朱色の雨が降っていた。

 紅い、血のように紅い、大粒の雨だった。

 空を見上げると、雨雲さえもが赤い。

 紅い雨はときに粛々と、ときに轟々と降り注ぎ、やがては地表を、真っ赤に染め上げていった。

 土を。

 草を。

 木を。

 獣を。

 家屋を。

 人を。

 己を。

 真っ赤に、染めていった。

「……よう、ルーキー」

 赤だけの世界に、黒が一滴、落とし込まれた。

 立ち込める水煙に、おぼろな輪郭が浮かぶ。

 大柄な女だった。

 身の丈は軽く一九〇センチを上回り、肩幅も広い。

 背中には刃渡り三尺八寸の業物を納めた鞘を背負い、墨色の双眸は、まっすぐ自分を見つめていた。

「お前……」

 轟々、と雨が降っていた。

 しかし、唇から漏れ出たかすかな音は、女のもとへ確かに届いた。

「さあ、今夜も殺し合おう」 

 背中の三尺八寸が、勢いよく抜き放たれる。

 自分もまた、背中の相棒剣を抜き放つ。

 正眼に構える。

 睨み合う。

 紅い屋敷の目の前で、

 広い前庭の中央で、対峙する。

「わたしは、お前に斬られ、お前の一部となった」

 女が嗤う。

 楽しげに、嗤う。

 形の良い唇が、三日月のように歪む。

「おかげでこうして、毎夜、お前の夢に踏み入ることが出来る。

 毎夜、お前と戦える」

「……迷惑なんだよ。もう、いい加減にしてくれ」

「つれないな……女の誘いを断るなんて、いい男になれないぞ?」

「なれなくたって、構わない」

 女が、地面を蹴った。

 紅い、紅い地面を。

 真紅の水煙を裂いて、銀色の光線が飛び交った。

 真っ向より振り抜かれた大太刀を斜に構えた剣で受け流し、その勢いを利用して、己は剣を地擦りに置く。

 前へと、踏み込んだ。

 擦り上げた。

 肉を断つ手応え。

 骨を砕く手応え。

 命を奪う手応え。

 赤が繚乱する。

 女の体から、赤が繚乱する。

「……また、お前の勝ちだな」

 女が嗤う。

 楽しげに嗤う。

 歪んだ三日月の端から、赤が滴る。

「今宵も、心地の良い死だ……」

 女が嗤う。

 楽しげに嗤う。

 墨色の瞳が天を仰ぎ、赤を映す。

 彼女の大好きな赤を映す。

 女が消える。

 黄金色の霧となって消える。

 赤が消える。

 金色の霧が、世界を彩っていく。

 すべてが、黄金に染まる。

 土が。

 草が。

 木が。

 獣が。

 家屋が。

 人が。

 己が。

 金色の霧に、包まる。

 己の掌へと視線を落とす。

 一人の女の命を絶った、左手を。

 伝説の使い魔の証たるルーンが刻まれた、左手を。

「……また、殺しちまった……」

 ぽつり、と呟いた。

 いつの間にか、雨は粛々と小雨になっていた。

 少年の声は、広々とした前庭に寒々しく響いた。












 悲鳴が、耳膜を叩いた。

 己自身の口から迸った悲鳴だ。

 布団代わりの藁束を撥ね退け、飛び起きる。

 怯えを孕んだ眼差しで、周囲を見回した。

 暗い。

 そして静かだ。

 己の口から漏れ出る荒々しい吐息と、規則正しい寝息、そして外から聞こえる虫の音しか聞こえない。

 見慣れた景観が瞳に映じる。

 いまやどこに何があるのか完璧に把握しているほど慣れ親しんだ、魔法学院のルイズの部屋だ。部屋の主は天蓋付きのベッドに横たわり、こちらに背を向けた状態で、規則正しい寝息を立てている。

 さらに首だけを傾けて、窓の外へと視線をやった。

 異世界の夜空は、雲一つない快晴。

 故郷は地球の東京では決して見られない、星々の煌々とした灯りで賑やかな夜空が広がっていた。

 銀色の双子月が威風堂々と中央に立つステージには、朱色は欠片ほども存在しない。

 赤という役者が不在なことを認めて、ようやく、ここは現実なのだということを、平賀才人は理解した。認識した。

「……またかよ」

 ひっそりと、呟いた。

 切々と、この場にはいない誰かに訴えるように、銀色の双月を見上げながら吼えた。

「もう、いいじゃねえかよ……」

 湿り気を帯びた口調は、寝汗で体が冷えてしまったからだけではない。

 ここ数日、才人は毎晩悪夢にうなされ、絶叫し、その都度、自らの悲鳴を聞いて飛び起きる、といったことを繰り返していた。

 夢の内容は毎夜同じ。

 血のような朱色に彩られた異様な空間で、一人の女と殺し合う、というものだ。

 気がつくと才人はどこか見覚えのある貴族のお屋敷の前庭に立っており、そこに突然、相手の女が音もなく現れて、自分に襲いかかってくるのだ。

 登場する女は、やはり毎夜決まって同じ相手で、才人のよく知る人物だった。

 キャメリア・ブラックミニオン。

 刃渡り三尺八寸の永遠神剣を自在に振り回す女傑で、戦士の血が何よりも愛おしいと公言して憚らなかった女。

 かつて自分が、この手で、無二の相棒を振り抜いて葬り去った女。

「お前は、死んだんだろ? 俺がこの手で、殺したはずだろ? 俺の一部に、なったんじゃないのかよ?」

 この手で、殺した。

 そのマナを啜り、己の一部とした。

 もう終わったはずの命。

 終わったはずの女の存在が、毎夜、自分の夢を犯し、己の心を蹂躙する。

「なのに、なんでまだ、俺を苦しめるんだ……!」

 いまもなお自分を執拗に苦しめ続ける女、というのが、キャメリアに対する才人の評価だ。

 生前は三尺八寸の大太刀を自在に操る剣技をもって。

 死後は毎夜夢の中に現われて、己を苦しめてくる。

 シエスタをモット伯爵の京屋敷より連れ出してからというもの、才人は日に日に弱っていった。

 毎夜夢の中に現われては戦いを強いるキャメリアの存在は、彼の心身を著しく疲弊させ、憔悴させていた。

「頼む……頼むから……」

 毛布代わりの藁束を、強く握りしめる。

 銀色の月明かりに照らされた才人の顔は、精力漲る十代の少年とは思えぬほどに青白い。

 死者の声を毎夜聞くうちに、自らも死人になってしまったかのようだ。

 野ざらしのどくろの色をした肌には血管の筋が浮かび、悲痛な面持ちをいっそう不気味なものとしている。

「もう、俺を苦しめないでくれ……!」

 切々と呟かれた懇願の声が、部屋の夜気を撹拌した。

 上体を起こしたまま俯くその姿は、まるで自らが手にかけた相手に対し深く謝罪しているかのようだった。

 下げたくない頭は、下げられない。

 かつて大勢の前で自らの信念を口にした少年は、肩を落とし、頭を垂れて、震えていた。

 己の所業に。

 死者の声に。

 怯えて、震えた。 











 俯き、身を震わすばかりの才人は気づかない。

 天蓋付きのベッドの上で、自分に対して背を向けるルイズの鳶色の瞳がぱっちりと開いていることに。
 
 平素の彼ならば、神剣士の感覚をもって本当に眠っている人間と眠ったふりをしている人間との微妙なマナの差を感知出来ただろう。

 しかし、いまの才人は普通の精神状態になかった。

 己が犯してしまった所業に。そして、死んだ者の声に怯えるいまの彼は、永遠神剣の力も、ガンダールヴの力も、まともに扱えぬ状態にあった。

 そればかりか、まともな判断力さえ失っていた。

 寝ていた自分さえもが驚いて飛び起きるような大声の悲鳴だ。ルイズが起きないはずがないことに、いまの彼は気づいていなかった。

 ――サイト……。

 背を向けたまま、ルイズは沈痛な面持ちでその名を呟く。

 モット伯爵の京屋敷で何があったのかは、柳也からかいつまんで聞かされていた。

 無事にシエスタを連れて戻ってきたにも拘らず、硬い表情のままの柳也を、ルイズが問い詰めたのだ。

 彼は、疲れているからという理由で才人を先に寝かせた後、同じ部屋で寝起きしているルイズには知ってもらったほうがいいだろう、と彼女に屋敷であった出来事を語った。

 シエスタを連れ去ったのは柳也達をおびき寄せるための罠だったことを知ったルイズは顔面蒼白となった。さらに、敵はワルドを上司と仰ぐ神剣士だったと聞いて、言葉を失った。そして、才人がシエスタを守るために敵の神剣士を殺害したことを知り、疑問を口にした。それならばなぜ、柳也は硬い表情のままなのか、と。なぜ、才人はあんなに落ち込んだ様子なのか、と。

「……悔やんでいるんだよ、自分のしたことを」

「なんで? サイトはあのメイドを守るために、剣を振るったんでしょう? 胸を張るんだったらまだしも、悔やむ必要なんて……」

「客観的に観れば、たしかにそうだろう。才人君は自分の大切な人を守るために、剣を振るった。称賛されて然るべき行為だ。だが、彼にとってはそうじゃなかった」

 怪訝な顔をするルイズに、柳也は「初めてだったんだよ」と、告げた。

 それを聞いて彼女も、はっ、とした。

 これまで目にしてきた彼の戦う姿があまりにも印象的すぎて、忘れていた。

 そういえば、才人は――――――、

「俺達の世界ではさ、よく、殺人はセックスとセットで語られるんだ。あれも、初めてのときはすごく衝撃的で、やってる最中も、やった後も、自分の中で色んな感情が荒れ狂うんだ。たぶん、才人君もいま、そんな感じなんだと思う」

 そう言われて、なんとなく、理解出来た。

 貴族の女は結婚するまでは清い体であれ、と普段から考えているルイズだ。セックスの経験は勿論ないが、想像することは出来る。行為に対する好奇心と恐怖、想像上の想い人への恋慕で、胸の鼓動は一気に加速した。実際にやったら、心臓が破裂してしまうんじゃないかとさえ思った。

 きっと才人は、これの何十倍も激しく、何十倍も後ろ暗い感情に苛まれているんだろう。

 ルイズの愛らしい美貌に、翳りが差す。

 主人として、使い魔のために何か出来ることはないか、と彼女は訊ねた。

 はたして、柳也は憂鬱な面持ちでかぶりを振ると、残酷な言葉を口にした。

「……この問題に関しては、才人君が、自分で解決するしかない。自分自身で、気持ちの整理を着けるしかないんだ」

 己の無力さを嘆く柳也と言葉を交わしてから、すでに五日が経っていた。

 この五日間、使い魔の少年は毎夜うなされては飛び起きるのを繰り返していた。

 どんな夢を見ているかは分からない。

 ルイズが翌朝、「寝つきが悪かったみたいだけど?」と、訊ねても、才人は目の下の隈も濃い顔で笑いながら、「最近、夢見が悪いんだよ」と、曖昧な返事を寄こすばかりだった。殺人行為に手を染めた事実を知られたくないのか、それとも自分に気を遣っているのか、彼女がどんなに事情を訊ねても、彼は頑なに口を閉ざし続けた。

 命令して開口させるのは容易だった。

 しかし、そうするのは憚られた。

 図らずとも生涯に渡る契約を結んでしまったパートナーのことを信用していないみたいで、自分が嫌だったからだ。

 ゆえに、ルイズは才人が毎夜どんな夢を見て苦しんでいるのかを知らなかった。

 だが、それが悪夢であろうことは、苦しそうにもがき寝汗をかく彼の様子から容易に想像がついた。

 ――サイト……。

 もう一度、胸の内でその名を呟いた。

 寝返りを打つふりをして、才人のほうへと身体の向きを変える。

 おそるおそる視線を向けると、彼女の使い魔は憔悴した様子で俯いていた。

 フーケのゴーレムから自分を助けたときや、アルビオンでワルドと戦ったときなどに見せた精悍な面魂は、そこにはなかった。

 眼には見えない何かに怯える、少年の姿があった。

 ――……まったく! 使い魔失格ね。

 窓から差し込む月光と、星の灯りに照らされた少年の横顔を眺めながら、ルイズはひっそりと呟いた。

 ――主人にこんな心配をかけるなんて……使い魔失格よ。

 この世界に召喚してもう一ヶ月以上が経つが、いまだに自分の立場というものが分かっていないらしい。主人に心配をかけるなんて、とんだ使い魔だ。もし、少しでもその自覚があるのなら……、

