才人の神剣士としての覚醒、そして倒したと思っていた柳也の復活。この二つがワルドにもたらした衝撃は、ある意味で、ルイズ達が感じた驚愕と喜び以上に大きなものだった。

 いかに伝説の使い魔といえど、所詮は骨董品。とるに足らない相手だと侮っていた。その相手が遂げた急激なパワーアップに、ワルドは表面上は平静を装いつつも、その実、激しく動揺していた。そして、その直後に起こった柳也の復活は、彼にさらなる驚きと、脅威を感じさせた。なんとなれば、復活した柳也の立つ位置は、鶴翼の陣の背後を取っていたからだ。

 ワルドが才人を撃滅するべく取った鶴翼の陣は、包囲の輪の内に相手を捉えている間は強い一方で、後背に回り込まれると弱い、という弱点を持つ。

 輪の内にいる才人と、輪を外から攻撃出来る柳也。両者に挟まれた状況では、いかに兵力で勝るといえ、その優越は簡単に覆されてしまうだろう。

 ――このまま鶴翼陣を組んだままではやられてしまう。敵に挟まれたままでも対処可能な陣に組み替えねば!

 ワルドは神剣士となった才人と、復活した柳也を決して侮ってはいなかった。

 状況の不利を悟った彼は、偏在で分身した三九人とともに、鶴翼陣から円陣へと組み直した。四方八方からの攻撃に備えて背を中央に向け合う、守りの陣形だ。これならば、前後左右からの挟撃にも耐えられるだろう。

 迅速な陣替えの後、ワルドは、さあ、どこからでもかかってこい、と意気込んだ。

 甘いマスクに浮かぶ冷然とした微笑みは、内からくる自信の表れか。

 しかし、対するリュウヤはといえば、あからさまな侮蔑の笑みをワルドに向けた。

「おいおい、そりゃあ、悪手だろ?」

 柳也は呆れた眼差しを注ぎつつ、ワルド達を嘲笑した。

「お前さんらしくもない。戦いの主導性を握るのは、いつだって積極果敢に攻め込む奴だ。攻撃的姿勢を捨てた時点で、勝ちを捨てるようなもんだぜ?」

 古今の戦史から柳也が学んだ戦いの原則だ。

 当たり前のことだが、攻勢に出ずして勝利を得ることは出来ない。たとえ守勢に回らざるをえない状況でも、攻撃の姿勢と意志は捨ててはならない。慎重になるのはよいが、臆病になってはならない。

 ましてや兵数ではワルドの方が勝っているのだ。

 鶴翼陣の双翼の内と、背中。たしかに挟撃の恐れのある位置関係だが、それも考え方次第だ。包囲の輪の内と外とで敵を分断していると考えれば、むしろ各個撃破の好機といえる。

 繰り返しになるが、兵力はあちらの方が上なのだ。分身体の一部をもって片方を牽制・拘束し、その間に主力をもって残る一方を一気に撃滅。然る後、もう片方を潰す、といった戦術展開を取られたら、さしもの柳也も打つ手がなかった。ウェールズの命をもらってなんとか消滅の危機を脱したとはいえ、自分は手負いの身だ。また才人も、神剣としての記憶を取り戻したデルフの実力が未知数なだけに、どこまで戦えるかは分からない。そうした事情ゆえに、分断された状況での各個撃破を、柳也は最も恐れた。

 ワルドが円陣を組んだことで、いますぐに各個撃破される恐れはなくなった。となれば、次に自分が取るべき行動は一つしかない。

 片手正眼の構えを解くや、柳也は、横に、横に、と移動した。

 踵を僅かに浮かせ、つま先にパワーを集中させた疾走。

 四十人のワルド達からなる円陣を迂回しながら、才人との合流を図る。

 他方、柳也の動きを見て師の意図を察したか、才人もまた彼を目指して移動を始めた。風を巻きながらの疾走だった。

 事ここにいたって、ワルドもようやく二人の企図するところに気がついた。敵は師弟の間柄にある神剣士二人。一方は手負いだが、神剣士としてはベテラン。そしてもう一方は新米だが、五体壮健の身だ。

 あの二人の力を結集させてはならない。

 ワルド達の一団はサーベル杖を振り上げて、呪文の詠唱を開始した。唱える呪文は全員、エア・ハンマーの魔法だ。数ある風の系統魔法の中でも最も単純なドット・スペルだが、それだけにルーンは洗練されている。素早い魔法の発射が可能だった。

 しかし、呪文の発動よりも、柳也達の合流の方が早かった。

 ワルドは、二人の走る速さを見誤った。特に、才人のスピードを。

 もとより、ガンダールヴの特殊能力により、武器を手にしている間は風の速さでの疾走を可能とする才人だ。そこに神剣の強化作用が加わり、いまや彼の運動能力――とりわけ瞬発力は、師匠の柳也さえも上回っていた。

 ワルドにとって、そして柳也自身にとってもまた予想外の早さで合流を果たした二人に遅れること僅かに数ミリ秒、エア・ハンマーの呪文が完成した。

 この上は、合流した二人に、風の鉄槌を振り下ろすほかなかった。

 圧縮された空気の鉄槌の数は、全部で二〇〇。一体の分身が同時に五つを作り出し、振り下ろす。前後から。左右から。上方から。死角は、一切なかった。

 三六〇度全方位より襲いくる風の鎚を前に、しかし、神剣士の師弟二人は、泰然としていた。

「才人君、さっきの自分の言葉、覚えているか?」

「はい。たかが、風です!」

「そうだ。たかが風だ!」

 言い放つや、柳也は父の形見の脇差を、真一文字に振り抜いた。

 腰を練り、手の内を練り、呼吸を練り、マナを練り、オーラフォトンを練った。

 一尺四寸五分の刀身が巻き起こす刃風に呑まれ、正面から迫るエア・ハンマーが悉く消滅した。

 このとき、柳也の渾身の一刀は、超音速の域に達していた。

 前方よりの脅威を排除した柳也は、迷うことなく前へと踏み出した。

 応じて、才人もその後ろに続く。駆けながら、デルフリンガーの刀身を右へ、左へと振り下ろした。

 左右からのエア・ハンマーは、デルフの刀身に触れる度に吸収され、消滅していった。

「相棒、使い方は、分かるな?」

「ああ。ルーンが教えてくれる。どうすればお前の能力を使えるのか。どうすればお前の力を最大限に引き出せるのか。やり方が、どんどん頭の中に流れてくる!」

 第六位の永遠神剣〈悪食〉の剣身は特別製だ。魔法のエネルギーを吸収し、剣身内で純粋なマナの状態へと分解することが出来る。

 永遠神剣は、マナを欲する。デルフとてその食性は例外でなく、魔法を吸収する度に、才人の手の中で、相棒の神剣は歓喜に震えた。

 後方より迫るエア・ハンマーは、疾走する二人の足に着いてこれない。

 上方より襲いくる風の鉄槌は、むなしく床を叩くばかりだ。

 その光景を見て、ワルドは忌々しげに渋面を作った。

 結集させてはならない力と力が、一つになった。

 これから先の戦いは、かつて自分が経験したことのない過酷なものになる、とワルドは確信した。

 

 

 

永遠のアセリアAnother × ゼロの使い魔クロスオーバー

ゼロの魔法使いとその使い魔と、ついでに現われた守護の双刃

EPISODE:43「超人」

 

