まえがき
これは永遠の囚人の続きですが、今回は唐突にエンドです。そりゃあもう今まで以上に読む人置き去りな感じで唐突に終わります。
デュエルキャラはまったく出てきません。むしろもうデュエルセイバーとのクロスですらなくなってるかもしれません。さらに選ばれし黒衣の救世主同様、独自設定満載で、ほとんどネタばらしのような話です。そういうのが嫌いな方は読まないことをお勧めします。
走る、走る、走る、走る、走る、走る。
キョウヤ……いや、恭也はただ走る。
一直線に駆け抜ける。
この先に求めていた相手がいる。
永遠の時間、永劫の時間求め続けた相手が、この先に存在している。
菜乃葉と八景を握っていた指にも自然と力が入る。
永い間この時を待ち続けた。
そして今がその時であり、終わりの時。
最終地点が見えた。
恭也は速度上げ、その中へと飛び込んだ。
永遠の終わりと始まり
恭也が飛び込んだその世界には何もなかった。
確かに立っているのに、でも地面は見えない。空も見えない。
ただ白い世界。
そこはまるで、あのなのはといた二人だけの世界のようだった。
そう本当にあの時と一緒だ。
なぜなら恭也の目の前には……
「ここまで来ちゃったんだ。ここに来れたおにーちゃんは最初のおにーちゃんだけだったからなぁ。すごいなぁ、今回のおにーちゃんは。あ、正確には前回のおにーちゃんか。
でもようやく私の願いが叶った」
「どういう……ことだ」
恭也はただ呆然と目の前の存在を見ながら呟く。
どいうことだ、それしか思い浮かばない。
「なのは……?」
目の前にいる少女は間違いなく彼の最愛の妹、高町なのはなのだから。
ここは神の次元。そこに彼女がいる。
アヴァターにいるなのはではない。
今、手に握っている純白の小太刀であるなのはでもない。
第三のなのは。
だが確かに彼女はなのはだった。
「にゃ? ここがどこだかわかってるんだよね? なら簡単じゃないかな。
なのはが神だよ」
「なにを……」
訳がわからない。
なのはが神?
「正確には遙か過去……おにーちゃんが歩んできた時間(とき)よりもずっと昔、幾つもの永劫、幾つもの永遠の過去、その時のおにーちゃんが神と相打ちになって、残った想いから生み出された新たな神」
なのはの声が耳から入ってくるが、その意味が恭也には理解できない。
「最初のおにーちゃんはね、救世主になってここまで辿り着いた。みんなを守るために神すら殺してみせた。その時のおにーちゃんは救世主だったけど、たぶんあなたよりもずっと弱かったよ。それでも自分の命を使って神を殺したんだ」
最初の恭也とかの意味はわからない、だが神がすでに死んでいた。
では目の前のなのはは。
「でも世界は神なしでは維持できない。だから前回の神が殺された時、世界がまだ生きてたおにーちゃんの記憶を読みとり、最後に思った私を神として具現化させたんだよ。
だから私は神でありながら高町なのは。おにーちゃんの記憶と想いから生まれた存在だけど、それでもその姿と考え方は全てその時のなのはに沿われている。まあ、私も成長してるからそれだけでもないけれどね」
なのはは淡々と語りながら恭也の目の前まで歩いてくる。
そして恭也へと手を伸ばし、その頬を愛おしげに撫でた。
「あは、おにーちゃんに触れるの初めてだよ、嬉しいな。やっと私の望みが叶った。このためだけに何度も繰り返してきて、やっと叶った」
「繰り……返す?」
微笑んで自らの頬を撫で続けるなのはに、恭也は呆然とした顔を崩せないまま聞き返す。
「そう。私がおにーちゃんと会いたかったから、だから何度も繰り返された。何度も何度も世界が同じように作り替えられた。
