まえがき

リリィが主人公、相手が恭也という物語です。基本的に選ばれし黒衣の救世主とは関係ありませんが、少し影響を受けている部分はあります。ただ救世主候補の中に恭也がいたとでも思ってください。
狂想程重くはありませんが、やはり読む人を選ぶような作品になってしまっています。さらに狂想のなのは程ではありませんが、リリィがかなり壊れてます。
 弱すぎるリリィや、ツンデレじゃないリリィなんてリリィじゃないと思う人や、リリィの相手は大河じゃないと認めないという方は読まないようお願いします。














依存。
 それを表に出しているつもりはないが、私はアイツに依存している。
そんな自分が許せないとも思う。
 だけど……駄目だ。
 アイツがいなくなったらと思っただけで、想像しただけで、私の心が、私の身体が、私の全てが壊れてしまいそうになる。
一度全てを無くしているからこそ、恐い。
 今の私はアイツを中心に回っていて、アイツが全てで……。
 アイツを頼っていて……。
アイツがいなくなったら私は何もできない。
だから、アイツがいなくなるというのは、また全てを無くすのと一緒。
本当に何も残らなくなる。
心がなくなる、壊れる。
 ダメだ。
 本当にダメだ。
 無くしたくない。
失いたくない。
ずっと一緒にいたい。
私はこんなにもアイツを愛している。
 依存という名の愛で愛している。
でも、きっといつかアイツは元の世界に帰ってしまう。
どうしたら、アイツは私の傍にいてくれるのだろう。
 どうしたら、永遠に私と共にあってくれるのだろう。







依存愛







「傷、増えてるわね」

 リリィ・シアフィールドは、高町恭也の隣に寝そべりながら、その細い指で彼の厚い胸板をなぞった。
何度見ても凄い身体だと思う。
異常な程引き締まった全身。服を纏えばそうは見えないのに。
 何より全身に刻まれた傷。
 そして、それは今なお増え続けている。
 前に見た時にはなかった傷が確かにあり、それはすでにふさがって、傷跡として残っていた。
 リリィはそのふさがった、だが新しい傷に指を走らせた。

「リリィ、くすぐったい」
「……いいでしょ、別に。もうふさがるんだから。それに私がやめてって言っても、さっきは聞いてくれなかったじゃない」
「言葉だけだったような気がするが」
「うるさいわよ」

言いながらも、リリィは傷を撫で続ける。
 彼の傷は、未だ増え続けている。
 破滅との戦いは終わったが、それでもまだその名残が続くこのアヴァターでは、モンスターが暴れている地区が未だ多くある。
それがわかるたびに、恭也は動く。
護るために。
 自分ではない誰かのために。
 無論、他の救世主候補たちやリリィとて動くが、恭也は一人で行くことが多い。彼は誰よりも多対戦に慣れているから。
護る時は誰よりも強いから。
だがそれでもいつも、身体に傷を刻んで帰ってくる。
誰かを護って、傷を刻んで帰ってくる。
誰かを護った証として。

「後衛も連れていきなさいよ」

 リリィは暗に私も連れて行けと言っているのだが、この鈍い男は気付かないかもしれない。

「目的の場所までほぼ強行軍だからな、後衛の者たちではキツイだろう。前衛でついてこれそうなカエデはだいたい大河と行動しているし、他の者たちも同じく動いている。それに復興の手伝いがあるしな」

むしろ恭也の体力についていける者などそうはいない。
それも恭也が一人で行く理由の一つでもあるから。
 誰よりも早く目的の場所に到着し、誰よりも早く目的を遂行する。
その両手に握る剣で、素早く敵を排除する。

 だが、リリィは恐い。
 恭也は召喚器もあり、無敵なのではないかと思えるほど強い。
 だがそれでも彼は人で、死ぬ時は死ぬし、天敵もいる。
 そして、誰かを護るためなら簡単に自身の命すら捨てるだろう。
自分のいない所で恭也が死んでしまうのではないか。
だがそれ以上に、全てが終わってしまえば……破滅との戦争の後始末が終われば、彼は帰ってしまうのではないかと。
恭也がモンスターを倒すたびに、その時が近づいているのではないか。
自分や、他の仲間たちが、先の戦争の後始末を終える度に別れが近づいているのではないか。
アヴァターが復興される度に、モンスターが退治される度に。
 恭也がいつも元の世界に残してきた家族たちを心配しているのを、リリィは知っているから。
彼がいなくなってしまったら……きっと自分は耐えられない。
自身が初めて頼ることになったこの男がいなくなったら……頼ることを教えてくれたこの男がいなくなったら、何の価値もない世界でしかない。いや、地獄でしかない。
それを考えただけで、震えてくる。目の前が真っ暗になる。

