〜海鳴大学園祭までのちょっとした逸話〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第二話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日が過ぎ、休日が巡ってきた。

 この日の午前中も、高町恭也は海鳴大で舞の稽古に余念がなかった。何しろ、文化祭を

間近に控えた状況での稽古だから、腕の振りや足の捌き方など、舞をする上で必要な作法

や動作の習得、そして肝心要の曲に合わせての通しと、まぁ、恭也のするべき事はまこと

に多い。

 ところで、舞に使う装束や道具は、レプリカではあるが、元々大学内で保管していたも

のを使う事が出来た。これは幸いな事だと言えよう。まさか、龍頭の面まで保管されてい

るとは、顧問の久我も思っていなかったが。

 舞をする時右手に持つ(ばち)裲襠(りょうとう)装束、童舞(どうぶ)の為の(てん)(かん)と、本当に全て揃っているのには、

皆驚いたものである。

「それにしても、派手と言うか何と言うか……」

 同好会の男子会員のひとりが、苦笑しながら装束についてコメントする。恭也も同感だ

った。

 何しろ、龍を模した唐織の裲襠、その下に着ける雲形地紋の緋色の(ほう)――舞人が上に着

る物だ――に、同じく緋色の袴。これだけでも充分派手だと言うのに、右手に持つ桴、龍

頭の面は金色と来る。ただ派手と言うより、あまりにぎらついて見えて、まったくコメン

トに困ってしまう。しかしながら、本番ではこれを身に着け、曲に合わせて舞わないとな

らないのだ。

 普段、暗色系の服を好んで身に着けているような恭也としては、出来れば遠慮したいと

ころだったが、引き受けてしまった手前、いずれ着ないわけにはいかない。

 次の稽古の時に試着してみるという事で、一時しのぎながらその場を切り抜けた恭也は、

稽古が終わる頃には何となく、疲れた表情をしていたものだ。

 昼になって稽古は終わり、恭也はとりあえず家に帰る事にした。無理して〔翠屋〕の手

伝いをする必要はない、桃子はそう言ってくれたが、午後からの予定を特に立てていなか

った事もあり、店の状況次第では助っ人に入るのもやぶさかではなかった。ただ、とりあ

えず少しは休憩を取りたい気分である。特に、派手さ、華やかさを苦手とする精神的な部

分が。

 海鳴駅前まで来たところで、

「やっほー、高町くん」

「ん、月村か」

 月村忍が、恭也に声をかけてきた。赤星同様、風芽丘時代から付き合いのある友人のひ

とりで、恭也が学園祭でどんな役回りになったのか、知っているひとりでもある。

「どう? 練習の方は」

「中々に厳しいが、何とかやってる」

「そうなんだ。当日、楽しみにしようっと」

「してくれるな」

「えー、どうして?」

「……」

「ふーん、忍ちゃんに教えられないような事なのかなぁ?」

「む、そういうわけではないが……」

「ならいいじゃなぁい。内縁の妻に、隠し事はいけないのよー」

「こら待て。誰が、誰の内縁の妻だ」

「いいからいいから。んで、どうして難しい顔してたの?」

「はぁ……実は今日の稽古でな、舞の時に着る衣装を見たんだが……あまり派手と言うか、

あざとい感じがして、な」

「へっ?」

「いや……緋色の装束上下に、金色のいかついお面を着けて舞うんだそうだ」

「はー、また派手なんだねぇ。でも、お面はともかく、装束だったらぴったり似合うと思

うけどなー。黒系が似合うのは当たり前なんだけど、たまにはきらびやかな衣装も、悪く

ないんじゃない?」

「……だから、派手過ぎるんだ」

「まぁまぁ。着ないと駄目なんでしょ? だったらファイト」

「敵わんな……まぁ、殆ど諦めはついてるんだが」

「あははは。あ、そうだ。今日はこれからどうするの?」

「今のところ、店次第では手伝いに行くかもしれんが、まず少し休んで、それからだな。

そう言う月村は?」

「うん、もう少ししたら〔ALCO〕にちょっと買い物。ノエルと一緒にね」

 月村家の、忠実なメイドの名前が出て納得した。気軽に声をかけてくれる忍だが、れっ

きとした名家のお嬢様――両親を早くに亡くし、信の置ける親類に財産の管理を任せてい

るが――である事を、恭也は知っている。

「そうか、じゃあ俺はそろそろ」

「うん、またね」

 