前までの神様ってバカだったんだよ。何も考えてないから失敗ばっかり、世界を作り直すなんて簡単なのに。私はそんなバカじゃないから」
前までの神。
それがどんなものであったのか、恭也にはわからない。
だがなのははそれには触れず先を続けた。
「でも私の目的は世界を作り替えることじゃない。そんなことはどうでもよかった。私の目的はおにーちゃんに会うこと。
本当に一度だけだよ、私自身が作り直したのは。高町恭也がもう一度生まれるように、一度全て0に戻して、そして私が知る世界を一から作り直した。そのときになのはが必ず白の主になるように少し細工したんだ。私はなのはだから、なのはが何を求めるかわかっててね」
なのはの求めるもの。
それは……恭也以外にありえない。
今の恭也とて、それによって存在している。
「そうして、今の状況ができあがった」
「今の状況?」
「メビウスの輪、無限の螺旋だよ」
メビウスの輪。
終わりのない螺旋。
恭也とて考えなかったわけではない。もう一人の自分が現れた時に、では自分の時も同じなのではないかと。あの時、自身の目の前に現れなかっただけで、他の自分がいたのではないかと。
だが……
「今のおにーちゃんは、もう何千、何億……無限と言っていいほどの繰り返しの中で生まれた高町恭也。それはおにーちゃんだけじゃない。本当の高町なのはも、その家族たちも、救世主候補たちも……みんな同じだけ繰り返してる」
それでも信じられるものではない。
「バカ……な」
繰り返していた。
こんな地獄の永劫を何度も自分となのはは繰り返していたというのか?
呆然とする恭也を見ても、なのはは笑みを崩さない。
「ホントだよ。もちろん、その間の過程はそれぞれ違う。例えばね、おにーちゃんが持ってた斬神と、なのはが持ってた白琴、あれも元は高町恭也と高町なのはなんだよ。結構半ばだったと思うんだけど、なのはが救世主になって、召喚器になっちゃうときにおにーちゃんも一緒に召喚器になったんだ。大河さんと未亜さんが使う、トレイターとジャスティみたいな感じ」
トレイターとジャスティの関係というのは、恭也にはわからない。
だが、白琴と斬神の……恭也となのはの関係から何となく想像がついた。
「あ、でも二人が同時に召喚器になったのはそれが最初で最後だから。おにーちゃんも最初以外は救世主になることはなかったし。その前に使っていた召喚器は別のものだったよ。でも自分自身だからなのかなぁ、相性はよかったみたいだね。
う、でも神を斬るって名前はどうにかしてほしかったかも。私も神だし」
本当に嫌そうな顔。だけどどこか冗談っぽく言ったという感じの言葉。
それは本当になのはの表情。なのはの感情。
かつて傍にいた少女と同じ顔。アヴァターで再び出会った妹と同じ顔。
雰囲気も、しゃべり方も、全てが一緒。
だからわかってしまう。
この少女はなのはだと。
恭也だからこそわかってしまう。
「他には赤の主が毎回違ったのもそうだね。リリィさんだったこともあったし、未亜さんだったこともあるし、おにーちゃんが知らない、おにーちゃんの時と今回の救世主戦争では現れなかった人の時もあった。一番多かったのは大河さんで、その次におにーちゃん。ちなみに一番初めのおにーちゃんも赤の主だったよ」
これって浮気かな、などと言ってなのはは小首を傾げる。
だがすぐに、にぱっと笑って説明を続けた。
「だけどね、最初の神殺しのおにーちゃん以外は、どのおにーちゃんもここには来れなかった。これは私の作ったシステムのせいだと思うけど、みんな途中でダメになっちゃう。