「リリィ?」

 リリィが震えていることに気付いた恭也が、彼女の名を呼ぶ。
 だがリリィは答えず、その腕をきつく抱きしめた。

こんなにも恭也に依存してしまっている。
 リリィは強すぎる依存という形で、彼を愛している。
恭也と出会う前ならば、きっと考えることもできなかった状況。
自分が誰かに頼りきるなんて、依存するなんて。
 だけど、それでももう彼がいない状況なんて考えられないのだ。彼がいないと考えるだけで、震えてしまうのだ。
世界の誰がいなくなっても、彼さえいてくれればいい。
 彼が世界を滅ぼすと言っても着いていくと思うし、彼を傍にいさせるためなら、何だって犠牲にする。
よく物語で、似たように愛を語られることがある。だがリリィの場合は少し違う。
だって物語の登場人物たちが言うそれは愛の大きさを比喩したものであって、実行などできないし、しないだろう。
 だが、

(私はできる)

 リリィはそれができるだけの力があり、実行することができる狂った想いがあった。
どんなものでも犠牲にできてしまえる。
それこそ仲間でさえ。
何の迷いも、躊躇も、憐憫もなく、無慈悲に、無感情に、何であろうと、恭也の傍にいるためなら犠牲にできてしまう。

 きっと歪んでいる。
 この愛は歪んでいる。
 彼以外を必要としなくなった自分は、きっとおかしくなってる。
愛に狂ってる。
違う……愛が狂ってる。

(どうしたら……)

 どうしたら恭也はずっと傍にいてくれるのだろう。
いつか恭也は家族が待つ世界に帰ってしまう。一緒にいられる時間は無限ではないのだ。
むしろ……その家族を殺してしまえれば、恭也は自分を憎み、追ってきてくれるのではないかとすら思う。
 憎しみという感情でもいい。ただ傍にいてくれるのなら、視線の中に入ってくれるなら。
だけど、たぶんそれはきっと無理だ。
 誰にも気付かれずに世界を渡るなんてことは、リリィにはできない。
恭也に気付かれれば、彼と戦いになる。
 護る者がある時の恭也に勝てる気などしない。
なら他にどんな方法がある?
 恭也の傍にいられる方法は……。




「どうしたんだ、リリィ?」

心配げな恭也の声を聞きながら、リリィは自身に掛けられていた毛布を払い、そしてそのまま恭也の胸の上に馬乗りになった。



 ランプの光に照らされる赤い髪と美しい裸身。



リリィはそのまま手を伸ばし、恭也の首を両手で触れる。

「ねぇ、恭也」
「ああ」



「このままあなたを殺して私も死ねば、ずっと一緒にいられるかしら?」



リリィは美しく笑いながら聞く。



それはどんな冗談なのか。
それともどんな脅しなのか。
だが恭也はリリィの言葉を冗談と笑わず、しかし脅しだと怒りも見せない。

「無理だろうな」

ただ淡々と答える恭也。
 そんな恭也を見て、リリィは軽く首を傾げた。
それは人形が動いているような、どこか美しく、そして壊れた動作に見えた。

「どうして?」
「俺は地獄逝きだ。リリィと一緒の場所には逝けないさ」
「なら私が地獄まで追いかけて逝くわよ。それに私だって人を殺してるんだから、地獄逝きでしょ」

ああ、確かにその通りかもしれないな、と恭也は苦笑した。
破滅との戦争で、リリィもその手を汚してしまったから。
血で濡らしてしまったから。
 その行動は間違っていなかったが、それでも人を殺してしまった。本来は恭也がやるべきだったことを、リリィもこなしてしまった。


リリィは恭也の苦笑を見て、少しだけ指に力を入れた。
 指が首に食い込むが、それでも恭也はその手を振り払いもせず、自身の手をリリィの頬に触れさせる。
まるで壊れ物を扱うかのように、恭也は優しく触れる。

「なぜ泣く?」

なぜかリリィは泣いていた。
 ……恭也の腕から離れた時から。恭也の首に手をかける前から。

「…………」

リリィは何も答えない。
 ただ泣きながら恭也の首に力を入れていくだけ。
リリィの瞳から流れる涙を頬にある手で触れながら、胸にその滴を受けながら恭也は笑う。

「殺したければ殺せばいい。お前も追ってきてくれるなら、きっと地獄でも楽しくやれるさ」
「なんで……よ?」

リリィは泣きながら問う。
意味が伝わらない問い。
ここに第三者がいたとしても、なぜそんな問いが出てくるのかと思うだろう。
それは何への問いかけなのか……。



「お前を愛しているから」



それでも恭也は答えた。
まるで意味のない問いであったはずなのに、最初から返答など決まっていたかのように、ゆっくりと返答した。
恭也も好きだなんて言葉は今まで何度か言ってきた。
 だが、初めて彼女へと愛を囁く。

「っ!!」

リリィの声にならない声が聞こえた。
それを聞きながら、恭也は流れてくるリリィの涙を拭っていく。
指でただ優しく拭う。

「リリィが何を考えているのか、何を思っているのか、俺にはわからない。俺は『神』ではないからな。
だがそれでも、お前が俺の死を求めるのなら拒みはしない。
 お前が死ぬのは本当は嫌だが、それでもお前が求めるなら止めない。
 けど……」

