第五話
なのはが恭也の血液型についてを知り、そして恭也が蛍の護衛をしてから数ヶ月が経ち、その間に恭也は大学を卒業し、なのはは中学生となった。
もちろんその間も色々なことがあったが、一番恭也が気にしていたなのはは、普通に接するようになった……いや、元に戻った。
恭也は結局海鳴から離れることはなく、護衛の仕事の時以外は翠屋で働いている。他の者たちもほとんどいつも通りだ。
蛍との関係も、年下の友人として続き、同じく友人である忍と同じような、それでいて少し違う関係が続いた。
だが恭也と蛍の関係は、少し変わることになった。
「恭也さん、好き……です。友人としてではなく、男性として、あなたが……好きです。私と……付き合って……ください」
星が淡く輝く時間。
臨海公園から見える暗い海を背にして、星の光と街灯の光を浴びた蛍の言葉。
その言葉を向けられた恭也は、一瞬何を言われたかわからなかった。
何の冗談と言いかけて、だがすぐに恭也は口を噤んだ。
蛍の真剣な顔。街灯に照らされてわかる赤くなった頬。そして何より潤んだ瞳が真剣であると伝えていた。
そして、それがどれだけ重い言葉なのかを理解して、真剣な告白に、冗談などと言えるわけがなく……いや、言っていいわけがなく、恭也も同じく真剣な表情をとった。
だが、理解してなお、そんな簡単に答えを出せるものではなかった。
蛍といつも通りに友人として話をし、友人として遊びに付き合い、遅くなったために家まで送ることになったが、夜の海を見たいという彼女を連れて、この臨海公園に来ればこの告白だ。
恭也からすればいきなりとしか言い様がない。
(それでも答えなければならんだろう)
恭也は、真剣だとわかる告白を有耶無耶に出来る人間ではない。
はっきり言ってしまえば、恭也は真正面から真剣な告白を受けるのは初めてだった。もちろん一部から好きだとか言われてきたことはあるが、雰囲気や軽い態度から恭也に真剣だと伝わるものがなかったのだ。
「蛍……」
恭也が彼女の名を呼ぶが、それに蛍の身体に一瞬の震えが見とれ、それ以上続けられなかった。
だから今は彼女に話しかけるのは止め、ただ真剣に考える。
(俺はどうなんだ?)
蛍をどう思っていたのか。
それはもちろん大切な友人。護りたい人の一人だ。
好きだと言えるが、それは友人としてだった。恋愛というのを含めずに好ましいと思っていた。
今までの彼との付き合いを思い出す。
知り合ったのは護衛の仕事の中。その後は翠屋にたまに来てくれて、その時は顔見知り程度。彼女自身から依頼を受け、その仕事と中で、顔見知りから友人となり、今までもその関係が続いてきた。
美由希よりも一つ年下であるため、少し歳の離れた友人ではあったが、それを感じさせない関係であり、同時にやはり他の友人たちとは違う関係だった。
そんな関係が数ヶ月あまり。はっきりと言ってしまえば、他の友人、知人たちとの交友期間と比べてしまえば短い。だが好きになるという感情に、そんなに長い期間は必要ではないし、恭也とてすでに蛍の性格などは理解していた。
(ならば女性としてはどうなんだ?)