孤独と絶望に蝕まれて、その心と身体をすり減らして、神への復讐心でもそれは取り除くことはできなくて、途中で力つきちゃう。そのたびに私も泣いたなぁ」
なのはは冗談っぽく泣き真似をした。
それはまだ呆然としている恭也を和ませるためだったのかもしれない。
それが失敗だったからなのか、なのはは少し苦笑する。
「召喚器・菜乃葉もおにーちゃんがいなくなっちゃうと消失する。これはどっちかっていうと、なのはが自分のおにーちゃんがいなくなったあとも存在し続けたくないだろうからそうしたんだけどね。私ならやだし、なんとかそのぐらいなら干渉できたから。
そうしてまたやり直し。正直、次のおにーちゃんと出会う前回のおにーちゃんっていう存在は希だった。その希なおにーちゃんもここまで辿り着くことはできなかったもん」
だから今回のおにーちゃんはすごいの、とやはり笑うなのは。
「お前は……なんでそんなことを」
恭也は納得なんかできはしないが、それでも理解できてしまった。
だから聞いた。
動機はなんなのだと、ひりつく喉から声を絞り出す。
それにもやはりなのはは笑って答える。
「にゃ? さっき言ったよぉ。私はおにーちゃんに会いたかっただけ。『最初』はそれだけだったよ。私はあんまりここから出れないから、直接会うにはおにーちゃんの方から来てもらうしかないんだ。
もっともこのシステムができあがったのは偶然。最初は繰り返すつもりなんかなくて、私でも知らないうちに世界は繰り返すことになってた。でもそれが本命になっちゃったけど。
おにーちゃんが会いに来てくれるなら、それがなのはへの復讐心でもよかったんだよ」
なのはへの復讐心ではない。神へのだ。
だが、その神がなのはだという。
正確には遙か過去の自分が生み出してしまった新たな神。
それでも彼女は確かになのはなのだろう。高町恭也が生み出したのなら、それは確かになのはなのだ。
「こんな……」
恭也は菜乃葉と八景を落としてしまいそうなほど、全身から力を抜いてしまった。
永遠という永い時、憎悪を向け、求めた相手は恭也にとって最愛の者だった。
こんな皮肉があるだろうか。
恭也が求めていた相手は二人いた。
一人は召喚器となってしまったなのは。
そしてもう一人、いや一柱……神。
だがそれらは同じ者だった。
愛する者と憎む者が同じ存在だった。
悲劇を通り越して喜劇に変わってしまっている。
「うん。わかる、おにーちゃんは復讐心をどうしていいのかわからないんだよね?」
「っ……」
「だったらおにーちゃん……」
片手で恭也の頬を撫でていたなのはが、今度は両手で恭也の頬に触れる。
そうして、なのはは唐突に笑みを消した。
次いで現れたのは悲しみ……いや、悲壮とも言っていい表情だった。
「なのはを……私を殺して」
「なっ!?」
なぜそこでそんな言葉が出てくるのかがわからなくて、恭也はもう何度目になるかわからない驚愕の表情を顔に張り付ける。
「私が求めていたのはおにーちゃんとたった一度でもいいから会いたいってことと、そして……おにーちゃんに殺されること」
「何を言って……」
「私が死ななきゃ、このシステムは崩れないよ。すでに本当のなのはは白の主としてあり、赤の主としてもう一人のおにーちゃんが割り当てられた。この構図は何度もあった。今、二人は協力しあってるけど、でもいつかなのはは必ず負ける。
なのはは自分の想いに負けちゃう。おにーちゃんへの想いで耐えられなくなる。そうして救世主になろうとする。それがいつになるかはわからないけど、白の主としてあるなら、破滅との戦争も、一度救世主が誕生していようと関係ない。それが終わった後にでも赤の精を殺せばそれでいいんだし、今回おにーちゃんがやったように、他にもいくつか裏技があるから」
