『とらいあんぐるレヴォリューション』




〜アリスの愛する人〜















――――桜の舞う季節はいつも出会いと別れの季節だった。

――――私は、美しく舞い散る桜の中で、今でも思っているあの人と再会する――――















SIDE:ALICE



この季節になると、私はいつも思い出す。

あの時出会った黒い男の子の事を――――

私よりも年上に見えた人、私の初恋の人――――

今でも、褪せる事無く私の中に残っているあの出会いは偶然?それとも必然?

どちらでもいい、だってあの人は……確かに今でも存在するのだから。

見つけたのは偶然?それとも必然?

美味しいお菓子の店の本を見たとき、私は偶然見つけてしまったあの男の子を……いえ、彼は大きく、かっこよく大人になっていたのだから……今では立派な男の人だ。

だから、私は昔の事を――――あの人との約束を果たしに行こう。

あの人は忘れているかもしれない、でも、もしかしたら覚えていてくれているかもしれない。

だから――――私は、あの人の元へと向かう事を決心した。

約束のあの日に……




















SIDE:KYOYA






「ふう……こんな物か」



俺は、手元にある薄切りにした苺を母さんに渡すと一息吐いた。

家業の手伝いで、喫茶店である『翠屋』の厨房とフロアを何回も往復して、昼時のピークを乗り切り。

ピークも終わり、客足も少なくなったところで新しいケーキを焼くためにそのドレスの為の苺を切られるように言われた。

そして、それも今終わったところだった。



「恭也ー、今日はありがとー、正直いつもよりも多くて、桃子さんめいいっぱい助かったわー」

「ああ、また必要になったら呼んでくれ、母さん」



最後に言われた「もう今日は大丈夫だから」の言葉に頷くとエプロンをはずし厨房を出る。

……フロアの様子を見て、確かに今日の所はもう助けは必要ではないようだな。

うむ……暇になってしまったな、仕方がない家に帰って盆栽の世話でもするとしよう。

考えをそう纏めると、足早に店を去ろうとした。



カランカラン



――――その音が聞こえるまでは。

店先に、一人の少女が立っていた。

銀色の特徴のある髪で、髪をツインテールに結っている。

小柄だが、日本人ではない容姿を持っているようだ。

だが、俺が気になったのはそんな事ではない。

一目見て俺は彼女に見覚えがあることに気付いたのだ。

いつ、どこで、どんな時か……それは簡単には思い出せなかったが、だが、覚えがあった。

そしてまた……



「恭也……お兄さん?」



彼女もまた俺に覚えがあった。

声を聞いた瞬間、フラッシュバックされる記憶――――あれは、忘れるにしては辛辣過ぎる記憶だった。




















KYOYA=ANOTEHR<REMEMBER>





「よし、恭也サーカスを見に行くぞ!」

「とーさん……」



とーさんの唐突な言葉に、俺は頭を抱えた。

ここでの仕事が無事に終わり、ボディーガードで得たお金を貰い俺ととーさんは街を歩いていた。

そして、街で偶然見つけたチラシに乗っている内容を見るなりとーさんは唐突にそう言い放ったのだ。



「お金は節約しないと……」

「何を言うか!サーカスだぞ、サーカス!お前、興味ないのか!?」

「……………」



ない、と言えば嘘になる。

確かにサーカスというものがどういうものなのか、個人的には見てみたい気がする、が。

――――ここで、とーさんに賛同するのは――――



「……って、とーさん!?」

「あっちの広場にあるみたいだな、行くぞ!恭也!」



駄目だ、こうなったとーさんは誰にもとめられない……

俺は、仕方なしにため息を吐くと、とーさんの向かったサーカスのある広場に向かった。











会場前、俺はとーさんを探していた。

――――人混みにまぎれたおかげとーさんを探し辛いのだ。

辺りを見回しても、それらしき人は見かけない。

参ったな……



「あの、どうかしたの?」



ふと、唐突に声をかけられた。

そちらのほうを向いてみると、俺よりも年下の少女が俺を見上げていた。

