この話は、皆さん自分の正体とか、能力とかはぶっちゃけてしまっているというご都合設定です。そして途中より壊れギャグに突入するのでお気をつけください。
恭也の子供?
「真雪さん、俺、思ったんですけど」
耕介は、酒の入ったコップを置いてそんなことを言った。
真雪の仕事も一段落つき、耕介は彼女の晩酌につきあっていた。いや、つきあっていたというよりも、自らおつまみを作って特攻したのだが。
しばらく二人で飲みながら世間話をしたり、耕介が真雪にからかわれたりしていたのだが、ふと何かを思いついたようだ。
「なんだ? おもしろくないことだったら酒取り上げるぞ」
「そんな」
さすがはさざなみ寮のジャイアン、無意味に理不尽である。
「いいから言ってみろよ」
酒を取り上げられるのは嫌だが、きっと真雪ものってくれるだろうと思い、耕介は話し出した。
「ちょっと前から考えてたんですけどね」
「ああ」
「恭也君の子供ってどんな感じになるんでしょう?」
「青年の子供?」
耕介に言われて、真雪は頭の中に黒ずくめの青年を思い浮かべた。
浮いた話一つ聞かないが、異常なほど女性たちから慕われている。だが、その驚異の鈍感というか朴念仁というか、まあそんな感じで人の好意には気づけない男である。それ以外のことには鋭いのに。
「青年の子供つってもなあ。確かに興味はあるけど、そもそも相手がまだ決まってないだろ」
「候補はいっぱいいるじゃないですか。その娘たちの間に子供ができたらどうなるかな、と思って」
真雪はなるほど、と頷く。
恭也の家族はもちろんのこと、ここの寮生たちすら彼に想いを寄せている者たちがいる。
さらに言えば、妹のなのはすら恭也に恋をしているというのは、周知の事実である。何と言っても、そのために同年代の少年から受けた告白を断っている……らしい。
真雪からすると、自分の妹すら彼に好意を抱いているので、内心では気が気でないのだが。
「まあ、とりあえず有力候補はフィアッセか?」
「そうですね、彼女との子供なら……」
「歌うたいぐらいしか想像つかないぞ」
「それって、女の子の場合じゃないですか?」
「ん?」
確かにそうだ。
フィアッセとの子供と聞いて、彼女に似た女の子を真雪は頭に浮かべていた。
では男の子だった場合は?
小さくなった恭也が想像できる。しかも手には小太刀、そして……。
真雪は一度酒を飲み干し、その後に眉を寄せた。
「なぜか黒い服着て、小太刀持ってて、黒い羽がついた小さい恭也が頭の中に出てきたんだが」
「……御神流とHGS……最強ですね」
「だな……」
それに関してはフィアッセだけではなく、真雪の妹に後継者、さらに後継者の妹を相手に想像しても同じである。
娘と想像すると、相手が小さくなったような子供が想像できるのだが、息子となると全員黒ずくめに小太刀を持った少年……しかも、相手によって背中の翼が違う……が想像できる。
どちらにしろ、とんでもない子供になるだろう。
いや、HGSは病気であるのだから、それを受け継ぐのはあまりよくないはずなのだが。
「それじゃあ、美由希ちゃんだとどうなるんでしょう?」
「ああ、そりゃ簡単だ、息子にしろ娘にしろ、強い御神の剣士になるんじゃねぇの?」
「あ、それは確かに……」
耕介は肯定した後、なぜか顔を伏せ、青くさせた。
それに首を捻る真雪。
「……美由希ちゃんの料理の腕も受け継ぐんですかね」
「……ある意味最強だな」
耕介の言葉を聞いて、真雪も彼と同じ反応をしてしまった。
剣の腕もさることながら、毒殺にかけては、おそらく愛の子供ぐらいしか対抗できる者はいなくなるだろう。
嫌な想像をしてしまったと、二人はおつまみには手をつけずに酒だけを飲む。
「ああ、じゃあ、晶ちゃんだとどうなりますかね?」
とりあえず、先ほどまでの想像を振り切るようにして耕介が聞いた。
「なんか晶との子供だと、娘っていうのが想像できんぞ。どっちにしても男勝りになりそうだしな」
「やっぱ、あの回復力も受け継ぐんですかね?」
そこで二人はなぜか唸った。
考えることは一緒だったようだ。
「……あの耐久力と回復力に御神流」
「……やっぱり最強なんですね」
空手とか浮かぶ前に、その耐久力と回復力について浮かぶのがアレである。
「んじゃあ、神咲姉妹だったらどうなんのかね?」
「やっぱ御神流の退魔士じゃないっすか?」
確かに薫が相手なら、とんでもない剣腕の子供になりそうだ。そして退魔士としても超一流になるだろう。
だが、那美の子供であったならば?