それを完全に否定することが、恭也にはできない。
「私が言うのもなんだけど、なのはの想いはね、それだけ重くて、純粋なんだよ。必ずあの娘はおにーちゃんと二人だけの世界を求める。その心の底ではみんなといたいという願いを持ちながらも、それでもおにーちゃんを求めるよ。これは絶対に変えられないし、私自身変えたくない。
でも勘違いしないで、私は人の心自体は操ってない。それは元からあったなのはの想いだし、私にも人の心を直接操るのは無理」
なのはは恭也のために一つの世界を壊した。いや、より正確には恭也が壊した。
その時はすでに恭也もなのはも心が壊れていたが、それでもその想いは純粋だった。
だから否定することはできないし、その想いや、あの時の自身の決意、他の救世主候補たちの気持ちを、このなのはが操っていたなどとは恭也には思えない。
だから納得してしまった。
「だからそれを止めたいなら、救世主という役割そのものをなくすしかない。それには私を殺すしかないんだよ。それでもなのはの想いは止まらないだろうけど、だけどもう世界まで巻き込まれることはなくなる。おにーちゃんたちが繰り返すこともなくなるんだ」
だけど彼女を殺すことまで納得してやれない。
「だがそれでは同じだ! また新たな神が生まれて、そいつも同じことしたら!」
ここでなのはを殺したら、きっと恭也はまたなのはを想ってしまう。
そうなければ、結局また同じことの繰り返しだ。
だがなのはは静かに首を振ってみせた。
「ううん、そうはならない」
「なに」
「だって、次の神はおにーちゃんだもん」
「なっ!?」
自身が神になる。
そんな想像もしてない、することもできない答え。
「今のおにーちゃんは人でありながら、もう人を越えてる。一つの永劫の時の中で強くなって、その力は神も凌いでる。私じゃ間違いなく勝てない。たぶん前の……最初のおにーちゃんが殺した神だって勝てないし、そのおにーちゃんも今のおにーちゃんには勝てない。だから資格はある。それだけの存在力を有してる。世界もそれを認める」
「そんなことはどうでもいい!」
「おにーちゃん……」
「俺に……俺になのはを殺せと言うのか!?」
その恭也の叫びを聞いて、なのはは寂しそうに笑う。
「間違えないで、なのはは本当のなのはじゃない。本当のなのはは今、おにーちゃんの手の中にいる、アヴァターにいる。私は最初のおにーちゃんの想いから生まれたただの偽物だよ。
そして私を殺せば、おにーちゃんは復讐を果たせる。だっておにーちゃんが殺したかった神は私だから。なのはではない紛い物の私が、この地獄を作り出した全ての元凶なんだよ」
「同じだ! こうしていてわかる! お前はなのはなんだ! アヴァターにいるなのはと一緒で、俺の知るなのはと同じなんだ! そのなのはを俺が殺せるわけないだろう!」
結局の所、生まれ方が違うだけで彼女はなのはだった。恭也が愛した者だった。それが何の愛かだなんて、この際関係ない。
高町なのはである以上、高町恭也は決して傷つけることなどできやしない。
それを恭也はアヴァターにいるなのはに思い知らされた。
正確には同じ者ではなかったとしても、全ての高町なのはは、あらゆる意味で全ての高町恭也にとって大切な者なのだ。
それを聞いて、なのはは少しだけ笑った。それは先程のような寂しそうなものではなく、嬉しそうにだった。
「やっぱりおにーちゃんは優しいな。どれだけ時間が経っても、そういう所だけは変わらない」
「誤魔化すな!」
「あは、ホントだよ。でも、お願い。お願いだから、私をなのはだと思ってくれるならなおさら……殺して」
