まえがき
これには召喚器・斬神、白琴が出てきますが、自分の書く、選ばれし黒衣の救世主とは何の関係もありません。
かなりご都合でとんでも設定です、そういうのが苦手な方、メインキャラに死人が出るのが苦手な方は読まないでください。
「恭也……」
「こないのか、大河?」
通路の真ん中で、どこかの学校の制服を着た少年と黒衣の青年が、お互いの武器……召喚器を向けあっていた。
「恭也……!」
大河と呼ばれた少年は、黒衣の青年……恭也に複雑な視線を向けていた。
「ベリオを……カエデを……ルビナスを……リリィを……救世主クラスの者たちを殺したのは俺だ」
恭也は冷たい瞳で言い放つ。
「ぐっ……」
その言葉に、大河は唇を噛みしめた。
違うと思いたかった。
恭也は否定してくれると思っていた。
こいつはこの世で唯一、自分が尊敬する男なんだ。だから、きっと自分たちと敵対したのも、何か理由があるんだと思いたかった。
きっと……を救い出すための演技だと。
一体、どこから狂ってしまったのか。
「どうしてなんだよ!? 恭也!!」
「わかっているだろう」
ああ、わかっている。
よくわかっているさ。
もしかしたら、自分が彼の立場であったかもしれないから。
「こんなことをしても、あいつは!」
それでも、大河は言わなくてはいけなかった。
大河の叫びに、恭也はどこか弱々しく笑う。
「それこそわかっているさ。もうあいつは昔のあいつじゃない。昔のあいつには戻れないということは。
それでも……あいつは、この世で一番大切な妹なんだ」
「恭也……」
「俺には、これ以上あいつの……なのはの心が壊れないように、ただ傍にいて、あいつを守ってやることぐらいしかできない」
そのために……。
そのために、こいつは……。
「今の俺は世界の敵だ。
世界の誰よりも……妹を選んだ愚か者だろう。だが、それでも俺はなのはを守る」
救世主クラスにおいて、召喚器・斬神を従えて、最強を誇った高町恭也。
破滅に堕ち、白の主となり、心を壊した高町なのはの兄。
彼は、世界の全てを敵にまわし、最愛の妹、白の主・なのはの守護者となった男。
世界に二人
巨大で無骨な西洋剣と黒く細い小太刀がぶつかりあう。
甲高い音を響かせて弾かれたトレイターを力で引き戻し、大河は恭也に向かって横薙ぎにする。
「恭也! もう戻れないのかよ!?」
恭也は八景を抜き、さらにトレイターを下から弾き飛ばす。
「どうやって戻れと言うんだ? 俺はすでに救世主クラスの者たちを殺した。破滅側のシェザルも、ムドウも、ロベリアも、ダウニーも殺した。俺が戻れるところなど、もはやなのはの元だけだ。そして、なのはの傍にいてやれるのも、もう俺だけだ。
俺は世界の何よりも、誰よりも……なのはを選んだ」
大河は唇を噛みしめる。
ここに来るまでに見た、もの言わぬ仲間たち。
それは大河の仲間であり、恭也の仲間であった者たち。
それを思えば、大河とて恭也のことを許せるわけがないのだ。
だけどみんなで恭也を……なのはを助けようと、そう誓い合った。だから、まだ自分は怒りに任せるわけにはいかない。
未亜だって、この奥にある部屋へ、なのはを止めに行ったのだから。
「みんな……みんな、お前が好きだったんだぞ!」
救世主クラスの仲間たちは、皆、恭也を好いていた。それは仲間としてであり、年上の頼れる存在としてであった。そして、男として彼を愛していた者もいた。
思いだされるは、みんなの死に顔。
皆が苦しみもなく死ねたであろう死に顔。
その中に、一人だけ、幸せそうな顔の者がいた。
最後にどんな会話をしたのかわからない。だけど、死に逝く中で……恭也との最後の会話で、幸せに死ねたのだろう。
だからこそ、大河は許せない。
なぜ、なのはだけに味方して、彼女たちに死を与えた。
みんな、恭也が好きだったのに。
全員、まとめて幸せにしてやれば良かったんだ。恭也の最愛の妹も、自分の妹も、赤い服の少女も、みんな幸せにしてやれば良かったのだ。
彼ならば、それも可能だったはずだ。
だから大河は恭也を止める。みんなは自分にそれを求めているはずだから。
そして、みんなに謝らせる。
「てめぇは俺が止めて、みんなの前で土下座だ!」
