フーケを倒し、そして〈殲滅〉の泥人形を倒したルイズ達は、魔法学院に戻ると、早速医務室へと向かった。

 真っ先に向かったのがなぜ医務室かといえば、事の顛末を報告するべきオールド・オスマンが、ここに担ぎ込まれていたからだ。

 柳也を回復させるために自らの血を流したオスマンは、クラウス教員を初めとする魔法学院の水のエキスパート達によって命こそ取り留めていたが、いまだベッドの上から起き上がれるような状態ではなかった。そこで報告は医務室にて、となったのだ。

 また、一刻も早く才人とギーシュを治療してもらうためでもあった。〈殲滅〉の泥人形に叩きのめされた二人は消耗し、特にギーシュは意識不明の重態だった。二人の治療はトライアングル・クラスの水のメイジが四人掛かりで、魔法の秘薬をいくつも使って行われた。幸い、ギーシュは一命をとりとめ、才人も足を引きずりながらだが、なんとか歩ける程度には回復した。

 ギーシュはまだ眠ったままだ。

 オスマンが横になっているベッドの隣で、穏やかな寝顔を晒している。

 端整な顔立ちの彼が無防備に寝ている姿は、なんとなく可愛げを感じさせた。

 オスマンは、ベッドの上から、戻ってきた生徒達の報告を聞いていた。

 いくらか回復したといっても、いまだ病み上がりの身。その顔色は土気色に染まっている。

「ふむ……。ミス・ロングビルが土くれのフーケじゃったとはな……。美人だったもので、なんの疑いもせず秘書に採用してしまった」

「いったい、どこで採用されたんですか?」

 隣に控えていたコルベールが訊ねた。

 オスマンは弱々しく答える。

「街の居酒屋じゃ。私は客で、彼女は給仕をしておったのだが、ついついこの手がお尻を撫でてしまってな」

「で?」

 コルベールは先を促した。

 オスマン氏は土気色の顔で照れたように告白した。

「おほん。それでも怒らないので、秘書にならないか、と言ってしまった」

「なんで?」

 まったく理解出来ないといった様子で、コルベールは訊ねた。

 オスマン老人は無視して続けた。

「おまけに魔法も使えるというのでな」

「…………」

 コルベールは思わず、「死んだほうがいいのでは?」と、呟きそうになった。相手は病人なんだ、と思い直し、口をつぐんだ。その表情はいまだ納得のいかぬ顔だ。

 オスマンはコルベール同様冷たい視線を注ぐ生徒達に向き直った。

 ルイズ。

 才人。

 キュルケ。

 タバサ。

 そしてケティ。

 五人は蔑みの眼差しをオールド・オスマンに注いでいた。

 ルイズなどは柳也を助けてくれた件がなければいまにも殴りかからんばかりの表情だ。

 なお、柳也の姿はこの場にない。彼はいま、隣の部屋でフーケの監視をしていた。

「さて、君達はよくぞフーケを捕まえてくれた」

 オスマン老人はそう言って、ベッドの脇に置かれたテーブルの上へと視線を向けた。

 テーブルの上には、才人が真っ二つに叩き割った〈殲滅〉の結晶体が置かれていた。

「破壊の杖は惜しかったがな。それでも、大手柄じゃ」

 オスマン氏の言葉に、才人を除いた四人が誇らしげに礼をした。

 学院長はそんな生徒達の頭を撫でながら、

「君達の、“シュヴァリエ”の爵位申請を、宮廷に出す予定じゃ。無論、いまは隣で寝ている彼にもな。といっても、ミス・タバサはすでに“シュヴァリエ”の爵位を持っているから、精霊勲章の授与を申請するつもりだが」

と、言った。

 貴族にとって爵位とは何よりも重要なステータスの一つだ。

 オスマン氏のこの言葉に、四人の娘の顔が、ぱあっ、と輝いた。

「本当ですか?」

 ケティが驚いた声で言った。一年生で現在シュヴァリエの称号を持っているメイジはいない。

「ほんとじゃ。いいのじゃ、君達は、そのぐらいのことをしたんじゃから」

「あの……」

 ルイズは、先ほどから元気がなさそうに立っている才人を見つめた。
 
 それから、隣の部屋で待機している柳也のことを思い出す。

「……オールド・オスマン。サイトとリュウヤには、何もないんですか?」

「残念ながら、彼らは貴族ではない」

「俺は何もいらないですよ。たぶん、柳也さんも、そう言うと思います」

 才人は言った。

「ミスタ・リュウヤといえば……」

 ケティが思い出したように呟いた。

 真剣な顔で、オールド・オスマンを見る。

「ミスタ・リュウヤは、今後どうなるんでしょう?」

「……報告によれば、彼は暴走した破壊の杖を止めるために、フーケとコントラクト・サーヴァントを交わしたのじゃったな」

 オールド・オスマンは深い懊悩を顔に貼り付けて呟いた。

 フーケ、そして〈殲滅〉の泥人形との戦闘の経過については、詳細な報告を受けていた。柳也が〈殲滅〉を倒すためにフーケと契約し、“守護者”のルーンを左胸に刻んだことも伝わっている。

