これは・・・・・・どういうことだ?

 

落ち着いて、少し冷静に状況を把握してみよう・・・・・・

 

今日は5月26日・・・・・・日曜日。現在時間は、午前10時5分か・・・・・・

 

・・・・・・OK、少しだが冷静になれた気がする。

 

目が覚めたとき、俺は寝汗をかいていた。

 

そのままシャワーを浴びようと思ったが、いったん着替えてからにしようと考え直した。

 

歯とかも磨きたかったし、朝起きて顔を洗うのは、洗面台の方がすっきりする。

 

それに、今日は祐巳が友達を連れてくると言っていた。

 

パジャマ姿で鉢合わせしては、流石に弟として申し訳が立たない。

 

俺はパジャマを脱いで、トランクスのみの状態でズボンをTシャツをタンスから引っ張りだしていた。

 

 

ガチャッ・・・・・・

 

 

突然ドアが開いたので、俺はため息をついて開けた人間に注意した。

 

『おい祐巳、入るときはノックくらい・・・・・・』

 

俺の言葉は、その先続くことは無かった。

 

なぜなら、ドアを開けてトランクス一丁の俺を見て固まっていた人物は

 

『え・・・・・・』

 

長年見慣れた、自分とおなじ狸顔が特徴のツインテールの姉ではなく

 

『あ・・・・・・』

 

ふわふわ巻き毛が特徴の、美しきマリア様だったからだ・・・・・・

 

 

 

伝えたい言葉

 

 

 

時間は3分ほど前にさかのぼる。

 

祐巳に土曜日、家に誘われて藤堂志摩子は祐巳の家に遊びに来ていた。

 

『あ、志摩子さんいらっしゃい』

 

『ごきげんよう祐巳さん、今日はお招きしてもらえて嬉しいわ』

 

志摩子はにっこりと微笑むと、祐巳もふにゃっと笑う。

 

『やだなぁ志摩子さん、そんなに畏まらないでよ。さ、あがって』

 

祐巳はスリッパを出して、志摩子を家に上がらせた。

 

志摩子は靴を揃え、スリッパを履いた。

 

『志摩子さん、私お茶の用意するから、先に部屋に上がってて。場所は二階で左の部屋だから』

 

と、祐巳はリビングへ向かった。

 

志摩子は言われたとおり、二階へ上がる。

 

そして、『階段を上がった側』から見て左のドアを開ける。

 

このことについて志摩子を責めるのは酷だろう。

 

100人いたら、99人無いし100人は、祐巳の言葉を聞いたら志摩子と同じドアを開ける。

 

しかし祐巳は、『自分が部屋から出たときの感覚』でしゃべっていた。

 

だから・・・・・・もし責任を問われるのならば、その原因は祐巳にある。

 

だが、得てしてその不利益は、他人へと回ってしまう。

 

よって、こういう事態に巻き込まれた不幸な人間を、人は『被害者』と呼ぶ・・・・・・

 

 

 

沈黙が場を支配していた。

 

お互い、瞬き一つできずにその場に立ち尽くしていた。

 

やがて、祐麒がやっとの思いで声を出した。

 

「あの・・・・・・」

 

そしてその言葉に、志摩子は弾かれるように

 

「し、失礼いたしました・・・・・・」

 

パタン・・・・・・

 

ドアを閉めて、急いで祐巳の部屋へ駆け込んだ。

 

祐麒はようやく金縛りから開放され、床にしりもちをついた。

 

「ふぅ・・・・・・びっくりした・・・・・・」

 

安堵感がこみ上げる。

 

すごく・・・・・・綺麗な人だった。

 

リリアンは、お嬢様学校だが、もう一つ・・・・・・カトリックの学校でもある。

 

祐巳の姉である、小笠原祥子はお嬢様としての気品に溢れた女性だった。

 

あの人はあの人で、祐麒にもとても美しく映った。

 

だが、先ほどのあの祐巳の友達と思われる女性は、それとは違った。

 

聖女・・・・・・と言うのだろうか。神聖的な気品が溢れていた。

 

そしてその女性の目に映し出されたと思われる、自分のあられもない姿・・・・・・

 

ため息をつきながらも祐麒は、急いで服を着た。

 

 

 

一方、祐巳の部屋に入った志摩子・・・・・・

 

(ああ・・・・・・私はなんてことを・・・・・・)

 

何故、入るときにせめて、ノックしなかったのだろうか。

 

それならば、自分がこうして左右聞き間違えても、このような事態は避けられたはずだった。

 

