。我が意に応えてその門を閉じたまえ」

 呪文を唱え終わった次の瞬間、空が眩い光に包まれた。

 そして、その光が治まると空にあいていた穴が綺麗になくなっていた。

「ふう、麗奈さん。これで当分は歪みをおさえられます。後はそれを片付けてください」

「美優希、よくやったわ。後はあたし達にまかせてやすんでなさい。疲れたでしょ?」

「はい…正直、ちょっときついです」

 そう言いながら私は倒れそうになる。

「美優希っ!!

 隣にいたフィアッセさんが慌てて支えてくれた。

「大丈夫?顔色がよくないみたいだけど」

「ちょっと力を使いすぎただけですから、少し休めば大丈夫です」

「そう……よかった、それにしても美優希にも羽、あるんだね。すごく綺麗だったよ」

「私の羽は本物ですよ」

 そう言って私はしまっていた羽を再び広げた。

 それにフィアッセさんはおっかなびっくり触ってみた。

「あっ、本当だ。ふわふわしてて気持ちいね。これが美優希達の力なの?」

「この羽は私だけの物なんです。他の皆の力は少し違いますね。私の羽は遺伝みたいなものです。だからきっとエターニアにも羽はあると思います」

「そっか……。早く眼を覚ますといいね。エターニア」

 そう言ってにっこりと笑うフィアッセさんはとても優しくて、暖かかった。

 私たちがエターニアにしたことは決して許されることじゃないけれど、この人の、この人たちの笑顔を見ているとあそこで終わらせずに良かったと心から思えるから。

 護りたいと思う。

 今はまだ私たちじゃエターニアの心に触れることは出来ないかもしれないけど、やり直すことはきっと出来る。そう、信じているから……。

    *

「なかなかしぶといですね。そろそろ諦めたほうが楽になれますよ?」

「ふざけるなっ!!……こんなものに負けてたまるか」

「ですがだいぶ苦しくなってきたんじゃありませんか?ほら、だんだん息が上がってきて動悸が速くなっています」

「そんな戯言は俺には通じんっ!!

「おやっ?私の言霊を簡単にはねのけてしまうとは、なかなかやりますね。ですがそろそろ終わりにしたいので私も本気を出させてもらいますよ。いけっ、グラビトロンウェーブ」

 闇の色がいっそう濃くなったと思ったらさきほどとは比べ物にならない強力な衝撃波が襲ってきた。

「くっ……!!負けるかっ。闇に囚われし魂の炎よ、今こそ戒めを解き放ち穢れし闇を焼き払え。“破魔浄炎波”」

 俺が呪文を唱え終わると俺の炎の色がふいに変わった。

 同時にシュウの漆黒も掻き消える。

「はあ…はあ…はあ…」

「驚きました。まさかあれを一瞬で打ち消すとは……どうやら甘く見すぎていたようですね。ならば……」

 シュウがまた呪文を唱え始めた。

「……っ!?

 今までとは明らかに異質な気を感じて俺はおもわず戦慄した。

「まさかこれを使うことになるとは思いませんでした。さあ、今度こそ永遠の世界へ旅立ってもらいましょう。いけっ、ブラックホールクラスター」

 シュウの手から漆黒の光球が放たれた。

 それは今までのものとはまったく異質な、何か圧倒的な存在感を持った光球だった。

 俺は龍王剣を構えてそれをなぎ払おうとしたが、出来なかった。

「なにっ!?

 パリンッ!!

 光球が龍王剣と接触した瞬間、まるでガラスが割れるかのように龍王剣が砕け散ったのだ。

 ブラックホールクラスターはなおも勢いを増して俺を呑み込んだ。

「ぐああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!!

 薄れていく意識の中で誰かの声を聞いた気がした。

    *

「ではゆくぞっ!!

 あやなぎが大きく羽ばたいて炎の渦を放つ。

 わたしとライダーは左右に飛んでそれをかわした。

「とりゃっ、ライダーキック」

 あやなぎの炎をかいくぐり、弱点である喉元を蹴り飛ばすライダー。

「ぐほっ……!!

 わたしはその隙に念動波で更に締め上げた。

「ぐおっ……いい気になるなあっ!!

 あやなぎの眼が怪しく光る。その瞬間、すさまじい念動波が襲い掛かってきた。

「ぐあああ……っ!?