俺は、顔をぽりぽりと掻くと少し困った表情で言った。



「いや……とーさんが勝手に行ってしまったんで、探しているんだ」

「迷子……?」

「――――認めたくはないが、そうとも言える」



溜め息を吐く。

――――少女は、その様子が可笑しかったのか、くすくすと笑っていた。



「見ていくの?サーカス」

「ああ、多分そうなるな」

「えへへ……実は、私も出るんだ」



嬉しそうに自慢する少女に、俺は少しだけ驚いた。

自分よりも小さい少女が、興行するというのだから。

彼女の言葉を聞いて少しだけ驚いたが、俺はこくりと頷く。



「そうか、では是非とも見ないとな」

「うん!絶対見てよ!!後で、感想を聞きに行くから!」



銀色の髪の毛を持つ少女が、にっこりと笑う。

俺も釣られて笑ってしまったが。



「あ、そうだ、私の名前はアリス、月城アリス!」

「俺は恭也――――不破恭也だ」

「それじゃあ、恭也お兄ちゃん、絶対だからね!!」



彼女はそう言うと、たったったっと身のこなしも軽く、走っていった。

その様子を見つめながら、俺はとーさんを探し切っていない事に気付き溜め息をまた吐いた。









それからとーさんを何とか見つけて、俺はサーカスのテントの中に入る事が出来た。










サーカスの内容は、素晴らしい物だったとはっきりと言えた。

曲芸・獣を使った芸――――そして、サーカスを演じる人々。

どれをとっても、文句なしに絶賛と言えるほどのものだった。



『最後に、我がサーカスが誇る空中ブランコをお楽しみください!!」



その言葉と共に、二人の男女が現れる。

二人の男女は、一礼するとそれぞれの舞台へと上がって行く。

それと共に、会場の緊張も高まってゆく……!

――――誰もが、この会場で息を呑み最高の展開を心待ちにする。

今、この瞬間までは、は――――

次の瞬間――――会場は悲鳴に包まれた。

空中ブランコが失敗したのだ。

互いの手が触れ合う瞬間、その手が繋がれずに、しかも手を取る方もバランスを崩したのだ。
                      ・・・
そして、それだけではなく安全ネットがそのまま外れてしまった……!



「とっ……!」

「まずい……っ!」



とーさんが即座に足を動かすが、それでも間に合わないと思う、神速を使ったとしてもこの距離と人混みではかなりきつい!



ドスンッ



重いものが落ちる音がする、それは、余りにも残酷すぎた。

会場は静まり返り動く物はとーさんと俺だけだった。

ただ、とーさんは既に一足早く俺の数メートル先を行っていた。

それでも、俺ととーさんは走った……まだ、間に合うかもしれないから……!

このような事は、想定していなかったのだろう、団員も誰も動いていないようだ。

バッと、跳躍し、とーさんは舞台の中に入ると即座に二人の様子を確認する。



「とーさん!?」

「……まだ息がある!そこの人でも何でもいいから、早く医者を呼びに行けッ!それと急いで人払いをしろッ!恭也はその手伝いをしろ!」

「……了解!」



とーさんの言葉に団員が慌てて動き始める。

俺も、即座にとーさんの言葉に行動を開始した。

――――間に合ってくれ……!

ただ、そう心に願いながら……




















結果だけ言おう……あの二人は、助からなかった。

息があるとはいえ、ほとんど虫の息状態で、あの状態では助からなかったのだ。

――――とーさんの応急処置は間違えなく、完璧だった。

こういうことに対して、とーさんは万全をきっする。



「すみません、お客様に手伝ってもらってしまって」



このサーカス団の最も偉い人が、そう言って頭を下げた。

とーさんは、それに対して首を振ると静かに自嘲気に笑った。

こんなとーさんを見るのは初めてだった。



「いや……結果的に、助けられなかったんだ。頭を下げてもらう必要はない」

「それでも、です。あの場はあなた方が動いてくださったおかげで事なきを得たのですから」



とーさんは「そうか……」と、言って椅子にもたれ掛かる。



「そういえば……アリスちゃんも不運だな」



団長さんが、唐突にそう言った。

アリス……っ、まさか!?