恭也を見上げるなのはの目に涙が溜まる。
それは懇願。
遠い昔、恭也はこんなふうに頼まれた事をされたり、甘えられたりしたこともあった。
だが、今の涙はそんなものではない。
「全部、私のせいなの、今の状況の全部が。おにーちゃんがいっぱい傷ついたのも、いっぱい……死んだのも。
なのはがおにーちゃんに会いたいって思ったから、そのためだけに、みんなが傷ついた。全部がおかしくなった。それを知るのは今のおにーちゃんだけかもしれない。だけど、もう私が耐えられなくなっちゃった」
「なのは……」
「もう私は耐えられないんだ。おにーちゃんが死ぬ度に、私の心がすり減った、絶望で引き裂かれた。自業自得なのに、それでも辛くて仕方がなかった」
なのはは頬を涙で濡らし、懺悔するかのように叫ぶ。
心から絶叫するように。
自らが強いてしまった地獄の永遠を叫ぶ。
「私は……! 私はただおにーちゃんと会いたかっただけなのに! なのにおにーちゃんを殺し続けてる! だけど私は私自身を殺せない! だから最後の希望だった! この狂ったシステムを破壊できるのはおにーちゃんだけ、そのときだけ私はおにーちゃんに会えて、おにーちゃんに殺されることができる! この瞬間だけを永遠に待ち続けた!」
たぶん、なのはは誰も不幸にする気なんかなかった。だけど、いつのまにかこうなってしまった。
どこかで狂ってしまった。
なのは自身、知らないうちに繰り返すことになっていたと言っていた。
もしかしたら、自身の気持ちを甘く見ていたのかもしれない。世界よりも恭也を選ぶもう一人のなのは自身の気持ちを。
人は自分のことほどわからないことはないから。
なのははただ恭也に会いたかっただけなのに。
「正直に言うとね、本当の私も、それ以外の人たちもどうだっていい。だけどもうおにーちゃんが絶望していくのを、死んでいくのを見るのが耐えられないんだ」
先程言っていた恭也が死ぬたびに泣いたという言葉。それは冗談でも、和ますためでもなく真実であったのだろう。
なのはの瞳には、本当に悲しみ……いや、絶望が込められていた。
「本当に私はおにーちゃんに会いたいだけだった。これは本当なんだよ!
この世界にはなのはしかいない。他には何もない、誰もいない。孤独、それに耐えられなくて、ただおにーちゃんならなのはをここから助け出してくれるかもしれないって、孤独から守ってくれるかもしれないって、そう思って!」
恭也は唇を噛み締める。そのまま犬歯が唇に突き刺さり血を流し始めた。
なのはの言葉の一つ一つが、恭也の心に突き刺さる。
孤独。
恭也にはその地獄が理解できるから。
永遠の孤独を恭也は知ってるから。
だが、このなのははそれ以上の孤独を、恭也以上の時間をかけて味わってきた。自身のせいで死んでいく恭也を永遠に見続けて、責め苛まれ続けてきた。
立場を入れ替えた時、恭也はそれに耐えきれるか。
そんな彼女を、恭也がどうして責められよう。
その永い時の間に、なのはの目的が手段に成り代わってしまった。
最初は、本当に純粋に孤独から守ってほしかったのだろう、会いたかったのだろう。
孤独に負けて、後のことなど考えることができなくて、狂ってしまった。
その気持ちが恭也にはわかってしまう。
本当は、このなのはは恭也を恨むべきなのだ。
だって、彼女を生み出してしまったのは最初の恭也だというのだから。言ってしまえば恭也という存在のオリジナル。それが彼女を生み出し、この孤独と地獄に押し込めた。
言いかえれば、今の恭也とて恨まれたとしても仕方がない。
(どの『俺』も、何をしてたんだ!)