恭也は誰かをそういう意味で好きなったことがない……なんてことはない。初恋とてあったし、恭也とて男で、女性を性の対象として見ている。
恭也は、血を流し、死と繋がる仕事をし、死を見続け、死に近い場所にいるだけに、人の暖かさ、人との繋がりを求める衝動は実は他の人たちよりも大きく、今よりも精神が成熟していなかった頃、刹那的に女性とその場限りの関係を結んだこともあった。
だが同時に、死に近い場所にいるだけに、知り合いたちと深い関係になるというのを本能的に避けている所もある。
だからあまり恋愛について深く考えることがなかったのだ。
蛍のことは好きだが、これからもずっと傍にいる女性として好きでいられるのか。
……たぶんいられるだろう。
彼女は特別なものなど持たないが、その雰囲気はどこか優しくて、それがとても心地よい。それはどこか桃子やなのはに感じるものと似ている。
他の人たちのように、一緒にいて楽しくて、恭也から誘うこともあった。
いや、そういえば護衛の仕事が終わった後、彼女と共にいることが多かったかもしれない。
(そうか……)
なるほどと、恭也は僅かに口元を緩めた。
その優しい雰囲気の傍に居たかったのだ。母やなのはのような雰囲気を持つ彼女は、荒事という所からはかけ離れた場所にいて、護衛の仕事が終わったあとも残ってしまう荒い心を落ち着かせてくれる。
それを求めていたのかもしれない。
家族ではない蛍であるからこそ、求めたのかもしれない。
求めていたのだ。最初から。
(俺は……)
一つのことを思いついて、恭也は笑う。
だがそれは、街灯を背にしているため蛍には見えなかった。
「す、すみません!」
恭也が長い間沈黙していたからこそ、それに耐えられず蛍は頭を下げた。
「いきなりこんなことを言っても迷惑ですよね」
頭を上げるが、顔は笑っていてもその目には涙が溜まっている。恭也の沈黙を拒否と受け取ったのだろう。
確かに恭也にとってはいきなり話だ。
だが、
「そんなことはない」
「でも……」
「俺も蛍が好きだ」
恭也は蛍の言葉を遮って、本当に静かな声で告げた。
「え?」
「友人ではなく、女性として好きだ」
まだ恭也の中に迷いはある。
本能部分で、親しい人を作ってもいいのかと告げてくる。脳裏に士郎の遺影を持ち、涙を流さずに、それでも辛そうな顔を見せていた桃子が浮かぶ。
自分もそうしてしまうのでないかという恐れがある。
だが、
「俺は……蛍に、俺の傍に居てほしい」
それでも恭也は求めた。
蛍に傍にいてほしいと。それは好意と言って間違いなかった。
「きょう……やさん……」
蛍は一瞬呆然としたものの、すぐに口を手で塞ぎ、嬉しそうに笑い、涙を流す。
それは悲しみではなく、嬉しさのためだと、恭也にもわかった。
それを見て、恭也も心の中に嬉しさを感じた。自分にも、悲しみではない、嬉しさのための涙を流させることができるのだと。
そして同時に蛍への愛おしさが溢れてくる。
「蛍……」
恭也は蛍の手を取り、その小さな身体を引き寄せる。
「あ……」
力が抜けたように、蛍は恭也の胸へと倒れ込んだ。
だがすぐに嬉しそうに笑いながら、恭也の顔を見上げた。
そして、スッと目を閉じる。
恋愛初心者とはいえ、その意味がわからないほど、恭也も子供ではない。
恭也は、蛍の頬に両手で触れて自らの顔を蛍へと近づけ、自らも目を瞑る。
街灯により映し出された二人の影が、そのとき一つとなった。
◇◇◇
恭也と蛍は恋人同士になった。
それから半年が経ったが、その間二人の関係がばれることはなかった。桃子あたりからは怪しいと思われているようだが。
別段、誰かに言うべきことでもなかったし、恭也は誰にも告げず、普通に蛍と付き合っていた。
結局の所、恋愛初心者である二人は、異性と初めて付き合ったことで気付いたのである。恋人同士になろうが、それほど変わるものではないと。二人が恋人同士とわかっていれば、どんなことをしていようと恋人同士なのだ。何をやるとかは一切関係ない。
もちろん変わったところもある。蛍と出かける機会が増えたし、まあ、ぶっちゃけてしまえば、そういう男と女の行為もある。
多少、二人でいるときの雰囲気も変わったのだ。
そんな時間が長く続いた。
続いたのだが、とうとう……ばれた。
「…………」
「…………」
「…………」
ある煌びやかな建物の前で、三人が硬直していた。
「え、あ、え!?」
目の前で、表情を面白いぐらいに変えている美由希を見て、恭也は硬直を解いてため息を吐く。
だが美由希はそんな恭也を見て、そして隣で顔を真っ赤にしている蛍を見て、それから二人の背後の建物を見て……そんなふうに視線が定まらない。
