まえがき
今回の話は他作品とクロスしていて、キャラクターの年齢、性格、戦い方などオリジナル設定、改変があるのでお気をつけください。
この以降の話も、他作品とクロスし、おそらくは似たようなことになります。
満月が輝く闇夜、森の中に二人の剣士が立っていた。
片方は太刀を握り、真っ赤ドレスに身を包んだ少女。
もう一人は、一本の短い刀……小太刀を握っている黒衣の少年。
「新陰流が剣士、月瀬小夜音……参ります」
「御神流、不破恭吾……お相手しよう」
そして、二人の剣士の剣はぶつかりあった。
武者修行編
最速の激突
武者修行で全国を回っている恭吾と恭也。
そのとき二人は、ある街の駅前にいた。単純に食料などを買いに来たのだ。今の寝床は、少し街から離れた場所にある森の中である。
二人は食料が入った袋を両手に持ちながら、その寝床へと帰るために駅前を歩いていたのだが、唐突に回りがざわめいた。
「何だ?」
駅前にいた多くの人たちが、何やら驚きの声とともに、駅の入り口近くを見ていた。別に野次馬根性というわけではないが、二人も何となくつられてそこへと視線を向けてしまう。
そしてそこにいた者を見て恭吾は目を細め、恭也は驚きで逆に目を丸くした。
「な、何だあれは?」
恭也がそう呟いてしまうのも、周り者たちが注目してしまうのも無理はない。
そこにいたのは長く美しく髪を持ち、美しい美貌を持つ少女。だが、その格好が真っ赤で派手なドレス姿だった。
確かにその少女には似合っている格好なのだが、こんな駅前という場所では場違いとしか言い様がない。その美しさ故に、元々人の目を惹いてしまいそうであるのに、その格好でさらに視線を集めてしまっている。
だがその少女は、周りの様子など気にすることもなく、悠然と歩いていく。そしてなぜか途中で恭也と恭吾を少しだけ眺め、人垣の中へと消えていった。
しばらくするとどこにでもある駅前の光景が戻ってくる。
「月瀬小夜音……」
恭吾は少女が消えていった方を眺めながら、ポツリと呟いた。
「兄さん、知っているのか?」
「向こうは知らないだろうがな」
恭吾は元の時代で、彼女と共に仕事をしたことがあった。ただそれだけで、お互いそれほど喋ったわけでもない。この時代ではまったく面識はない。
「あの人は何者だ? 格好も凄かったが、それよりも相当な腕前のようだった」
格好自体目立っていたが、恭也にはそれよりもあの雰囲気と動き方で、かなりの腕前の戦闘者と見えた。
「月瀬家……の次期総帥。新陰流の遣い手だ」
小夜音が二十三代総帥になるのは、もう少し後だったはず。
月瀬家。言ってしまえば御神……こちらはすでにないが……に並ぶ戦闘集団である。
未来では総帥である彼女自ら諜報員として組織に潜入していたり、諜報員というのは、普通は目立たないことが原則であるはずなのに、それを無視して派手なドレスを着ていたりしていたのは、恭吾も面食らったものだ。
早い話、彼女を含めて月瀬家一同破天荒なのである。そういう所は御神家や不破家に似ていたかもしれない。
「なるほど」
それだけで納得する辺り、この年でありながら、恭也も多少は裏のことを理解しているようだ。
しかし、
「おかしいな」
恭吾は小夜音が消えていった方向を見ながら、小さく呟いた。
「何がだ?」
だがその小さな呟きが聞こえたのか、恭也が聞いた。
恭吾はその問いに気にするなと首を振る。
月瀬小夜音。
その歳は、恭吾と同い年であった。つまり今の時代では、恭吾の隣にいる恭也と同じく、まだ小学生であるはずだ。それなのに見た目からして、恭吾と同じぐらいか、一つ二つ幼いかぐらいであった。
まあ、ここは過去であると同時に、違う世界とも思っていたし、考えても仕方がないか、と恭吾はもう一度頭を振った。
その時はそれだけの邂逅。
一瞬の出会いだった。
恭吾は、ピクリと身体を動かし、すぐさま意識を覚醒させた。
「恭也……」
「大丈夫」
どうやら恭也も目を覚ましたようで、恭吾の呼びかけに淀みなく答えた。
二人がいるのは森の中。ここがこの街での鍛錬の場所であり、寝床だ。
基本的に旅の間は野宿生活。理由は、無駄に金を使いたくないのと、二人は未成年なので宿を取ったりするのは色々と面倒な所もあるためだ。
まだ凍死するような季節でもないので、問題はなく、野宿する場所も、大抵は市街から離れた人のこない場所にしている。でなければ補導されかねない。
この街のある道場で日中は稽古をつけてもらっていて、そこの人たちにはこの場所を伝えてあるが、今までここに来た者は皆無だ。
だが、そこに誰かが近づいてくる。しかもすでに深夜と言ってよい時間。そのため眠っていた二人は、その気配を感じて目を覚ましたのだ。
「女性、だな」
「ふむ、簡単な気配の嗅ぎ分けはできるようになったか」
「ある程度は」
二人は眠る時であっても動ける服装を心がけている。そのため着替えは必要ない。