 史上二例目の人間の使い魔。しかもそれは、裁かれるべき犯罪者と契約を交わしてしまった身。魔法学院の長として、彼の処遇をどうするべきか。この少女達は、どうすれば納得してくれるか。

 オールド・オスマンは、やがて決然と言い放った。

「その件についても、この場で決めなければならぬな……ミスタ・コルベール」

 オスマンは、コルベール教員に指示を下した。

「隣の部屋で控えている同志リュウヤと、フーケを呼んでくれ」





永遠のアセリアAnother × ゼロの使い魔クロスオーバー

ゼロの魔法使いとその使い魔と、ついでに現われた守護の双刃

EPISODE:19「さらば褌ライフ。さらば筋肉のサブタイ」





 コルベールと柳也に前後から挟まれながら、縄で後ろ手に拘束されたフーケが医務室に入室してきた。

 フーケはオールド・オスマンの顔を一瞥すると、すぐにすました態度を取った。

 睨むでもなく、泣いて許しを請うでもない。かつての雇用主を前にしても泰然とした様子を取る彼女の姿は、柳也にはとても気高く見えた。

「さて、同志リュウヤよ」

 オールド・オスマンはフーケに一瞥をくれた後、柳也を見た。

 守護者のルーンをその身に刻んだ彼は、褌一丁の装いではなく、オリーブ・ドラブの軍服に身を包んでいた。腰元に巻かれた帯には、脇差のみが閂に差されている。フーケの錬金で作った同田貫は、戦いを終えてすぐに消えてしまったのだった。

 オールド・オスマンは柳也の顔を見るなり、深々と頭を垂れた。 

「まずは礼を言わせてくれ。私の生徒達を、守ってくれてありがとう」

「同志オスマン、礼はいらない」

 柳也はオスマン老人に莞爾と笑いかけた。

「俺が守りたいと思ったから守った。俺が助けたいと思ったから助けた。全部、俺の都合だ。礼はいらない。むしろ礼を言うのはこっちの方だ、同志オスマン」

 柳也はオスマンに日本式に腰を折って礼を述べた。

「ありがとう。あなたのおかげで、俺は再び、戦う力を得ることが出来た」

「同志リュウヤ……お前さんという男は……」

 オスマン老人は感極まったように顔を上げた。

 その先を紡ごうとして、言葉を見失う。

 こんな男が……斯様に、男の本能に忠実な生き方を貫いている男がいたとは!。

 良い女を愛し、悪い男を倒す。男に生まれたのなら誰しもが持つ本能からの欲求に、こうも素直に生きている男がいたとは……。

 オスマンは、改めてこの男が好きになり始めていた。

 同じ趣味嗜好の同志という以上に、この男の存在を好ましく感じている自分に気が付いた。

 そしてそんな男に、これから残酷な現実を告げなければならない己の身を嘆いた。

「……同志リュウヤ、おぬしをフーケと一緒に呼んだのは、他でもない」

「使い魔契約のことだろう?」

 柳也は、オスマンが答えを口にする前に訊ねた。

 きっぱり、とした断定的な口調に、オスマンは悲壮な顔で頷いた。

 柳也はなおも微笑みながら呟く。

「当然だな。非常事態とはいえ、犯罪者と契約を結んだんだから。最初から、ただでは済まないと思っていたよ。……それで同志オスマン、俺にはいくつ選択肢があるんだ?」

 柳也の言葉に、オスマンは泣きたい気持ちになった。

 この男は頭の良い人間だ。僅かな情報と自分の態度から、すぐにこの先の展開を読んでしまう。

 オスマンは力なく右手の指を二本立てた。

「二つだ。一つ目の選択肢は、フーケとともに王城の牢に入る」

 オスマンの残酷な言葉に、ルイズ達が、はっ、として柳也の顔を見た。

 柳也は毅然とした態度で、オスマンの言葉を受け止めている。

 最初からこうなることは分かりきっていたかのような悟ったその様子に、オスマンは、そして隣に立つコルベールさえもが泣きたくなった。裁判制度や法律の未発達なハルケギニアでは、一度牢獄に押し込まれたら最後、二度と出てこれない可能性が十分にある。裁判なしで、死刑になる可能性もある。

 いっそのこと喚いてくれれば。あんまりな仕打ちではないかと罵ってくれれば、どんなに気持ちが楽だろうか。

 オスマンは、自分の大切な生徒達を救ってくれた恩人に、もう一つの選択肢を突きつける。

「二つ目は、いままで通りこの学院で暮らしていく選択肢だ」

 オスマンの言葉に、ルイズ達は今度は輝く笑みで柳也を見た。

「但し、その場合は、フーケも一緒にこの学院で暮らしていくことになる」

 しかしその笑みは、続くオスマンの言葉によって凍りついた。

「幸い、フーケの正体を知っているのは、この場にいる人間しかおらぬからな。口裏を合わせれば不可能ではない。但し、この選択肢を選べば、お前さんは大きな責任を背負い込むことになる」