 ――早く、元気になりなさいよ、バカ犬。

 早く元気になれ。

 ときに鬱陶しいぐらいの威勢の良さを、取り戻せ。

 そして、そのときには、

 そのときには、自分と、柳也と、お前の三人で、また一緒に笑い合おう。

 また三人でバカみたいにはしゃぎ合おう。

 自分はそれを求めている。

 そんな楽しい時間を求めている。

 主人の望みを叶えるのも、使い魔の仕事だ。

 だから、早く、元気になれ。

 ルイズの呟きは、やがて室内に響き出した、才人の嗚咽にかき消された。









永遠のアセリアAnother × ゼロの使い魔クロスオーバー

ゼロの魔法使いとその使い魔と、ついでに現われた守護の双刃

EPISODE:62「だけど、わたしはあなたに、生きていてほしいです」










 朝昼晩の食事時には賑やかなアルヴィーズの食堂も、生徒の大部分が拘束されている授業中は閑散としていた。

 利用者が激減する時間帯だから装飾品の多くは片付けられ、天井から吊るされているランプの灯りも、油の節約のため消されている。テーブルにはクロスさえかけられていなかったが、かえって汚す心配がなく、柳也としてはありがたいことだった。 

 ゆうに百人は座れるだろう長机をひとりで占拠する彼は、奥の座席に腰を下ろすと、テーブルの上に無地の羊皮紙の束を広げた。懐からインクの入った瓶と羽根ペンを取り出して、かたわらに置く。しばし紙面と睨み合った後、柳也はペン先にインクをたっぷり含ませると、迷いのない眼差しで筆を走らせた。無地の羊皮紙に、次々線が引かれていく。

 一定の筆圧をもって描かれたのは、シンプルな線のみで構成された図形だった。

 一枚書き終えた柳也は紙を手に取ると、鋭い眼差しで全体のバランスを検分する。

 問題なしと判じた彼は満足げに頷くと、続いて二枚目の羊皮紙にラインを落とし込んでいった。

「……何、描いてるのよ?」

 不意に、真向いの席から声をかけられた。

 耳馴染みのある声。誰がやってきたかは、すぐに分かった。

 柳也は目線を落としたまま応じる。

「ミスタ・コルベールからの頼まれ物だよ。俺の世界のガソリン・エンジンの内部図解と、それを動力に組み込んだシステムを、出来る範囲で図に起こしてくれ、って」

 地球の機械文明に興味津々なコルベール教員からの依頼だった。

 口では自らを門外漢と評しながらも、ガソリン・エンジンについてかなりの知識を持つ柳也を見込んでのことだ。

 柳也自身、絵を描くのは趣味みたいなものだから、快く引き受けたのだった。

 ちなみに筆記具一式は、コルベールが用意してくれた物だ。製紙技術も印刷技術も未熟なこの世界では、筆記具はどんなに低品質な物でも高級品だった。

「……ところで、サボりかね、不良学生さん?」

 二枚目の羊皮紙に簡単な自動車の図を描いた柳也は顔を上げた。

 腕を組んだルイズの鳶色の瞳に、自分の顔が映じているのを認める。

 たしかいまは、一限目の授業の真っ最中のはずだが。

「サボりじゃないわ。……ちゃんと、お腹が痛いから保健室で休んできます、って正当な理由で教室を抜けてきたの」

「じゃあ、大人しく保健室に行っておけよ。……才人君は?」

「部屋の掃除中よ」

「今日は教室に連れていかなかったのか?」

「連れていけるわけないでしょ。いまのあいつを」

 ルイズはそう言って真向いの席に座った。

 こちらに背を向け、右手で頬杖をつく。

 柳也は目線を落とし、三枚目の製図へと移った。

「……サイトのやつ、昨晩もうなされていたわ」

 背を向けたまま、ルイズが口を開いた。

 柳也も目線は羊皮紙に向けたまま答える。

「……昨晩も、か」

「ええ。昨晩も、よ」

 原動機付き自転車の製図をしていた柳也の手が止まった。

 憂いから渋い面持ちで溜め息をつく。

 シエスタを助け出したあの日の夜から、才人が毎夜悪夢にうなされていることはルイズから聞かされて知っていた。 内容については、才人が自分の口で話してくれたわけじゃないから明言は出来ない、と彼女は言っていたが、おおよその察しはついている様子だ。

 柳也も、孫聞きとはいえ悪夢の内容については大体想像が出来た。

 悪夢を見続けてしまう、原因についても。

 おそらく、あの日の初体験は才人の精神に想像を絶するほどの衝撃を与えたのだろう。

 多くの人間にとって、殺人とは、幼い頃から言い聞かせられてきたことへの裏切りだ。これまで歩んできた己の人生に対する冒涜だ。加えて、才人の場合はシエスタ達を護った実績が残ってしまった。大切な人を守ることが出来たという達成感が、かえって殺人行為の罪悪感を深いものにしてしまったことは、容易に想像出来た。

「なんとかしてやりたいが、こればかりはな……」

 毎夜訪れる辛い時間のせいだろう。日に日に精気をなくしていく才人の顔色に、柳也は気づいていた。

 弟子であり、友であり、この世界にたった二人きりの地球人同士だ。なんとか力になりたいとは思う。思うが――――――、

「ねえ……」

 なおもこちらを見ないまま、ルイズが声をかけてきた。

 最初期の原動機付き自転車を描き終えた柳也は、デッサンの狂いがないか視点を遠くに置きながら羊皮紙を眺め見る。

「うん? どうした?」

「あんたのときは、どうだったの? その……」

 ルイズはそこで少し言いよどんでから、

「初めて、人を殺したとき、どう感じた?」

「…………」

 デッサンの狂いがないことを確認して、羊皮紙を脇に置いた。

 視界に僅かに映じるルイズの頬を眺める。

 口元に浮かぶ苦笑。まったく、このお嬢様は……。単なる好奇心か、才人の力になろうとしているのかは分からないが、なかなかえげつない質問をしてくれる。

 だがこちらを見ないで訊いてくるあたり、多少の後ろめたさは感じているようだ。

 自分の質問が相手にどんな心理的影響を及ぼすかを承知した上での質問ならば、こちらも真面目に回答せねばなるまい。

 作業の手を止めた柳也は、さて、自分のときはどうだったか、と有限世界での戦いの日々の記憶を手繰る。思い出の海を泳ぐこと僅かに数秒、はたして柳也は、自嘲の憫笑をこぼした。

「……何も、感じなかったな」

「……え?」

 信じられない、といった表情でルイズが振り向いた。

 いささか強烈な言葉だったな、と自省し、柳也はかぶりを振って前言を訂正する。

「いいや、何も、というのは、言いすぎだな。強敵を倒したことへの達成感というか、そういう喜びはあったよ」

 しかし、罪悪感に苛まれることはなかった。

 自分が初めて人を斬ったのは、王都ラキオスの旧市街でのことだった。

 王国軍の剣術指南役、リリアナ・ヨゴウ暗殺のために、無辜の民――それも子ども――を人質に取ったバーンライトの諜報員らの頭目を斬り捨てたのだ。

 あのときの人質救出作戦は、自分にとって二重の初体験だった。一つは勿論、初めての殺人であったということ。そしてもう一つは、初めて自分が一からプランを練り、実行に移した作戦だったということ。

「あのときの俺は、殺人行為への罪悪感なんて、微塵も感じなかった。俺の練った人質救出作戦が成功したこと、それから、強敵・バーンライト情報部を打ち破ったことへの喜びしかなかった。作戦が終わってしばらく経ってからも、罪悪感で苦しむなんてことはなかった。むしろそれから数日間は、気分よく眠ることが出来た。

 ……それから戦場で、何人も、何人も殺してきたが、罪悪感を感じたことは、一度としてなかった」

 いつだったか、悠人と二人、異世界の夜空の下で語り合った日のことが思い出された。

 たしかあのときも、自分はこの言葉を口にしたのだったか。

 柳也はいっそ穏やかな表情で、自らを評する。

「……るーちゃん、俺はさ、自分のことを、異常者だって自覚している」

 殺人そのものを楽しんだことは、一度もない。

 しかし、その結果に辿り着くまでの過程……戦いというものを、自分は愛している。

 過去の戦史を読めば心が躍るし、強い敵を見つけたら、そいつと戦いたいと思う。そいつとの殺し合いを、存分に楽しみたい、と思ってしまう。

「だってそうだろう? 殺し合いを楽しむなんて、まともな神経をした人間の考えることじゃねぇよ。……俺はさ、本当ならるーちゃん達とは肩を並べることさえおこがましい、異常者なんだよ」

 ゆえに、自分では才人の力になることは出来ない。

 人を殺しても何ら痛痒を覚えない。そんな異常者の自分では、才人の抱える苦しみを本当の意味で理解することは出来ない。

 そんな異常者の経験則から生じた言葉では、彼の心には響かない。

 異常者の自分では、愛弟子が背負い苦しんでいる重荷を、分かち合うことさえ叶わない。

 無力感が心臓を締めつける。

 以前、ケティからオリハルコンネームなる単語のことで相談を持ちかけられたのは、記憶に新しい。

 あのときも、自分では彼女の悩みを解決してやることが出来ず、自身の非力さを呪ったが、それでも、彼女の話に耳を傾けることは出来た。

 しかし、今回の問題については、話を聞くことさえ自分には出来ない。

 異常者の自分には、才人の言葉に耳を傾ける資格がない。

 それが許されるのは、ルイズや、有限世界に残してきた悠人のような、味方ばかりか、敵の心配さえ出来る、そんな優しい人達だけだろう。

 非力どころの騒ぎじゃない。

 今回の件では、自分に出来ることは本当に何もないのだ。

「……申し訳ない。不快な話を、聞かせてしまったな」

 いつの間にか、自分を見つめるルイズの眼差しに変化が生じていることに気がついた。

 鳶色の瞳に浮かぶ、辛そうな表情。真っ直ぐ己を射抜く双眸の翳りは、暗い話題を聞かされたことが原因というよりは、それを口にする相手の心情を気にしてのもの、と思われた。

 腹の底から嬉しさが込み上げてくる。こんな異常者の自分の心さえ、ルイズは心配してくれているのか。

「……ない、わよ……」

 鳶色の双眸に、また変化が生じた。

 まだ幼さを残す美貌からは憂いが消え、代わって登場したのは、凛然たる怒りの相。

「わたしは、認めないわよ!」

 広い食堂ホールに、ルイズの怒声がこだました。

 小柄な彼女からは想像もつかない、鋭い一喝。

 厨房で洗い物をしていたコックの何人かが、何事か、と顔を覗かせる。

「……るーちゃん?」

 驚いたのは柳也もまた同様だった。

 いったい、彼女は何に対してそんなに怒りを剥き出しにしているのか。

 茫然とする柳也の態度が気に入らなかったか、ルイズは柳眉を逆立て、彼を睨んだ。

「あんたが、異常者だなんて! わたしは、絶対に認めないわよ!」

「るー、ちゃん……」

 愕然としてしまった。

 彼女の怒りの矛先は、自分に向けられたものだったのか。

 自らを異常者と評する自分を、彼女は怒っているのか。

 真摯な輝きを宿す鳶色の眼差しに見つめられ、柳也の心臓は自然と高鳴った。

「破壊の杖事件のとき、あんたは、オールド・オスマンから命を託されたのよね?」

「ああ」

「アルビオンでも、瀕死のあんたに、ウェールズさまは命を託したのよね?!」

「ああ!」

「わたしは神剣士じゃないから、命を託される感覚って、よく分からないけど……」

 目の前の神剣士は、かつて言った。この宇宙のすべてはマナで出来ている、と。木も草も。鉄も石も。自分達人間の身体や記憶、想いさえも、マナによって構築されている、と。

 それが真実だとすれば、命を――マナを託すということは、

「その人に、自分の想いを……、大切な願いを、託す、ってことでしょう?」

 その言葉に、はっとした。

 そうだ。破壊の杖事件のときも、ニューカッスル城で死闘を繰り広げたあのときも、自分は彼らから、血と一緒に大切なものを受け取った。再び立ち上がるための力と同時に、大切な願いを、託された。