「あの二人は、アリス……月城アリスに何か関係が?」

「君は、アリスちゃんを知っているのかね!?」

「……講演が始まる前に、少し会いまして」



その後に、容姿を説明すると団長さんも頷いた。

……どうやら、団長さんも彼女が俺の会ったアリスが今のアリスだという事を確信したらしい。



「あの二人は……アリスちゃんのご両親なんだよ」

「……!」

「それは、また……」



とーさんも話を聞いていたのだろう、苦汁を舐めたような顔をしていた。

それから、今のアリスの現状も聞いた、どうやらかなり精神的に参っているらしい。

無理もないだろう……アリスは、現在5歳の少女だ、両親を失って心が壊れても可笑しくない。

だから俺は、その時彼女を純粋に元気付けたいと思った。

同じ、肉親を失った者として――――



「とーさん……俺、ちょっと行って来る」

「恭也……そうだな、お前ならなんとか出来るかもしれないな」



とーさんは口元に笑みを浮かべると「言って来い」と、俺に言った。

俺は、とーさん言葉に頷くと、一目散にここから出て、彼女の部屋を探した。




















彼女のいる部屋はすぐ見つかった。

何せ、一度会っているから気配で見つけられたのだ。

……とーさんに感謝しなくちゃな、こういうところで役に立ったわけだし。

俺は、彼女がいるであろう扉の前に立つと、ドアをノックする。

――――返事はない、これは予想はしていた。

だから……



「失礼します」



一応一言断って、俺は中に入った。

中に入った瞬間、泣き声が聞こえる。

女の子のすすり泣く声だ……



「アリス、いるか?」



俺の声に、ビクリと体を震わせる。

少女は、慌てて辺りを見回し、そして俺を見つける。



「恭也お兄ちゃん……?」



ボロボロに泣き腫らした目が痛々しかった。

俺は……自分の中にある、少ない単語を必死に引っ掻き回す。

――――けど、出てきたのは。



「大丈夫か?」



本当に陳腐な言葉だった。

しかも、そんな事様子を見ればすぐに分かってしまう事だった。

大丈夫な、訳がない……



「うぇ……く……」



だけどアリスは、俺の言葉を聞いた瞬間、瞳にいっぱい涙を溜めた。

そして……



「うわぁぁぁあぁああぁぁぁあぁぁぁあぁ!!」



アリスはいきなり俺に飛びつくと、声を荒げて泣き始めた。

当初の俺には、それをただ呆然と受け止める事しか出来なかった。

――――この時、とーさんと訓練しているとき以上の無力感を俺は自分自身に感じてしまった。

こんな小さな少女の涙を止めることが出来ないのか、と。










その後しばらくして、アリスは泣き止んだ。

俺は、アリスの眠っているであろうベッドの上でアリスと一緒に座っていた。

先ほどと同様に、俺はアリスを慰める言葉を必死に頭の中で模索するが、先ほど以上に何も浮かんでこない。

と、その時、アリスは静かに口を開いた。



「お兄ちゃん……」

「なんだ?」



即座に言葉を返す。



「私……の、せいなんだ」



アリスは静かに、本当に静かにそういった。

思わず俺はきょとんとしてしまった。

この時の俺には、それだけでその言葉を理解する事は出来なかった。



――――俺は、本当に子供だったから――――



「パパとママが死んじゃったのは……私のせいなんだ……!」



――――彼女から出る、重い言葉に一瞬何もいえなくなった――――



「私が、お友達が出来ないのはパパとママせいだ、パパとママなんが死んじゃえなんて言ったから……」



――――そして、俺が軽々しく口を挟んでしまってはいけない言葉だったから――――



「だから、パパとママは死んじゃったんだ……!」



――――けれど、それでも……俺は――――