 わたしは思わず頭を抱えてうずくまった。

「なかなかきくなあ……」

「うう、頭が痛い〜」

「なんなの?これ〜」

 リスティさんもシェリーさんも頭を抱えて顔をしかめている。

「動けまい。いくら強靭な肉体を持とうとも内側から攻撃されればもともこもあるまい。さてそれでは月の巫女をいただいていくとするかの。ふぉっふぉっふぉ……」

「うわっ、やっぱりこいつ変態だ〜」

 シェリーさんが顔をしかめながらも非難めいた悲鳴を上げる。

「なんとでも言うがいい。非力なお主らに何を言われても痛くないわ」

 そう言いながら人型に戻ったあやなぎは、眠っているフィリスににじりよっていく。

 こうしてみると、まさに変態である。

 そんなあやなぎがフィリスに手を伸ばそうとしたとき。

「まだ終わってないぞ変態野郎っ!!いけっ、タイフーンアタック」

「なっ……!?

 今まで悶絶していたはずのライダーが眩い光に包まれてバイクにまたがり突進してきた。

「ぐああぁぁぁぁっ、なぜだあああああああっ!!

 きらり〜んっ!!

 あやなぎは成すすべもなくバイクにひかれ空の星となった。

「ふっ、正義は必ず勝つ!!

「……この場合は逮捕したほうがいいんだろうか?」

 Vサインを決めるライダーの横で複雑な表情を浮かべてリスティさんが呟いた。

「あはは……リスティさんは大変ですね。……?」

    *

「ゆくぞっ!!

 バルトアンゼルスが地を蹴って肉薄し、上段から切りかかってきた。

 俺は体をそらしてそれをかわすと、刺突を放つ。

 それを見て、バルトアンゼルスも体を反転させてそのまま勢いで刺突を放ってきた。

 二人の刃がぶつかる寸前、俺は切っ先を僅かに下に下げると奴の大剣を上に逸らした。

 そのまま懐へと滑り込み、足元を狙って薙ぎ払う。

 だが、バルトアンゼルスは垂直に高く飛び上がった。

 激しい土煙で視界が制限される中、俺は空中で体制を変えて刺突の構えをとったバルトアンゼルスの姿を捉えた。

「いくぞっ、我が奥義“剣の舞”っ!!

 俺はバルトアンゼルスから放たれた無数の小刀をかわしながら、相手の動きを注意深く観察していた。

「(奴の使う武器は全て液体金属製の物だ……だとすれば狙いはあれか)」

 小刀の乱射がいっそう激しくなったとき、金属が光を反射して視界が白く染まった。

 だが、俺の目ははっきりとその中から不自然な揺らぎを捉えていた。

「そこだっ!!

 次の瞬間、俺の頭の中でスイッチが入った。

 世界がモノクロに染まっていく。俺はその中でバルトアンゼルス目掛けて飛び上がった。周りに人がいたのなら突風に煽られていただろう。

 玄武破斬流奥義之歩法“疾風”。

 俺はバルトアンゼルスを通り越してその上から切り下ろすと、地面に叩きつけた。

「なっ……!?

 自分の身に何が起こったのか理解できていないようだ。普通の人間ならこれで即死だ。

 だが奴は普通ではない。すぐに状況を把握したのか愉快そうに笑い出した。

「わしの奥義を破るとは見事だ。今回はわしの負けだ、潔くこの場を退くとしよう。どうやら目的は果たせたようだしな」

 俺はそれを聞いて怪訝に思ったが、すぐに結界の中の異変に気付いてはっとした。

「まさかっ……!?