「オールド・オスマンもウェールズ皇太子も、聡明な方よ。あのお二人が、いくら切羽詰まった状況だからといって、そんな異常者なんかに自分の大切な想いを、預けると思う? ただ強いというだけで、あんたに、自分の命を預けたりすると思う!?」

「……いいや」

 ワシの子ども達を護ってくれ、とオスマンは言った。

 あの男を倒してくれ、とウェールズは言った。

 彼らは自分に、大切な願いを託してくれた。

 自分達の想いを託せる人物だと、己のことを認めてくれた。
 
 守護の双刃の持つ戦力ではなく、桜坂柳也という男の為人に、信を置いてくれたのだ。

「……」

 目頭に熱を感じて、柳也は思わず目元を右手で覆った。

 あれほどの男達から認められていたという事実を認識し、不覚にも涙があふれそうになった。

 ルイズはそんな彼をまっすぐ見つめながら、重ねて言った。

「だからその不当な評価は取り消しなさい。あんたが、自分のことを異常者だと思っているなんてあのお二人が知ったら、すっごく怒るだろうし、ひどく悲しむと思う。……わたしだって、悲しいんだから」

「るーちゃん……」

 唇から漏れ出た呟きは、歓呼の熱で震えていた。

 オスマンと、ウェールズだけではなかった。

 彼女もまた、己のことを異常者ではない、と思ってくれていた。

 それも引き合いに出した二人と違って、自分の好戦的な一面をよく知りながら、異常者ではない、と。自らを異常者と評する自分を見て、悲しい、と言ってくれた。

 柳也はぐっと奥歯を噛み締めた。

 いよいよ涙腺が限界だった。

 いまちょっとでも気を抜けば、すぐにでも澎湃と涙があふれてしまうだろう。

 嬉しさのあまり、みっともない姿をさらしてしまうだろう。

 そうならぬよう、柳也は腹の底から絶えず湧き出でる衝動を懸命に堪えた。

「それから、勘違いされても困るから、一応、言っておくけど」

 ルイズが立ち上がって言った。

 指の隙間から映じる彼女の頬は、やや朱色が差し込んでいる。

「わたしがあんたに人殺しの感想を求めたのは、決して、興味本位なんかじゃないから」

「……るーちゃん?」

「あんたにも昔、サイトと同じように苦しんだ時期があったんじゃないか、って思ったら、訊きたくなったの。……あんたのことを、知りたいと思ったのよ」

 そう言い残して、ルイズは食堂を立ち去った。

 どうやらこれから、本当に保健室に向かうらしい。

 後に残された柳也は、コルベール教員から依頼された仕事を再開するべく、ペンを手に取り、苦笑した。

「……あ〜あ、やっぱり、ダメだったか」

 故郷の地球で最も成功した原動機付き自転車を描こうと、新たに広げた羊皮紙の上に、ぽつり、ぽつり、と大粒の水滴が落ちた。

 水滴は僅かに一瞬、その場に留まった後、たちまち、黄金の霧へと蒸散していった。

「……ったく、異世界くんだりまで来て、俺は本当に、果報者だよ」

 広々とした食堂に、柳也の呟きは、寒々しく響いた。











 夕刻。

 柳也がいつものように稽古のためヴェストリ広場に赴くと、そこには珍しい顔があった。

「ギーシュ君に……ミス・ロッタ?」

 稽古具をしまっているテントの前では、ギーシュとケティがやや硬い面持ちで柳也が来るのを待っていた。

 いつもこの時間稽古に励んでいるギーシュはともかく、ケティのほうはなぜ……?

 訝しげな表情を浮かべる柳也に、ギーシュが言う。

「ミスター・リュウヤ、サイトは今日も、稽古を休むんですか?」

「……ああ」

 柳也は硬質感さえ漂う口調で応じた。

 モット伯爵の屋敷へ踏み込んだあの日以来、才人は夕方の稽古を休んでいた。彼自身が、しばらく休みたい、と申し出たのを認めたのだ。柳也自身も、いまの精神状態の才人に剣を握らせるのは危険と考えていたので、否はなかった。

 ただ、才人が休んでいる原因について、柳也はギーシュに詳しく伝えていなかった。

 事実をありのまま伝えることは、才人の気持ちを考えると憚られた。かといって嘘をつくのはもっと抵抗があった。自分を慕ってくれているこの男とは、偽りのない心で接したかった。

 ゆえに理由を訊かれても、「申し訳ないが、いまは答えられない」と、返すのを常としていた。

 そしてそれは、ギーシュ以外の者に対しても同様だった。目の前にいるケティは勿論のこと、パートナーのマチルダにさえ真相は告げていなかった。

「理由は、やっぱり今日もまだ言えないんですよね?」

「ああ。……すまないが」

「そうですか」

 柳也の双眸が、意外そうに見開かれた。

 ギーシュの表情に落胆の様子が浮かばなかったためだ。

「……ミスター・リュウヤ」

「うん?」

「いまから少し、独り言を口にします」

 困惑した表情を浮かべる柳也の顔を真っ直ぐ見上げながら、ギーシュは言の葉を重ねた。

「……サイトが稽古を休むようになって、今日で四日目になりました」

 独り言と宣言しておきながら、かなり大きな声量だった。

 まるで日本海海戦のときの安保清種のようだな、と柳也は思った。

 連合艦隊の旗艦〈三笠〉の砲雷長で、有名な東郷ターンの直前、「どちらの側で戦なさるのですか!?」と、大声で独り言を呟いたエピソードで知られている。

「最初は何か怪我をしたんじゃないかと思いました。神剣士のサイトですからね。病気が理由で稽古を休むとは考えにくい。けれど、こうも休みが続くとなると、怪我の可能性はかえって低くなる。人並み外れた回復力を持つあいつが、四日も休んでいるんです。もし、本当にそんな大怪我を負っているのなら、ミスター・リュウヤの性格を考えれば、稽古自体をしばらく休みにするはず。でも、あなたはそうせず、僕との戦術研究だけはこうして続けている。ということは、欠席の理由は病気や怪我ではない、ということになる。

 なら、本当の理由は何なのか。サイトが初めて稽古を休んだ四日前に何かあったのか? それとも前日に? ……失礼ですが、この一週間のサイトの動向について、僕なりに調べてみました。すると五日前、サイトとあなたが魔法学院の外に出たことを突きとめました。さらにその前日の夜、お二人と特に仲の良いメイドが、好色で有名なモット伯爵の手の者によって伯爵の京屋敷に連れていかれたことも。そして、五日前の夕刻、お二人がそのメイドと、さらにモット伯爵を連れて、憔悴した様子で魔法学院に戻って来たことも突きとめました」

 帰ってきたときの姿を、誰かに見られていたのか。

 ギーシュはそこで一旦言葉を区切り、改めて柳也の黒炭色の双眸を見つめた。

「これらの情報を総合し、僕は推理しました。

 五日前のあの日、あなたとサイトは魔法学院から外出し、モット伯爵の京屋敷へと向かった。目的は伯爵の手の者に連れていかれたというメイドを取り戻すためです。そして足を運んだ京屋敷で、何か事件に巻き込まれた。なんとかメイドを連れ戻したものの、それが原因で、サイトは連日稽古を休むほどの――それが肉体的なものであれ、心理的なものであれ――ダメージを受けている」

 違いますか? と、見上げる視線が語っていた。

 宝石のような青い眼差しを真っ直ぐ見つめながら、柳也は先の安保砲雷長が戦後に著した回想録の内容を思い出していた。

 Uターンをして併航戦に持ち込むことは、事前の作戦会議でも決まっていたことだった。しかし、いつ、どこでUターンをするかは、敵艦隊の動向如何によるため、その場で決めねばならない。やがて明治三五年五月二七日、日本連合艦隊は敵バルチック艦隊を補足。先頭を行く戦艦〈三笠〉の艦橋で叫ばれた、“大きな独り言”を耳にした東郷平八郎司令長官は、戦史に名高いあのUターンを指示した。

 あのときの東郷平八郎と同様、“大きな独り言”を耳にした自分には、それに答える義務があろう。

 なにより、ギーシュは求めているはずだ。自分の言葉を。

「……何があったのか、俺の口からは言えない」

「何かあったことは否定しないんですね?」

「想像に任せるよ、軍師ギーシュ」

「そうですか……。なら、もう一つ」

「うん」

「サイトはいま、苦しんでいるんですか? 一人で、何か重たいものを、抱え込んでいるんですか?」

 問いの言葉が、鏑矢の如く柳也の胸中を突き刺した。

 ギーシュの双眸には、友人の身を案じる真摯な輝きが宿っていた。

「……俺だけじゃなかったか」

「え?」

 ギーシュの“大きな独り言”ではないが、知らず、呟きが唇から漏れ出ていた。

 柳也は莞爾と微笑んで、ギーシュを、そして彼の背後に立つケティを見た。

 ケティのガーネットの瞳にもまた、愛弟子と同様、才人のことを心配している様子が窺えた。

 ――……果報者は、俺だけじゃなかった。

 異世界に存在するこの土地で、こんなにも素晴らしい友人を持つことが出来た。奇跡のような出会いに恵まれた才人もまた、たいへんな果報者だった。

 ――俺も才人君も、恵まれているよな、本当に……。

 特に自分はそうだ。

 ファンタズマゴリアでも、ハルケギニアでも、素晴らしい人物と出会えた。

 彼らとともに過ごした時間は、亡き両親との思い出と並んで、自分の人生において最も大切な宝物となっている。

 ――ああ、そうだ。宝物だ。

 柳也は黒炭色の瞳に優しい光を宿らせ、ギーシュとケティを見た。

 自分の大切な宝物を真っ直ぐ見つめて、彼は、ゆっくりと頷いた。

「何が原因かは、話せないが……」

「……そうですか」

「あの……」

 それまでギーシュの背後で控えていたケティが、一歩前に踏み出して口を開いた。

「その苦しみを、わたしたちが取り払うことは出来ないのでしょうか?」

「……無理です」

 ケティの問いかけに、柳也はきっぱりと応じた。

「というより、今回に限っては、それはやっちゃいけないことなんですよ」

「やってはいけないこと?」

「ええ……。ギーシュ君の言う通り、才人君はいま、とても重たい荷物を抱えています。そのことで、苦しんでいます。そんな彼を助けたいと思うミス・ロッタ達の気持ちは、俺もよく分かります。ですが、才人君がいま直面している問題は、彼自身が自らの手で解決しなきゃいけない類のものなんです」

