まえがき

なのはが主役ですが、このなのはは色々な意味でかなり壊れている上、計算高く、黒いです。ちなみにギャグ的な意味ではありません。
そして、元々、ある方にリクエストされた作品を短くした話なので地の文ばかりです。そう言った話が嫌いな方、なのははかわいくて純粋じゃなくちゃダメだ! という方は読まないでください。
これを読んでどんな気分になっても責任はとれません。そのへんを覚悟の上でお読み下さい。



























狂っている。
誰に言われるでもなく、自分で理解していた。
この想いは恋ではない。
恋という響きを含ませるには、その想いは汚れていた。
愛に近いのかもしれないが、おそらくはそれすらも当てはまらないのだろう。
この想いはなんと言えばいいのか。
狂った想い。
言うなれば、そう……









狂想









高町なのはは、自らを狂っていると認識していた。
だが、それを誰かに言ったとしても、誰もが心の底から否定するだろう。
そんなことはなのは自身がよくわかっていた。
なぜなら、他人が自分をそう見るのは、自分が狂っているせいなのだから。
狂っているからこそ、自分は正常なのだと。

一つの想いが彼女を狂わせる。
彼女の思考を狂わせる。
だが、それを自覚しているからこそ、彼女は正常だった。
だって、全てが演技だから。
この想いを実らせるために続けている演技。
彼女が想いを寄せる相手は彼女の兄、高町恭也。
彼を手に入れるための演技。

この狂った想いを自覚したのは、ずっと昔。
だけど、そのときは狂ってなどいなかった。
おそらくは純粋な想いだった。
ただ、兄が好きだと。
しかし、彼女を狂わせた言葉。

「お兄ちゃんを好きだなんておかしいよ。兄妹は結婚できないんだし」

それを言ったのは誰だったのか、今では思い出すことさえできない。
ただ、クラスメートだったのは確か。
女の子特有の、誰が好きなのか、という話。
そのとき、なのはは純粋に兄だと答えた。
その答えに返ってきた言葉がそれだった。

今では感謝しているぐらいだ。その名も覚えていないクラスメートを。
だって、自分が狂っていると認識させてくれたのだから。

自らが狂っていると、この狂った想い……狂想を自覚してしまえば、あとは楽だった。狂っているのなら、さらに狂ってしまえばいい。
この想いを遂げるためならばなんでもしよう、と。
だって、自分が兄を手に入れたいと思うのは、至極当然のことなのだから。

なのはに父はいない。
だから、恭也は父親も一緒だった。
兄であり父親。
そして、周囲の中でただ一人の男。

なのはは異性との付き合いが極端に少ない。周りにいるのは同姓ばかりで、ほとんど男がいなかったのだから当然だった。
だから恭也はただ一人で、兄でありながら、父であり、男だった。
父性愛、兄妹愛、異性愛を向けられる、向けてくれるただ一人の男だったのだ。
だからなのはにとっては、恭也を愛するのは当然の結末であった。
世界でただ一人でありながら、一つではない愛を注いでくれる、注げる相手なのだから。

兄を手に入れるためならばなんでもしよう。
兄が手に入るのなら、兄を殺してもかまわない。
兄が手に入るのなら、自分が死んでもかまわない。
兄が心の底から欲しい。
絶望に狂い染めてでも……。


なのはは賢かった。
考えた。
考えに考え抜いた。
どうやれば、どうすれば兄を手に入れられるか。
この際、血の繋がりなど知ったことではない。この狂った想いを成就させるのに、法律や倫理に邪魔などさせはしない。
法律や倫理、禁忌も思想もクソ食らえだった。

まず問題になったのは歳だった。
なのはと恭也の歳の差は11歳差。
この歳の差は大きい。
恭也からは自分は妹としてしか見られていない上に、子供の身体ではお話にもならない。
ならばまずは時を稼がなくてはならない。せめて姉が風ヶ丘に入学したときぐらいの年齢に自分が達するまでは。
自分が成長する時間を稼ぎ出さなければ。
そして、恭也が海鳴から離れられないようにもしなくてはいけない。少なくとも、なのはが自由に動けるようになるまでは。
その間に、恭也に恋人ができるのも、また当然に防がなければならない。まあ、これはそれほど問題視はしていない。恋人ができたのならば、別れさせればいいだけの話だから。

まずなのはがしたのは、一応恭也に恋人ができないようにすることだった。
恭也はなのはには甘い。
それをなのは自身がわかっていた。
だからそれを利用して、どこかにでかける場合は、できるかぎりついていった。
周りからみれば、ブラコンとシスコンの兄妹にしか見えないだろう。
だが、それでいい。
なぜならば、そのほうが女はよってこない。まさか、妹の目の前で恭也を口説こうとは思わないだろう。


