生まれたときから今日まで、どれ位の人々に出会えたのか、縁側で熱い緑茶を飲みながら
考えるとも無く考えていた。高町恭也十七歳の今日この頃である。
物心付くころから剣を握っていた。彼には母親の記憶が無い、いつも父親士郎が側にいた。
バシーンと音がして恭也が壁に叩き付けられる
「どうした、さっさと立って掛かって来い」
士郎の怒鳴り声
「それくらいでへばってしまうのか、情けないやつだな」
追い討ちを掛けるように士郎が怒鳴る。
「――うううう」
歯をかみ締めて立ち上がろうとするが、ドサと音を立てて崩れ落ちれ恭也。
意識が遠のいてゆく――。
夢の中で恭也は幼いころの自分を思い出していた。
怯えるな、怯えたところで、痛いものは痛いんだ、痛いからと言って逃げるな。
目をそむけるな、相手から目を逸らすな、表情に出すな、いつも父さんに言われ
ていた言葉を思い出す。
打ち合いの末、小太刀を握る手や指先から血を滲ませた自分がいた。
こんな稽古が何年も続いた。
恭也はどんなに打たれても怯まずに、目を逸らさずに、表情を変えずに相手に
撃ちかかって行く少年になっていた。
でも、稽古は、彼から無邪気さを奪い去った。
恐怖心は感じなくなり、御神流の教えを守って剣を振るえば誰と打ち合っても
敵の刃は寸分もわが身には当たらない、信仰に近い信念が芽生えていた。
反面、彼はあまり人と話さなくなった。
無口で、自分を克服した恭也がそこにいた。
そう、僅か八歳の、大人びた子供らしくない子供がそこにいた。
生まれた時から今日まで
高町家
「ただいま、あら恭也帰ってたの、美由希は」
母さんが声をかけてくる、その声で目が覚めた恭也は、思い出した、
今日は妹なのはの誕生会だった事を。
なのはの友達が集まるとの事で母さんも早めに店を切り上げて帰ってきたの
である。そうこうしているうちに美由希が帰ってくる
「ただいま」
「お邪魔します」
どうやら那美さんも一緒らしい、しばらくして
「お邪魔します」
「お邪魔します」
この声は確か――。
今、高町家のリビングには、母さん、美由希、那美さん、赤星、藤代さん
がいて、みんなでお茶を飲んでいる、お茶請けはせんべいである。
「途中で会ってね、一緒に帰ってきたんだよ、恭ちゃん」
「高町、今度の県大会に向けて特訓中なんだが、女子部のほうが心許ない
感じがして美由希ちゃんに女子部の練習を見てほしいんだ、ついでにお前にも」
「赤星、お前も知っての通り、俺たちの遣っているのは剣道じゃない」
「うん、剣道じゃないって事は分かってはいるんだが」
「高町くん、無理な事は分かっているんだけど、お願いできないかしら」
「恭ちゃん、だめなの」
横から美由希が声を掛けてくる。
「美由希、俺たちのは剣道じゃない、其の違いをお前は分かっている筈だ」
「でも――」
「藤代さんだって、そこそこは遣える」
「だって――」
雰囲気が固まりかけたとき
「恭也、指導するのがだめなら一緒に練習すればいいんじゃないの」
母さんがそう言った。
「堅苦しく考えないで、一緒に練習やればいいのよ」
「かあさん、いくらなんでもそれはまずいんじゃないか」
「どうして、教えてあげられないのなら一緒に練習を遣ればいいだけの事じゃない」
「そうだよ、恭ちゃん」
「そうだよ、お兄ちゃん」
いつの間にかなのはもそれに加わっている。
「――わかった、一緒に練習をすればいいんだな」
夕食後、那美さん、藤代さん、赤星たちが帰った後、恭也たちは鍛錬に出かけた。
夜半、八束神社、境内から金属の触れ合う音が聞こえてくる。
「――ょ――や」
「き――ょ――」
誰かが俺を呼んでいる、気のせいか。
確かに名前を呼ばれた様な気がしたんだが
気配を探るが何も感じない。
やはり気のせいなのか。
「今日はここまでにしよう」
「ありがとうございました師範代」
其の日の鍛錬は早めに切り上げて明日に備える事にした。
つづきます
さてさて、剣道部と一緒に練習する事になった恭也と美由希。
美姫 「一体、どうなるのかしらね」
うーん、次回が待ち遠しいな。
美姫 「本当よね〜」
次回も待ってますね〜。
美姫 「それじゃ〜ね〜」