恭也と蛍の背後にある建物……それは俗に言うラブホテル。
そして恭也と蛍はそこから出てきた。だが出てきた所で美由希とばったりである。
少し駅前から外れた場所にあるそこは、あまり人通りは多くない。そんなところで家族に出会うというのも、かなり低い確率である。
だが実際、出かける場所によってはここを通る方が高町家へ帰るのに近道になるというのは恭也も知っている。
知っているが、さすがにこうもタイミングよく家族に出会うことになるとは想定外のことだ。
「うえぇぇ……はぶっ!」
大声を上げようとした美由希の声が途切れた。彼女の頭に恭也の手刀が落とされたのだ。
人通りは少ないが、それでも人はいる。こんな建物の前で、男が一人、女が二人という状況で大声を上げられたりしたらどうなるか。
「場所と状況を考えてから声を上げろ、馬鹿弟子」
「だ、だって!」
「とにかく、ここから離れるぞ。蛍もいいな?」
「は、はい」
依然として顔を真っ赤にしている蛍は頷く。
もちろん恭也だって恥ずかしさがある。
場所と状況からして、何をしてきたかなど明白だ。それを知人所か、家族に知られたのだ。これで恥ずかしさを感じないほど、恭也も鈍くはない。
すでに夜も遅いし、蛍を送ろうとも思っていたが、どうやら説明しなければならないようだ。
「つまり、その、恭ちゃんと蛍さんは付き合ってる……でいいのかな?」
「ああ」
「は、はい。半年ほど前から」
三人がいるのは、ファミレスだ。
結局あのあと言葉もなく、会話ができるこの場所へとすぐに移動したのだ。
別段話をしたいだけなので、食べ物などは注文せず、ドリンクバーで恭也がそれぞれの飲み物を持ってきたのだが、全員それには手をつけていない。
窓際の席で、恭也と蛍が隣同士で座り、その目の前に美由希が座っている。
確かに、寄り添って座るその姿は恋人同士に見えなくもない。
「な、なんかこう、少し恭ちゃん変わったかなぁ、とか思ってたし、蛍さんとよくでかけるようにもなったかなぁ、とか思ってはいたけど」
「まあ、みんなそのぐらいには思ってるかもな」
実際、似たようなことで桃子にカマをかけられたことがあるので、みんなそのぐらいは感じているだろうと恭也は頷く。
蛍とよく出かけるようになったとは言っても、出かけるさいに蛍と出かけるなどと告げていくことはないし、蛍と休みが合うのも土日くらいなので、頻度的には今まで恭也が出かける時と大差がなく、不思議には思わなかったのだろう。
「そんなふうに隠さなくても」
「別に隠していたわけではない。ただわざわざ告げることでもないと思っただけだ」
「そっか」
恭也の言い分に、美由希はただ頷く。
それから美由希は蛍の方を見た。
二人は知らない仲ではない。同じ大学に通っているし、蛍がよく翠屋に訪れるのでそれなりに面識もある。だが美由希としては複雑だろう。
美由希はどこか寂しそうに、だが同時に嬉しそうに蛍へと笑みを向けた。
「蛍さん、恭ちゃんのことお願いしますね。ちょーっと普通の人とは違うかもしれませんけど」
その言葉に、お前は俺の保護者かと恭也は突っ込みたくなったが、美由希が真剣に言っているのがわかって、特に何も言わなかった。
「い、いえ、こちらこそ恭也さんに良くしてもらっていて」
そんな美由希にあわあわと両手を振って蛍は答える。
「朴念仁で鈍感で苦労すると思いますけど、見捨てないであげてください」
「そのへんで黙れ、お前は」
「あたっ!」
流石に黙っていられず、恭也は思いっきり美由希の額にデコピンを叩き込む。
その痛みで美由希はテーブルに頭を擦り付け、そんな二人のやり取りを見て、蛍はクスクスと笑っていた。
それから何とか美由希は顔を上げ、そして席から立ち上がった。
「どうした?」
「ちょっと……」
「ああ、トイレか」
「恭ちゃん、もうちょっとデリカシーっていうものがないと蛍さんに嫌われるよ?」
「そうか」
それは悪かったと、悪びれもなく言う恭也に美由希はため息を吐き、席から離れていく。
そして、その姿が見えなくなったとき、
「ごめんなさい……美由希さん」
蛍は、隣にいる恭也にも聞こえないように小さく呟いた。
蛍とて、美由希……いや、彼女に限らず、複数の女性が恭也へと好意を寄せていることに気付いていた。
だからこその謝罪。だが、それを真正面から言うわけにはいかない。そこまで蛍は……そう、デリカシーがないわけではないのだ。
美由希は寂しそうにでも笑って祝福してくれた。それを聞いて、謝罪の言葉など吐いていいわけがない。
ただ、ただ、『彼女』にだけは……
「どうかしたのか、蛍?」
「あ、ううん、なんでもないよ」
「そうか」
恭也はほんの少し笑って、くしゃりと蛍の頭を撫でた。
その行為に蛍も嬉しそうに笑う。