 そんな中で時は流れていく。
その時の中で知ったことがあった。
姉の美由希が、恭也とは従妹であること。
これを知ったとき、なのはは本当に嫉妬した。
だって、姉は恭也と共にいられるのだから。本当の妹ではないのだから。
なぜ、自分が姉の立場ではなかったのか。
そう考えたとき、まだ自分は狂いきってはいなかった、と思わされた。
まだ、兄妹ではないことを願う自分がいる、と自分自身を嘲笑った。
今更、今更だ。
兄妹であろうがなかろうが、関係ない。
自分は兄以外に興味などないのだから、兄妹でないことを求める意味がどこにある?
最早、関係ないのだ、そんなことは。




 狂想はさらに募る。




恭也が大学を卒業する前のこと。
恭也が悩んでいたことをなのはは知っていた。
父のようにボディーガードをしつつ、翠屋の手伝いをしながら生きていくか、もしくは再会した叔母と同じ、香港警防隊という組織に入るか。
このときになのはは動いた。
兄をこの地から逃すわけにはいかないから。
会話の隅々に、この地に留まらせるような言葉を交ぜる。

「ありがとう、おにーちゃん。やっぱり、おにーちゃんはうちの大黒柱だね」
「おにーちゃん、そろそろ大学卒業だね。そしたらやっぱり翠屋で働くんだよね?」
「うちは女の人しかいないから、おにーちゃんがいなくなったら大変だなぁ」

恭也が家族を大事にしているということを計算しての言葉。
直接的に言うのではなく、恭也自身にこの地に留まらせることを選ばせる。
そのかいあってか、恭也はフリーのボディーガードへの道を歩みはじめた。そして、それ以外の時は翠屋で仕事をしている。




そして今、なのはが待ちに待った時が来た。
最初に考えていた時間を稼げた。
まあ途中、恭也に少しだけ恋人ができた期間もあったが、それはなのはが動き、その関係を終わらせた。
恭也はそのことに気づいていないようだが、そういうふうに動いたのだから当然だ。

鏡の前で、風呂上がりの自分の姿を確かめる。
自分で言うのもなんだが、綺麗になったと思う。
まだ少女らしさも抜けておらず、どちらかといえば、綺麗よりも可愛いという方が合うのかもしれないが、これは母の娘なのだから仕方がない。多少は童顔でも構いはしない。
胸もそれなりにある。
このところはよくナンパもされる。全て、秒殺で断ってはいるが。
とりあえず、全ては整った。

長い間に練りに練った策。
恭也を手に入れるための策。
どんな対応をされようと、彼を手に入れる自信がある。
結果的に自分が死ぬかもしれないし、彼が死ぬかもしれない。もしかしたら二人とも死ぬかもしれない。二人とも生き続け、狂い続けるかもしれない。
どの結果になったとしても構いはしない。
どの結果になったとしても、自分は兄を手に入れているはずだから。

とりあえず身体の上にバスタオルだけを巻いておく。
そのまま、部屋を出た。
すでに夜中なので、母はもう寝ているはずだ。

この家には、もうなのはと母である桃子、そして最愛の兄、恭也しかいない。
他の女性は、すでに最愛と思っている男の元にいる。
影で全ての人間を操り、なのはがそう仕向けた。
邪魔者は排除するのに限るから。
その心すらも操った。
恭也に手を出さないよう、早めに手を打って、それぞれに男を宛った。
もっとも、彼女たちはそんなふうに思ってはいないだろうし、彼女たちとて幸せに思っているだろうから、誰も不幸にはなってはないので、むしろ良いことをしたのだろう。

今はそんなことはどうでもいい。
今は、ほぼ今までの一生を費やした策の大詰めなのだから。
ゆっくりと恭也部屋へと向かう。
緊張など微塵もない。
だって、この先の展開だって……結末は複数に別れてしまうかもしれないが……もう自分にはわかっているのだから。




恭也の部屋の前に立つ。
ゆっくりと、手を扉に向けた。

「なのはか?」

扉の向こうから、最愛の兄の声が聞こえてきた。
これには驚かない。
おそらくは、もう起きているだろうと思っていた。
昔だって近づけばすぐに気づかれたのに、今では凄腕のボディーガードとして名を馳せる彼を相手に、気づかれずに接近するなど、さすがに不可能であることを理解していた。
なのはは返事をしたあとに、やはりゆっくりと扉を開けた。

