第十八話 二度目の五月の雪





彼/彼女は常に独りだった。
彼/彼女は常に一個だった。
彼/彼女は常に一匹だった。
彼/彼女は常に一体だった。
彼/彼女は常に自分以外を知らなかった。
なぜなら彼/彼女は、一人の、一個の、一匹の、一体、種族でしかなかったから。
同じ生物はいない。分かり合える者はいない。
故に一人。
何より彼/彼女はこの世の生物としては強すぎた。
彼/彼女に比肩し得る存在はいなかった。
鬼や天狗等の妖として高位の存在でさえ、彼/彼女の前では無力。
彼/彼女は最早天災。
それが超常の存在であれ、天災にただの生物が敵うわけもない。
故にこそ彼/彼女は、独りであり、一個であり、一匹であり、一体。
誰も彼/彼女を理解できず、彼/彼女も他を理解できない。
そうして存在し続けて幾星霜。
彼らは……否、彼は現れた。
彼/彼女を滅ぼす一団の一人として現れた。
理解はできぬが故に、数多くの生物を滅ぼしてきた彼/彼女。
そのため、彼/彼女を滅ぼそうとする者は後を絶たない。
人間が、鬼が、天狗が……あらゆる生物が、彼/彼女は危険だと襲い掛かり、だが彼/彼女の吐息一つで、死に絶える程に弱い『物』。
彼/彼女にとって、自分以外の全てはその程度の扱い。
人間が邪魔だからと蚊を、蝿を叩き潰すことと大差はない。
だが、彼は違った。
十数人の仲間を引き連れ現れた彼は……決して強くはなかった。人間という『物』の中では強いのかもしれないが、彼/彼女にとっては、羽虫も同然。
彼/彼女は、彼よりも強い存在が数多く出会っていた。
彼もまた吐息一つで滅ぼせるか弱い存在。
だが、彼は何度でも立ち上がる。
どれだけ彼/彼女が吐息で吹き飛ばそうと、どれだけその肉体を傷付けられようと、何度となく立ち上がってみせたのだ。
五つある武器が一つずつ砕けても、決して諦めず、彼/彼女へと向かっていく。
それを見た彼/彼女が、そのとき浮かべたのは、恐らくは歓喜だったのだろう。
決して彼/彼女と力が対等なわけではない。その気になれば彼/彼女は一瞬で彼を滅ぼすことが可能だった。
しかし、彼はそれでもそのとき対等であった。
諦めずに彼/彼女へと向かう彼は、つまりその行動で彼/彼女を認めたのだ。
天災である彼/彼女を認め、必要とし、近付こうとしていた。
故にこそ、彼/彼女は歓喜した。
ようやく彼/彼女は出会ったのだ。
力ではない。能力ではない。種族の違いではない。
存在を引き寄せ合う対等の存在に、彼/彼女は出会った。



◇◇◇



恭吾は、呆然と、ただ呆然と高町家の庭に立ち、空を眺めていた。
空は灰色に濁り……だが、その灰色から、白き結晶が舞い落ちる。
その光景は、確かに美しいものだった。

「雪だ」

恭吾の隣りに立つ、恭也は恭吾のように呆然とはしていないものの、驚きの声を上げていた。
その後ろで、美由希と、その美由希に抱えられたなのはが、嬉しげに声を上げる。

「なのは、雪だよー」
「ゆきー」

この海鳴は比較的温暖な気候であるため、あまり雪は降らない。そのためなのはが初めて見る雪。
だからこそ、美由希となのはは天上より振る雪を見て、無邪気にはしゃいでいた。

「ばか……な」

しかし、恭吾はそんな三人のことを気にせず、未だ呆然としていた。
もう五月もあと数日で終わる。
先ほども言ったが、海鳴にはあまり雪は降らない。
それもこんな季節はずれに。
だが、恭吾がここまでこの雪を見て驚愕していたのは、そんなことが理由なのではない。

「……早すぎる」

今この時は、すでに恭吾が過去に通り過ぎた日。
さすがに全ての天候など覚えていなかった。
何か記憶に残る行動をしたときや、出来事に付随するように、この日は晴れだった、雨だったぐらい覚えてはいても、それでも全てを覚えていたわけではない。
天候が同じかを知るには、その行動がいつに行われたのかも覚えていなくてはならなかった。
だが、これは覚えている。
季節外れに降り積もった雪。
季節外れのことであったからこそ、よく覚えていた。
だが、

「二年……も」

それが二年早い。
確かに全ての天候など覚えていない。だが、覚えている限りは全て同じだったはず。
歴史も変わらない。
例えば、恭吾の過去に見た大きな事件。
それらは、恭吾が覚えている限りの全てが今まで起こった。
この世界と恭吾が体験した世界に、恐らく違いはないのだ。それはやはり恐らくになるが、天候さえも。
しかし、一つだけ歴史が変わる条件が一つだけある。

「ありえない……」

例えば、恭也が膝の怪我をしていない。
例えば、美由希の師が恭也ではない。
例えば、天威瑠璃という存在。
例えば、恭也がすでにさざなみ寮の一部の寮生と出会っていること。

つまり、歴史の変化は……恭吾と関わった事象だけだ。
だからこそありえない。
恭吾の存在が、天候を変えたというのか?
それとも恭吾の存在をなしに、この世界は変化するというのかだろうか。
ありえるとすれば、後者だ。
前者は決してありえない。
確かに時を越えるという、不可能であることさえ、可能とした。
だが、その肉体以外の特別な力などない。その自分が天候を変えるなど不可能だ。
そう。これは自分がいた時代(世界)とこの時代(世界)が=ではないことの証明。
前提を覆すことになるが、恭吾が関わらずとも歴史が変わったのは初めてではない。
例えば武者修行で出会った月瀬小夜音の年齢が違うという変化があったように、他の人の年齢が微妙に違うということが多々あった。
しかし、なぜかそれらに対しての変化がほぼない。年齢が変わるということは、それに付随するように経験も変化し、事象もまた変化するはずなのだが、その変化が異様なほどない。
月瀬小夜音で言えば、年齢が少し上になっている。それはつまり月瀬の総帥になる年が早まるということだ。そうなれば、小夜音は当然として、先代の総帥と、その下の者の行動もまた変わるはずなのだが、それに変化がないように思える。
また恭也も、なぜか『高町恭也』であるはずの恭吾と違い、高い霊力を持っているらしい。しかし、それが歴史に対し、何かしらの影響を与えることは今はない。
つまり人に対する変化こそあるが、その人の変化が、歴史に影響を与えないのだ。
だからこそ、これもその一つ。
それらと同じように、天候にもここだけの変化が現れた。その程度のこと。
……そのはずなのだ。
しかし、の胸から湧き出る否定の声は何なのだ。
そして、

『…………』

先ほどから聞こえてくるこの言葉にならない声は。
声はただ恭吾を呼ぶ。
ただただ、共感と羨望と渇望と希望を込めて恭吾を呼んでいた。

「ああ、そう喚きたてるな」

恭吾は、自分の頭に響く声に、嘆息しながらも言ってやる。
続いて響くのは歓喜。
もう一度嘆息し、恭吾は恭也たち三人へと向き直る。

「なのはを頼む。俺は少々出かけてくる」
「え? でも雪が降ってるよ」

小首を傾げ、美由希は言うが、恭吾は問題ないと返した。
何かあったら、すぐに翠屋にいってかーさんの側にいろと残し、恭吾は高町家の外に出る。
するとそれを追いかけるように恭也も出てきた。

「恭也、お前は美由希たちの……」
「待ってくれ。兄さん、この声のところに行くのだろう?」

恭也の言葉に、恭吾は僅かに眉を寄せて驚きを浮かべた。

「お前も聞こえるのか」
「ああ。雪が降り出してからうるさいぐらいにな」
「そうか」

美由希となのはの護衛に残すべきとも思うが、しかし恭也も連れていかなければならいという思いも浮かぶ。
結論はすぐに出た。

「何かあればすぐに美由希たちの所に戻れ。美由希たちを守るために」
「ああ」

それに否はなく、恭也は躊躇いなく頷く。
それから特に言葉もなく、二人は歩きだした。
両者ともに、出る前に着込んだジャケットの下に、小太刀を隠し持っている。
これが必要になるようなことにならなければいいのだが、とお互い内心で考えていた。



◇◇◇



恭吾と恭也、二人の足は示しを合わせるように同一の方向へと向かっていた。
それはつい最近訪れたさざなみ女子寮がある国守山。
一口に国守山と言ってもかなり広い。展望台があり、その先の林道を抜けた場所にさざなみ女子寮があるのだか、観光地にもなっていて、別荘なども林道近くに建ち並ぶ。
しかし、二人は林道を使わず、真っ直ぐに木々を、草花を、藪をかき分けて山を突き進んでいた。
雪は積もりはじめ、あたりを銀世界に変え始めているが、その雪に足が取られることもない。

「この先は……」
「確か湖があったな」

恭也の言葉の先を恭吾が続ける。
この先にあるのは、湖だ。本来ならはボートでも貸し出して観光地の一つになってもいい場所なのだが、あまり人がこない場所のはず。
二人の足は、そこに向かっている。
そこから二人を呼ぶ声がする。
二人はさらに速度を上げ……ようとしたとき、恭吾が腕を上げ、恭也の進行を止めた。
それから恭也もその意味を悟る。

「誰だ?」

二人の先には人影があった。
恭也は静かに呟くが、眉の力がこもっている。それは恭吾も同じだった。
目の前の人影は、気配が微妙におかしい。

「人……なのか?」

恭也がそう呟いてしまうのは無理もない。
その気配は、どこか七瀬にも似ていて、また違う。恭吾はすでに知り、恭也はまだ知らない人間とは違う気配だ。
それは言ってしまえば白。
あたりを染め、今も降りしきる純白である雪と同じ色。
白い帽子。白い服。そして白い肌を持つ少女だった。
恭吾よりも僅かに幼く見え、腰までかかる長い髪を揺らしている。

「あ……」

少女もようやく恭吾と恭也に気づいたのか、驚きに目を見開いた。
いや、その驚き方は……

(なんだ)

その驚きは人がいたことにではないように見える。
恭也は油断なく、手を懐に入れ、恭吾は普段変わらないように見えるが、両手の指の第一関節と第二関節を曲げ、まるで猫の手にも見える拳を作っていた。
普段とまるで変わりない仕草に見えるが、二人はその気になれば、一瞬で目の前の少女を殺すことができてしまうだろう。
だが、今度は二人の顔が驚愕に歪む。

「なあ、兄さん、俺の目はおかくしなったのだろうか?」
「いや、恐らく俺も似たようなものが見えている」

二人の視線は、少女の横にずれていた。
少女の横に浮かぶ、ウサギほどの大きさの物体に目がいってしまう。
そこに浮かぶのは、ファンシーだった。メルヘンだった。もしくはファンタジーだった。
男気溢れる二人には、どうしても視線を向けたくない人形のような物体。
ウサギにも見えるが、しかしあれをウサギと言っては、ウサギに申し訳がない。
丸っこい体に、申し訳程度につく四本の足。耳なのか羽なのかわからないものが、丸い体の頭のてっぺんから垂れ下がっている。
人形と言われれば信じてしまうようなその体型の未知の動物は、きゅーきゅーと鳴きながら少女の横に浮いていた。

「浮いてるぞ」
「浮いてるな」

垂れ下がる耳なのか羽なのかわからないものをパタパタと動かして、なんでそんな力で浮けるんだと突っ込んでしまいたくなるほど、不条理に浮いている。
できれば目を反らしたい。
なのはや美由希ならば大喜びしそうだが、二人にとっては正視し続けるが辛い。
二人は極力それを見ないようにして、少女へと視線を戻す。

「骸様……!」

する少女は顔を歪め、目に雫を溜めていた。
その表情は歓喜だろうか。
絶望の中で希望を見つけたかのような、喜びを顔全体に浮かべている。
少女は、二人の前に進んだ。
それに恭吾と恭也は、警戒を緩めず見つめる。
二人が警戒していることに、彼女は気づいているだろう。だが、深く深く頭を下げた。
それは無防備な姿。
頭を下げるという行為は、相手に頭を晒すということであり、それはつまり相手に頭を攻撃されてでも、もしくは無防備を晒すことで攻撃の意思はないと示し、相手からの信頼を得たいという意味だ。
言葉通りではなく、行為で正に信頼を得ようとしている姿。

「お待ちして……おりました……!」

そして、少女は万感の思いが込めるかのように、力強く二人にそう言ったのだった。



◇◇◇



ざから。
座空。
空に座り、空を支配せし者。
真の意味で魔であるものなのか、それとも神に連なるものか。
少なくとも、多く食らわれ、滅ぼされた人々にとっては、魔物以外に他ならない。
しかし、その魔物に挑みし者は、誰一人として帰ってくることはなかった。
そこに一人の男が現れる。
骸。彼はそう名乗った。
骸は五本の剣を携え、多くの仲間と、一人の人以外の少女を引きつれ、魔物へと挑む。
戦いは苛烈を極め、多くの仲間を失い、だが男は最後まで残った剣を魔物の額に突き刺した。
そして、人ではない少女が魔物の封印に成功したのであった。



それは言ってしまえばおとぎ話。
たった数行の言葉で語れてしまう程度の昔話。
英雄譚にしては知る者は居らず、朽ちかけて、消えかけていた物語。

「…………」

恭吾と恭也は、少女が語る物語を、腕を組んで聞いていた。
恭也は、僅かに眉を寄せている。
しかし、恭吾は一通りを聞き終えると、腕を崩した。

「ふむ。つまりその魔物というのが、この雪を降らしている、と?」

いきなり自分たちの前に、今にも瞼に溜めていた涙を流しそうなほどの歓喜を示し、また深く頭を下げてきた少女が、人ではないということは、なんとなくわかっていた。
そのため、この雪は彼女の仕業ではないかと、恭吾が言葉の裏に乗せて問いつめると、あのような物語が返ってきたのだ。
そして恐らくになるが、彼女は嘘を言っていない。

「いえ、正確には、ざからの封印が解けたために、その残照が降り注いでいるのです」
「……すまないが、退魔士ではないのでな。封印などは理解の外だ」
「術士では、あられないのですか?」
「違う。むしろそのへんの力は、俺は一般人よりもない」