そしてタイミングは最悪・・・・・・着替えているところを覗いてしまう形になってしまった。

 

(どうしましょう・・・・・・)

 

志摩子の脳裏に焼きついた、唖然とする祐巳の弟の顔。

 

このままでは祐巳に合わせる顔が無い。

 

だが、何より彼に申し訳ない。

 

そう思っていると、ドアをノックする音が聞こえた。

 

祐巳が来たのかな、と思いドアを開けると、そこには祐麒が立っていた。

 

「申し訳ございませんでした。その・・・・・・お見苦しいところをお見せ致しまして」

 

祐麒が申し訳無さそうな顔をして、志摩子に頭を下げた。

 

「そんな!謝るのは私の方です・・・・・・。ノックもせずにドアを開けてしまって・・・・・・」

 

「いや、悪いのは俺の方です」

 

「いいえ、私が・・・・・・」

 

ここでお互い、埒が明かないことを察した。

 

「その、俺は気にしてないので・・・・・・えっと・・・・・・」

 

祐麒は志摩子を見て、名前が分からず言葉に詰まる。

 

「あの、俺・・・・・・花寺学院2年の福沢祐麒といいます。ご存知のとおり・・・・・・祐巳の弟です」

 

突然自己紹介を始めた祐麒だが、志摩子はすぐにその意図を理解して

 

「すみません、申し送れました。私はリリアン女学園2年の、藤堂志摩子と申します。

山百合会では、祐巳さんにいつもお世話になっています」

 

それで祐麒もようやく理解できた。

 

「あ、えっともしかして・・・・・・白薔薇さま・・・・・・ですか?」

 

「はい。不肖の身とは承知してますが・・・・・・」

 

「い、いや!そんなことは無いです。志摩子さんは・・・・・・」

 

(先輩ならこんなとき、すんなり言葉を返せるんだろうな・・・・・・)

 

祐麒は自分の口下手を呪った。

 

彼女にもっと、彼女自身の魅力を知ってほしい。

 

それを、自分の口で伝えたかったが・・・・・・自分は言葉を持っていなかった。

 

祐麒が必死に言葉を探していると、志摩子はくすっと笑って

 

「祐巳さんとやはり似てますね」

 

「え・・・・・・?」

 

姉に似ていると言われ、その真意を測りかねた祐麒が思わず間の抜けた声を上げた。

 

「祐麒さんは・・・・・・優しいです」

 

その言葉が、祐麒の心を強く揺らした。

 

情けないくらい、心臓が跳ね上がっているのがわかる。

 

祐麒は、どうしても志摩子に伝えたかった。

 

志摩子の持つ、その輝きを・・・・・・

 

そのとき、ドアをノックする音が聞こえてドアが開いた。

 

「志摩子さんお待たせ〜・・・・・・って祐麒、なんでここにいるの?」

 

祐巳が二人を見て、疑問を投げかける。

 

祐麒がどうしたものか、と一瞬考えていると

 

「私が祐麒さんにお願いして、少しお話相手になっていただいたのよ」

 

祐巳はふ〜ん、と祐麒を見てから

 

「祐麒も一緒に飲む?」

 

と、祐麒に尋ねた。

 

「いや、俺は部屋に戻るよ。それじゃ志摩子さん、ごゆっくり」

 

「はい、どうもありがとうございました」

 

祐麒は、片手をあげて部屋を後にした。

 

 

 

 

今は言葉が見つからないけれど・・・・・・

 

あなたに伝えたい言葉があります・・・・・・

 

そのときが来たら、俺の気持ちとともに・・・・・・

 

 

 

あなたに・・・・・・伝えたい言葉があります・・・・・・

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

今回は純粋に、マリみてオンリーのSSです。

そして、やってそうで誰もやっていない志摩子×祐麒です。

原作では、祐麒と志摩子に接点があまり無いのが残念です。

さて、もしかしたら皆さん予想が出来たかも知れません。

次にマリみてSS書くときはきっと、乃梨子×祐麒になると思います。

紅&黄ファンの方、真っ白でごめんなさい(汗

 

ではまた、別の未来もしくは世界でお会いしましょう。

ごきげんよう・・・・・・




祐麒くんも災難だった…。
美姫 「でも、そのお陰で志摩子に会えた訳だし」
もっと普通に会いたかっただろうに。
美姫 「まあ、それはそれよ」
まあ、確かに。これはこれで、印象深い出来事だろうしな。
美姫 「そうそう。御影さん、投稿ありがと〜」
ありがとうございました。



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