学園祭であれ何であれ、イベントの前日ともなると、多く事態は混乱の一途をたどるも

のである。企画の段階では問題なかったものが、いざその時を控えてみると機能しなくな

ったり、余計だったり不足だったりと、枚挙に暇がない程だ。

 もちろん、ここリリアン女学園高等部も例に漏れず、些細なものから大きなものまで、

色々な不具合があちこちで発生しており、それでも皆一様に、殺伐とした雰囲気をまとい

つつも、最後の追い込みに入っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜リリアン女学園高等部学園祭までの挿話〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第五話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後から、そもそもそういう事だったのかと合点のいった事は、時としてある。恭也にと

って、今度の出来事は正にそれだった。

 この日恭也は、花寺学院の生徒会長である、王子役の柏木優と(すぐる)の顔合わせもそこそこに、

翌日上演される『シンデレラ』の通し稽古を三薔薇さまの後ろ、二、三歩離れた位置から

見学していた。

 順番の都合上、海鳴大雅楽同好会は落語同好会の後に、簡単な通しをするだけという事

で、話が決まっていた。日が暮れる頃に交代という事になるから、かなり時間が空いてし

まうわけで、他のメンバーは集合時間を決めて自由行動に入っている。

「祥子の正統派シンデレラか、祐巳ちゃんのコメディーか。本番では、どっちか一方しか

上演出来ないのよね」

「コ、コメディー……?」

「あ、祐巳ちゃんが落ち込んでる」

「違うって。それぞれの持ち味が出ていて、甲乙付けがたいって言っているのよ」

 恭也は、このやりとりに頷く。祥子と祐巳、双方の演技を見ていただけに、

(どうせなら、俺達なんか呼ぶよりも両方順番に上演した方が、よほど良かったのではな

いか?)

 とさえ、それが無謀なのを承知でつい、思う程だった。

(まぁ、少なくとも福沢さんは皆に、ちゃんと認められている)

 三薔薇さまを含め〔山百合会〕の全員は、祐巳に対して、

「完璧」

 などというものを、最初から求めてはいない。彼女達自身が完璧ではない故に。だから

こそ、それぞれ愛すべき個性のあるが故に。

 恭也の目から見て、祐巳の演じるシンデレラは、祥子の演じるそれよりもっと、

「観客の側に寄った」

 雰囲気を持っている。祥子の場合正統派ではあるのだが、彼女自身の容姿が物語の内容

に合致し過ぎている事で、かえって観客との距離が開いてしまうのではないか、そんな印

象すら感じる瞬間があった。

 もちろん、祥子の方が、だから悪いと言うわけではない。祐巳の場合は、観客の側に近

い分、物語の持つ一般的なイメージに乏しくなる瞬間があり、口さがない事を言ってしま

えば両方とも長所短所がある、という事なのだ。

 

 確かにどちらも完璧ではない――しかし、それが一体なんだと言うのか?

 

 自らが〔完璧〕という言葉の、その重圧と根本的な矛盾をよく知るが故に、恭也は彼女

達のやり取りに、深く共感を抱いている。そんな恭也自身はと言うと、完璧という言葉に

ある意味限りなく肉迫する、矛盾の世界の中に己が身を置いているのだが。

(御神の剣の事は、彼女達に知らせるようなものでもないし、また彼女達が知らずとも良

い事だ)

 そう思ってふと、恭也は感覚を微妙に刺激する違和感に気付いた。周囲を何気なく見渡

してみる。

 いない。誰が? そう、一方の主役と王子役。遅れて三薔薇さまも気付いた。つぼみ達

との間でやり取りが行われているが、楽観している。そろそろ落語同好会に順番が回って

くる頃合いだ。

 着替える程度なら、すぐに戻って来るだろう。祥子は気分が悪くて保健室に行ったらし

い、という声もあったので、心配する程の事もない。

(……本当に、そうか?)