「ふっ、気付いたか。またしあえるときを楽しみにしているぞ。はっはっはっは……」

 急に突風が吹いたかと思ったら次の瞬間にはバルトアンゼルスはいなくなっていた。

「ふう、ひいたか……」

 俺は剣をしまい溜息を吐いた。遠くで見ていた三人が拍手をしながらやってきた。

「おつかれさま。それにしてもすごいね。あれだけの速度と正確な攻撃を出せるなんて」

「俺は虎中さんの踏み込みの深さに驚きました」

「私もです。あんなに深く踏み込めるなんて、私じゃ到底無理ですよ」

「あんた達も鍛えればものにできる。……よしっ、これが終わったら三人とも俺が鍛えてやる。こんなことがまだ続くのなら少しでも戦力は強化しておきたいからな」

「それは手厳しいね」

「永全の申し子ならそのくらいやってもらわなくては困る」

「えっ?」

 俺は訝しがる三人を無視して結界のほうをみやった。さきほど嫌な音をきいた。

 無事でいろよ。高橋……。

    *

 あたし達は降下してくる日本家屋に備えて体勢を整えていた。

「それにしてもこんどは何が出て来るんだ?」

「何が出てこようともこのジャムでいちころよ。ふふふ……」

「確かにそのジャムは強力だな……」

 そんなことを真と話していると上空の屋敷の扉が不意に開いた。

「ついにきたわね。さあ、どっからでもかかってきなさい」

 あたしは中から出てくる化け物にそなえて構えていたがその扉からは化け物は出てこなかった。その代わりに出てきたものは。

「ちょっとっ!あれ何よ」

「何って言われてもな〜。てか、あれ撃ってくるんじゃないか?」

 そりゃ誰だって困ってしまうだろう。日本家屋からあんなものが飛び出してきたら。

 日本家屋から頭を出しているのは大砲だった。戦車とかについているあれである。

「ファンタジーに近代兵器を引っ張り出すなんて邪道よっ!!誰よあんなの作ったの」

「そんなの知るかよ。それよりマジで撃ってくるぜ」

 よく見るといたるところに大砲が設置されていて、皆こちらにむいている。

 そして次の瞬間、日本家屋による一斉射撃が始まった。

 ちゅど〜ん!!

「本気で撃ってきたじゃない。なによあれ」

「ぼやかないで応戦しないとこっちが先に蜂の巣になっちまうぜ」

 そう言いながら真はかまいたちで攻撃を試みるが、日本家屋はびくともしない。

 あたしも渦潮で攻撃してみたけど、窓から吸い込まれてしまった。

「なによあれ、化け物じゃない」

「いや、俺達もともと化け物相手に戦ってるんだけど」

「そんなこと解かってるわよ。でも、こうも攻撃が効かないと腹が立つのよ」

「まあ解かるけどさあ。でもマジでどうにかしないとこっちがやられちまう」

「どうしたらいいのよ」

 そんな時、突然飛来した物体が屋敷を揺らした。

「えっ?」

 それは巨大な包丁だった。

「二人とも大丈夫ですか?」

「母さんっ!?

 あたしが声がした方に振り向くと、そこには水瀬秋子――母さんが立っていた。

「久しぶりね麗奈」

「どうしてここに?」

「娘の危機に親が駆けつけなくてどうするの?」

「ふふ、ありがとう」

「いいのよ。あなたは私の娘なんだから頼ってくれて」

「うん。……それじゃさっさとあの化け物屋敷をぶっつぶして晩御飯にしましょう」

「そうね。麗奈、これを使いなさい。これならあれを倒すことができるはずよ」

 そう言って渡されたものは一門の大砲だった。

「よしっ、さあ覚悟しなさいよ〜……ふふふ」

 あたしは照準を屋敷の底部に合わせると、圧縮霊気の塊を発射した。

 ズガーン!!

「おおっ!!効いてるぞ」

 真が歓声を上げた。

「おらっ、もういっちょ」

 ズガーン!!ズガーン!!

 直撃するたびに屋敷が激しく揺れて煙を上げている。

「しぶといわね」

 あたしはいっそう意識を集中させた。砲口が虹色に輝きだす。

「これで終わりよっ!!

 虹色の光線が放たれ、屋敷は光に包まれて盛大に爆発した。

「よっしゃっ!!

 あたしは沈んでいく屋敷を眺めながらガッツポーズをとった。

 そんな時、ふいに背後でガラスの割れるような音がした。

「……?」

 あたしは怪訝な顔をして後ろを振り返って凍りついた。

    *

 麗奈さんが日本家屋を撃墜してガッツポースを決めている時、私はガラスの割れるようなその音を聞いた。

「(なんだろう?このいやな感じ……とてもよくないことが起こっているような)」

 私は気付けば祐介が戦っている結界のもとへと走り出していた。

 それにフィアッセさんも慌ててついてくる。

「美優希、どうしたの?急に走り出したりして」

「何かすごく嫌な予感がするんです。祐介が心配で……っ!?

