とかく、噂というシロモノは尾びれがつきやすいものである。これはどこにおいても不

変の事実だ。

 リリアン女学園――知らぬ者とてないほどの〔お嬢様学校〕ですら、いや、であるから

こそ、噂と言うものは大きな影響力を持つ事が出来る。

 この世に暮らす者の多くが、日常――それは往々にして軽視され、退屈と見なされがち

であるが――の中の、センセーショナルな刺激としての噂を求めがちであるのと同様に、

彼女らもまた、周りの噂を刺激として受け入れ、時には模して、自己満足に浸る事もある

のだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 経過――黄薔薇姉妹とその周辺の俯瞰

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高町恭也とリリアン女学園の山村先生が、海鳴にある喫茶店〔翠屋〕で非公式の会談を

持った翌日、すなわち月曜日まで、少なくとも表立った変化はなかった。

 せいぜい放課後の一年菊組で、今や紅薔薇のつぼみの妹(ロサ・キネンシス・アン・ブゥトン・プティ・スール)となった福沢祐巳(ゆみ)が、島津由乃

――黄薔薇のつぼみの妹(ロサ・フェティダ・アン・ブゥトン・プティ・スール)とあれこれ話をし、そこに黄薔薇のつぼみ(ロサ・フェティダ・アン・ブゥトン)――支倉令も加わって

盛り上がった、その程度である。

 もっとも、祐巳は別れ際に由乃が漏らしたいくつかの言葉、その瞳に込められた力の入

りようなどから、

(もしかしたら何か、企んでるかも?)

 などと、ついつい勘繰ってしまったものだ。

 状況が劇的に変化したのは、火曜日になってからの事である。

 授業が終わって、教室の掃除当番のひとりになっていた祐巳は、クラスメートからその

事を耳に挟んだわけだが、一部始終とやらを聞くと黙っていられずに、教室から飛び出し

ていた。

 元々、由乃は心臓に疾患を持っていて、時には発作を起こす事もあるらしく、激しい運

動は止められていたようだ。由乃の〔姉〕である令は、実際に従姉という事もあってか、

何かと由乃に世話を焼いていたものらしい。それが為にクラス内での由乃は、口さがない

言い方が許されるなら、

(浮いた存在)

 であった事は否めないだろうけれど。

 さてこの日、由乃はかねてより予約していた診察を受ける為、学校を早退した。ここま

では、いい。

 そこに令が――心配だから、という事で一緒に付いて行くつもりであったろう――来た

事から、一緒に行くのひとりで大丈夫のと、押し問答しつつ校舎を出る事になった。

 これとて、まぁ双方の立場にそれぞれ立てば、充分理解も出来る事――普通ならば。

 ところが、令もまた、担任から由乃を病院に送る為の早退許可をもらっていた事が分か

るや、由乃はある行動に打って出たのである。

 その挙が、令に対してどれほどの威力(そう、表現するべきだろう)を有していたのか

は、祐巳が令の口から聞いた言葉をもってすれば、自明だろう。曰く、

「あぁ、何だか死にそう」

 ――令は、わめくとそのまま頭を抱え、しゃがみこんでしまったそうな。

 由乃は何をしたのか。

 令から受け取っていた〔スール〕の証であるロザリオを、突き返したのである。それも、

マリア様の像の前で。

 ともあれ、思いもかけず重症状態になってしまった令を、折り良く紅薔薇のつぼみ(ロサ・キネンシス・アン・ブゥトン)――

小笠原祥子(さちこ)が〔薔薇の館〕に連行していった為、その場はそれで済んだ。

 連行先で、そこにいた〔山百合会〕メンバーとのやり取りが交わされたものの、結局令

は、何故こんな事になってしまったのかを、自分で考える道を選んだのである。

 判断した当人のみに限れば、それでいいはずだったのだが、実のところ問題はそれだけ

に留まらなかった。

 と言うのも、まず真っ先に相談が持ち込まれるはずであった黄薔薇さま(ロサ・フェティダ)――鳥居江利子(えりこ)