 

 

 襲いくるエア・ハンマー二〇〇発全弾の回避に成功した柳也と才人は、そこでようやく足を止めた。

 円陣を組むワルド達との距離は六間ほど(約十一メートル)。神剣士の運動能力ならば秒とかけずに詰められる距離だが、いまだ方円陣を組んでいるワルドに、自ら打って出ようという気概はあるまい。ライトニング・クラウドを始めとする強力な射撃魔法を得意とするワルドを前に、長く一箇所に留まるのは厳禁だが、作戦会議の時間くらいは稼げそうだった。

「主従揃って威勢のよい啖呵を切ったわけだが……」

 作戦会議の口火を切ったのは、脇差を右手で掴み、体側に流して立つ柳也だった。

 隣に立つ才人は、デルフを油断なく正眼に構えながら、黙って師匠の言に耳を傾ける。

 彼の言う主従の“主”とは、おそらくマチルダのことだろう。とすれば、件の威勢のよい啖呵とは、先刻の柳也を助けられる云々のくだりか。

 表情から才人の疑問を感じたか、柳也は苦々しげな口調で続けた。

「これまた主従揃ってで悪いが、いまの俺には、ワルドと正面きって戦えるだけの余力はない」

 そうだろうな、と才人は思った。

 自分も神剣士になったいまなら理解出来る。ウェールズからマナをもらって生き長らえたとはいえ、所詮は神剣士でないノーマルな人間、それも先の柳也と同様瀕死の状態の命だ。消滅の危機から脱しただけで、柳也の体はまだほとんどの力を失った状態に違いなかった。

「心苦しい話だが、ワルド達の相手は、才人君にやってもらうしかない。俺は……」

 柳也はマチルダと激戦を繰り広げるティラノサウルスを見た。

 礼拝堂にある材料から作った即席のゴーレムではティラノサウルスに太刀打ち出来ないと悟ったマチルダは、自ら杖を手に暴君竜と戦っていた。

 戦況は、ティラノサウルスの方がやや優勢か。フライやレビテーションといった魔法を巧みに駆使し、暴君竜の攻撃を避け続けるマチルダだったが、こちらも相手に有効打を叩き込めていなかった。神剣の力で強化されたティラノサウルスの体表は硬く、彼女の魔法をことごとく弾いてしまうのだった。

 じり貧の消耗戦では、体力に劣るマチルダがどうしても不利になってしまう。

 続く柳也の言葉は、そのあたりの懸念を踏まえての発言だった。

「あのデカブツの相手をする。奴を倒し次第、そっちの援護に回るよ。なに、三分とかけんさ。ウルトラマンよりも手早く、片付けてやるよ」

 柳也は余裕の心情が滲む冷笑を浮かべて言った。

 初代ウルトラマンはそのオープニングテーマで怪獣退治の専門家と歌われている。諧謔めいた口調は、これから戦うつもりでいるティラノサウルスを怪獣になぞらえての洒落だった。マニアックすぎるジョークに、才人は苦笑するしかない。

「三分あれば、俺だってバルタン星人を倒せますよ」

 こちらは、ワルドをバルタン星人に喩えての発言だ。バルタン星人はウルトラマンに登場した宇宙人で、宇宙忍者の二つ名を持つ侵略者だ。分身の術を始めとする数々の特殊能力を持つかの異星人は、なるほど、ワルドにそっくりだった。

 弟子の返答に、柳也は喜色満面、脇差を握る手の内も力強く、呟く。

「三分で倒せるかい、バルタン星人?」

「楽勝ですよ、そっちのゴモラに比べたら」

「頼もしいな」

 柳也は莞爾と微笑んで、しかしすぐに真顔になると、才人に言った。

「少数が多数の敵と戦う場合の原則は、決して一度に大勢と戦わないことだ。一対四十ではなく、一対一の四十連戦になるように心がけろ」

 少数の側が圧倒的大多数に挑む場合、兵力の劣勢を補う工夫が必要だ。幸い、才人には神剣士として、またガンダールヴとしての健脚がある。立ち回りに気をつけさえすれば、兵力差の逆転は十分可能なはずだった。

 柳也の言葉に、心得た、と頷く才人。

「頼むぜ、ウルトラマン」

「そっちこそ。お願いしますよ、ウルトラマン」

 軽口をたたき合い、ニヤリと笑う。互いに相手のことを信頼していればこそ、この苦境にあっても笑うことが出来る。

 並び立つ神剣士の師弟二人は、笑い合い、拳を打ち合った。

 それぞれ、敵と定めた相手へと向き直る。

 柳也はティラノサウルスのスーへと。

 才人は、方円陣を組むワルド達の一団へと。

 呼吸を練り、手の内を練り、マナを練り、二人の直心影流神剣士は、同時に、床を蹴った。

 

 

 

 

 それぞれ敵と定めた相手へ向かって突き進む才人と柳也を見てなお、ワルドは方円陣の構えを解かなかった。

 もとは柳也と才人の挟撃を恐れて取った方円の陣形だ。その脅威が消え、あまつさえ柳也と才人が再び分かれたいま、防御に重きを置いた陣をこれ以上張り続ける必要性は薄い。

 いまこそ、防御の構えを捨てて攻勢に打って出るべき時だった。

 しかし、ワルドはあくまでも方円陣を堅持し続けた。向かってくる才人を、警戒してのことだ。

 口では「新米の神剣士」と嘲笑したワルドだったが、その実、彼は神剣士として覚醒した才人を警戒していた。

 もともとガンダールヴとして高い運動能力を持つ才人だ。その彼が神剣の加護を得たいま、どれほどの運動量を発揮するか、正直、予測がつかなかった。また、デルフの神剣としての能力が判然としていないのも、不安材料の一つだった。

 ――剣の見た目通りにパワーに優れる神剣なのか。それとも、特殊能力に特化した神剣なのか……。

 己が契約を結んでいる〈隷属〉は、かつてマチルダが指摘したように特殊能力に特化した神剣だ。〈隷属〉の鎖、軍門を始めとする様々な特殊能力を持つ一方で、身体能力の増幅度や、オーラフォトンの出力は低い。もし、才人の手にした神剣がパワーに優れるタイプだった場合、正面切っての戦いでは地力で負ける可能性がある。

 他方、特殊能力に特化したタイプの神剣だとすれば、迂闊に手を出すのは危険だ。能力の性質と相性次第では、兵力の優越を覆されかねない。

 一般に武器の形状をしている神剣はパワーに優れるタイプが多いが、早合点は禁物だった。現に、すでにあの神剣は自分の放つ魔法を何発も吸収している。特殊能力特化型という可能性も、十分にある。

 ――相手の手の内が分からない状態で攻め立てるのはリスクが大きすぎる。ここはまず、威力偵察を……!