 夜、枕元でわが子に昔話を語り聞かせるかのように、柳也はゆっくりとした口調で言った。

「今回の問題は、余人が口を挟んでいいものじゃない」

「……そう、ですか」

 ケティは悄然と肩を落とし、溜め息をついた。

「わたしたちよりもずっと、サイトさんのことを知っている、あなたがそう言うのですものね。おそらく、そうなんでしょう。……でも、」

 ケティはしかし、そこで顔を上げた。

 無力感に苛まれている様子はない。力強さに満ち満ちた眼差しが、真っ直ぐ柳也を見上げた。

「力になることは駄目でも、元気づけて差し上げることは、良いですよね?」

「……ああ。……ああ!」

 柳也は嬉々とした頷いた。

「是非、そうしてやってくれ」

「はい! ……軍師の知恵の見せ所ですね、ギーシュ様?」

「そうだな。期待しているぞ、わが弟子よ」

「二人とも、プレッシャーをかけないでくれよ」

 端整な美貌に苦笑が浮かぶ。

 柳也とケティは顔を見合わせ、莞爾と微笑んだ。











 夕刻。

 柳也達の鍛錬が終わった頃合いを見計らってヴェストリ広場に足を運んだ才人は、人目を寄せぬ隅の方で風呂の用意をしていた。

 才人達の世界と同様、ハルケギニアにも風呂の文化は存在し、トリステイン魔法学院には、大理石製の大きな、それは大きな風呂釜があった。古いローマ風呂のような造りをした浴槽には香水の混じった湯が張られ、肩まで浸かってゆったり足を伸ばし、伸びの一つもした日には天国気分が味わえるという話だ。だが勿論、才人が利用することは出来ない。天国気分の風呂釜は、貴族専用だった。

 才人に入浴が許されているのは、学院内で働く平民用の共同風呂だった。掘っ立て小屋のような造りのサウナ風呂で、焼き石が詰められた暖炉の隣に腰かけて汗を流すという代物だが、現代世界は日本で生まれ育った才人の肌に、蒸し風呂は物足りなかった。彼にとっての入浴とは、たっぷりと湯を張った風呂釜に肩までどっぷり浸かる行為を指していた。

 異世界のサウナに不満を抱いていたのは、柳也も同様だった。二人は相談し、自分達で風呂を作ることにした。マルトー・コック長に頼み込んで古い大釜を一つ譲ってもらった彼らは、それを五右衛門風呂とした。窯の舌にくべたまきを燃やし、縁を削った蓋を底板として沈めた後に浸かるのだ。

 もともと人間が浸かることを想定していない大釜だ。

 どんなに頑張っても足は伸ばせないし、肩まで浸かることも出来ない。

 そのため天国気分とはいかなかったが、慣れないサウナに比べれば雲泥の差だった。

 シエスタ救出のためモット伯爵の京屋敷に乗り込んだあの日以来、剣を握っていない才人だったが、生きている限り、垢は出る。

 今日もまた大釜の前に座った才人は、火打ち石を叩き合って火花を散らし、枯れ草に燃え移ったのを種火として、湯を沸かしていった。

 ときに薪をくべ、ときに団扇をあおいで火力の調整に努めるその手つきは、手慣れたものだ。

 最初の頃は火を起こすのにも五分以上かかっていたのが、いまやすっかり習熟してしまった。

 やがて日が翳り、二つの月が薄っすらと姿を見せてきた頃、湯船に手を沈めと、風呂釜の中はちょうど良い湯加減になっていた。服を脱いで蓋を踏みながら大釜に浸かると、思わず溜め息が口をついて出た。全身を揉みしだく熱い湯の感触が、たまらなく心地良かった。

「あー、いい湯だな、こりゃ」

 掌で湯をすくい、顔を洗う。やや紅潮した頬のまま双子の月を見上げ、ほうっ、とまた気持ちよさ気に溜め息をついた。

 大釜の横の壁に立てかけたデルフリンガーが、そんな才人に声をかける。

「いい気分みてえだね、相棒」

「ああ。本当に良い湯だぜ……」

 少なくとも六千年以上の長きを生きる神剣とはいえ、ついこの間まで錆の浮いていたデルフリンガーだ。才人は湿気が向こうまでいかぬよう注意しながら応じた。

「……なあ、デルフ」

「なんだい、相棒?」

「俺、いま、生きてるんだよな……」

「突然なんだい、相棒?」

 夜空に並ぶ双子の月を見上げたまま呟いた才人に、デルフリンガーは訝しげな声を投じた。

 才人はもう一度湯をすくって顔を洗うと、口を開いた。

「俺さ、いま、すげえ気持ちいいんだよ。剣のお前には分かりづらい気持ちかもしれないけどよ、こうやって熱い湯船に浸かっていると、体の芯まで、ぽかぽか、して、すげえ気持ちいいんだ。それって、俺がいま、生きてるからだろ?」

 熱い湯船に身を浸すことで快感を得られるのは、自分がいま、生きているからだ。

 この心地良さを感じ取れるのは、生者でしかありえない。

「あいつは……キャメリアはもう、こういう気持ちいいとか、楽しいとか、嬉しいとか、何も、感じられないんだよな」

「相棒……」

 キャメリアは、死んだ。

 自分がこの手で、命を奪った。

 彼女はもう、何も感じないし、何も感じられない。

 他ならぬ自分が、そうしてやった。

「なあ、デルフ……。生きるって、楽しくて、嬉しくて、すげえ気持ちよくって……辛いな」

 生きることが辛い。

 そう口にする才人に、デルフリンガーはかける言葉が見つからなかった。

 六千年前も、そして現代も、彼は所詮、一振の剣でしかなかった。戦うのは彼を握った人間であり、悩むのも、彼を握った人間だった。彼はいつも、その姿を眺めることしか出来なかった。彼に出来るのは、自分の気持ちを伝えることだけだった。

「それでもよ、相棒。俺は、お前さんに……」

 生きてほしいと思う。

 続くはずの言葉は、声にならなかった。

 デルフが言の葉を発するよりもいち早く、女の声が、才人の耳朶を叩いた。

「それでも、わたしはあなたに生きてほしいです」

 振り向くと、煌々と降り注ぐ月明かりに照らされて、ほっそりとしたシルエットが視界に映じた。

 見慣れた色調の作業衣。ティーポットとカップの載ったお盆を抱えて、シエスタが立っていた。モット伯爵の京屋敷から連れ戻して以来、またアルヴィーズ食堂で働いているのだ。いつものメイド服を身に纏っているが、頭のカチューシャをはずしている。肩の上で切り揃えられた黒髪が、月光に照らされ艶やかに光っていた。

「シエスタ……」

「サイトさん……」

 自分がいま、裸なのも忘れて、才人は思わず見入ってしまった。

 もうずいぶんと、彼女の顔を見ていないような気がする。京屋敷での一件以来、意識的に、あるいは無意識のうちに、人との関わりを避けている才人だった。また、彼のあずかり知らぬことだが、シエスタのほうもここ数日は魔法学院復帰の手続きなどで忙しく過ごしていた。二人が顔を合わせるのは、実際、久しぶりのことだった。

 数日ぶりに会ったシエスタは、記憶にある元気な姿とあまり変わっていないように思われた。

 記憶よりも少し痩せた印象だが、食事自体はちゃんと摂っているらしく、顔の肌艶は良い。あんなことがあった後だから、食事も喉を通らぬのではないか、と心配していた。どうやら杞憂で済みそうだ。

 それにしても、シエスタは何をしにここに来たのか。

 盆のティーカップの注ぎ口からは雨雲色の湯気が薄っすらと立ち昇っている。カップの数は二つだから、普通に考えれば、これから誰かとお茶をするつもりなのだろう。しかし、こんな時間、こんな場所でいったい誰と……? それに、先ほどの呟きを聞かれてしまったようだが、いつからここにいたのか。

 才人の訝しげな視線に気がついたか、シエスタは抱え持つお盆を示して言う。

「ちょっと、珍しい品が手に入ったので、サイトさんにご馳走しようと思いまして。……サイトさん、このところ食堂に顔を見せませんでしたし、リュウヤさんたちに訊いたら、疲れている、という返答でしたから」

 なるほど、お茶の相手は自分だったか。それも目的は自分を元気づけることだったとは……。シエスタの気遣いに、サイトは感謝の言葉を口にする。

「そうだったのか……。ありがとう、シエスタ」

 笑いかけたつもりだったが、シエスタの面差しを見るに、上手くいったかどうかは怪しかった。

 彼女は何やら思いつめた表情で頷くと、その場でしゃがみ、ティーポットを手に取った。

「東方のロバ・アル・カリイエから運ばれた珍しい品だそうです。なんでも、“お茶”っていうんだとか」

「お茶?」

 片方のカップに注がれたそれを、才人は口に運んだ。

 懐かしい香りが鼻腔を見たし、心臓が高鳴った。逸る気持ちのままにカップを傾けた瞬間、才人の目頭が熱くなった。

 ――緑茶の味だ……!

 生まれ故郷の世界で慣れ親しんだ風味と、ほとんど変わらないように思われた。

 途端、懐かしさに襲われた才人は大釜の風呂の中で俯き、カップを持っていない左手で顔を覆った。シエスタの顔が強張る。指の隙間から、嗚咽が漏れていた。

 懐かしい。ああ、懐かしい! 日本の味だ。忘れがたい、祖国の味だ。懐かしい日々の記憶が、愛おしい思い出が、胸の内を、頭の中を掻き乱す。温かい布団。温かいご飯。一緒に馬鹿をやった友人達。彼らと夢中になったテレビゲーム。初恋の女の子。やたら口うるさかった体育の先生。家族。幼き日に後援でキャッチボールをした、父さんの大きな掌。それよりもうんと幼い頃に感じた、母さんの腕のぬくもり……。すべてが、懐かしい。会いたくて、たまらない。

 ――帰りたい……帰りてぇよぉ……。

 帰りたかった。

 自分を苦しめるこの世界から逃げ出して、あの日なたのような日々に戻りたかった。

 何の変哲もないが愛おしい日常に戻って、すべてを忘れたかった。

 あの女のこと。あの女に刃を叩き込んだ瞬間の手応え。そのとき、自分の胸中に生じた、あの感情−―――――、

 過日の陰惨な記憶さえも思い出してしまった才人は、カップを取り落とし、身を守るように自らを抱きしめ、胴震いした。

 熱い湯の中にいるはずなのに、氷の塊を抱いているかのような悪寒が総身を襲っていた。

 寒かった。

 身体も、心も どうしようもなく、寒かった。

 涙と、汗でぐしゃぐしゃに乱れた顔の才人は、低く押し潰した悲鳴を上げた。











 不意に、ばしゃん、と水の跳ねる大きな音が耳膜を叩いた。

 湯船に生じたさざなみが、最近になって厚さを増し始めた胸板を叩く。

 才人が顔を上げると、やわらかなぬくもりが、彼を包み込んだ。

 鼻腔をくすぐる、ほのかに甘い匂い。

 頬を圧迫するふくよかな感触が、やけに心地よい。

 後頭部を抱かれる感覚に、思わず戸惑いの声がこぼれた。

 衣服が濡れるのも構わず湯船に入ってきたシエスタが、才人の体を抱きしめていた。

 狭い風呂釜の中で、少年と少女の体が密着する。

「し、シエスタ……!?」

 自身の置かれている状況を悟った彼は、顔を真っ赤にしてうろたえた。

 シエスタは、赤子を抱くような手つきで才人の頭の後ろに腕を回していた。

 両の頬を揉むボリューミーな感触に赤面しながら、才人は慌てて言う。

「や、やめろってシエスタ! 服が濡れちまうよ!」

 しかし、シエスタは才人の言葉が聞こえていないかのように、彼の顔を自らの胸へと押しつけた。

 勿論、体力で勝る才人が本気で振り払おうとすれば、女の細腕による拘束を解くなど容易い。とはいえ、シエスタに暴力を振るうなんて考えられないことだったし、なによりいまの自分は裸だ。下手に暴れて変なところを触られても困る。