武器もこの旅の中では、手放すことはない。二人は自らのその武器を意識しながらも、こちらに向かってくる気配に注意を払う。
逃げてもいいのだが、どう考えてもこの女性は恭也たちの方へと一直線に向かって来ている。気配を読んでいるのか、他に何かあるのか、少なくとも偶然ではないだろう。そう考えて、二人は逃げるのを止めた。
相手の目的の方が知りたいということだ。
そして、現れたのは一人の少女。
「初めてまして」
森の中では似つかわしくない、血のような赤色のドレスを纏った少女は、二人ににこやかに笑い、頭を下げた。
数日前に駅前で見た月瀬小夜音だった。
だがその手には、この前駅前で見た時にはなかった太刀が握られていた。
やはり経験の差か、恭也は目に見えて驚いた表情を浮かべているものの、恭吾は少なくとも表面上は変わりない。
「高町恭也さんと不破恭吾さん……ですわね?」
「そちらは月瀬小夜音か」
笑ったまま名を口にしてくる小夜音に対し、恭吾も無表情のまま彼女の名を口にする。すると小夜音は少々驚いた表情を浮かべた。
「あら、私のことを知っておいででしたの?」
「俺たちなどと違って、月瀬は色々な意味で有名だからな」
「なるほど」
驚きを消し、小夜音は再び笑う。
恭也はいつでも剣を抜けるように体勢を整えているものの、恭吾はそうでもなく、ただ小夜音を見つめていた。
「で、そちらはなぜ俺たちを? 俺たちは君に名が知れるほどのものではないはずだが」
「いえ、あの駅前であなた方を見た時からただ者ではないと思っていましたので」
「いくら月瀬とはいえ、あそこで少し顔を見たぐらいでは、俺たちの名も、そして今の居場所も見つけられるものではないだろう」
だからこそ、恭吾の隣で恭也が彼女のことを警戒しているのだから。
もっとも、恭吾は彼女の人となりはそれなりに知っているので、それほど警戒していはいない。それでも何かあればすぐに動けるように油断もしていないが。
「名前と居場所に関しては、あなた方がこの街でお世話になっている道場で聞きました」
それに恭吾はなるほどと頷いた。
なぜ彼女がその道場に来ていたのかはわからない。しかし、そこに出入りしているこの二人はある意味特徴的だ。駅前で一瞥された時、その特徴を覚えられたなら、その道場に顔を出していた者たち(恭吾たち)と繋がってしまってもおかしくはない。
「少し調べてみれば、なかなかおもしろい方たちのようでしたので」
その言葉に反応し、恭也が今にも動き出そうとしていたが、恭吾がそれを押さえる。
「なるほど、名前と特徴……そこから調べたか」
「気分を害されたのであれば、申し訳ありません」
そう言って、小夜音は頭を下げるが、恭吾は気にするなと告げた。
その二人のやり取りを見て、恭也がなぜだという表情を恭吾に向ける。
二人は過去を調べられては困る人間なのだ。そこから御神や不破のことを知られたら目も当てられない。
「構わない。どうせ何もわからなかっただろうからな」
恭吾の言葉に、小夜音よりも恭也の方が驚いた顔を見せた。
そして小夜音の方は心底楽しそうに笑う。
「ええ。何もわかりませんでしたわ。高町恭也さんの方は、戸籍など間違いなく改竄された様子があるのに、元はまったく辿れず、不破恭吾さんの方に至っては生まれた形跡すらなく、一年と少し前ほどにいきなり現れた、と言った感じです」
やはり、と言った感じで恭吾は頷いた。
恭也の方は、本当に徹底的に士郎がその過去を隠蔽した。それこそ不破家に残っていた莫大な資金と、士郎自身の人脈を惜しまずに使って。そして、桃子と結婚する際にも、やはり同じく徹底的に弄ったのだ。いくら月瀬家の力を使ったとしても、数日程度でその過去を辿れるものではない。
そして恭吾の方は本当に過去がないのだから、辿れるわけがない。戸籍自体はおそらく桃子がクリステラ夫妻辺りの人脈を頼ったのかもしれないが、このへんは逆に恭吾の方が知らない。
そういった情報だけでは、二人とも怪しいというのはわかっても、それ以上のことが調べられないのだ。
「それで直接ここに来たと言った所か」
「ええ」
やはり笑顔で頷く小夜音に、恭也は僅かに嘆息した。
彼女は月瀬家総帥……いや、次期月瀬家総帥にしてはなかなか派手に動く。それだけ自信があるということだろうが。
「それだけではないだろう?」
「はい。私と試合って頂けませんか?」
それを聞いて、恭吾は内心で今度はため息を吐いた。予想通りだ。
おそらくあの駅前で見られた時から興味を持ち、そしてこの街の道場で話を聞き、剣士としての性が現れた、というところだろう。
「あなた方の剣腕、お聞きしました。年齢に比例しない類い希なものだと」
「新陰流の達人クラスとの試合、確かにこちらとしても戦いたい所ではあるな」
元の時代では恭吾も小夜音と試合ったことはなく、常々戦ってみたいとは思っていた。それは彼女も同じだったようだが。