 それは理屈ではない。恭也の剣士としての勘働きとでも言えばいいだろうか。だが、ま

だ確信という程ではなかった。

「後で様子を見に行かなくてはね」

 時間も迫り、蓉子のひと言でひとまずは、それぞれ片付けに集中する。落語同好会の面

々が、三々五々体育館の中に姿を見せていた。

 

 

 

 

 

 異変は、祥子の様子を見に行った祐巳の報告によって、現実のものとなった。祥子と柏

木の姿が見えない。

 普段は落ち着いた〔薔薇の館〕の雰囲気が、にわかにざわめく。そのまま付いて行った

ら、これは思わぬ事になったものだ――そう恭也は思ったが、事態はそんな悠長なもので

はなくなっていた。少なくとも〔山百合会〕にとっては。

「あの二人に限って、何かあるとも思えないけれど……」

 トーンダウンしていく声と沈んでいく雰囲気を、

「とにかく、探しましょう!」

 祐巳が破った。

「福沢さんの言う通り、今は二人を探す事に全力を尽くすべきです」

 決然とした恭也の助言が祐巳の発言を後押しし、落ち込みかけていた〔山百合会〕に活

を入れる。

 ここから先の三薔薇さまの動きは、迅速という言葉を形容するに足るものだった。由乃

を留守番役として、二人ずつ三組の捜索グループに分け、担当区域を割り当てる。

 恭也は学園内の施設の把握に不安がある為、留守番役で構わないつもりだったのだが、

いつの間にか捜索グループのひとつに加わる事になってしまった。

「ごめんなさい、恭也さん。こんな事まで手伝わせてしまって」

「いえ、構いません」

「それにしても……祥子、どこに行ったんだろう?」

 蓉子、令と共に、恭也は未だ不案内な学園の敷地で姿の見えなくなった二人の姿を探す。

最終的にはマリア様の像のある小さな庭に、集結する予定だ。

「やっぱり、誰か頼りになる人がいると違いますわね」

 不意に、蓉子が恭也を見て言った。

「えっ?」

「あ、それは私も思いました」

 令も、蓉子の言葉に頷いて、

「高町さまの後押しがあったから、きっと祐巳ちゃんも心強かったと思いますよ」

 むしろ自分が後押しされたかのように、恭也に言った。

「そう、でしょうか?」

「ええ……さっきは祥子と柏木さんの事で、色々と考えてしまったみたいですから……み

んな、本当は臆病なのです」

 蓉子が、表情を曇らせる。令もまた、普段凛々しい雰囲気が表に出ている表情に、明ら

かな陰りを見せていた。その考えた事というのが恋愛に関する事、男と女の事らしいとい

うのは、恭也にも分かるような気がした。ただ、そんな恭也も色恋沙汰について、特に自

分自身が絡むと、決して歯切れは良くない。周りから鈍感呼ばわりされる所以だ。

 ともあれ。小走りで担当する敷地をくまなく探すが、どうも三人の担当する場所に祥子

と柏木が来た形跡は、なさそうだった。

 どちらもその存在がやたらと目立つ分――二人とも舞台衣装を、着替えてすらいないの

だ――通れば必ず目撃者が出る。校内には生徒が多く、最後の準備で居残っている為だ。

「紅薔薇さま、この辺りは手がかりないですね」

「そうね……そろそろ、マリア様のお庭に行った方がいいかもしれないわ」

 と、恭也の目がその庭の方向、一点に向けて鋭く細められた。剣士の感覚が鋭敏に反応

したのだ。そんな恭也の面持ちを見た令が思わず息を飲み、

(高町さま……凄く、凛々しい……)

 その厳然とした雰囲気に、鼓動を早める。

「令、ぼうっとしている暇はないわ」

「は、はい。でも、高町さまが……」

「?」

 蓉子も恭也を見て、固まった。ずしりとした〔気〕が、蓉子と令を圧倒している。

「この先が確か、マリア様の庭……でしたね」

「え、ええ。はい、そうですわ」

「先行します」

 言うや否や、恭也はまるで、満月の如く引き絞られた弓から放たれた、矢の如き勢いで

走り出している。

「え? あっ、高町さま!?

「恭也さん!?