「サイトさん……そのままで、聞いてください」

 頭上よりかけられた声が、優しく耳朶を撫でた。

 抵抗の術を封じられている才人は小さく溜め息をつくと、四肢から力を抜いた。

 大人しく彼女に身を委ねると、じんわり、とまどろみのような安らぎが、身の内に蓄積されていくのを感じた。

「サイトさん……。わたしには、あなたが何をそんなに悩んでいるのか分かりません」

 そもそもにおいて、永遠神剣のことや、才人達が異世界からやって来たことなどを知らぬシエスタだった。

 モット伯爵の京屋敷での事件は、彼女が伯爵の使者を名乗ったスピリット達に連れ去られたことに端を発したが、シエスタはただ巻き込まれただけにすぎない。

 自分と柳也の共通の知り合いというだけで連れ去られた彼女が知っていることは、本当に少なかった。

 そして知らないがゆえに、シエスタには才人の懊悩を理解することは出来なかった。

 平和な時代に生まれ、平和の中で育った。人殺しは最低の行為と教育され、他者の命を剣をもって奪ったのは先日が初めてだった。そうしたことを、彼女は知らなかった。

 そしてやはり、知らないがゆえに、シエスタは、自らの想いを口にする。

 才人の考えとは関係なしに、自らの気持ちを、言葉にする。

「だけど、わたしはあなたに、生きていてほしいです」

「シエ、スタ……」

「好きだから」

「え?」

「わたしは、サイトさんのことが好きだから……」

 思いのほかふくよかな丘陵に顔をうずめたまま訊き返す才人に、シエスタは優しく微笑みかけ、自らの想いを告げた。

「好きだから、一緒にいたいと思うんです。好きだから、同じ時間を過ごしたいと思うんです。……好きだから、わたしはあなたに、生きていてほしいんです」

 後頭部を支える両腕に、いっそうの力が篭もる。耳膜を撫でる、心臓の音。徐々に激しさを増していくそのテンポに意識を向けていると、なぜだか、安心出来た。

「もちろん、これはわたしの我がままです。サイトさんの都合なんて一切考えていない、一方的な気持ちの押しつけです」

 そうと分かっていながら、しかし、シエスタは自分の想いを言葉にする。

 才人に生きてほしい、と願いを口にする。

「きっと、わたしだけじゃないはずです。リュウヤさんやミスタ・グラモン、厨房のみんなだって、あなたのことが好きなはずです。あなたに生きてほしいと、願っているはずです。だから、生きるのが辛いなんて、言わないでください」

 切々と紡がれる言の葉は、気がつけば湿り気を帯びていた。

 顔を上げると、藍墨色の宝玉が涙で潤み始めていた。

「シエスタ……俺、は……」

 嗚咽混じりの声が、唇をついて出た。

「俺は、生きていても、いいのかな……?」

「サイトさん……」

「……初めて、だったんだ」

「え?」

「人を、殺すの」

 平和な時代に生まれ、平和の中で育った。人を傷つけるのはいけないことだ、と。人殺しは最悪の行為だ、と幼い頃から言い聞かされてきた。裏切った。両親の言葉を。恩師の言葉を。小さい頃からいつもかたわらにいた道徳心を、裏切った。自分のことを、許せなくなった。自分のことが、怖くなった。あんなにも嫌悪していたのに、いざその瞬間を迎えると、あっさりこなしてしまった。こなしてしまえた自分が、怖くなった。そしてなにより――――――、

 ――……気持ちよかった。

 あのとき、

 キャメリアに渾身の一太刀を叩き込んだあのとき、自分の心は、まぎれもなく歓喜で満たされていた。

 彼女を構築していた原始生命力がばらばらに分解され、デルフリンガーへと取り込まれ、そして自分と、一つになっていく、あの感覚。あの心地よさ……! 生命が溶け合い、一つになる。セックスよりも緊密な、命と命の結びつきから生まれる圧倒的な快感! これまでずっと正しいと信じてきた常識は一瞬にして意味を失い、代わって生じた快感が、才人の中で荒れ狂った。

 あの瞬間、才人の表情筋は自然と恍惚の笑みを形作っていた。

 えも言われぬ快楽の奔流の中で陶酔し、やがて笑みを浮かべている自分に気がついた彼は、愕然として剣を振るう手を止めた。

 ――あ……俺、なんで……?

 あんなに、嫌悪していたはずなのに。

 嫌悪していたはずの、行為なのに。

 心臓の高鳴りが、止まらなかった。

 剣を振るう手を止めてなお、興奮は際限なく昂ぶっていく。

 そんな自分自身に、愕然とした。

 殺人という一連の行為の中で快感を得ている自分を恐ろしく思い、また、許せないと感じた。

 自分で、自分を許すことが出来ない。自身の行動を、他ならぬ自身が肯定出来ない。それはとても辛いことだ。

 殺人を犯してしまった事実と、その過程で快感を得てしまった自身への嫌悪。内外からの重圧にさらされて、才人の心は日々摩耗していった。いつの頃からか、苦しみから逃れたいがあまり、生きることさえ苦痛に感じるようになってしまった。あるいは、毎夜見るあの悪夢も、そうした不安定な精神状態の顕れだったのかもしれない。

「…………」

 才人の突然の告白に、シエスタはしばし絶句することしか出来なかった。

 彼が口にした言葉は、あまりにも少ない。

 ゆえに、才人がいかなる理由で苦しんでいるのか、シエスタが知りえたこともまた少ない。

 そもそも、神剣士の苦しみを真実理解出来るのは、同じ神剣士でしかありえない。

 ただ、目の前の少年が、途方もない懊悩を抱えていることだけは、理解出来た。

 苦しみから、生きることが辛いと感じてしまうほど、弱っていることが察せられた。

 だから、彼女は少年をそっと抱きしめる。

 抱きしめて、自分の気持ちを口にする。

 才人の行いを否定も、肯定もせず、ただただ、己の想いを告げた。

「……生きてください、サイトさん」

 他ならぬ自分自身が、彼らに助けられた身だ。そんな自分では、才人の行動の是非を正しく判断することは出来まい。おそらく、彼の求める答えを口にする資格が、自分にはない。

 しかし、そんな自分でも、確信を持って言えることが、一つ、ある。

 一〇〇パーセントの確信を抱いて、伝えられる想いがある。

「わたしは、サイトさんが生きてくれたほうが、嬉しいです」

「シエスタ……」

「いいか、悪いかの判断は、わたしにはつきません。……ほら、わたしなんて平民の小娘ですし、貴族の方々と比べると、ものを知りませんから……。でも、そんなわたしでも、これだけは自信をもって言い切れるんです」

 ちょっとだけおどけた口調で、だがきっぱりと、シエスタは言った。

「何度だって言います。サイトさん、わたしはあなたのことが好きです。あなたに、生きていてほしいです!」

 問いに対する返答としては、落第点の内容だった。

 自分の気持ちを、ただ伝えただけ。

 しかし才人は、その回答を嬉しく思った。

 決して許されざる罪を犯した。そうと知った上で、彼女は咎人の自分に生きてほしいと言ってくれた。そのことが、彼女の気持ちが、たまらなく嬉しかった。苦しみよりもいっそう強い情動が胸の内に生じ、爆発するのを、才人は自覚した。

 少年の四肢から、強張りが消えた。

 無言で、シエスタの胸に顔を預ける。

 もう裸まで見られているというのに、男としてのプライドがはたらいた。これ以上泣き顔を、女のシエスタに見られたくなかった。

 シエスタもまた、才人の背中を無言で撫でさする。

 わが子を抱くかのような手つきからは、深い情愛が窺えた。

 体の震えは、いつの間にか止まっていた。

 夜のしじまを、波打つ風呂釜の水音と、切々と響く泪声が掻き乱す。

 いつもは口数の多いデルフリンガーも、このときばかりは黙然としていた。













「……お見苦しいものをお見せしました」

 夜のしじまを、波打つ風呂釜の水音と、才人のいまにも消え入りそうな声が掻き乱した。

 あれからたっぷり十分は、彼女の胸に顔を埋めていただろうか。

 泣き顔こそ見られぬよう努めたが、裸に加えて、みっともない声をさらしてしまった。男としてのプライドはもうぼろぼろだ。五体を揉む湯の熱とは別な理由から赤面する才人に、シエスタは楚々とした微笑を浮かべて言う。

「いえ、見苦しいなんてそんな……むしろ嬉しかったです。弱い姿を見せてくれて」

 それこそ、自分と才人の間に緊密な信頼関係が築かれている証左ではないか。

 誇らしげに胸を張るシエスタの顔を、才人は直視出来なかった。

 迷いのない彼女の態度が嬉しくて、他方でいっそう自分の情けなさが際立つような気がして、さらなる羞恥襲われた彼は真っ赤な顔のまま俯いた。

「あー……うー……その、お願いですから、忘れてください」

「嫌です」

 きっぱりと断言。

 才人は肩を落として溜め息をついた。

「さいですか……ところで、三つほどお訊ねてしても?」

 面差しはそのままに、視線だけ上方へと傾けて言った。口調こそ丁寧だが、緊張のためか声が震えている。

 シエスタが頷いたのを認めて、才人は妙にしゃっちょこばった様子で口を開いた。

「あのう、僕達はなにゆえ一緒に、お風呂に浸かっているんでしょうか?」

 そうなのである。

 落ち着きを取り戻した才人との抱擁を解いた後も、シエスタは風呂釜の中に留まり続けていた。

 もともと人が浸かることを目的に造られた鍋ではない。ただでさえ狭い場所にもう一人が加わり、彼らはぴたりと寄り添うように、向き合う形で湯船に身を沈めていた。迂闊に動けば自分の手がシエスタの大切な場所に触れてしまいそうなぐらいの至近距離。滾々と尽きることなく湧き上がる羞恥心は、何も泣き顔を見られたことだけが原因ではない。

「いやあ、実はちょっぴり憧れてたんですよ」

 上を向いたままのサイトの問いかけに、シエスタはにこにこと笑いながら答えた。

「サイトさんもリュウヤさんも、ここでよくお風呂に浸かってましたよね?  小さいですけど、お湯を張ったお風呂なんて、貴族の方々が浸かる物じゃないですか! だから、機会があったら是非、一度入ってみたいなあ、って」

「……左様ですか」

 チクショー貴族社会! そしてありがとう貴族社会! シエスタみたいな可愛らしい娘と一緒に湯船に浸かるなんて嬉し恥ずかしイベントをプレゼントしてくれた異世界の世相に対して、才人は胸の内で感謝と罵倒の双方入り乱れる雄叫びを発した。

「ええと、二つ目の質問、よかですか?」

「はい。……っていうかサイトさん、だんだん、口調がヘンになってません?」

「そげなことあらへんよ」

「相棒、混ざってる、混ざってる」

 かたわらのデルフリンガーの言葉を無視して、才人はやはり満天の星々を見上げたまま言う。

「そのう、シエスタさんはなにゆえ、裸なのでしょう?」

 そうなのである。

 才人とほとんど寄り添うような形で湯船に浸かるシエスタは、衣服を身に着けていなかった。

 アウターは勿論、下着さえはずしている。

 一糸纏わぬ姿は風呂に浸かるスタイルとしては正解だろうが、別な意味で不正解だった。目のやり場に困る。手足の行き場にも困る。不慮の事故も、服の上からならばまだ言い訳も可能だろうが、素肌に直接では言い逃れのしようがない。

「なんでって……わたしの服、濡れちゃいましたし」

 震える才人を抱きしめる際に、シエスタの着ていたメイド服はお湯をたっぷり含んでしまった。

 風呂に浸かるのに服を着たままでは不作法だし、なにより肌にまとわりついて気持ち悪いと、シエスタは、いっそ気持ちのいい脱ぎっぷりでメイド服や下着を脱いでいった。着ていた衣服は現在、薪を使って火のそばに干している。

「……正直、目のやり場に困るんだけど」

 わー、なんて綺麗な星空なんだー、などとぼんやり考えながら言う。

 するとシエスタは、はにかんだ笑みを浮かべた。

「そんなに照れないでください。わたしも照れるじゃないですか。……こっちを向いても大丈夫ですよ」

「み、みみみ見えちゃうよ!?」

「ちゃんと胸は腕で隠してますし……、お湯の中は暗くて見えないですから、平気ですよ。……それに、サイトさんになら見られても……」

「その発言が飛び出した時点で平気でいられないから!」

 ちらり、と視線を下に向ければ、やけに色っぽい表情のシエスタがいた。より視線の進入角を深めると、鎖骨の盛り上がりが形作る芸術的なラインが視界に映じた。さらに視線を下にやると、深い谷間への入口。心臓の高鳴りのを自覚して、才人は慌てて顔をそむけた。とても平静ではいられなかった。