がこの事を知らずに帰ってしまっていた事。少なくとも、令が相談を持ちかけるとすれば、

まずは江利子であるからだ。

 もうひとつ。どうやら令は、ロザリオを突き返された事がよほどショックだったものか、

うわ言のようにその事をぶつぶつ呟きながら、祐巳に古びた温室で見つかるまでの間、ふ

らふらと歩いていたそうな。

 祐巳のクラスメイトが、

「直接聞いた」

 くらいだから、何人かの生徒もまた相前後して見聞きした、という事にもなる。

 ますます性質の悪い事に、噂を聞きつけた生徒達が〔薔薇の館〕の前に集まって様子を

窺い出し、そこに新聞部の部長――築山三奈子(みなこ)が食い付いてきたのである。

 

 

 

 

 

「ちょっとしたスキャンダルになるのは、確かね」

 それは白薔薇さま(ロサ・ギガンティア)――佐藤(せい)の予測だったが、ことリリアンの中においては過小評価の

典型であったろう。

 新聞部――三奈子が翌朝には、早くも号外を出してのけたからである。それも、令と由

乃――新聞部主催の全校アンケートによるベスト・スール――の〔破局〕を大々的な見出

しとして。

 

『黄薔薇革命――黄色い薔薇に、今何が起こっているのか』

 

 革命、と名付ける辺りに、三奈子のいわゆる〔ブンヤ〕としての、センスのとある一端

を垣間見る事も出来よう。もちろん、大本の資質とは切り離しての話であるが。

 確かに見出しからして、ほとんどどこぞのスポーツ新聞か女性週刊誌か、という煽動的

なニュアンスだったが、

「問題大ありよ」

 聖が評したのは、見出しよりもむしろ記事の本文。

 病院に行こうとしていた由乃が、付いて来ようとした令にロザリオを返した事実。

 ショックを受けた令が、一時的とは言え、まるで魂が抜けたかのようになってしまった

事と、それを見聞きした生徒達の間で交わされた噂。

 これだけの材料を基に、と言うよりこの程度しか実際の情報はなかったはずだが、三奈

子は推測――むしろ聖は〔憶測〕と評したが――を積み重ね、全体的な角度から見ると、

いかにも〔現実のように思える〕記事を書き上げてしまっていた。そう、まるで小説のよ

うに。

 更に問題だったのは、裏付けの取れた事実は当たり前として、噂の中から当事者ふたり

の心情、心理を〔想像して書いた〕という事にある。

 三奈子は、この噂に食い付いたにしろ、だからと言って直接二人に取材出来たわけでは

ない。片や病院、片や〔薔薇の館〕に連行された状況では、とても当事者の情報を、裏付

けの取れたものとして斟酌する事など、出来るわけもないのだ。

 しかし、号外にはそれが記事の一部として堂々と、書かれてしまっている。

 最新の、かつ正確な情報を扱ってこその、それが新聞の骨頂であるのに。この段階で三

奈子がしてのけた事はいわば、

(落第点)

 の謗りを、甘んじて受けねばならぬ性格のものであろう。曲がりなりにも情報を発信す

る側の人間として。

 もっと始末に終えなかった事がある。

「すごい美談になっているわね……」

 紅薔薇さま(ロサ・キネンシス)――水野蓉子(ようこ)が評した部分だった。

 これについていささか乱暴に、端的に述べてしまうと、由乃が令にロザリオを返した理

由が、三奈子の想像によって脚色、美化された状態で記事にされていた、という事だ。

 読者諸賢は、もしかしたら他人事と思って笑うかもしれない。が、自身が何らかの厄介

事の当事者になったと仮定して、その事が他人の勝手な解釈、想像によりねじ曲げられた

形で、周囲に面白おかしく広められてしまったとしたら。

 それは当事者の心理や事態の経緯とは関わりなしに、しかし確実に真実よりも広く、周

囲に流布するだけの影響力、説得力を持ち得るのだ。

 果たして諸賢は、その事を他人事みたいに割り切って、あっさりと笑い飛ばしていられ

るだろうか?