七瀬によると、恭吾は霊力技がかすっただけで死ぬかもしれないほどにない。
逆に恭也は一般人よりも遙かにあるらしいが。
ある程度、それを話そうとしたとき……

「下がれっ……!」

恭吾は、前にいた少女の肩を掴み、自身に後ろに下がらせる。そして、雪が降り、気温が下がったため、厚着でも問題がないと着込んだジャケットの裏から、背負いで隠していた小太刀を抜刀。
同時に、恭吾たちの前に、何かが殺到してきた。
それはまるで幾本もの木の根にも見え、空間を引き裂くように、宙を蠢き、恭吾たちに向かう。
木の根のようにも見えるが、幾重にも絡まり、太さは数十p。長さは十数メートル。その先端は尖っており、宙を駆けるスピードも速く、そのままであれば串刺しにされ、風穴が空くのは確定だ。
しかし、それを許す恭吾ではない。
恭也でも、また人ではない少女でも、霞むようにしか視認することができない速度で、恭吾の両腕が激しく動く。
放たれる幾重もの銀閃は、根と同じく空間を押し潰すように埋め尽くした。
根は、銀の閃きと交差すると、まず太さがあるはずの中央を縦に引き裂かれ、その後千切れ飛ぶように断ち切られていく。
銀閃も、根も止まらない。根は三人を串刺しにするため進行を止めず、銀閃はその進行を止めるため止むことはなく、長い根を斬り飛ばし続けた。

「虎乱……」

恭也は、その銀閃を見て呟く。まだ恭也が教わっていない奥義の二。
かつても父である士郎が、これを放った所を見たことがあるが、ここまで長く振るい続けた……できないのではなく、正確には人間が相手ならば振り続ける意味がない……ことはなかった。
恭也はそれを眺めながらも、恭吾と同じく背負いで隠していた小太刀を抜刀する。
まだ虎乱を使うことができない恭也は、斬を込めた斬撃を幾重にも放ち、根を斬り飛ばしていく。
それは見様見真似ではあるが、恭吾の虎乱に酷似していた。
が、

「阿呆、見てくれは形になってるようにも見えるが、それはただの連撃だ。虎乱は出鱈目に放てばいいというものではない。なぜ足を地に着けて放つのか、よく考えろ。それと虎乱は基礎の複合だ」

こんなときにも関わらず、恭吾は指導を入れる。

「地に足をつけ……?」

本来は、いくら技を放つと言っても、足を止めて放つことなどそうそうない。止まれば相手に間合いを詰められてしまうし、足を根付かせてしまうと、咄嗟のときに動くことができなくなる。
しかし恭吾は足を止め、地につけてその場で放っていた。

「そうか……!」

恭也が解答を見つけた瞬間、たわみながらも迫ってくる根。それは恭也の眉間に目がけて飛来する。
根の先端が、恭也の額どころか顔に突き刺さる、そう思われた瞬間、恭也の目が見開かれ、一筋の剣閃が宙に浮かんだ。
その一閃により、やはり直径十数センチの太さを持つ根を、まるで丸太の中央を縦に真二つにするように、縦へと切り裂き、飛来してきた勢いをそのまま返し、数メートル先、全長の約半分を斬り込んで突進を止める。
同時に恭也は、左の八景を閃かせ、止まった根を次々に斬り刻んでいった。

「カウンター」

それが足を止める理由。
自ら行くのでは、相手に来させる。
相手の勢いが乗った攻撃を斬か徹のカウンターにより、武器を弾き飛ばし、または仰け反らせ、回避不能な複数の斬撃で斬り刻む。
それこそが虎乱なのだろう。

「やはり形だけだな」

根を斬り飛ばし続けながら、恭吾は嘆息混じりで言った。

「う……」

間違っていたのかと、恭也は少し唸った。

「それで合っている……が、今度は連撃の繋ぎが甘い。それにカウンターで十メートルも斬った時点で、相手の勢いに押されすぎている証拠だ。一撃目は相手の体勢を崩せればそれでいいんだ。その後も連撃というよりも、複数回振っただけという感じだった。それと本来それは一刀だけを使う。
まあ、今回はこんなものが相手だから仕方がないかもしれないがな。後で型は教える」
「わかった」

そんな言い合いをしているうちにも、二人は斬撃を繰り返し、いつのまにか根は全て斬り刻まれてしまった。
二人はしばらく警戒を続けるが、追撃はない。

「術を使えずとも……剣技だけなら……骸様よりも……」

二人と根の攻防を見続けた少女は、目を見開きながらも、呆然と声を上げた。
それに恭吾は、ほんの少し喉を鳴らして笑う。

「骸というのが退魔師だというのなら、剣で負けては、俺たちの存在に意味などない」

剣の道とは険しく遠い。退魔の技の余技で極められるほど、浅いものではない。
今ならば、未来の薫相手と言えど、剣の腕だけで勝負すれば恭吾もそう簡単負けることはないだろう。
彼らが退魔の技の修得に時間をかける間に、恭吾たちの剣の道を行っているのだ。それで抜かされては、才能云々以前に剣を極める意味などなくなる。
さらに言えば時代も違う。次代に受け継がれていく武術は、百年経てば、百年分洗練される。
単純に技術云々等は、後世の者たちの方が優れていく。もちろんそれが=強いということでもないが。

「今のは、そのざからというものの一部、なのか? それとも……」
「あれは、ざからの術です」
「根を操る術、か。山か森の神に近いのか? いや、空に座すものだったな。で、あるならば違うのか」
「かつてざからが喰らった者が持っていた力と思われます」
「……喰らったものの能力を奪うとでも?」
「妖【あやかし】とはそういうものなのです。能力を得るか、それとも力そのものを得るかは、喰らったものによるでしょうが」

恭吾が知る妖怪に、そんなことができたかはわからない。

「それは君に当てはまるのか? 君も妖だな?」
「妖……妖怪?」

少女を指し、妖だと言う恭吾に、言葉は恭也が軽く目を見開いた。
それは基本的にあまり表情を変えない恭也……恭吾も……ができる最大限の驚きを表している。

「話したはずだ。この世には、超常の存在もいると。あの根を見たんだ、今更疑う意味はあるまい?」
「まあ、それは」

宙に浮かぶ巨大な根。
恭也が初めて……正確には初めてではないが、覚えていない……見た超常現象だ。あれを見ては、信じる以外に他はない。
柔軟に受け止めた恭也を眺めていた恭吾は、再び少女に視線を向けた。

「それで君は」
「申し遅れました。私は雪……人間の方々が雪女と称する妖です」
「ふむ、俺は不破恭吾という」
「高町……恭也です」

それぞれ自己紹介をして、恭吾はふと空を見上げた。
相変わらず灰色の空からは、白く淡い結晶が降り続けている。

「雪女……ということは、これは君が? いや、封印と言っていたか、その結界と関係があるのか?」
「先ほどの話に出てきた人ではない少女の封印というのに関係があるんじゃないか?」
「恭也様の言う通りです」
「様……はやめてほしいのですが」

いきなりの様付けに、恭也は顔を僅かに顰める。
しかし、その意見を雪は丁重に断り、敬語も止めてほしいと告げた。
なぜだ、と恭也はさらに顔を顰めるが、まあいいと諦め首を振る。別に様付けされるのは初めてのことではない。過去に不破家の使用人から様付けされていたのだ。

「骸様と共に戦った人ではない存在。それが私なのです」
「では、その封印も雪さんが」
「はい……あの恭吾様、私のことは雪とお呼び頂きたいのですが」
「……俺もか」

恭吾は、深々と息を吐き出し、了解すると雪に先を促す。

「氷那……この子のなのですが」

そう言って、恭吾たちがあえて無視していた生物に、雪は視線を向けた。

「氷那を楔として、ざからをこの地に封印したのです」
「しかし、それでは、この生き物……妖怪がここにいる以上、その封印は……」
「はい。解けています。その反動によりこの雪が……」
「そうか。しかしなぜ急に?」
「ざからが骸様の子孫であるお二方……恭吾様と恭也さまの存在に気付いたために、封印を無理矢理解いてしまったのです。おそらくですが、先ほどの根は、その子孫であるお二人の力を計りたかったのではないかと」

雪の言葉に、示し合わせたわけでもなく、恭吾と恭也は顔を見合わせた。
子孫。
つまり不破の血脈が、骸を祖とするのか。
恭也は、恭吾が自分まったく同じ血が流れていることを知らないが、もしかしたら母方の血なのかもしれない。不破ならば、美由希となのはもまた継ぐことになる。
とはいえ、二人は特に深く考えない。はっきり言ってしまえばどうでもいい。
恭吾は疲れたように息を深く吐き出した。

「つまり先ほどから俺たちの頭に声を叩き込んでくるのは、そのざからという奴なのか」
「声、ですか?」
「ああ。その声に従ってここまで来て、君に出会った」

自らを封じた人間の血脈を滅ぼしたいのか、この先へと誘う声。
雪が降り出してから聞こえる声は、次第に大きくなってきていた。

「ざからの声が……やはり血縁であると同時に、お二人は骸様の生まれ変わりなのですね」
「……今度は輪廻転生か」

那美の話では、転生というのは本当にあるらしいのだが、さすがにそれは恭吾でも実感がわかない。
だが、彼女が言うには、つまり『高町恭也』は骸の生まれ変わりなのだそうだ。

「待ってくれ、正直オカルトは良くわからないが、生まれ変わりというのがよくある話のものなら、魂が同じということなんだろう?」

ふと、恭也が眉を寄せて言う。

「まったく同じではありませんが、数分の一、もしくは数十分の一は同じ、と思って頂ければ」
「数十分の? ……いや、なんで俺と兄さん二人なんだ? 前世の人間が一人である以上、二人にはならないだろう」
「…………」

まずい。変な所で危機的状況になってしまった。
もし本当に『高町恭也』が骸の生まれ変わりだとうのなら、恭吾がそうであってもおかしくはない。彼も『高町恭也』なのだから。
しかしそれはあり得ない。なぜなら同じ人間は存在しないのだ。
どう話を逸らそうか、と恭吾が思考を始める前に、雪はそれに答えを出した。

「いえ、あり得ることです」

そう断言する雪に、問いかけた恭也はもちろん、なんとか誤魔化そうとしていた恭吾も目を瞬かせた。
当然ながら、恭吾も恭也と同じ認識だったのだ。
つまり生まれ変わりとは、同じ魂を持ち、死に絶えた者の魂が、もう一度生まれ、再び肉体を得る、ということ。
霊というものを知るからこそ、恭吾は魂というものが存在することを、恭也とは違い理解できている。
霊が再び肉体を得る、というのが一番合っているのではないか。もちろんそんな簡単なことではないだろうが。

「前世の人間と来世の人間は、決して同じ人間ではありません。顔が違えば声も違い、性格も違い、性別が同じとも限りません」
「それは、まあそうだな。そうでなくてはいけない」

前世と今生が同じであることに意味などない。いや、同じであることなど耐えられないと恭吾は頷く。
今まで自分の成長が、精神が、選び取ってきたことが、前世が誰々であったからなどと言われれば、ならばこの生に意味などないと思ってしまう。

「はい。そして、前世が人である、ということもまた稀ですし、何度と転生を繰り返し、今生において、恭吾様と恭也様に辿りついたということでもあります。
しかし、魂は自身がかつて骸様であったことを覚えています。それを魂から取り出すことができないだけで」

つまり骸が直接恭吾と恭也になったわけではなく、骸が誰かに、もしくは何かに生まれ変わり、またそれが誰かに生まれ変わりと繰り返し、今生において恭吾と恭也になった。
それこそ輪廻転生というもの。
しかしながら、いやだからこそ恭也と恭吾が骸の魂を継いでいることはあり得ることだと断言する理由がわからない。
転生を繰り返すとはいえ、一人の魂は一つだ。どれだけ転生しようと二つになるわけがない……はずだ。
しかし、二人の魂は骸であったことを覚えているという。
取り出すことができないが、覚えている?
ということはやはり、

「数十分の一……そうか。許容量は別。故に別れ……いや、削れ、また故にこそ別人か」

恭吾は苦笑い、雪の言いたいことが理解できた。
しかし恭也は、恭吾の言う意味が理解できない。
雪は驚いた表情で恭吾を見つめた。

「つまり生まれ変わりの人間が、前世と同じ人間にはならないが、魂とは転生の度に初期化されるのではなく、増えていくのだろう」
「その通りです」
「はあ?」

雪は肯定し、恭也はわけがわからないと眉を寄せる。
とはいえ、恭也の反応も当然というものだ。
恭吾とて、未来で退魔師である那美と出会い、霊障を見て、薫や十六夜と出会い、またこの時代で七瀬と出会っていなければ、ここまで予測はできなかった。
理解できないという恭也を責めるつもりはなく、恭吾は自分なりにまとめて説明を始めた。

「お前は生きている限り、脳は記憶を続けるだろう?」
「それはまあ」
「人間の脳というのは、実のところ生まれてから、死ぬまでの間の出来事を全て覚えている」

よく完全記憶能力等という話を聞くだろうが、実のところ人間は、その能力があろうとなかろうと、今まで体験した記憶が消えることはない。
ならばなぜ忘れるのかというと、辞書で言うところの索引が少なく、また消えていくからだ。もしくは覚えておこうと思ったページに、しおりを挟み続けることができない。
完全記憶能力を持つ者は、索引ができ、またしおりをはさみ続けることができる、というだけの話なのだ。
また一般的な記憶喪失もまただいたいがこれと同じ。記憶がなくなるのではなく、全ての索引ができなくなる。だから記憶が戻る、ということもある。

「魂も同じなのだろう。全てを覚えている。だが、索引することができないんだ。だからこそ、前世の記憶とやらを思い出すことはない」

しかしながら、脳には限界というものがある。
それはパソコンのハードディスクと同じだ。ハードディスクは、限界までデータを詰め込んでしまえば、それ以上データを残すことはできない。
脳も同じで、全てを記憶し続ければ、いつかは限界を向かえる。最も人間の寿命の間にそれがくることはないが。