自分で自分を殺したいと思ったのは久しぶりだ。
もう一人の自分に会った時以来。
恭也は、今までいた自分自身をできることなら皆殺しにしてやりたいぐらいだった。
誰かを守るために神を殺し、その結果彼女を生み出して、勝手に死んだ最初の自分。
今まで無限にいながらも、誰もここに辿り着けなかった自分。
あれだけ救世主候補に子供扱いしておいて、真実も知らずに、ただ神に復讐すると見当違いのことばかりを思っていた自分。
どいつもこいつも殺してやりたい。
「おにーちゃん……あはは、やっぱりおにーちゃんもこんな神様になんかなりたくないよね。これって押しつけるようなものだもんね、そんなこと今の今まで気付きもしなかった」
恭也の沈黙をどうとったのか、なのはは泣き笑いを見せる。
「どうして……俺を恨まなかった?」
そう恭也が聞くと、なのはは少しだけ目を瞬かせた後、すぐに微笑んだ。
「なのはがおにーちゃんを恨むなんてありえないよ」
なのははきっと恭也が言う意味を全て理解してそう言った。
それでもありえないと。
全ての元が今の恭也ではないとは言え、間違いなく責は彼女を生み出してしまった恭也にあるのに、それでも恨むことなどありえないと。
なら……
「……お前を……殺す。それがお前にしてやれる、最初で最後のことだ」
もう解放してやらないと。
その後の孤独と絶望は全部自分が引き受けて。
「最初で最後なんかじゃないよ」
「…………」
「私を生み出してくれた」
「それは……!」
ただお前に苦しみを与えただけだ。
「じゃなかったら私はおにーちゃんに会えなかったよ」
そう言って、なのはは恭也の顔を引っ張り、自身の唇で彼の唇を塞ぐ。そして恭也の唇から流れていた血を舐め取った。
「大好き、おにーちゃん」
その言葉を聞いて、恭也の瞳にもう枯れ果てたはずの涙が浮かんだ。
そして……恭也は菜乃葉を突き出した。
「ありがとう。それと……ごめんね、おにーちゃん」
唇から血を流して、胸に鮮血を抱いて、なのはは泣きながら笑ってそう言った。
恭也は再び唇を噛み締めて、八景を捨て、その空いた手でなのはの頭を撫でた。
かつて何度もしてやったように、大事に大事にその頭を撫でる。
それに一瞬、なのはは驚いた顔を見せたが、それでも……すぐに涙を止め、笑ってくれた。
ゆっくりとなのはの身体が崩れていき、光となっていく。
その光は、まるで菜乃葉に吸い込まれるようにして消えていった。
「ぐ、あ、ああぁぁぁああぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!」
耐えられなくて、まるで目の前でなのはが召喚器に変わった遠い時のように、恭也は顔を真っ白な天井を見上げて、吼えるように叫んだ。
「ああぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁああぁぁぁぁ!」
何もできない自分が許せなくて、一緒にいてやれなかったことが悔しくて、一緒にいてくれないのが悲しくて。
ただ叫ぶ。
狂っていた時。
狂っていた世界。
狂わせた最初の自分。
狂っていた無限の自分。
全てが許せなくて、今の自分さえ許せなくて。
これからの永遠の時、再び恭也は囚人となる。この世界にたった一人残される。
そんなことどうでもよかった。それが贖罪となりえるのかすらどうでもいい。
ただ今は、なのはを殺してしまった自分自身が許せなくて叫び続ける。
『おにーちゃん……』
「え……」
聞こえた。
なのはの呼ぶ声が。
幻聴などではない。
そしていつのまにか、手に握っていたはずの菜乃葉の重みが消えていた。
呆然と、目の前に視線を移す。
「おにーちゃん!!」
そして、唐突に腕の中に重みを感じた。
それは遠い昔に感じていた、大切な重み。
「なの……は……?」
「うん!」
腕の中にいたのはなのはだった。
恭也がずっと求め続けていた、今の恭也だけのなのは。
ずっと恭也の傍にありながらも、共にはいなかった大切な人。
それをすぐに理解できた。
先程の神であるなのはの置き土産なのか、奇跡なのか。それとも他に理由があるのかもしれない。だけどそんなことはどうでもいい。
「なのは!」
「うん、うん!」
今、腕の中に永遠の間求め続けた人がいる。涙を流しながら、抱きついてきている。