「責任?」

 ルイズが怪訝に訊ねた。

 その言葉に答えたのは、オスマンではなく柳也だった。

「フーケという主人が、また悪さをしないように、常に監視しておく義務、ということだな? そしてもし、フーケが魔法学院を脱走したり、また盗みを働くようなことがあれば、今度こそ俺は、問答無用で牢にぶち込まれるという責任」

「そうだ。すべての義務と責任が、お前さんに集中することになる。犯罪者をこの学院に住まわす以上、そういう措置を取らねばならぬ。

 お前さんがフーケの使い魔となった以上、二人を分断する選択肢は私達にはない。牢屋か、制限付きの自由か。同志リュウヤ、おぬしの意見を聞きたい」

「俺はいままで通りであることを望む」

 柳也は、きっぱり、と言い切った。

 力強い言葉だった。

「るーちゃんの召使いで、普段はアルヴェーズの食堂で働いて、才人君とギーシュ君を指導し、ミス・タバサに、故郷の話を聞かせる。そんな、変わらない日々を望む。……そして、いずれは元の世界へ……ファンタズマゴリアへ帰還する」

「そうか……」

 オールド・オスマンは、土気色の顔に莞爾とした微笑みを浮かべて頷いた。

 ついで彼は、拘束されているフーケを見た。

「ミス・ロングビル……いや、いまはフーケと呼ぼうか。おぬしの使い魔はこう言っておるが、おぬしはどうしたい?」

「ふん。飼い殺しなんて、まっぴらゴメンだね」

 フーケはオールド・オスマンに冷たい視線を向けて言い放った。

「飼い殺しか……まぁ、たしかにそうじゃな。だがフーケ、牢獄の中で、明日処刑されるかもしれないという恐怖に怯えて過ごすのよりは、飼い殺しの方が過ごしやすいと思うぞ。……それにほれ、お前さんは秘書としては優秀じゃからな。いままで通り給金を払ってやってもいい」

「…………」

 フーケは憮然としてオスマンを睨んだ。

 たしかに、自分は罪を重ねすぎた。オスマンの言う通り、牢獄にぶち込まれた後、断頭台に立たされる可能性は少なくない。

 自分はまだ死ぬわけにはいかない。また、牢獄の中にも入るわけにはいかない。牢獄の中からでは、自分のなすべきことが出来ない。自分がやらねばならないことが、出来ない。

 頭の中で牢獄生活と学院生活を天秤にかけ、やがてフーケは、苦々しい口調で言った。

「……わかったよ。私も、この学院に残る。飼い殺しも、甘んじて受けようじゃないか」

「ええと……それじゃあ、どうなるんでしょうか?」

 フーケが渋々二つ目の選択肢を承諾したのを受けて、ケティが怪訝に言った。

 そんな彼女の肩を叩きながら、キュルケが言う

「何も変わらない、でいいんじゃない? リュウヤはいままで通りるーちゃんの召使いで、ミス・ロングビルは学院長の秘書ってことで」

「……そういうわけにはいかないわよ」

 ルイズが言った。

 きっ、と鳶色の眼差しをフーケに向ける。

「リュウヤは私の召使いよ。なら、その主人のフーケも、当然、私の召使いになるべきだわ!」

「私に貴族に仕えろっていうのかい!?」

 冗談じゃない、とばかりにフーケは語気を荒げた。

 帰りの馬車の中で聞いた話だが、どうやらマチルダは昔何かあって、貴族の称号を剥奪されたらしい。その一件が尾を引いて、貴族という存在を毛嫌いしているらしかった。

「貴族に仕えるくらいなら、その辺の野良犬にでも媚びへつらった方がまだましさ」

「な、ななな、ななななんですってぇ!?」

 フーケの好戦的な言葉に、ルイズは目を剥いた。

 そんなルイズを「まぁまぁ」と、なだめながら、いままで黙っていた才人が言う。

「でも、るーちゃんの言ったことはフーケさんにも悪くない話だと思いますよ」

「ああ?」

「いや、こいつ、仮にも良いトコのお嬢様らしいんで、その分、給金は良かったりするんじゃないかなぁ……と。あと、この学院の秘書も続けるのなら、そっちからも給料貰えて嬉しさ二倍かなぁ、と」

「……言われてみれば、そうだねぇ」

 聞くところによればルイズの実家、ヴァリエール家は公爵の家柄だそうだ。公爵といえば、政治学上は大公に次ぐ爵位だ。時代や国によっては、国王に次ぐ権力の持ち主である。なるほど、その財力は凄まじかろう。

 余談だが政治学上における爵位で、最も権力を持っているのが皇帝だ。国王はその次に来る。その次は大公だ。この大公という言葉は、archduke とgrand duke の和訳で、原語では明確にランク分けされているが、和訳では大公一つにまとめられている。