 いずれにしろ、令は普段通り真面目に登校して来ていたが、流石に直接話を聞けない生

徒達が、案じての事か興味からか〔山百合会〕のメンバーに事情を聞こうとする。

「多分……影響出るね」

 聖が溜め息を吐いて導き出した予測は、今回の事が〔山百合会〕に精神的悪影響を及ぼ

すだけで収まるものではない、という事を、端的に表現したものであった。

 

 

 

 

 

 昼休みも終わり際、〔薔薇の館〕から教室に戻って来た祐巳は、クラス内の異変に気が

付いた。

 自分の斜め後ろの席のクラスメイト、そして彼女と親しい生徒達が寄り集まり、一様に

瞳を潤ませていたら、それは気にならない方がどうかしている。

 異変は、それだけではなかった。すぐ後に外から戻って来たクラスメイトの藤堂志摩子(しまこ)

――白薔薇のつぼみ(ロサ・ギガンティア・アン・ブゥトン)から、

「令さまたちの事が原因で、大変な事になっているみたい」

 耳打ちされたのだ。

「大変な、事?」

「姉妹の関係を、解消する生徒が現れたの。それも、ひと組やふた組じゃないの」

 斜め後ろのクラスメイトも、恐らく、いや確実にそれだと見て良い。

 志摩子は、令と由乃の事が影響しているのではないか、と推察し、祐巳もまたそれにつ

いて同感だった。結局のところ、それしか思い当たる事はないのだから。

 ここまで事態が急速な展開を見せたのは、令と由乃が全校生徒から見ても、

(理想的な〔姉妹〕であった)

 という事、その〔妹〕の方がロザリオを返したという事実、そして新聞部が事実を脚色

して美談にしてしまった事。その中でも脚色された美談が明らかに、

(独り歩きした)

 という事にある。

 リリアンの生徒達は〔スール〕に親しんで既に久しいが、その中で、関係が解消される

という事がなかったわけではない。

 とは言え、それには多かれ少なかれ事情があったし――よんどころない事情もあれば、

仲違いという事もあっただろう――また、これまで主権を持っていたのは常に〔姉〕の側

だった。

 ひと言で言えば、

「当初からの慣習」

 である。

 つまり〔スール〕の関係を結ぶも解消するも、これまでは上級生から下級生へ、という

パターンしかなかったのだ。

 由乃の行為は、乱暴な例えをすれば、その慣習というトーチカの中に、安全ピンを外し

た手榴弾か、破砕爆薬をぶち込んだようなもの、と言えばいいだろうか。

 いや、もっと〔らしい〕表現をする事にしよう。ここは、祐巳が溜め息吐いて思った事

が、そのまま当てはまる。

(由乃さんは、相当型破りな事をやっちゃったんだ……)

 一方で、騒動の拡大を冷めた目で傍観している者もいる。

「あれはね、由乃さんごっこなの」

 写真部のエース、武嶋蔦子(つたこ)はアホくさい、とばかりに斬り捨てる。しかも、

「見ててごらん。これから、もっと増えるから」

 祐巳に予言までしてくれた。まぁ、蔦子は騒動の波紋が拡がる様を〔たまたま〕見てき

たという事だが。それはそうと。

「活字の影響って、強いわよね」

 号外の記事には、まるで由乃が自身の身体の弱さを憂い、令にはもっと〔丈夫な妹〕が

必要だと思いきわめた――のではないかと、思われる――こんなオチを付けなければなら

ないが、そういう記事が書かれていた。

 文章に感化された〔妹〕の側の生徒が、計算してはいないにしろ、学園生活という、

(退屈な日常)

 その中に少しでも刺激が欲しい、特に今回の場合は〔悲劇のヒロイン〕を演じてみたい

――ある意味で、それは(やまい)だ――だけではないかもしれないにしろ、そうした側面を蔦子

は感じ取っていたのである。

 騒動は、リリアンの校風故に起こるべくして起こった事かもしれなかった。

 