 こういうときは女のほうが肝が据わるものなのか、シエスタは臆することなく才人を真っ直ぐ見つめながら口を開く。

「それで、三つ目の質問というのは?」

「あ、ああ。うん……」

 質問を促された才人は、途端、歯切れが悪くなった。

 よほど口にしづらい内容なのか、舌先で言葉を探す表情からは躊躇いが窺える。

 やがて意を決したか、それでも緊張から硬い声で、才人は続けた。

「さっき、俺のことが好きって言ってくれたけどさ、あれって、そういう、ことなのか?」

 具体的な言葉をあえて避けた言い回し。しかし、その意図するところはちゃんと伝わったらしく、今度はシエスタのほうが赤面する番となった。

 指摘を受け、今更ながら気恥ずかしさに襲われたか。だが才人とは違って、シエスタの表情から動揺は窺えない。

 裸を曝していることとは別な理由からはにかみ、溜め息をついて、彼女は答えた。

「……本当は、もっと良い雰囲気のときに言いたかったんですけどね」

 その一言が、すべてを教えてくれた。

 こういうときに場の雰囲気を大切にしたがるのは、男も女も同じなのか。

 望まぬタイミングでの告白を強いてしまったことに、申し訳ない気持ちが湧いてくる。

 咄嗟に謝罪の言葉を口にしようとして、やめた。謝るのは、何か違うような気がした。

 それに、理想からは遠い形とはいえ、想いを告げられたのは確かなのだ。次に口にするべきは、彼女の想いに答える言葉でなければ。

 シエスタのことは、勿論好きだ。いくら人道にもとる手段で連れ去られたとはいえ、好きでもない人間を助けに向かうほど、自分はお人よしでも聖人君子でもない。

 かといって、それが恋愛感情から生じる〈好き〉かというと、ちょっと頭を悩ませてしまう。彼女のことを、いままでそういう目で見たことがなかったためだ。

 才人とシエスタが初めて出会ったのは、この世界に召喚されてまだ数日と経っていない頃のことだった。自身のつまらない発言からルイズを怒らせてしまい、食事抜きを宣告されて途方にくれていたところに声をかけてきたのが彼女だった。シエスタは自分が腹を空かせていることを知ると、厨房のまかないを提供してくれた。その優しさが、当時の自分の心をどれほど揺さぶったことか。異界の地で初めて触れた人間らしいぬくもりが、どれほど嬉しかったことか。当時の自分は瞳を潤ませ、ただただ目の間の少女に感謝した。

 初対面のときの衝撃が、あまりにも鮮烈すぎた。

 自分にとってシエスタは、恋愛の対象というよりは、恩人としての印象が強い。

 だから、女性としての魅力を感じるか否かに拘らず、そういう眼差しを向けてこなかった。

 自分は彼女のことをどう思っているのか。自分の気持ちを、はっきりさせないまま、今日まで過ごしてきた。

 はたして、自分が彼女に寄せる好意は、恋愛感情から生起したものなのか。そうだとすれば、自分達は両想いということになるが。

「……お返事は、いまでなくても結構ですよ」

 自分の気持ちをどう捉えるべきか悩んでいると、シエスタが苦笑しながら言った。どうやら自分でも気づかぬうちに渋面を作っていたらしい。

「勿論、早ければ早いほど嬉しいですけど……自分でも突然すぎたかな、って思いますし。いまは、サイトさんがわたしのことで真剣になってくれているだけで、十分嬉しいです」

「う、あ……」

 ストレートな言葉で好意を表されて、才人は先ほどまでとは別な理由から顔をそむけた。

 嬉しさと気恥ずかしさから、顔から火の噴く思いだった。

「あの、今度はこちらから質問してもいいですか?」

 いまだ頬を紅潮させたままのシエスタが訊ねてきた。

 先の告白に対する返答を急かす目的の問いかけでないことは、前言からも明らかだ。いったい、何を訊こうというのか。

 頷いて先を促すと、彼女は「答えたくなかったら何も言わなくていいですからね」と、前置きした。

「さっき、人を殺すのは初めてだった、って言っていましたよね?」

「……ああ」

 自然と硬い表情になるのを自覚しながら頷いた。

 複数の理由からあまり思い出したくない内容だが、たしかに、先ほど自分は嗚咽混じりの声でそう言った。いったいそれが、どうしたというのか。

「その……どうして、あのときキャメリアさんを斬る気に? そんな辛い思いをされてまで?」

「……怖かったんだ」

 僅かに、躊躇いの沈黙を挟んで、才人は訥々と語った。

「この手で、誰かを殺すこと以上に、シエスタを失うことが、怖かったんだ……」

 軽蔑されるかな、と思った。

 人殺しの言い訳に女を使い、しかも当人にそれを語る。愛想を尽かされたとしても文句は言えない。だが、隠し事や嘘はつくことも憚られた。自分のことが好きだと打ち明けてくれたシエスタには、真摯な態度で応えたかった。

 しかし、予想とは真逆に、シエスタはむしろ口元に笑みさえたたえて、才人を見つめた。少年の瞳に、訝しげな眼光が宿る。

「……嫌な女ですね、わたし」

「え?」

「まっとうな死に方は、望めないかもしれません。サイトさんが自分自身を傷つけてまでわたしのために何かしてくれたってことが、たまらなく嬉しいんです」

「シエスタ……」

 そんなにも自分のことを想ってくれて、嬉しいのはこちらのほうだ……とは、さすがに気障すぎて、口にするのが憚れた。

 だから、才人は笑みを浮かべて見つめ返し、静かに、「ありがとう」と、呟いた。

 いくぶんましになったとはいえ、いまだ表情筋からは強張りが抜け切れていない。

 硬い笑顔の才人だったが、感謝の念は、しかとシエスタに伝わった。












 デルフリンガー曰く、『ガンダールヴの強さは心の震えで決まる』という。

 だとすれば、京屋敷での一件により意気消沈しているいまの才人は、ガンダールヴとしては最低レベルの能力しか発揮出来ない、ということになる。

 すなわちそれは、第六位の永遠神剣〈悪食〉の契約者としても、最低レベルまで性能が落ち込んでいる、ということでもあった。

 ゆえに、風呂釜の中でシエスタと見つめ合う才人は、気づくことが出来なかった。

 神剣士の超感覚を失っているいまの才人には、背後よりそっと忍び寄っていたその足音と息遣いを知覚することが出来なかった。

 小柄な人影は仲睦ましく笑い合う二人の姿を認めるや、踵を返した。

 脱兎の如く駆け出したその足音にも、いまの才人は気づかなかった。

 魔法学院の一年生であることを示すブラウンのマントの裾が、夜風に吹かれて波打つ。
 
 やがて華奢なシルエットは、最寄りの“風”の塔へと滑り込んだ。

 一階のホールは自分の他は無人だった。

 誰もいないことに安堵しつつ、彼女……ケティ・ド・ラ・ロッタは壁に背中を預け、その場にへたり込んだ。

 貴族としての礼儀作法からはおよそかけ離れた行為。学院の教師に見られでもすれば、指導の対象になりかねないはしたない姿だった。しかし、いまのケティには、自身の所作に気を配る余裕はなかった。

 拳を作った右手を心臓の上に置く。鼓動の激しさは、動揺の表れだ。先ほど風呂釜に浸かる才人とシエスタの姿を見てから、心臓はずっとこの調子だった。

「サイトさん……」

 ひっそりと、初めてできた平民の友人の名を呟く。

 先ほど目撃した、無理をしていることがありありと滲んでいる笑顔を思い出して、胸が締めつけられた。

 是非、才人のことを元気づけてやってほしい。

 昼間の柳也の発言に背中を押されて、夜、ケティはいつも才人が風呂釜を置いている場所に向かった。具体的な妙案は思い浮かばなかったが、とにかくまずは話をしてみよう、と。

 しかし、足を運んだその場所には、すでに先客がいた。アルヴィーズ食堂で働いているメイドの少女。ケティ自身は彼女のことをよく知らないが、才人や柳也と楽しげに会話しているところをよく見かけていた。その彼女が、才人と一緒の湯船に浸かっていた。勿論、二人とも裸で。小さな風呂釜の中で身を寄せ合う二人の姿は、まるで――――――、

「あの二人……やっぱり、そう、なのよね……」

 呟いた言の葉は、陰鬱な響きを孕んでいた。

 二人の邪魔をしては悪い、と声をかけずに立ち去ったケティだったが、気遣い以上に、仲睦まじい二人の姿をこれ以上視界に入れたくない、という思いのほうが強かった。二人の姿を見た途端、胸の内を、ぐるぐる、と不快な情動が這い回り出し、それが次第に激しくなっていったためだ。月のものが到来するときに感じる、あの気持ち悪さに似た不快感だった。

「これって……やっぱり、そう、なのよね……」

 この不快な情動の名前を、ケティは知っている。

 のみならず、身に覚えがある。

 まだギーシュと付き合っていた頃、気の多い彼氏のせいで、何度も感じさせられた。

 人間ならば、誰しもが持つ感情。

 懐かしいが、出来れば深い付き合いは敬遠したい気持ち。

 嫉妬。

 そうだ。

 この気持ち悪い情動は、嫉妬だ。

 自分はいま、嫉妬しているのだ。

 誰に?

 あの、メイドの少女に?

 なぜ……?

 なぜ、よく知りもしない彼女に嫉妬心を抱かねばならない?

 ――そんなの、決まってる……。

 少年の不自然な微笑を思い浮かべて、また、胸が痛んだ。

 ――……そっか……。

「そうなんだ、わたし……」

 嫉妬した。

 才人と仲の良い彼女に。

 才人と、そういう関係にある、彼女に。

「わたし、サイトさんのことが……」

 思い返せば、初めて彼のことを知ったときから、気になっていた。

「下げたくない頭は、下げられねえ!」

 その強い眼差しに、心を奪われた。

 わたしは、彼のことが……、

 異世界からやって来た、あの少年のことが……、

「好き、なんだ……」

ケティの呟きが、無人のホールに寒々しく響いた。











 一方、その頃、ルイズの部屋にて。

「ミスター・リュウヤ! サイトを元気づける良い案が浮かびました!」

「もう浮かんだのか!? さすがは軍師ギーシュ! ……して、どんな作戦だ?」

「その名も、『おっぱぶで元気づけよう作戦』です!」

「そ れ だ  ☆」

「そ れ だ ☆ じゃな〜〜〜いっ!!」

 想い人の口から飛び出した言葉にルイズさん怒り心頭。呪文を唱え、杖を振るうとあら不思議、

「「うぎゃぱー!!」」

 おっぱいに夢と希望を見出した男達は星になって消えましたとさ。

 とってんぱらりのぷう。











 時間は、数日ほど遡る。

「……なるほど、“スピリット”か。桜坂柳也はお前達のことを見て、“スピリット”と呼んだんだな?」

 夜。

 新生アルビオンの帝都ロンデニウムにある、ジャン・ジャック・ワルドの屋敷。

 帰還したパリス・ブラックミニオンから威力偵察の成果について報告を受けた赤毛のウィリアム・ターナーは、ベッドの上から部下の少女に向けて鋭い眼差しを注いだ。

 左足の痛みはもう取れたのか。上体を起こし、身を乗り出すようにして、ベッドの側で跪くパリスに言う。

「そいつは……大金星だな」

 肉は薄いが形の整った唇が、冷笑で歪んだ。

 かたわらの椅子に座っていたワルドが、訝しげにウィリアムを見る。

「損害に見合う大戦果だ、それは」

「そうか?」

「『なぜ、お前達がこの世界にいるんだ、スピリット?』」

 ウィリアムはパリスから聞かされた柳也の言を、一字一句違わずに復唱した。

「三つだ」

 ウィリアムは人差し指から薬指までの三本を立ててワルドに示した。

「このときの桜坂柳也の態度と言動から読み取れることは、三つある」

 一つは、桜坂柳也は過去にミニオンか、それに近い存在と遭遇したことがある、ということだ。

 初対面のパリス達を一目見て“スピリット”という存在にカテゴライズした事実は、桜坂柳也のこれまでの人生の中で、彼女達のような存在がしばしば登場していることを物語っている。