 才人の言葉を受けたフーケは、しばし考え込んだ。

 今日、使い魔となったばかりの男の顔を見、オスマンの顔を見、最後に、ぐるるるる、と奇妙な擬音を発しながら睨んでくるルイズを見た。

 金があるには越したことはない。金があれば、あの子たちを養うことが出来る。貴族はいけすかない連中だが、金を払ってくれるうちは、言う事を聞いてやってもいいだろう。

「……………………分かったよ」

 長い沈黙の後、フーケは小さく呟いた。

 その返答に柳也が、オスマンが、穏やかに笑った。

 コルベール教員だけは最後まで渋い顔をしていたが、やがて、ぽんぽん、と手を打って、口調を明るく改めた。

「さて、今日の夜は“フリッグの舞踏会”ですぞ。今夜の主役は、君達です」

「そうでしたわ! フーケの騒ぎで忘れておりました!」

 キュルケが、ぱっ、と顔を輝かせて言った。

 オスマン氏が、やはり女子はこうでなくては、と頷く。

「せいぜい、着飾るのじゃぞ」

 ルイズ、キュルケ、タバサ、ケティの四人は、一礼するとドアに向かった。

 ルイズは、才人と柳也を一瞥した。

 柳也はフーケのことでもう少し残らなければならない。そして才人には、まだこの老人に話さなければならないことがあった。

「先に行ってていいよ」

「おう。ドレス姿、楽しみにしているぞ」

 才人と柳也は言った。

 ルイズは心配そうに見つめていたが、頷いて部屋を出て行った。





 医務室にはオスマン、コルベール、柳也、才人、そしてフーケの五人だけが残った。

 ベッドの上のオスマンは、才人に目線を向けた。

「なにか、私に聞きたいことがおありのようじゃな」

 才人は頷いた。

「言ってごらんなさい。出来るだけ力になろう。君に爵位を授けることはできんが、せめてものお礼じゃ」

 才人はまた頷いて、ゆっくりと口を開いた。

「柳也さんから聞きました。あの破壊の杖をこの世界に持ち込んだ人は、俺の元いた世界の人間だって」

「ふむ。私も同志リュウヤからそのことは聞いておる」

 オスマン氏は土気色の顔を縦に振って言った。

 柳也達が異世界人だと知らないフーケが、怪訝な顔をして柳也と才人、オスマンを見る。

「どうやら私の命の恩人は、君達と同郷の出身だったらしいのう」

「はい。……それで、この世界では、そういう、別の世界から人間がやって来るみたいなことは、頻繁に起こることなんですか?」

「わからん。私も、異世界からやって来た人間と話すのは、君達で三人目なのだ。ただ少なくとも、こういった現象が有名な文献に残っていた記憶はない」

「くそ!」

 才人は嘆いた。見つけた手がかりは、あっという間に消えてしまった。

 オスマン氏は、嘆く才人の左手を掴んだ。

「おぬしのこのルーン……」

「ええ。こいつも聞きたかった。この文字が光ると、なぜか武器を自在に使えるようになるんです」

「……これなら知っておるよ」

 オスマンは、話すべきか否か少し悩んだ後、とつとつと口を開いた。

「ガンダールヴの印じゃ。伝説の使い魔の印じゃよ」

「伝説の使い魔の印?」

 才人が怪訝な顔をした。

「そうじゃ。その伝説の使い魔は、ありとあらゆる武器を使いこなしたそうじゃ。剣を握ったこともない君が、それを自在に操れるようになったもの、そのおかげじゃろう」

「どうして、才人君がその伝説の使い魔に?」

 柳也が鋭い眼差しでオスマンに訊ねた。

 偉大なる魔法使いの老人は、かぶりを振った。

「わからんことばっかりだ」

「すまんの。ただ、もしかしたら、おぬしがこっちの世界にやって来たことと、そのガンダールヴの印は、何か関係しているのかもしれん」

 才人は深々と溜め息をついた。

 この人なら何か有益なことが聞けるかと思ったのに、すっかりあてが外れてしまった。

「力になれんですまんの。ただ、これだけは言っておく。私は、おぬしの味方じゃ。ガンダールヴよ」

 オスマン老人はそう言って才人を手招きすると、彼を抱き締めた。

「よくぞ。私の大切な子ども達を守ってくれた。改めて礼を言うぞ」

「いえ……」

 才人は疲れた声で返事をした。

 その背中に、コルベール教員が声をかける。

「君達がどういう理屈でこの世界にやって来たのか、我々なりに調べてみます。ただ……」

「ただ、なんです?」

「何も分からなくても、恨まないで下さい。なあに。こっちの世界も捨てたものじゃありません。美味い料理はあるし、可愛い女の子もいる。住めば都ですぞ」

 能天気なコルベールの声が、再び才人の溜め息を誘った。

 ようやく帰れる手がかりを見つけたと思ったのに、簡単にそれが指の間からすり抜けてしまった。





 フッリグの舞踏会は、この春、魔法学院に入学した新入生と、在校生の出会いの場としての側面を持っている。

 要は新入生の歓迎会で、舞踏会と名は付いているが、その実、楽しんだ者勝ちのパーティだった。楽しみ方も人それぞれ。

 流れる音楽に合わせて躍るも良し。魔法学院に勤めるシェフ達が腕を振るった料理の数々に舌鼓を打つも良し。年代物のワインに酔うも良し。

 はたして、桜坂柳也の場合は、テーブルの上に並んだ料理の数々を前に目を輝かせていた。

「うっひょぉぉぉ〜〜〜! こ、これ、全部食っていいのか? これぇ、好きなだけ食っていいのかぁ?!」

 六尺豊かな大男は、その巨躯ゆえに大食漢だった。

 料理は質よりも量を尊ぶ性格の彼だが、今宵の宴で振る舞われる料理は、量もさることながら質も絶品。軍服姿の彼は、右手にナイフを、左手にフォークを構え、隣に立つミス・ロングビルに訊ねた。