「やはりそこは、魂も同じなのだろうさ。許容量があり、いずれ限界をむかえる。限界になったならどうすればいい?」
「……忘れる、か?」
「脳と同じであるならば、完全に忘れることはできない。しかし、忘れないならば、捨ててしまえばいい」

脳は記憶を捨てる、などということはできない。しかし、魂ならば可能ではないだろうか? 形がない故に、できることもある。
それこそハードディスクと同じだ。これ以上データが入らないなら、データを消して(捨てて)空き領域を増やせばいい。
しかしながら、魂は捨てても機能するのではないか?
つまりこれ以上覚えていることはできないから、どこかで魂は二つに割れた。
それは否定しかけたことだが、これが一番可能性が高い。

「俺とお前のどちらかは捨てられた方なのだろうさ」

実際には、どちらも同じ人間であるから、どちらかが捨てられた方ということはない。どちらも捨てられた方なのか、もしくはどちらも本体の方であったのか。
どちらにしろ考えても答えが出ることではない。
これらの予想は、十六夜という本当に魂である存在や、七瀬を知るが故に出てきたもの。二人は、肉体を持たないそれこそ魂と言える存在であり、実に自由度が高い。

「恭吾様の仰られる通りです」
「そうか。で、それがなぜざからの声が聞こえることに関係があるんだ?」
「骸様の魂はざからを覚えています。そして私たち妖は魂の近いので、また逆にざからも骸様の魂を覚えているのです」
「なるほど、骸である俺たちの魂に、ざからが声をかけ、俺たちは骸の魂を持つが故に、それを受け取れるということか」

故にだからこそ、恭吾と恭也は骸の生まれ変わりなのだ。

「まあ、関係ないことか」
「確かに」

前世など関係ない。知ったことではない、と二人は鼻を鳴らす。
前世が誰であるかなど、やはりどうでもいい。
とはいえ、

「ざからの望みは俺たちということか。俺たちをどうしたいのかはわからんが。そして、君の願いもまた」

そう言って、恭吾は雪を見つめた。
雪は、恭吾の言葉に、目に涙を溜めて頷く。

「骸様はいつか必ず、自分の子孫が戻ってくると。それがまさか骸様の魂を継ぐお方達である等と思いもせず、お二方が前世と関係がないと思っていることもわかっていますが、それでも望外の喜びです。
雪は、私は、この日を四百年お待ちしておりました。その時の中で、もう骸様の血族は来られないのではないかと、諦めと、絶望が生まれていました。しかし、今日……! ようやく……!」

四百年。
その言葉に、恭吾と恭也は息を詰まらせた。
長い。長すぎる。
この少女は、それだけの間、自分たちを待っていたというのだ。
今の喜びこそが、それこそが、彼女が今まで諦めかけ、絶望しかけていたことの証明であろう。

「そう、か。わかった。君の願いは聞き届けた。ざからの俺たちに対する想いは、ざから本人に聞こう」
「ざからは、あなた方に刃を向けるかもしれません」
「ならば戦うだけだ」

そう言い、恭吾は声の元に向かう。
それに慌てて、恭也と雪は彼に従うように歩き出す。

「しかし、ざからはなぜ今になって動きだした?」

少なくとも、恭吾が『高町恭也』であったときに、こんな事件はなく、また雪との出会いさえもなかった。
しかしこの時代、この世界ではそれが起こったのだ。それはここに来る前に浮かんだ疑問と同じだ。
それに答えたのは、やはり雪であった。

「恭吾さま、恭也様のお二人どちらかお一人が欠けたならば、ざからも私もお二方の存在に気付くことはなかったでしょう」
「つまり俺と兄さん、二人が同じ場所にいたことに意味があったと?」
「はい。恭也様の霊力は人間にしては大きいですが、骸様には及びません。また恭吾様に至っては、目の前にまで来て頂けなければ、霊力を感知することすらできません」
「だろうな」

霊力という新しい単語に、恭也は首を傾げるが、恭吾はすでに七瀬に聞いているので驚きもない。

「ただお二人が、骸様の魂を継ぐからこそ、二人が揃うと目立つのです。無論、私やざからにとってはですが」
「つまり、俺と兄さんが揃うと、光が強くなる、という感じなのか?」
「そうです。闇の中で、お二人はそれぞれ光を放っていますが、一人ではどうしてもか細く、それがどこにあるかわからず、しかしお二人が揃うと光が強くなり、それに気付くことができます」

つまり、二人が揃わなければ、もしくは二人分の霊力がなければ、雪とざからは二人の存在に気付けなかったのだろう。

「しかし、なぜ今だ? 俺が恭也と出会ってもう二年近くになる。俺たちが出会ったときに、ざからは俺たちに声を届けなかったぞ」
「お二人の存在をざからが感じ取ったのは、つい最近なのだと思います。私もまた最近ですので。お二人が出会った時には、気付きませんでした」

つまり雪たちが恭吾たちの存在に気付いたのはつい最近。それこそ武者修行から帰ってきたあたりなのだろう。
なぜ今更なのか。
恭也の霊力が高いことに関係があるのか。
何にしろ考えても詮無いことかもしれない。

「兄さん、そのざからというのが、戦いをしかけて来たらどうするんだ? 封印された腹いせとして」
「戦うとも」
「なら俺もか」

人間ではないものと戦う、と恭也は身体が少しばかり強ばる。
しかし、恭吾は短く首を振った。

「いや。俺一人だ。お前は見ていろ」
「兄さん?」
「約束してしまったからな」
「ん?」
「今度は誰の手も借りずに、と」
「そうか、そうだったな。誰の手も借りず、遊ぶ、だったか」

二人はまるで昔を思い出すように苦笑う。
しかし、その意味が二人は理解できているのだろうか?

「骸……様?」

それは、二人の言葉ではなく、骸の言葉であることを。
二人は……わかっているのだろう。
思い出しているのだろう。
ざからの魂にふれ、二人の魂は思いだし始めている。
さからとの約束を。
しかし、それでも二人は関係ないというのだろう。
魂に従っているのではなく、ただそれを僅かに尊重しただけ。
故人の願いを叶えてやる、その程度のもの。
つまり二人は、どこまでも強い意思を持っている、それだけのことだった。



◇◇◇



目の前に広がる湖畔。
その周りの木々と地面はすでに雪が降り積もり、目に映るのは雪の白と湖の青のみ。
しかし、その中央にそれ以外の色があった。
それは人影。

「ざ……から?」

その人影に、雪は驚いたように震えた声をかけた。
その人影は少女だった。
黒く長い髪。黒い和装の服。
そして、その顔は……

「久しいな、骸」

今恭吾たちの横にいる雪とまるで同じ顔。また同じ髪の長さであり、同じ体型をしていた。
違うのは、髪の色と、どこかそのつりがちの目の形。そして、雪よりも低い声。

「雪がなかなか結界を解かぬのでな。逸って地力で破ってしまったではないか」

そう、この少女が、ざからなのだろう。
しかし、その少女を見て、恭吾は目を見開いた。

まずいまずいまずい。
あの少女はまずい。
勝てない。どうやっても勝てない。
恭吾が今まで出会った存在の中で、最も強いと言えるのは妖狐の祟神久遠……ではない。むしろ真に恐ろしかったのは人間でありながら、裏社会という地獄で戦い続け、御神美沙斗などのように、人の形をした化け物に至った者たち。
また真に強かったのは、中国や日本の各地で何度か出会った妖怪たちであり、欧州などで出会った夜に属する者たち。その中には久遠でさえ敵わないものもいたのだ。
だが、それらをあっさりと目の前少女は破った。
またそれらに出会っていたからこそわかる。
あれこそが生物の頂点だ。
隣りにいる雪は、勝てる自信がある。何度やろうと勝てる……いや、殺せるだろう。しかし、この少女は無理だ。
どう逆立ちしても勝てない。

「あのときの約定、守ってもらおう。遊んでくれるのだろう、骸?」

ざからは笑みを浮かべ、声を出す。
そんなざからに、雪が何かを言おうとしたが、恭吾は手を出して止めた。
今このとき、雪は部外者だ。
語り合うべきは、恭吾であり、また恭也。しかし、恭吾はそれを恭也に任せる気はなかった。

「少し、時間を……くれ」
「うむ、まあ、四百年と待ったのだ。少しならば構うまい」

ざからとの遊び。それは死合に他ならない。
そして、それは戦う者の死を意味した。
故にこそ、まだ時間がほしい。
恭吾はもらった時間の間、ざからと雪を無視し、しかし二人に聞こえないように、恭也へと小さな声で言葉をかけた。

「恭也、いいか、俺がもし負けたなら……いや、負けは確実だろうが、完全に劣性に至ったならすぐに逃げろ。最低限、お前が逃げる時間は稼ごう」
「兄さん!?」
「…………」
「彼女はそんなに……?」

無表情ながらも、どこか透明感のある表情を浮かべる恭吾を見て、恭也はその中に死の覚悟があることに気付いた。

「……あと三人……いや、二人御神の剣士がいれば、どうにかできたかもしれんが、俺一人では無理だ」
「なら俺も!」
「駄目だ。お前はまだ、完成した御神ではない。俺とて壊れかけの、完成し得ない御神の剣士ではあるが、お前よりも強いつもりだ」

その言葉を聞いて、恭也は思わず下唇を噛んだ。

――どうして、俺はまだ完成していないんだ!?

もし自分が完成した御神になっていたなら、もし美由希も完成した御神になっていたなら。

「それでも……! 俺は……!」
「聞けっ……! 俺の遺言だ……!」
「っ……!」

遺言。
最後の言葉。
それを聞いて、恭也は押し黙るしかなかった。

「そのあとは、母さんたちを連れて、すぐに海鳴を離れろ。一応、その前に俺の部屋の机を漁っておけ。お前が体得すべきこと、学ぶべきことを全て記したものを置いてある」

もしかしたらを予想して、恭吾はずっと前にそれを書いていた。
士郎が残した中途半端なノートではない。己の全てを書いたものだ。
それがあれば、自分がいなくとも恭也は強くなれるだろう。完璧なものにはならないかもしれないが、それでも自分は越えられる。

「にい……さん……」
「お前は守ると誓ったのだろう。守るためには、逃げなければならないこともある。
いいか、急ぎすぎるなよ。急ぎすぎれば、俺のようになる。今のように、もし自分が完成した御神だったなら、などと呪うようになる」
「っ、兄さん……!」
「もし、もし、お前が強くなり、そのとき彼女に勝てると思っても、俺の敵討ちなどしなくてもいい。彼女と戦うとしても、それは守るときだけにしておけ」

最後に、恭吾は恭也の頭を軽く撫でる。
己を撫でるという行為は、少しばかり変な気分にさせるが、これが最後だ。
恭吾は、恭也から視線を離し、ざからに戻すと、そのまま歩き出し、恭也と雪から離れる。
足が止まったのは、一足一刀の間合いから半歩手前。

「待たせた」

短い言葉ではあるが、そんな言葉にざからは笑みを浮かべた。

「お前の方か。あちらの骸と共にでもよいのだぞ?」
「恭也はまだ早い。いずれは、だ。それに今度は誰の手も借りずにと言ったのは、かつての俺の魂【骸】の方だ。しかし、今の恭也と俺は違う人間。約に反するだろう」
「そうか。覚えておるか」

ざからはくつくつと笑う。
嬉しそうに笑う

「今の我は、骸の子孫であり、骸の魂を継ぐ者であり、生まれ変わりと……お前たちと語り合うために、人の形を真似ている。近しい人の形が雪しか覚えがなかったのでな、あやつと同じような形となった」
「それはありがとう、とでも言えばいいのか?」

少しばかりの皮肉を乗せる恭吾。
しかし、ざからはそれに反応せずに続けた。

「人の姿に括ることで、深い思考力を、人の知識を、知恵を得たが、本来の姿よりも、随分と力が萎えてしまった」
「それで……か? 本来の姿のお前と戦った遠祖に、心の底から畏敬の念を禁じえんぞ」
「ふ、本来の我ならば、吐息一つで山を更地にすることもできたとも」

恭吾は思わず下唇を噛んだ。
御神の剣士三人と言ったが、そんなレベル……いや、桁……違う、次元ではない。
本来の姿であったならば、どうにもできない次元なのだろう。

「化け物め」
「それはお前とて同じこと。人の身になって初めてわかった。お前こそ化け物だ」
「ご先祖には負ける」

先ほどの皮肉の返しだと思った恭吾は、やはり皮肉で返す。
しかし、ざからは本気で言っていた。確かに、人の知識と知恵を手に入れた彼女だが、まだ皮肉を言えるほどの経験がない。

「ああ、確かにお前よりも骸の方が強い……が、勝つのはお前だ。
お前は、我の本来の姿に勝てずとも、人の形を持つ者には決して負けぬであろう。誰であろうと負けぬ。
それが退魔師であろうとも、それが超常者であろうとも、それが英雄であろうとも、それが聖者であろうとも、それが魔人であろうとも、それが神人であろうとも。それが人の形で在る限り、お前は勝つ。
故に人である骸は、決してお前には勝てぬのだ」

ざからは朗々と語る。
嬉しそうに語る。
お前は化け物だと語る。

「さすがは骸の子孫。さすがは骸の魂を継ぐ者。さすがは骸の生まれ変わり。
むしろ化け物である我が、お前には畏敬の念を禁じえん。
そして、人の姿に括るという選択をした我自身を、今は心の底から誉めてやりたい」
「…………」
「お前と同じ姿にならなければ、お前の強さは、お前の凄みは、お前の精神性は、化け物である我には理解できなかっただろう。
知ることもできず、理解することもできず……何より認めることができず、吐息で滅ぼしていた」

過大評価。
恭吾の頭にはそれしか浮かばない。
化け物であるというのに、自分を過大評価しすぎだと、恭吾は内心で苦笑した。
しかし、ざからはそんな恭吾の内心を気付いているであろうに、さらに告げる。

「前世では人の身で化け物に対抗しえる力を持ち、来世では人という化け物となるか」
「前世など知ったことか」
「うむ。確かにな。お前は骸の生まれ変わりであっても、骸ではない。
と、我としたことが、忘れていたお前の名は?」
「不破……恭吾……」