恭也は、言葉は少ないもののこういうスキンシップが多い。子供扱いとかそういうわけではなく、そういう繋がりを大事にしているのだ。
それがわかるから、蛍は笑ってそれを受け入れ、そしてそれを嬉しいと思う。
まあ、そんなふうに甘い空気を作ってる二人だった。
そして、しばらくして美由希が戻ってくるのだが、
「うわ、恭ちゃんって実は彼女とかには甘い人だったんだ」
その甘い空間を見て一言。
あまり見せない笑みを張り付かせている恭也を見れば、そう呟いてしまうのも無理はない。
とりあえず見なかったことにしようと呟いて、美由希は再び二人の対面に座った。
蛍は美由希の目がほんの少し赤いことに気付いたが、それについては何も聞かない。
「蛍さん、今日、これから時間ありますか?」
「え、あ、はい。大丈夫ですけど」
もう遅いとは言っても、まだ眠る時間ではない。時間があると言えばある。
「家に電話すれば」
「泊まったりできます?」
「美由希?」
なぜ蛍に時間を取らせようとするのかがわからず、恭也が声をかけるのだが、美由希はそれにただ笑うだけ。
「えっと大丈夫ですけど」
久保家は、門限関係はそれほど煩くない。なぜ遅くなるのかを簡単に母親に告げれば、別に難しいことではなかった。それも父親があまり家に帰ってこないからではあるのだが。
恭也のことを両親に話してあるわけではないが、蛍の母はすでに恋人がいるのだろうとわかっていて、あまり何も言ってこないのだ。ある意味理解のある母親である。
「じゃあ、これから家に来ませんか?」
「へ?」
「おい、ちょっと待て美由希」
何を言ってるんだこの馬鹿弟子は、という感じで恭也は顔を顰めるのだが、美由希は笑って携帯電話を取り出す。そしてその携帯電話のストラップをブラブラと揺らした。
「かーさんが連れて来なさいって」
「なっ!?」
「言っちゃった」
ペロッとイタズラっぽく舌を出す美由希。
つまりトイレに行くと見せかけて、電話してきたということだ。
それに驚いた表情を見せる恭也と蛍に、今日は宴会だって、と美由希は告げたのであった。
それがたぶん……美由希なりの吹っ切る儀式だったのだろう
◇◇◇
いつも通りだった。
なのはは本当にいつも通りに戻った。
『妹』として、恭也と接する日々。
血が繋がってないという可能性を一時忘れて、いつも通りに妹として接した一年近くの時間。
何か答えを見つけたわけでもない。本人も気付いていない逃げのためのいつも通りだ。
それでも、普通に恭也と接することができて、彼女はそれに気付かず、昔と同じ幸せな時間だった。
だが、
(本当に終わっちゃったなぁ……)
目の前で、桃子に早く孫の顔を見せて、などと言葉を向けられて顔を真っ赤にしている蛍と、憮然とした表情をしている恭也を、なのははほとんど呆然と見つめていた。
二人は半年も前から恋人関係になっていたと言う。
今はそれを名目にしての宴会中。
場所は高町家のリビング。
そこには高町家一同だけではなく、忍やノエル、那美やフィリスまでいる。
その全員が、どこか寂しそうながらも祝福した。忍など内縁の妻を放っておいてなどと叫び、今では那美とやけ酒中だ。
ここにいるほとんどの人が、恭也に好意を向けていて、それが叶わなかった。だがそれでも全員が恭也と蛍を祝福したのだ。
今、ここにはいないフィアッセにすら桃子は連絡を入れていて、その彼女も先ほど電話で祝福していた。
だがなのはは……
(まだ、私何も言ってないや)
祝福の言葉も、何も言っていない。
そもそも思考が固まっていなかった。
蛍と恋人役になると聞いた時は、それこそ心臓が止まるかとさえ思ったが、今度は違った。
今回は妹をずっと意識してきたせいだろうか、ショックが少ないのだ。
いや、
(これも……冗談だとか、仕事じゃないかって……思ってるんだ)
信じられていないだけなのだ。
そんなことはないとわかっているはずなのに。
だって……。
(おにーちゃん、嬉しそう)
苦手な酒を飲まされたり、冷やかされたりしていて、気に入らなそうな表情をしているようにも見えるが、その雰囲気はどことなく嬉しそうだ。
だからこそ、皆はさらに冷やかすのだから。
蛍も顔を真っ赤にしているものの、それでも嬉しそうに笑って恭也の隣にいる。
その姿は、なのはから見ても恋人同士に見えた。
だから、
(終わっちゃったんだ……)
可能性を手に入れた。もしかしたら恋人になれたかもしれない可能性。
だが、それはやはり可能性でしかなく、なのはは手に入れることができなかった。なぜなら何もしなかったから。
その可能性を恐れて、何より今まで通りでいたいと思って。
可能性を手に入れても、それを避けたのだ。
