優しい歌 第4話 旅立ちの翼
*
私は今、零一さんと二人でとあるお墓の前に立っています。
国崎さんとみちるのお墓です。
今日は二人にお話したいことがあって、こうしてお参りに来ました。
お墓の前に花束とお線香をお供えして、そっと手を合わせます。
朝の遅い国崎さんはきっと天国でもまだお休み中でしょう。
私が来たことに気づいたみちるにまた鳩尾を蹴られて飛び起きたんじゃありませんか?
当時のことを思い出し、私はお墓の前だというのに小さく笑ってしまいました。
さて、お話というのは他でもありません。
――私、遠野美凪はこれからしばらくの間、この街を離れることになりました。
零一さんと一緒に……。
私の好きな、私を好きだと言ってくれるその人の旅に私もついて行くのです。
零一さんに出会って、私はやっと自分の居場所を見つけることが出来ました。
一緒にきてほしいと言われて、すごく嬉しかった。
この人となら、きっと私はどこまでも歩いていけます。
ですから国崎さん、みちる。これからも見守っていてください。
「ちーん……」
静かに手を合わせて私はお祈りをします。
「それは何か違う気がするのだが」
「(いいんだよ。せっかく美凪がお祈りしてくれてるんだから静かにしててよね)」
「(なんか俺等、体が薄くなってる気がすんだが)」
「未練が晴れたのだろう。死人はさっさと成仏するのが世の摂理というものだ」
「(まあいいか。遠野ももう大丈夫みたいだしな。後のことは頼んだぞ)」
「(美凪を泣かせたら承知しないからね)」
「解かっている。安心して逝け」
零一さんが隣で独り言を謂いながら黙祷しています。ちょっと不気味です。
「零一さん、終わりました」
「もういいのか?」
「はい」
「そうか。なら、少し俺の話を聞いてくれないか」
私がこくりと頷くと、零一さんは不意に真剣な顔になって言いました。
「俺は戦うことしか出来ない不器用な男だ。だからこんなふうにしか言えないが」
「?」
そう前置きを入れる零一さんに、私はかわいらしく小首を傾げてみせます。
「俺は遠野のことが好きだ。この剣と俺自身の誇りにかけておまえを一生守ってみせる」
「ぼっ」
真顔でそんなことを言われてしまい、私は思わず真っ赤になってしまいました。
「プロポーズ?」
「そう受け取ってもらって構わない。尤も具体的なことはもっと後になるだろうが」
「嬉しいです。でも、一つだけ我侭を言ってもいいですか?」
「言ってみろ」
零一さんは少し身を固くして私の目を見つめてきます。緊張しているのでしょうか。
私もドキドキしています。
「……美凪。私のことを一人の女性として愛してくださるのなら、そう呼んでください」
零一さんの目を下から見上げるようにして私は思い切ってそう言いました。
頬が熱いです。
口にした途端、すごく恥ずかしい気がしてきました。
「……そうだな。解かった、美凪」
零一さんも照れくさそうにそっぽを向いています。何だか可愛いです。
「それでは行きましょうか」
「ああ。最初の目的地は海鳴だ。そこで友人と合流する予定になっている」
「海鳴ですか?」
「少し込み入った事情があってな。忙しくなるかもしれない」
「平気です。時間はたっぷりありますから」
「すまない、それが済んだらまた美味い飯を作ってくれ」
「はい。不束者ですが、よろしくお願いします。ぺこり」
私は今幸せです。
私の未来がこの先ずっとこの人と共にありますように……
*
――イギリス。
空港のロビーにて、俺は麗奈先輩に電話を掛けていた。
「……はい。はい。……ええ、こちらは何も。……はい。分かりました。ではまた」
幾つかの情報を交換し、俺はケータイを切った。
「祐介、どうだった?」
フィアッセさん達と話をしていた美優希がタイミングを見計らって寄ってきた。
「先輩と真は俺たちと同じくらいに海鳴に着くらしいけど零一は遅れるって」
「そっか」
「海鳴に行くんだったら案内するよ」