 ワルドは猛然と突進する才人に向けて、ひとまず分身体を差し向けて相手の出方を窺うことにした。

 数は六人。

 全員、エア・ニードルの魔法でサーベル杖を青白く輝かせながら、才人に向けて突撃を敢行する。

 対する才人は、向かってくる敵の一団を目にしても、進撃の速度を緩めない。

 突進のエネルギーをすべて斬撃の威力に転化する腹積もりで、相棒の両手剣を八双に置いた。

 〈隷属〉の力で脚力を強化した六人のワルドが、つむじ風となって才人に殺到した。

 頭上から。袈裟から。あるいは逆袈裟から。胴を薙ぐように。大腿を狙って。脛を狙って。空色に輝く六条の斬撃が、目覚めたばかりの少年神剣士に襲いかかる。

 剣身に先行して吹きすさぶ剣呑な刃風が、才人の頬を乱暴に叩いた。

 その刹那――――――、

「……“アクセル”」

 低い呟きが、才人の唇から漏れた。

 その声を聴いた次の瞬間、六人のワルド達の視界から、才人の姿が消えた。

 標的を見失った六条の光線が、むなしく空を薙ぐ。

 文字通りの、目にも留まらぬ速さで移動したのだ、とすぐに理解した。しかし、いったいどこへ……? 六人のワルド達はサーベル杖を片手正眼に構え、警戒の視線を四方に飛ばした。

 才人の姿を見失ったのは、最前線の六人ばかりではなかった。方円陣を組む主力の三四人もまた、才人の姿を探して、視線を方々に飛ばす。

 予想される襲撃への緊張と恐怖で、ワルド達は等しく身を硬くした。

 四十人にも分身した男の耳朶を、聞き慣れた少年の声が打ったのは、その直後のことだった。

「……こっちだ!」

 声は、六人の頭上から聞こえてきた。

 見上げると、デルフリンガーを上段に振りかぶった才人が、天井近くの高さから急降下しようとしていた。

 ワルド達の口元に、冷笑が浮かんだ。

 よりもよって姿勢制御の効かない宙へと逃れるとは……的にしてくださいと言っているようなものではないか。

 ――所詮は子どもか……。

 せっかくの永遠神剣も、ガンダールヴのルーンも、担い手が戦いの素人では、宝の持ち腐れだ。

 六人のワルドは揃って侮蔑の笑みを浮かべながら腰を落とし、剣呑な青色の光輝を放つサーベル杖の尖端を天に向けて、胸の前で保持した。刺突の構え。落下してくる才人を、串刺しにする作戦だった。

 ワルド達は、敵の死は目前まで迫っている、と確信した。

「……“エアー・ジェット”」

 しかし、斬刑の構えでいたワルド達は、またしても才人の姿を見失った。

 少年剣士の呟きが耳膜を叩いた次の瞬間、再び才人の姿が視界から消えたのだった。

 驚愕が、ワルドの背筋をひた走った。

 先刻、六条の斬撃を避けたのとはわけが違う。

 姿勢制御の効かない空中にあって、自分達の視界から煙のごとく消え失せる。これは、もしや……、

 ――奴の神剣の能力は、空を飛ぶことか!?

 早計は厳禁。また、状況証拠としても、いまの一事だけでは弱い。

 しかし、もしそうだとすれば厄介な事態だ。地面に縛られていたいままでと違って、敵の取りうる戦術の幅がぐっと違ってくる。他方こちらは、四方に加えて、上方からの攻撃にも備えねばならない。

「……安心しろよ、ワルド」

 また、声が。

 才人の声が、ワルド達の耳朶を打った。

 常に移動を続けているらしく、礼拝堂の其処彼処から響いてくる。声のした方を振り向いても、その時にはもう、その場に才人の姿はなかった。

「デルフの能力は、空を飛ぶことじゃないからよ。……ま、似たようなモンだけど」

 頭上からの襲撃を警戒するワルドの様子から、相手の意図を察したか。才人の猛気を孕んだ声が、ワルド達の耳膜を何度も叩いた。

「デルフの神剣としての特殊能力は二つだ。一つは、テメェももう見ているはずだぜ? 相手の魔法を吸収する能力だ」

 系統魔法や神剣魔法の区別なく、あらゆる魔法攻撃を剣身部分で吸収する。デルフリンガーを自称する第六位の永遠神剣が、〈悪食〉たる所以だ。魔法という得体の知れないエネルギーの塊を喰らって満腹感を得るデルフは、まさに悪食が過ぎるといえよう。契約者の才人自身、相棒の特異な体質には呆れてしまう。

「〈悪食〉の名前が示してるだろ? デルフの刀身は、魔法を食べるんだ。吸収された魔法のエネルギーは、デルフの中でマナに還元される。さらにその後、デルフ好みの属性に変えられる」

「デルフ好み、だと?」

「悪食家にも、好みの味があるってことだよ」

 苦笑混じりの呟きが、礼拝堂内に響いた。

「デルフは、黒マナが大好物なんだ。テメェも神剣士なら、この意味が分かるよな?」

 この宇宙に存在する森羅万象のすべてを構築する原子生命力……マナ。マナには、大別して五種類の属性がある。青、赤、緑、黒、そして無色。五色の色で表されるこれら五大属性は、そのまま、神剣の性質をも表す。

 そして永遠神剣は、自らと同じ属性のマナを好む傾向がある。青属性の神剣は青マナを好み、赤属性の神剣は赤マナを好む、といった具合だ。ということは、黒マナを好むデルフリンガーは黒の属性を持つ永遠神剣ということか。

 神剣の属性という大きなヒントを与えられたワルドは、才人の言うもう一つの能力について推論する。

「黒属性のマナが司る力は……」

「夜。それに風」

「風……」

「夜とは、一日の終わりに必ず現れ、一日の始まりには必ず消え去るもの……すなわち、常に移動し続けるものの象徴だ」

「風もまた、移動し続ける力だ」

「動き続けるもの……つまり、奴の神剣のもう一つの能力とは!」

「機動力に関係する力か!?」

「いいトコまで来たな。そろそろ、答え合わせいくかよ?」

 答え合わせ。

 たしかに、そう聞こえた。その、次の瞬間だった。

 方円陣の外郭に立つワルドの一人が、何の前触れもなく、突如として消滅した。悲鳴さえ上げる間もなく、黄金のマナの霧となって霧散する。

 ワルド達の間に、動揺が走った。前後の状況からして、才人の仕業なのは明らかだ。しかし、いったい何をされたのか。いったい、何が起こったというのか。

 偏在の魔法で生み出した分身体の知覚は、すべてのワルドが共有している。消滅の直前まで、件の分身体の感覚器官はすべて正常に機能していた。それが、いきなり途絶した。痛みすら感じる暇もなく、気付いたときにはもう、分身体の存在は消滅していた。

 ――いったい、いつ、どの方向から……?