今の幼い恭也では勝負にならないとは言わないが、九分九厘負ける。おそらく小夜音もそれはわかっている。彼女が求める試合はそんなものではないだろう。
つまり、
「俺でいいな?」
「兄さん?」
試合を受けた恭吾を、恭也はやはり少し驚いたように見上げる。
「今回は見取り稽古だ。よく観察しておけ」
「そうではなくて……」
月瀬家となれば、確実に御神を知っているだろう。そんな彼女に剣を見せていいのかと恭也は聞いているのだ。
「大丈夫だ」
少なくとも、月瀬家は本当に敵対でもしなければ、高町家に手を出してくるような者たちではない。
そして恭吾と恭也が、彼女らと敵対することはないだろう。
「お願い致しますわ」
そう言って、彼女は持っていた太刀を引き抜いた。
「新陰流が剣士、月瀬小夜音……参ります」
それに合わせて、恭吾も小太刀を片方だけ抜く。
「御神流、不破恭吾……お相手しよう」
二人の剣がぶつかり合った瞬間、まるで恭吾の剣を巻き込むかのように、小夜音の太刀が受け流そうとする。
だが、逆に恭吾もそうはさせんと、剣先をずらし、まるで小夜音の太刀を吸い込むかのように受け止めた。
そしていきなりの鍔迫り合いとなった。
「小太刀とは聞いておりましたが……まさかあの御神とは」
「騙りかもしれんぞ?」
「それは戦えばわかること」
同時に二人は剣を引く。
二人は距離を開けて、お互い一足刀から半歩分離れた場所で構えたまま笑っていた。
「御神は二刀流のばずでは?」
そう言って、小夜音は未だ鞘の中にある恭吾のもう一本の小太刀を見た。
「二刀流の遣い手が一刀では弱くなる、とでも?」
「ありえませんわね」
「そういうことだ」
お互いに笑ったまま……動く。
先に出たのは恭吾。
小太刀と太刀とでは間合いが違う。後手に回っては責め立てられるだけである。少なくとも、それ相応の技を使わなくては。
恭吾は一瞬で間合いを詰め、
「しっ……!」
その小太刀の小回りが利くという特性を活かし、最小限の動きで切り上げる。
「はっ……!」
しかし小夜音は、それを自らの太刀で叩き伏せ、押さえ込むのではなく、まるで撫でるようにして軌道を変えてみせた。さらに小太刀の上から太刀を滑らせ、その刀身を恭吾の首へと伸ばす。
恭吾は仰け反るようにして躱し、そんな中途半端な体勢のまま、それでも振り上げた小太刀を止め、さらに力で振り下ろす。ただの力任せに見えるが、その軌道は理想的なもの。
小夜音はさらに斬り込もうとしていたものの、それに邪魔され、後ろへと飛び距離を取る。
そのときにはすでに恭吾も体勢を整えていた。
「巧い」
「そちらこそ。柔の剣を見せながら剛の剣すら使う。それにあなたはどんな体勢からでも攻撃ができるのですか?」
「さて、な」
二人は……ただ笑うのみ。
試合でありながら、殺し合いに近い、そんな空間を愛おしむように。
恭也は二人の試合を、まるで一瞬も見逃すまいと瞬きすら忘れて見入っていた。
恭也が小夜音の相手をしていたならば、初撃でやられていたかもしれない。あの相手の剣勢を殺し、さらに利用する技法に翻弄され、終わりだ。
小夜音は強い。間違いなく今の恭也では勝てない。
それを悔しいとも思うが、この旅の中で恭也は数度敗北している。その悔しさと同じで、糧にするだけ。
もっともその恭也が負けた相手というのは、全員が何かしらの武術の達人クラスであり、恭也の数倍は生きた人物たちだ。そんな相手に、神速もなしにきちんとした試合ができているという時点で、恭也の方が異常なのだが。
だが小夜音は、その恭也が戦ってきた達人クラスたちの上をいっている。恭吾と同じくらいの年齢であるにも関わらずに、だ。やはりこれも異常なのだ。
その相手をしている恭吾は、小夜音を上回る技巧によって、さらにそれを利用する。だが、それだけではなく、そこに技巧ではない力すら加えていた。
それこそが最大の異常。
「本当に底が見えないな、兄さんは」
この旅の中で、さらにそれが良くわかった。
恭吾は、常に一緒にいる恭也にすら、手の内をほとんど見せていない。
だから正確には底が見えないのではなく、底を見せない。何もかも見せない。それが本当に徹底されている。
本気なのかどうかさえも、その表情から伺えないのだ。
恭吾は、年齢と技巧、経験、精神が比例していないのだ。恭吾本人は、それをイカサマと過去に言っていたことがあったが。
今も、恭吾が小夜音を上回っている。
小夜音レベルを相手に、一刀で相手にしている……というのは、実はまったくおかしくはない。恭也が相手にしていたとして、最初に二刀とも抜いていたとしても、初撃を捌けたならば、確実に一本を鞘に戻していた。
小夜音のような剣勢を殺ぎ、さらにそれを利用してくる相手に二刀で相手をするのは逆にやりづらい。だから恭吾はもう一刀を抜かない。それだけだ。
「とんでもないですわね」
再びの鍔迫り合い。
その中で、呆れたような、それでいて嬉しそうに小夜音が言った。
「外見からして私とそう歳が代わるものではないように見えますが」