俺達の会話を聞いていたのかフィアッセさんがひょこっと触角を揺らしながら現れた。
あっ、ゆうひさんがアイリーンさんに首輪を付けられようとしている。
「ありがとうございます。そうしていただけると俺達も助かります」
「いいよ。せっかくのお休みなんだから、いっぱい楽しまなきゃね♪」
「フィアッセさんは海鳴ではどうされるんですか?」
「わたしは家族のところかな。恭也も今は家にいるだろうし」
「恭也?」
「うん、わたしの家族。剣術家でとっても強いの」
「へぇ」
「恭也、男の子の友達少ないからきっと喜ぶよ」
フィアッセさんはとても嬉しそうだ。
「フィアッセさん、その恭也って人のこと好きなんですね」
俺がそう言うと、虚を付かれたのかフィアッセさんは顔を赤くして慌てる。
「えっ、えっ?どうして解かったの」
「顔に書いてありますよ」
「えー!」
俺の指摘にフィアッセさんは慌てて顔をごしごし擦る。お約束に忠実な人だ。
「も、もう、大丈夫かな?」
「はい。もともと何も掻いてありませんから」
フィアッセさんはからかわれたのだと気づくと小さく唇を尖らせた。
「もう、からかわないでよー」
「あはは、すみません」
「そういう祐介はどうなの?好きな人いないの」
お返しとばかりに頬をつついてくるフィアッセさん。
俺は美優希を抱き寄せて不敵に笑った。
「俺には美優希がいますよ」
「もう、祐介もよくこんな公衆の場でそんなことできるわね。嫌じゃないけど」
「わわ、そんなことされたらこっちが恥ずかしくなっちゃうよ」
そんなやり取りをしている後ろでとうとう、ゆうひさんが仁村さんに泣きつき始めた。
「うわ〜ん、知佳ちゃ〜ん。アイリーンがうちをいじめる〜」
「あっ、あははは」
仁村さんは困っているのかそんな苦笑を浮かべている。
「もう、あんまり苛めないの」
フィアッセさんが呆れたように腰に手をやりながらアイリーンさんを窘める。
「あっ、そろそろ搭乗時間じゃない?」
時刻表を見ていたリーアが声を上げた。
「それじゃあ、皆行こう」
仁村さんが皆を促す。
皆が歩き出したのを見て俺はフィアッセさんにそっと耳打ちした。
「(フィアッセさん、ちょっといいですか?)」
「(どうしたの?)」
「(実はこの間の歌のことなんですけど。また何か気付いたことがあったら教えてくれませんか?)」
俺の問いにフィアッセさんは少し思案してから口を開いた。
「(今のところは歌えば聞こえてくるけど、それ以上は何もないよ)」
「(そうですか)」
「(もしかして海鳴に行くのって……)」
どうやら感づかれたようだ。
「(すみません。そういうことです)」
「(いいよ。そういうことだったらしばらくは一緒なんだね?)」
「(はい。おそらく全て終わるまで付き合っていただくことになるかと)」
フィアッセさんには申し訳ないが、この事件の鍵になるのは間違いなく彼女だろう。
「(気にしないで。皆友達なんだから困ったときはお互い様だよ)」
「(ありがとうございます)」
そう言って笑うフィアッセさんに、俺は改めて深々と頭を下げる。
「(取り合えず、向こうに着いたらお買い物に付き合ってもらおうかな。買いたいもの一杯あるし)」
「(はい)」
*
あたしは電話を切るとため息を吐いた。
「俺の春休みが……、茜との約束が……、激甘ワッフルの刑に……」
とりあえず、隣でぶつぶつ言っている真をひと睨みして黙らせる。
「事態が進展したんだから仕方ないでしょ」
「それを先に言ってくれ」
何だかひどく疲れた様子で脱力する。
ろくに説明もせずに無理やり拉致してきたのだ。至極当然の反応である。
「しかし、あんたのおじいさん元気ね。倒れたんじゃなかったの?あんたを連れ出すのに特製炸薬を使うことになるなんて」
「いつもの癖さ。仮病で呼び戻されるんだからたまんねーよ。あれでも弱ったほうなんだぜ。昔は親父がじっちゃんと喧嘩したら必ず半殺しにされてたそうだ。しかも手加減して」
真は何かを思い出したのか身震いしている。