 方円陣の中央に立つ本体のワルドは、思わず胴震いした。

 神剣士の超感覚をもってしても視界の端に捉えられないばかりか、いつ斬られたのかさえ分からないとは……いったい、相手はどれほどの速度だというのか。

「……デルフは風の神剣だ」

 はたして、ワルドの疑問に答えたのは、いまだ姿の見えぬ才人の声だった。

「相手の魔法を吸収する度に、デルフはマナを得て強くなる。強くなったデルフは、風を生む。そしてその風は、俺の動きを加速させる」

「では、貴様の神剣のもう一つの能力とは……」

「おうよ。風を生み出し、自在に操る能力だ!」

 ワルドの問いかけに、デルフの声が答えた。誇らしげな口調だった。

 他方、自身風のスクエア・メイジであり、“風”というものの力をよく知るワルドは戦慄した。

 風とは、要するに空気の流れだ。風を自在に操る能力とは、空気を自在に操る能力と言い換えられよう。気流操作による加速。もし、そんなことが本当に出来るとすれば、風メイジの贔屓目を抜きにして、恐るべき能力だといえた。

 気流操作の能力を使えば、移動の際に常に追い風を利用することが出来る。進みたい方向とは逆方向に圧縮した空気を勢いよく噴射すれば、瞬間的に爆発的な加速を得ることが出来る。使い方次第では、ある程度の空中機動も可能だろう。またなにより、気流操作の能力を駆使すれば、空気抵抗を一切無視することが出来る。

 空気という気体中を質量を持つ物体が移動する場合、そこには必ず空気抵抗が生じる。

 空気抵抗によるエネルギーのロスは意外に大きい。ワルドは知るよしもないが、たとえば現在世界中の陸軍で制式採用されているM16ライフルの五・五六ミリ弾は、秒速九五〇メートルの初速で発射されて、最大射程は四六〇メートルだという。しかし、空気抵抗がなければ、理論上は九二キロメートルまで飛ぶという試算が出ている。四六〇メートルの、およそ二〇〇倍だ。空気抵抗によるエネルギーのロスとは、それほどに巨大なものなのだ。

 しかし、気流操作の能力を活用すれば、その空気抵抗を無視することが出来る。さすがに、まったくの抵抗ゼロというわけにはいかないが、空気の壁との摩擦を限りなくゼロに近付けることが出来るはずだった。

 ただでさえガンダールヴとして優れた運動能力を持ち、さらには神剣の強化作用で身体能力が飛躍的に高まっている才人だ。空気抵抗の縛りから逃れ、追い風を受けたときのトップ・スピードは、想像もつかなかった。

「マッハ〇・八……って言っても、わかんねぇよな。まぁ、とにかく、デルフの風を受けた俺は、風よりも速い。覚悟しろよ、バルタン星人?」

 また、少年の声が耳朶を叩いた。

 直後、威力偵察のために先行させた六人が、一瞬にして消滅した。

 またしても、いつ斬割されたのか分からなかった。

 

 

 

 

 ティラノサウルスとの戦いに集中しながらも、マチルダは常に自分の周囲に注意を向けていた。偏在の魔法で分身したワルドが、いつ自分を襲ってくるか分からなかったためだ。

 いまは才人の相手に集中しているワルドだが、なんといっても分身体の数は四十近く。こちらにはもう兵力を割く余裕はないが、向こうにはまだ十分な余裕がある。

 いつ彼が心変わりするとも限らない。

 マチルダは目前の暴君竜と同時に、いつあってもおかしくない襲撃にも備えねばならなかった。

 ために、常に周辺に気を配っていたことが、結果的に幸いした。

 ワルドからの不意の攻撃に備えていたおかげで、柳也の戦線復帰をいち早く知ることが出来たのだから。

「だったら、よぉ……ベテランの神剣士も一人、追加したら、どうだ?」

 聞き慣れた声が紡いだ、不敵な冷笑。

 ティラノサウルスの突進をフライの呪文を唱えることで回避した直後、耳膜を叩いたその声に、マチルダは思わず、「ようやくお目覚めかい」と、悪態をついた。悪口というよりは、憎まれ口といった響き。口調に険はなく、むしろ優しい感情が滲んでいる。安堵の感情だ。自らの声を耳にして、はじめてそのことに気が付いたマチルダは、素直に驚いた。

 安堵。

 自分は、柳也の声がまた聴けて、安心しているのか。

 彼の無事を知って、安らいだ気持ちでいるのか。

 彼に好感を抱いていたのは間違いない。いくら命の恩人だからといって、それだけでベッドをともにするほど自分は安い女ではない。

 しかし、それにしたって、彼の無事を知っただけで、こうも安心した気持ちになれるなんて……。

 どうやらいつの間にか、自分にとって桜坂柳也という異世界人は、それほどに大切な人間になっていたらしい。大切な、パートナーに。

 ティラノサウルスが、左足を軸に回転運動をした。

 太い尻尾が鞭のようにしなり、空気を引き裂きながら、マチルダを襲う。

 恐竜の尻尾というのは、骨盤との接続部分の構造上、武器になるようには出来ていない。しかし、神剣による強化作用か、そうした身体構造を無視して、ティラノサウルスの尻尾は猛然と唸りを上げた。

 ティラノサウルスの尻尾は、地面を這うように迫ってきた。

 マチルダはレビテーションの呪文を唱えて宙に浮かび上がるや、悠々これを回避する。

 標的を見失った尻尾の鞭は、来賓用の長椅子に次々ぶちあたり、大量の木っ端を生み出した。

 攻撃を避けられたティラノサウルスは、それに気落ちすることなく、すぐさま次の作戦を取る。

 足下に目線をやると、先の尻尾の一打で二つにヘシ折れた長椅子の残骸を思いっきり蹴り上げた。残骸を蹴り飛ばし、宙に浮くマチルダにぶつける作戦だった。

 長椅子砲弾は高速かつ低い弾道を描きながら、マチルダを襲った。

 縦方向には十トンの自重を支え、横方向には時速八十キロ・オーバーのスピードを可能にする、ティラノサウルスの脚力だ。真ん中で二つにヘシ折れているとはいえ、いまだ長椅子はそこそこの質量物。当たり所次第では、即死は確実の凶器だった。

 轟、と風を鳴かせながら迫りくる長椅子砲弾を見て、マチルダは渋面を作った。

 砲弾の軌道は正確に自分の現在位置を狙っている。残りの精神力の多寡を考慮して唱えたレビテーションの呪文だったが、結果的にその判断が仇となった。空中機動の自由度は、フライの方が上だ。レビテーションでは、あの速度の砲弾を避けられない。