「まあ、そう変わらんだろうな」
内心では元の時代……元の世界では、同い年だったのだが、と恭吾は呟く。
「まったく底が見えない。剣速も、技術も、経験も、全てで私は負けてしまっている」
「技術、経験はともかく、君の機動力とスピードを相手に、小回りや剣速で負けてしまえば何もできん。それに半ばイカサマだ」
「イカサマ?」
「気にするな」
くくっと恭吾は楽しそうに笑う。
今の状態で、小夜音が勝っているのは単純な速さと、機動力。それ以外の全ては恭吾が上回っていた。
それこそ化け物と言って良いほどの存在が、恭吾だ。底をまったく見せない。手加減はしていないが、それでもまだ表面的なものしか、彼はまだ見せていない。
そんな化け物を見て小夜音は笑う。
「まったく敵いませんわね」
そして笑いながら小夜音が言った瞬間、二人は同時に飛び退いて距離を取った。
「脅威は御神ではなくあなた。不破恭吾という人間にして真性の化け物」
「君ほどの者にそう言われるのは光栄と言っておこう」
笑みを消し、表情を消して言う恭吾。
褒め言葉ではないそれ。いつもならば、人間を捨てているとか、人外などと言われれば、それなりにへこむ恭吾だが、これだけの相手に言われれば、それはむしろ褒め言葉だ。
そんな恭吾になおも小夜音は笑みを向ける。
「ようやく出会えました」
「なに?」
なぜか妖艶に笑い、そして意味不明な言葉を紡ぐ小夜音に、恭吾は僅かに目を細めた。
「対等以上の存在に……真に全力になれる相手に」
妖艶に、艶(あで)やかに、艶(つや)やかに笑いながら、小夜音は突然に纏っていた血色のドレスに手をかけ、脱ぎ始めた。
それを驚いた表情で見る恭也。
訝しげに見る恭吾。
だが、二人に羞恥の色はない。
ただ何をする気だと。
「全力で……いかせていただきます」
そうして、小夜音のドレスが地へと落ちた。それと同時に服を脱いだだけではありえない、重く、鈍い音が響く。
その意味を恭吾と恭也は正しく理解した。
「服に……仕込んでいたか」
恭吾は半ば呆れた様子で笑った。
そうでありながらあれだけの機動性、スピードを誇っていた彼女には、恭吾とて脱帽するしかない。
レースの白い下着姿となった小夜音を見ても、恭吾と恭也は情欲などというものは浮かんでこなかった。
ただ、ただ、森の中で、月の光を浴びて立つ小夜音の姿が美しいと思うだけ……美しすぎて怖気が走るほどに。
「くくっ、俺を化け物と言うが、君とてそう変わらないだろう」
恭吾はやはり薄く、だが嬉しそうに笑いながら言う。
それにやはり小夜音は妖艶に笑う。
「化け物に対抗できるのは化け物のみ。そうは思いませんか?」
「違いない」
恭吾は笑って頷き、そしてもう一刀を抜く。
「君を相手には、二刀はやりづらそうなのだが、こうしなければ対応できなくなりそうだ」
そして、二人は構えた。
「参ります……!」
「来い……!」
瞬間、小夜音の姿が……消えた。
「……!」
だが、ほとんど反射的に恭吾は右を一閃。同時に鉄と鉄が打ち合う甲高い音が響く。
「しぃっ!」
恭吾はそのまま回し蹴りを……突然目の前に現れた小夜音に放つ。
だが、小夜音はすぐにバックステップでそれを躱し、距離を取る。
「縮地……」
一瞬で目の前に現れたそれは、そう呼ばれるもの。
神速ではない。
同じく、人に認識できないような高等技術。
「御神の神の如き速度に届きまして?」
「さてな」
恭吾は興味なさそうに言いながら、それでいてやはり笑っていた。
小夜音のその隠し球に、やはり脱帽する。
恭吾は再び小夜音の目の前へと飛び込む……がすでにその姿はない。そして、
「てぇっ!」
右側からの斬撃を、恭吾はやはり右の小太刀で受け止める。同時に左の小太刀を突き出すが、小夜音は右を弾き、その力を使って太刀を切り上げて突きを上へとさらに弾く。
小夜音はすぐに距離を取ろうとするが、恭吾はそれを許さず、上へと弾かれた小太刀をすぐさま叩き下ろした。
しかしそれさえも小夜音は躱し、一度離れ、距離を取ったと思わせた瞬間、再び恭吾の眼前へと現れる。機動をフェイントにし、小夜音は横薙の太刀を恭吾の腹へと向かわせた。
恭吾はそれを躱し、
「ふっ……!」
違う軌道で二本の小太刀を同時に振るう。
そこに小夜音の姿はなく、再び横からの斬撃。恭吾は身体を入れ替えて、それを真正面から受け止め、すぐに刃を引くと同時に距離を取った。
だが、小夜音は止まらない。
その機動力にものを言わせ、すぐさま恭吾の目の前に現れると、袈裟切りにする。
恭吾はそれを左で下へと弾き、右を切り上げるが、すぐさま戻ってきた小夜音の太刀が、それをいなす。そしてその力を利用して、そのまま太刀を跳ね上げ、恭吾の首へと刃を向かわせ、薙いだ。
それさえも恭吾は頭を横へとほんの少しだけ動かし、紙一重で躱してみせる。しかもそれと同時に左膝を小夜音の腹部へと向かわせる。だが彼女はそれを躱された太刀を下げ、柄の底で受け止め、さらにその力で後ろへと飛び、距離を取った。