「まあ、多くは詮索しないわ。それと、はいこれ」
そう言ってあたしは山葉堂のロゴが入った紙袋を真に手渡した。
「こ、これはっ!?」
「出掛けに餞別だって、ツインのみつあみが足元近くまである女の子に渡されたんだけど」
「茜よ、おまえはまた俺にあの極甘地獄を味わわせたいのか……」
何かよく分からないことを言いながら蒼褪める真に構わず、あたしは袋からそれを一つ取り出して口へと運ぶ。
「うん。中々に味わい深いわね。この練乳黒蜜ワッフルって」
「マジかよ、おい」
「何をそんなに驚いてるのよ。ほら、あんたも食べなさい」
そう言って再び袋を差し出したあたしに、真は慌てて首を横に振った。
「お、俺はいいよ。甘いもの、苦手なんだ」
「そう。じゃあ、これはあたしが全部もらっていいのね?」
「あ、ああ。遠慮せずに食ってくれ。ほら、紅茶もあるから」
そう言って缶の紅茶を差し出してくる真は明らかに動揺していた。
あたしはやや不審そうな目を向けつつ、差し出された紅茶を受け取って口をつける。
……うーん、まずくはないけど、やっぱり味気ないわね。缶だからこんなものかしら。
そう評価をつけて、あたしはぐいっと缶の中身をあおる。
偶にこういうのを飲むと、つくづく自分で入れられるようになっていてよかったと思う。
……これもあの人のおかげよね。
缶紅茶を片手にあたしはふと視線を窓の外へと向ける。
海鳴へと向かう電車の中、思い出されるのはあの北の街での出来事。
それは束の間の夢、ほんのささやかな奇跡の体現だった。
*
あたしにとってそれはただの寄り道にすぎなかった。
だけどそれがあたしの人生を変えた。
思い出と約束が交差するこの街で、あたしはささやかな奇跡を見た。
それはあたしにとっても奇跡だったのかもしれない。
*
――始まりはいつだっただろうか。
その日、あたしは友人である倉田佐祐理を訪ねて彼女が住む北の街へと来ていた。
何でも頼みたい事があるとかで彼女から電話を掛けてきたのが去年の12月23日の夜。
その頃は学会やら何やらで忙しく、それらを片付けるのに昨日まで掛かってしまった。
――そして、今日。
あたしは雪景色を眺めながら電車に揺られている。
「うわあ、雪だ!キレイだねお姉さん」
「こら」
何となく外を眺めていると隣ではしゃいでいた子供が話しかけてきた。
母親らしき人に叱られている。
なんとも微笑ましい光景だ。あたしにはあまり縁のないことだけど。
「すみません」
「いえ、構いませんよ。そうね、君雪は好き?」
「うん、こっちに友達がいて毎年遊びに来てるんだ」
「そう、よかったわね」
そうこうしているうちに駅に着いたようだ。
「あっ、あたしここで降りるから」
「ばいばい、お姉さん」
「ええ、ばいばい」
軽く手を振り返すと、あたしは子供と別れて駅へと降りた。
ああいうのも悪くないと思う。
ぼんやりとそんなことを思いながら、改めて辺りを見回す。
視界の隅に転がるあんまんを追いかけていく少女が見えたが気にしないでおこう。
「本当に一面雪ねえ。待ち合わせの時間には少し早かったみたいね。ん?」
暇つぶしに本でも読もうかとベンチを探していると、雪ダルマらしき物体を発見した。
物体というより人間だろう。しかも、自分と同じ歳くらいの。
だが遠くから見れば間違いなくそれは雪ダルマにしか見えないだろう。
「……ちょっと、あんた。雪ダルマにでもなるつもり?」
「そりゃ、2時間も待たされてるからな。というか、よくこの状態で人だと解かったな」
「眼はいいほうよ。それにしても、ひどい仕打ちね」
「まったくだ。後1時間もすれば俺は完全に雪ダルマだ」
「そうなったら誰にも気付かれないわね」
「うわあ、こんなところで死んでたまるか」
「安心しなさい。死体の処理には慣れてるから」
「何に安心しろっていうんだ」
こいつなかなか面白いわ。暇つぶしにはちょうどいいし、もう少し付き合ってもらおう。
「ま、それはおいといて」