 慌てて、蓉子と令が後を追った。

 

 

 

 

 

「おのれ柏木、両刀だったか!」

「白薔薇君、誤解されるような発言はしないでもらいたいな」

 聖と、柏木の声がした。駆け足で近付くにつれ、全体が見えてくる。聖の隣には祐巳が

いて、柏木の隣には祥子が――片手を掴まれていた。

「祥子から手を離せ!」

「そうすると、この人が逃げるから」

 熱をはらんだ感情と、場違いな気楽さのぶつかり合いを聞きつつ、恭也は一気に幅を詰

めて柏木と祥子の間に割り込むや、柏木の手をはたき、あっと言う間にその腕をぐいと捻

り上げ、引き離す。この頃には蓉子や令、江利子や志摩子も合流してきていた。

「女性への無体な真似事は、関心せんな」

「くっ、痛っ、痛たたっ!」

 一歩も動かすつもりはない。恭也は痛がる声も無視して柏木を押さえつける。

「祥子、大丈夫?」

 蓉子が祥子の無事を確認すると、

「どういう事か、説明してもらおうじゃないの」

 柳眉を逆立てて、痛みに呻く柏木に詰め寄っていく。江利子も聖も、つぼみ達も遠慮す

るつもりはない。

「ちょ、ちょっと待った、ったたたっ……ぼ、僕の話も聞いてくれ!」

 恭也に動きを封じられていなければ、柏木は両手を前に出していただろう。

「ええい、問答無用! 祐巳ちゃん、守衛さん呼んできて」

 聖に応えて祐巳が動きかけ――しかし祥子を見て立ち止まった。

「どうしたの? 早く」

「行けません、私……祥子さまが、困るから」

「え?」

 少しのやり取りの後、話は意外な方向に向かい始めた。

「皆さま、お騒がせしてごめんなさい。柏木さんが痴漢だというのは、誤解です」

 祥子が頭を下げる。これには皆、驚きを隠さない。

「最初は落ち着いて話していたんです。でも途中から言い争いになって……」

 弁明する祥子。しかし、全員を納得させるには、この程度ではあまりにも弱い。

「何故人目を忍んで、こんな所で話し合わなければならないの?」

 蓉子の疑問は、正に全員の疑問である。と、

「は、話してやれよ……いたたた」

 柏木が、痛みに呻きながら言い出した。

「君が誤解を解いてくれれば……う、痛っ……僕は警察に連れて行かれる事もないし、気

持ちよく……あいたたた……明日の舞台の手伝いも出来る」

 さわやか、と言うには程遠かったが、どこか自信が垣間見える。恭也も力は弱めないな

がら、怪訝な表情になった。

「……そうね。その方が、お互いのためかもしれないわ」

 急に、目から光を失ったようになった祥子の話した内容は、この場の全員を絶句させる

のに充分なものだった。

 柏木が、祥子の父親の姉の息子――実の従兄である事。更に加えて、

「私の婚約者でもあるの」

 こうなると、さしもの恭也も力を弱めざるを得ない。解放された柏木は、祐巳の百面相

もどこ吹く風で、腕を少し振ると爽やかさを取り戻し、

「僕たちは結婚を言い交わした仲だから、手くらい握るし……肩だって抱くし……」

 祥子に堂々とすら見える態度で迫る。

「キスだって」

 見かねた恭也が、もう一度動こうとした瞬間、乾いた、しかし大きな音がこだました。

祥子は、柏木を平手打ちに張り倒すと、そのまま駆け出す。

「さっちゃん!」

 柏木が追おうとするが、並木道に落ちていた銀杏の実を踏んで滑ってしまい、

「ごめんなさい、でも柏木さんじゃだめなの!」

 やはり祥子を追いかけて走り出した祐巳に、無様にも転がされた。祥子と祐巳の姿が見

えなくなり――恭也は、後を追わない事にした。直感が、祥子と祐巳を今追ってはならな

い、そう告げていたからだ。

「その衣装についた銀杏の汁、臭くてたまらないのご存知? すぐに染み抜きさせていた

だきたいので、〔薔薇の館〕までいらしてくださいな。明日の事も、話し合わなくてはな

りませんし」

 なおも追いかけようとした柏木は、蓉子のひと言に観念したか、大人しく連行されてい

ったのである。

 余談ながら、この時期、並木道には多くの銀杏の実が落ちていて、三薔薇さまもつぼみ

達も、走った時にいくつも踏んでしまったが、ただ一人、恭也だけが一個も踏む事がなく、

違う意味で皆の驚きを誘ったそうな。

 