恭吾の名を聞き、ざからは笑みを深める。

「では、不破恭吾よ」

ざからはまるで恭吾の名を噛みしめるように、力強く呼び、

「お前が我に破れれば、もう一人の骸が死に、雪が死に、そしてこの地に住まう全ての者が滅ぶと知れ」

宣言した。
その宣言は真実だ。
彼女にはそれだけの力がある。
人の姿から解放されれば、神咲ですら彼女には敵うまい。
久遠でも止められない。この日本に住む、全ての人間、全ての妖が手を組もうと止めることはできない。
彼女は、それだけの化け物だ。

「共に遊ぼうではないか。人の力を極めた者よ」
「過大評価だ」

今度こそ口に出し、否定すると恭吾は背から小太刀を鞘ごと取り出し、それを腰のベルトに差し替えた。
その程度の時間はもらえると踏んでいた。
どれでもいけるが、このとき恭吾は二刀差しを選んだ。
そして、それから右だけを抜刀。
それに合わせるように、ざからが軽く右手を振るう。
するとその手にはいつのまにか、剣が握られていた。
しかしそれを見て、恭吾は思わず喉を詰まらせる。

「なんだ、それは……」

ざからが持つ剣……否、それは最早剣ではない。
刀身だけで長さは彼女の身長を大きく越えた四メートル程。幅は五十センチはあるだろう。厚みに至っては、四センチはあるかもしれない。元々小柄であるが、それを握るざからがさらに小さく見えてしまう。
重量はいったいどれだけあるのか。
人間が扱うツーハンドソードとて、どれだけ重くても六sを超える物は少ない。十sに……そんな実用の剣は現実にはないだろうが……至ったなら、人類の範疇で怪力と呼ばれる者でも持ち上げるだけで精一杯だ。
だが、あれはそれを越える重さだろう。
見た目は剣の形態を取っているかもしれないが、違う。
近いもので言えば鉈だ。それも巨大な鉈。
斬るでもなく、切るでもなく、断つ。そんな用途にしか使えず、また誰も振るうことはできないだろう巨剣。

「これは骸が我の頭に突き立てた剣よ。野太刀だったか? それが我の妖気を浴び続け、吸い取り、こうなった」

――そして、これはお前が握るべきもの

その声は、誰のものか。
決まっているざから以外にありえない。
しかし、その意味を恭吾は理解できなかった。
理解する意味もない。
敵を理解する必要はどこにもない。

「まあ、我の妖気を吸っているからこそ、これらは我そのものと言っていい。故にいくらでも形は変えられるのだが、我にはこれが合いそうだ」

銘をつけるならば

――魔剣ざから

それ以外にあり得まい。

恭吾は、もう何も言わず、ただ腰を深く落とす。
ざからはただの自然体。

「いくぞ、妖【化け物】」
「こい、人間【化け物】」

これより始まるは、化け物の共演。
長い時を越えての再演。
しかしそれは、形を変えた。
化け物二人は、過去においては形の違いものだった。
だが、今生において、二人は同じ形となる。
人の形。
しかし、人ではない。
人間【化け物】
妖怪【化け物】
化け物二体。
化け物の予備軍たる少年が、本来であるならば、この再演に加わってもいいはずの少年が見つめる先で、過去よりの約束が……
遊び【殺し合い】が今、始まる。



◇◇◇



二体の化け物は、ただお互いを見つめ合う。
恭吾は鋭い目で、ざからは歓喜を乗せた目で。
動かない。
深々と上空より降る雪は、そんな二人にも積もっていく。
髪に、肩に、腕。
しかし、二人はそれに意識を向けることは一切ない。また、観客である恭也と雪も同じこと。
誰も動かない。

「ふ、このままじっとしていては遊べまい。なによりつまらぬ。我から行くぞ」

それをざからが無理矢理に動かす。絶対の自信のためではない。彼女自身が言うように、このままでは何も始まらないために。
そして、

「っ……!?」

それは勘ですらなかった。ただの予測。人ではない彼女の動きは人知を越えるだろうと予想をしていたが故に恭吾は、咄嗟に横へと飛びずさった。
一瞬の後に響く轟音。
雪が吹き飛び、地が割れ、爆ぜる。
たったの一振り。
一瞬で、恭吾に認識すらさせず、ざからが放ったただの振り下ろしは、それだけでこの破壊力。
避けたはずの恭吾の身体を、彼女の振り下ろした剣の風圧が、さらに吹き飛ばした。

「がっ!」

ただの『風圧』。攻撃が当たったわけではない……そうであるにも関わらず、恭吾は全身を強打されたかのような激痛を味わい、内蔵が傷付いたのがわかった。
それだけで腰が落とし、倒れそうになる。それだけで地に身体を横たえそうになる。
ざからの動きは確かに早かった。はっきり言ってしまえば、恭吾は目で追うこともできなかった。神速と同等か、もしくはそれ以上のスピード。
しかし、斬撃とも言えない振り下ろしは、それに反比例するかのように遅かった。それこそ恭也……いや、美由希の斬撃にすら及ばないほどの遅さ。
その結果はこれだ。
恭吾が受けた風圧は、速度により発生したものではない。力が空気を掻き分け、そして地を割った衝撃。すべて力により発生したのが今の風圧。否、爆風だ。
真実化け物。
これで弱体化しているというおかしな生物。
今の一撃だけでわかる。骸は決してざからに勝ったわけではない。ざからは自ら封印されたのだ。今回簡単に封印を破ったのが、その証拠。
化け物を越えた化け物。
だが、

「ぐ、あぁぁぁぁぁああああああああぁぁぁぁぁ!」

痛みをはね除け、恭吾は小太刀を水平に構える。
続けて低く腰を落とし、駆ける。
その速度は、ざからに及ぶまい。しかし人の目であれば、それは視認もできぬ速度。
ざからは、そんな恭吾の目を『見て』、やはり笑う。
恭吾がざからの目の前へと突進。
繰り出すは、最速の奥義、射抜。
しかし、それを突き出そうとした瞬間には、逆に恭吾の目の前に巨大な剣が突き出されていた。
つまりざからの攻撃は遅くはない。最初の一撃が遅かっただけ。そもそも地を抉れるほどの力があるのだ。攻撃を速めようと思えばいくらでもできる。
最初の一撃はただのサービス。妖である自分の力はこんなものだとわざわざ教えてくれていた。
そう、すでに教えてくれていた。
故に、この程度のこと予想の範疇。
ざからの巨剣が、恭吾の身体を粉砕すると思われた瞬間、恭吾の姿が掻き消える。
それはまさに先ほどのざからと同様。
しかししかし、神速を発動し、余人には、それこそ離れた場所で見ている恭也や雪たちすら見えない恭吾の姿を、ざからは確かに目で追っていた。
そして、それに恭吾も気付いている。

――化け物め!

その言葉を、恭吾とざからと共に発する。
恭吾は神速を捉え、その先すら覗き見るざからに。
ざからは人の身で、骸でさえできなかった自身の速度に僅かでも追いついた恭吾に。
しかし、見切ったのは恭吾だ。
人の姿に慣れていないざからは、上半身を揺らすようにして動く恭吾が見えているはずなのに、何度も見失いかけていた。
人には認識できない速度でも、ざからに見える。しかし追い続けることができないその動き。

「これこそ人間の業か!」

このような動き、やはり骸には到底無理だろう。
ざからからすれば、人の身に括ろうが見えて当然の速度。彼女自身『今の姿でも』全力で動こうと思えば音速の数倍で動ける。それこそ神速など話にもならない速度だ。『この姿の本気で動く』だけで、ソニックブームで周囲一体が更地になるだろう。今は全力でその程度の力だ。
当然ながら、相手が音速で動いたとしても、ざからの目は当然追うことができる。
それを体捌きを付加することで視界から逃れるその穏行は、まさしく業。
人が到達できぬ速さもまた業だ。
骸のように正面から霊力技で戦う者には、到底できない所業だ。
いや、骸に限定せずとも、これだけのことができる者が他にいるのか。
人の身に括ろうと、それでも人を越えるざからにとて、真似することはできない。ただの力でも速さでもない。
業。
人間がその短い人生をかけて培ったもの。ざからと言えど見切れない。
そしてざからは、とうとう完全に恭吾の姿を見失う。
しかし、それでも化け物であるざからは、恭吾の気配を感じ取り、素早く後ろに振り向いた。
そこには二刀流であるが故に、常に片手で握っていたはずの小太刀を両手持ちに切り替え、振りかぶる恭吾の姿がある。
普通の人間ならば、最早間に合わない。両手の力を乗せられた小太刀は、その技量も相まって、脳天から股下まで断ち切られるだろう。
だが、ざからは人の身ではない。故に、焦りもなく、むしろ笑みを浮かべたまま反応してみせた。
どう考えても、人間では両手でも振るえそうにない巨剣を軽々と振り上げ、

「っ!?」

ようとした瞬間、ざからは足に衝撃を受け、後ろへと倒れていく。

「人になったばかりなのだろう?」

恭吾は、僅かに口を歪めて笑う。
まるで見せつけるように両手で振り上げた小太刀は囮。真の目的は……足払い。
普通の人間でも、足への意識はどうしても疎かになる。
特に剣術家……というよりも、剣を持つ者は、どうしても剣を握ると手と、攻撃を受けてはいけない上半身に意識がいってしまうものだ。
そのため、足への攻撃がない剣道はともかく、実践的な剣術は、まず足払いで転ばされ続けて、それに対抗する意識を作り上げる。
恭也と恭吾は、士郎に徹底的に転ばされたし、美由希は現在恭吾と恭也に良く転ばされている所だ。
しかし、人間になったばかりのざからは、そんな意識がない。そもそも彼女に技術もなく、肉体のスペックだけで戦っていた。だからこそ、意識外から攻撃というのはかなりな有効手段であった。

「かっ!」

短く息を吐き出し、恭吾は両手に持った小太刀の柄を持ち替えて、倒れたざからに突き出す。
ざからは、それでも笑みを浮かべたままで、空いている左手を地面につけた。
その姿に、今度こそ恭吾の頭の中に警鐘が鳴り響く。
相手は人の姿ではあるが、人ではない存在。そのために、人間の範疇で相手の考えを読むことはできない。
本来ならば。
だが、すでに恭吾は知っていた。
彼女の力を一つ知った。
彼女本人と会う前に……

「くっ!」

恭吾は、ざからが何をする気かを理解し、喉を鳴らして、納刀しつつも飛び退いた。
それと同時に、ざからが手を置いた地面の雪が弾け、土が爆ぜ……その下から巨大な根が伸び、飛び出してくる。
先ほどと同じの根。それが寸分違わず恭吾の眉間を狙う。
しかし、恭吾はそれを予測しきった。
本能の警鐘から、彼女が何であるかを思いだし、先ほどの長距離からの攻撃を思いだし、それを予測できた。
恭吾は、根が眉間を貫く前に、腰を落とし、頭ごと上半身を曲げる。
眉間への攻撃。当たれば即死であろうそれを紙一重で避けたものの、完全には躱しきれず根は恭吾の背を抉り、雪の絨毯に鮮血を彩らせた。
恭吾は前傾姿勢で突進。
当然ながら、背負うように背中には根が触れており、そのまま進めばさらに恭吾を傷付ける。だが彼は気にもせず、納刀した小太刀の柄を触り、ついでそれを隠すように背を捻り、さらに加速。
その恭吾を止めるためか、さらに一本の根が追加される。
新たな根は、今までのそれらに比べると……それでも巨木の根ほどあるが……細い。しかし、その細さのためか、たわみながらも今まで以上の速度で、やはり恭吾の眉間を狙う。
それさえも恭吾は、首を曲げ、顔を僅かに右に反らして躱した。
が、縄のようにたわんでいるからこそ、首を曲げた程度では完全には躱せない。一瞬額の横を掠め、額から血が吹き出る。
その血が、恭吾の顔すら赤く染め上げた。
だが、それすら恭吾は気にしない。

「一々顔を狙いすぎだ、阿呆」

顔を血で赤々と染め、冷笑し、そう言う恭吾の姿は、修羅か羅刹か。
恭吾は、まだざからとの距離が縮まる前に抜刀。
しかし、そこから加速され、さらに刀身が伸びるかのように、小太刀がざからへと吸い込まれていく。
奥義之一・虎切。
射抜に次いで、長射程であり、高速の斬撃。
相手からは抜刀の瞬間が見えないが故に、斬撃が伸びたかのように感じる。
ざからは根を繰り出した瞬間には、すでに立ち上がっており、恭吾の虎切を巨剣で難なく受け止めて見せた。
が、その瞬間恭吾は、やはり腰を捻るようにして隠していた左の小太刀を抜刀。
左右連続、時間差の虎切。

「くっ!」

それにざからは、始めて驚愕の表情を浮かべ、またうめき声を上げた。
しかし、人間を大きく越える反射神経を以て、半歩後ろに下がり、躱してみせる。
だが、完全に躱しきれず、肩口を斬られ、血を吹き出させた。
その間に、恭吾は飛針を放ち、それをざから巨剣で弾く間、二つの根を斬り刻みながらも大きく飛び退き、彼女から距離を取った。

「くくく、我を下がらせ、血を流させるか。やはり、やはり、お前は我の思った通り。ただの人間を……人の範疇を大きく越える」

ざからは、驚愕を消すと同時に、心底楽しそうに笑みを浮かべ、人ではない自らを下がらせ、傷付けてみせた恭吾を賞讃した。
事実、今の短い攻防でも、ただの人間ならば、一撃で葬られていただろう。
ただの人間。それはざからからすれば、達人と呼ばれる人間すら、その『ただの人間』の範疇である。
つまりざからからすれば、恭吾はそこから抜け出した者。
達人という言葉すら生温い。

「ふん、経験が足りん」
「この姿となりまだ数時間……などという言い訳は聞かぬな。生きた年数ならば、お前の百倍をゆうに越えるというにこの体たらく。返す言葉もない」

二人は言い合い、だがどちらも次の手を繰り出そうとはしない。
隙をうかがい合っている……というわけはでない。少なくとも恭吾は探っているが、ざからは先ほどまでと同じく自然体のままだ。
ただお互いを見つめる二人。
だが、そんな時間も飽いたのか、ざからが再び口を開く。

