出かけた先で、予期せぬ出来事に遭遇した事はあるだろうか?

 何事もない、予定調和的な日常より、まるで小説の中の、一見何でもない、しかし明ら

かに、普段の視点から見る日常からは到底考えられないような出来事に、しばしば大きな

――時として、それは過大にもなるが――価値が見出されるのは、もしかすれば、自分自

身にとっての〔非日常性〕ゆえではないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜リリアン女学園高等部学園祭までの挿話〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第三話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 恭也が、同好会顧問の久我講師、会長の田丸と共にリリアン女学園の校門をくぐったの

は、学園祭を三日後に控えた、木曜日の午後である。

 大太鼓などの楽器や、笙を乾かす為の炭と火鉢など、必要な道具を運ぶ先発隊だった。

もちろん、出発までの期間を遊んで過ごしたわけではない。奏者と舞人の呼吸がぴたりと

合ってこその、舞楽である。

 よく「才能がなければ云々」と言われる事があるが、その才能も、まずは興味を持ち、

そして物事の基本から覚えて積み重ねない限り、開花のしようも発揮のしようもなく、結

局は何の役にも立たない。一部の安易な〔才能至上論〕が、

(蓄積の重要性)

 を全く無視している事によって――と、脱線するのはこのくらいにしよう。

 ともあれ、それまで稽古を積んできた恭也は、大学の学園祭からそれほど経っていなか

った事もあって、比較的短期間で舞の勘を取り戻していた。後は現地での〔合わせ〕とい

う事になる。

 さて、恭也と田丸の先発隊は、何も運搬作業だけが役目ではなく、当日上演する場所の

確認と、リリアンの生徒会に相当する、〔山百合会〕との打ち合わせもこなさないとなら

なかった。

 どういう訳でか、リリアンの〔山百合会〕とつながりを持ったらしい恭也にいてもらえ

ば、先方との話もスムーズに進む事だろう、久我はそう考えていた。もちろん、恭也の存

在によって、中々面白い事になりそうな気がすると、彼女の直感が告げていたのだが、そ

れは早くも大当たりの様相を呈しつつあった。

 校長室に行って挨拶を交わした時に、既にその兆候は見え隠れしていたが――心配はし

ておりませんが、くれぐれも〔間違い〕のないようにお願いします――校長先生は、恭也

を見てからそんな事を言っていたものだ。

 校長室を出たのが、ちょうど放課後。授業が終わり、掃除や部活などで生徒達の往来も

増える頃である。案内役の教頭先生に付いていくと、鉢合わせたリリアンの生徒三人が、

恭也を見た瞬間、頬に紅を差して固まってしまった。

(いやはや……劇的効果、ってやつかね。これは)

 軽い会釈ひとつですれ違うと、田丸はそんな事を思いつつ恭也に話しかける。

「……高町、早速だなぁ」

「?」

「あの三人、お前さんを見た瞬間にフリーズしてたぞ」

「そう、ですか?……そんな顔かたちでもないと思いますが」

 苦笑する恭也に田丸は、

「くくっ、何言ってるのやら。まぁ……俺は困らんけど、この調子だとお前さんは、今か

ら大変だぞ?」

 的中率に自信あり、そんな表情で予言じみた事を言う。その時こそ恭也は、

「まさか……」

 肩をすくめていたものだった――が、すぐに認識を改めざるを得なくなった。案内に従

って〔薔薇の館〕に向かう途中、生徒達から向けられる視線が、ちくちくと気にかかるこ

と。しかし久我も田丸もそ知らぬ顔。

(参ったな……これは)

 恭也を見る生徒が、それこそほとんど、ぼうっとした表情になって見送る。過ぎてから

ようやく我に返ったようになって、色々とかしましく話し始めるのだ。

 変に騒ぐのも変に騒がれるのも好まない恭也にしてみれば、拷問とはいかぬまでも、精

神の健康にはあまりよろしくない。

 そんなに歩いていないはずなのに、どことなく疲れたような表情になった恭也が、ふと

視線を前に向けると、

「あの建物が、〔薔薇の館〕です」

 教頭先生の指す方向に、こぢんまりとした木造の洋館。その前に立っていたのは――

「水野、さん」

 恭也が密かに呟く。

 秋の涼しげな風が一陣、すい、と目の前を横切っていった。

 

 

 

 

 

 打ち合わせ、と言っても、そんなに手間のかかるような議題はなかった。

 軽く自己紹介が交わされてから早速上演の順、体育館の使用時間など、差し当たり必要

な事を話し合う。

「交流、という事を考えると、それぞれの練習を公開し合うのも、よろしいのではないで

しょうか」

「もちろん、こちらの方でも問題はないですよ」

 久我の言葉に合わせて、田丸が頷いた。恭也も異存はない。もっとも、派手な装束を身

につけた姿を見せる事に、まだ多少の違和感を持ち続けているが。

 それよりも、

(はぁ……何と言うか……)