小夜音は両手で太刀を構えたまま呆れたような表情を見せる。
しかし、恭吾も同じく呆れた表情を浮かべていた。
「躱すだけならばともかく、躱しながら攻撃、受けるだけならばともかく、防御と攻撃を同時になんて、どういう反射神経と身体の作りをしているのですか?」
「下がったと思ったらいきなり前へ、前にいたかと思えば横へ、そういう君はどういうスピードと機動力、敏捷性をしているんだ?」
小夜音が縮地を使ったのは最初のみ。それ以外は機動力で恭吾の斬撃を躱し、さらに翻弄していた。
だが、恭吾はそれにさえ反応する。さらに反応と同時に攻撃。
そう、これこそ本当の化け物同士の戦い。
その化け物同士の戦いを、やはり恭也は見続ける。まだ幼いこの少年は、あの戦いを本当に目で追っていた。見えていた。
それはつまり、彼も化け物の予備軍であるという証だ。
恭也の目の前で、二人は距離を取って、お互いを見合っていた。
しかし、唐突に恭吾がその構えをとき、両手をダラリと垂れ下げた。そして腰を低くする。
それに小夜音だけに限らず、見ていた恭也まで訝しげな表情をとった。とくに恭也は同じ御神流。御神流の中に、あんな構えがないことを知っていた。
武器を下げ、まるで攻撃してこいとばかりのその態勢。
挑発のようにも、誘いのようにも取れるその姿。
その思惑に乗り、小夜音は確かに動いた。
縮地にて、距離を一瞬にして無とする。機動力などを活かして戦っていた時と違い、その姿は端で見ている恭也の目ですら消えたようにしか見えなかった。
だが、
「なっ……!」
間合いを詰めたと同時に小夜音が放った上段からの斬撃を、しっかりと恭吾は右の小太刀を上げて、受け止めていた。
恭也にはわかる。あれは絶対に恭吾にも見えていなかった。小夜音の姿も、その剣も。だがそれでも彼はその剣を受け止めたのだ。
恭吾は小夜音の剣を力で押し返し、無理矢理彼女に元の距離を取らせた。
そしてまたも同じ体勢。また打って来いと。
再び小夜音の姿が消え、同時に甲高い音。
やはり見えないはずの小夜音の攻撃を、恭吾は受け止めていた。
見えているわけがない。なのに恭吾は確実に受け止めたのだ。
相手にしている小夜音も、見ている恭也も、驚愕のために目を見開き、ただ恭吾を見つめていた。
だが恭吾は、そんな二人の驚きを無視して、再び剣に力を入れ、小夜音自らに距離を取らせる。そして、やはりまたも同じように構えた。
「くっ……」
小夜音は唇を噛み締め、やはりもう一度縮地で攻める。だが恭吾はそれを受け止め、また距離を取らせた。
もう一度、もう一度、合計五回同じことが繰り返される。
縮地を使ったその攻撃を、恭吾は全て受け止めた。
「な、ぜ……」
五度目の縮地、五度目の斬撃を受け止められた状態で、小夜音は信じられないとばかりの声音で、恭吾に聞いた。
目に終えるものではないと、彼女自身がわかっているから。
それに恭吾は、小夜音の剣を受け止めたまま答える。
「確かに君の速度と縮地の加速は脅威だ。だが、その速度と加速故に一度止まらねば方向転換ができん。つまり一直線でしかこない。そして縮地は剣速まで上がるわけではない。それらを考えれば攻撃地点は半ば予測できる。あとは勘だ」
それはかつて恭也の神速を受け止めた時と同じような言葉。
「予測と勘だけに……あなたは予測と勘だけに全てを投げ出せるというのですか!?」
予測、それはあくまで予測であり、確実性に足るものではない。勘とて同じ。確実性などありはしない。
もちろん戦う者たちは、それを使い、そして感じる。戦う者であるからこそ、常人よりも強く。しかし理性がそれらだけに頼ることを許さない。
当たり前だ。不確かなものに頼るのがどれだけ危険なことなのかを、やはり戦う者たちが同時に一番良くわかっている。だからこそ、それだけに頼ることはできない。
だが、恭吾はその二つに命を預けるのだ。
それ故に、わざと無防備に身体を晒し、いつでも、どの軌道へでも対応できるように剣を垂れ下げる。
正気の沙汰ではない。
予測と勘、剣を動かすタイミング、身体の反応、それらが少しでも、どれか一つだけでも外れれば、遅れれば、乱れれば、その時点で恭吾は斬られる。
「実戦と修練の末に磨き抜いた観察力からくる予測と勘。それが外れるというのならば、それは俺が未熟であったが故。経験と修練が足りなかった。それだけだ」
「ならば!」
小夜音は恭吾から再び離れ、敏捷性と縮地を織り交ぜ走り回り始めた。
いくら直線にしか動けなくとも、何度も動けばそれは追いきれるものではない。この動きで攪乱ができる。
実際に端で見ていた恭也の目では彼女の姿を追いきれない。方向転換の時だけその姿を捉えることができたが、右に現れたかと思えば後ろに、前に現れたかと思えば左へ、これでは予測のたてようがないように思えた。
だが、恭也は何の心配もしていなかった。
