『外伝 生まれたときから』




”刻は来たりて再び帰り来ず。”

何時の頃からだろうか、この言葉が頭から離れない。

父さんが死んでから十年が経とうとしている。

この間、寂しいとは思わなかった。そんな暇が無かった。

父さんの代わりに美由希を鍛え、自分自身も鍛えて来た。

そんな毎日の中で、自分に課した過酷な鍛錬が剣士生命を閉ざした。

それでも美由希を鍛え、いま正統伝承者としての美由希が居る。

CSSチャリティーコンサートのおり、会場警備を担当していた

時の血みどろの闘いの中での美沙斗さんとの再開。

あの時、美由希と二人で美沙斗さんを守れた。

父さんの妹、静馬さんの妻、美由希の母、彼女を守れたことは御神の

剣士として誇るに足る事だと思っている。

大切な人を守るとき、御神の剣士には負けは無い。

那美さんとの出会い、薫さんとの出会い、忍やさくらさんとの出会い。

様々な出会いが在り、絆の不可思議さには驚かされるばかりだった。

そんな中、秋霜という俺の守護神剣との出会いは因縁めいた出会いであった。

千年余の歳月が流れ、秋霜は今、八景と共に俺の傍に在る。

彼ら二振りの剣の存在が、俺が何者であるかをはっきりと認識させた。

俺は、今は失われた特殊な一族の先祖がえりの様な存在であることが

判明した。御神も不破も、かなり特殊な一族だがそれすら凌駕する

ものであった。人でありながら人ではない血族の末裔であった。

そして彼の周りの人たちを巻き込んでゆく、この世の理の枠を越えた事件。




ここは西方仙人族の長の屋敷、今其の奥座敷の中に無灯双也なる人物が座していた。

「久しくご無沙汰を致して居りましたが漸く立居戻りましてございます。

 長には何等お変わりなく恭悦至極に存じます。」

「よう戻られたな婿殿、厳しい状況じゃったが真実、無事で何より。秋霜も八景も

 ご苦労であったな。それと、峰斗のことは気にするでない、あれも満足している

 事と思う、妹の亭主を護り切ったのだからな。」

双也は何もいえなかった。いや、返す言葉が無かった。


「大丈夫か、峰斗!」

「ああ。大丈夫だ。ここは俺に任せてお前は先に進め。」

激しい戦闘を潜り抜けやっとここまでたどり着いた。

一緒に居た仲間は其の大半が鬼籍に入っている。いや、仲間だけでは無く、敵までも

が輪廻もかなわぬ無象空間に其の身を落とし消滅した。

「あと少しで手が届く。ここから先は双也、お前の仕事だ。お前の勤めを果たせ。」

「わかって居る。では行くぞ、命永らえる事が叶ならば又酒でも酌み交わそうぞ。」

「おお、楽しみにしておる。」

これが峰斗と双也が交わした最後の言葉であった。

異界への扉を護る役目を担うべく、主神によって創り出された最強の一族。

その長たる者こそ、彼、無灯双也であった。

其の一族の戦闘力は神々に比して劣るものではなく、特出した能力が与えられていた。

正に人でありながら人ではない存在であった。

異界からの侵入を防ぐ防人として、主神は彼らに神々に劣らぬ戦闘力を付与したのだ。

神々が人間界に干渉し、正面切った闘いを展開すれば、時間軸を歪めてしまう。

そこで創り出されたのが彼ら虚空蔵一族であった。

いわば神々の代理で闘うことを約束付けられた戦闘集団、それが虚空蔵一族であった。

ある日、異界から魔族の大軍が何の前触れも無く急遽侵入してきた。

彼らは、人間界における十四の扉を護っていた。其処彼処で侵入を開始し、虚空蔵一族の

力を分散させ、一気に朱雀門から攻め込んできた。そこで西方仙人族が支援する事になった。

切り結びながら扉へ辿り着き、数多の敵を切り伏せ扉は護りきったが計り知れない問題を

内包したままの収束であった。


かつて日本武尊または倭武尊(やまとたける)という人物がいた。

第十二代天皇である景行天皇の子。兄と弟を殺した事を恐れられ、疎まれる。

休む間もなく討伐を命じられ、最後には命を落とす。その姿は白鳥になって天に舞ったと

伝承される人物であるが、熊襲征討に成功し、その折、熊襲の長は、帰順する証として一人

の美姫を差し出した。

彼らの間に生まれた子の中に、其の名を甕依姫(みかよりひめ)と呼ばれた人物が居た。

筑紫君の祖とされている女性である。

そして、甕依姫(みかよりひめ)と同じ頃、その時代に卑弥呼と呼ばれ、鬼道をよく遣う

女帝が現れた。

弥生時代に生きたとされているこの女帝はよく呪術を使った。

人外を使役し、また人外を屠った。



刻はながれ、神咲という退魔を生業とする一族がここ九州の南端に誕生した。

其の起源は明らかではないが鬼道を遣い、霊障や妖魔などを祓うことに特化した者たちが

集い、何時の頃からか神咲と名乗り、霊障害を祓うことで其の名を馳せた。

其の始祖は女であったと伝えれれている。

以来、不思議に神咲の当代はすべて女性である。

やがて、三派に分かれるがこちらも当代はすべて女性であった。



外伝 生まれたときから



今回は外伝〜。
美姫 「気になる名前が幾つか出てきてるわね」
うんうん。一体、本編とはどんな関係が。
美姫 「本編の方も楽しみにしてます」
ではでは。



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