それを考えて、真雪は再び眉を寄せた。
「神咲妹の方だとドジっぷりも受け継ぐのか?」
「御神の剣と霊力の暴走で周りにすごい被害がでそうっすね……」
「……最悪だな」
はた迷惑な最強の誕生である。
二人はやはり同時にため息をついて、首を振った。
とりあえず、嫌な想像は振り切り他の人へ。
「んじゃあレンはどうだ?」
「ああ、レンちゃんとの子供ならまだ……いえ、なんか突っ込みに全力で御神流の奥義を使いそうなんですが」
「……ゆうひだとボケで御神流を使うってか?」
「どちらにしろ、死人がでますね……」
やはり周りにとって、はた迷惑な子供ができそうだ。
もはや最初以外は子供が男だろうが女だろうが関係なく、嫌な想像ばかりしてしまう二人である。
二人はやはりため息をついて、お互いに乾いた笑みを見せあう。
「し、忍だったらどうだ?」
「……夜の一族と御神流ですよ?」
「さくらだったらさらに人狼の血もか……」
「……どっちにしろ最強ですよ」
どうして周りの人間で想像すると、こんなにも人外な子供ができあがるのか。
いや、彼らの周りが普通ではないということを再認識したというところだろうか。
その筆頭が恭也なわけであるが。
「こう考えると、まともな感じにならないぞ、あの青年の子供は」
「この場合、恭也君が凄いのか、周りの人たちが凄いのか」
「両方だろう」
「ですね」
どうもこの二人は、自分たちもその中の一人であることには気付いていないらしい。
とりあえずもう一杯飲む。
「逆に普通の子供を産んでくれそうなのは……」
「桃子さんとなのはじゃないのか?」
「……母親と妹が相手ってどうなんですか?」
別の意味で危ない相手である。
「いいんじゃないの、別に」
「まあ、お互いがいいって言うなら。それにあの人たちなら戸籍の改竄ぐらいしそうですしね」
戸籍の改竄はまずいのではないかと思うが、恭也の関係者たちならばそのぐらい簡単にこなすだろう。
そりゃあもう、本気になったら何をしでかすかわからない。そのうち桃子あたりが娘と自分のためにやりそうで恐い。ついでに恭也の叔母も新しい恋に目覚めてやりそうだ。
「だろ? それにあの二人の子供だったら、せいぜい翠屋の二代目……いや、三代目がいいところだろうし」
もしくは普通に御神流の剣士だろう。
御神流の剣士で普通というのが、すでに思考が麻痺してしまっているのかもしれないが。
「まあでも、他のやつらでもそれはそれで楽しそうだし、ネタになりそうだしな」
真雪はニヤリと笑っておつまみを食べる。
それに耕介はため息を吐きつつも、同じく用意していたスルメを口の中に入れる。
だがなぜか真雪はニヤニヤと笑って、その耕介の顔を見ていた。
「な、なんすか?」
「いや、恭也の相手が誰にしろ、その子供が起こす被害に一番あいそうなのはお前だと思ってな」
「は?」
突然の真雪の言葉に、食べかけていたスルメを落として耕介は訳がわからないという表情を見せた。
その耕介の顔を見て、真雪は意地悪く笑ってみせる。
「恭也に子供ができたとしても、なかなか忙しそうだからなぁ。相手もあんま平凡とは言い難いし、忙しい相手になるんじゃないの。ということは……」
「ということは?」
ゴクリと唾を飲み込み、耕介は聞き返す。
「日中はここに預かってもらうということがおおいにありえる。まあ、まず愛なら断らないだろうし。だがここに預けられた場合、誰が面倒を見るかというと……」
「……お、俺っすか」
そう、耕介しかありえない。
何と言ってもさざなみ寮の管理人。
またの名を全自動お手伝いマスィーン。
「あ、あ、あ……」
耕介の中にいくつものシーンが浮かび上がる。
白い翼を持った小さい恭也……どうやら相手は知佳らしい……に見えない力で吹っ飛ばされる耕介。
小さい恭也にしこたま殺戮料理を食べさせられ、泡を吹いている耕介。
小さい恭也に霊力でブッ飛ばされる耕介。
ボケをかましてせいで、小さい恭也に薙旋で突っ込まれる耕介。
ボケで小さい恭也に射抜をかまされ、ブッ刺される耕介。
赤い目をした小さい恭也に逆らえず、機械の実験をさせられる耕介。
耕介の未来は地獄だった。
次々と浮かぶ凄惨な未来に、耕介は青い顔になり、ダラダラと汗を流し、さらにガクガクブルブルと震え始めた。