「……よろしいんじゃないですか? ある意味ではあなたも、今夜のパーティの主役ですし」

 改めて魔法学院に勤めることになったフーケことミス・ロングビルは、伊達眼鏡の位置を直しながら冷静に言った。

 まるでその言葉が合図だったかのように、柳也の両腕が閃光の如く閃いた。

 男の両腕が閃光を放つ度に、テーブルの上から次々と料理が消えていく。

 肉が。魚が。野菜が。酒が。凄まじい勢いで消えていく。

 どこぞのフードファイターさながらに、柳也は、「俺の胃袋はブラックホールだぁぁぁ!」と、叫んだ。

 と、そんな柳也の背後のテーブルでは、同じくタバサが分厚いロースを前に戦っていた。

 オリーブ色のドレスを着込んだ彼女の手も、何やら光の速さで動いている。

「おおっ、その肉いただきぃ!」

 背後から伸びる柳也のフォーク。

 タバサの切れ長の瞳が、ギラリ、と凶悪な輝きを放ち、同時に左手が光線と化した。

 甲高い金属音。

 柳也のフォークをタバサのフォークが阻み、鍔迫り合いに持ち込んだ。

 柳也が楽しげに笑う。

「ふふん。なかなかやりますね。ミス・タバサ。俺のフォーク捌きを止めたのは、あなたで二六人目だ」

「負けない」

「……何やってるんだい、あんた達は」

 肉求め、フォークをぶつけ合う二人を見て、フーケが呆れた溜め息をついた。

 その時、ホールの壮麗な扉が開いた。

 門に控えた呼び出しの衛士の声に、柳也はタバサとの死闘を中断して、そちらを振り向いた。

 衛士の言葉は、ルイズの到着を告げるものだった。

「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢の、おな〜〜〜り〜〜〜!」

「ほぉ……」

 門を潜ってやって来たルイズの姿を見て、柳也の口から知らず感嘆の吐息がこぼれた。

 ルイズは桃色がかったブロンドの髪をバレッタにまとめ、ホワイトのパーティードレスに身を包んでいた。肘まで覆う白い手袋がルイズの高貴さをこの上なく演出し、胸元の開いたデザインのドレスが、つくりの小さい顔を宝石のように輝かせる。ルイズが美人なのは前々から分かっていたことだが、これは……

「……いかん。思わず恋をしてしまった」

「……は?」

「…………」

 隣のフーケとタバサが、冷たい視線を向けてきた。

 しかしそんな鋭利な眼差しが気にならないほど、柳也はルイズの姿に夢中になっていた。

 主役が全員揃ったことを確認した楽士達が、小さく、流れるように音楽を奏で始めた。

 ルイズの周りには、その姿と美貌に驚いた男達が群がり、盛んにダンスを申し込んでいる。いままで、ゼロのルイズと呼んでからかっていたノーマークの女の子の美貌に気付き、いち早く唾を付けておこう、という腹積もりだろう。

 ホールでは、貴族達が優雅にダンスを踊り始めた。その中にはキュルケの姿もある。しかし、ルイズは誰の誘いをも断ると、真っ直ぐにワイングラスを手にした柳也へと近付いていった。