 恭也は最初、この場の雰囲気に居心地の悪さを感じていた。可憐な女子高生達を目の前

にして、自分がいてはならない存在に思える。目の前で、久我や田丸と打ち合わせをこな

している三薔薇さまと面識があるのが、まだ救いになっているものの、〔薔薇のつぼみ〕

達が、時々ちらちらと視線を向けてくる。それが精神的にいささか辛い。

 一方で、恭也の〔剣士としての感応〕が、その可憐さの中にささくれ立っているものを、

鋭敏に感じ取っている。

(学園祭が近くなると、どこも結構殺伐とした雰囲気になるものだが……それだけではな

い……何か質が違うような気もするな……)

 特に、長く、まっすぐで美しい髪と、一見強い意志を感じさせる、黒々とした瞳の印象

的な紅薔薇のつぼみ――小笠原祥子から感じる雰囲気は、険悪の一歩手前で辛うじて踏み

とどまっているように思えた。それがどこに起因するものかまでは、当たり前ながら判断

などつかないが。

 少し目を細め、自分の〔気〕を落ち着かせてみる。

(む……)

 どこがどう、とは言えないが、学園祭を目前に控えた高揚とは、明らかに別の〔気〕が

垣間見えた。

(何が理由かは知らないが、状況は決して良くないな)

 打ち合わせよりも、こっちの方が気にかかって仕方がない。と、

「高町さま。今までの事で、何かご質問などありますか?」

 それまで、久我や田丸との打ち合わせに専念していた蓉子が声をかけてきた。

「いえ、特には」

 言って、少しずつ口を含んでいた紅茶をそっと飲み干す。白薔薇のつぼみ――藤堂志摩

子が淹れた紅茶だった。良い淹れ方をしている、恭也はそう思った。

「そう、ですか?」

 どことなく、気遣わしげな表情になった蓉子を見て、何となく、と言えばおかしいが、

自然に声が出る。

「紅茶の礼、と言っては何ですが……」

「えっ?」

「皆さんの二杯目は、俺が淹れます」

 蓉子が何か言葉にしようとするのを、恭也は彼女の瞳をそっと見る事でとどまらせる。

久我と田丸は、同じ海鳴の人という事もあり、何も言わない。三薔薇さまを除くと、つぼ

み達は不思議そうに恭也を見たが、それを気にする事なく席を立つ。

 流しに行って確認すると、湯の沸いた電気ポットに、恐らく〔山百合会〕の誰かが持っ

てきたものか、紅茶の茶葉を入れた缶がある。どこから持って来たのだろう、ちょっとし

たティーセットもあるし、まずは申し分ない。

(生徒達自身の努力、か……)

 感慨を抱きつつ、恭也は行動を起こした。

 これまで〔翠屋〕を手伝う上で、徹底的に叩き込まれた技術のひとつが紅茶の淹れ方で

ある。姉的存在――フィアッセ・クリステラの紅茶の味には、まるで及ばないが。

 自分の分を含め、十一人分の紅茶を美味しく淹れるのは、相当に大変なものだ。細心の

注意を払いながら、紅茶を淹れていく。

 紅茶の芳しい香気がゆったりと、しかし最初の一杯目の時より強く、室内を覆っていく

のを皆が感じた。

 

 

 

 

 

 紅茶を飲んで最初に声を上げたのは、黄薔薇のつぼみの妹こと島津由乃だった。

「あ……美味しい」

「凄い……苦味もちょうどいいし……それに、いい香り」

 続いて黄薔薇のつぼみこと、支倉令のひと言。

 一旦カップを置いた志摩子が、恭也の方を見て可憐な笑顔を見せた。ぱっと花が開いた

ような、可愛らしい笑顔を見て思わず目を細めると、彼女は途端に頬をほのかに染めて再

びカップを取る。ほんの少し、慌てた感じで。

 祥子もまた、表情が変わっていた。険が取れ、瞳も柔らかくなっている。意志の強さは

変わらぬものの、整った美しさが際立って見える。

「美味しいですわ」

「ありがとうございます」

 何の飾りもなく、素直に出た言葉を、恭也はあくまでも素直に受け取った。

「うわぁ……とてもおいしいです」

 ひょんな事から〔山百合会〕の手伝いをしている――という紹介があった――福沢祐巳

のまことにストレートな感想も、恭也にはありがたかった。

 そして、自ら淹れた紅茶をひと口。

(ん……悪くないとは思うが、香りと味のバランスが、まだまだだな……)