 恭也は一度言葉を切り、リリィの頬を撫で、そしてその手を彼女の長く、燃えるような赤い髪に持っていき、愛おしげに触れた。
今まで何度もそうしてきたように、いつものように触れた。

「俺は本当に欲張りのようでな、できれば生きて、お前の傍にいたい。二人で居続けていたい」
「きょう……や……」

リリィは涙を流し続け、恭也の首に触れる腕を震わせた。

「でも、俺は生きていれば護ることを優先してしまう。だから、お前に任せるよ」

今度はまるで子供をあやすように、ゆっくりと頭を撫でる。
リリィの手はそれ以上力が入らない。ついには今までかけていた力すら抜けてしまった。
 ただ泣きながら震えて、恭也の首を掴んでいるだけ。

恭也はそんなリリィの頭を抱き寄せた。
本当に軽い力であったはずなのに、まるで全身から力が抜けてしまったかのように崩れ落ち、リリィの身体はすっぽりと恭也の腕の中に収まった。
 恭也はそんな彼女の背をさする。
 胸の中からリリィの嗚咽が聞こえ、恭也は再び苦笑した。

「なあ、リリィ……今言った通り俺は欲張りなんだ」

 リリィはただ泣くだけで、恭也の胸に縋り付くだけで何も答えない。

「元の世界に残してきた家族を護りたい。何より、お前の全てを護りたい」

まるで子供のように泣くリリィを抱きしめて、恭也は囁くように言う。

「だから全てが終わったら、俺はお前をさらっていく。
お前が嫌がっても連れていく。邪魔する者がいても、それらを全て倒して、お前をこの世界からさらう。
 俺の我が儘で、俺はお前をさらう」

それは宣言。
 傍から離す気などないという宣言。
 相手の考えを無視した恭也らしくもない宣言だった。

「恭也ぁ!」

それでもリリィは泣きながら、またも恭也の首に手を回す。
 だが、それは抱きしめるために。

「だからリリィ……お前は俺の傍にいてくれ」

恭也は抱きしめられたままリリィの頬を両手で包み、その目を見てそう告げた。

「絶対に離れないわよ! 離れてなんかやらない! アンタは私のものなんだから! どこまでだって引っ付いていってやるわ!」

私のものだと言っているのに引っ付いていく、どこか矛盾した返答に恭也はまたも苦笑してしまった。
だがリリィはそんなことは気にせずに、涙を流しながらも不敵に笑って、恭也へと顔を近づける。
そして、ランプによって作り出された影が、今一つに重なった。





たぶんそれは依存だ。
その人がいなければ何もできないという弱い心。
きっとどんなに強い人間にもあるもの。
 ただその想いが彼女は強すぎた。
それは狂っている言われるほど強すぎるものかもしれないが、それでも確かに一途な愛だった。
依存するという形で、何より彼女は彼を愛していた。
そしてこれからも愛していく。
彼の傍にありながら、彼の存在を頼り続け、愛し続けていく。









あとがき

 狂想とはまた違う形の狂愛もの。
エリス「依存という名の深い愛」
たぶん誰にでもあるものだけど、このリリィはさらにそれが深い。これは大河編書いてたら思いついてしまった話だったり。
エリス「また弱いリリィを」
 非難がいっぱいきそうだ。でも自分はこんな話を書くのが大好きなんだ!
エリス「開き直った。よくわからない描写も多いし」
 狂愛系は書きたいように書く!
 後半は確かによくわからない描写でしょうが、このやり取りでの恭也とリリィの心情は読んだ人の感じ方に任せます。あえてまったく心情は書きませんでした。そのため少し後半は狂愛に見えないでしょうが仕様です。自分の考えた二人の心情もありますが、読んだ人が感じたように取ってもらいたかったので、こういう表現になりました。
エリス「でもなんか所々いやらしい感じがする話だね」
 情事の後ですから。
エリス「うわ」
 心情を省いたため少し短いですが、浩さんがリリィが好きということで、息抜きと半ば浩さんのために書いてみました。リリィの性格がかなり壊れてますが、受け取ってもらえると。一応デレ状態なのかな?
エリス「歪んだ話でごめんなさい、美姫さん。一応ハッピーエンドではあるんですが」
すいませーん。
エリス「よし、これで息抜きは終わり、とっとと他の続きへ!」
 はい。携帯からパソに書き直すだけなんですが、それがなかなか進まない。
エリス「早くする」
 うい。それではまた他の話で。
エリス「ではでは」






よし!
美姫 「いや、そこまで声を大にしなくても」
いやー、だって、テンさんが前に書くみたいな事を言ってたから、とっても楽しみにしてたんだよ〜。
それが、それが遂にお披露目に!
おおおおおお。今、とっても感動している。
美姫 「あー、はいはい。完全に恭也に依存しているリリィ」
これはこれで良いものだよ。うんうん。
こういうのも大好きだ!
美姫 「という訳で、このバカはとても喜んでます」
テンさん、ありがとう!
美姫 「エリスもありがとうね〜」
それでは、今回はこの辺で。
美姫 「まったね〜」



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る