月明かりに、布団から上半身を起こした恭也の姿が見えた。
いつ見ても端正な顔だった。
だが今は、その顔が驚きの色に染まっていた。
自分のバスタオル一枚の格好に驚いているのだろう。

「なのは、どうしたんだ?」

恭也の驚きの含まれる声に、なのはは苦笑してしまった。
だって、兄が自分に向けて、こんなふうに驚きを向けてくれることは少ないから。

「おにーちゃん……」

なのはは恭也の問いには答えずに、ゆっくりと彼の元に近づく。
目の前まで来て、腰を落とす。
そして恭也の顔を見ながら、妖艶に笑う。

「なの……は……?」

恭也は訳もわからずに困惑したままだった。
そんな恭也の頬を、なのはは愛おしげに撫でて、ゆっくりと彼の唇に、自らの唇を押しつけた。
恭也の目が見開かれた。
だけど、なのはは唇を離すことを許さない。
その口内に、自らの舌を侵入させて、さらに手を恭也の頭の後ろにまで持っていき、力づくで離さない。
なのはにしてみれば、初めてのキス。それも深いものだから、拙いものかもしれないが、恭也をこの雰囲気に酔わせられればいい。
恭也は、なのはの突然の行動に訳がかわらないのか、されるがままだった。

しばらくして、なのははゆっくりと唇を離した。
二人の唇と唇の間が銀糸に繋がれ、月明かりに光る。

「なのは……」
「おにーちゃん……好き……愛してる……」

そう呟きながらも、なのははそれが正しい表現なのか、自分でもわからなかった。
汚れて、狂っているから、この想いは。
だけど、それはある意味では、無垢で純粋な想いの固まりでもあった。

「何を……言ってるんだ? 俺たちは……」
「兄妹だよ? それがどうしたの?」
「どうしたって……」

恭也は、状況に対処ができなくなっているようだった。
こういう兄も初めて見る姿で、なのはには嬉しかった。

「兄妹だから、好きになっちゃいけないの? そんなの理不尽だよ」

笑ったまま答える。
それは本当に綺麗すぎる……狂った笑み。

「血の繋がりなんて関係ない。私はそんなの知らない、気にしない」
「お前……」
「何にも……誰にも邪魔なんかさせない。おにーちゃんはなのはの……私のものなんだ」

もう一度、奪うように唇を押しつける。
今度は触れるだけの浅いキス。
そして、すぐに離し、バスタオルをどけた。


月の銀に、なのはの身体が照らされる。


「なのは!?」

今まで以上の驚愕を込めて、恭也が彼女の名を呼ぶ。
それだけで、なのはは嬉しくてたまらなくなる。
だって、愛おしい人が自分の名前を呼んでくれるのだから。

「おにーちゃん、抱いて」

布団に片手をついて、恭也を見上げながら呟く。

「だから、お前は何を言ってるんだ?」
「クスクス、子供じゃないんだから、そんなことわかるでしょ?」
「そういうことを言ってるんじゃない!」

怒鳴る恭也を見て、なのはは目を丸くする。

「おにーちゃん、あんまり大きな声出したらおかーさんが起きちゃうよ? 私は別にかまわないけど」
「っ……!?」

妖艶に笑いながら言うなのはを見て、恭也は喉を詰まらせ、驚きに顔を歪める。
それを見て、なのはは少しだけ舌を出した。

(うーん、ちょっと地の性格を見せるのが性急すぎたかな……反省)

今の性格と、普段の……恭也が思っている……性格は少しギャップが大きすぎたのかもしれない。もっとも、なのはとしては、どちらも自分だと思っているのだが。
そんななのはの心情など理解できない恭也は、頭を振って口を開いた。

「とにかく、冗談はやめろ」
「冗談で、女の子がこんなこと言うと思ってるの?」

すぐさま真面目な表情をとって、なのはは返す。

「しかし、俺とお前は兄妹なんだ。それは絶対に変わらない」
「だから、そんなの関係ないよ」

面倒な押し問答だった。
もっとも、こんなのなのはにとっては予想のうちだったが。
何よりも、この問答は必要な行為でもあるから。

「確かになのはのことは大切で、好きだ。だがそれは……」
「うん、それは知ってる。別に私も兄妹のままでいいよ。何度も言うけど、何で妹が兄を愛しちゃいけないの? 法律とか倫理とか、そんなのはどうでもいいからね?」
「それは……」