「不破恭吾」
「…………」

ざからの呼びかけに恭吾は応えない。
そんな隙を見せるわけにはいかない。
恭吾の考えもわかっているだろうに、ざからは続けた。

「お前はここまで来るのに何を捨てた?」
「…………」

それはこの間、恭也へと話した供物のことか。

「ここまで来るには、精神ではなく、実際に何かを失わねば無理だろう。人間であるならば」

しかし、違う。ざからが言うのは真実失ったものの話。
人は想い一つではここまでこれない。
人は力一つではここまで来ることはできない。
後悔の上に塗り固められた目的が必要だ。
しかし、恭吾は首を振る。

「不幸自慢に興味はない」

語る理由はない。
意味もなく己に起こった不幸を語るぐらいなら、殺された方がましだ。
それはただの不幸自慢。
自分にはこんなことが起きていたんだと、相手に同情してくれと言っているだけの代物に成り下がる。本人がそうと思っていなくとも、そう言っているのだ。
真の不幸は、似た不幸に見舞われようとしている者への戒めとして、真に大切となった者にだけ語ればいい。
母に捨てられた。
それがどうした。恭吾にとってはその程度の些末ごと。
一族が滅んだ。
だから同情してくれなどと言う気はない。
父が殺された。
この世には同じような立場の者は他にいくらでもいる。
他人から見ても、それらは全て不幸と呼べるものだろう。恭吾とてそれらに嘆き苦しんだこともある。
だが、他人の不幸を聞かされたとしても、それに同情しても、自分とは関係ないと心のどかで思う。明日には忘れる他人事だ。それは恭吾も同じ。
不幸とは意味なく語るものではない。
同じ立場でもなければ、他人に理解されるべきものでもない。
また、不幸の大きさなど語るものでもない。そもそも大きいも小さいもない。
人類が一度も経験したことのないような不幸であっても、それを聞き、共に悲しむのは、その人物の大切な者だけでいい。
英雄と呼ばれる者たちは、大抵の者どこかで不幸に見舞われている。
それを真に忘れぬ者がどれだけいるというのか。
不幸とはその程度のもので、いつかは癒える。癒えぬのであれば、その努力をしなかっただけだ。
そもそも幸福と不幸というのは、どこまでも主観でしか理解できない。
人によっては金があれば幸福ということもあるだろう。だが、人によってはなくても不幸というわけでもない。
例えば、恭吾と美沙斗では、御神が滅んだことへの思いが違いすぎる。
美沙斗にとっては絶望するほどの不幸で、恭吾にとっては忘れることはできなくとも、自分を見失うほどの不幸ではなかった。
同じ不幸でもそれだけ違う。
故にこそ、自身の不幸を真に理解できるのは自分だけで、他人の不幸はどこまでも理解できないか、表面的にしか理解できない他人事なのだ。
理解できない者に語ることにどれだけの意味がある。
起こった不幸を意味なく語ることも、自分の不幸を安々と他人に語る者も、恭吾からすれば反吐が出る。
自慢にもならないことを自慢する行為だ。

「ならば質問を変えよう」

語る気はないとわかったのか、ざからは苦笑して続ける。

「お前はなぜここいる? 悲劇を止めるためか? 愛しい者を守るためか? 己の未来を変えるためか?」 
「っ……!」

彼女の言葉に反応しない、そう決めていたはずが、その言葉に恭吾は全身を震わせた。震わせ、意識一瞬ずらしてしまう程の驚愕。
しかし、その驚愕も本当に一瞬のこと。
そうか、彼女は気付いているのか。
魂を見ることができる、厄介なものだ。
下手をするとすでに出会った七瀬や雪、まだ出会っていない十六夜や久遠にすら気付かれるかもしれない。
まあ、それは今考えても詮無いこと。
ざからの質問に、恭吾は嘲るように嗤う。

「悲劇など知らんよ。知る悲劇を止めるためには、己自ら悲劇へと突き進み、悲劇を演じねばならん。そんなものはただの悲劇に酔っているだけだ。
愛しい者を守るためには、己が己でなければ意味はあるまい。ここに己はいるが、それでも守りたいと? 笑わせる。自分を偽り、自分を作り替えて誰を守れるものか。それこそ全てをなくした悲劇の英雄に酔っているだけだ。
未来を変える? つまらんよ。未来を変えることなど、そこ【その時代】に生きる者がやればいい。それは誰の役目でもなく、そこに生きる全ての者の役目だ」

恭吾が、この時代で止めたい悲劇はない。
すでに御神家は滅び、士郎が死んだこの時代、止めたいと思える悲劇は存在しない。
そして、本当にその時に戻れていたとしても、恐らく止めることはできなかっただろう。
愛しい者はいる。
桃子、美由希、なのは。
しかし、愛しいから守るのではない。それらを守るのは恭也の代わりにすぎない。
恭也が守れるようになれば、そのときはお役ご免だ。
不破恭吾を偽る自分が……自分を偽るが故に、どんな想いも偽りとなる。そんな想いで何が守れるものか。
変えたい未来などない。
今このとき、自分がいるというだけで未来は変わっていく。こうしてざからや雪と出会ったように。
だが、それが何だと言う?
未来は不変ではない。
未来とは恭吾が変えるものではなく、そこにいる全ての人間が変えていくものだ。

「ならばお前は?」

ざからは、その巨剣を操る姿からは考えられない、小首を傾げるという可愛らしい動きをとる。

「俺の目的? 簡単だ。恭也を強くすること。それだけだ。
悲劇を演じ、酔わせるためではない。愛しい者を守らせるためではない。未来を変えるためではない。それらはあいつ【俺】がやりたいと思うなら、先【未来】を知らずにやればいい」

恭吾の目的は、恭也を強くすること。
それだけだ。
その先、その強さで何をするのかは、恭也が決めること。
無論、それらの可能性を示すことはするだろう。美由希にそうしたように。
だが、それらを選び取るのは恭也だ。

「俺がこの世界でやりたいと思ったことは、ただ恭也【俺】が強くなった姿を見ること。あり得たかもしれない恭也【俺】を見たいわけではない。
俺は、その俺【恭也】にどれだけ近づけるか。それを知りたいだけだ」
「なるほど探求か」
「それすら最近見えてきたことだ。何の目的があってここに来たわけではない。言ってしまえば成り行きだ」

恭吾は、顔に流れる血を拭い、しかしと続ける。

「それでも俺は、俺であろう。全てを偽れど俺は俺であろう。不破恭吾であろう。
悲劇を止めることはしない。愛しい者を守らない。未来など知らない。
だが、それでも、俺【高町恭也】は俺【不破恭吾】としてここに存在する」

――ならば

「俺【高町恭也】は俺【不破恭吾】として、俺【高町恭也】の邪魔をする者を斬る。
俺【不破恭吾】が、俺【高町恭也】が止めたいと願う悲劇を止めよう。
俺【不破恭吾】が、俺【高町恭也】の愛しい者を守ろう。
俺【不破恭吾】が、俺【高町恭也】の未来を示そう」

それは矛盾。
悲劇に酔うつもりはないと言いながら、悲劇を止めると言う。
愛しい者を守る気はないないと言いながら、愛しい者を守ると言う。
未来など変えるつもりはないと言いながら、未来を示し、変えると言う。
しかしそう、このとき……

「ざから、感謝しよう。お前に出会えたことで、俺【高町恭也】は完全に俺【不破恭吾】となれた。だから俺【不破恭吾】は俺【高町恭也】でいられる。
俺【高町恭也】は、俺【不破恭吾】は、高町恭也の、その周囲全ての未来を守ろう」

本当に恭吾は、高町恭也でありながら、真実不破恭吾となった。
そして、不破恭吾でありながら、高町恭也でいられる。





「くっ、ふ、ははははははははははははは!」

ざからは大きく笑う。
今まで一度しか絶やさなかった笑顔。
だが、この笑顔は今までとはまるで質が違う。

「やはり貴様は強い! 強いぞ!!」

それは本当の歓喜。
今まで以上の歓喜。

「言い切るか! 名を偽れど、己は己であると! この世の己と同じであると認めながら、それでも混同せず! 自我を保つか!」

それは骸の生まれ変わりと会えたことへの歓喜ではない。
それは不破恭吾に出会えたことへの歓喜。
自分にはできなかった己の定義。
誰よりも強いが故に、誰でもなかったざから。
だからこそ、ざからは誰よりも先にいた。
誰よりも先にいたからこそ、ざからは誰も理解できず、誰もざからを理解できなかった。
誰にも認められず、誰も認めない。
誰もざからに、目的をくれない。
それは孤独だ。
だが、骸はそのざからに追いつき、ざからを認めた。ざからは追いついた骸を認めた。
二人だ。ついに二人になったのだ。
そして、骸はざからへと目的をくれたのだ。
いつの日か、自分の子孫が会いに来る。そのときはまた遊ぼう。
そして、その者が勝ったなら……
そう骸は言い、ざからに今までなかった目的をくれた。
だから骸はざからと対等であった。
対等の存在。
二人である存在。
しかし、恭吾はその先に言った。
平行に走る二人を追い抜き、その先へ。
骸の誓いを守った骸の子孫は、骸の魂を次ぐ者は、真に骸の生まれ変わりである一人は、骸すら追い抜き、先へと行った。
不破恭吾であることは、誰にも認められない。
なぜなら彼は、雪と横にいる少年と同一の存在だから。
そのことを誰にも告げていない彼は、誰にも告げていないが故に、不破恭吾になれない。不破恭吾と認められない。
自己とは、他者の存在があるからこそ確立される。
一番大きいのは名前だ。
自分の名前があるからこそ、人は己と他者を混同せず、自己を確立できる。名前がなければ、誰も彼も、その人物を特定できない。他者が特定してくれないからこそ、己もまた己の自己を確立できなくなる。
名を偽るというのは、他者に確立された自己の否定されるのと同義だ。
一時ならばいい。だが、恭吾は違う。過去を知る者はおらず、必然的に彼の本当の名を知る者もいないのだ。
これでは、いずれ高町恭也は死に絶え、完全に不破恭吾という別のものになってしまう。それはもう、恭吾が求める不破恭吾とも別物の存在だ。
だが、彼は、不破恭吾は、誰にも認められずとも、『自分が』不破恭吾であると認め、そして雪の隣りにいる少年と同じだと認めた。
誰に認められずとも、恭吾は己で己を認めたのだ。
自分【高町恭也】は自分【不破恭吾】であり、自分は【不破恭吾】は自分【高町恭也】であり、自分【高町恭也・不破恭吾】であると。
どちらも己であると。
どちらも捨てないと。
区別せず、誰にも認められずとも、それでも己の自己を確立し、自我を保つ。
ざからにはできなかった。
骸にもきっとできなかった。
これが、この男の本当の強さ。

「我も認めよう。お前が不破恭吾であることを。そして、お前がお前【高町恭也】であることを」

恭吾に必要ないことであろう。
彼は、自分で自分を認めることができる。他者の意思がなくとも、自己を確立できる。
だからざからが認めるというのは、必要のないこと。
しかし、これは敬意だ。
ざからはこのとき、心底恭吾を尊敬し、心底畏怖し、心底羨ましかったのだ。その感情の全てを乗せて、恭吾を認めたかった。

「受け取ろう」

恭吾はしっかりと頷いた。
それに再びざからは歓喜する。
受け取った。受け取ってくれたのだ!
認めることを認めてくれた!
即ち、それは……

「俺は口べたでな。その言葉で察してくれ」
「外見通りだ。しかし、我も受け取った……!」

恭吾もまた、ざからを認めた。
強さを認めたのではない。妖怪であることを認めたのではない。
ざからをざからであると認めたのだ。
認め合うこと……それは即ち、対等であるということ。
ざからが求めて止まなかったものの一つ。
かつて骸だけが、彼女と対等で、この時代にまた対等な存在は現れた。
恭吾は、気付いてくれたのだ。ざからが求めているものに。

――これでは本当に童ではないか。

かつて骸に悪がすぎただけの悪童と言われたが、この様では悪童というよりも、寂しがりの童だ。
しかし、それもまたよし。

「ふふ、担い手と対等である、武器にとってこれほどの誉れはない」
「うん?」
「何でもない。それより……」

ざからは巨剣を再び掲げる。

「余計に火が点いたではないか。この喜び、恭吾、お前にぶつけてやろう」
「……相手になろう」

そして二人は、再び駆けだした。



◇◇◇



「これが……」

恭也は、どこか呆然と呟いた。
目の前には、人知を越える攻防を繰り返す、恭吾とざからの姿。
どう見ても恭吾は押されている。
爆風で吹き飛ばされ、大地を砕いて弾け飛ぶ石に叩かれ、巨剣に切り刻まれて。
頭から、首から、肩から、腕から、腹から、足から血を流し、全身を真っ赤に染め上げた姿にまで追い込まれている。
しかし、相対するざからもまた、顔から、肩から、腕から血を流していた。
それは恭吾の傷と比べてしまえば微々たるものだ。ほんの少しの切り傷程度。
しかし、恭吾はあの化け物相手に一歩も退いてはいない。
絶命させる蹴撃を放ち、貫く拳打を放ち、破壊する関節技を放ち、穿つ飛針を放ち、最高の斬撃を、至高の斬撃を放つ。
そして何より、むせ返るような殺気を放っていた。
相手に何の遠慮もいらない、本当に相手を徹底的に殺そうと宣言するような、黒く、濃い殺気。
恭也が鍛錬で知る恭吾の全てを越えてここにある。
武者修行の途中、月瀬小夜音を筆頭に、恭吾と対等に戦える者はそれなりにいた。たがだが、

「……これが兄さんの……全力」

この不破恭吾には敵わない。
この不破恭吾の前には、どうしても霞む。
どう足掻いても彼らは殺される。
蹴撃で絶命され、拳で貫かれ、関節技で破壊され、飛針で穿たれ、最高の斬撃で引き裂かれ、至高の斬撃で斬り裂かれる。
その殺気で殺される。
これが不破恭吾。
相手を真に殺す気へと至った『不破』恭吾の姿。
ざからが言った人間では勝てないという人間の体現。