兄が負ける訳がないということを理解しているから。
恭吾はそれを眺めながらも、おそらくはそろそろ攻撃が来ると予測する。そして勘が攻撃が来ると伝えてきていた。
「そして俺たち御神には、最速の由縁たる奥義がある」
そう呟き、恭吾は神速を発動させた。
モノクロになる世界。
本来の時間から切り離された世界。
その中で小夜音を見つけた。
神速の中でもその速度は恭吾が動いた時に近い。
彼女は剣の切っ先を恭吾に向け、すでに攻撃態勢に入っていた。
予測がしづらく、防ぎづらい突き。そして突進であるがために剣速は関係ない。
いい判断だと思いながらも、恭吾は重い空気を巧みに掻き分けながら横に動いて小夜音の突きの射程から飛び出ると、そのまま直進して彼女の横を通り抜ける。そして反転。
恭吾が神速を解いた瞬間、小夜音の剣は彼がいなくなった空間を突いた。
「なっ!」
小夜音は恭吾と似たような速度で動きながらも、彼の動きが捉えられなかったのだ。
当然だ。
縮地とはあくまで高速の歩法術。神速も同じではあるが、効果がもう一つある。感覚時間の引き延ばしによって相手を見切ることができるのだ。
恭吾はそのまま剣を後ろから突き出し、小夜音の首に当てる。
「俺の勝ちだ」
背後から現れた剣と、聞こえた言葉に小夜音は目を見開く。
「これが……最速の御神の剣ですか」
「ああ」
ため息を吐き、それでも小夜音は口を開く。
「一つ聞かせてくださいませんか」
「何だ?」
「縮地はその加速故に方向転回が難しい。それは恭吾さんが仰る通りですわ。ですが私よりも上の速度、同じような加速でありながら、あなたはそれをした。私の背後に回ったということはそれができなくてはならないはず」
「御神の奥義は縮地ではないのでな」
なぜ方向転換ができるのか。
それはやはり感覚時間の引き延ばしがあるからである。
縮地はその一瞬の加速故に向きを変えようと決め、それを実行した際には、すでに大きく動いた後になってしまう。さらに人間は方向を変える際には一時的にしろ速度が下がる。それ故に、先ほども小夜音の姿を所々で捉えることができた。
だが、神速は感覚時間が引き延ばされ、自身の動きすらも遅く感じるようになる。
体感としては、早く動いているわけではなく、むしろ遅くなっているのだ。そのため細かい方向転換すら可能にする。もっともそれができるからこそ身体や身体の内部への負荷が半端ではないのだが。
そして、縮地は身体の力の流れを制御し、速度を最初からトップスピードに持っていくための、あくまでブースターにすぎない。つまりは速く『走る』ための技術。
対して神速は身体のリミッターを解いて『移動』する技術。ブースターこそないが、リミッターから解放された筋力によって、加速自体も縮地と似たようなものになる。
この一瞬の加速故に二つの技は消えたように見えるわけだが、身体のリミッターが解けているからこそ、神速の汎用性は縮地の比ではない。
速く『走る』ための技術と速く『移動する』ための技術では戦闘での意味が大きく変わってしまう。
もちろんどちらも戦い方、使い方次第であって、どちらが便利という話ではない。今回はたまたま神速が上にいったというだけでしかない。
「いえ、申し訳在りません。他流に奥義を易々と教えるわけにはまいりませんわね」
「すまんな」
「いえ、本当に完敗いたしました」
そう言って、小夜音はもう一度ため息を吐き、だがどこか清々しそうに笑った。
恭吾と恭也は、再び真っ赤なドレスを纏った小夜音の背を見送る。
ちなみに彼女が着替える間、二人ともきっちりと他の場所へと移動した。その前の、小夜音の戦いへの興奮が静まり、冷静になって自分の姿を見たときに、顔を真っ赤にしていたのが印象的だった。
小夜音の後ろ姿は、負けたにも関わらず、むしろ活力に溢れているように見える。
そして、その背が二人の視線から見えなくなった。
「兄さん、なんで暗器と地形を使わなかったんだ?」
小夜音の背を見送ったあと、恭也が恭吾の顔を見上げ、唐突に聞いた。
「殺し合いではないからな。単純に剣士として戦っただけだ」
実際、森という地形や暗器を使えば、もっと戦いやすかっただろう。だが今回は殺し合いではないのだから、恭吾はそれらを使わず、剣のみで戦った。
剣を交えることに意味があった。
しかし、恭也はどこか呆れたような表情を浮かべる。
「だが、小夜音さん最後の方はほとんど殺す気だったような気がするが」
「……まあな」
少しでも間違っていれば、確実の恭吾は大怪我、もしくは死んでいた。それがわかるだけに、恭吾自身も軽くため息を吐く。
「特に最後の突き、躱せなかったら確実に死んでたぞ」
「……神速を使ったな」
小夜音が放った最後の突き。縮地の中にあったそれは、恭也では見えるはずがない。つまり神速を使って見たということだ。
それを恭也は否定しない。
「使わなければ見えないのだから仕方ないだろう。今後のためにも見ておきたかった」