 

 

 

 

 

 少し時間をさかのぼってみると、水野蓉子の姿を海鳴駅に見る事が出来る。

 蓉子の目的は、喫茶店〔翠屋〕でのひと時、そして、あの魅力的な漆黒の瞳をした青年

――恭也さんの姿を見る事、であった。

 休日が近付くに連れて、恭也の姿、何気ない表情の変化、特に力を秘めた瞳が鮮明に思

い出された。それに戸惑いながらも、蓉子としては悪い気はしない。むしろ、興味すら湧

いてきている。友人以外で誰かに自分から興味を抱くのは、ここ最近では〔妹〕――小笠

原祥子を初めて見た時、それ以来かもしれない。

(江利子や聖には、悪い事をしたかしら? でも、ひとりも時にはいいかもしれないわ)

 機会が許せば、恭也さんともっと話がしてみたい、そんな気になっている。

「まずは〔翠屋〕に行く事ね。恭也さんがいてくれればいいのだけれど……」

 下顎に指を当てて考える仕草には、普段の落ち着いた印象とはまた違う可愛らしさがあ

る。通行人、特に若い男共が見惚れながらすれ違っていくが、彼女はそれを殆ど気に留め

ていない。

「恭也さんに会ったら、何と言って声をかけたものかしら」

 などと、独り言を呟きつつ歩き出そうとして、

「あっ」

 目的の人物を、あまりにも呆気なく見つけた。が、誰かと話をしているらしい。とっさ

に物陰に隠れて様子を窺ってみる。恭也の相手は女性だった。

(……親しく話してるみたいね)

 恭也と話しているその女性を観察してみる。艶のあるロングヘア、美人とも可愛いとも

言える顔立ち、そしてすらりとしていながら自己主張する容姿。同じ女性が見ても羨まし

くなる、そんな印象だ。

(もしかして……恭也さんとお付き合いしている人、かしら?)

 推測した途端、蓉子の心の中で急激に、形容し難いものが大きくなっていた。もし推測

が正しかったとすれば、それはそれで納得するに足るはずなのだが、それを認めてしまう

のがためらわれる、と言うよりもむしろ、

(そうあって欲しくない)

 そんな思いが、何故かやけに強くなっている。会って間もない人に対して、何故こんな

風に思うのか。その女性が馴れ馴れしく――蓉子にはそう見えた――恭也に話しかける度、

心の奥底が苛々(いらいら)と波立つ。

 蓉子が内心大いにうろたえたのは、その女性の言ったあるひと言が、偶然聞こえてきた

時だった。

「内縁の妻に、隠し事はいけないのよー」

(なっ、内縁の妻……ですって!? 恭也さんとそんな関係なの、あの人は?)

 聞いた瞬間、頭の中がめちゃくちゃに混乱してきた。

(本当だとしたら、こうして気を揉んでいる私は、まるで道化じゃないの)

 そんな蓉子の懊悩を救ったのは、

「こら待て。誰が、誰の内縁の妻だ」

 嫌そうに返した――蓉子にはそう聞こえた――恭也のこのひと言である。話している女

性の雰囲気も、よくよく観察すると恋人のそれとは、また違うように見えた。

 この頃には精神的な余裕を、蓉子は曲がりなりにも何とか取り戻している。恭也さんの

台詞ひとつで露骨に安堵するなんて、なんて現金なのかしら、などと思いながら。

 その後ちょっとの時間、恭也と女性は何やら話をしていたようだが、どうやら女性の方

に予定があったらしく、二人はすぐに各々別方向へと足を向けていった。

(はぁ……恭也さんのお友達、みたいね)

