『生まれたときから Part-5』
邂逅
丑三つ、俺は八束神社の境内にいた。俺の周りで何かが起こりつつある。
敵なのか味方なのかも分からない存在と対処しようとしている。
突如、風が舞うように恭也に吹き付ける。
風が収まり、周囲を見渡すと社の濡れ縁に男が座っている様に見えた。
「秋霜か？」
声をかける恭也。
「恭也か」
全てのものを凍り付かす様な、圧倒的なまでの気配が周囲を包む。
『悪意は感じられないか、それにしてもこんな威圧感ははじめてだ』
やっとの思いで口を開く。
「一体、何用在って俺を呼んだのか教えて貰えたら有り難いのだが」
警戒を怠らず、八景をいつでも抜けるように調整する。小物もだ。
風貌からして並の達人ではない、退魔の時の神咲さんのような衣服を纏って
居る、式服に似ているが、また違うようにも見える。
すると今までの雰囲気が嘘の様に殺気が周囲を支配する。
しかも、今まで感じた事も無い殺気だ。
社が崩れ落ちてゆく。森の木々が倒れてゆく、信じれらないまでの殺気に
恭也の肌は粟立っている。
『俺は恐れている！、怯えている！、馬鹿な！そんなこと在り得ない
父さんとの鍛錬で、負の感情すべてを克服したこの俺だぞ・・・
逃げ出したい、でも、此処で逃げ出したら今までの俺は・・・』
何かを思い直したかの様に、恭也は腰に差した八景を握り締める。
『俺には八景が在る、父さんの形見で、相棒の八景が在るじゃないか
怖いものは怖い、素直に認めればいいんだ
そうか、父さんが言っていた川の流れの話だ
恭也は今、ゆっくりと思い出している
”鍛錬のあと必ず父士郎が川の流れの話をしていた姿を”
俺は負けない、対峙する相手ではなく、俺自身に』
恭也の目が毎時もと同じ輝きを取り戻す。
さらに殺気は増して行く、しかし、そこには迷う事のない恭也が居た。
『殺気が消えた』
対峙する男から発せられていた殺気が嘘の様に消えた。
周りを見渡すと、社は何の変化もなく月光を浴びて佇んでいる。
森の木々もそのままだ。
戸惑いながらも恭也は男に声を掛ける。
「おまえは何者だ、何のために俺を呼ぶ」
「お前ではない、秋霜と言う名がある」
「すまん、秋霜・・・でいいのか」
「ああ、それでよい、以後、我を呼ぶときは其の名を呼ぶように」
「承知した」
「我は汝を守る存在、また汝を消し去る存在」
「守ると消し去る、その意味するところは何だ」
「本来、我と八景は相反するものとして創り出された、八景は防御、我は破壊、
創り主が我らに与えた定めじゃ」
「なぜ俺の前に現れたのだ」
「我は八景に呼ばれた」
「八景が秋霜を呼んだというのか」
「そうじゃ、我と八景は二振りで一振りと理解すればよい」
秋霜は思い出すように口を開く。
「嘗て不破の始祖一族が流浪の最中、創り主に出会った
その折、創り主より不破の始祖に与えられたと聞く、それが始まりじゃ」
八景は防御、秋霜は破壊、この相反する力が不破の根源なのか、でも八景のみが
伝承されてきた理由は一体？
「教えてやろうか、その理由を」
心が読めるのか、いま考えていた事を言い当てられて戸惑う恭也。
「驚くことは無い、我も神なればそれくらい造作も無いこと」
何だって、今なんと言った、神、秋霜は神様なのか。
「もともと御神があって、不破が生まれた。不破が生まれた背景は今は知る必要は無い。
ただ、御神の五代目の頃から不破の名前が出るようになった。それ以前に不破は存在
しなかった」
生残りを賭けて御神から不破が生まれた、要は、どちらか一方が生残れば一族の
血が絶える事無く存続する、そんな理由だろうか。
「本来、不破に属するはずの我の存在を恐れた神界の一部が、不破内部を離反
させる事で、我を封印し、時間の裏側へ追いやった」
不破の同族争い、初めて知る不破の歴史、やはり父さんが言っていた様に、
不破は、流血と共に存在してゆくものらしい。
離反した不破の支流は恭順するものは罪を問われず、恭順しないものには
苛烈な結果が待っていた。しかし、秋霜の行方は分からずじまいで、何時しか
其の存在が忘れ去られていった。
「ひとつ問う、其の秋霜が何ゆえ今、この時期に現れたのかその理由は」
「簡単な事よ、封印が解けただけの事じゃ」
「なぜ封印が解けたんだ」
「封印せし輩を我が滅した」
「滅した、封印されているのにどうして」
「我を封印するには力が足りなかった、封印の隙間より意識を飛ばしてな」
「なぜすぐにそうしなかった」
「封印された時点で力が尽き付きかけていたからのう、回復するのに時間が掛かった
それだけじゃ」
「ところで恭也、おぬしは不破の正統なれば、我を伝承する事も可能だが」
「八景も神なのか」
「いや、八景は神ではない、神霊刀とでもいうべき存在だ、もっとも神となるべき
存在ではあったがのう」