今にも泡を吐いて倒れそうに見える。
だがそんな耕介を見ても、やはりまだ楽しそうにしている真雪は悪魔である。
「だ、ダメだ、ミニ恭也君、そんな簡単に翼は広げちゃいけない! っていうか、これは食べ物じゃないよ!? もう俺は致死量限界食べてるんだよ!? え、食べなきゃ閃を使う? そんな、どっちでも死ぬじゃないか! ちょっと待ってくれ! なんで転んだ拍子に霊力がこっちに!? いや、ボケろというからボケただけなのに突っ込みが薙旋!? って、今度はボケで射抜!? 頭は狙わないでくれ! 待て、待ってくれミニ恭也君! その機械は何かまずいよ! そんな目を赤くしなくても! やる、やるから!」
イイ感じに幻覚を見始めているらしい。
「ケケケ、聞いてるだけでおもしろいな。っていうか、うまい具合に全員に手を出させて、それぞれに子供作らせたらもっと面白くなりそうだ」
やはり真雪は鬼らしい。
その言葉が聞こえていたのか、
「そんなバカな! ミ、ミニ恭也君がいっぱい!?」
耕介は叫んで、虚ろな目になってしまった。
どうやら未来を想像しただけで、精神死直前まで逝ってしまったようである。
だが突如として目を開いた。そりゃあもうクワッと見開き、輝いていた。その不気味さに、あの真雪ですら少し仰け反った程だ。
そして耕介は立ち上がった。
「真雪さん、行って来ます」
「は? どこへ行くんだ?」
「恭也君の所です」
親指を立てながら無駄に爽やか笑みを見せ、耕介は風のように消えていった。
一人残された真雪はいきなりの展開に取り残され、しばらく呆然としていが、すぐに正気を取り戻して、視線を天井へと向けた。
「ちとやりすぎたか。まあいいか、おもろしかったし被害にあうのは恭也だし。それはそれでおもしろい」
そう言って、真雪はもう一度酒を飲む。
「あ、耕介を行かせる前に追加のつまみを用意させるべきだった」
やはりこの方は鬼で悪魔だった。
恭也は深夜の鍛錬を終えた後、美由希を先に家へと帰し、その後少しだけ鍛錬を続けていた。
それをしばらく続けた後、恭也も家に帰るため木刀などをまとめた後に歩き出した。
いつものように真っ黒な服で歩く、その歩調は随分と遅いものだった。
住宅街をゆっくりと歩き、恭也は天上に見える星を眺める。
「父さん、美由希が俺を越えていくのはもうすぐかもしれない」
そんなことを呟く。
そう、今恭也の中ではシリアス展開なのだ。きっとBGMは『遠い約束』で間違いない。
だがそのシリアスな展開をブチ壊す破壊者はもうすぐ現れる。
「恭也君!」
現れてしまった。
シリアス破壊者……耕介はようやく会えた恭也に向かってズンズンと近づいていく。
「耕介さん?」
いきなり現れた耕介に恭也も少々驚いていた。
耕介はそんなことには気にせず、恭也の目の前まで来るとガシッとその肩を力強く掴んだ。
「恭也君、君に話がある。何より大切なことなんだ」
そう言う耕介の目は真剣であった。
こんなにも真剣な表情の耕介を見るのは、恭也も初めてのことである。
そのため恭也もできるだけ真剣な表情をとる。これから話されることは危険な事なのかもしれない。
だが耕介は色々な恩がある。その恩を返すためにも、できるだけ協力しなければなるまい。
だが、耕介の口から出てきた言葉は、恭也の予想を遙かに超えていた。
「いいかい恭也君、つき合う相手は……いや、結婚する相手はちゃんと選ぶんだ!」
「は、はあ」
なんでそんな言葉が出てくるのかがわからず、恭也は目を丸くさせる。
だが耕介は真剣な目のままだ。
「できればおとなしい娘がいい! 俺のおすすめとしては桃子さんかなのはちゃんだ! 桃子さんとの子供も真雪さん化しそうで少し危険かもしれないが、さざなみ寮であずかることになるだろうから、俺がちゃんと全うに育てよう!」
「いや、ちょっと待ってください!」
「もしくは真一郎君から、小鳥ちゃんを奪っても構わない!」
「ええ!?」
「だが決して愛人なんて作っちゃいけない! いや、愛人を作るのはかまわない! きっと君が相手を決めた所で、簡単に諦めるような娘たちじゃないからね。そりゃあもう、恭也君の相手を蹴落とすか、愛人になるぐらいの覚悟があるだろう! だがうまく子供ができないように全員とつき合うんだ! 子供を産ませてはダメだ!」