 蓉子は恭也の後を歩き始める。幸い、恭也の足取りはゆっくりしたものだったし、彼の

歩く先にある歩行者用の信号が、ちょうど赤に変わったところであった。

 近付くに連れて、恭也の背中が大きく見えてくる。

(背中が大きいのね……聖だったら抱き付き甲斐がありそう、なんて言うかも)

 中身は結構繊細なくせに、普段は意外と〔オヤジくさい〕茶目っ気を持っている聖の事

を思い出し、くすりと笑みがこぼれる。

 と、目の前の背中がくるりと回り、次いで強い力を持つ視線が唐突に蓉子を射抜いた。

予測していなかっただけに、どう対応したらいいのか分からず、固まってしまう。

「……ああ、貴女は先日の」

 深く、優しげな響きを持つ声。

「あっ……ご、ごきげんよう」

 何とか、蓉子は言葉を返す事が出来た。

 

 

 

 

 

 一目惚れという言葉には、縁がないものだと思っていたのに、いざこうして恭也さんを

見ていると、これが一目惚れでなければ何なのだろうか。

 蓉子が一瞬そんな事を思っていると、恭也の方から声をかけてきた。

「そう言えば、互いに自己紹介してませんでしたね」

「ええ、そうでしたわね。私、水野蓉子と申します」

「高町恭也です」

 何の変哲もない挨拶を交わすと、

「うふふふっ」

「何か?」

「いえ、会うのはこれで三度目ですのに、今の今までお互いに、名前すら分からなかった

なんて」

 恭也という名前を本当は知っているが、蓉子は敢えて、それをおくびにも出さない。

「高町さまは、こちらにお住まいなのですか?」

「ええ。大学一年です」

「やっぱり」

「?」

「あ、いえ……落ち着いた雰囲気でしたので、何となく大学生かなって、思っていたんで

す」

「そうでしたか」

 目の前の歩行者用信号が、青に変わった。歩を揃えて歩き出す。すぐに、商店街の通り

に入る。休日の午後という事もあって、すれ違い、道行く人は多い。

「高町さん」

「はい」

「あの、これから用事でもありますか?」

「いえ……特に。家に帰って少し休もうか、とは思っていましたが」

「えっ?」

「ああ、その、学園祭に備えての練習があったので」

「まぁ……何か出し物でも?」

「ええ、まぁ。何の間違いか、舞を舞う事になったので」

 舞、と聞いて、蓉子は日舞の方を連想した。日舞と言えば、白薔薇のつぼみ――藤堂志

摩子がたしなんでいるとかいないとか。扇子を片手に、流れるような動作で舞う恭也の姿

を、ちょっと想像してみる。何故か違和感を感じない。

「私も、学園祭の準備に多少関わっていますから、準備の大変さは分かるつもりですわ」

「ありがとうございます。ときに、水野さんはどちらの学校に?」

「私立リリアン女学園高等部、三年生ですわ」

「リリアン女学園、ですか?」

「ええ」

 リリアン女学園と言えば、明治以来の伝統がある〔お嬢様学校〕として有名だ、くらい

の事は、恭也もかねてから聞き知っていた。とは言えまさか、実際に通っている生徒とこ

うして話す機会があろうとは、全く想像していなかったのだが。

(なるほど、〔翠屋〕で初めて話した時から、どこか違うと思っていたが……)