 二つ目は、それはハルケギニアでも地球でもない、異世界での経験だということ。ハルケギニアにも地球にも、ミニオンは存在しない。存在しない者と、どうやって遭遇するというのか。すなわち柳也がミニオンと出会ったのは、ハルケギニアでも地球でもない場所、ということになる。

 おそらくは、桜坂柳也が永遠神剣を手に入れた世界だろう。ウィリアム達“奇なる蛇神”に仕える一団が、血眼になって探している世界だ。

 そして三つ目は、その世界を見つけ出すための鍵。

「その世界では、ミニオンのことを“スピリット”と呼んでいるらしい」

「……なるほど。その“スピリット”というキーワードをとっかかりとして、リュウヤが以前暮らしていたという異世界を探すつもりだな?」

 あの男が永遠神剣を手にした経緯。その世界で、あの男が何をなしてきたか。誰と出会い、誰を愛して、誰を斬り捨ててきたか。それが分かれば、

「ルーツが分かればそいつの人格が見えてくる。本人でさえも気づいていない長所と短所が見えてくる」

 それだけではない、とウィリアムは胸の内で続けた。

 桜坂柳也がかつていた異世界の所在が分かれば、あの秩序の法皇が彼を使って何を企んでいるのかも見えてくるはずだ。

 強大な戦力を持つ自分達が、桜坂柳也というちっぽけの障害に対して積極果敢に攻めていけないのは、ひとえに、彼の背後にちらつく法皇の影が恐ろしいからだ。彼女の目的が不明なままでは、迂闊に手を出せない。浅慮から藪を突いて大蛇が飛び出してくるのが恐ろしい。

 最悪の場合、“奇なる蛇神”一派と“秩序の法皇”一派の全面対決という事態さえありうる。もし、そんなことになれば、銀河系の五つや六つ、簡単に消し飛んでしまうだろう。

「神と神が喧嘩をするってことは、そういうことだ。銀河っていう単位は分からずとも、お前さんの住んでいるこの世界がぶっ壊れると思えば、なんとなく分かるだろう? 途轍もなく恐ろしいことだって。絶対に、あってはならない事態だって」

「……ああ」

 ウィリアムの言葉に、ワルドは頷いた。

 亡き母が愛した世界。異世界からやって来た友が、大好きだと言ってくれたこの世界。その世界が壊れることへの悲しみ。壊されることへの怒り。壊してしまえる存在への、恐怖。

 ベッドの上のウィリアムは、甘いマスクに真剣な表情を浮かべて言い放った。

「悲劇を起こさないためには、秩序の法皇の企みについて、詳しく知る必要がある。彼女の目的が分かれば、こちらもどうアプローチを取るべきかが見えてくるはずだ」

「相手の目的が分かれば、交渉の余地も生まれるだろうしな」

「それが理想だな。ミカゲ様も法皇様も、双方が大満足! って結果が理想だ」

「リュウヤに手を出すことがその法皇とやらの機嫌を損ねるのだとしたら、無視をするというアプローチの仕方もある。あの男を蚊帳の外へと誘導すれば、我々の障害にもならない」

「あの女の目的さえ分かれば、選択肢は無限に広がる。……マーイヤ」

 ワルドの後ろで控えていたマーイヤを呼ぶ。

 顔を上げた彼女に、ウィリアムは言った。

「次元間通信機の準備を。ベゴウェのエイジャック様と連絡を取りたい」

「承知いたしました」

 マーイヤはゆっくりと頷くと、持参していたラジカセのアンテナを立てて四角いマークの刻まれたボタンを押した。

 スピーカーから、唐突に流れ出すトンツー音。スピーカーを頬に寄せて、マーイヤは話しかける。

「……流星号、流星号、こちらジェッタ―。応答せよ。流星号、応答せよ」

「まだ続いてたのかよラジカセネタ! つか、読者層を考えろやタハ乱暴! 今日日スーパージェッターを知ってるやつが何人いると思ってんだ!?」

「なんと……! ビームを発射し、音楽を流すだけでなく、遠くの場所にいる人間と連絡が取れるアイテムでもあるのか! 恐るべし、地球の科学力……!」

「……転職したい。切実に、転職したい」

 マッハ一五で空を飛ぶエアカー型タイムマシンとのコンタクトを試みるマーイヤ。

 思わずこの場にはいない誰かにまでツッコミを波及させるウィリアム。

 異世界の科学技術の産物を前に驚嘆するワルド。

 そして悩ましげに頭を抱えるパリス。

 ワルドさん家のみなさんは、今日も今日とて平和でしたとさ、まる。





<あとがき>


 ドロドロドロロ〜、びしびし撒き菱、ダンス♪ ダンス〜♪

 ……べつに他意はありませんよ?

 なぜか唐突に、カクレンジャーのED曲が歌いたくなったから、歌っただけです(白々しい)。べつに人間関係がドロドロしてきたなぁ〜……どう収拾つけよ? とか、困ってないですよ?

 はい。というわけで読者の皆さん、おはこんばんちはっす! タハ乱暴でございます。今回もゼロ魔刃をお読みいただきありがとうございました! 今回の話は、いかがでしたでしょうか?

 ゼロ魔の主人公はやっぱり才人! というわけで、今回は我らがガンダールヴに焦点を当ててみました。いやぁ、彼の周辺、ものごっつ濃ゆいことになってますねぇ。美少女二人からは惚れられ、親友からはライバル視、命のやり取りをした相手とは魂レベルで融合と、色々たいへんなことになってるなぁ(他人事)。

 才人の悩みに関しては、神剣士ならではの苦しみというのを意識してみました。殺人行為について悩む主人公って、色々な方が様々に書いていますからね。永遠神剣シリーズならでは! って色を出せたらなぁ……と思い書いてみました。いかがでしたでしょうか?

 次回もお付き合いいただければ幸いです。

 ではでは〜








<おまけ>

 前回のノリでまたやっちまいました。こんな世界線も……あるのかなぁ?





 龍の大地に生きるすべての命を巡る戦いは、人間達の辛勝という形で幕を閉じた。

 永遠を生きる神々との戦に勝利した人類は、今次大戦における最大の功労者達の勇戦ぶりを讃え、褒賞として、元の世界へと帰還する術を用意した。

 六人もの人間を一度に異世界へ送り込むことは天文学的な費用とマナを要する難事業であった。加えて、帰還プロジェクトが組まれたのは大陸全土を巻き込んだ大戦が終わった直後のこと。ただでさえ逼迫している財政をさらに圧迫する復員計画に対し、当然、一部からは激しい不満の声が上がった。しかし、新女王レスティーナは、そうした反発を抑えた。反対派の重臣達一人々々と膝を突き合わせ、寝食を削ることで国民の前に立つ時間を作った。

「大陸を救った英雄達を、今度は私たちが助けるのです!」

 世論は、新女王の訴えを支持した。

 かくして、復員計画は実行に移された。プロジェクトの総指揮を執るのは、大陸随一の天才科学者。彼女もまた、自身の寝食の時間を削って、柳也達を地球に送り返す具体的な手段の研究に没頭した。

 そして、戦争終結から一年後、ついに次元の壁を突破するための装置が完成した。

 出来上がった転送装置を前にして、柳也は思わず涙をこぼした。

 ようやく、これで帰ることが出来る。

 そしてようやく、この世界の人々と、本当の意味で仲間になれた。

 レスティーナらの尽力を目の当たりにしては、人間嫌いの秋月瞬をして感謝の念を抱かずにはいられなかった。

 異界の仲間達に見送られながら、六人のエトランジェは転送装置が生み出す光の柱の中へと消えていった。

 神剣士の柳也達をして目を瞑らずにはいられないほどの光芒。

 瞼越しにもそうと分かる白い闇が晴れたかと思うと、彼らの鼻腔に、懐かしい空気が触れた。

少年達の、生き残りを懸けた長い長い戦いの日々が、ようやく終わった瞬間だった。









 しかし、柳也達は知らなかった。

 ようやく手にした平穏が、束の間の休息にすぎないことを。

 戦いの女神が再び号令をかけたのは、彼らが地球に帰還して二年が経ったある日のこと。

 事は、しらかば学園の出身で、柳也の弟分の風見達人が入院したのに端を発する。

 剣道のスポーツ推薦枠で高校進学を果たした達人は、当然ながら、大会や他校との交流試合への参加が義務付けられていた。

 その日、達人が足を運んだのは隣県にある姉妹校だった。試合自体は特に問題なく白星を挙げられたが、その帰路において、問題は発生した。わき見運転をしていた乗用車にはねられた彼は左脚を骨折。地元の病院に、緊急入院をするはめになってしまったのだ。幸いにして後遺症が残るような怪我ではなかったものの、完治には時間がかかるとのことで、しばらくは件の街の景色を病院の窓から眺めねばならない。

 恩師・柊園長からそのことを聞かされた柳也は、弟分を見舞うべく、愛車の背中に跨った。ホンダの七五〇ccは、アルバイトで貯めた金で購入した相棒だ。柳也は『ワイルド7』の飛葉ちゃんの気持ちで高速に乗り、県境を越えていった。

「どっか、ウッズマンのモデルガン、作ってくれないもんかねぇ?」

【『ワイルド7』ごっこにウッズマンとCB750は欠かせませんからね】

【……カネのかかるごっこ遊びよなぁ】

 男一人と神剣二振、道中そんな会話をしていると、時間はあっという間にすぎていく。

 目的の街に到着したときにはもう、時刻は午後三時を回っていた。

「たしか、見滝原総合病院だったよな、達人の入院先は……」

 流行りのスマートフォンやタブレット端末なんて物にカネをかける余裕は、柳也の懐にはない。古本屋で調達した五年前の道路地図と睨めっこをし、柳也は病院へと向かった。

 違和感を覚えたのは、病院の敷地内に入った直後のことだった。

 駐輪スペースにCB750を停めた柳也は、フルフェイスのヘルメットを取るや険の帯びた眼差しで辺りを見回した。これといって特徴のない造りの駐車場。ごくごくありふれたデザインの病棟。すれ違う見舞い客や職員にも、何らおかしな点は見当たらない。見当たらないことが、かえって柳也の不信感を煽った。

「二人とも……」

【ううむ……妙なマナだな】

【神剣士級の強い力を持った気配が二つ……いえ、三つですか……】

【しかもそのうち二つは激しくぶつかり合っておる。にも拘らず、周りの落ち着きぶりはどうしたことだ?】

 神剣士にしか持ちえない特別な感覚から巨大な力と力のぶつかり合いの気配を知覚した柳也は、険しい面持ちのまま第一病棟の正面玄関を通った。三つの力は、いずれも病院の棟内から感じられた。しかし、建物の内側に足を運んでも、不審な様子はまったく見当たらなかった。医師たちはみな、時間に追われるようにして、柳也の周りを忙しなく行き来している。

【誰も、気づいておらぬのか……?】

【神剣士級の力の激突よ? 誰も気がつかない、どこにも影響がないとか、普通、ありえないでしょ?】

「……そうだ。普通は、ありえないことだ」

 つまりは、普通ではない事態が起きている、ということだ。柳也は思わず溜め息をついた。

 またか。またなのか。この手のトラブルはファンタズマゴリアでお腹いっぱい味わったというのに、また、トラブルの女神さまは、自分にかくも熱烈なアプローチをかけてくるのか!