どうやってなのはを納得させるか悩んでいる恭也。
それを見ながらもなのはは嬉しそうに笑っている。
自分のことで悩んでくれているのだから、それがどんな理由であれ嬉しいことなのだ。
そろそろ、移ろうか……。
次の段階へ。

「おにーちゃん、そんなになのはのこと抱きたくないの?」
「だから、そういう問題ではなくてだな」

なのはは悲しそうな顔を見せながらも、ゆっくりと立ち上がった。
再び、月の光に裸体が照らされ、その光の中でなのははゆっくりと部屋の中を歩く。
恭也は混乱から未だ抜け出れないのか、それを見守っていた。
そして、なのはは恭也が使う机に向かい、その引き出しを開けた。

「待て!」

当然恭也は、その中に何があるのかを知っている。
そして、なのはも知っていた。
恭也が止める間もなく、なのはは目的のモノを引き出しから取り出した。
それは、飛針と呼ばれている兄の武器。
何かあったときのためなのか、常に引き出しの中に数本はこれが入ってることをなのはは知っていた。
なのははそれを両手に包んで、自らの胸の前に切っ先を向けた。

「おにーちゃんが私を抱いてくれないなら、ここで死ぬよ?」
「お前……」

狂った笑みを見せながら言うなのはを見て、恭也は目を見開いていた。
そう、なのはは本気だった。
かまわないのだ。
ここで死んだとしても。
だって、目の前で自分が死ねば、きっと恭也の心は壊れてしまう。自分を想って狂ってしまう。
それはつまり、なのはが恭也の全てを手に入れたということと同じだから。
逆に、このまま恭也を殺してしまってもかまわない。
そうすれば、誰も恭也を手に入れることはできない。自分だけのモノになる。
そして、もう一つは……まあ、いい。
なのはは何の躊躇もなく、飛針を自分の胸に向かって振り下ろす。
だが……。

「っ……!」

恭也がいつのまにか手を出して、それを止めていた。
なのはは笑ったまま、飛針から手を離した。
床に、恭也の血が着いた飛針がゆっくりと落ちる。

「お前……本気で刺すつもりだったな」

さすがは戦闘者、なのはに自分を殺すための殺気でもあったのか、それとも振りで見抜いたのか、恭也はなのはに迷いがなかったことを理解した。

「当たり前だよ」

なのはは笑ったまま頷き、そして血が流れる恭也の手を、自分の手で掴む。

「血が出てる」

なのはは、恭也の手を自分の口の前まで持ってきて、ペロペロとその流れる血を舐め取っていく。

「クスクス、おにーちゃんの血、美味しい」



ああ、やっぱり自分は狂ってるんだ。兄の血でさえ愛おしくて、美味しいと思えるほどに。



恭也の血を舐め取るなのはは……その顔、口元に血を滴らせるなのはは、ひどく妖艶だった。
だけど、そんな彼女を見て、恭也は顔を歪ませていた。
だって、彼も気づいてしまったから……いや、今までとて、本当は気づいていたところがあったのだ。
もう、なのはは狂ってしまっている、と。
なのはの狂想は、絶対にもう治まることなどない。

「わかった……」

恭也は力無く、頷いた。

「なにが?」

本当に意味がわかっていないのか、なのはは可愛いらしく小首を傾げてみせた。

「お前を……なのはを抱く」

それを聞いて、なのははパアっと顔を笑顔でほころばせる。
それはまだ……狂っていなかった笑顔。

「うん!」

そして、そのまま嬉しそうに……本当に嬉しそうに、彼女は笑い、恭也へと抱きついた……。




彼女は、布団からゆっくりと抜け出て行った。
それを恭也は、止めることはしなかった。
彼女……なのはは、恭也が寝ていると思っているのか、それとも起きていることに気づいているのか、それはわからないが、ゆっくりとした動作で歩き、恭也の部屋から出て行った。
それを確認し……

「っ……!」

恭也は唇を噛み締めた。
なぜもっと早く気づかなかった。
……いや、自分は気づいていたはずだ。だけど、ここまでだったとは思っていなかったのだろう
ここまで、なのはの想いが歪んでしまっていたなどとは……思いたくなかったのかもしれない。
そして、とうとう自分は戻れないところにまで来てしまった。
もう戻れない。
戻ろうとすれば、なのはは壊れてしまう。
自分を手に入れるために、自らの命も易々と投げ出すほどに、歪んでしまっていた。