 雰囲気ひとつ、仕草ひとつ、話し方ひとつにしても、そこらで見かける女子高生とまる

で違う。それにしても――

「あの、どうかされまして?」

「いえ、失礼しました。俺の友人にも一応〔お嬢様〕がいる事はいるのですが……もしリ

リアンに通っていたなら、もっとらしく見えるのに、そう思ったので」

「まぁ……うふふっ。本人が聞いたら、怒るかもしれませんわね」

「かも、しれません」

 恭也の話した〔お嬢様〕とは、実は先程駅前で話をしていた忍の事なのだが、これは蓉

子の知らない事である。

 さて置き、蓉子は異性とこれだけ抵抗なく話している事に、結構大きな驚きを感じてい

る。一度、言葉を交わした気安さがあるかもしれないとは言え。

 ともあれ〔翠屋〕でゆっくりと、という事になったのは、自然な成り行きだった。

 

 

 

 

 

 程なく、喫茶店〔翠屋〕に着く。

 店の外で、バイトのウェイトレスが長テーブルであつらえた即席の売り場に、シューク

リームやクッキーを置いている――先日、恭也と共にいたウェイトレスとは別人だった。

「いらっしゃいませ」

 即席の売り場からウェイトレスが声をかけてきた。恭也に対して、明らかに営業スマイ

ルとは違う笑顔を見せ、次いでその一歩後ろに続く女性に気付いた。二人が店内に入るの

を見て怪訝そうな表情になったが、更に客が来たのですぐに仕事に取りかかる。

 恭也は、蓉子と共に〔翠屋〕の店内に入ると、ひとつ空いていた入れ込みの席に蓉子を

案内した。

「あら? 恭也」

「ああ、かーさん」

 厨房から顔を出して恭也を呼んだ女性に対し、恭也の返した言葉が、蓉子を軽く混乱さ

せた。

(ええっ? あんな若い人が母親って……ど、どういう事?)

 蓉子の混乱をよそに、会話は続く。

「今日は、特にウェイター入らなくてもいい日のはずだけど?」

「ああ、分かってる。今は、客だ」

 恭也に〔かーさん〕と呼ばれた女性――桃子は、入れ込みの席からこちらを見ている蓉

子に、気が付いたようだった。

「ふぅん……うふふふ」

「?」

「そういう事なら、頑張りなさいな」

 恭也の肩をぽんぽん叩くと、鼻歌なぞ歌いつつ厨房に戻っていく。

(はぁ……まぁ、いいか)

 恭也はとりあえず、お冷を汲んで持って行くと、蓉子の目の前に音もなく置き、自分も

座る。ウェイトレスを呼び、それぞれ注文すると改めて向かい合う。腰を落ち着けて話す

のは、当然初めての事であった。

「あの……」

 最初に口を開いたのは、蓉子である。

「先程話していた方は?」

「ああ……俺の義理の母で、この店を経営してます」

「そう、だったのですか」

 道理で、母親にしては凄く若いはずだと思いながら、蓉子は更に質問する。

「それでは、このお店はご両親が経営されているのですか?」

 何気なく聞いたつもりだった。だが、

「いえ……」

 その時、わずかに瞳を細め、困ったような表情になった恭也をよぎったもの。蓉子には

それが、

(陰のような)

 ひどく暗い何かに思え、実は聞いてはならない事を聞いてしまったのではないか、とい

う気になってしまう。

「父は、亡くなっていまして」

 一瞬の苦笑を置いて、淡々と告げられた答えを聞き、

(ああ、やっぱり聞いてはいけなかった……)

 蓉子は後悔した。興味を持ったからと言って、いきなり他人の内面に土足で入ってしま

う事が、許されるはずもない。

「ご、ごめんなさい」

「いえ、お気になさらず。小さい時の事ですから」

「でも……」

 言いかけて、蓉子は二の句が告げなくなった。安心させる為だろう、恭也が見せた不器

用な、しかし優しい微笑が、蓉子を一撃で撃ち抜いてしまったのだ。これが漫画か何かだ

ったなら、銃声のような擬音でも付いたかもしれない。

 蓉子の記憶は、そこから数十分の間、どこかが定かでなくなってしまっている。

 恭也と何を話していたのか、どんな話題を肴にしながらひと時を楽しんでいたのか。し

ばらく後になるまで、それが蓉子の中で連続した記憶として、再現される事はなかった。

 