「……まあ動いたわけではないからいいが」
「身体は痛くないが頭が痛い」
「だろうな」
身体を動かさなければ、身体への負荷はほとんどないが、脳への負荷は変わらない。
恭吾も飛針を正確に狙うときなど、身体はほとんど使わずに、見るために神速を使うことがあるので、その痛みは良くわかる。
「俺では縮地を使われたら確実にやられていた」
恭也の場合は、全力にならせること自体、まだできそうにないが。
「俺とて同じだ」
「そうは見えなかったが?」
実際に最初を抜かせば、五回も縮地を使った小夜音の斬撃を、恭吾は真正面から受け止めている。
それを見ていた恭也には、恭吾の言うことが信じられない。
「最初のは本当に反射だが、受け止めはじめてからのは、五回で終わったからだ。おそらくあと一回か二回が限界だった」
「兄さん、まさか」
その言葉で、恭也は恭吾の言いたいことを理解した。
「ああ、三回は確かに予測と勘で受けたが、二回は動きはしなかったものの、お前と同じく見切るために神速を使った」
「……神速なしで三回できただけでも俺からすればとんでもない」
予測と勘、反応速度だけであの縮地を受け止めるのは、やはり化け物としか言い様がないことだ。
恭也もいずれそうなりたいと思うものの、まだまだ道は険しいそうだ。
「運もあったさ。それに彼女が縮地ではなく、持ち前の機動力や敏捷性で戦ってきたなら、こうも簡単にはいかなかった」
小夜音は縮地など頼らずに、その機動力や敏捷性で戦うべきだったのだ。
縮地と機動力、敏捷性を織り交ぜてきたなら、こんな簡単にはいかなかった。例えば最後の攪乱した動きのようなことを程良く使っていたなら、縮地よりも機動力や敏捷性の方を活かしていたなら、恭吾の方が負けていたかもしれない。
単純に、彼女は戦い方を見誤ったのだ。
いや、正確には見誤ったのではなく、恭吾によって仕向けられた。
「むしろ縮地を使わせたのか?」
「そうだ」
つまる所、恭吾は縮地を真正面から破ることによって、小夜音の思考を狂わせたのだ。縮地では敵わないと見せ、だがそのプライドを同時に突き、縮地で倒すことを意識させたにすぎない。
さらに言ってしまえば剣を下げたのも、攻撃場所を胸より上に限定させるためだ。
それを説明せずとも理解した恭也は、なるほどと頷き、もう一度小夜音が消えていった方向を眺める。
「結局試合をしに来ただけなのか、他に何か用があったのかわからなかったが、また兄さんに挑戦してくるぞ」
小夜音は最後にこう残していった。
『いずれ、必ず追いついてみせますわ。そのときはもう一度お相手してください。そしてそのときは……』
小夜音ならば、すでに二人が本来どこに住んでいるかまで割り出しているだろう。
そして、いずれは高町家に訪れ、挑戦してくるに違いない。そのときは、の続きが少し気になるものの、恭吾はその挑戦を受けるだろう。
「そのときまでに、お前も彼女に対抗できるようになれ。次は彼女に頼んでお前とも戦ってもらう」
「ああ」
二人は今一度、小夜音が消えていった方向を眺め、少しだけ笑みをみせたあと、身体を休めるために、この街での寝床へと戻っていった。
二人の修行の旅はまだまだ続く。
今日のことは、その中の一つの出来事にすぎない。
あとがき
あ、あはは、すいません。次は一年後のはずだったのですが、なかなか進まず、こちらが先になりました。こっちは短編連作風です。
エリス「一応、武者修行編になります。今回は終末少女幻想アリスマチックの月瀬小夜音さんが登場しました」
初っぱなから恭也の相手ではなく、恭吾の相手に。
エリス「うーん、なんか恭吾が圧倒的?」
ほらアリスマチック本編では、蔵人が小夜音を目指すって感じだったから、こっちでは逆にしてみたんだ。まあ、戦闘に関しては(も?)、アリスマチックは現実的でシビアな所と、滅茶苦茶な所が同時にあるから、とらハに合わせるのに苦労した。
エリス「小夜音が打倒恭吾みたいな感じにしたわけだ」
そう。もっとも恭吾は余裕そうに見せてるだけだったりするけど。
それでこれから解説です。今回は本当に長いので、興味がある人と今回の戦闘に納得がいかない人以外はスルーした方がいいかもしれません。
エリス「作中で説明しろ」
いや、入れると変になるから無理。
で、まず縮地に関して。今回小夜音が使っている縮地は漫画的な縮地。神速も似たようなものだけど。
エリス「漫画的って」
本来、縮地は歩法術とかではない。まあこの話でもあくまでブースターだけど。漫画の縮地みたいなのは、だいたいがすでにブースターですらない高速移動術と化してるから。普通そこまで汎用性あるわけないんだよね。まあ、物語やバトルを面白くするためなのだから全然いいだろうけど。アリスマチック本編でいう縮地は間違いなくこれらではありません。
エリス「そうなの?」