「ならば俺は……赤の主、お前を殺す」
恭也の両腕がいくつもの剣刃を作り、大河の身体を傷つける。
わかってはいたこと、大河の技量は恭也に遠く及ばない。生身でさえ、その技量により救世主クラスの者たちに対抗できるような男。そんな男が召喚器を持っているのだ。
いくら赤の主の力を得ていて、身体能力と潜在能力が上がっていても、技量で圧倒されることは。
ならば、大河は力で上回るだけだ。
「がぁぁぁああぁぁぁあぁぁぁ!!」
大河はトレイターを斧に変化させて、力の限りに振り下ろす。
だが、恭也はそんな大振りの一撃など、簡単にかわしてみせた。
そして、突きが大河に向かってと飛び込んでくる。
大河は、それを戦斧で横にして防ごうとする、が……
「っ!?」
防げるはずの剣が、斧をすり抜けてきた。
大河はほとんど本能的に重い斧を投げ捨てる。そして何とか身体を捻ってかわそうとするが、完全にかわすことなどできず、肩を抉られた。
「ぐあっ!」
傷口を押さえながら、大河は呻く。
「大河……」
そんな大河を、恭也はやはり冷めた瞳で眺めていた。
「俺は……お前たちに全てを見せたわけではない。御神の剣は……いや、不破の剣は、お前たちが思っているほど甘く、安い剣ではない」
そんなこと、言われるまでもなかった、知っていた。
恭也がどれだけ血の滲むような修練を重ねて、その力を手に入れたかということは、召喚器を持つ者たちにとってはよくわかっていたことだった。
だが、それでも……
「俺は……負けるわけにはいかねぇんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
大河はもう一度トレイターを呼びなおす。
トレイターは、どこにあろうが主である大河が呼べばそこに現れる。
「それは俺とて同じこと」
恭也は全てが漆黒の小太刀と、刀身に黒く焼きが入った小太刀を鞘へと戻して構える。
大河は、みんなに託された想いを護るために。
恭也は、ただ一人世界の敵になってしまった最愛の妹を守り、残された願いを叶えるために。
二人は武器を構える。
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉおおおぉぉぉおぉぉぉ!!」
大河はトレイターをランスに変えて、力の限りに突っ込む。
「はあぁぁあああぁぁぁぁぁああぁぁぁぁあぁぁ!!」
恭也は、高速、長射程の抜刀術を。
恭也の虎切が大河のランスを弾き飛ばす。それと同時に八景を抜刀、大河の胸を斜めに切り裂く。だが、大河はそんなことには気にせず、弾かれたトレイターをそのまま剣へと戻し、弾かれた勢いを止めて、無理矢理振り下ろす。
トレイターは、奇しくも恭也の胸を、大河の逆斜めに切り裂いた。
二人の血飛沫が舞う。
だが二人は止まらない。
止まれない。
「恭也ぁぁぁぁぁぁ!!」
「大河ぁぁぁぁぁぁ!!」
大河は力で。
恭也は技で。
二人の想いがぶつかりあう。
二人の血が周りに飛び散るが、それでも止まらない。
相手の頬を斬り、相手の肩を斬り、相手の足を斬り、相手の……相手の……相手の……
ただお互いを傷つけ合う。
だが、
「しぃっ!」
恭也の蹴りが、大河を吹き飛ばす。
「ぐっ!」
大河はなんとか足を地につけて止まった。
そんな大河に、恭也は久しぶりに笑ってみせた。
「本当に、お前は恐ろしいな」
「なにがだよ?」
「その成長スピードが、だ。赤の主の力を手に入れているとはいえ、お前たちから離れた時とは段違いだ」
恭也は全身から血を流しながらも笑う。
だが、その顔を引き締めた。
「これは、俺の最後の技だ」
恭也はそう言いながら、大河へと無造作に近づいてきた。
大河は、そんな恭也を油断なく見ながらも、トレイターを構えた。
何がくる?
あの四連撃か? それとも突きか? 斬撃の波か?
だが恭也は本当に無造作に、大河の目の前に立った。
「さらばだ、大河。俺にとって……お前は最後の友だった」
まだ何も終わっていない! そう言おうと思った。
だが、それは言葉にならなかった。
(なんで……?)
なんで俺は倒れてるんだ?
なんで、周りが暗くなる?
(なん……で……?)