 

 

 

 

 佐藤聖と、鳥居江利子の二人が海鳴駅から出てきたのは、既に陽も中天を過ぎてからの

事だった。

「ようやく、着いたわね」

「そうね。それにしてもまぁ……江利子のお兄さん達の必死だった事と言ったら……」

「聖、もういい、もうやめて」

「はいはい」

 江利子のくたびれた表情には、それなりの事情がある。

 この日、江利子は聖と一緒に海鳴に行こうとしていた。前日、蓉子にも連絡したが、彼

女は用事があるとの事だったので、結局聖と二人、という事になり――この時点で、蓉子

がいわゆる〔抜け駆け〕をしようとは、江利子も予想していなかった。

 そして、いざ出かけようと玄関に出たその時、三人の兄のひとりに見とがめられてしま

ったのである。

 友達と一緒に出かけるから、と言っても中々信じてもらえず、ついには兄達全員がああ

だこうだ言いつつ江利子に付いて来ようとする始末。結局、聖に家まで来てもらい、疑い

深い兄三人を説得してもらったのだった。

 家長(?)たる母親が、朝から父親と共に外出していたのが、この際は江利子にとって

不運だったかもしれない。

 ようやく電車に乗り込んで、

「はぁ……」

「江利子、お疲れ様」

 深いため息を吐いた江利子を、聖がねぎらう。

「ありがと、聖。もういいかげん疲れるわ……あのバカ兄達には」

 疲れ切った笑みを見せる江利子に、聖は苦笑して肩をすくめて見せたものである。そん

な聖も、江利子の兄達の剣幕を見て正直辟易していた。

 こんな兄バカ丸出しが三人もいた日には――聞いた話によると、父親もまた同類だとか

――なるほど、これでは江利子が憂鬱にもなろうもの。家の実権を握ると言う、彼女の母

親が睨みを効かせている内はいいとして、今日みたいな場合やひとりで出かけようと言う

時には、相当苦労した事だろう。

 ある意味、家族からこうまで気にかけてもらえる、と言うのも珍しい話じゃないかしら、

そう思わないでもなかったのだが、すぐに聖はその考えを改めた。

(もし私だったら……だめだ、やっぱり気が滅入るなぁ)

 そうこうしている内に、電車は海鳴駅に滑り込んだ。そして。

「気分転換に〔翠屋〕かな」

「ええ、そうね」

「今日は、何を頼もうかなー」

「そうねぇ。私は恭也さんに紅茶を淹れてもらおうかしら」

「あ、ずるいぞ江利子」

「ふふーん、早い者勝ち早い者勝ち」

 人通りの多い商店街を、ゆっくりと歩く。その方が、色々なものが見えてくる。あるブ

ティックの店頭に飾られた、洋服の鮮やかな色彩も、単に歩き過ぎるだけでは実はよく分

からない。例えば、色々な店の客引きの声。何やら食材を売る声だったりドラッグストア

の安売り宣伝だったり、そこを通る度に聞こえてくる賑々しい響き。生活の感覚。

 やがて、二人の目に見覚えのある店構えが見えてきた。

 喫茶店〔翠屋〕。その窓越しに中を何気なく覗いてみた聖が、

「うん? おっとぉ!?

 間抜けた声を上げる。店頭売りのウェイトレスが、怪訝な顔をするのもお構いなしだ。

「どうしたのよ、聖?」

 江利子の問いに、聖は指を指す事で答えた。

「何よ、指なんか指し……ちょっ、と……」

 ここにいないはずの、親友の姿がそこにあった。しかも。

「一緒にいるの、恭也さんじゃない?」

「そうだねぇ」

 ふたりして、顔を見合わせる。同時に、にたり、と笑った。

 どうやら、江利子と聖は共に成すべき事を、言葉を要せず申し合わせたらしい。








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