縮地は色々説があるんだけど、たぶんアリスマチック本編で小夜音が使ってる縮地は、体捌き……つまりフェイントのようなもので速く動いているように錯覚させているか、一瞬で間合いを詰める技法で速く動いているように見せているか、もしくはそれの複合あたりだと思う。さらにそこに小夜音自身の異常な機動性があってこその技。実際そんな説明が本編にあるからね。どっちにしろ高速歩法術でも移動術でもない。どのやり方にしても、説明が長くなるので省くけど。
エリス「なんで本編と違う縮地にしたの?」
フェイントとかだと、貫っていう見切りの極地がある御神流はすぐ対応しちゃいそうだというのと、一番書く上で簡単な上、こっちの方がわかりやすいだろうと思ったため。というわけでこの縮地にした。以後の説明はその縮地に対するものだと思って。
エリス「了解」
んで、実際、神速って速さに注目がいきがちだけど、その感覚速度の引き延ばしの方が遙かに脅威だと思うだよね。
エリス「相手がスローモーションなんだから、よく見えるね。まあ自分の動きも少し遅くなるから対応できるかはまた違う話になるだろうけど」
そんな感じ。単純に速いだけの技術じゃ神速には敵わない。さらに神速は高速で『動く』のに対して、縮地は『走る』感じだからね。走るって言うのも厳密には違うけど。ただまあ、動くと走るだともうまったく戦う上では違うから。
エリス「そんなに違う?」
例えば全力疾走していたとして、いきなり何かが飛び出てきたからって横に移動できる?
エリス「あー難しいかな。それができたら色々な事故が減っていいけど」
それに走っているときに横に行くという行為は、それは跳ぶになってしまう。走るという行為は身体が正面を向いていないとできない。つまり直線でしかできない。走りながら速度を落とさずに直角に曲がるのはほぼ不可能。
たとえばこれを神速でやったなら、感覚速度の引き延ばしで障害物を早めに察知して急停止するか、リミッター外してるから横に跳んだとしてもかなりの距離と速度で飛べる。精密に動けるし、躱すことも不可能ではないと思う。その分負荷がかかるけど。
エリス「一部は今回の話の中に説明あったね」
こう書くと神速がどれだけとんでもないものかわかると思うけど。
剣の腕自体でも、小夜音よりも長い間鍛錬を続け、実戦を多く経験してる恭吾の方がやっぱり上。少なくともこの時代では十年近く分。
エリス「でもほら、いつも重いものをつけて……」
結局あれは筋力とかの鍛錬にしかならない。ほとんど枷みたいなものだし。ずっとあのドレス着てたらバランスがおかしくなりそうな気がする。
エリス「じゃあ逆に神速の対処方は?」
神速を使わせないうちに倒す。
エリス「それは誰でも一緒なんじゃ」
ま、そだね。でも縮地は何度でも使える。対して神速は体力消費と身体の損耗が酷いし、使える時間も少ない。そのへんもまあ突き所ではあるな。ただやっぱり捉えきれないからなぁ、恭吾みたいに予測をたてればなんとかなるかな。もしくは直線でしか動けない場所に誘う。接近されてメッタ斬りにされたら終わりだけど。
OVAに出てきた剣士のように勘と反応速度を極限にまで鍛えるというのも。今回恭吾が縮地に対応できたのはこれもある。勘に全てを託し、見えていなくとも身体に反応させる……これもまあ生半可な反復練習と経験じゃできない。
エリス「難しいね」
まあね。実際、一対一の戦いなら神速を最初から使えばほとんどそれで終わりだからなぁ。恭吾の場合は膝があるから簡単に使えないけど。まあ恭也たちも一緒で、ある意味諸刃の剣ではある。縮地もいきなり使えば勝てるだろうけど。
エリス「出し惜しみしなければね、神速と縮地はとんでもないってことか」
これは自分の考えだから、他の人たちはもっと違う意見があるでしょうが。実際、この縮地にしろ他の縮地にしろ、戦術次第では神速と十分タメを張ると思います。神速にしろ、縮地にしろ、それだけに頼ったらダメってことかな。
エリス「今回、恭吾は小夜音の心理もついたからねぇ。微妙に姑息な気もするけど」
まあ、今回はいずれ小夜音にリベンジしてもらうということで、こんな感じになった。ちなみにこの話だと、小夜音の病気設定はありませんので。
エリス「とまあ、今回は長くなりましたがこのへんで」
次は本編を進め……られるといいなぁ。まったく方言がわからなくて難航してます。武者修行編も次は何とクロスして、誰と戦わせようか……。
武者修行編。
美姫 「最初の相手は小夜音ね」
見ごたえのあるバトルだった。
美姫 「小夜音の速さは充分に脅威だものね」
だな。そこに縮地まで加わり。
美姫 「戦術ミスというか、恭吾の策略というか」
結果は恭吾の勝ちと。いやー、面白かったです。
美姫 「本編で押しかけてきたりするのかしら」
どうなんだろう。それはそれで面白そうだけれど……。
美姫 「次回は誰が出てくるのかしらね」
本編も、この武者修行編も楽しみにしてます。
美姫 「待ってますね〜」
ではでは。