言わなくちゃ、いけないと、思った……



「違う……」

「違わないもん!」

「違う!!」



否定しなくちゃいけない、ただそれだけしか俺の頭にはない。

もう既に、俺はほとんど頭の中で考えてない、自分の中に浮かぶ言葉を口にするだけだ。



「あれは事故だったんだ!紛れもなく!ただ、少しずつの偶然がああいう結果を出してしまっただけなんだ!」

「でも、でも!パパとママが公演中にミスをするなんてこと絶対にないもの!」

「ミスをしないなんて人間はいないんだ!だから、今回の件もたまたまこうなってしまっただけなんだ!ともかくアリス、君は悪くない!」

「違うもん!私が悪いんだもん!」

「悪くない!」

「悪いんだもん!」



俺とアリスは、互いに譲らなかった。

それから、小一時間ほどずっとこんな風に言い合いをしていた。

お互いに、言い合っていたのも疲れたのだろう。

俺とアリスは言葉も交わさずに背中を互いに合わせていた。



「……アリス」

「なに……お兄ちゃん」



アリスの声も、少しだけ眠そうだった。



「俺も、大切な人達を失っているんだ」

「……!」



その言葉に、アリスは少しだけ身じろぎする。

俺は、ただその事実を静かに告げる。



「後悔した、心も痛かった……だから、守れるように強くなろうと、とーさんと一緒に必死に頑張ってる」

「……お兄ちゃん」



今考えても、どうしてこんな事を話したかは分からない、いや……きっと同じ痛みを持っていたからかもしれない。

頭の中に浮かんでくるのは、御神の本家や不破の本家でお世話になった人達。



「…アリス、友達なら、俺はもうアリスの友達だよ」

「すぅ……」

「寝ちゃったの、か」



この後、俺とアリスは背中を合わせたまま眠っていた。

ただ、静かに……




















そして、翌日からアリスは前よりは笑わなかったが、少なくとも落ち込みきる事はなかった。

必死になって頑張っている彼女を見ていると、ただ心がなぜか痛かった。

――――思い出すのは昨日の言葉、彼女は聞いていたのだろうか?届いていたのだろうか?

ただ、彼女と出会い、別れたときの最終日、彼女はこう言ってた。



『私、お兄ちゃんのお嫁さんになるから!』



と……





KYOYA=ANOTHER<REMEMBER>END




















SIDE:ALICE





「……アリス、か?」



お兄ちゃんが、私の名前を言う。

やっぱり、お兄ちゃんだった……!

今でも記憶に残っている男の子は、目の前ですごく立派な男の人になっていた。



「お兄ちゃん……ッ!」



私は、お兄ちゃんに抱きつく。

お兄ちゃんは、私を慌てて抱きかかえる。

ただ、私は伝えたかった、ずっと持っていた想いを……ずっと内に秘めていた想いを……!



「お兄ちゃん……私は、恭也お兄ちゃんを愛しています――――」










サクラ サク ミライ コイ ユメ



















あとがき


とらレボ「アリス」編どうだったでしょうか?
個人的には、まぁまぁ書けたと思います。(苦笑)
ちなみに、後日談は皆さんで想像してください、恭也がどう答えたかも、です。
そういう所を膨らませてもらうのもこの物語の主旨のひとつです。
ではでは、皆さんに楽しんでもらえる事を祈って……



ふむふむ。
後日談……。ああ〜、色々と浮ぶな〜。
美姫 「悲しい過去の出来事を何とか乗り切ったアリス」
この先、幸せだと良いね。
美姫 「という訳で、投稿ありがとうございます」
ございました。
美姫 「それじゃあ〜」
ではでは。



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