「もう……無理なんだな」

 なのはを一番にと考えるというのは、今までと違いはないんだ、と自らに言い聞かせる。
だけど……これからは……。

「地獄に行くのは……もうずっと前から決まっていたことだ」

すでに人を殺めている自分が逝くのは、間違いなく地獄とわかっていた。そのとき、おそらく地獄にいるであろう士郎に挨拶でもしようと思っていた。
だがどうやら、親子喧嘩をしにいかなければならないらしい。
なのはに手を出してしまったのだし、父は許してはくれないはずだ……いや、あの人だったらよくやった、とでも言うのだろうか。。
だけど……おそらく、地獄に行くのは自分一人ではないのだろう。
 すでに、二人分の地獄への切符は手に入れてしまったのだから

「堕ちるなら……共に堕ちよう」

それが今の自分にできる……彼女にしてやれることだから。

「なのは……」

そっと……これからも自分と共に狂っていくであろう最愛の妹の名を紡いだ。





なのはは自分の部屋に戻ってきていた。
別にあのままあそこで眠ってしまってもよかったのだが。でも兄を起こしてしまうのは忍びないから。

「ふ、ふふ……」

駄目だ。
我慢できない。

「あは……あはは……」

だって……どんな形でも成功するのがわかっていても、嬉しさは隠せない。
この笑い声は留めることができない。

「嬉しい……嬉しい……!」

やっと兄を手に入れた。
もう絶対に、兄は自分のことを離さないだろう。
そして、自分も離しはしない。
自分が死んでもかまわない、恭也を殺してしまったとしてもかまわないと思っていたが、今ではどれだけ馬鹿げたことかと思う。
この道が、こんなにも……幸福であろうとは。
だって、こんなにも嬉しい。
兄に抱かれることが、あんなにも甘美であっただなんて……それは初めての痛みでさえ。
もう死ぬつもりなんてない、殺してしまうつもりもない。
これからも、兄という麻薬を身体が欲してしまっているから……。

「あははは!」

 どうやっても隠せない。
この嬉しさは隠せない。

「堕ちて逝こう……狂って逝こう……ずっとずっと、二人で……ね、おにーちゃん」

なお深い狂想に包まれたなのは。
彼女は、愛おしい人の温もりと匂いが残る自分の身体を抱きしめた。



こうして、狂想はさらに歪み、狂わせていく。
想いに狂った兄妹。
その狂想はどこへ向かうのか……












 あとがき

ははは。
エリス「く、黒い」
まあ、死人が出てくるとかではないけど、心理的ちょいダークな狂愛だから。ホントはあとがきはなしにしようと思ったんだけど。
エリス「まあ、このあとだと、なんとも言えない雰囲気になるからね」
この話、投稿する気はまったくなかったです。
エリス「そなの?」
うん。だって、これもともと長編……中編って言ったほうがいいかな、まあそのぐらいの長さだったから。
エリス「短いよ?」
無理矢理短編にした。だから地の文ばっかり。それに元のまんまだったらイチハチ禁で投稿できないし。
エリス「イ、イチハチ禁って……」
まあ、リクエストされて書いたからねぇ、とくにこういう狂愛ものだと、そういうのも重要になることもあるし、それほど描写がすごいわけでもないけど。
 本当の話の方はこの前完結させた。ちなみにそっちは、彼女が恭也への想いに目覚めてしばらくのところから、さらに、これには描かれていない未来まで、というか、この話は中編で言うところの四分の三ぐらいまでしか書いてない。残りは二人して爛れて狂ってくって感じだけど。
エリス「な、なんか恭也がかわいそうというべきか……」
さあ、それはどうだろう。恭也、なのはについて結構わかっていたところがあったし、なのはとなら狂ってもかまわないっていうのもあったし。まあ、中編だと、恭也自身の話も結構出てるんだけど、この話だけだとそれはあんまり伝わらないか。
エリス「でも、よくデータ残ってたね?」
ああ、頼まれた作品とか、読んでもらってた作品は、フロッピーとかUSBメモリーに残ってるから。読んでもらってなかった作品とか、先の話とかが消えた。
エリス「とりあえず、今回はテンション上げると場違いになるからこのへんにしとこうか?」
そだね。まあ、こんな感じの話でしたが、自分は結構こういう話を書くのは好きなので。そんなこんなで投稿してみました。こういう話は凄く反応が怖いんですけど。
エリス「それではみなさん、また他の話で」
ありがとうございました。







こういうのもありかな、と思うわけですが。
美姫 「私もありかと思うわよ」
まあ、暗くてもハッピーエンドっぽいからOKかな。
美姫 「救いも何もないっていうのじゃないしね」
うんうん。
美姫 「テンさん、ありがとうございました」
ではでは。



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