「……美優希?」

 私は眼の前の光景に凍り付いてしまった。

 フィアッセさんもそれに気付いたのか、息を呑んで立ち尽くしている。

 眼の前の結界の中で、祐介が漆黒の光球に飲み込まれてしまったのだ。

「ゆーすけ―――――――――――!!

 私は力の限り叫んだ。その途端、周囲に張られていた結界が音を立てて破れていった。

「おやっ?おかしいですね。私の結界がこうも簡単に破られてしまうなんて。……まあ、いいでしょう。どうやら終わったみたいですしね」

 闇の中からは祐介の気配が感じられない。ということは……。

「あなたが祐介をやったのね」

 私は軽薄そうな男を睨みつけてそう問う。

「そうだと答えればどうします?」

「……許さない。あなただけは絶対にっ!!

 私はその時、翼の封印を解き放ち六枚の翼を大きく広げた。

「全てを導く大いなる翼よっ!今こそその羽を広げ邪悪に満ちる闇を照らせっ」

「なっ!!これは“導きの翼”。まさか、この眼で見ることになるとは……。いいでしょう。あなたも祐介と同じく永遠の世界へ旅立ってもらいます。いけっ、ブラックホールクラスター」

「くらいなさい。闇を照らす天の光よ、穢れた闇を清めたまえ」

 漆黒の光球は私が放った七色の光線にあっけなく霧散した。

「なっ……!?

 男は愕然としたまま光の奔流に飲み込まれて消えてしまった。

「祐介……。私、勝ったよ……」

 薄れていく意識の中で誰かの歌を聴いた気がした。

    *

 誰かがわたしを呼んでいる。

 誰だろう?解からない。

 でもとても大切な人のような気がする。だってこんなにも心が温かくなるんだから。

 だからいこう。大切な誰かのところへ……。

    *

 次回予告

 シュウに敗れた祐介が闇の世界で出会ったのは一人の少女だった。

 一方、力を解放して倒れてしまった美優希は夢世界で意外な人物と出会うことに。

 美沙斗、恭也、美由希の鍛錬に乗り出した零一。

 過酷な鍛錬を通して、恭也たちは零一から衝撃の事実を知らされることになる。

 フィアッセは眼を覚まさない祐介達を心配して、沈んだまま。

 そして、そんな彼女を傍らで支えようとする優しい人たち。

 春の暖かな海風の届く街で、物語はゆっくりと紡ぎ出されていく……。

 次回、優しい歌 第2部 〜Remeber  memories ……永遠を越えて〜。

第1話 始まりをもう一度




    *

 あとがき

 

 こんにちは堀江紀衣。やっとこさ完成しました第13話です。

 祐介さんが負けちゃいます。

 美優希さんが力を解放して倒れちゃいます。

 怪しい人たちも満載です。

麗奈「というか。ファンタジーに近代兵器ってどうよ?」

紀衣「そういうのも最近は多いのでいいんじゃないですか」

麗奈「そうかもしれないけど、やっぱファンタジーといえばモンスターでしょ」

紀衣「まあ、初代RPGを知る人ならそう言いたくなるかもしれませんけど。そこは時代の流れというものでしょう」

知佳「確かに最近のRPGってそういうの多いよね」

真雪「あたしは爽快に敵が倒せればなんだっていいけどな」

佐祐理「あはは、でも現実的に考えると何で死なないんだっていうのもありますよね」

知佳「確かに……」

麗奈「まあ、そんなことはどうでもいいわ。それより次回から2部も始まることだし景気よくいくわよ」

真雪「おっ、待ってました。確か次は学校の話だったよな」

知佳「うん、そうだよ。なんか追いかけられるみたいだけど」

紀衣「なんで知佳さんが先の展開を知ってるんですか!?

知佳「だって台本に書いてあるもん」

紀衣「そんなのはいやああああ――――!!

佐祐理「それではあとがき物語、二つの伝説〜運命(みち)を行く者〜の始まりです」

 





ピンチを脱したかに見えたけれど…。
美姫 「裕介は負けちゃったわね」
ああ〜、次回から始まる第二部はどうなるんだ〜。
美姫 「最初から裕介がいないしね〜」
うーん、どんなお話が…。
美姫 「次回も楽しみにしてますね〜」
待っています〜。



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