 

 

 

 

 騒動がひとまず終わり、その後の同好会の稽古も終わると、恭也は宿へ戻る他のメンバ

ーとは別行動を取った。久我と田丸に断りを入れ、向かった先は〔薔薇の館〕。

「高町です」

 ビスケット扉をノックすると、すぐに扉が開く。

「来て下さったのですね。ありがとうございます」

 蓉子が空いた席に座るよう勧め、恭也はそれに応える。心得たように、志摩子が紅茶を

淹れてくれた。

 会議室の中には、三薔薇さまとつぼみ達、そして祐巳の姿があった。柏木は既に帰った

らしい。

「これで、全員揃ったわね」

 江利子が言うと、

「それじゃあ、本題に入りますか」

 聖が続く。

「本来なら、恭也さんには関わりのない事かもしれないけれど。私たちも迷惑をかけてし

まっているし、それに恭也さんも知る権利があると思うわ。いいわね、祥子?」

「はい。よろしいですわ、お姉さま」

 祥子は蓉子の問いに、毅然とした態度で応じている。

(どうやら、小笠原さんは落ち着いたようだな……もっとも、あの時俺が追ったところで、

彼女を落ち着かせる事が出来たとは、思えないが)

 もしも恭也が追いかけたとしてどうなったか、それは分からない。しかし、仮定をいじ

くったところで、今は詮無い事であった。

 そして、祥子は話し始めた。彼女が男嫌いとなった理由、祐巳を結果として巻き込んで

しまった遠因を。

「私が、どのような家に生まれたのか、その事については皆様ご存知だと思います。先程

も言いましたが、優さんと私は、親同士の決めた許婚でした」

 流石に今は皆、落ち着いて話を聞くだけの精神的な余裕が出来ている。留守番役だった

由乃も大人しく聞いているところを見ると、簡単に事情を聞いたのかもしれない。

「あの人……優さんは、決して悪い人ではないんです。ただ、自分本位で、その事に対す

る自覚がなくて……他人の事を考えようとしないから、もし誰かを傷付けてしまったとし

ても、それを自分のせいだとは、思いもしない……本人に悪意がない分、始末が悪いのか

もしれませんわ」

 同じ事を、恐らく福沢さんには先に話したのだ――恭也はそう見当をつけた。

「お祖父さまは明治の生まれからか、何かと家の血筋にこだわる人で……将来は私に家を

継がせる事を考えて、優さんを婿養子にと、親達に強く働きかけたみたいです」

「へぇ……何て言うのか、強硬な話だね」

 聖が、苦笑を隠さず論評する。天下の小笠原グループだからとて、何も無理に内輪から

――ここでは家族の内から、という意味だ――トップを出さずとも良さそうに見えなくも

ないが、いわゆる〔財閥〕ともなれば、得てしてこういうものである。

「私はその時、まだ幼かった事もあって何も疑いませんでした」

 一瞬生じた祥子の表情の変化が、彼女の心を無言の内に現していた。それを察したので

あろう、三薔薇さまは黙って頷き、つぼみ達は複雑な表情を見せる。恭也はただ瞳を細め、

自然と〔気〕を潜めて祥子の語るに任せている。

「ですが、優さん……本当は男の人しか愛せないのに、それなのに私と結婚するつもりだ

ったのです」

「ええっ!?

「それ、本当なんですか!? 祥子さま」

「そ、そんな……」

 令、由乃、志摩子がそれぞれ驚きの言葉を発し、蓉子と江利子も表情の変えように困っ

ているように見えた。

 恭也もいささか唖然としつつ――それを隠しおおせる事には成功したが、話を聞いたで

あろう祐巳が落ち着いているのは当然として、聖が何やら納得しているかのように、うん

うんと頷いているのを最初は不思議に感じていた。しかし自分が遭遇した時の、聖と柏木

のやり取りがふと脳裏をよぎり、

(おのれ柏木、両刀だったか!)

 その言葉を吟味してみて、導き出した結論に戸惑った。

(……何と、まぁ……そういう事、なのか?)