「あんた……」

「ん?」

「やっぱり、そうやってちゃんとした恰好の方が良いわよ」

 完全な不意打ちだった。

 ストレートに容姿を褒められ、柳也の思考が一瞬、停止する。

 この男は自分の気持ちを素直に口にすることには慣れているが、相手から言われることには慣れていない。

 途端、顔を真っ赤にした柳也は、「いや、あの、ええと……」と、口をぱくぱくさせた。

 返す言葉を必死に探すが、まったく思い浮かばない。

「あ、ああ……そのぉ……なんだ。ありがとう、でいいのか?」

「何で私に聞くのさ?」

 質問をぶつけられたフーケが不機嫌そうに言った。

 追い討つようにタバサが、「照れてる」と、いまの状態を指摘する。

 柳也はなんとか話題を変えようと、舌先で必死に言葉を探した。

「と、ところでるーちゃん。るーちゃんは躍らないのか?」

「るーちゃんって……相手がいないのよ?」

「いない? そんなことはないだろう?」

 手を広げるルイズに、柳也は言った。

 ルイズは答えずに、すっ、と手を差し伸べてきた。

 その意図するところを悟った柳也は、彼女の顔を見た。

 ルイズは目を逸らし、ちょっと照れたように言った。

「踊ってあげても、よくってよ」

「……生憎、ワルツは苦手でね」

 柳也は肩をすくめた。

「タンゴなら自信があるんだが」

「タンゴなんて、平民の踊る曲よ」

「俺は平民だってば」

 柳也は苦笑しながら、ルイズの手を取った。

 二人は並んでホールへと向かった。





「リズムはるーちゃんに合わせるよ」

 男としては情けない限りだが、柳也はルイズにそう言った。

 ルイズは小さく頷いて、柳也の手を軽く握った。

 ルイズが優雅にステップを踏む。柳也はそれに合わせて足を、そして体を動かしていった。もともと運動神経に優れる柳也は、次第にコツを覚えていき、やがてちゃんとしたリードが出来るようになっていく。

「ねえ、リュウヤ。信じてあげるわ」

「なにを?」

「その、あんた達が別の世界から来たってこと」

 柳也のリードに従って、ルイズが氷の上を滑るような、華麗なステップを見せた。

「いままで、半信半疑だったけど……。でも、あの破壊の杖……。あんたの世界の武器なんでしょう。あんなの見たら、信じるしかないじゃない」
 
 ホールの中に、どよめきの声が上がった。ルイズが花のように、蝶のように舞う。

「ねえ、帰りたい?」

 やや俯きながら、ルイズが言った。

 柳也は静かに頷いた。

「ああ。帰りたい。向こうにな、友達を残しているんだ。同じ釜の飯を食って、同じ戦場に立って、同じ時を過ごした。大切な、仲間達が」

「そう……」

 ルイズは静かに呟いて、しばし無言でステップを踏んだ。

 柳也がステップを捻り、ルイズが大きく回転する。

 曲がうねり、潮騒となって人々の心を捉えた。そのうねりに乗って、柳也と、ルイズは舞った。

「いつか、帰れるといいわね」

「そうだな。でも……」

「?」

「出来れば、その時はもう少し後であってほしいな」

「どうして?」

「だって、俺はもう、るーちゃん達のことも、大切な仲間だと思っているんだから」

 柳也が莞爾と微笑み、その笑顔を間近で見たルイズも、釣られて微笑んだ。

 屈託のない笑顔はどこまでも優しくて、どこまでも暖かかった。





 平賀才人は大ホールに設けられたバルコニーの枠に持たれかかり、華やかな会場を眺めていた。

 彼は外からバルコニーに続く階段を上り、料理のおこぼれにありつきながら、ぼんやりと中を見つめていた。なんとなく場違いな気分がして、中には入れなかった。

 才人の側の枠には、シエスタが持ってきてくれた肉料理のさと、ワインの瓶が載っていた。才人は手酌で赤いぶどう酒を一杯グラスに注ぐと、一気に飲み干した。

「なあ、相棒。お前、さっきから飲みすぎじゃねえのか」

 バルコニーの脇に立てかけた抜き身のデルフリンガーが、心配そうに言った。相変わらず口の減らない剣だ。ただ、根は陽気で楽しい奴だから、いまみたいに落ち込んだ気分の時にはちょうどいい。

「うるせえ。家に帰れるかも、と思ったのに……思い過ごしだよ。これが飲まずにいられるか」

 才人は暗い面持ちでくだを巻いた。

 先ほどまでは綺麗な真紅のドレスに身を包んだキュルケが才人の側にいて、なんやかやと話しかけてくれていた。しかしそのキュルケも、パーティが始まると中に入ってしまった。