「俺の死活問題は無視かよ」
「あら、コーヒーでもどうかと思ったけどいらないのね」
「すみません、失言でした。許してください」
やっぱり面白いわ。
「まあいいわ。ちょっと待って、今だすから。冷え切った体にはこれがちょうどいいかな」
あたしはいつも持ち歩いている魔法ビンの1つを取り出すと、中身を紙コップに注いでやる。
「サンキュ。……おっ、美味い」
「あたしの特製ブレンドコーヒーよ。冷え切った体を芯まで温めてくれるやつ。こういう時しかお勧めできないけど」
「それはどういうことだ?」
「真夏に飲んだら脱水症状起こすわよ。それ」
「さらりと怖いこというな。ん?あれは」
コーヒーをすすりながら雪ダルマ(名前を知らないのでそう呼んでおく)が向けた視線の先には、こちらに向かって歩いてくる少女がいた。
どこか眠たそうな大きな眼が特徴的だ。
あっ、さっきの娘ついにあんまんと一緒に転がり始めた。誰か止めてあげればいいのに。
でも今行ったら巻き込まれるか。
「……雪、積もってるよ」
「2時間も待たされてるからな」
「わっ、びっくり。まだ2時くらいだと思ってたのに」
「それでも1時間の遅刻だ」
なかなかマイペースな少女である。
「これ、あげるよ。遅れたお詫びと再会のお祝い」
そう言って少女は持っていた缶コーヒーを渡す。
「7年振りの再会の祝いが缶コーヒー1本だけか?」
どうやら幼馴染のようだ。
「もうそんなに経つんだね。ふふ、わたしの名前覚えてる?」
「そういうお前こそ俺の名前覚えてるか?」
「うん。祐一」
何かをかみ締めるように少女は雪ダルマの祐一の名を呼んだ。
「花子」
やはりこいつはあたしが思っている通りの奴だった。
それにしても花子はないだろう。それじゃあ彼女が可哀想だ。
「……」
案の定、少女は悲しそうな顔をしている。
「次郎」
「わたし、女の子」
「さて、そろそろ行くか」
構わず祐一は歩き出そうとする。
「祐一っ、わたしの名前……」
少女は必死だった。まるで名前を言ってもらわないと前に進めないかのように。
「……行くぞ。名雪」
そんな彼女に祐一は振り返って、照れくさそうに少女の名を呼んだ。
「うんっ!」
「やれやれ、さっきのコーヒーで別の物もあっためちゃったかしら」
「うわっ、そういえば忘れてた」
「ねえ、祐一この人誰?」
「さっ、さあ?」
「命の恩人をぞんざいに扱うとは何様のつもり?」
「ひえー、ごめんなさい」
「まあいいわ。これも何かの縁ね、一応名乗っておくわ。あたしは蛇坂麗奈」
「俺は相沢祐一だ」
「わたしは水瀬名雪です」
「縁があったらまた会いましょう。こんどはとっておきのコーヒーをご馳走するわ」
「何だか怖いから遠慮しとく。それじゃあ俺達もう行くので」
こうして2人は去っていった。
ふと時計を見るとそろそろ待ち合わせの時間になろうとしていた。
ちょうどいい具合に一台のいかにも高そうな車がやってきて、あたしの前で止まる。
すぐに後部座席のドアが開き、そこから1人の少女が現れた。
「麗奈さん、お久しぶりです。お待たせしちゃいましたか」
「時間通りよ。問題ないわ。それにしても、ずいぶん久しぶりね。元気にしてた?」
「はい。見ての通りです。取り合えず乗ってください。家まで案内しますので」
「お願いするわ」
そう言って一礼すると、あたしは勧められるままに車の後部座席へと乗り込んだ。
彼女は倉田佐祐理。あの倉田財閥総帥の娘であたしの友人だ。
彼女に勧められるまま車に乗り込むと、これまた懐かしい顔があたしを出迎えてくれた。
「久しぶりねゼクス。あんたも相変わらず元気そうね」
「久しぶりだな。わたしをその名で呼ぶのももうお前とあの5人くらいのものだ」
「あははー、今はミリアルドさんですよ」
「そういやヒイロ達はどうしてるの?」
ここにいるゼクスとはあたしが少しの間世話になった、“フラナガン機関”という特殊な研究施設で知り合った。