本当に意味もわからず、大河の意識は闇へと堕ちていった。
恭也は、目の前に沈んだ大河を見つめていた。
それは冷めた瞳などではなく、悲しみの瞳。
まだ大河は死んでいない。
まだ死なれては困る。
自分がなのはの傍に行くまでは、なのはを救世主にさせるわけにはいかないから。
「大河……すまない……」
おそらくすでに意識がないであろう、最後の友に話しかける。
すでに大河は助からない。ゆっくりとその生を終える。だが意識を失い、苦痛もなく逝けるだろう。
そのために、紛い物とはいえ、奥義之極を使ったのだから。
呆気ない幕切れ。
本当は最初から使っていればよかったのだろう。だけど、ちゃんと大河の……今まで殺した救世主候補たちすべての……想いは受けなくてはいけなかったから。それが恭也の最後の良心と務めだから。
恭也は、大河の血を払い落とし、八景を鞘にしまい、斬神を消した。
そして、大河へと背を向ける。
「すまない……みんな……」
それだけを残して、恭也は歩き出し、彼女がいる部屋へと戻った。
中に入れば少女が一人、部屋の中央……玉座の横に倒れていた。
さらにその横には、白い小太刀を持った小柄な少女。
小柄の少女は、恭也が入ってきたことに気づくと、嬉しそうな顔をみせて、パタパタと近寄ってきた。
「おにーちゃん、敵、やっつけたよ」
「……そうか」
まるで子犬のように恭也の周りを駆け回りながら、少女……なのはは嬉しそうに言った。
壊れてしまった少女。
すでに、彼女が覚えていることは、恭也という存在だけ。
今、恭也たちがいるのは古代兵器ガルガンチュアの中。そこに備えられている砲撃。それによって多くの人間が死んだ。
それはなのはの力から汲み取られたもの。それを知り、なのはの心は真の意味で壊れた。
そして、なのはは恭也以外ことを全て忘れ、恭也以外には感情を見せることすらなくなった。
そんななのはを守るために……
そして彼女が、まだ彼女であったときの願い……自分と二人だけの世界。
それを実現するためだけに、恭也はここにいる。
そのために、邪魔な人間全てを排除した。
自分にまとわりつくなのはの頭を撫で、少し待っていろ、と告げてから、倒れている少女……未亜の元に行く。
「きょ……や……さん……」
未亜はすでに虫の息だった。
恭也は、一瞬だけ悲しみの表情を見せたあと、未亜の傍に膝をつき、その頭を起こしてやる。
「未亜……」
「も……止……れ……いの……?」
「すまない」
もう止まれないんだ。
止まるわけにはいかない。
もう、自分もなのはも戻れないから。
「わた……きょう……さ……の……す……き……った」
「未亜……」
どうして、リリィも、この少女も、自分のことなどを好いてくれたのだろう?
「さ……ごに……」
「ああ」
彼女の最後の願いはなんなのか……。
「……して……れ………せんか……?」
「っ……!」
なんで、二人とも同じことを求めるのだろう?
なぜ、こんな愚かな自分などを。
恭也は舌を噛み締めながらも、未亜の唇に己の唇を触れさせた。
それは一瞬の触れあい。
「あは……お……ゃん……とす……って……おもっ……けど」
どうして、あの赤の少女のように笑えるんだ?
なんで、そんな幸せそうな顔ができるんだ?
「しあ……せ……なっ……て……ね……」
『幸せ……なり……さいよ……』
どうして、同じことを願ってくれるんだ?
全ての人の幸福を奪おうとしている自分に。
自分が目指すものが、自分の幸せになるかどうかもわからない自分に。
誰も救われることはない道に進もうとしている自分に。
彼女たちを殺した自分に。
「未亜」
未亜の手を強く握りしめると、彼女は最後の力で微笑んだ後、その短い生涯を終えた。
どこで狂ってしまったのか。
そんなことを考えても意味はない。
だが、全ては自分に責任があるのだろう。
なのはの想いに気づくことなく、歪ませて、この道に辿り着いてしまった自分の……。
もしかしたらちゃんとした道で、隣で妹が笑っている道があったのかもしれない。もしかしたら隣で未亜が微笑んでいた道があったのかもしれない。リリィが微笑んでいた道があったのかもしれない。もっとほかの道もあったのかもしれない。
恭也は首を振った。
もう、今更変えられないのだから。
もう、今更戻れないのだから。
もう、今更止まれないのだから。
恭也は、未亜の身体を優しく横たえた後に立ち上がった。
「むー、おにーちゃん、浮気だー」
一部始終を見ていたなのはが、頬を膨らませてそんなこと言ってくる。
そんななのはに苦笑したあと、恭也は彼女の頭を撫でる。
「そんなんじゃない」
頭を撫でてやるだけで、なのははふにゃりと笑った。
こんなところは昔と同じなのに……。
さあ、そろそろだろう。
恭也はなのはを抱き上げる。
「おにーちゃん?」
「ん、ちょっと待ってろ」