 

 

 

 

 令と由乃の事だけだったらまだしも――人によっては言うかもしれない。

 この時期、実は江利子にも異変が起こっていた。

 実は、最初にそれを知ったのも三奈子であった。元々は、令と由乃がベストスールに選

ばれた事を記念したインタビュー、その回答の裏付けを取る為に話を聞いたのだが。

 江利子はそれに対し、木で鼻をくくったような反応を示して三奈子を鼻白ませた挙句、

「川をね、ボートで流されていて、その先に大きな滝があるとするでしょう? でも、そ

の滝を下りないと、我が家に帰れないのね……オールはあるのよ。どっちに漕いだらいい

と思う?」

 謎めいた問いかけをして、結局は三奈子の返答も聞かず、そのまま帰ってしまった。

(一体、何が黄薔薇さまにあったのだろう?)

 三奈子はこの時点で、何故か江利子の異変を、

(絶対に事件絡みだ)

 そう、思い込んでしまった。三奈子はどうやら思い込んだら一直線の性格で、それによ

り一種の視野狭窄を起こしてしまう傾向が強いようだ。

 これが、由乃が令にロザリオを返す、という事件が起こる前の週の事であり、恭也と山

村が会談を持った日よりも、更に数日さかのぼる。

 それから〔黄薔薇革命〕――令と由乃の騒動が起こったわけで、三奈子が自分の確信を

更に深めたであろう事は、想像に難くない。

 もっとも、この時点で〔事件〕と江利子の〔異変〕を結び付け、その上で号外の記事を

書いたかどうかについては、いささか疑問なしとしない。

 もしそうだとすれば、聖曰くの、

「記者より小説家になるべきだ」

 という皮肉が、俄然重い意味を持つ事になるのだが。

 話を進めて。

 江利子に生じた異変は日を追うごとに進行したらしい。蔦子曰くの、

「由乃さんごっこ」

 が起こった日の放課後、祐巳が下足場で会った江利子は、涙目な上に左の頬が腫れ上が

っていた。頬を押さえてうんうん唸る江利子を見て、

(誰かに叩かれたんだ)

 祐巳はつい、学園祭前日の事――花寺学院の生徒会長が、祥子にひっぱたかれた――が

頭をよぎり、連想でそうなんだと思い込んでしまった。見方を変えれば、そう思われても

おかしくないほど、江利子の頬が腫れ上がっていたとも言える。

 上履きを履き替えるのを忘れて帰ってしまったくらいであるから、この時の江利子もま

た相当な重症だった。

 この事に関して、蓉子や聖は特にこれといって対応する事はなかった。曰く、

「ああなっちゃったら、もうおしまい。復活するまでひたすら待つのみ」

 だそうな。

 以前、初めて異変に立ち会った時は、それこそちょっとしたパニック状態になってしま

ったらしい――後で、原因は中耳炎だと分かった――が、結局その時は一週間程度で元に

戻ったという事で、二人ともさほど心配している風ではなかった。祐巳は流石に、

(それもどうか……)

 と思ったが、結局は言われるがままに静観する事としたのである。

 今度の騒動をきっかけに、祐巳は蓉子と聖から江利子について、色々と話を聞く事が出

来た。祐巳にとってみれば、江利子の、

「努力しないにも関わらず、何でも人並み以上にこなせる」

 という一面は、まことに羨ましく感じるものなのだが、親友たる蓉子や聖から見ると、

それは何をやっても刺激にならない、という極めて不幸な事であった。

 だから、もしも事が重ならなかったら、騒動を刺激として受け入れ、一番楽しんでいた

のは江利子だと思う、聖からそう聞かされて、祐巳は思った。

(どのみち、黄薔薇さまは役に立たなかったわけだ)

 

 

 

 

 