 自らの判断を悔いるマチルダだったが、その胸中に焦燥や、怯えといった感情はなかった。

 この攻撃は、絶対に命中しない。

 そんな確信が、彼女にはあった。

 背後から、暖かな、それでいて暴力的な風が吹いた。

 迫りくる砲弾以上の速さで駈けてくる、強い力。その熱源。

 宙に浮かぶ自分の足下を通過するや地面を蹴って跳躍、己と、砲弾の間へと強引に割り込む。

 オリーブ・ドラブのジャケットに包まれた広い背中が、視界に映じた。

 ついで視界を席巻する、オレンジ色の精霊光。

 燃え盛る炎の如きオーラフォトン・バリアに砲弾が命中し、弾け飛ぶ。高出力のオーラフォトンに激突して、木っ端微塵に砕け散った。

 ドスン、と鈍い着地音が響いた。

 こちらに背を向けたまま、桜坂柳也は諧謔めいた口調で言う。

「待たせたな、ご主人様(あいぼう)」

「遅いんだよ、使い魔(あいぼう)」

 軽口に対して、軽口で答えた。

 こちらに背を向ける柳也が、笑っているのが分かった。

「動物虐待は読者の人気を下げる。代わろう」

「あんたはまだ、あのデカブツと直接戦ってないはずだろ?」

「強いか?」

「かなり」

「楽しみだ」

「勝てるかい?」

「やってみなきゃ分からん。だが、まぁ、見ていろ」

 「今日の俺は、怪獣退治の専門家だ」と、続けて、柳也は父の形見の脇差を地擦りに構えた。

 相州伝と思しき無銘の白刃が、男の手の内で不気味に輝いた。

 新たに登場した敵の存在に、ティラノサウルスは腰を低く落とし、警戒の姿勢を取る。

 得体の知れない敵に対して、いきなり攻め込んでこないのは、プレデターとしての狩猟本能か、それとも主に似たのか。

 対手との距離はおよそ八間。神剣士の柳也の運動能力と技量をもってすれば、刃長一尺四寸五分といえども、一足一刀の間合い足りえよう。

 もっとも、当然ながらティラノサウルスの成獣と戦うなんて経験は、生まれてこの方初めてのことだ。間合いの読み合いは、意味をなさないだろうが。

 ――間合いの読み合いが意味をなさぬのならば、やるこたぁ、一つだ。

 すなわち、先手必勝。 先制の一打をもって戦いの主導性を掌握し、掴んだまま、相手に渡さない。戦いの流れを、己のものとする。

 そう意気込むや、柳也は床を蹴った。

 闘牛の如き前進だった。

 応じて、ティラノサウルスもまた床を蹴った。

 両者の間合いが、一瞬にして煮詰まる。

 濃密な殺気と、凶暴な狩猟本能とが激突し、弾けた。

 放たれた蹴りの一撃を避けつつ、柳也はティラノサウルスの両足の間へと侵入する。

 すれ違いざまに、内股を薙いだ。

 体格で大きく勝る相手を倒す場合、まずは敵の武器を潰すことが肝要だ。ティラノサウルスの最大の武器といえば顎の力だが、やはりこの場合は、まず機動力を削ぐことが先決だろう。

 返り血が、柳也の頬を濡らした。

 しかし、血煙と呼べるような勢いではない。

 手の内には、硬い手応えを感じた。

 マチルダの魔法が通用しなかったわけだ。ティラノサウルスの皮膚は、鉄のように硬かった。

【皮膚だけではないぞ、主よ】

【中の筋肉も、鉄みたいに硬いです。そんな筋線維が、何層も、鎧のように骨の周りを覆っています!】

 ――……ウルトラセブンに、そんな怪獣いたなぁ。鉄より硬い、ロボット怪獣……キングジョー!

 ティラノサウルスの背後に回った柳也は、上方より襲いくる尻尾の鞭を避けつつ嗤う。

 己の斬撃では有効打を叩き込めぬというのに、いまだこの男には冷笑を浮かべるだけの余裕があった。

 ――手元には、ライトンR30爆弾はない。セブンの真似は出来ないか……。

 ウルトラシリーズの第二作、ウルトラセブンに登場したロボット怪獣、キングジョー。セブンの攻撃をまったく寄せつけないこのロボットは、人類がその科学力のすべてを投入して完成させたライトンR30爆弾をぶつけて、ようやく破壊することが出来た。装甲防御力に長けた敵を、より強力な火力をもって撃破したわけだ。

 しかし、いまの自分にはそんな強力な火力はない。必殺のスパイラル大回転斬りも、モーガン・ガドウェインとの戦いの果てに同田貫を失った現状では、放つことが出来ない。

 力技でこのティラノサウルスを倒すことは、いまの自分には不可能。となれば、取りうる作戦は――――――、

「……ここはハリウッドの巨匠に習うとしようか」

 柳也の唇から、低い呟きが漏れ出た。

 後ろを向いたままの尻尾の連打では埒が明かないと見たか、ティラノサウルスが、踵を返す。

 正面からの蹴り。

 対峙する柳也は、しかし回避のそぶりも、精霊光の防御壁さえ展開しなかった。

 両腕をクロスしたガード一つで、真正面から衝撃を受け止めた。

「……っっ!!」

 声にならない絶叫が、唇から迸った。

 両腕に、凄まじい衝撃。神剣の力で強化されているはずの骨が、みしみし、と軋む。両腕のありとあらゆる血管が破裂し、筋肉組織が千切れるのが分かった。たまらず吹っ飛ぶ七五キロの巨体。壁に激突し、さらなる衝撃が内臓を痛めつけた。

 悲鳴とともに、今度は口から、赤黒い塊が飛び出した。

 両者の戦いを見守っていたルイズとケティが悲鳴を上がる。

 すぐさま、〈決意〉と〈戦友〉が損傷箇所の修復を開始するが、なんといっても二人は低位の永遠神剣。損傷個所が多いこともあり、再生のペースは、牛歩のごとく遅かった。

 よろめきながら着地した柳也に、ティラノサウルスは当然追撃を仕掛けた。

 壁を背に立つ柳也に一足跳びで肉迫するや、鋭く蹴る。蹴る。蹴る。相手が弱ったこの機を逃してはならないと、怒涛の連続攻撃だった。

 壁際に追いつめられた柳也に、この連打を避ける術はない。

 左右に逃げようにも、先の一撃で膝が笑っていた。

 柳也はまた、両腕をクロスしたガードの構えで、攻撃を迎え撃った。

【主よ、シールドかバリアを!】

 ――必要ないッ。

【ですが、ご主人様!】

 ――必要ないと言っている! ……それより、

 ウェールズから受け取ったマナは、決して多いとは言えない。

 自分に残された力は、あと僅かしかない。

 その僅かな力、託された命を、決して無駄にすることは出来ない。

 ――残ってるマナは、次の一撃のために取っておけ!

 正面からの蹴り込み。

 一発。二発。三発と、両腕を打った。ガード越しにも物凄い衝撃。あまりにも膨大なエネルギーは、打撃を受け止めた腕部のみに留まらず、全身を駆け巡った。思わずこぼれる苦悶の呻き。

 灼熱した痛みが、全身を苛んだ。身体中のいたるところで血管が破裂し、出血するのを自覚する。急速に朦朧とし出す意識。脳に血が回らなくなりつつある証左だった。

 連打を浴びる度、体力とともに、意識が削り取られていく。

 ――へへっ、たまんねぇな……。

 薄れゆく意識の中で、自然と、唇が綻んだ。

 蹴りを受ける度に、背筋を這い上がる、死の恐怖。

 己の生命が、危機に曝されている実感。

 己の命が、死に向かって突き進んでいるという実感。

 それと同時に感じる、自分はまだ、生きているという実感。

 生を遠くに感じた。

 死を、近くに感じた。

 魂が、震えた。

 歓喜に、心がむせび泣いた。

 恍惚と笑いながら、柳也は、ティラノサウルスを睨み上げた。

 首筋に走る、鋭い痛み。

 タフネス自慢の柳也だが、度重なる連打を受けて、首を動かすのも一苦労だった。

 ティラノサウルスが、口を開けた。

 グロッキー状態の柳也を見て、いまならば抵抗なく食べられると思ったのだろう。咬合力八トンという最大の武器をいっぱいに開いて、柳也に迫った。

 肉の腐った臭いが、鼻をつついた。

 バナナのように太く、長く、鋭い牙が、唾液に濡れて、てらてら、輝くのが見えた。

 滴り落ちる涎の滴が、男の頬を濡らした。

 ルイズが悲鳴を上げた。

 ケティが息を呑んだ。

 マチルダが慄然と瞠目した。

 戦いを見つめる女たちは、間近に迫った未来を想像して、みな等しく絶望した表情を浮かべた。

 そして柳也は、迫りくる巨大な顎を前に、ガードを解いた。

 右腕を、前へと突き出す。

 ティラノサウルスの喉奥めがけて、右腕を、伸ばす。

 拳は握らず、掌は開いて……。

 ヤスデの葉を思わせるその手には、凍気の塊たる光球が握られていた。

「アイス・ブラスタ――――――!」

 命の力を、すべて、凍気と変えた。

 マイナス一五〇度という超低温のレーザービームが、ティラノサウルスの口内に放たれた。

 