 

 

 

 

 

 既に陽は暮れかけ、外の景色は宵闇にまぎれて窓から見えにくくなっている。そんな中

で、祥子の話は続いていた。

「ここへの入学が決まった時、祝いに来た優さんが……」

(僕は、男しか恋愛の対象にはならないんだ。だから、さっちゃんも……)

 ――外に恋人を作って子供を産み、その子を小笠原の後継者に据えればいい――

「なっ……」

 由乃が、驚きで言葉を詰まらせた。

「ひど過ぎるわ。柏木さまってそんな人だったんですか!?

「落ち着いて、由乃」

「そうは言うけど令ちゃん、いくら何でも……」

 そこに、恭也が言葉を挟んだ。

「島津さん……お気持ちは分かりますが、まだ話は終わっていませんので」

 じっ、と見つめると、ようやく由乃は自分が何をしていたのかに気付いたらしく、

「あ、そ、その……ごめんなさい」

 一見大人しく見えるが、実は意外と激しやすい性質かもしれないな――恭也は、由乃に

ついてそう思った。話は更に続く。

「それから私は、ずっと優さんに会わないようにしていたので、婚約を解消しようとは言

い出せなかったのです」

 しかし、今回『シンデレラ』の上演で期せずして共演する事となり、これを機会に婚約

解消を持ち出したのが、先程の事だったわけだ。

 あの時、柏木が祥子にキスを迫ったのは、聖に同性愛者だと見抜かれ、それを誤魔化す

為だったらしい。しかも、柏木は祥子が自分を助ける為に、キスのひとつくらいはしてく

れると、臆面もなく思い込んでいたという事になる。

(自業自得……いや、自損だな……)

 祥子を恋愛対象としては排除しておきながら、しかしいざピンチになったらその祥子に

従妹として、許婚として助けてもらおう――安易に考えて彼女の心を侮っていたのが、柏

木の最大の誤算だったのだ。

(これでは、小笠原さんが男嫌いになるのも止むを得まい。それに、そんな相手と共演な

ど、誰とて拒絶するだろう)

 恭也は、祥子とその家族、そして柏木の間に横たわるものに思いを致し、多少苦みのあ

る表情を浮かべた。それを見た聖が一体どう解釈したものか、祥子に向かって、

「ごめん、祥子。あいつを王子役にしようって言ったのは、私なんだ。そういう事だとは

全然知らなくて」

 頭を下げたものだ。

「いいえ、私も早くこの事をお話していれば、ここまでこじれる事もありませんでした。

それに、高町さまも巻き込んでしまって」

「いえ。俺の事は、気にせず」

「それで、祥子……明日はどうするの?」

 蓉子の問いに、

「明日は、私がシンデレラを演じます。いえ、やらせて下さい、お姉さま。私は、もう逃

げません」

 祥子は、強い意志を込めた瞳を向けて応える。受けた蓉子は祐巳に問うた。

「祐巳さん、よろしくて?」

「はい」

「にしても……今度は高町さんの事が心配になってきた」

 聖が突然水を向ける。思わずきょとんとする恭也を見て、今度は江利子が続けた。

「そうねぇ。高町さん、美形でおまけに強いし」

 蔦子を捕まえた手並み、柏木を押さえつけた腕前、いざと言う時の安心感、その整った

容姿――恭也を見る〔山百合会〕の目はとことん好意的になっている。

「私も、こうなると高町さまが心配ですわ。優さん、きっと高町さまのような男性が、好

みかもしれませんから」

 祥子にまで言われ、恭也は冗談じゃないと言わんばかりに、憮然とした表情になる。全

員が、恭也の表情を見て笑った。

 飾りのない、美しい笑顔を見せる祥子。これが本来の表情なのだろうと恭也は得心し、

次いで蓉子と目が合う。見返す蓉子の瞳が、何か言いたげに潤むのを感じ、それを目で押

し留めた。今はこれで良い。

 明日は、いよいよ上演当日である。




いよいよ学園祭前日に。
美姫 「祥子と祐巳や優の問題もとりあえずは片付いたみたいだしね」
だな。次回はいよいよ学園祭当日かな。
美姫 「どうなるのかしら」
次回も非常に楽しみです。
美姫 「待ち遠しいわね」
ああ。次回も待ってます。
美姫 「待ってますね〜」



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