 祐巳が由乃と再会したのは、騒動が起こってから数日経った日曜日である。

 前日に電話を受けた祐巳は、指定された場所に面食らったものの、とにかくその場所に

向かった。

 向かった先は、M駅より南にある総合病院。リリアンとは位置的に反対方向だ。

 さて、学校以外で由乃と話すのは初めてだった祐巳だが、見舞いに行った甲斐は充分に

あったと言えるだろう。何しろ、由乃当人の事のみならず、令の事、由乃が令に対してど

んな思いを抱いているのかを知る事が出来たのだから。

 この時期、由乃の行動に端を発した騒動は、蔦子の予言通りに事が大きくなっていった。

かわら版の最新号には、いわゆる、

(後追い破局)

 なる事例がいくつも掲載されていて、その中には祐巳が普段親しくしているクラスメイ

トの名前もあり、発行日に読んだ祐巳は、思わずのけぞってしまったものだ。

 由乃はと言うと、その事については大変な事になってるわね、と笑って済ませていたが、

以前受けた新聞部のアンケートについては、致命的な誤植を指摘した。

 誤植というのは、令と由乃の普段の趣味などといった、プライベートな部分全般につい

てである。

 一例を挙げると、リリアンの生徒達は皆、剣道をしている令が時代小説を好んで読み、

身体の弱い由乃はいわゆる少女小説を読んでいる、というイメージを持っているし、かわ

ら版でもそういうアンケート結果が載っていたが、実は正反対。

 もうひとつ。実は由乃はスポーツ番組を見る事を好み、令は手先が器用で編み物をする

のが得意。祐巳にしてみれば、

(ああ、もうイメージがたがた)

 思い込みが全否定された、というわけだ。

 それだけではない。かわら版の記事では、まるで由乃が自ら身を引いたかの如く、ある

意味令に依存していたように書かれていた。

 しかしそうではなく、実際は〔令が由乃に依存していた〕のである。従姉妹として長く

共にいたからこそ、由乃はそれに気が付いていたのだ。

 現在の令は、

(由乃の存在を盾にして強がっているだけ)

 であり、その精神は、もし由乃の存在がなくなったら、容易に瓦解する性質のものでも

あった。

 騎士のように思われている令だが、実は内面で相当無理を重ねているのではないか。

 だからこそ、それをどうにかしたかった。その為にした事が、結果として騒動の引き金

を引いてしまっただけなのだ。ロザリオを突き返したのはいわば、

(その場の勢い)

 というものに近い。

 話を聞いて、祐巳はそれこそひどく驚いた。新聞部の見立ては、全くの大ハズレだった

のだ。

 いずれにしても、

「令ちゃんに、もっと強くなって欲しい」

 それが由乃の願いであり、

「その代わり、令ちゃんだけ苦しませやしない。私だって強くなるから」

 それが決意だった。

 この事ひとつを取ってみても、由乃の精神が外見より強靭である事は疑う余地がない。

少なくとも、ネット世界の奥深くで、陰口を叩くしか能のないごく一部の人間より、よほ

ど胆が据わっている。

「私、手術する事に決めたのよ」

 決めたからには、逃げ出すつもりなど毛頭なかったのだ。

 島津由乃、という少女は、正に心の強い勝気な人となりである。その事を祐巳は、十二

分に思い知らされたのであった。

 

 

 

 

 

 事態が深刻な状況に陥る場合、大抵何らかの錯誤が――複数の錯誤がいつの間にか、交

わり合っている事が多い。

 この度の一連の騒動。発端こそ由乃が起こした行動にあったが、その後生じた波紋は明

らかに、錯誤の絡み合いがもたらした好例と言える。

 そして、もしその場居合わせたならば、最も状況を楽しんだであろうと言われる江利子

は、自身に生じた異変のせいで、結果として置いてきぼりにされたのである。

 その異変の正体は後に判明する事になるのだが、とにかくも以上が、高町恭也が期せず

して再び足を踏み入れる事になる直前の、リリアン女学園高等部の状況であった。








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