「あなたの発言がすでにダメダメです」
思わず恭也も突っ込んでしまうが耕介は気にしない。
耕介はバッドエンドに突入するわけにはいかないのだ。
なのはのエンディング講座で、あの時なのはをお勧めしなかったからです、なんて言われて変なハート型の杖に吹っ飛ばされたくないのである。
「何がダメなものか! わかるかい!? 未来は地獄なんだぞ!? 下手に恭也君がいっぱい子供を作ったらミニ恭也君たちが暴れ回るんだ! 君たちの子供なら世界征服だってやりかねないんだ! そして被害にあうのは主に俺だ! 海鳴の歴戦の強者たちとて対抗できるかどうか!」
「もう本当に訳がわかりませんよ、耕介さん」
俺の知っている耕介さんは死んだ、と思いながらも恭也は声をかける。
そしてそれからもう一度夜空を見上げると、兄のように思っていた『かつて』の耕介と士郎がにこやかに笑っていた。
「わかれ、わかるんだ!」
未だ恭也の目の前では、新たに生誕した壊れ耕介が騒いでいる。
ちなみに生まれてまだ一時間も経っていない。
「いいかい、恭也君! ただでさえ君の子供ということは全員御神流を使える可能性があるんだ! そこにプラス相手の何かしら特殊能力が……」
恭也はため息を吐き、一応腰に差していた八景を鞘に入れたまま、上半身のバネだけで突く。
「射抜・零式……」
ちなみに忍に借りた剣客ものの漫画に出ていた登場人物が使っていた技を恭也が改良し、射抜でできるようにしたものだったりする。
耕介は上半身と下半身がお別れすることはなかったものの、数メートル吹っ飛んだ。
そしてそのまま気絶したようである。
「ミ、ミニ恭也君たちの……大進行……」
そんな声が聞こえ、たまにビクンビクンと陸に上げられた魚のように身体を揺らしていた。
「この人はきっと耕介さんの偽物だ。本物が帰ってくる前に埋めてこよう」
恭也はそう言って耕介の足をとり、ズルズルと引きずっていった。
次の日、さざなみ寮付近に住む猫たちの報告を聞いた美緒によって身体を全て埋められ、頭をだけを出した耕介が発見されたが、前日のことをまったく覚えていなかった。
そのおかげで恭也は再び耕介を兄のように慕うことができるようになったのであった。
だがきっと真雪が覚えている限り、壊れ耕介が復活するのも時間の問題であろう。
そして近い将来本当にミニ恭也が誕生することになるのか……それはまだわからない。
あとがき
はい、途中からギャグ一直線になってしまいました。
エリス「慣れないことしたね」
ははは、戦闘と同じくギャグのセンスまったくありません。
エリス「最初と流れがいっきに変わった。でもなんでこんな話を?」
この話はとらハ3をやり直し、フィアッセから、子供ができたら御神流を教えるの、というのを聞いて突如思いついた話です。最初はギャグにするつもりなかったんですけど。だんだんと変わってた。
エリス「でも確かに恭也の子供は想像がつかない」
途中から全部男の子で恭也を小さくしたような感じになってるけどね。女の子の場合だともっと想像がつかない。まあ、エンディングで少し出てくるけど。
エリス「とにかく、今回は少し壊れギャグに挑戦したお話でした」
たまにはいいかなぁ、と思いつつ書いてしまいました。
エリス「短いけどねぇ」
ギャグはあまり長すぎてはいけないような気がして。しかし、堪能した。
エリス「堪能って」
この頃は重い話ばっかりだったり、軽いダークだったり、ほのぼのだったり、戦闘だったりで何も考えず書くというのをしなかったからなぁ。まったく何も考えずに耕介に壊れてもらった。はっきりプロットとか何もなかった。
エリス「また滅茶苦茶なことを」
いやいや楽しかった。
エリス「とりあえず今回はこのへんで」
それではまた他の長編か短編で。
エリス「ありがとうございました!」
恭也の子供、凄いな。
美姫 「小さな翼を背に生やした小さな恭也」
中々可愛いらしい想像をしてしまった。
美姫 「良いじゃない。あ〜、アンタに絵心があれば描かせるのに」
いやー、なくて良かったよ、うん。
美姫 「壊れた耕介も中々にいい味を出してたわね」
テンさん、ありがとうございます。
美姫 「ありがと〜」