 滴り落ちる涎の滴が、また、頬に触れた。

 チクリ、とした痛み。

 頬を滑り、床に落ちて、割れる。

 サク、と薄氷を踏む音を立てて、氷の滴は砕け散った。

 咬合の瞬間は、いつまで経ってもやってこない。

 ティラノサウルスは、柳也に噛みつこうとする姿勢のまま、凍っていた。

 マイナス一五〇度という超低温の凍気を、直接体内に注ぎ込まれたのだ。恐竜が恒温動物であれ、変温動物であれ、氷像と化すのは、免れられない。

 直接光線を叩き込まれた口内はおろか、体表さえも白い霜で覆われた姿で立像と化したティラノサウルスを睨み上げながら、柳也はゆっくりとした所作で、脇差を脇に取った。

 手の内を練る。

 跳躍と同時に、ティラノサウルスの喉元目がけてV字に振り抜いた。

 瞬間、一切の弾力性を失った肉に、亀裂が走った。

 一文字に刻まれた裂傷から、徐々にひびが広がっていく。

 やがて、腹の底に響く重い音が炸裂し、長い年月をかけて氷河が崩れるが如く、ティラノサウルスの頭部が、首から剥がれ落ちた。

 全長四メートルはあろう巨大な頭部は床に落ちると、ザクロのように砕け散った。

 柳也は、剣者のならいで脇差の血振りを済ませると、静かに納刀した。

 ぽつり、と小さくな呟きが、薄く血で滲む唇から漏れた。

「外に強い敵は、内側から崩す……作戦コード『メン・イン・ブラック』とでも名付けようか?」

【主よ、我は『インディペンデンス・デイ』の方がよいと思うぞ?】

【ソネンフェルド監督、三作目期待してますよ〜♪】

 

 

 

 

 また一人、方円陣の中心に立つワルドの目の前で、分身体が消滅した。

 またしても、いつ斬られたのか、どのようにして斬られたのかまったく知覚出来ない、目にも留まらぬ速さからの斬撃だった。

 すでに分身の数は、十七人にまで減っていた。

 対して、こちらが敵に与えた損害はまったくの皆無。有効打はおろか、かすり傷一つ負わせられていなかった。

 相手の動きが速すぎた。敵の姿を、視界の端にも捉えられない。こちらの放つ魔法は一発も命中せず、カウンターを取ろうにも、接近の予兆すら察知出来ない。

 それならばと、弾幕を張って敵を寄せつけないように思っても、当て推量の弾幕ではかえって隙を晒し、敵の接近を許すばかりだった。

 敵の神剣には、こちらの魔法のほとんどが通用しない。やはり、背面や非利き手側など、剣の動きが及ばぬ箇所をよく狙う必要があったが、それが出来ない。敵の姿が見えぬ状況では、打つ手がなかった。

 ――これまでにも、スピードに長ける敵とは幾度ととなく戦ってきたが……。

 歴戦のワルドは、これまでの軍隊経験の中で様々な敵と戦ってきた。

 家中随一の怪力を誇る硬骨漢。莫大な精神力をもって無尽蔵に魔法を撃ち続ける移動砲台。その中には無論、スピードに優れる敵もいた。しかし、目の前にいるであろう敵は、これまで戦ってきたどんな敵よりも速い。まさに、別格のスピードだった。

 ――このままあのスピードで一撃離脱戦法をとり続けられたら……

 負けるかもしれない、とワルドは思った。

 歴戦のワルドをして敗北を予感させる強さが、才人のスピードにはあった。

 他方、戦意の低下が著しいワルドとは対照的に、才人は、自らの気分が激しく昂揚しているのを自覚した。

 デルフリンガーと神剣の契約を交わした直後から、才人を取り巻く世界は一変していた。

 視覚を始めとするあらゆる感覚野が格段に広がり、これまでは感じとることが出来なかったものが感じられるようになった。

 ライトニング・クラウドの熱が大気を焦がす臭い。エア・ハンマーが大気を裂く音。あれほど追いつくのに苦労したワルドの動きさえもが、視界にゆっくりと映じる。

 これが……、

 これが………………、

 ――これが、神剣士の感覚! 柳也さんが見ていた世界ッ!

 これまで出来なかったことが、出来るようになった。見えなかったものが、見えるようになった。自分が、巨大な力を得た実感。その感動。その喜び。そしてなにより、憧れの師と同じ土俵に立てたことへの感慨深さ。心が、震えた。莫大な感情のエネルギーが、魂を震わせた。

 才人が興奮を自覚する度に、左手のルーンが燦然と輝く。

 その輝きを受けて、手の中のデルフリンガーもまた激しく震えた。

【そうだぜ、相棒。もっとだ。もっと心を奮わせろ!】

 いつもとは違い、自分にしか聞こえない声が、頭の中に響いた。 

【だんだん、思い出してきたぜ。そうだ。六千年前に俺を手に取ったガンダールヴもそうだった。ガンダールヴの強さは心の震えで決まる! 怒り! 悲しみ! 愛! 喜び! なんだっていい! とにかく心を震わせな、俺のガンダールヴ!】

 いつ襲ってくるか分からない敵に対し、落ち着きなく四方を見回す一人のワルドを見つけた。

 そいつを次の狙いと定めるや、床を蹴って疾走。亜音速の速さで、肉迫する。

 頭の中に、デルフの声が響いた。

【相棒、お前さんに、神剣士としての素質はねぇ。からっきしだ。本来、お前は、永遠神剣を扱えるような人間じゃねぇ。けれど、お前はガンダールヴ。あらゆる武器を使いこなす、伝説の使い魔だ。心を燃やせ! 魂を震わせろ! そうすりゃ俺は、お前にもっと力をくれてやれる!】

 永遠神剣第六位〈悪食〉の能力……風を操るその力。風を操るといっても、デルフの能力はタバサやワルドのように、風を直接攻撃や防御に使うものではない。デルフの風が自分にもたらす恩恵は、もっとシンプルだ。

【心を震わせな、ガンダールヴ! そうすりゃ俺は、お前をもっと加速させてやれる! お前を、誰も追い着けない世界に連れてってやる!】

 下段からの切り上げ。地から天へ。重力に逆らう斬撃にも拘らず、デルフの剣尖は、音速を凌駕した。

 分身体の発する断末魔の悲鳴は、音速を突破した証たるソニックブームの轟音にかき消されて、才人に耳には届かなかった。

 これで残るワルドは十六人。そろそろ、終わりが見えてきたか。

「……アクセル」

 神剣魔法の呪文を唱えた。

 敵には逆風を、自らには追い風を吹かせる魔法だ。上手く使いこなせば、スピードを何倍にも高めることが出来た。

「レジスト・ダウン」

 さらに、神剣魔法を重ねた。

 周囲の気流を操作して、自身にかかる空気抵抗を軽減する魔法だ。空気との摩擦から解放されて、才人の運動能力がさらに跳ね上がる。

「エアー・グリース」

 空気油と、みたび呪文を唱えた。

 関節各部に風を通し、骨と骨との滑りをよくする魔法だ。骨と骨の連結部に吹く小さな風は、単に関節の動きを良くするだけでなく、周辺の筋肉を冷却する効果もある。これまた、才人の運動能力を飛躍的に高める魔法だった。