 それでも、この一杯でぎくしゃくした感じが影を潜めただけでも、上出来であろう。

 ちょっとした事が、その場の雰囲気を変える事はままある。打ち合わせも、それからは

明らかに和やかな雰囲気の下、つつがなく進んだ。

 ひと通りの議題が終わり、

「それでは、私はこの辺で失礼しますわ。ここの先生達とも話をしてきますので」

 久我が席を立った。

「田丸君は宿の方、頼むわね」

「はい」

「あ……そうそう、高町君」

「はい」

「後は、よろしくね」

「……は?」

「質疑応答は、君に任せたわよ」

 周りが呆気に取られるのを尻目に、久我は田丸を伴って、さっさとその場を後にしてし

まった。

 まだ、ほのかに紅茶の香気がたゆたう会議室の中、いっそぶっきらぼうな口調で、

「……何に、どう答えろと言うんだか、まったく」

 残された恭也が、憮然とした表情をそのままに呟いた。

「ぷっ……あは、あっはっはっはっ」

 思わず聖が笑い出す。しかも豪快な声で。つられて、この場にいる皆が慎ましやかに苦

笑した。恭也は肩をすくめる。

 ひとしなみ笑いが収まると、令が恭也に声をかけた。

「そう言えば、高町さまの淹れて下さった紅茶、すごく美味しかったのですけれど……ど

こかで、お勉強などされたのでしょうか?」

「勉強と言えば勉強、ですね……母が喫茶店をやってますので」

 聞いて、由乃がはっ、とした表情になる。

「もしかして、高町さまは〔翠屋〕の方ですか?」

「ええ、その通りです」

 由乃は驚いて何か言いたげになったが、

「前に言ったと思うけど、〔翠屋〕のウェイターさん……高町さまの事なのよ」

 蓉子が、種明かしとでも言う風に補足した。

「お店のクッキーを以前いただきましたが、とても美味しかったです」

 志摩子がふわりと微笑む。

「気に入っていただいたようで、ありがとうございます」

「い、いえ……今度、機会を作って、是非行きたいですわ」

「お待ちしています」

 聖がにたにたと、江利子がこれは面白くなりそうだと、蓉子が多少複雑な、それぞれ違

う笑顔を見せた。

 

 

 

 

 

 それからの恭也は、〔山百合会〕との話し相手に終始する事になった――と言いたいと

ころだが、何分時期が時期なだけに、そうそう時間は取れなかった。学園祭当日に上演す

る『シンデレラ』の稽古が、まだ続いていたからだ。

「よろしければ、私達の稽古を見て行きませんか」

 蓉子の提案を恭也が二つ返事で了承したのは、同好会の顧問と会長に置いてけぼりにさ

れてしまって、今更する事も大してなかったからに他ならない。

(ひとりで学園の中をうろうろするわけにもいかないし、水野さん達と行動を共にしてい

た方が、まだしもマシというものだ)

 リリアンの〔山百合会〕の面々に囲まれて、ひと際目立つ暗色系の服を着た美青年――

恭也の姿は、当然ながら生徒達の目を惹き付けた。そして、恭也と並び歩を進める蓉子の

姿が、いつにも増して美しく映る。

「高町恭也の仏頂面」

 といえば、海鳴大では今やある種の名物として認識されているのだが――本人がその事

をどう思うかは、また別である――その〔仏頂面〕が、何とも言えない困惑をわずかに、

ごくわずかではあるが、にじませていた。

 その理由は問わず、向けられる視線や気配というものに対し、殊更に鋭敏な感覚を持つ

恭也にとって、リリアンの生徒達が向けてくる視線は、ある種の熱さに似たものを伴う、

異質な感覚で迫ってきていたからだ。

 周りの注目を浴びていた恭也が、ちょっとした違和感に勘付いたのは、歩き始めてさほ

ど経たぬ内の事だった。認識した時点で早くも恭也の五感は、最大限の警戒態勢に移行し

ている。

(敵意は、ないが……何だ?)

 蓉子を庇いつつ、自分もいつでも動けるよう、微妙に位置を変えると、視界の端に光が

わずかに瞬いたのを確認した。

(……ああ)

「高町さま、どうかしまして?」

「ああ、いえ。何か動いたように思ったのですが、気のせいだったみたいです」

 蓉子はひとつ頷くと、明るい表情をそのままに、校内の概要を話しながら恭也の隣を歩

く。恭也も蓉子の説明を聞きながら、彼女に合わせて歩を進める。

 先行していた江利子と聖が、一度振り返って二人の姿を見た。

「んー……お似合いだねぇ」

「そうねぇ。こうして見ると、ちょっと妬けちゃうかも」

「江利子、シャレになってないって」

「あら、そう言う聖だって」

「えっ? 私がどうかした?」

「笑ってる唇の端っこ……ひきつってるわよ」

「むっ!?