心が壊れていた彼女でもなく、あの時妹として彼の傍にいたなのはがいる。
それだけでいい。
ただ恭也はなのはを抱きしめる。
やっと言える。
ようやく、あのとき叶わなかった夢の言葉を再び……。
「今度こそ、ずっと一緒にいよう」
「うん、ずっと一緒に」
やっと取り戻した。
全てではないかもしれないけど、それでもそれと同等のものを恭也は取り戻したのだ。
そうして二人は、ようやく本当の安息を手に入れた。
遠い……永遠の昔に求めていた二人だけの世界。
二人だけの永遠を手に入れた。
あとがき
いきなり最終回でとんでもエンド。
エリス「神がなのは」
うむ。しかも恭也はある意味その神なのはの手の平で踊っていただけというとんでもない代物。まあ厳密には違うけど。これが永遠の囚人のエンド。実の所、タイトルの永遠の囚人というのは恭也ではなく神なのはでした。
エリス「ある意味これが黒衣でなくてよかったよ」
や、これ黒衣の初期プロット最終話付近の話だったのだが。レティアすら知らない真実ってことでやるつもりだったけど、それはちょっとと思ってお蔵入りになってたのをこっちに引っ張ってきた。まあ理由とかまったく違うんだけどね。正直はっちゃけさせてもらい、滅茶苦茶やらせてもらった。
エリス「なんだかコメントしずらい」
神をなのはじゃなくて恭也にして、それとキョウヤが戦うってのも考えたけど動機が思い浮かばずやめた。
エリス「神なのはもなんか凄い可哀想だけどね」
ある意味勝手に創られて孤独を押しつけられたようなもんだからなあ。そこから救い出してほしくて、一緒にいてほしくて恭也を求めた。
エリス「うう、まあ重いけど一応ハッピーエンド風だからいいか」
続きとして、アヴァターに残った今回の恭也たちの話を書きたくはあるが、それにここまでの経緯を付け足す感じで……止めたほうがいいかな。でも読者置いてきぼりの話になってるし……。
エリス「それだよ。みなさんいきなり最終話ですみません」
こっちも短編連作にしてしまうととんでもなくなりそうでしたから、とりあえず終わらせてみました。ホント置いてきぼりですみません。デュエル系をこれ以上連載しても仕方ないかな、とかも思ったので、間を無視して打ち切りエンドみたいな形に。デュエルキャラ出てませんけど。
ってか、マジでそろそろなのは以外のキャラ書かないとな。なんかなのは専属になっとらんか、ワシ。ついでに変な作風に。
エリス「確実になってるね。投稿作品は一つを除いて全部なのはが出てくるし、設定が基本的にとんでもないし」
なぜだ、自分妹属性とか年下属性はなかったはずなんだが。確かに背徳系は少し好きだが。
エリス「なのはを書くのは好きだとか前に言ってなかったっけ?」
むむ、とはいえ少しやりすぎたかもしれん。しばらく自重しよう。
エリス「狂想の中編書き直してるくせに」
ぐあっ、どうしようかなあ。このままなのは書きに専念するか、少し自重するか。でもなのはの話って結構簡単に浮かぶんだよなぁ。なぜか全部恭也至上主義のなのはになってるけど。
エリス「まあ、悩んでなさい。みなさん、なんかこのごろ変なものばっかりすみません、今回の話はここまでです。ありがとうございました」
ぐうー、どうしよう。このままでのいいのか、自分よ。
エリス「唸ってないで挨拶しろ!」
ぐびっぱ! じ、次回は普通のとらハ短編を送るので今回は勘弁してください。そ、それではありがとうござました……がくっ。
いやいやいや、なのは分は必要でしょう。
美姫 「な、なのは分って…」
疲れてくると、どうしても欲しくなるだろう。
美姫 「それは糖分じゃ」
なら、自分で書けって事になりそうだけど。
美姫 「そうよ、そうよ」
ほら、やっぱりなのは専属のテンさんがいるし。
美姫 「勝手に専属にするんじゃないわよ!」
ぶべらっ! う、うぅぅ、冗談はさておき、こういうのも大好きです!
美姫 「とっても面白いわよね」
うんうん。全てを知った上で行動していたつもりが、実はそれさえも真の黒幕の掌の上であった。
しかも、恭也Xなのはだし。
美姫 「いや、そこはもう良いから」
テンさん、最高〜!
美姫 「叫ぶな!」
ぶべらっ! ……と、ともあれ、お疲れっす。
美姫 「ありがとうございました〜」