目の前にいる秋霜は、懐かしむように、哀れむように言った。
どうやらどちらでもいいらしい、神様のくせして、いい加減な所がある、
妙な所で感心していると、いきなり頭を殴られた。
「・・つ、何をする」
「恭也 汝はいま不遜なる事を思い浮かべたであろうが」
会話の最中、すでに秋霜を受け入れている自分がいる事に気付いた。
「伝承するとかじゃなくて、八景と同じじゃだめなのか」
「八景と同じ、それはどういった意味じゃ」
「俺は、正式に八景を伝承した訳じゃないんだ」
「それはどう言うことじゃ」
「不破一族も、御神一族も、龍と言う組織に滅ぼされたんだ、
正統伝承者不破一臣さんもそのとき死んでしまった。生き残ったのは父さん、
美沙斗さん、俺、美由希の四人だけだ」
「そうか・・・・」
「それで、父さんも殺された。だから、俺は八景を正式に伝承した
訳じゃないんだ、八景は俺の相棒なんだ」
「刀がお前の相棒なのか」
「そうだ」
「言い敢えて妙、という事か」
突然、八景が震える様に動き出す、こんな事は初めてだ。
八景
俺と秋霜の前に、同じような装束の人影が現れる。
「久しいのう、秋霜」
「八景か」
「そうじゃ、八景じゃ」
「八景よ、お主、良いもち手に巡り合えたのう」
「ああ、恭也は最高のもち手じゃ、始祖にも劣らん程のな」
「ああ、話していて我も気付いた」
「我を友として扱ってくれる」
「うらやましい限りじゃよ、八景」
「お主とは一瞥以来じゃが、封印者を滅したとは、凄まじい力じゃ、神族
なのじゃろ、封印致せし者は」
「そうじゃ、神族じゃった」
「一族離合で離れたが、八景は創り主の意向に沿った働きをしているのじゃな」
「ああ、長い年月、守ることに徹した時を過ごして来たからのう」
「我は、無為の時間を過ごしたと思っていたが、そうではなかったみたいだ」
１時間ほど話し合って決着が付いたのか、互いに納得しあっている。
「そうか、やはりお主も我と同様、恭也と共に在るか」
「ああ、そのつもりじゃ、我は恭也と巡り会う為に封印されたのじゃと思う
今思えば封印者を滅したのではなく、解放されたのかも知れぬ」
そんな会話が交わされている頃、当の恭也は唖然としていた。八景から人が
出て来たかと思うと、秋霜と話をしているではないか。
「不破恭也、我は汝と共に歩まん、願わくば森羅万象の神々よ、篤と御照覧あれ」
秋霜が高らかに宣言すると、どこからか声が響く。
「裁可せり」
「これで汝と共に在らんとする我が願いは聞き入れられた」
「どう言う事なんだ」
「神々に、汝と共に在るら事の承認を得たのじゃ、今後ともよろしく頼む」
「我からも、秋霜の事、宜しく頼む」
こうして恭也は相反する性格を有する小太刀を持つ事になった。
背後で気配がする、
薫さんと那美さん、それに、葉弓さん、楓さんまでが駆けつけてきた。
少し遅れて耕介さんまでも。
「皆さん、一体どうかしたんですか、こんな夜更けに」
「恭也君、君一人だけかな」
耕介さんが俺に聞く
「はい、俺一人ですが」
「何か、変わった事はなかったと」
「はい何も無かったですが」
「そうか、気の迷いとは言い切れない霊気じゃった」
「久遠のときを遥かに上回る力を感じたんです」
「凄まじい霊気を感じました、私もこんな霊気は初めてです」
「こんな霊気はうちも初めて感じたんよ、話に聞く神魔の様な感じやった」
「・・・恭也君、大丈夫かい、少し顔色が冴えない様だが・・・」
耕介さんは何か感じているらしいが、それ以上は聞かない。
「恭也君、君は確か小太刀の二刀流じゃたね」
「いつもの八景は知っているんじゃが、今、手に持っている小太刀は初めて
見るような気がするが」
「ええ、初めて見ますね薫、何か秘められた力を感じるんですが」
十六夜さんが現れてそう言う。
「でも、先ほどのと比べたら、天と地ぐらいの差がありますね」
「一体なんだったんでしょう、あの霊気は」
葉弓さんと楓さんと那美さんが首をかしげる中で、何も言わずにいる耕介さんと薫さん、
そして十六夜さん。
俺は内心すまない気持ちで一杯になった。いつも良くしてくれる彼らに嘘を付いている
事が少し後ろめたい気持ちにさせる。
「いづれにせよ悪意は感じなかったからいいんじゃないか。其れより時間も時間だ帰るぞ」
耕介さんがそういって帰り始める。
「それじゃ恭也君、お休み」
「俺も帰ります、耕介さんもお休みなさい、皆さんもお休みなさい」
「お休み、恭也君」
「お休みなさい、恭也さん」
「お休みなさい、恭也様」
八景と対となる小太刀秋霜が恭也の元へ。
美姫 「これにより、果たして、どんな出来事が起こるのか？」
耕介と十六夜あたりは、何か勘付いているかも。
美姫 「さてさて、次回はどうなるのかな〜」
次回も楽しみにしてます。
美姫 「それじゃ〜ね〜」