「ヒイロは香港警防で働いているそうだ。デュオはアメリカの貿易会社、トロワは相変わらずサーカスにいる。ウーフェイは自分を鍛えなおすとかで確か中国の奥地にいるはずだ」
「皆相変わらずのようね」
「ああ。お前のほうはどうだ?」
「あたしも相変わらず。今日は佐祐理の頼みでこっちに来たの」
「例のプロジェクトの件か?」
「知ってるんだ。ええ、そうよ。どうやら行き詰ってるみたいだから」
「はい。今のままではコストパフォーマンスが悪すぎるので。皆さん頭を抱えていました」
「あたしが提案した“連鎖変換システム”でも駄目だったの?」
連鎖返還システムとは、汚染物質に核分裂反応を起こさせることで無害化し、そこから得られたエネルギーを動力へと回す新しいタイプの発電方法である。
「まあ、確かに設備の維持にはかなりの額が必要になるでしょうね」
「そうなんですよ。おかげで採算が取れなくて、廃止の声も上がってきているんです」
「そう。中々上手くいかないものね」
「世の中というのはそういうものだ」
「解かったわ。1度見せてもらって問題点をチェックしてみましょう」
「お願いします。それからしばらくの間この街に居てくれませんか?」
「別にいいけど、どうしたの?」
「プロジェクトのこともありますけど、久しぶりに会えたのだからゆっくりお話したいなと思って」
上目遣いでこちらを見ながら手を合わせて、お願いのポーズをとる佐祐理。
こういう仕草をされると思わず苛めたくなってしまう。
「どうしようかしら。またあの服着てくれたら考えてあげる」
それを聞いて佐祐理は思い出したのか、顔を赤くしていやいやと首を横に振る。
「そんな意地悪いわないでくださいー。あれは結構恥ずかしいんですよ」
「そう?あたしはさまになってたと思うわよ。可愛かったし」
「それでもあれは恥ずかしいです」
そう、あれは数年前。
ちょっとした遊びであたしが見立てた服で佐祐理とゼクスが着せ替えショーをした時のこと。
観客はあたし達だけだったので今思えばけっこう恥ずかしい服が多かった気がする。
ちなみにその時撮った写真はあたしがアルバムにしてちゃんと保管してある。
「いいじゃない、減るもんじゃなし。じゃないとあの写真、焼き増ししてばら撒くわよ」
「それはいやですー」
佐祐理は真っ赤になって首をぶんぶん振る。うん、とりあえずいつも通りみたいね。
「変わっていないなお前も」
運転席でゼクスが苦笑している。
「何悠長なこと言ってるの?あんたにもあれ着てもらうわよ」
「何っ!?」
「あっ、それは楽しみです」
「佐祐理まで何を言う。あんなもののどこがいいのだ?」
「男には解からない世界よ。というわけで佐祐理も着るのよ。ステッキもちゃんと用意してるんだから」
「はう」
「ならば麗奈もあれをきろ」
「なっ、あたしはいいわよ」
「よくありません。不公平です」
「うっ、言うんじゃなかった」
「あははー。もう遅いですよ」
あたしは車の中で話している間ずっと一弥のことには触れなかった。
ただ死んだということだけは知らされていた。
何故死んだのかは解からない。だがそんなことを佐祐理に聞く気はない。
あたしは佐祐理が話してくれるまで何も聞かない。一弥の死も腕の包帯のことも。
あたしはいつも通りにしていればいいのだ。
何もできないのだから。
そう、あの時も………
あとがき
こんにちは堀江紀衣です。
今回は麗奈さんの思い出話です。
紀衣「さて今回のゲストは倉田佐祐理さんです」
佐祐理「どうも、はじめまして。倉田佐祐理です」
紀衣「さて麗奈さんと佐祐理さんは友達ということでいつ頃からのお知り合いなんですか?」
佐祐理「始めて麗奈さんにお会いしたのが小学4年くらいの時でしたっけ」
麗奈「そうね。確か佐祐理の親父さんが開いた社交パーティーに始めて出席した時だったかな。あの時はずいぶんとはしゃいでたわね」
佐祐理「楽しかったですよ。後で叱られちゃいましたけど」
麗奈「あの頃は喜んで着てくれたのにねえ。これ」