その結果がこれだった。
残された道はただ一つ。
(私は……妹で……)
妹でいること。
決して、恭也に血液型について知られないこと。
それしかもう、なのはには残されていないのだ。
そんな彼女の前に、蛍が立った。
なのはが悩んでいた間に、質問やら冷やかしやらをくぐり抜けてきた。
「なのはちゃん」
その呼びかけで、初めてなのはは目の前に蛍が立っていたことに気付いた。
「にゃにゃ! す、すみません、ぼうっとしてました」
「あ、あはは、みんな凄いテンションだもんね」
蛍はどうやら他の者たちのテンションに着いていけずに、と思ったらしい。
「でも、みんないい人たち」
蛍は少し微笑んで、主役の一人がいなくなってしまったため、恭也へと集中『口』撃をしている者たちに視線を向けた。
そう、みんながいい人たちなのだ。
冷やかしなどをしているが、それでも嬉しそうな表情を浮かべている。
(みんな、おにーちゃんのこと好きだったのに、それでも……)
それでもちゃんと、恭也に恋人ができて嬉しいと、寂しさと同時に思っているのがわかるのだ。
だから、
「蛍さん……おにーちゃんを……お願いします」
自分もこの想いに決着をつけなくてはいけない。それだけのために、納得できなくても、なのはは言った。
言いたくない言葉を、悲しみ溢れる言葉を、それでもそれを感じさせずに、妹であることを意識して、妹としての笑顔を浮かべて、なのはは告げた。
「おにーちゃん、不器用だし、鈍感な所もある……けど……」
泣いてはいけない。
絶対に泣かない。
自分は妹なんだから。
「世界で一番の男の人ですから」
ちょっとブラコン気味な妹。
そうでなくてはいけない。
「うん。わかってるよ」
蛍はそんな妹の言葉に、真剣な表情で頷いた。
そんなときに、桃子が蛍の後ろに立ち、彼女の腕を引っ張り始める。どうやら恭也だけではおもしろくないらしい。
「はいはい、蛍ちゃん、主役がいなくなっちゃだめじゃない。そりゃあ未来の義妹との会話は重要だけど、未来の義母との繋がりも深めてほしいなぁ」
そんな桃子の言葉になのはは苦笑するが、同時に感謝する。このまま蛍と喋っていたら、いつか涙を流してしまいそうだったから。
蛍もそんな桃子に苦笑し、連れられていく。だが、途中でほんの少しなのはへと振り返り、
「なのはちゃん……ごめん……ね」
本当に小さい声で告げた。
それは何に対しての謝罪なのか。
会話の途中でいなくなってしまうことに対してなのか、それとも……。
なのははその意味はわからなかった。
だから、再び二人に質問を投げかける一同を見て、
「終わっちゃった」
そして呟いて、誰にも気付かれないように一筋の涙を流した。
あとがき
というわけで、恭也と蛍がつき合い始めましたー。
エリス「……ねぇ、この話って恭也となのはの話じゃなかったの?」
そうだよ。
エリス「なんで恭也がオリキャラとくっついてるの!?」
ま、まあまあ。これで終わりじゃないから。
エリス「それはそうだけど。それに蛍との馴れ初めもなんかすごい端折ってるし、ストーカー?事件もそうだったけど」
いや、だってそこやったらとんでもなく長くなるから。まあ、とりあえず二人が付き合い始めたということで。唐突すぎるとも思ったのですか、すみません。一応これはあくまで恭也となのはの物語なので、そのへんは省きました。蛍との物語なら突っ込んでやるんですけど。
エリス「皆さん、すみません」
いや、この話はもう最終話は先にできてるから、早く進めたいんです。当初プロットでは七話完結を目指していたのに、今のままでは十話ぐらいになってしまいそうなので。いや、本当は蛍とかの話ももっと突っ込んでやりたかった。友人になってからの数ヶ月どんなふうに付き合ってきたとか、恋人になってからの半年間の話とか。
エリス「そうやって後先考えずに心理描写とか会話をやりすぎから進まないの。それに今回の宴会シーンなんて、ほとんどキャラが動いてないし」
はい、その通りです。
エリス「しかも今回は短い」
あー、これは逆に一気に進めてしまうのが問題だったので。とりあえず次回なのはパート。
エリス「なんかまたなのはを追い込みそうで怖いんだけど」
ま、まあそのへん次回で。とりあえず絶対になのはが黒くなることはないから。
エリス「とりあえず、今回はこのへんで」
また次回で。
遂に物語が進んでしまった。
美姫 「ああ、なのはの心境は……」
次回はなのはパートみたいだけれど。
美姫 「とっても待ち遠しいわね」
だな。一体、どんな風にこれから展開されるんだろう。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
待っています。