 ――いい加減にしてほしいぜ、ったくよぉ!

 考えられる可能性は主に二つ。

 一つは、件の力を持つ者の正体が幽霊や妖怪などに近い存在の場合だ。これらの存在は一般に、普通人は知覚出来ないとされているから、みながその戦いに気づかないのも納得がいく。幽霊が存在するか否かの問いかけは、異世界にまで行って戻って来た自分には無意味だろう。

 二つ目の可能性は、そうした力を持った存在が、自分達の活動を他には悟られまいと何らかの手段をもって隠匿している場合だ。柳也としては、これはそうあってほしくない可能性の筆頭である。隠匿しているということは、その必要があるということだ。ではその必要性とは何か? ステルスを必要とする理由とは? 好意的な解釈は難しい。

【主よ、いま一つの可能性があるぞ】

 三つ目は、件の存在が普通人には知覚出来ない特別な空間で戦っている可能性だ。その空間が偶発的に発生したのか、二つ目の可能性のように故意に生み出されたのか次第で、取るべきアクションは変わってくる。

【アクション、ですか?】

 ――放っておくわけにもいかないだろう? ここには達人が入院しているんだ。

 三度の飯より戦いが大好きな柳也だが、この男は決して狂人ではない。誰彼構わず喧嘩を売るほど、落ちぶれてはいないつもりだった。どこの誰とも知れない者達が、何のためにやっているのかも分からぬ戦いだ。それに介入するなんて破廉恥な行為は、本来ならば遠慮したいところだった。

 しかし、いま、この病院には、可愛い可愛い弟分が入院しているのだ。

 捨て置くわけにはいかなかった。

 せめて、その戦いが病院にいる人々に害をなすかどうかを、見極めねば。

 ――半径五〇〇メートル圏内を神剣レーダーで走査する。どんなマナ異常も見逃すな。

 久しぶりに感じる戦いの気配に武者震いして、柳也はおよそ二年ぶりに神剣の力を解き放った。





 結論から言えば、〈決意〉が示した三つ目の可能性が正解だった。

 病院とまったく同じ空間座標上に、位相の異なる特殊空間が展開していたのだ。

 周囲のマナを操作して出入口を作った柳也は、早速、異空間へと足を踏み入れた。

「……なんだ、この、ファンタスティック・ワールドは……?」

 思わず、日本でいちばん有名な猫型ロボットのアニメの主題歌が思い浮かんだ。

 奇妙奇天烈にして摩訶不思議としか表しようがない景観が、柳也の目の前に広がっていた。

 一面に広がる、白い地平。白い、といっても、雪原ではなく、これは……生クリームだろうか? 一歩足を進める度に、靴底を揉む、ぬちゃり、という感触。濃厚なバニラエッセンスの香りが、下方より漂ってくる。柳也は別段、甘い物が苦手というわけではない。苦手ではないが、これは……匂いだけで、胸焼けしそうだ。

「……おふぅ」

 甘ったるい匂いは足下からだけでなく、四方からも柳也を襲った。

 チョコレートスティックの樹木にはキャンディーの実がなっており、遠くに見えるベルギーワッフルからは、蜂蜜の野趣溢れる香りが食欲を減退させた。

【良い匂いって……強すぎると、かえって意欲を削ぎ落すんですねぇ】

 ――……あかん。いますぐ帰りたくなってきた。

【むっ! 主よ、あれを見ろ……!】

 脳幹を揺さぶる警告音も、およそ二年ぶりだった。

 相棒の鬼気迫る声が、甘い匂いを忘れさせてくれた。

 表情を引き締め、〈決意〉に促されてそちらを見る。

 そこには、

 そこには――――――、

「…………What's?」

 茫然とした呟きが、唇をついて出た。

 そこには、いっそう奇妙奇天烈にして摩訶不思議な光景が広がっていた。

 中学生と思しき女児が二人、制服姿で立っている。

 さらに彼女達の目の前で、なんともクラシカルな装いに身を包んだ少女が一人、マスケット銃を片手にカンフー映画顔負けの大立ち回りを演じている。アクションシーンの相方は、ファンシーな意匠のぬいぐるみだ。空中を、縦横無尽に動き回っている。モチーフは、熊か、鼠か……? どうやらあの少女とぬいぐるみが、先ほど知覚した力の正体らしい。

 意外すぎる事実に茫然と立ち尽くす柳也だったが、そんな彼を、〈決意〉の震える声が正気に戻した。

【主よ、JCだ!】

「……うん。そうだね。JCだね」

 二年経っても相変わらずな相棒だった。

 白けた声が、唇をついて出る。

 声に反応して、マスケット銃の少女の戦いを見ていた二人の女子中学生がこちらを振り向いた。二人とも、なかなか愛らしい顔立ちをしている。驚いた表情を見て、柳也は溜め息をついた。頭の中に響く〈決意〉の声が、いっそう興奮したものとなった。

【主よ、JCが! JCが我を見ておるぞ! 漲ってきたぁぁぁああッ!!】

「うん。そうだね。正確には、お前が寄生している、俺を見ているね」

【ああっ!】

「どうした?」

【あのマスケットの娘御ッ、よく見ればスカートの丈が短いではないか!】

「……うん。そうだね。あれが学校の制服なら絶対に服装規定に引っかかるスカート丈だね」

【主よ、もう十歩前に踏み出すのだ! そうすれば絶妙なパンチラ・アングルが……!】

「うん。もう、お前は黙っていようか」

 笑顔で〈決意〉の要求を却下した、その瞬間だった。

 ぬいぐるみの体を何本もの細い糸が拘束したかと思うと、その身を天高く放り投げた。

 クラシカルな装いの彼女が何か仕掛けたのか。少女の持つマスケット銃が突然巨大化し、大砲のごとき砲身をバイ・ポッドが支える。筒先が狙うのは、空中で拘束されたぬいぐるみ。

「えげつなぁ……」

「ティロ・フィナーレ!」

 頬を引き攣らせながらの呟きは、少女の凛とした声にかき消された。

 砲口から飛び出した赤いエネルギー弾はぬいぐるみに見事命中、そのまま光の帯へと変じて、その身をきつく締めつける――と、ぬいぐるみの口から、何かが飛び出した。ウナギのような手足を持たない細長い体躯に、アメリカン・ポップ・アートの画集にでも登場しそうな面相。まさに、怪物と形容するほかない。あの小さなぬいぐるみのどこにそれだけの体積をしまいこんでいたのか、その体は鯨の成獣ほども大きい。牛だって丸呑みにしてしまいそうな大顎をめいっぱい開き、物凄い速さで、マスケットの少女へと突っ込んでいく。

 反射的に、柳也は生クリームの大地を蹴った。

「〈決意〉……!」

【応よ! JCは世界の宝! 未来を作る希望の子!】

【久しぶりの戦闘モード、いきますよぉッ!】

 この二年間、貯めるばかりで一向に使う機会のなかったマナを、解き放った。

 全身の筋肉が、太陽の熱を孕む。

 五体に漲る力を足裏から放出して、柳也は突撃した。

 音速の壁を突破した者にのみ追従する衝撃波が、背後の生クリームを吹き飛ばした。

 少女と、怪物の間に割り込んだ。

 まだ幼さを残す顔が驚愕に歪む。

 少女を背にした柳也は腰を落とし、右の拳に、渾身の力を篭めた。

 オレンジ色のオーラフォトンの盾が、握り拳をすっぽりと覆う。

「シールド……」

 灼熱する右腕を、振り抜いた。

 怪物の横っ面目がけて、ライト・フック!

「ナックルッ!」

 絶叫が、迸った。

 怪物の口から。

 予期せぬ反撃をもらった異形の体が大きく吹っ飛び、三十メートルは離れた場所に墜落する。

「なあ、お嬢さん!」

「え?」

 突然、話しかけられ、マスケット銃の少女は呆けた声を発した。

 怪物が墜ちた地点を睨みながら、柳也は言う。

「さっきのなんちゃらフィナーレって大砲攻撃、もう一回出来るかい?」

 彼自身の足下には、すでに追撃の神剣魔法の魔法陣が燦然と光芒を発していた。

 精悍な横顔に張り付いた強い好戦意欲を察したか、マスケットの少女は慌てて頷くと、先ほど同様巨大マスケット銃を出現させた。

「同時に攻撃するぞ!」

「はいッ」

 右手で、光の球を掴んだ。マイナス一五〇度の、凍れるエネルギーの塊だ。冷たい光球を掴んだまま、右腕を前へと突き出す。

「アイス・ブラスター!」

「ティロ・フィナーレッ!」

 右手の光球と、大砲の筒先が、同時に爆発した。

 紅い砲弾と白色光の奔流が、よろよろと起き上がる怪物に炸裂した。





 目前の脅威を払い除けた柳也だったが、このとき、彼はまだ知らなかった。

 反射的に取った己の行動が、この先の未来に、どう影響していくかを。

 そして、偶然に巻き込まれたこの一戦が、この先に待つ長い戦いへの、序曲であることを。

 これまでひっそりと身を隠していた白い獣は、柳也の背中を眺めて呟く。

「まさか神剣士が介入してくるとはね……きみはロウ側の人間かい? それともカオス側?」

 宇宙の延命という大事業を成し遂げるためには、いずれ一戦交えねばならない存在……ロウ・エターナル。いずれはすべての宇宙を滅ぼし、原初の永遠神剣を生み出すことを目的とする彼らにとって、宇宙の延命は不要な施策だ。

 反対に、カオス側のエターナルの多くは、宇宙の延命には賛成している。この男がカオス側に所属する人間ならば、むしろ協力者として引き込むべきか。

 はたして、この男はどちらの陣営に属しているのか?

 紅い眼差しは、柳也の背中を鋭く突き刺していた。











 一方、その頃……、

「……はっ!」

「ん? どうした、光陰?」

「こ、この国のどこかで、JCがピンチに陥っている気がする! ちっ、こうしてはいられん!」

「光陰!? おい、どこ行くんだよ、光陰ッ!」

 悠人と二人、焼肉屋で金網をつついていた第五位の神剣士、碧光陰。

 彼は突如として立ち上がると、箸でつかんでいたカルビをかっ喰らい、猛然とダッシュした。あっという間に、店の外へと飛び出していく!

「おい、光陰! せめて自分の分ぐらい払ってから行けって!」

 遠ざかる親友の声。

 光陰は一度として後ろを振り向くことなく、一目散に自宅を目指した。

 彼の実家は寺だ。本堂の脇に敷かれた玉砂利を蹴り飛ばして帰宅した彼は、自室の押し入れにしまっていた永遠神剣〈因果〉を、むんず、と掴んだ。

「いざ、見滝原へ!」

 ……この男、なにゆえ目指すべき場所が分かっているのか。

 その謎を解き明かせる者は、誰もいない。








 とりあえず、乗りかかった船だ、とか言って見滝原にそのまま逗留することになった柳也が恭介の問題を解決したり、

 杏子のあり様に今日子と似たものを感じた光陰がハッスルして自分の妹分にしちゃったり、

 いつまで経っても帰ってこない柳也のことを心配して見滝原にやって来た瞬がオーラフォトン・レイでワルプルさんを粉砕したり、

 キュウべえの宇宙延命化政策を潰すべくやって来たテム様達と、それを止めるべくやって来たカオス・エターナルとの間で大戦争が起きたり、

 カオス・エターナルに対抗するべくテム様達と六人のエトランジェ、魔法少女達が連合軍を結成するところまでは妄想した。



才人の苦悩は続く〜って感じの今回。
美姫 「夢の中でも戦って相手を斬らないといけないとか」
本当に精神的にもかなり危なかったかもな。
美姫 「とりあえずはシェスタのお蔭で少しは持ち直せたかしら」
かな。だけれど、それで新たな問題が。
美姫 「ケティが今回の事でどうなるかしらね」
表面上は今まで通りだろうか。
どちらにせよ、才人を巡る別の問題は今後の展開が楽しみな所。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
待ってます。



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る