 暇を持て余した才人は、仕方なくデルフリンガーを相手に、憂さを晴らしていた。

 楽士隊の演奏する曲が変わった。

 どうやら、本格的にパーティがスタートしたらしい。

 ホールの中心では煌びやかな衣装に身を包んだ貴族達がめいめいペアを作り、ワルツを踊っている。

 才人はその中に見知った顔を見つけた。

 ルイズと柳也だ。

 長身の柳也のリードに従って、ルイズが可憐に舞っている。

 チクショー。やっぱり可愛いじゃねえか。

 またワイングラスを煽ってそう呟くと、才人は不意に、自分の方へと接近する人影を見つけた。

 知った顔だった。一年生のケティだ。ブラウンのパーティードレスを身に纏った彼女は、栗色の髪をバレッタでアップにしていた。白いうなじがたまらなく魅力的だ。

 ケティは優雅な所作で一歩々々を踏みしめ、才人の方へと歩み寄ってきた。

「あら、こんなところに壁の花を一輪見つけましたわ」

 紫水晶の瞳が、気品のある微笑みを浮かべた。

 言葉の意味が分からずに、怪訝な顔をする才人。

 デルフが小さく、「パーティで踊る相手のいない娘のことだよ」と呟いた。

「俺は男だぞ?」

「知ってるよ。ものの例えさ」

「どうですか、一曲?」

 デルフリンガーとのかけ合いに、クスリ、と晴れやかな笑みをこぼし、右手をケティが手を差し出した。

 才人は困ったようにその手を見た。ワルツなんて……ワルツはおろか、ダンスなんて自分は出来ないぞ? せいぜい、見よう見まねの盆踊りがいいところだ。

 どうしたものかと才人が悩んでいると、またもデルフが口を挟んだ。

「踊ってやリなよ、相棒。若い娘さんが勇気を出して誘ってるんだ」

 言われてケティをよく見ると、その手は少し震えていた。心なしか、頬も若干赤いような気がする。

 自分を見つめる紫水晶の瞳からは、断られたどうしよう、という不安が滲んでいた。

 才人はケティの手を静かに取った。

 ケティの顔に、花のような笑みが浮かんだ。





「ダンスなんかしたことないけど」

 才人が言うと、ケティは「私に合わせてください」と、彼の手を取り、ステップを踏んだ。

 ケティは小柄な身体だ。長身の自分をリードするのは一苦労だろう。才人は、見よう見まねでダンスを踊った。とにかく目の前の彼女に迷惑だけはかけられない。そう思い、悪戦苦闘しながらステップを踏んでいると、不意にケティの口から、小さな呟きが漏れた。

「ありがとうございます」

「え?」

 突然お礼を言われて、才人は驚いた。

 はて、自分は彼女に、何かお礼を言われるようなことをしただろうか。

 はたしてケティは、戸惑う才人に微笑んでみせた。

「フーケのゴーレムに、潰されそうになった時、助けてくれたじゃありませんか」

「あ、ああ。あの時か……」

 才人は照れくさくなってケティから視線を逸らした。

 直後、ステップが大きく乱れ、才人は慌てて目線を再び彼女へ向けた。

 「ご、ごめん」と謝る彼に、ケティはかぶりを振った。

「べ、べつに大したことじゃないよ。たまたまあの場で俺が近くにいただけで……」

「でも、あなたは助けてくれました。自分だってどうにかなってしまうかもしれないのに、私を助けてくれました」

「そりゃ……男が女の子を守るのは、当然だろう?」

 才人はぶっきらぼうな口調で言った。

 ケティは一瞬、呆気に取られたような顔をしたが、やがてすぐに笑顔を取り戻した。

「ふふっ、やっぱり、私が思った通りの、優しい人です」

「え?」

 一瞬、とんでもない言葉が出てきたような気がして、才人は思わず聞き返した。

 しかしケティは「何でもありません」と言って、話題を転じた。

「ギーシュ様と、お友達になったそうですね?」

「ああ。……あいつも、話してみると悪い奴じゃないし、何より面白い奴だからな」

「なら……その……わ、私とも、お友達になりませんか?」

 ワルツのリズムが、クライマックスに向けて加速していった。

 才人はケティのテンポに遅れまいと、必死に足を動かした。

 才人のステップに合わせて、ケティが回る。

 ケティの背中に腕を回し、フィニッシュを決めた彼女の身体を抱き止めた。

「……今更、何言ってんのさ?」

「え?」

「俺達、もう、仲間だろ?」

 慣れない運動で息を乱す才人の言葉に、ケティは嬉しそうに微笑んだ。






















 神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きしわれを守りきる。

 神の右手がヴィンダールヴ。心優しき神の笛。あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは地海空。

 神の頭脳はミョズニトニルン。知恵のかたまり神の本。あらゆる知識を溜め込みて、導きし我に助言を呈す。

 そして最後にもう一人……。記すことさえはばかれる……。

 四人の僕を従えて、我はこの地にやって来た……。





 外から聞こえてくる子どもの歌声と、差し込む透明な日の光で、少女は目を覚ました。

 ゆっくり、と気だるげに身体を持ち上げる。

 眩い、波打つ黄金の稲穂のような長いブロンドの髪が、砂が崩れるように、さらさら、と身体の上を泳ぐ。

 驚くべき髪の細さであった。よく見ると、普通の人間の半分ぐらいの細さしかない。斯様に細い髪が動けば、しゃらら、と空気をかき乱す柔らかな音が聞こえ、次いで反射した光を辺りに振り撒いた。

 その髪のように、身体の輪郭は細い。

 神がまさに自らのみを振るったかの如き、素晴らしい出来栄えの肢体だった。美しい、という形容だけでは、とてもその美を表現することは出来ない。世界に溢れた“美しい”を、まるで独り占めにしたかのような、完璧なる美。くびれたウェストの上、身体の細さに比べると歪なぐらいに大きな胸が、薄絹の寝間着を持ち上げていた。

 そんな寝間着一枚きりの悩ましい姿で、少女はあくびをした。

 肌の艶から察せられるに、年の頃は十五、六か。

 ベッドから起き上がった彼女は窓を開けた。

 柔らかな日の光が眩しい。

 また、あくびを一つ。すると、窓が開いたことに気付いた子ども達が走り寄ってきた。

「ティファニアお姉ちゃん!」

「テファお姉ちゃん!」

 次々に子ども達は駆け寄ってきて、ティファニアと呼ばれた少女に話しかけた。

 どうやらこの妖精のように美しい少女は、彼らのアイドルであるらしかった。

「あらら、どうしたの? ジャック、サム、ジム、エマ、サマンサ、みんな勢ぞろい。あなたたちの歌声で起きちゃったわ。また、あの歌を歌っていたのね。他の歌を知らないの?」