【さあ、先頭を突っ走りな、ガンダールヴ! 褌も含めて、いまのお前に追いつける奴ぁこの場にいねぇ!】

 デルフの勇ましい声。

 力強く頷いて、才人は剣を八双に、方円陣へと飛び込んでいく。

 敵は誰一人として、こちらの接近にまったく気づいていない。

 気づけるわけがない。

 亜音速からの接近だ。

 たとえ気がついたとしても、その時には、もう遅い。

 気づいた時には、もう、才人の放つ斬撃が、ワルドの体を斬割している。

 最初に比べていくぶん小ぶりになった円陣の、最外郭に立つ一人を、袈裟がけに斬った。

 確かな手ごたえ。

 直後に耳朶を叩く、刃風の音。

 たちまちワルドの肉体が消滅し、マナの霧と化して霧散する。

 黄金の霧をすすったデルフが、手の内で歓喜の声を上げた。

【相棒、残り十五人だ】

 才人は小さく頷くと、右へ跳んだ。

 手首を捻り、袈裟に振り下ろしたデルフの刃を鋭く返す。

 すぐ隣に立つワルドの胴を薙いだ。

 悲鳴を上げる間もなく、また一人のワルドが消滅した。

「うぬ、いったいどこにいる!?」

 一人のワルドが、苛立たしげにエア・ハンマーをぶっ放した。

 狙いも何もない、八つ当たり同然の攻撃だ。当然、才人には命中することなく、神剣の力で強化された圧縮空気の鎚は、長椅子を次々叩き壊すだけに留まった。

 才人は次の狙いを、件の分身体へと定める。

「……せっかくの破壊力も、当たらなければ意味がない」

 その時、才人の耳膜を、冷ややかな声が叩いた。柳也の声だ。神剣士の超感覚によるものか、マッハ〇・八という高速での機動中にも拘らず、師匠の声はいつもよりも明瞭に聞こえた。 

 才人は二の太刀を振るうとともに声のした方を一瞥した。

 才人の視界に、腕を組み、仁王立ちする男の姿が映じた。オリーブ色の軍服を気高き血で濡らし、炯々と輝く眼光をこちらに向けている。

 背後には、首のないティラノサウルスの氷像が一つ。どうやら、あちらの戦いは終わったらしかった。勝利の女神がどちらに微笑んだかは、男の背後の立像が何よりも雄弁に語っていた。

 柳也は真っ直ぐこちらを……ワルド達の一団を見据えていた。

 凶悪な面魂に浮かぶ表情は、弟子の勝利を確信した笑み。

 柳也は続けて口を開いた。彼が言の葉を吐き出すとと同時に、また一人、ワルドが消滅した。

「ワルド、お前さんは強い男だよ。単に腕っ節が立つだけじゃねぇ。魔法学院を出発してからここまで、お前さんの立てた作戦計画はほぼ完璧だった。ラ・ロシェールではまんまと戦力を分断されたばかりか、俺も相当苦しめられた。……認めてやらぁ。お前さんは間違いなく、俺がこれまで戦ってきた中でも最強クラスの敵だったよ。……だが……」

 柳也はそこでいったん言葉を区切った。

 舌の根を休めた瞬間、また一人のワルドが消滅した。これで残るは十一人。ワルド達はいまだ、高速で動く才人の姿を捉えられないでいる。

「お前は一つ、戦士として重要な要素を持っていなかった。それが、お前さんの敗因だよ」

「……敗因だと?」

 一人のワルドが、米神を引くつかせながら柳也の言葉を反芻した。

 応じて、別なワルドが言葉を継ぐ。

「何が敗因だ?」

「こちらはまだ、十人以上の戦力がある」

「僕はまだ、負けては……!」

 続くはずの言葉は、声には、出されなかった。

 「負けてはいない」と、その先を口にするはずだったワルドが、才人に斬られてしまったためだ。

 〈悪食〉はオーラフォトンの扱いに長けた神剣ではない。また、第六位という位階の低さから、精霊光の最大出力自体も低い。武器の姿をした神剣とはいえ、斬撃の威力は、基本的に使い手の技量に依存せざるをえなかった。

 その点、現在の使い手たる才人はガンダールヴ。あらゆる武器を手足のように使いこなす、伝説の使い魔だ。左手のルーンの作用か、柳也仕込みの手の内から繰り出される斬撃は、文字通り一撃必殺の威力を有していた。

 とうとう十人にまで戦力をすり減らしたワルドを見て、柳也は言う。

「敗因だろ? もう、誰がどう見ても、お前に勝ちはないぜ?」

「ぬ、う……」

「ワルド、テメェに欠如しているのは、ここぞというときに発揮するべき、くそ度胸だ。……要するに、臆病だったんだよ、お前は!」

 柳也は冷笑とともに言い放った。

「お前自身、神剣士だからだろうな。お前は、俺に拘りすぎた。神剣士の俺を警戒するあまり、才人君やマチルダへの対応がおろそかになった。……俺にゃ四七人全員で挑んできたのに、二人の方はティラノサウルスに任せっきりだったしな」 

 自分に対するときと、二人に対するときとでは、力の注ぎ方が明らかに異なっていた。熱の入れようが違った。

 弱りきった己一人に四十七人全員で襲いかかるというのは、さしずめ牛刀で鶏を解体するようなもの。戦力過多にも程があった。

 他方、ティラノサウルスが強力なのは間違いないが、それでも才人とマチルダの二人にこの戦力は少なすぎた。ラ・ロシェールの港での戦闘を経て、ワルドはマチルダが、暴君竜にも匹敵する体躯の巨大ゴーレムを錬成出来ることをすでに知っていた。にも拘わらず、ティラノサウルス一体にすべてを任せっぱなしにするというのは、怠慢としか考えようがない。結果的に二人は五体壮健のまま生き残り、彼らの粘りが、自分に復活のための時間を与えてくれた。

 仮に分身体を五、六人、マチルダ達に差し向けていたならば、二人は間違いなく死んでいただろう。その場合は、自分がウェールズにマナのことを説明し、その命を咀嚼する時間もない。いまこうして、才人の勝利を信じて笑みを浮かべることも、叶わなかった。

 その才人も、神剣士として目覚めることがなかったかもしれない。

 デルフリンガーが永遠神剣としての記憶を思い出したのは、まさしく僥倖だった。状況が一つでも違っていれば、起こらなかったかもしれない奇跡だった。

「……いまこの状況は、全部、テメェの臆病が招いた結果だぜ? ……ってかよ、舐めきっていたんだろう? 二人のことを。……二人だけじゃねぇ。神剣士以外のすべて。みんな、舐めきっていたんだろう? 怖いのは神剣士だけ。他の連中は、自分が本気を出せばどうにでもなるって、そう、思っていたんだよな!?」