「父さん……あなたは……この人に勝てるのか……?」

父士郎さえ超えているのではないか?
かつて御神家にいた全ての人間すら越えているのではないか?
膝を砕いて、神速すらまともに使えない、二度も使えばそれこそ立てなくなる恭吾は、最初の一度以外まるで使っていない。だが、それでも……

「強い」

ただその一言。
神速などなしに恭吾は強い。
なんだあの斬・徹・貫は。
振りからして斬を放った……と思えば徹。徹を放ったと思えば貫。貫を放ったと思えば斬。
振りと結果が一致していない。
何を放つのか見抜けない。
何より何だ、あの異様な基礎の錬度は。
それだけは恭也でも、間違いなく士郎たちを越えているとわかる。
唯唯、愚直に基礎を鍛え続けた姿だとわかる。
大技などない。全てが基礎。基礎でありながら奥義へと至った斬撃だ。

「強い……」

押されているのは恭吾。
端から見れば、恭吾はざからの相手にもなっていない。
だが、それでも……いや、だからこそ、恭吾の強さが際立つ。
ざからを相手に『まだ殺されていない』。
あれに勝てる人間などいない。あれに勝てる化け物などいない。
ただの一撃で、誰も彼も、何もかも、その全てが滅ぼされる。
だというのに、恭吾はまだ生きている。それどころか傷付けてさえいた。

「ざから!!」

そんな恭吾を見つめ続け、耐えられなくなったのか、恭也の隣りにいた雪がざからの名を呼び、駆け出そうとしていた。
だが、

「え……?」

その雪の首に添えられる刃。
ざからと比べれば、それこそ羽虫程度でも、それでも雪もまた人ならざる存在。
その雪に気付かせず刃を届かせる所業は、また人の枠から越えている。
雪が刃を向ける者を見れば、案の定の恭也の姿があった。

「兄さんの邪魔をしないでくれ。邪魔をするというのなら、俺があなたを斬る」

無造作に雪の首に刃を添えた恭也は、相手を底冷えさせるような低い声で言い放った。

「恭也様!?」

雪は、なぜだと大きく声を上げる。
むしろ恭也が、恭吾を助けるための邪魔をするという状態。
このままでは恭吾は殺される。そんなこと、ここまで見ていればわかるだろうと、雪は恭也をきつく見つめた。

「……ん?」

そんな雪を見て、恭也は首を傾げる。だが、雪の首に添えた小太刀は揺るぎもしない。

「ああ、そうか……」

しかし、ふと恭也は雪が何を考えているのか理解した。

「まさか、兄さんが、負けるとでも、思って、いるのか?」

まるで雪を嘲るように、一つ一つの言葉を区切りながら言い、恭也は微かに笑う。

「何を……」

どう考えても、恭吾は負ける。
どう見ても、恭吾は負ける。
この場に百人、他の人間がいても、皆そう言うだろう。
誰もがこの先の未来を占える。
恭吾に訪れる絶対の未来だ。
しかし、恭也はそれを否定した。

「先ほど、兄さんとざからが認め合った、その会話の意味はわからない。だが、最初にざから自身が言ったことは理解できる」
「最初……?」
「人の形をする者は、誰もが兄さんには勝てない」
「人の、形?」
「ざからは人の形だ。その形を取って、兄さんに勝てるわけがない。ざから自身が最初に、勝てないと宣言している」

人の形をする者は勝てない。
なるほど、それは正しい。
と、恭也はやはり笑う。
わかった。
恭吾の全力。その正体が。

「不破……」

あれこそが不破だ。
不破の体現。
あらゆる者を殺して守る不破。
不破は、相手を必ず殺さなければならない。自分が死のうとだ。
そこに可能不可能は関係ない。相手の方が強いなどというのも関係ない。そんな理屈ごと殺す。
それこそが不破。

「これが……父さんとの違い」

士郎は不破だ。
だが、士郎は完全な不破ではなかった。
殺して、目に見える者全てを殲滅し、魂すら斬り殺す不破としては、士郎は破天荒すぎたのだ。そして、強すぎた。
士郎はむしろ御神に近い。そして、それが許される程に、むしろそうであってくれと懇願される程、彼の実力は桁違いだったのだ。
士郎もできないわけではないだろうが、恐らく不破としての精神だけならば、恭吾は数段上にいる。
先ほど恭吾が強いと言った。
確かに強い。強すぎると言ってもいい。
だが、違う。
違うのだ。

「父さんの方が強い」

未だ色褪せずある遠い背中。
恐らく父の方が、兄よりも強い。
ならば同じ不破であり、恭吾の父親である一臣は?
宗主である静馬は?
彼らもまた恭吾よりも強い。
全力で戦う静馬の姿を、不破としての一臣を知らない恭也ではあるが、それでも……

「だが、勝つのは兄さんだ……恐いのは兄さんだ」

神速に制限がある? だからなんだ。
力は士郎に及ばない? だからどうした。
速さは一臣の背も追えない? だから勝てないと?
技量では静馬を捉えられない? だから恐くないと?
馬鹿な馬鹿な。
そんなものは関係ない。
殺すと決めれば殺す。
それが真の不破。
それこそが不破の体現。
そして、今の恭吾こそが不破なのだ。

「俺は…………」

恭也はその姿に心底憧れた。
焦がれた。
尊敬した。
畏敬した。
羨望し、渇望した。

「俺は……!」

御神も不破も。
そのどちらであるかなど、今まで気にしたことなどなかった。
美由希は御神で自分は不破だという意識はあった。だが、真の意味で、その区別をつけたことはなかった。

「俺は!」

しかし、このとき恭也ははっきりと決める。

「俺は!!」

羨望のままで終わらせてなるものか!
渇望だけで終わらせてなるものか!

「俺は必ず……!」

なってみせる。
不破に。
殺すことしかできない剣。
御神以上に薄汚れ、血の匂いをまき散らし、血肉を喰らい、魂を貪り、腐り落ちて、腐れ果て、死臭すら醸し出すその剣。
だが、だからこそ誰であろうと勝利し、大切な者を守れる真実の不破に。
そして、

「兄さんに……俺は……絶対に追いつく……!」

このとき真に、恭也の追うべき背中が増える。
そしてそれは、近い未来において、恭吾が撒いた種により、御神流の遣い手でありながら、『御神流の天敵』へと至る異端の剣士の産声だった。



◇◇◇



それは戦いなどという生やさしいものではなかった。
ざからが巨剣を振るうたびに、周囲が爆風で吹き荒び、地が割れ、砕け、穿つ。
振るわれる剣は、最初の一撃のように鈍重で遅いものではなく、疾風の如く。
ざからは一人で、一人を相手に戦争をしかけている。
しかし、それでも恭吾はざからに食らいつく。
恭吾はざからを認めた。
ぎからは恭吾を認めた。
認めたからこそ、ざからは有言実行するだろう。
恭吾への虚偽を許さず、己が吐いた言葉の全てを実行する。
それはつまり、海鳴の終焉であり、恭吾が守りたいと思った未来の終焉。

(ここで雪も、恭也も、海鳴に住む俺の守りたい人たち誰も護れないというのなら、俺は何のために御神の剣を学んできたというんだ!? 恭也に学ばせる意味すらなくなるだろうが!!)

相手が魔獣だろうが、悪魔だろうが、神だろうが、護れなければ何の意味もなくなってしまう。
――そんなのは認められはしない!
ミシミシ、ミシミシと膝から音が鳴るのを恭吾は確かに聞いた。
だが、

(壊れても構わん!)

それはかつての間違いをもう一度繰り返すことでもあるかもしれない。魔獣に挑むという無謀。無謀のために膝を完全に壊す。
それでも、

(俺は恭也を、雪を、かーさんたちを護る! 皆の未来を!)

例えもう剣を振るうことができなくなっても、ここで死に絶えたとしても、この世界にもう一人自分がいる。まだ未熟ではあるが、そいつは絶対に自分の意志を継いでくれる。
ならば、今の自分がすることはただ一つ。
――戦えなくなったとしても、恭也たちの未来を護る!
護りきる。
だからそう、

(殺すぞ、ざから……!)

殺す。
このざからを殺す。
この超越者をコロス。
この強者を斬殺し尽くす。
この人外を刺殺の穴を空け尽くす。
この妖怪を動かずとも要殺してくれる。
この真に認めた者を斬りつけ切りつけ撃殺する。
殺す、コロス、斬殺し、刺殺し、要殺し、撃殺し、扼殺し、抹殺し、焚殺し、磔殺し、禁殺し、捕殺し、撲殺し、殴殺し、爆殺し、縊殺し、圧殺し、絞殺し、惨殺し、射殺し、虐殺し、殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺してコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテ殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス殺す――
不破である己は殺す。
不破である己はあらゆる方法で殺す。
不破である己は己ごと大切な者の敵を殺す。
その全てを己はできる。
だから、

「殺す……」

ざからを殺す。



「っ……!」

ざからは大きく目を見開いた。
なんだあれは?
あれが人か?
恭吾の何かが変化したわけではない。むしろ何も変わっていない。
だが、ざからは一歩後ろに下がっていた。
気圧されたのだ。
妖怪であるざからが、化け物であるざからが。
恭吾を……恐れた。
しかし、それを認めてなお、重圧と恐怖を振り払い、ざからは再び戦争を始めた。

「かっ!」

振るわれる巨剣の残光を縫うように、恭吾はざからへと近付いていく。
一閃。
下からの振り上げに、ざからは上半身をずらして躱し、カウンターとばかりに、巨剣を力任せに叩き落とす。
その一撃は恭吾の右肩を断ち、腕ごと切断したかのように見えた。

「なに!?」

ざからは当たると思っていなかった。
今までもこの程度の攻撃を躱してきた恭吾を、ある意味信頼していたのだ。
だが、ざからの攻撃は確かに、恭吾を……

「なっ!」

しかし、さらなる驚愕がざからを襲う。
確かに肩口から恭吾の腕を切断しかのように見えた。だが、手応えはなく、また次の瞬間にそこを見れば、恭吾の腕どころか、恭吾自身がどこにもなかったのだ。
目の前にいたはずの恭吾は、なぜかざからの右斜め前にいる。攻撃を躱したわけでなく、小太刀を振り上げたままの姿で。
ざからの首を動脈ごと斬られ、大量の血が舞う。

「馬鹿な! 場所が違うだろう!?」

そんなことは気にもせず、ざからは叫ぶ。
恭吾は、目の前から攻撃をしかけた。そして、ざからはその恭吾を斬ったはずだったのだ。
だというのに、そこに恭吾はおらず、認識した場所とは違う……一歩分ほど隣りに存在し、逆に斬られた。
間違いなく、恭吾は追撃を放ったわけではない。ざからの攻撃を躱し、高速で一歩ずれたわけではない。
最初からざからが斬ったあとに認識した場所にいたのだ。

「幻覚か!?」

否と恭吾は首を振る。

「お前たちのような人外の存在は、少々感覚が鋭すぎる。多少気配をずらしてやれば、阿呆のようにひっかかる」
「っ! 気配をずらすだと!」
「恭也たちが、訝しげに見ているぞ? お前が見当違いの場所に攻撃をしかけたとな」

恭吾の言うように、離れた場所にいる恭也たちは、ざからが訳のわからない攻撃をしたとしか認識していない。
斜め前にいるはずの恭吾を無視し、目の前に巨剣を振り下ろしたのだ。正気すら疑うだろう。
だが、それは恭吾の策略。
ざからの鋭敏すぎる感覚を逆手に取り、『気配だけ』を横にずらし、そこに自分がいると彼女に誤認させた。

「気配をずらす、お前はそのようなことまで可能なのか」

人外であるざからですら、どのようにそんなことを可能にしているのか理解不能だ。
気配とは、生物が勝手に発するものだ。それを自分がいない場所に移すなど、どう考えても無理だろう。

「俺の一族は、暗殺から殲滅まで生業にするのでな。気配の扱いに関しても、多少は無茶が効く鍛錬方がある。一歩分の距離ぐらいならなんとかなる」

言いながら、恭吾はもう一刀で横薙ぎを放つ。
しかし、ざからは首から血をまき散らしながらも、後ろへと飛び躱してみせた。
体勢を立て直したときには、ざからの首の怪我は、すでに塞がっていた。

「「化け物め」」

同時に二人は、先ほどと同じことを言い合う。
一瞬で致命傷を塞いだざからが化け物なら、またその化け物に、人間であれば致命傷であるような怪我を負わせた恭吾も化け物だ。

「人間程度が、人間程度がここまで来るか! 人間程度が妖を相手にこうまで戦うか!」

しかし、ざからはそれでも笑い、貶すようにして恭吾を褒め称える。

「妖怪程度が思い上がりも甚だしい。その驕りがお前を殺す。人間を骸しか深く知らないお前が、人間を舐めるな」

対して恭吾は、鼻で笑うだけだ。

「我を程度か、剛毅よな」
「確かに強い、が、お前のような者と戦うのは初めてではないのでな」 

恭吾は、カチと音を立てて、再び小太刀を構える。

「なぜこの世に人間が溢れているのかを考えてみろ、ざから」
「なに?」
「人間は弱い。だが、こうして今の世は人を中心に動いている。人がこの世界を支配している。それがこの星にとっていいことなのかは知らないがな」
「だからどうしたという?」
「お前たちのような存在の方が、人間などよりも余程強い。いや、人間は獣にすら負ける。中型の犬にも勝てんよ。だが、それでも人は世界を支配し、人の世がこうまで続いた」
「お前たちは道具を使う。高い知能がある。それ故であろう」
「それはお前たちも同じだ。今こうしてお前も剣を使っている。俺の知り合いには、お前側に近い者、お前側である者も多くいたが、その中にとて高い知能を持ち、人間以上の科学力でそれ以上の物を作り出せた者がいた」

人は科学力で世界を支配したと言う者が多いが、そんなことはない。科学が一気に進歩したのは、ここ百年から二百年ほど前からだ。
その前は、どうやって地を支配していたというのだ。
むしろ夜の一族たちの方が高い科学力を持ち、知恵者もまた多く存在している。
つまり人間は、身体能力以外のものさえ、人でない者たちに負ける。