「知らなーい!」

「ティファニアおねえちゃんに教えてもらった歌だもの!」

 ティファニアはにっこりと微笑んだ。

 自分にとって、弟、妹のような子ども達……この子達の笑顔を見ていると、自分もいつの間にか笑ってしまう。

「あたし、知ってるよ」

 そんな中、いちばん小さな女の子が、おずおず、と手を挙げた。自分の妹の中でも最も幼いエマだ。

「あたし、他の歌、知ってるよ。シュンお兄ちゃんに教えてもらったの!」

「シュンに?」

 ティファニアはその名前を聞いて、そういえば彼の姿が見当たらないことに気が付いた。

 僅か数日前にティファニア達の暮らす家に転がり込んできた、年上の青年。

 無口で、愛想が悪くて、たまに口を開いたかと思えば乱暴な物言いばかりで、いつも自分を困らせてばかりの青年。けれどきっと、心根の優しい人。

 彼はいったいどこにいるのだろう。

 ティファニアは彼の姿を探しながら、エマに訊ねた。

「それで、どんな歌なの?」

「えへへ〜、あのね」

 エマは自分の大切な宝物を見せびらかすように、勿体つけて、こほん、と空咳をした。

 たどたどしい鼻歌のリズムに乗って、たどたどしい声が、森の中に響いた。





 愛のままに、わがままに、僕は君だけを傷つけない。

 太陽が、凍りついても。ぼくと君だけよ消えないで。

 森の奥から聞こえてくる幼い歌声に、その男は前へと踏み出す一歩を止めた。

 一見したところ線の細い少年だった。鋭利な剃刀を思わせる少年だ。銀糸とまごうほどの白髪を長く伸ばし、繊細に整った顔立ちの中で真紅の瞳が炯々と輝いている。紺色のブレザーを着込み、その上に黒い外套を羽織ったその装いは、ハルケギニアの大地にあって異質ないでたちだった。

 腰元には、奇怪な形状の刀剣が抜き身のまま佩かれている。爬虫類の牙と、血のように赤い剣身を備えたその剣は、日の光を帯びて不気味に輝いていた。

「エマの奴……早速他の連中に聞かせているな」

 耳膜を撫でる幼い歌声に、少年は憮然として呟いた。

 引っ込み思案なくせに、一度調子に乗るとどこまでも突っ走ってしまうあの娘のことだ。きっと自分に教えてもらった歌だと言って、得意気に歌っているに違いない。

 僕は子どもは嫌いなんだがな……と溜め息をついて、少年は空を見上げた。

 そう。自分は子どもが嫌いだ。苦手というより、嫌いなのだ。そんな自分があの娘に故郷の歌を教えたのは、単なる気まぐれにすぎない。その気まぐれを、勘違いされては困る。

 自分はただ、みなしの彼女達に、かつて親友だった男の境遇を重ねてしまっただけ。ただ、それだけなのだから。

「柳也……」

 少年の口から、ぽつり、男の名前がこぼれた。

 己の親友。

 孤独だった己に、光をくれた親友。

 彼はいま、いったいどこにいるのか。

 異世界ハルケギニアの空の下で、秋月瞬は、深々と溜め息をついた。




<あとがき>

 今回の話の主題はどう見てもあれだな。タバサVS柳也のフードファイト。

 どうも読者の皆さんおはこんばんちはっす。タハ乱暴でございます。

 読者の皆様の応援に支えられて、ついにゼロ魔刃、原作「ゼロの使い魔」一巻分終了です。

 思えば感想掲示板でのコメントに応える形でSS板に掲載し、書いているうちにタハ乱暴も楽しくなって、気が付けばもう連載一九回ですよ。

 なんか楽しいんですよねぇ。ゼロ魔のキャラを動かすのって。しかも、意外とどのキャラも動かしやすい。どのキャラでも遊べる!

 今回みたく、タバサでギャグが出来るということに気付いた時は狂喜乱舞したものです。

 なんて肩の力を落として書ける作品なんだ! って。

 さて、次回のゼロ魔刃更新はしばらく空くかと思われます。

 風のアルビオン編を読み直さなければいけませんので。

 まぁ、もしかするとアニメオリジナルエピソードなんかを挟んで、お茶を濁すかもしれませんが。

 今後ともゼロ魔刃をよろしくお願いします。

 ではでは〜




フーケ編、完結。
美姫 「あっさりと倒せるかと思ったけれど」
いやー、予想外の展開で殲滅も粘る、粘る。
一時はこのまま殲滅勝利というのもあるかもとか思ってしまうぐらいに。
美姫 「結果として、何とかなったみたいだけれどね」
柳也も使い魔になるというのには驚いたけれど。
美姫 「無事に終わったは良いけれど、また最後に何かありそうな雰囲気よね」
シュンという事は。
美姫 「一体どうなるのかしらね」
次回も楽しみにしてます。
美姫 「待っていますね〜」



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