麗奈、ドレスのような物を持ってため息を吐く。
佐祐理「あははー。でも紀衣さんのほうが佐祐理よりも似合いそうですね。それ」
麗奈「言われてみれば、そうね」
紀衣「なっ、なんだか嫌な予感がするのですが」
逃げようとする紀衣の肩を麗奈が、がっちりと押さえる。
麗奈「さ〜、着替えましょうね〜」
佐祐理「ステッキはこちらです」
紀衣「いっ、嫌です。わたしはもう充分です」
麗奈「やかましい、さあ、新しいスキルを習得するのよ」
紀衣「いやだああああぁあぁぁぁぁぁ!!」
数分後。
紀衣「しくしく……そっとしておいてほしいのに」
麗奈「うん、やっぱり似合うわね。ほらいつまでも泣いてないでステッキ持ちなさい」
佐祐理「でもちょっと強引じゃなかったですか?」
麗奈「いいのよ。似合うほうがいけないんだから。それに佐祐理だって一緒にのってたじゃない」
佐祐理「あはは。ちょっと良心が痛みます。ごめんね、無理やイ着せちゃって」
佐祐理、紀衣の頭をよしよしと撫でる。
ゼクス「まだ似合っているだけマシだと思え。私は……私は……男なんだぞ!なのにこんな格好を」
麗奈「あんたはそういう普通じゃないのに縁があるでしょ?どこぞの生ごみとか魔王の器とか」
ゼクス「私は普通だああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ゼクス、錯乱して走り去る。
麗奈「まっ、あれはほっといて。ねえ、そんなに女なのが嫌なの?」
紀衣「女であることにはもう諦めましたし、そんなに嫌じゃありません」
麗奈「じゃあ問題ないじゃない。あんた可愛いんだから、可愛い服着て女を磨けばいいじゃない」
紀衣「麗奈さんの場合は何だかよく解からないスキルを習得させようとするじゃないですか!」
由衣「私はそんな紀衣さん、好きですよ。メイドもネコ耳も魔法少女だって素敵です」
紀衣「うっ……」
麗奈「ほら、愛しの由衣だってああ言ってるんだからいいじゃない。ほら、もっとくだけちゃいなさい。そうすればもっとあんたは輝くわ」
紀衣「……解かりました。でもせめて普通の服を着させてください。もう変なスキルは嫌です」
麗奈「解かったわ。スキル習得はさせないわ。あまり無理させて自我崩壊おこしたら大変だものね」
紀衣「ほんとですか?よかった」
麗奈「というわけで次回からは紀衣さんの着せ替えショーよ。佐祐理、服のほうは任せたわよ」
佐祐理「はい、任せてください」
紀衣「何かまた嫌な予感が……」
麗奈「ふっふっふ、甘いわよ。スキルなんて気持ちと服装で初歩は習得できるんだから。後はあの男を徹底的に女として磨き上げるだけよ。忌々しいことに霊体がまだ男にしがみついてるんだから」
紀衣「あのー、聞こえてるんですけど?なんだかこの先不安だ」
――お願い――
紀衣の着せ替えショーをやるのですが、情けないことながらわたしはデザインやファッションの知識があまりありません。資料があればよいのですがそういったものも持っておらず……
誰か教えてくださーい(しくしく)
こんなのを着せて欲しいというリクエストも受け付けておりますのでよろしくお願いします。
着せ替えショーか。メイドは既に出たから、巫女服も出たな。
と、なると…。
美姫 「何で、あとがきの方に喰い付くのよ!」
あ、あははは。ついつい。
と、ほ、本編の方も謎みたいなものが出てきたし…。
美姫 「佐祐理と麗奈の過去ね」
そうそう。次回、どんなお話になるのか楽しみだな。
美姫 「ええ、本当に」
そして、もう一つの楽しみがあとがきと。
美姫 「確かにね」
次は、どんな衣装が登場するのか!
やはり、最初はオーソドックスにPiaキャロの制服辺りで。
美姫 「他には?」
うーん、そうだな。
パーティードレスとかはどうだ。
美姫 「うんうん。後は、リボンがいっぱい付いたフリフリ系の服とかね」
そうそう。いや〜、どんな衣装が出てくるのか、楽しみだな〜。
美姫 「次回も楽しみに待ってますね〜」
ではでは。