「では、数だろう。お前たち人間は群れる」
「人が溢れている理由を聞いて、数と答えるか」
「む、そういえばそうだったな」

答えと理由が一緒になってしまっていることに、ざからも気付いたらしい。
そんなざからに恭吾は苦笑を浮かべた。

「間違ってはいないだろうが、正しくもないか」
「む?」
「数。それは決して物量でお前たちと戦うという意味ではない。数が多い分、俺たちには色々な者がいる。その中には、お前たちに対抗できる者もいる、ということだ」

それは骸であり、今ここにいる恭吾。
人間には様々な者がいて、同じ者は誰一人として存在しない。

「それが個性だ、ざから」

個性。
それこそが人間の強み。

「お前たちに個性がない、などとは言わない。だが、お前たちは寿命というものがないが故に、人間のような激しい個性というものがない」

人外は、似通う者たちが多い。外見ではなく中身がだ。
長く生きられるからこその停滞。
高い身体能力があるが故の停滞。
高い知能があるが故の停滞。
停滞とは、個の成長を妨げ、個性を奪う。

「俺たち人間は、限りある生を生き抜くために、限りある時間で後世に今あるものを伝えるために、自らを高める。
自分以外を認識し、己を確立する。それが人間だ」

故にこそ、人間は強く、弱い。

「多種多様な個性。他より強く輝く個性。それらは、お前たちをも越える可能性を持つ者を必ず生み出す。だからこそ、お前たちではなく、人間がこの星を支配した」

故にこそ、

「俺はここで負けるだろう。だが、いずれお前をも越える可能性を秘めた個性が現れ、必ずお前を倒す。いや、倒さずまでも、必ずお前を越える者はいるのだと、忘れてくれるなよ、ざから」

自分では勝てないと宣言しながら、恭吾は笑う。
お前は必ず負けると、恭也を見た。

「少なくとも、その可能性を、個性を持つが者が、ここに一人いる」

それこそが己の勝利だと、恭吾を宣言してみせた。

「人間は次代に己の個性を残す。次代にはそれを受け継いでくれる者がいる」

ここで死のうとも、己の全てを受け継ぐ者はおり、その可能性は、個性は、己を越えて、必ずこの世に残り続ける。
骸の個性を継いだ男は言う。
それはそう、

「進化」

そう呼べるものだ。
個性によって人は進化する。
一代で、ただ長く存在するざからたち人以外にはできないもの。
ざからの短い一言に、恭吾は静かに頷く。

「俺は詳しくは知らないが、今時の漫画やアニメ……フィクションに登場する人物というのは、人間でも武術などやらずとも強く、魔法、だったか? そんな力を持ち、本来の人間の力を越えるものを持つものが多いらしい」
「それが?」
「所詮はフィクションだ、ということだ。それはただ人間の強みを消しただけの代物。人は弱いからこそ成長し、その弱さを次代に克服してもらうおうと、今の時代にできることを残して生きて、死ぬ。
少数【一人】だけが何でもできる。少数【一人】だけが強い。少数【一人】だけが魔法を使える。そんなものは人の強さでもなんでもない。むしろ人間としては、そいつらはどこまでも弱く、人を退化させる」
「…………」
「他の人間より力をつける才能がある。他の人間より速く走る才能がある。他の人間よりも速く動く見ることができる目がある。他の人間よりも病気になりづらい。それは才能であって、その人間のそのものの個性ではない。
本当の個性とは、その人間がその生涯で築き上げるもの。最初からあるものではない。一人の人間がほんの少しでも進化し、それを次代に繋ぐもの。
一代限りの力になんの意味がある。一人でしかない個性に未来はない。一代限りの者に進化などない。それを基準にしては、人間の世界は決して回らない。個性は一つでは意味がない。だから人間は一人では生きられない。
才能があるかないかなど関係ない。己の個性を次代に繋ぎ、繋いでくれるなら受け継いでもらう。それが俺たちの強さだ」

恭吾は、構えを解かず、しかし小太刀を掲げてみせた。

「これ【御神流】も一つの答えだ。先達はこれを次代に繋げてくれた。バトンを後世に渡すたびに進化させながら。
だからこそ、今の俺があり、今の俺の個性がこれだ。俺一人では、ここまでこれない。
故に俺もまた次代に繋ぐ。俺の力【個性】を継いでもらい、次代にはもっと強い個性を持ってもらう。決して一人ではない強さを得て欲しい。
綺麗事でもなく、幻想でもなく、事実として人は一人では生きられない。強くなれない。一人だけ強いのであれば、それは次代を弱くする。一人だけが先に行こうと他はついていけない。周り同じ人がいる、過去に自分へと繋いでくれた人がいる。だから人は強くなれる」

一瞬だけ恭吾は目を瞑り、再び開く。

「それが、人間の化け物たちへの対抗手段であり、こうしてこの星を統べた力であり、俺たち人間の勝利というものだ」

負けを宣言し、それでも勝利を宣言し、恭吾はさらに深く構えた。
それを見て、ざからは……

「くっ、ふっ、ははは……あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」

大声で笑った。
嘲笑ではなく、先ほどと同じく嬉しくて、楽しくて仕方がないと笑った。

「そうか! そういうことか!!」
「…………」
「人間とは、人間の強さとは!」

人間以外にはない強さ。

「羨ましいものだ。『独り』ではない人間が」
「阿呆、お前たちとて、人と繋がることはできる。俺が出会った人以外は、大半は敵だったが、それでも友も多くいた。その全てと、この時の果てで、離れてしまったがな」
「そうか。お前には教わってばかりだ」

骸以上に、とざからは続け、今度は柔らかく微笑む。
その微笑を見て、恭吾は一つ息を吐き、言葉を紡ぐ。

「さあ、もう終わらせよう。いつもより喋りすぎた上に、俺も限界だ」
「ふむ、我はもっとお前と遊びたいところなのだが」

そう言いながらも、ざからもまた巨剣を初めて構えてみせた。
それを見て、恭吾は構えを一度解き、両方の小太刀を納刀。そして、その鍔に手を添え、再び腰を落として構える。

「最後だ。届かせてもらうぞ、ざから」
「来るがよい、恭吾」

人間でも、妖怪でも、化け物でもなく、相手の名前を呼び合う。
二人はお互いを認め合った。ならば、呼ぶべきは認めた相手の名以外にない。
そして、

「っ……!」

恭吾は駆けだした。
それを向かい打つように、ざからは巨剣を振り上げる。
同時に、恭吾の姿が掻き消えた。

「っ、見えぬか!」

先ほどと同じ高速移動。だが、もうその姿を、ざからでも視認できなくなった。
速くなったわけではない。それならばざからは例え音速でも見切る。
体捌きで逃れているわけでもない。それならばある程度予測はできる。
しかし、見えない。

「死角を……!」

超高速で、ざからの死角を移動し続けている。先ほどの体捌きで捉えられぬ動きとは似て非なる動き。
最小限の動きで、ざからの視界から逃れ、死角に入るその人を外れた機動力。
やはり音速すら見切るざからでも、どうにもならない動きだ。
これも人としての経験の賜物なのだろう。
いや、違う。
恭吾は、この短い間に進化したのだ。
限界を越え、それでも勝てないと、さらなる限界を超え、それでも上にいかれるのなら、さらに壁を破る。

「強いな、恭吾。お前は強い」

この遊び、やはり……

「ふっ……!」

息を吐き出し、ざからは力の限りに巨剣を振り下ろした。
雪を吹き飛ばし、地が爆ぜる。
そして、



恭吾はモノクロの雪景色の中を駆ける。
ざからの視界から逃れるためには、ざからの視線の動きを見切り移動し続ける必要がある。
ざからの動き全てを見切る必要などない。そんなことはざからを相手には不可能だ。
視線だけを見切ればいい。それだけを見切れればいいのだ。
だが、それだけの見切りさえ、神速だけでは足りない。
神速すら見切り、ざからの視線は絶えず恭吾を捉え、動いていた。
ならば、

『……っ!』

ド………………ク………………ン、と心臓の鼓動がありえないほどにまで長くなる。
神速二段掛け。
神速の中で神速を重ねる馬鹿げた行為。
御神流の使い手が、士郎や、静馬や、一臣や、美沙斗が、誰もが一度は思いつき、誰もが辿り着けなかった境地の先の境地。
神速の適性以上の適性【個性】を持たなければならない境地。
神速を使い続けた一族に生まれたが故に、その個性を長く受け継いでくれが故に、恭吾【恭也】の代に至って手に入れた進化の果て。
膝が砕け、まともに神速を使えないというのに、最も適性があったというのは笑える話だ。

『…………』

見える。
ざからの視線の全てが見える。
神速重ね、神速の二段掛けとも言えるそれは、決して今まで以上の速度を叩き出すものではない。
元々神速というのは、肉体のリミッター解除……俗に言う火事場の馬鹿力を意図的に引き出すものだ。
肉体のリミッターが解ければ、子供でも大人が持ち上げられものを持ち上げられ、女性でさえ通常の男など歯牙にかけないほどの力を引き出せる。
常に肉体を鍛えている人間ならば、相乗効果でとてつもない力となるのだ。
無論、デメリットも多いが、それは今更語ることでもあるまい。
この特性のお陰で、脚力すら数倍に跳ね上がり、常に本来の速度を上回りながらも、短い距離でも常にトップスピードを維持できるため、使われれば、常人どころか、達人でさえ消えたように見える。
無論、リミッターを腕だけ、足だけなど部分部分で解除できるわけもなく、とてつもない怪力さえ実現させるのだ。
速い話、神速とはすでにリミッターを解除している状態だ。その中でもう一度神速を使ったところで、またリミッター解ける、などということはない。
一度目の神速で、すでに肉体の100%の力を解放している。それ以上の力があるわけがないのだ。それが限界値。元々ないものをさらに20%など上乗せできるわけもない。
つまり神速を重ねようが、速度に変わりはない。
二段掛けの強みとは、恭吾だけが可能としたその境地は、速度ではない。
見切り。
時間感覚をさらに引き延ばし、知覚領域をさらに拡大し、思考速度を極限にまで速める。
ざからでさえ立ち入ることができない領域。
外ではなく内という面で、このとき恭吾はざからさえも越えた。
視界から逃れ、死角へと。
ざからが気付くと見切れば、その際にできあがる死角へ。
ただただそれを繰り返す。
膝が悲鳴を上げ続けるが、それを精神力のみで押さえつけた。どうせこれで最後だ。こうまでしてもわかるのだ。
自分は負けるのだと。
人間の姿でありながら、人間ならば確実に死ぬであろう首を切られて生きているような存在をどうやって殺せというのだ。
届かせることができたとしても、どうやっても一撃。
その一撃で、ざからを仕留められるとは思えない。
だが、それでも届かせる。
この時点で、恭吾の目的はすでに達した。
あとは一矢報いるのみ。
腰を屈めながらざからの目の前へと踊り出る。
そのときにはもうざからの視界から逃れることはできなかった。ざからは確実に恭吾を捉えている。
振り上げられる巨剣が、異様なほどの低速で見えた。
しかし、それは恭吾の身体さえも遅くなっているこの領域で、確実に恭吾よりも速い。
ならば最後に放つ一撃は決まった。
奥義などではなく基礎。
その中でも、最も高等技術のそれを恭吾は、寸分も違わず刺突として繰り出した。
普通の人間ならば感じることもできないであろう重すぎる空気。それを掻き分けて進む刃。
そして、



「がっ!」

いつの間にか、ざからを通り過ぎた恭吾が、苦悶の声を上げた。
恭吾の胸が縦一文字に裂け、夥しいほどの血液をまき散らし、純白の雪を赤へと染める。
結果は一つ。
結局のところ恭吾の動きは見切られ、ざからを斬るために近付いた交差の瞬間に斬られた。
所詮人は化け物には勝てない。
所詮人は化け物にはなれない。
それだけのこと……
だが、

「やはり……」

口から鮮血を滴らせ、ざからはやはり笑っていた。
ざからは、雪の絨毯に倒れ込んだ恭吾へと振り返る。
そこには……

「やはり、人の形を持つ者は、お前には勝てぬ」

人間であれば心臓がある場所。
その場所から、滝のように血を流すざからの姿があった。

「受け止めたはずが、これか」

恭吾の剣を振り下ろした巨剣で、彼の身体ごと切ったはずだった。
だが恭吾の剣は、ざからの巨剣をすり抜け、心臓を突き刺したのだ。その代償に自分の身体を断たれながらも。
これが不破恭吾。
人の形を持つ者には、誰であろうと負けない人間。
人の身に姿を括ったざからは確かに弱くなった。
『全力』になって、ようやく一つの山を吹き飛ばせる程度に弱くなった。
しかしそれでも、『本気』で戦った【遊んだ】のは初めてのはずだった。

「くっ、くくく」

不破恭吾という個性。
彼はもうここまで己を進化させていた。
そして、これでもまだ完成していない。
この個性は、まだ発展途上。次の個性に繋げるには、まだ足りないと。
恭吾も……そして、恭吾と同じ存在である恭也もまだ完成していないのだ。

「なるほど、最初から我に勝ち目などなかったか」

骸はすでに完成していただろう。彼らよりも長く生きた彼は、きっと完成してしまっていた。
だが、彼らは違う。
これからも変わるのだ。
まだ完成していない個性。
永遠に変わらないざからが……勝てるはずがない。
人間は確かに強くはない。
だが、決して弱くなどない。
その人間の中でも、不破恭吾という個性は、誰よりも輝いていた。
恭吾よりも強い人間はいくらでもいるだろう。
だが、それでも彼に勝てる者は少ない。
彼は、小細工なしにただ強いのだ。
人間とは、より強大な存在には、小細工を弄する。
相手を怒らせ、隙を狙い、もしく先ほど恭吾が言ったフィクションにあるような力を求める。恭吾からすれば、霊力すら小細工に成り下がる。
が、そんな人間は決して彼には勝てまい。
小細工とは、自分が弱いときにすることで、それに頼り続ければ、成長などしない。そこで止まる。
恭吾は人間でありながら、小細工に頼らない。人間が本来持つ力だけで、化け物だろうと、小細工を頼るだけの人間だろうと軽々と打倒する。そうできるように、人間としての力を高めてきたのだ。
小細工を弄するだけの人間と、人間の力を高めてきた人間のどちらがより人間らしいのか。
その答えきっと人によって違うだろう。
だが、化け物であるざからからすれば、答えは後者だ。
どこまでも憧れるのは後者だ。
ただただ成長することに賭けた後者。
どこまでも強いのは、人間でありながら、人間の殻を破ろうとした恭吾。
だからこそ、