なのはを抱き上げたまま、部屋にある椅子へと座る。
そして、自らの膝になのはを座らせた。
神の座
ここに神が降りて来る。
なのはの中へ。
「なのは……」
「にゃ?」
恭也は後ろから、なのはを抱きしめた。
「もうすぐ、全てが終わる」
「そうなの?」
「ああ。お前の願いが叶う」
「願い……?」
その願いすら……すでに、なのはは覚えていないのだろう。
それでも……恭也はその願いを叶えるために、全てを敵にした。
なんて愚かな選択だろう。
なのはだけでなく、自分の心もすでに壊れてしまっている。
だが、それがわかっていても……恭也はなのはを選んだのだ。これ以上、彼女の心が壊れないように……彼女が彼女であったときの願いを叶えるために。
二人が座る玉座の前に二冊の書が現れた。
それは赤と白の書。
(逝ったのか……大河)
この世界において、最後の友であった者が逝った。
二つの書は、なのはの中へと吸い込まれた。
そうつまり……。
「なのは……お前が救世主になったんだ」
「救……世主……?」
すでになのはは多くの……この世界のほとんどの……人間を魔導兵器により殺している。だから、神の気に耐えられるだけの存在力を手にしていた。
神が降りてくる。
上を見上げれば、天井が透け、そこに世界の終わりの光景があった。
このあとどうなるかなどわからない。
だけど、もうどうなろうとかまわない。
なのはがいるのならば、どうなろうと……。
そして……
「なのは……」
ただ……
ただ真っ白な世界。
何もない世界。
上も下も横も……全てが白の世界。
そんな世界に……二人はいた。
あの後どうなったのか、それはわからない。
ただ、気づけば二人はいた。
二人以外には何もない。
ただ、恭也にはなのはがいて……。
ただ、なのはには恭也がいて……。
ただ、二人だけの世界に……、
もしかしたら、新たな世界などではなく、死後の世界なのかもしれない、自分が死の直前で見ている夢なのかもしれない。だけど、そんなことはどうでもよかった。
どちらにしろ、ここには二人しかいないのだから。
「おにーちゃん……ずっと一緒だよね?」
「ああ。これから永遠に……ずっと……一緒だ。俺は永遠にお前のそばにいる」
「うん……おにーちゃん、大好きだよ」
「ああ。俺もだ」
何もない世界。
二人以外には何者も許されない世界。
(壊れた二人には……お似合いの世界だろうさ……)
この真っ白な世界……。
二人は、ただ相手だけを感じていればいい。それだけでいい……。
お互いに、欠けて壊れてしまった心を補いながら、ここにいればいい……。
もう終わったのだから。
なのははもうこれ以上心を壊さずにすみ、恭也もこれ以上誰も殺さなくてもいい。
全てを犠牲にして、二人は安息の世界を手に入れたのだから。
そして、恭也は永遠に離れないように、なのはの身体を抱きしめる。
なのはは、それを嬉しそうに受け入れた。
「永遠に……二人でいよう」
「うん……永遠に」
そうして、二人は……ただ、真っ白な世界に身を委ねた。
この愚かな兄妹に、神の祝福がありますように……。
あとがき
あ、あはは
エリス「ま、またとんでもないことしたね」
非難の嵐がきそう。
エリス「ある意味狂想以上、ホントに救いようがないというか……」
浩さんとアハトさんと自分でネタを出しあい。その中にあった世界破滅になのはと二人きり、自分が書いたら、こんなとんでもないのができあがってしまった。
エリス「とんでも設定、召喚器の名前は黒衣から、さらに救世主候補も破滅の将も倒してる、その上救世主になったのになのはは【一応検閲】になってない」
名付けて恭也君大暴走。心が壊れていたのはなのはだけではなかった、という感じに。ま、まあ神様も二人の想いを汲み取ったんでしょう。もしくは二人の終末の夢か。
エリス「美姫さん、フィーアさん、すいません。こんなとんでもないものを送ってしまって」
うう、浩さん、アハトさん、すいません。
エリス「この頃なのは尽くし」
確かに、うーん、自分としては年上キャラの方が好みなのだが。だけど、書くのはなのはの方が好きだ……色々できるから。とりあえず狂想が狂愛だとしたら、これは壊れた愛という感じです。最初、未亜の立場がリリィだったんですが……。
エリス「とにかく、今回はこんな感じで」
すいません、救いようなくて(汗)
エリス「それではー」
それでは。
テンさん、ありがと〜。
美姫 「三人でネタ出しをしていた奴の一つね」
その内の一つ、子供がやってくるは既に俺が書いてアップしているし。
美姫 「色んなパターンが出てくるわね」
うん。一人よりも三人だな、やっぱり。
美姫 「今回は壊れたなのはと恭也」
これはこれで。
美姫 「うんうん。ありよね」
テンさん、ありがとうございました。
美姫 「ございます〜」