 思わず片手を口の端に当てた聖を見て、江利子がくすくすと笑う。

「えーりーこー、カマかけたなぁ?」

 そうこうしている内に、第一体育館に到着。体育館は、中に入って右手奥がステージに

なっており、外からの見た目に比べ、奥行きは意外に広く作られている。

 さて、中に入ったまでは良かったが、やはり恭也のする事は何もない。演劇部の面々に

軽く自己紹介してからは、蓉子の付き添いで稽古の見学だ。

 しばらく稽古を見ている内に、先程の〔気〕を感じた。さりげなく、蓉子がそこから見

えなくなるよう、庇うように動く。と、窓越しに感じた〔気〕が引っ込んだ。

 あまり、気分のいいものではない。

「少し、携帯をかけて来ます」

 蓉子に断りを入れると、出入り口へ。自分が出られる程度に引き戸を開け、〔気〕を感

じた方向を窺う。

 いた。リリアンの生徒。背を向けて、何やらいじっている。見ると、どうやらカメラの

フィルムを交換しているらしい。こちらには気付いていないようだ。

(ふむ……)

 足音を、気を潜め、しかしさりげなく近付く。

 彼女が、窓の方を向きカメラを構える。だが一瞬の後、怪訝な表情になってカメラを下

げた。その時既に、恭也は彼女を捕捉している。

「失礼……許可もなく隠れて写真を撮るのは、褒められたものではないと思うが?」

 

 

 

 

 

「まぁ、蔦子さん……」

 蓉子が見た光景は、何とも言えないものだった。聖も江利子も、つぼみ達も、演劇部の

面々も、唖然としている。

 首根っこを掴まれた猫よろしく、恭也に制服のセーラーを掴まれて、とぼとぼと写真部

のエースが連行されて来たのだ。

「どうしたのですか、高町さま?」

「いえ、先程から気にはなっていたのですが……尾行(つけ)ている気配があったので」

「……もしかして、先程外に出たのは、蔦子さんに気付いて、ですか?」

「ええ。いずれ、許可もなしにあれこれ撮影するのはどうかと思ったので。差し出がまし

いか、とは思いましたが」

 蔦子の気配に全然気付いていなかっただけに、恭也の行動は恐るべきものだった。

「あ、あの……逃げはしないので、離してもらえませんか?」

「高町さま、離してあげて下さいます?」

 恭也が解放すると、蔦子は一度身震いして、大きく深呼吸した。

「はぁ……まさかこの蔦子さんがたやすくとっ捕まるなんて……ショックだわ……」

 がっくりと肩を落とした蔦子を見て、恭也を除く皆が苦笑する。

「彼女、武嶋蔦子さん。写真部なの」

「ああ……それでカメラを」

「蔦子さん、こちら、高町恭也さま。私達が学園祭のゲストとして呼んだ、海鳴大の雅楽

同好会の方よ」

「えっ、そうだったんですか?」

「海鳴大の高町です」

「武嶋蔦子です」

 恭也の目の細め方が、普段のそれと明らかに違うのが、何故か蓉子には分かった。

「ところで、蔦子さん」

「はい」

「私がこれから何を言いたいか、分かるわよね?」

「……はい」

 そこに恭也が口を挟んだ。

「いつも、このようにして撮っているのですか?」

「え、あ、はい……最高の写真を撮るには、その時の一瞬を、絶対逃すわけにはいかない

ので」

 恭也が、蔦子の瞳をじっ、と見据える。蔦子も恭也の瞳を見返すが、彼女にとってあま

りに分が悪い戦だった。恭也の瞳の力にとても抗えない、という実感を覚え、頭がくらく

らしてきたところに、

「武嶋さん、あなたが写真をそのようにして撮る時、何か決めている事は?」

 斬り付けるような口調の、恭也の問い。

「か、必ず撮った写真を本人に見せて、本人が嫌なら処分しています」

 蔦子が必死に答えるのを見た恭也は、瞳を閉じ、また開くと、蓉子に優しげな瞳で頷き

かける。恭也が蔦子を許したのだと、蓉子は察した。

「蔦子さん、高町さまは許してくれるみたい。これからは、少し気をつけてね」

「はい。高町さま、申し訳ありませんでした」

 蔦子が謝罪して一件落着すると、蓉子が話しかけてきた。

「すみません、高町さま」

「いえ、もう済んだ事ですから」

「それにしても、高町さまって、何かたしなんでいるのですか? 蔦子さんを、あまりに

も簡単に捕まえてきたような気がして……」

 恭也は、苦笑を閃かせつつ答えた。

「古流ですが、剣術を少々かじっています」

「そうなんですか。あ、それであれだけの舞も出来て、今みたいに蔦子さんを捕まえる事

が出来たのですね」

 傍から見ていると、恭也と蓉子の二人は、仲睦まじく会話を交わすカップルにしか見え

ない。今度は蔦子も遠慮なく、このツーショットをカメラに収め、にんまりとご満悦の表

情を見せる。

 こうして、恭也のリリアン女学園における初日は過ぎていった。








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