「この遊び……我の負けだ……恭吾」

ざからは、生まれて初めて、己の負けを認める。認めるしかない。
遊ぶという行為は、ある程度公平であるべきと、ざからが己に決めた弱点。それでも完全に公平ではない遊びは、ざからに勝利を呼び込むはずだった。
しかし、恭吾はその弱点を的確についた。

「こふっ!」

そしてざからは、口から大量の血を吐き出し、雪の上へと恭吾と同じく倒れ込んだ。




◇◇◇



結局のところ、自分は何もできなかったらしい。
恭吾は、自分の姿すら認識できない闇の中で、死へと繋がる闇しかないトンネルの中で、自分の姿が認識できないにも関わらず、感覚さえ消失しているにも関わらず、自分が自嘲の笑みを浮かべていることに気付いた。

『何も……』

過去に戻ってしたことは結局、恭也に奥義を少しだけ教え、美由希に少しだけ指導して……たったそれだけだ。
何も残らない。
自分の目的さえ果たせない。

『大見得を切ってこれだ』

高町恭也であり、不破恭吾であると誓いながら、これで終わり。
止めたいわけでも、守りたいわけでも、変えたいわけでもなかった。
止めたくて、守りたくて、変えたかった。
そんな矛盾した想いは結局どこにも行き着くことはなかったのだ。

『本当に俺は……』

今更ながらわかる。

――俺は……

願いはあったのだ。
目的はあったのだ。
恭也を強くする、それ以外の願いと目的があったのだ。

『見たかった……』

見たかったのだ。
この世界の自分が歩く先を。
強さは関係ない。
御神流は関係ない。
剣士であることも関係ない。
ただ見たかったのだ。
自分と同じように、大切な人たちと共にある恭也を見たかった。恭也と共にある大切な人たちを見たかった。

『本当に、失ってからわかるものだな』

ただただ失ってしまったものを見たかった。
恐らく、どこかでわかっていたのだ。
もう自分は、誰にも会えないと。
もう二度と、自分が大切だと思った人たちには会えないのだと。

『笑えるな……』

この時代の人たちと、自分の時代の人たちを混同しているつもりはなかった。
いや、今もしていない。
この時代の恭也とて、もはや己とは別の道に行っている。
それでも、今の願いはそれだ。
死ぬ前に願うことはそれだ。
とてつもなく歪み、誰も彼も汚す代償行為。
だけど、それでも……

『見たかった……』

己にはもはや築けないものを築く恭也が見たかった。
自分と同じ必要はない。
那美と久遠とは出会えないかもしれない。晶に師と呼ばれることはないかもしれない。忍と友になることはないかもしれない。
それでも……

『それを守りたかった』

恭也を自分と同じようにしないために。
こんな過去に赴くことがないように。
不破恭吾として守りたかった。
高町恭也として見守りたかった。
未来を守りたかった。
止めるのではなく、愛しい者を守るのではなく、変えるのではなく……
ただ、未来を守りたかった。
恭也たちが決めた未来を選択するために、未来を守り……未来を見たかった。

『しかし、もう恭也に全て任せればいいか。俺が守る必要はない。見れないのは残念だが』

恭也は強くなるだろう。
自分がいないために、想定の速度で体得は難しいかもしれないが、すでに種は蒔き終わっている。
恭吾の教えを守り、開花できるかは恭也次第。
しかし、開花できたならば、恭也は御神流において最強へと至る。
御神の剣士を越える御神の剣士となるだろう。

『擬似的とはいえ、答えを見せられて良かった』

ざからとの戦いで、恭也が至るべき境地の一旦はもう見せた。
少なくとも、恭也は勘違いしたはずだ。
それが『普通』なのだと。

『神速……』

答えはそこにある。
それこそが、恭也の到達点だ。
ざからに一撃を入れるためよりも、そのために恭吾は、神速の二段掛けを使ったと言っても過言ではない。

『さて、もうやることは残っていないな』

恭吾の強靭すぎる精神は、もう未練さえ断ち切った。
未練を残さないことは、精神の強靭さを表さない。むしろ弱さであり、無為に生を過ごしたか、本当に悔いがなかったかだ。
未練を瞬く間に断ち切れてしまうということこそが、本当の強靭さ。

『行くか』

父さんに会いに。
それはこの世界の父なのか、自分の世界の父なのかはわからないが。
自分の身体を認識できないが、それでも恭吾は歩き出す。
真の死への道を。
死の道を歩き逝く。
死のトンネルを潜り逝く。
いつものように無表情であることが何となくわかる。
自分の死などその程度のもの、その程度のことだった。死に感慨などわきはしない。もう未練は断ち切った。
だから逝くだけ。

『……恭吾』

そんなとき、声が聞こえた。
姿は見えないが、認めあったからこそか、それとも何となくか、それが誰であるのか、恭吾はすぐに理解できた。

『ざからか? まさかお前まで逝くというわけではないだろうな』
『戯け。お前も我もまだ死んではいない。まあ、どちらも虫の息だがな』
『……お前もか?』

まだ生きているとか、虫の息などの言葉よりも、むしろそちらの方に驚いた。
彼女が死にかける理由がない。人間なら間違いなく死ぬであろう首の怪我を瞬く間に癒し、それでも本来なら出血多量に陥るはずが、全くそのようには感じ取れなかった。
正直、心臓を突き刺した程度死ぬとは思えない。

『人間に括った際、自ら心の臓を唯一の弱点とした』
『意味のないことを』
『ふ、お前との遊びをより有意義にするためのものだったのだが、まさか本当にそれで負けるとは思っていなかった』
『それでも俺の負けか、よくて相打ちだろうよ』
『いや、お前の勝ちだよ、恭吾』

よく言うと恭吾は苦笑……実際にはわからないが……し、小さく首を振る。

『全力で戦ったわけではないだろう、お前は』
『ふ、それがどうした』

ざからは全力ではなかった。そんなこと二つも攻防を重ねれば、簡単に予想できることであった。
本来の姿ならば吐息で山を更地にするざからが、『たかだか人間に括った程度』で、あそこまで『弱く』なるわけがない。
人間の姿でも全力になれば、一撃で山を更地にし、全力で戦い続ければ、十分とかからず、海鳴りを壊滅できるだろう。
恭吾の予想でしかないが、それはもはや確信に近い。
恭吾と戦っていたときの彼女は、まるで全力を出していなかったのだ。

『お前が全力だったなら、俺は一撃ともたん。一撃も入れられん』
『全力ではなかったが、我は本気だったぞ。お前との遊びで手を抜くものか』

出会ったときのように、ざからはくつくつと笑っているような気がする。

『よくぞ俺がそれの相手をできたものだ。今ばかりは自分に驚く』
『だろうな』

全力ではないが、本気。
言葉遊びのようにも聞こえるが、その凄みを恭吾は理解できる。
恭吾で言えば、相手を殺さずでいく気か、殺す気かでいく気かの違い。
ざからは恭吾を殺す気で挑み、そうでありながら、殺せず、それどころか殺されかけている。

『全力でいくべきだったと今は思っておる』
『まあ、一撃で終わるからな』

ざからのよく言うという言葉が聞こえた。そして、先ほどの恭吾のように苦笑し、首を振っているように感じる。

『それでも我は負けただろう』
『ありえん』
『ありえるとも。お前は……お前とお前の過去の存在は、我の常識すら通じん。どの動きも、全力になろうが見切れなかっただろうよ。
恐ろしいな不破恭吾と、不破恭吾の同一の存在は。気配をずらすという攻撃の前のお前は、心底恐ろしかった』

ざからを殺すと自らに暗示をしたときのことを言っているのだろう。
恭吾は、自分自身でも阿呆だと思える程の殺気と殺意を垂れ流していた。
恭吾のあの殺気と殺意を向けられて、それでも恐怖だけで済んでいるというのは、むしろざからを誉めるべきだ。
普通の人間ならば、誰であろうと許しを請うか、それすらできず失禁し、意識を失うか、自ら自殺するか、気が狂うか。
不破の本当に相手を殺す気になったときの殺気と殺意というのは、それだけのものなのだ。
本来人は殺気というものを体感できても、殺意を感じ取ることはではない。殺意とは相手を殺すと意識すること。相手を殺すと思考すること。それを本当に感じ取ることができるのは、いや知ることができるのは、HGSぐらいのものだ。
だが、不破の殺意は相手に知らせる。
殺すという殺意を本能に叩き込む。
極大の殺気と、狂気の域にまで入る殺意の前では、誰であろうと、それこそ達人と呼ばれる者であろうと、超常者であろうと、自らの死を感じ取るだろう。
本当にその実力がなかろうと、それだけで相手を殺す。
御神の極みが閃ならば、不破の極みは相手を殺すという殺気と殺意。

『あれを見て思った。我が全力になろうとも、お前には勝てない。どのような力を使おうと殺されると』
『過大評価だ』
『過大などであるものか。まだ言い足りん』

いや、過大評価だ。
殺すと決めた不破が殺せなかったのだから。
これは己の力不足。
完全に己を殺しきれなかった。本当に殺す気であったならば、あのように長々と語りはしない。

『まあ、もう語り尽くした。遊び尽くした。だから、もういいだろう』
『うむ。そうだな』
『ああ。では、俺は先に逝くぞ』
『阿呆。だからお前もまだ生きている。帰るぞ。ここではお前の顔が見れず、つまらん』
『帰る?』
『雪が今、必死にお前を生かそうとしている。我までもな。ここまで来れば、あとは我が変わり、お前を戻せる』
『…………』

雪が。
付き合いなどなかったというのに……
骸との約束故か。

『そうか……そうか。ならば戻ろう』
『うむ。そうでなくてわな。安心しろ。我はもう誰も喰わん。お前が勝ったのだからな』
『わかった』

別に死にたいわけではない。生きられるというのなら、生きていたい。
恭也たちの未来を護れるのであれば、否などない。
恭也たちのために生きたい。

『では行くぞ』

見えないはずの、ないはずの手をつかまれた。

『ざからの手は小さいな』
『これでも今の身体は女だからな』
『柔らかく温かい』
『本来なら性別などないのだが。身体がこうなったことで、心まで女となったか。その言葉、嬉しいぞ』
『そうか』
『ああ』
『連れていってくれ』
『ああ』

そうして、恭吾はざからの手を強く握った。
こそばゆいかのように、ざからの手が少し震えたのがわかった。しかし、その手を離すことなく握り返してくれる。
それは自分がまだ生きているのだと教えてくれるものだった。
そして、恭吾はざからに手を引かれ、向かおうとして逆の方向へ歩き出したのだった。



◇◇◇



目が覚めると三つの顔があった。
普段無表情な顔を心配げなものに変えた恭也。
涙を溜めて、自分の手を握る雪。
二人よりも少し離れた場所で、自分の心臓に手を当てながら微笑むざから。
この三人に、自分は生かされたのだ。
何を言うべきだろうか。
心配してくれたであろう弟子に。
助けてくれた雪の少女に。
生かしてくれた自分が認めた少女に。
迷って、迷って、結局出てきた言葉は一つだった。

「ただいま」

そんな一言。
真に高町恭也として、不破恭吾として……三人だけではなく、この時代に住む全ての人たちへ。
その言葉に返ってきた言葉また一つ。

『お帰りなさい』

その言葉をくれたのは、きっと三人だけではなかった。
聞こえたのだ。
時代すら超えて、恭吾の大切な人たち皆の……その言葉が。



あとがき

完!
エリス「いやいやいや、早すぎよ! まだほとんど何もしてないでしょ!?」
ぶべっ! い、いや、ほんとに、当初はここが最終回という案もありました。
エリス「もう!?」
いや、当初はもうちょっとあとというか、原作通りの時間軸だったんだけど、そのときのプロットでは、恭吾は片腕を奪うものの、ざからに負け、死亡。
そして、恭也が十年後、恭吾の全てを受け継ぎ、越え、美沙斗たちも倒し、最後にざからに勝利して終わるという。
エリス「暗くない?」
まあ、私の大抵の作品は、似非バッドエンド一直線だし。とはいえ、終わりませんよ。
エリス「ホントに完みたいな終わり方だったけど」
まあ、ホントにまだ何もしてないしね。恭也にまだ教えないと。
エリス「そのへんの伏線もあったみたいだけど」
伏線は一つだけじゃなく、小出しにしていかないとね。とはいえ、今回は少々やりすぎな部分も多いし。
エリス「確かに。音速とか、ソニックブームとかいう単語が普通に出てくるし、それに対抗する恭吾って」
これでも膝が治ってないから、私の作品では、恭吾は真ん中ぐらいの強さなんですけどねー。まあ、ざからは全力ではないんですけどね。
エリス「殺す気になった恭吾はそれだけ恐い、ということなのかな」
そんなとこです。
エリス「と、今回はこんなとこかな。次は?」
次はまたいつになるかわかりません。なるべく早くしたいところですが。
エリス「では、また次回で。ありがとうございました」
ありがとうございました!



投稿ありがとうございます。
美姫 「今回はとうとうざからの登場ね」
だな。骸との約束。
美姫 「前世の約束なんて知らないんだからね。と言って逃げるわね、アンタなら」
当たり前です。と、それは兎も角、恭吾の全力戦闘が今回初めて見れたという。
美姫 「いや、もう本当に凄いわよね」
確かに。もう読んでて思わず力が入りそうになってしまいました。
美姫 「無事に決着もついて、どうにか生き残る事もできたしね」
だな。これから、ざからや雪がどうなるのかが特に気になるかな。
美姫 「次回で分かるのを楽しみにしてますね」
次回も楽しみに待っています。
美姫 「待ってますね」



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