 二人、たて続けに分身体が消滅した。

 残り、八人。

 才人の剣は、ますます勢いづく。

 柳也は喜色を深めつつ、ドスを孕んだ凄絶な語気で、言の葉を紡いだ。

「いくらなんでも、そりゃあ、舐めすぎだ。ラ・ロシェールの港でも言っただろうが。俺の仲間は強い、って。……実際、強かっただろうよ、俺の仲間達は?」

 マチルダの粘りが、自分が復活するまでの時間を稼いだ。才人の奮闘が、デルフが遠い過去に置いてきた記憶を取り戻すまでの時間を稼いだ。

 取るに足らない相手と思っていた二人の力戦は、ワルドにとって予想外の事態だったに違いない。

 二人の活躍がなければ、柳也の復活も、才人の神剣士としての目覚めもなかったのだから。

「お前は、神剣士を恐れすぎた。そして、それ以外を侮った。それが、お前の敗因だ!」

「おのれ!」

 激高したワルド達は一斉にサーベル杖を柳也に向けた。

 さながら八門の重砲がこちらに砲口を向けているようなものだ。しかし、そんな状況に置かれてなお、柳也の口元からは冷笑が消えなかった。

 柳也にとっては絶体絶命の窮地も、才人からしてみれば、それは大きな隙だった。

【相棒、いまだ!】

 言われるまでもなかった。

 師匠がお膳立てしてくれた絶好の好機。これを逃すつもりは、毛頭ない。

 才人はデルフリンガーを上段に振りかぶった。

 剣法の基本とされる五行の構えにあって、基礎中の基礎とされる攻めの構え。

 基本とは、すなわちその道における奥義だ。特に中段と上段は、現代剣道にも息づく基礎の基礎。柳也は稽古の際、特に上段からの打ち込みを才人に繰り返させていた。稽古具は無論、重量三キロの、特別製の木刀だ。

 あの木刀に比べたら、いまのデルフは羽のようなもの。

 呼吸を練り、手の内を練り、マナを練り……才人は、思いっきり神剣を振り下ろした。

 斬割。

 たしかな手応えの後、視界いっぱいを、黄金のマナの霧が埋め尽くした。

 鋭く刀を返し、跳ね上げる。

 V字に振り抜かれた剣戟が、左隣の分身体を斬り捨てた。

 銀色の閃光はそのまま空中でのびやかな弧を描き、前進とともに、また振り下ろされる。

 袈裟斬り。

 悲鳴を上げる間もなく、また一人分身体が消滅した。師匠に向けられた重砲は、残り五つとなった。

 自分と感覚を共有する分身体を、一瞬のうちに三人失った。事ここにいたって、才人の姿を捉えられぬワルドも、敵の接近に気がついた。

 ワルド達は全員が背中合わせになって、見えない敵を迎え撃った。

 照準も何もなく、四方八方、全方位に向けて、魔法を乱れ撃つ。

 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる。単純だが、強力な作戦だった。なるほど、デルフの魔法を吸収する特性は、魔法が剣身に触れてはじめて発揮されるもの。神剣の力で強化されたワルドの魔法は強力だ。まぐれ当たりの一発が、運剣の範囲外に炸裂すれば、それは即致命傷となろう。

 また、全周囲に向けての乱射は、接近する敵への牽制ともなる。

 実際、才人は突然の弾幕に、ぎょっ、として、咄嗟に退いてしまった。

 〈悪食〉は柳也のアイス・ブラスターのような射撃魔法が使えない。ダメージを与えるためには、相手と肉迫する必要がある。

 慌てて再度の接近を試みる才人だったが、もとより、敵の接近を許さないために張るのが弾幕だ。四方八方に向けて発揮されるワルドの圧倒的な火力の前に、思うように近づくことが出来なかった。

 一歩前に踏み出そうにも、その度に殺到する魔法が、二の足を踏ませる。

【相棒、臆するんじゃねぇ!】

 ――って言うけどよぉ……目茶目茶こえぇぞ、アレ。

 次々と放たれる剣呑な魔法の数々を示して、才人は頭の中に響くデルフの声に答えた。

 その時、全方位に魔法攻撃を繰り出し続ける固定砲台と化したワルド達に向けて、一条の閃光が襲いかかった。

 マイナス一五〇度の冷気を孕んだ、青白いレーザービーム。

 柳也の放った、アイス・ブラスターの閃光だった。

「才人君に気を取られすぎだ」

 柳也の凶悪な面魂が、残忍な喜色に歪んだ。

 腕を振り抜きながら放たれた冷凍光線は、一文字の軌跡を描きながら、ワルドの魔法を次々凝結させていった。ライトニング・クラウドからは熱を奪い、エア・ハンマーなど空気を直接叩き込む魔法に対しては、空気そのものを凍結し、これを無力化する。

 薙ぎの一閃はやがてワルド本人にも命中し、分身体が二人、一度に消滅した。

 四方に展開していた弾幕の一角が、崩れた瞬間だった。

 ――いまだッ!

 才人は、反射的に前へと踏み込んだ。

 弾幕に生じた死角へと回り込むや、デルフリンガーを抱え込むように構えた。

 大きく息を吸い、呼吸を止める。

 瞬間、

 才人の手元から、銀色の光線が飛び出した。

 連続で、三発。

 刺突三連突きが、ワルド達の背後を襲った。

 血煙が、繚乱した。

 才人の視界の中で、残る三人のうち二人が、閃光が瞬く一瞬のうちに消滅した。

 残った本体のワルドも、極音速からの刺突の衝撃で吹っ飛び、横転した。

 もんどり打って床を転がり、壁に激突。仰向けに倒れたその視界に、始祖ブリミル像の端正な顔立ちが映じた。

 ワルドが吹き飛んだその先は、奇しくも、ウェールズの遺体を足下に立つ、始祖ブリミル像の側だった。

 刺突の衝撃が、予想以上に効いたか。あるいは、魔法の連発でさすがに精神力が尽きたか。

 ブリミル像に見下ろされながら、ワルドは気を失ってそのまま動かなくなった。



<あとがき>
 

 冒頭、「たかが風です」なんて言っていた才人が、風の力で勝利を掴むのは、個人的にいい感じのジョークになったんじゃないかと思います。

 読者の皆さん、おはこんばんちはっす! タハ乱暴でございます。今回もゼロ魔刃をお読みいただき、ありがとうございました!

 今回の話は難産でした。

 ワルドとの決着をつける。風のアルビオン編最大の見せ場だけに、どう戦闘を展開させるか、何度も書き直しました。特に、才人とワルドの対決シーンは、苦労いたしました。

 特撮ヒーロー好きのタハ乱暴には、悪役たるもの最後は無様でなければならない。無様な最後の方が悪役らしく、かえってかっこいい……という考えがありまして、どうすればあの二枚目ワルドを乏しめられるか、考えました。考え抜いた結論が、今回の話です。

 さて、風のアルビオン編、まだ終わりません。

 次回はついに、あの男が動き出します。

 次回もお付き合いいただければ幸いです。

 ではでは〜




ピンチからの逆転劇。やっぱり燃えますな。
美姫 「あとがきでも言われているように、デルフの能力が風の力とは中々ジョークがきいているわね」
だよな。それにしても、神剣まで操るか、ガンダールヴ。
美姫 「複数の神剣でも可能なのかしらね」
どうだろうな。デルフが協力的だからかもしれないし。
美姫 「ともあれ、ピンチから一転したけれど」
まだ戦争は終わってないしな。
美姫 「どうなるのかしら」
気になる次回は……。
美姫 「この後すぐ!」



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